私は天使なんかじゃない
浄化プロジェクト始動
誰にでも安心で安全な水を。
それが目的。
だが時を経て様々な思惑が絡んだ時、その目的はまったく別物となる。
まったく別物に。
ジェファーソン記念館。
ダイタルベイスンと呼ばれる湖に隣接する場所に建てられた施設。ここが浄化プロジェクトの要となる場所。
ここで研究をする理由、当然それは浄化に適した大量の水があるから。
もっともその大量の水は放射能に満ちている。
浄化は容易ではないらしい。
少量の水は可能。そう、前にDrリーが言っていた。だけど大量の水だと手に負えない……らしい。
今、私はここにいる。
正確には私達はここにいる。
メガトンを経って3日。
パパはリベットシティで研究主任をしていた、かつての同僚でもあるDrマジソン・リーを説得。当初は乗り気でなかった彼女ではなかったけど浄化
プロジェクト再開の目処が立ちそうということが分かり協力してくれることになった。
彼女は自分の部下に当たる研究員達や機材とともにジェファーソン記念館に移動、当然私達も向う。
ジェファーソン記念館警備の為に私の部下を外に配置。
私の部下、それはつまりアカハナ達ピットレイダー。そしてリベットシティのセキュリティ隊員で構成された二個小隊。この施設は強固だし、入り口も限
られている。30名ほどの戦力で守り切れる。
クリスチームは不参加。
最近は付き合いが悪いんだよなぁ。
お陰で戦力は激減です。
まあ、誰かから攻められるという心配はないわけだから問題はないけどね。
特に敵はいないし。
少なくとも浄化プロジェクトを奪いに来る敵はいまい。
私自身を憎んでいる組織は多いけど……わざわざジェファーソン記念館にまで襲撃してくる敵はいない。正確にはその余裕はあるまい。
パラダイスフォールズの奴隷商人は弱体化の一途だし、その奴隷商人はエバーグリーン・ミルズのレイダー連合と敵対してる。戦力的にレイダー連合
の方が圧倒的みたいだけど最近は私の偽者がレイダーを併呑して組織化してるらしい。
急速に成長してるレイダーの別組織に対して連合もあまり面白い感情は持っていないに違いない。
共存共栄はないだろ。
険悪なまでに敵対はしないにしてもお互いに意識しあっているに違いない。
だとしたらわざわざジェファーソン記念館まで出張る事はあるまい。
何故なら新興レイダー組織は西で活動してる、レイダー連合の本拠地のエバーグリーン・ミルズもまた西にある。お互いにこっちに戦力を割くことはないはず。
動くに動けない硬直状態、だと思う。
さてもう1つの敵対組織はタロン社だけど……こいつらはママ・ドルスの一件でボルトテックの複製グール軍団に大敗してる。そしてボルトテック自体は原子炉
の爆発でボルト32諸共吹っ飛んだ。どっちも私にわざわざ喧嘩は売れないでしょうね。ボルトテックに関しては全滅だし。
つまり。
つまり私に喧嘩を売りにジェファーソン記念館までこれる連中は皆無。
まあ、それでも油断なく警戒はするけどね。
「しかし信じられないわ、まだね」
「リー。俺はブラウンから直接聞いたんだ。もちろんまだ最後のピースはない。しかし実験は必要だ。今はデータの収集が必要なんだ」
「つまり提示する為のってことね?」
「ああ。確かなデータさえあればリオンズもBOSを派遣してくれるだろう」
「楽天家ね」
「それが科学者の必須事項さ」
「そうね」
私とグリン・フィスはパパとDrリーのやり取りを聞いている。
今いる場所は、例の水槽がある場所。
そこで2人は軽口を叩きながら研究をしている。……仲良いな、何気に仲良いな。もっともこの場所にはDrリーが連れてきた研究員達も黙々とデータと
睨めっこしたりしているので完全なる2人っきりではない。2人っきりの世界観に入っているけど物理的にはたくさん人がいます。
パパとDrリーが妙な関係にはならないだろう。
……。
……というかママ裏切ったら……ふっふっふっ、覚悟してよー……。
などと呪詛したみたり。
多感な年頃なのです。うんうん。
私達が何してるかって?
まあ、警備。
特にやる事はないですけどね。
「暇だぜ」
革ジャンの男がぼやきながら巡回から戻ってくる。
ブッチ。
ボルト101時代の悪友だ。
新しい監督官アマタの許可を得てボルト101から出てきたブッチはキャピタル・ウェイストランドでギャング団を結成するのが夢らしいけど資金がない。
ギャング団自体は肯定しないけどまるで無一文なのは可哀想なので今回誘った。
1日200キャップで私が雇ってます。
雇った理由。
まあ、私も穴蔵から這い出してきたばっかりの時は苦労した。ウェイストランドの通貨持ってなかったしね。
そういう意味合いで手を差し伸べたってわけ。
さて。
「ブッチ、問題はあった?」
「ないぜ」
彼は欠伸を噛み殺す事もせずに横柄に言った。
そんな彼の腰には10oピストルがある。
私があげたものではなく彼の持参の武器。どうもボルト101を飛び出す際にちょろまかしたらしい。
「じゃあ次は私が巡回してくる」
「よろしく頼むぜ、お姫様」
「主、自分も同行します」
私に絶対的な忠誠を誓うグリン・フィス。
……。
……うーん。そこまで徹底して従ってくれなくてもいいんだけどなぁ。
もちろん悪い気はしない。
だけど水臭いという感情の方が最近では特に先に立つ。
だって仲間だ。
私達は今まで何度も背中を預けあってきた。
それに私がグリン・フィスにしたことは特に大したことじゃない。ただ死に掛けてた彼を拾って診療所に連れてった。
それだけだ。
普通のことをしただけなのにここまで畏まられるとやっぱり水臭く感じる。
「ティリアス」
パパが巡回に出ようとした私を呼び止める。
「何? パパ?」
「お前のお陰で浄化プロジェクトは形になりつつある。ありがとう」
「G.E.C.Kは結局必要なかったの?」
「G.E.C.Kか」
エデンの園創造キット。
概要は分からないけどそれは放射能で崩壊した世界を建て直す為にボルトテック社が開発していたものらしい。
パパはそれを求めていた。
世界の再建の技術を水の浄化に応用できないかと考えていた。
だからボルト112を目指した。
別にパパはそこにG.E.C.Kがあるとは思っていなかった、むしろない事を知っていた。ボルト101時代にボルト112はG.E.C.K研究の対象外なのは知っ
ていた。しかしパパはわずかな可能性を信じた。何故ならボルト112にはDrスタニウラウス・ブラウンがいた。最高の頭脳を持つ科学者。
その男の知識を求めてボルト112に向った。
収穫?
さあ、分かんない。
私は狂気してるブラウンと対決しただけだから。
ただパパはそれなりに収穫があったみたい。だからこそ浄化プロジェクトを再起動させるに至ったわけだ。
……。
……多分ね(汗)。
「今回の実験はデータ収集が目的だ」
「はっ?」
浄化プロジェクトの再起動じゃないの?
「結局G.E.C.K必要不可欠だ。それがここ最近まで研究してきた結論だ。ただしどの程度までこのシステムが稼動するかの様子見と……」
「BOSへの提出資料の為の実験?」
「そうだ」
「G.E.C.Kってどこにあるか分かってるの?」
「ボルト87にあるらしい」
「ボルト87?」
知らないな、それは。
ナンバリングの数だけボルトが存在するんだろうけど……私がこの目で確認したボルトは32、92、101、106、108、112のみ。この間ボルト32で突然現れた
人形男はボルト77のジャンプスーツを着てた。77がどこにあるかは知らないけど、問い詰めたところで87の場所が分かる可能性は極めて低いだろう。
そもそもキャピタル・ウェイストランドにはどれだけのボルトが埋まってるんだろ。
稼動してるのならまだいい。
だけど崩壊して完全に埋まっているのを発見するのはほとんど不可能だ。
「どこにあるの?」
「分からん」
そうでしょうねー。
分かってたらきっとパパはBOSを引っ張り出す為の実験データの収集などせずにG.E.C.Kを使って研究を完成させるはず。
なのにそれをしない。
だから場所を知らないのは薄々察していた。
それに。
それに主人公である私を楽させてくれるほどこの世界の神様はやさしくないだろうし(泣)。
主人公とは苦労して成長するのが王道なのです。
あうー。
「さて話はこれでお終いだ。凄腕ハンター殿、是非とも1つ頼みがある」
「あは」
思わず笑う。
凄腕ハンター、ね。
前にボルト101にいた頃ラッドローチを倒した時にパパにそう呼ばれたっけなぁ。誕生日だった。ジョナスに一緒に写真撮ってもらったっけ。
あの写真、置き忘れた。
まだボルト101の私の部屋にあるだろうか?
「何をすればいいの?」
「実はシステムが不安定なんだ。浄化プログラムの致命的な技術問題というわけではなく、この施設の問題なんだがね。実は浸水している区画がある。
排水して欲しいのだが排水システムはショートしていて使い物にならない」
「修理すればいいのね?」
「そうだ。頼めるか?」
「任せて」
「問題があるとすれば……一方通行という事かな」
「一方通行? それって私のパパへの愛が片思いで終わるって事?」
「……?」
「真顔で見返されると照れるんですけど」
笑うか驚くところでしょ今の。
なんだこの異様なまでの恥かしさはーっ!
うがーっ!
「そ、それで問題って?」
「配管伝いに行けば目的の場所には着ける。そして部品を交換して排水システムを作動できる。ただし排水中は、浸水している区画の扉が全て遮断
される。つまり通った道は通れなくなる。ダストシュートからこっちに戻ってきて欲しい」
「ダストシュートね」
「ティリアス」
「何?」
「ようやくキャサリンとの夢がようやく叶いそうだ。まだまだ先は遠いがね」
「先が長い?」
「例えばだ。我々の研究の結果、水の浄化は可能だ。ただし装置を作動させた者は死ぬ。確実にな」
「はっ?」
「システムを起動させた瞬間に水の浄化が始まるが……放射能が満ちるんだよ室内に。それを防ぐ為に自動的に装置周辺が封鎖される。システムを起動
させたが最後、その者は脱出不可能となり放射能で死ぬだろう。このシステムは変更不可能だ」
「自己犠牲、か」
私はグリン・フィスを伴ってその場を後にした。
システムをまず稼動させる段階にまで持っていかないとね。
その頃。
10機の飛行物体が降下した。
ベルチバード。
エンクレイブが誇る航空戦力だ。機銃やミサイルで武装された戦闘機であり、そして輸送機の一面も持つ。降下した機体からは次々と戦闘員が降り立つ。
大別すると戦闘員のタイプは2つに分けられる。
1つは黒のパワーアーマーを纏った戦士達。
1つは鶯色の軍服を来た兵士達。防弾ジャケットを着込んだこの兵士達がエンクレイブの戦力の主力であり一般兵。そういう区分けでいくとパワーアーマーを
着ているのはエリートという格付けになるだろう。また、士官クラスは軍服姿に軍帽を被っている。
そんな中、コートを羽織った男が降り立った。
その男の両脇にはパワーアーマーの兵士2人が常に付き従い、副官とも思われる軍帽を被った仕官がいる。
副官が口を開く。
「第12空挺部隊全機着陸し搭乗していた部隊を展開、さらに地上部隊がジェファーソン記念館を包囲しました。障害となった敵は全て排除、こちらの被害軽微」
「ふむ」
「突入しますか?」
「全部隊突入せよ」
「了解しました、オータム大佐っ!」