天使で悪魔
真実は闇の中
真実は必ずしも日の目を浴びるとは限らない。
真実と真相。
それはそれぞれの解釈によって大きく異なる。必ずしも誰もが知るとは限らない。
必ずしも……。
帝都で随一の情報量を誇る黒馬新聞より抜粋。
執筆者は闇の一党事件を公表した当記者ラウル・ロバート。
『ブラックウッド団の真相が告発されました』
『資料を提供してくれたのは闇の一党事件のあの《名無しの女性》です。信頼性のある資料である事を確信。新聞で公表する事に決定しました』
『ブラックウッド団の数々の悪意を紙面に記し世間に公表します』
『戦士ギルドの前ギルドマスターであるヴィレナ・ドントン氏の長男ヴィテラス、次男ヴィラヌスを謀殺。さらに戦士ギルドのメンバーの多数を死に追
いやったのは実はブラックウッド団だったのです。賞金首であるアザニ・ブラックハートも実はブラックウッド団の関係者だったのです』
『深緑旅団との関連性も示唆されています』
『ブラックウッド団の後見役として有名だったレヤウィンのマリアス・カロ伯爵は関係を撤回、否定しています』
『ウォーターズエッジの壊滅にもブラックウッド団の関与が明らかになりつつあります』
『また盗賊ブラックボウはブラックウッド団の下部組織である事も既に調べがついているのです。この非道、この悪行、誰もが憤りを感じています。
そしてそんな組織の台頭を許したのは国家権力なのです。そしてそれが全ての悪意の源なのです』
『ここに至り帝国軍はブラックウッド団の掃討を決定』
『電撃的に部隊を突入させて各支部を一掃、団員は全て捕殺したと発表しております。各支部は閉鎖。本部は既に謎の壊滅をしています。いずれ
にしてもここにブラックウッド団は壊滅したと言ってもいいでしょう。帝国軍は関係資料を押収、謎に満ちていた組織の全容解明に乗り出しました』
『我々黒馬新聞は独自に調査を展開』
『ブラックウッド団は実はブラックマーシュ地方のアルゴニアン王国の支援を受けていたのです』
『アルゴニアン王国はこの件に対して、事実はその通りではあるものの主導権を握っていた強硬派のグラックス宰相一派は既に一掃されたと
発表。今後は帝国との関係改善を目指すと公式発表がありました。つまり事実を認めたのです』
『これに対して帝国軍は関係性を否定。事実無根であるとの公式発表です。また元老院も否定しています』
『帝国軍のヴァルガ将軍がこの件に関わっているとの情報を我々は掴んでおりますが帝都軍総司令官は異なるコメントをしています』
『現在将軍はスカイリム地方で特別任務に従軍中であり所在は明かせないとのこと』
『事実上関与を否定しました』
『また元老院議員で数名ブラックウッド団との関係性が資料に記されているものの、元老院の公式コメントでは我々が名を挙げた議員達は流行り
病で既に全員死亡していると発表しました。口封じなのか偶然なのか、真実は闇の中です』
数日後の黒馬新聞。
『アルゴニアン王国に次いで帝国軍も事実の一部を認めました』
『しかし元老院だけは頑なに事実を否定しています』
「帝国の屋台骨は腐っているな、ヴァルダーグ」
「御意」
「まあいいさ。ブラックウッド団は滅んだものの帝国に対する信頼は崩れつつある。ヒストは手に入らなかったが帝国の威信完全に崩れた。ならば
何も問題はない。ウンブラを失ったがそれに対しても特に支障はあるまい。そうだろう?」
「御意」
「しかし問題は……」
「フィッツガルド・エメラルダ、ですね?」
「そう。あの女だ。それとあのダンマーの女。……くくく。面白くなってきやがったぜ」
「若。次は誰を差し向けますか?」
「おいおいヴァルダーグ、寝ぼけたか?」
「はっ?」
「俺の親衛隊でもナンバー3の実力者であるサクリファイスを始末した相手を誰が殺せるんだ? 今は関わるべきではない。今はな」
「では放置すると?」
「とりあえずはな。我々がしなければならない事は別にある」
「あの件ですか?」
「そうだ。元老院の犬である諜報機関アートルムをまずは潰す。アンヴィルに戦力を集結させろ」
「御意」