天使で悪魔






黒の派閥 〜VS炎の紡ぎ手〜






  展開は急速に移行していく。
  ブラックウッド団?
  それは終わった事象だ。唐突に介入して来てあっさり果てた深遠の暁も問題外。

  黒の派閥。
  その戦力は予測不可能。
  その戦力、絶大。






  「ふははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははっ!」
  やたらとテンション高くなるノルド。
  極寒民族ノルド。
  冷気系の攻撃かー、と思うのは思い込みであり偏見。
  サクリファイスの異名(自称?)は『焔の紡ぎ手』。名は体を表す。
  「ふははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははっ!」
  ……うるさい。
  笑い声もうるさいものの、それよりもうるさいのは爆ぜる音だ。
  何が爆ぜる音?
  炎が爆ぜる音だ。
  サクリファイスは炎の精霊を大量に召喚した。
  私達を焼き殺す為と同時にブラックウッド団の本部を焼き払う為だ。証拠を消す為に。
  多分何らかの形で証拠があるのだろう、黒の派閥という組織が関わっている事を証明する証拠がここにあるのだろう。
  残らず灰にする。
  私達も証拠も、全部全て。
  ……。
  ……ついでにデュオストアヴァルダーグも灰にして欲しいわね。サクリファイス自身もね。
  黒の派閥とやり合うのは疲れる。
  組織の規模は分からないけどこれから先は関わりたくないです。
  私は労働嫌いですので。
  さて。
  「たあっ!」
  アリスは炎の精霊達と戦闘を繰り広げている。
  灼熱の精霊。
  精霊(に関わらず召喚系全般は、口頭での指示がなくとも召喚師の心を先読みする)はサクリファイスの意思を理解しているのだろう。アリスと戦い
  ながらも炎の弾を建物に投げ付けていく。
  ごぅっ。
  炎はあちこちから上がる。
  炎上しているのだ。
  全焼は時間の問題。いくら魔法耐性があるとはいえ完璧ではない。火事も炎の魔法も私にしたら意味が同じ。よっぽどの事がない限りは焼け死
  なないものの完璧に効かないわけではないのだ。建物が業火に包まれればさすがに死にます。
  酸欠にもなるし、建物にも潰される。
  火事とは炎だけじゃない。色々なコラボなのだ。その結果、私は死ぬ。
  炎に耐性のあるアリスとて同じ事だ。
  だから。
  だからとっとと脱出するに限る。
  サクリファイスを倒してね。
  「お前殺すよ」
  「ふはははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははっ!」
  「うるさいっ!」
  タッ。
  間合いを詰める。
  「炎の精霊よっ!」
  ザシュ。
  私とサクリファイスの間に炎の精霊が召喚される。私の振るった刃は間に入った炎の精霊に阻まれた。
  ……。
  ……まあ、阻んだ炎の精霊はサクリファイスの代わりに果てたけど。
  タン。タン。タン。
  妙なステップで後退するノルドはその間にも炎の精霊を召喚する。
  数で押す気か。
  厄介な。
  普通はここまで召喚出来ない。……いや召喚は出来るのよ。ただあまりに数が多いとコントロール出来なくなる。召喚者の支配を逃れて自侭に振舞
  うのだ。そうなれば当然召喚師も敵も関係ない。召喚されたモノは自らの意思で暴れ出す。
  しかし炎の精霊達は完全に制御されているようだ。
  つまりサクリファイス、召喚師としては一流。
  炎の召喚師。

  「……暑いな」
  「御意」

  ……ちくしょう。
  デュオス&ヴァルダーグはまだここにいる。炎に包まれ始めた建物内で高みの見物中。
  デュオスは階段に座り、忠実なる側近ヴァルダーグは侍立している。
  くっそぉー。
  このノルドを始末したら高みの見物から引き摺り下ろしてやるっ!
  その前に……。
  「裁きの天雷っ!」
  バチバチバチィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィっ!
  群がる炎の精霊を吹っ飛ばす。
  「ふはははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははっ!」
  登場時の性格が破綻してます。
  完全にノルド、テンション高っ!
  アリス?
  アリスは炎の精霊を相手に大立ち回り。
  まあ負ける事はないでしょうよ。
  今、彼女が振るっているのは私がプレゼントした雷の魔力剣ではなく魂を食らう魔剣ウンブラ。伝説級の魔剣だ。本調子ではないにしてもアリスの
  腕と魔剣ウンブラの組み合わせなら炎の精霊程度なら問題あるまい。
  炎そのものはアリスにはほとんど効かないわけだし。
  頑張ってくだされ。
  ただ、まあ、精霊相手には別に問題ないんだけど……あの魔剣ウンブラは魂を食う特性があるのをこれが終わったら言っておかないとね。
  何故に?
  だってウンブラで殺された相手は魂を食われる。
  つまり永遠に輪廻転生できない。
  私は別に気にしないけどアリスはそういう事実を気にするような感じがする。多分ウンブラに嫌悪感覚えるでしょうね。
  先に教えておいた方がいい。
  あれで人を殺して、ウンブラの事実を知って、自己嫌悪する前にさ。
  私ってば思慮深い先輩ですなー♪
  ほほほー♪
  「ふはははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははっ!」
  「ちっ」
  高笑いに対応しているのか?
  炎の精霊が次々と召喚される。これではキリがない。
  ごうっ!
  無数の炎の弾が私に向って飛んでくる。
  直撃。
  ……。
  ……それで?
  こんな豆鉄砲当たったところで『うっわびっくりしたー☆』程度でしかない。
  100発当たったところで死ぬ事はない。
  しかし煩わしい。
  「裁きの天雷っ!」
  バチバチバチィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィっ!
  炎の軍団を粉砕。
  しかし数が多過ぎてノルドにまで届かない。
  直撃は当然無理、炎の精霊達はスクラムを組むようにノルドの前に布陣しているからだ。
  たった今殲滅しただろ?
  そうね。
  その通りね。
  「ふはははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははっ!」
  はい。
  次の精霊が召喚されました。
  「はあ」
  溜息。
  これじゃあキリがない。
  直撃は届かない。しかもその際に生じる余波も炎の精霊全てを巻き込めてもノルドにまでは届かない。
  壁だ。これは完全に炎の壁だ。
  炎の精霊は精霊の中では最下級。
  しかし炎→燃えるという特性は侮れない。炎の精霊が舞うたびに建物が燃えるからだ。
  精霊が怖いんじゃない。
  その二次的災害が面倒なのだ。
  そしてノルドはそれを理解した上での炎の精霊の物量作戦を敢行しているのだろう。建物を燃やす、そして私達の足止め、時間稼ぎ。
  このまま私達を蒸し焼きにするつもりか。

  「……暑いな」
  「御意」

  むきーっ!
  私達が焼き死ぬのを見届けるつもりなのだろう。
  ムカつくっ!
  攻撃し掛けてやろうかと思うものの介入されて来ても困る。さすがの私もデュオス&ヴァルダーグのタッグを介入させようとは思わない。
  火事の真っ只中。こんな状況じゃなかったら攻撃してたけどさ。
  今は忙しい。
  わざわざ敵を増やそうとは思わない。
  ……。
  ……まあ、2人が黙って見ているという保証はどこにもないけどさ。
  ともかく高みの見物したいならそうさせておこう。
  手を出す事はない。
  今はね。
  「ノルドにしては変わった能力者よね」
  「ふはははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははっ!」
  炎の遣い手か。
  ノルドは冷気に強い。氷の精霊ではなく炎の精霊を召喚するのは少し意外性がある。
  冷気は効かない、ノルドの特性的にね。
  炎の精霊を召喚するぐらいだから炎にも強いのだろう。
  つまり雷の魔法を使うしかないわけだけど……雷の魔法、私の中では最強の魔法。効果範囲も広い。しかし当然魔力の消費も高く連発は出来ない。
  冷気の魔法で戦え?
  確かに精霊には最適だけど……効果範囲が狭いのだ。
  あまり効率が良いとはいえない。
  「ふはははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははっ!」
  「ちっ」
  どうする?
  ごぅっ!
  ドゴォォォォォォォォンっ!
  炎上し、柱が倒れる。
  このままでは私達はここで全滅する。脱出したいけどノルドがそれを許さない。つまりこいつを倒すしかない。
  高みの見物してるデュオス達が蒸し焼きになるのは楽しいけどさ。

  「ヴァルダーグ。頃合だ。撤退するぞ」
  「御意。……炎・流」

  ……?
  炎の魔法をヴァルダーグは天井に叩きつける。
  吹っ飛ぶ天井の一部。
  夜空が見える。
  まだ夜か。
  何時間も戦っている感じがするけど……まだ夜は明けていないのか。その夜空に影が見えた。……鳥?
  いやあれは……。
  「デュオス様、お迎えに上がりました」
  「くくく。ディルサーラ、大儀っ!」
  あれはフェザリアンっ!
  有翼人だ。
  帝国の殲滅政策で根絶やしにされた有翼人の女はゆっくりとデュオスのすぐ真後ろに着地し、デュオスを抱えてそのまま上昇を始める。
  逃げるっ!
  「デュオスっ!」
  「くくく。生きていたらまた会おうぜブレトン女。……ウンブラは、そのダンマーに預けておいてやる。俺を楽しませてくれた礼にな」
  デュオス、撤退。
  有翼人はデュオスを抱えて上昇、戦線離脱。
  残ったのは……。
  「あんたは置いてけぼりなわけ、ヴァルダーグ?」
  「聖域(モロウウィンドの瞬間移動の魔法の名前……だったと思います。うろ覚え。突っ込み不要)」
  「……はっ……?」
  ポツリと呟いたと同時にヴァルダーグの姿は消えた。
  気配はしない。
  まさか今のって瞬間移動?
  そんなのありかーっ!
  だけどさすがはモロウウィンドの英雄よね。世界最強の勇者。……まあ私が今いる段階で世界2位なんだけどさ。
  ほほほー♪
  「で、あとはあんただけよね」
  残るのはサクリファイスだけ。デュオス&ヴァルダーグは撤退。
  これでやり易くなった。
  大分やり易い。
  「フィッツガルドさんっ!」
  この時、アリスは自分に付き纏っていた炎の精霊を全て撃破。サクリファイスの背後を取る。
  よしよし。あとは私の前面にいる精霊だけだ。
  好機っ!
  「裁きの天雷っ!」
  バチバチバチィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィっ!
  再び炎の精霊を一網打尽。
  これでサクリファイスは私達に挟撃される形になった。手駒は今はいない。……いやいや召喚しても良いですよ?
  しかしその瞬間に私かアリスの剣に切り伏せられる。
  こいつに勝ち目はない。
  読み違えたわね、戦況を。
  お前は死ぬ。
  「……ふははははははははは……」
  「……?」
  自嘲気味の笑み?
  いや。
  まだ戦意は消えていない。ならば今の笑いは何だ?
  「殿下のお役に立てるこの瞬間に感謝を」
  「何?」
  「自分はスカイリム解放戦線に所属していた。随分昔にな」
  「……」
  確かヴァルガも自分をそう名乗ってた。
  昔の仲間?
  しかし今回その名を聞くのは二度目だ。スカイリム解放戦線は知ってる。ノルドの故郷スカイリムを、帝国の支配から脱却する為に活動している
  過激派だ。暗殺、誘拐、放火……過激な行動がエスカレートしてるゲリラ集団。
  帝国は連中を嫌悪している。
  実はスカイリム出身のノルド達からも嫌われていたりする。過激過ぎるからだ。
  さて。
  「お前はスカイリム解放戦線を知っているか?」
  「ええ」
  ドゴォォォォォォォン。
  柱がまた一本倒れた。こりゃ完全に焼け落ちるまで10分。もしかしたらもっと早いかも。
  レヤウィン衛兵隊もこの炎の中突入してくる根性はないのだろう。
  消火作業してる?
  まさか。
  既に消火出来る段階ではない。
  建物を包囲して遠巻きに見ているのが関の山だ。
  さて。
  「スカイリム解放戦線のそもそもの目的は我々が培ってきた文化を帝国に潰される事なく後世に伝える事だった」
  「ふぅん」
  時間稼ぎか?
  サクリファイスは続ける。
  「にも拘らず今はただのゲリラだ。それを批判した、結果として殺され掛けた。……リーダーであるにも関わらずだ」
  「ふぅん」
  つまり。
  つまりこいつは悪い方向に進み掛けていた自らの組織を軌道修正しようとしたので始末された、というわけか。そしておそらくは瀕死な状態を
  デュオスに拾われて今に至るのだろう。
  「殿下には恩義がある」
  「ふぅん」
  「フィッツガルド・エメラルダ。お前は電化の計画を妨げる者としてブラックリストに載っている。ここで殺すっ!」
  「そうなの? 出来たらいいわね」
  「我が生命を炎と代えてっ!」
  「……?」
  「殺すぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅっ!」
  
ごうっ!
  ノルドの体は突然の炎に包まれた。
  そしてその炎は巨大な柱となり天井にまで達する。
  
どしんっ!
  「うげっ!」
  その巨大な火柱から足が出る。
  一歩。
  一歩。
  一歩。
  屋内を焼きつくしながら『それ』は動き出す。
  それは巨大なクマだった。
  炎のクマ。
  ……。
  ノルド→クマ?
  ノルドの人権団体に怒られそうな展開ですねー。
  「どどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどうするんですかフィッツガルドさんっ!」
  「どどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどうすると言われてもーっ!」
  駄目だ。
  完全に私も動揺してる。
  この炎のクマはノルドの変身した姿なのだろう。召喚獣ではないはず。
  生命のを炎と代えて。
  奴はそう言った。
  つまりこいつを倒せばサクリファイスは死ぬ。
  属性は炎。
  ならばっ!
  「絶対零度っ!」
  冷気の魔法を叩き込む。
  一瞬怯むものの体がでか過ぎる。毛ほどにも感じていないのだろう。
  一番厄介なのが炎の回りが早過ぎる。
  全焼までのリミットはあと数分。
  ……長くても3分。
  「あたしが……っ!」
  「待ちなさい」
  魔剣ウンブラといえどもこの巨大な炎のクマを相手にするのには適さない。
  ……。
  ……いや。
  広い場所ならそれでもいい。
  しかし今はリミット付きの展開だ。とてもじゃないけどチマチマと剣で相対出来る相手ではない。唯一の幸運は、理性かな。炎のクマに変じた瞬間
  に理性が吹っ飛んだらしく私達には興味も示していない。
  もちろん徘徊しているだけなのも困るけどさ。
  だって徘徊すればするほどそれだけ建物は炎上する。
  「絶対……っ!」
  待てよ?
  「アリスっ!」
  「はいっ!」
  「リザカールの死体はまだそこらにある?」
  「リザ……いえ、炭になってますけど剣だけは残ってますっ!」
  「よしっ!」
  ブルセフの魔力剣は冷気属性。
  強力な冷気。
  「そいつを持ってきてっ!」
  「分かりましたっ!」
  もしかするともしかする。
  これしかもう方法があるまい。
  炎のクマ無視して脱出するのも手だけど……もう遅いわよね。私達を敵として認識したらしい。雄叫びを上げて前足を振り上げる。
  その時、アリスがウンブラの剣を私に差し出す。
  「どうするんです?」
  「伏せてて」
  「えっ?」
  「伏せててっ!」
  「は、はいーっ!」
  私はブルセフの魔力剣を左手で持ち、右手を刀身に当てる。
  一か八かだっ!
  「はああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!」
  ブーストっ!
  ブーストっ!
  ブーストっ!
  ブーストっ!
  ブーストっ!
  ブーストっ!
  ブーストっ!
  魔力を増幅。
  一時的に私のキャパシティはシロディール……いやいやタムリエル最高にまで高まる。
  この状況はハイで気分がいいけどあまり好きではない。
  何故?
  簡単よ。
  上り詰めるのはいいけどすぐに醒める。
  醒めていく際に感じる引き摺り下ろされるような気分は好きではない。
  まあいい。
  せーのーっ!
  「絶対零度絶対零度絶対零度絶対零度絶対零度絶対零度絶対零度絶対零度絶対零度絶対零度絶対零度絶対零度絶対零度絶対零度っ!」
  増幅された魔力を使用してブルセフの剣に叩き込む。
  全ての魔力を絶対零度に変換。
  そして……。
  「伏せててよアリスっ!」
  「はいっ!」
  来た来た来たーっ!
  
ゴオオオオオオオオオオオオオっ!
  凍て付く嵐が室内を巻き込む。
  闇の神シシスを相手にした際に知った技だ。魔力剣に同じ属性の魔法を掛けた場合、暴走する。その際に威力が増幅されるのだ。
  魔力剣は使い物にならなくなるもののこれしかあるまい。
  室内を覆う炎。
  巨大な炎のクマ。
  全てを凍て付かせていく。
  冷気の嵐の中でサクリファイスの絶叫が響き渡る。
  「
殿下申し訳ありませぬぅぅぅぅーっ!
  絶叫。

  炎のクマはその絶叫を最後に掻き消えた。
  ろうそくの炎を吹き消すように消滅。
  サクリファイス撃破。



  「はあはあ」
  「だ、大丈夫ですか?」
  「……無理」
  高みから引き摺り下ろされる感じはどうにも好きになれない。
  もちろんそれしか方法はなかったけどさ。
  黒の派閥の『炎の紡ぎ手』サクリファイスは始末した。……黒の派閥ってこんな非常識な奴らばっかか……?
  ……。
  ……はあ。
  今度相手にはしたくないなぁー。
  それはともかく脱出しないと。全ての炎は掻き消えたけど建物の耐久性はゼロに近い。完全なる倒壊は時間の問題だ。もちろん既に立ちはだかる
  者は既にいないのだから後は脱出だけだ。全身だるいけど逃げる程度は出来る。
  「行きましょうアリス」
  「はい」
  ブラックウッド団は本部ごと壊滅。
  後腐れないわね。
  「ちくしょうっ!」
  ん?
  「ちくしょうっ!」
  ……やれやれ。
  今更何しに出てきたんだい裏切り者のマグリール君。
  どう考えても今まで隠れていたんでしょうね。
  相変わらずヘタレだ。
  元戦士ギルドの生意気ボズマーが立ち塞がる。殺すのは容易いけど、一応は口上は聞いてあげないとね。
  「何か用?」
  「ここには仕事があったのにっ! 何で邪魔するんだよ俺には家族がいるんだっ! ちくしょう殺してやるぅーっ!」
  キィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィンっ!
  ボズマーの剣は宙を舞う。
  アリスだ。
  アリスが剣を弾いた。
  なかなか腕上げたわよね、アリス。ならばマグリールの事はアリスに任せよう。私は口出ししない。
  「マグリールさん、正しく生きてください」
  また見逃すの?
  まあいいけどさ。
  マグリールはこちらを睨みつける。両手は拳を握り、ワナワナと血走った眼ではあるものの憎しみは解放されなかった。
  勝てないと悟ったのだろう。その後走って逃げ去った。後ろを見る事もしない。
  「いいの?」
  「いいんです」
  まあ、いいけどさ。
  どうでもさ。
  「帰りましょう、アリス。……とりあえずレヤウィンの魔術師ギルドにさ。脱走したんでしょうどうせ。……きつい治療が待ってるよー?」
  「はぅぅぅぅぅぅぅっ!」