私は天使なんかじゃない
エンクレイブの科学力
核戦争で文明は吹き飛んだ。
核戦争で科学は吹き飛んだ。
現在存在しているのは旧時代の遺産であり遺品。
テクノロジーを集めているBOSという存在がいる。
だが彼らは知識と遺産を保有こそしているもののそれらを再び生み出す力はない。
ロストテクノロジー。
人は旧時代の遺産をそう呼ぶ。
だがエンクレイブはそうではなかった。
「うひゃっ!」
何かが猛烈なスピードで接近してくるので私はその場を飛び退いた。
通路とはいえ人は3人並べる広さはある。
飛び退くと同時に<何か>は私が先程までいた場所を通り抜けた。
な、何だ、あれっ!
肩のところが緑にピカピカ光ってたりする<何か>。
人型なのは分かる。
人型なのは分かるけど……それ以上は分からない。
素早すぎる。
ただ、足元から火花が散っていた。
おそらく小型ジェットか何かがブーツの部分に装着されているのだろう。
それ故のスピード。
……。
……エンクレイブのパワーアーマーか、あれ。
最初に見た奴とはタイプが異なる。
早過ぎてよく見えないけど最初に見た奴は方がピカピカしてなかった。
ガコンっ!
何かを打ち付ける音がした。
何の音?
その途端、通り過ぎた奴がピタリと止まった。そしてそのままこちらを向く。あのスピードにしてはよく止まれたわね。
パワーアーマーはこちらに手のひらを向けた。
距離は10メートル。
通路が薄暗いのでパワーアーマーのフォルムがよく見えないけど武器の類は持っているようには見えない。というか持ってない。完全なる無手だ。
手のひらをこちらに向けている。
それだけだ。
……?
ちょっと待て、という意味?
そんなわけないか。
私をいきなり轢き殺そうとした奴だ。いきなり<待ったーっ!>はないだろう。
インフェルトレイターを構える。
ヴヴヴヴヴヴっ!
「……?」
何の音だろ?
疑問は長く続かなかった。音の出所はすぐに分かった。奴の手のひらに緑色の球体が宿っている。耳に響くのはそれを生み出す際の音だ。
あれが何かは知らない。
ただ受けない方がいいというのは理解している。
先手必勝っ!
「こんのぉーっ!」
インフェルトレイターを連射。それは全弾全てがパワーアーマーに直撃するもののキィン、キィン、キィンと音を立てて弾かれる。
貫通出来ない、か。
考えてみたらパワーアーマー着た奴を敵に回すのは初めて。
BOSやOCと共闘したことはあるけど、それを纏った者と戦うのは初めてだ。この程度の威力では貫通出来ないのか。
……。
……いや。そうとも言えないか。
少なくともBOSのパワーアーマーの場合はアサルトライフルからの一定以上の連射には耐えられなかった。GNRの戦いではスーパーミュータント
軍団の一斉射撃の前に何名か倒されてた。BOS級のパワーアーマーなら破壊できるだけの銃弾をインフェルトレイターは吐き出した。
それにも拘らず奴は立っている。
ふぅん。
だとするとBOS以上の性能なのか。
その時、奴の手のひらの緑の球の大きさが安定した。テニスボールぐらいの大きさだ。
「えっと」
まさか魔法っすか?
飛んでくるよね?
飛んでくるよね、あれ。
「死ね」
低く、短くパワーアーマーの主は声を発した。
男だ。
男の声だ。
だけど性別を確認している間にそれは手のひらから離れて一直線に……。
「にゃーっ!」
妙な叫びとともに私は回避。緑の球は空しく通路の彼方に飛んでいく。
しかーしっ!
ごぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!
爆音を立てて奴が突進してくる。
くそっ!
どこのアイアンマンだあれはーっ!
頭を低くしてその場に這い蹲る。わずか数秒の差だった。わずか数秒とはいえ遅れていたら私は奴の体当たりもしくは腕の一撃を受けたと思う。
あの勢いだ、骨折れる程度じゃすまない。
「冗談じゃないっ!」
疾走して通り過ぎた奴とは逆方向に、つまり当初の目的の方向に私は走る。
あんなの相手にしてられっかっ!
ガコンっ!
まただ。
またあの音だ。
振り返ってみるとパワーアーマーの奴は綺麗に停止していた。ゆっくりとこっちを向く。
「ん?」
私は足元に妙な穴が2つ開いてるのに気付く。
円形の穴。
……。
……ああ。なるほど。
たぶん奴のブーツから杭みたいなものが出て地面に打ち付けるのだろう。それで急ブレーキができるってわけか。
高速移動と急ブレーキの手段、その2つがあるからこそその速度を自在に操れるわけだけど突然の方向転換が出来るほどではない。
少なくとも中に入ってる奴は私の咄嗟の行動には対応し切れていない。
つまり?
つまり小回りは利かない。
ただリーヴァー化していたウェスカーの速度よりも早く、そして強敵。
奴の手に緑の光りが宿る。
ヴヴヴヴヴヴっ!
一応はインフェルトレイターの弾装が空になるまで連射するものの全て弾かれる。
硬い。
攻撃阻止すら出来ない。
そもそもあの緑の光は何だ?
プラズマ?
そうかもしれない。
そういえばハークネスはピットでプラズマ兵器使ってたな。プラズマはその時緑色を発していた。
「はあ」
厄介な敵が現れたなぁ。
プラズマを操るパワーアーマーを纏った敵。……厄介なアイアンマンが現れたものだ。
「死ね」
手のひらから放たれる緑の光。
駄目だ。
これはスローにならない。
私の視覚的には銃弾等はスローに映るんだけど……プラズマはどうやら能力の範囲外のようだ。
私が出来ること。
その場に伏せることだけだ。
緑色の光は私の頭上を空しく通り過ぎる。私は伏せながら武器の交換。弾装の予備も尽きたのでインフェルトレイターは使えない。腰から二挺の44マグナム
を引き抜いて立ち上がり、そして撃ちながら奴に向って走る。
ばぁん。
ばぁん。
ばぁん。
ばぁん。
何度も何度も撃つ。
奴との距離があと数歩の時点で弾がなくなる。マグナムでも貫通出来ない、か。
硬いな。
おそらくこいつのパワーアーマーはBOSのものとはそもそもの規格が別物だ。
カスタムタイプ?
そうかもしれない。
こんな鉄壁の防御力が量産タイプならアンカレッジは一時的でも陥落しなかっただろう。多分こいつの防御力はデタラメだ。
当時でもありえないはず。
きっと特殊なタイプ。
「理解したか?」
「ん?」
「このアーマーを敵に回すという愚かさが」
「さあね」
相手は動きを止めたまま嘲笑う。
どうやらすぐに殺す気はないらしい。私は44マグナムの弾丸を込めてホルスターに戻す。両方とも。
何故?
意味がないからだ。
私はマグナムを全弾<同じ箇所>に叩き込んだ。多少の誤差はあるにしてもほぼ同じ場所。にも拘らず貫通はしない、傷1つ付いていない。
こりゃ無理だわ、手持ちの武器では意味がない。
だから戻した。
「珍しいパワーアーマーね。特注品?」
「はははっ!」
男は笑う。
ヘルメット越しなのでくぐもった声。
「何がおかしい?」
「パワーアーマーだと言ったからだよ。パワーアーマーなど旧時代の遺産でしかない。……いやガラクタ、だな」
「ガラクタ?」
「BOSが血道をあげて掻き集めているものはガラクタだよ。連中は文明の保全を叫ぶ。知識を掻き集める。だが私に言わせればそんなものはただの
古臭い遺物でしかない。連中はパワーアーマーを集め、レーザー兵器を集める。だが収集だけだ。生産はできん。連中は収集家だよ」
「ふぅん」
「エンクレイブは技術の発展を続けてきた。そう、世界が放射能の灰に沈んだその時からずっと。我々の保有している汎用タイプのアーマーの正式
名称はパワーアーマーではなくエンクレイブアーマーと言う。BOSが持っているものと比べれば三世代も四世代も上位タイプだよ」
「あんたが着てるのもそう?」
「これはさらに上の世代。試作品だがね。テスラアーマーと言う」
「テスラアーマー」
「この私、オータム大佐の最強の武器だ」
「……っ!」
オータム大佐っ!
こいつがパパを殺したあのオータムだったとは……しかし奴は死んだはずだ、パパと一緒に放射能で。
何故生きてる?
何故……。
「優等生離れろっ!」
ブッチの声っ!
後ろからだ。
振り返るとミサイルランチャーを構えたブッチがいた。
あれもBOSの放棄した兵器よねきっと。
……。
……いや。回収してくださいよ、BOSさん。この地下道、完全に放置状態の武器庫じゃん。
レイダーの手に落ちたらどうするのよ。
おおぅ。
そしてブッチは撃った。
轟音を立ててミサイルは一直線に飛んでいく。それと同時に私は奴から離れる。オータムは動かない。
「くだらん」
低くそう呟いた。
そして……。
ドカァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァンっ!
「つっ!」
少し離れた程度じゃ意味ないじゃんっ!
爆風で私は無様に転げ回る。
うがーっ!
耳がキンキンするし口の中が塵でじゃりじゃりする。
「走れミスティっ!」
「えっ? 何?」
「あいつ普通に突っ立ってんぞっ!」
「……おいおい」
テスラアーマー、無傷。
どんだけ堅いんだあの鎧はっ!
走る。
走る。
走る。
走りながらブッチに聞く。
「どうして戻ってきたの?」
「また装甲扉があるんだよ。お前が来ないと開けれない。PIPBOYが必要なんだ。で助けに戻ったんだよ」
「ありがと。……そういえばあんたPIPBOYは?」
ブッチも持ってたはず。
ボルト所属者の標準装備であり支給品。
「いや、その」
「……?」
「ノヴァさんと、まあ、色々あってな。その、色々としてもらったりしてあげたり。うん、それでお礼にあげたんだ、はははー」
「……」
まあ、追求しないようにしよう。
大人の話大人の話。
話している内にDrリー達が待っている部屋に到着。そこには再び装甲扉。ただ先程の部屋のようにバリケードはなかった。
部屋の隅に武器が山積み状態。
物騒ですな。
「どいて私がPIPBOY3000で開けるからっ!」
「ティリアス、後ろっ!」
「えっ?」
静かに振り返る。
テスラアーマーを着たオータム大佐がそこにいた。
奴は言う。
「降伏しろ。そうすれば身の安全を保証してやる」
「ふっ」
思わず噴出す。
ついさっきまで<死ね>とかほざいてた奴が何を言う?
ギャグ?
ギャグなの?
それにこいつはパパを殺した。パパから情報を聞き出す為に科学者の女性を殺し、私までパパの口を割らせる材料の為に殺そうとした。
どこをどう信じればいいわけ?
まさかこいつ自分が聖人君子で誰もが信用する人物だと錯覚してるんじゃないだろうな?
自分勝手な妄想ですな。
やれやれ。
「信じれると思う?」
「信じた方が良いとは思うがな」
私は言い返すものの打つ手がないのは確かだ。
装甲扉の前に追い詰められる。
この時、ドタドタとエンクレイブ兵士がオータムの背後に居並んだ。黒いパワーアーマーの連中も数名いる。
兵士は合計で30、いや50はいる。
それぞれの手にある銃火器は私達を向いていた。オータムの命令があればすぐにでも火を吹くだろう。
今まで色んな展開を引っくり返してきた、だけどこれは、無理だろ。
考える。
考える。
考える。
冷静に、考える。一時的に私情は捨てる。
オータムが私を殺したくないのはおそらく浄化プロジェクトに何らかの不備があるからだと推測する。たぶんパパから何か聞いてると思っているのか?
そうかもしれない。
少なくとも出来るだけ殺したくないのは確かだ。
それを利用すれば何とかなるかもしれない。あくまで一時しのぎだけどこの展開を脱すれば何とかなるかもしれない。
それで行くか。
「オータム大佐」
「何だ?」
「私に……」
ごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごっ!
背後から音。
装甲扉が開いていく。
オータムが数歩下がった。エンクレイブ兵士達も武器を構えながら下がる。
私達は見る。
開いていく扉の向こうを。
ひしめく様に立っている者達を見て私は思う。まだツキは落ちてないと。
パワーアーマーの集団がそこにいた。
BOSだ。
その中の1人はヘルメットを被っていなかった。
見知った顔。
サラ・リオンズだ。
GNR前で共闘し、その後意気投合した精鋭部隊センチネル・リオンズの指揮官でありそれと同時にキャピタル・ウェイストランドで独立したBOSの
指導者エルダー・リオンズの娘。そんな彼女がレーザーライフルを手にしながら私に微笑した。
「地下でドンパチしてる連中がいると聞いてここまで来たけど、貴女だったのねミスティ。ここで何をしてるわけ?」
「騎兵隊を待ってたの」
「そう。それは良かったわ。私達が騎兵隊。それで悪者軍団はどこ?」
「そこの連中」
「かよわいヒロインは後ろに下がって私の活躍を見てる?」
「冗談。行くわよ、サラっ!」
「勝手に仕切らないで欲しいけど……まあいいわ。センチネルリオンズ、攻撃開始っ! 私とミスティに続けっ!」
BOS、布陣っ!