私は天使なんかじゃない







父の告白





  全てを受け入れるのは難しい。





  ママ・ドルスの一件。
  全て完了。
  正確には原子炉区画が爆破されて後腐れなくボルト32が吹っ飛んだ事により完結。
  ボルトテック社は壊滅。
  連中は<グール化を治療する>という名目で掻き集めたグール達を実験台にして複製グールを大量に量産、中国兵に仕立て上げた。
  目的は不明。
  ただウェスカーが言うには<中国兵を暴れさせることにより世情不安を作り出す>ことが目的だったらしい。
  壊滅したから問題ないかと言えば……実はそうでもない。
  エンクレイブが関係しているらしい。
  アメリカ政府再建を謳う実在も定かではない謎の連中。エンクレイブラジオという形でキャピタル・ウェイストランドに放送してる。やたら景気の良いプロパガンダ
  放送している局だけど、スリードッグ曰く「誰もエデンとエンクレイブの真意を知らない」ということになる。
  エンクレイブの登場、ね。
  ハッタリか。
  それとも……。





  ママ・ドルスでの一件から一週間後。
  「私の偽者?」
  「ああ。らしいな」
  メガトンの酒場の2階。
  私はその一室で保安官とテーブルを挟んで2人きりで相対してた。
  保安官の名はルーカス・シムズ。
  この街メガトンの市長兼保安官。しかしその実この街に派遣されているレギュレーターのメンバーの1人。ただし市長とか保安官とかレギュレーターかの
  肩書きに新たに<メガトン共同体の指導者の1人>が付け加えられる。
  メガトン共同体、それはメガトンを中心に形成されている集落の連合体。私が今まで旅して来た集落の大半はそこに加わってる。
  唯一加わってないのはリベットシティ、かな。
  この共同体が形成された事によりそれぞれの集落に続く街道は警備兵が巡回し安全が保たれている。キャラバン隊や旅人の往来が安全となり容易
  となり流通経路が確保、集落は富む。経済は飛躍的に成長し集落も成長していく。治安に関しては前述の通りで安全安心。
  共同体の会議で結成された自警団的な兵士だけではなくレギュレーターの後ろ盾も大きい。
  結果として野生動物などは追い払われ、レイダーなどは近寄る事も出来ない強大な防衛力を有した事になった。
  それに。
  それに最近キャピタル・ウェイストランドの悪党と呼んでも差し支えのない諸勢力は落ち目。
  悪名高きパラダイス・フォールズの奴隷商人はユラオンテンプルやピットの一件で戦力を半減させ、その上現在はエバーグリーン・ミルズのレイダー連合
  と縄張り争いを激化させてる。タロン社はこの間の中国軍との戦いで大敗した。
  スーパーミュータントの軍勢はビッグタウンで敗北しこの近辺では完全に姿を見せなくなった。
  ……。
  ……って説明なげー(汗)。
  本題に戻ろう。
  「私の偽者?」
  もう一度同じ言葉を繰り返す。
  「ああ」
  「それって確かなの?」
  「街道警備の兵士が3回目撃してる。レギュレーターは2回。あんたはこの街の顔だし知らない者はいない。確かだ」
  「私本人を見たんじゃないの?」
  「それはないだろ」
  「何故?」
  「ここ最近レイダーを殺してまわった事はあるか?」
  「ないわね」
  最近の戦った敵にレイダーは含まれない。
  だとしたら私じゃないな。
  「そっくりさんとか?」
  「まるで瓜二つだそうだ。あまりにも残虐な殺し方だったらしく遭遇した者は等しく姿を隠したそうだ。それに虐殺の相手がレイダーだからな」
  「まあ、妥当よね」
  レイダーを殺されて悲しむ者はない。
  良い厄介払いが出来た、その程度の認識だろう。だから見て見ぬ振りするのは別におかしくない。
  問題は私の偽者の出現。
  「具体的にそいつは何してるの?」
  「手下のレイダー引き連れてここらのレイダーを殺して回ってる。ここら辺のレイダーは連合に加入していない小さな組織が大半だ。偽者はそいつらを殺し、
  従う者達は併呑して勢力を伸ばしてる。エバーグリーン・ミルズのレイダー連合には匹敵しないが、勢力は拡大してる」
  「ふぅん」
  「ソノラはメガトンに駐屯していた部隊を現在本部に集結させてる」
  「メガトンではなく本部に?」
  「ああ」
  本部がどこにあるかは知らないけどね。
  一見するとソノラの行動は意味不明だけど、少し考えると納得できた。メガトンに集結させれば必然的に<この近辺で勢力伸ばしてるレイダー>どもにも分かる。
  当然警戒するだろう。
  だからソノラはわざと別の場所に集結させ、機を見て攻撃する……つもりなのだろう、たぶん。
  「ミスティ」
  「何?」
  「双子の姉か妹はいないよな?」
  「オブリの方でアリスの妹を登場させたし、こっちでも実は私に姉妹がいたという設定にしたら二番煎じだからね。だからいないわ」
  「……お前何言ってんだ? 意味不明だぞ?」
  「そう?」
  「ま、まあいい。ソノラはお前を疑っていない、そこは安心してくれていい」
  「それはどうも」
  助かりますね。
  本当に、実に助かりますね。
  レギュレーターを敵に回す気はない。ソノラの場合は疑わしきを罰しちゃうタイプのお人なので睨まれるのは正直面倒。
  「で? 偽者の対処は? 私はどうすればいい?」
  「関与しないで欲しいとのことだ」
  「そっちで処理してくれるわけ?」
  「そうだ」
  「そりゃ楽で良いけど……何故に?」
  「完全に瓜二つらしいからな。関与すると偽者と見分けがつかなくなって面倒なことになりかねない、そうソノラは判断した」
  「なるほど」
  確かに見分けが付かないほど似てる(私は見てないからどこまでそっくりかは知らないけど)のであれば不用意に接するのは危険かな。
  最悪レギュレーターに偽者と間違えられて撃たれかねないし。
  それは困ります。
  ともかく。
  ともかくレギュレーターの方で処理してくれるのであればありがたい。
  最近働き過ぎだし。
  「偽者はどっち方面に出没してるの?」
  「西だ」
  「じゃあそっちに行かなければいいのよね?」
  「そうなるな」
  「分かった。行かない。偽者退治任せた」

  『なんだってぇーっ!』

  「ん?」
  階下から声が響いてきた。
  まだ昼間。
  ……。
  ……まあ、昼間からお酒飲んじゃいけないという規則はないですけどね。しかし飲兵衛どもが昼間から騒いでいるなぁ。
  普通なら無視する。
  だけどそうはいかない気がする。
  何故って?
  聞こえてきた声は私の仲間達のものだったからだ。
  アカハナ達ピットレイダーの声。
  ルーカス・シムズに話があると酒場に呼ばれたのは私だけで、私が酒場に来た時は閑古鳥だった。話し込んでいる間に来たらしい。
  耳を澄ます。
  グリン・フィスの声も聞こえてきた。
  あいつら昼間から飲んでるの?
  まあ、私がメガトンにいる限り連中は無職だからこの時間帯に飲んでてもおかしくはないけど。
  何を話してるんだろ?
  グリン・フィスの酔った声が聞こえてくる。

  「昼間は44マグナムを駆使して戦う主も、夜は俺のマグナムを自在に操る主に変貌するのさ。夜は俺が絶対主だしな。はははっ!」
  『兄貴っ!』

  「……あんの野郎……」
  一人称<俺>とか言っちゃって楽しそうですなぁ。
  砕けてる?
  砕けちゃってる?
  たまの休養日なのでグリン・フィス君はとってもフランクに性格が砕けちゃってる模様。
  頭を砕いてやろうかボケーっ!
  がるるるーっ!
  というかアカハナ達、何気にグリン・フィスに兄事してるわけ?
  アカハナの声が今度は聞こえてくる。

  「あの、ボスとの感じは……その、どんな感じですか?」
  「はしゃぎすぎだな、主は。たまに俺の腰が砕けるかと思うぐらいに激しい。……正直勘弁して欲しいぜ」

  ころーすっ!
  あいつ絶対にぶっころーすっ!
  「お、おい」
  「……」
  ルーカス・シムズの声を無視して私は立ち上がる。
  インフェルトレイターは帯びてないけど腰には44マグナムが二挺ある。出掛ける際の護身用の武器。
  別に護身用の武器はおかしくないしこの程度の武装は普通。
  部屋を出て階下に降りる。
  私の仲間一同はお酒飲みながら騒いでるけど私の姿を見て硬直した。
  「グリン・フィス君☆ 君、何を言ったのかな☆」
  「あ、主」
  「何かなー?」
  「ユーモアですっ!」
  「ユーモアで済むわけ……あるかボケーっ!」

  「相変わらずだなミスティっ!」

  「ん?」
  酒場に誰か入って来た。
  男だ。
  革ジャンを着たリーゼントの男……あれ、ブッチ?
  「ブッチどうして……」
  「憎まれっ子世にはばかるってねっ! ようお嬢さん、相変わらずのじゃじゃ馬振りみたいだな」
  ボルト101の悪友ブッチ。
  何故ここに?
  ……。
  ……ちっ。グリン・フィス、命拾いしたわね。
  今はブッチとの話をするとしよう。
  気になるし。
  どうしてここにいるのとかね。
  「ブッチ、もしかしてボルト101の扉が開放されてるの?」
  「いや」
  「じゃあどうしてここに?」
  「アマタが出て行きたい奴は出て行っていいってよ。俺は出てきた。だが他の連中は居残った。まあ、俺にはあそこは狭すぎるぜ」
  「ふぅん」
  また完全には開放されてないのか。
  残念。
  アマタに会いたいなぁ。
  「ブッチはメガトンに留まるの?」
  「まあ、そうだな、しばらくは留まるかもな。金もないし。……ああ、そうだ、お前の親父さんに会ったぜ。すぐに戻ってきて欲しいってよ」
  「パパが?」
  「ああ。ちゃんと伝言は伝えたぜ」
  「ありがと。……ゴブ、彼に何かご馳走してあげて。後で私が支払いするから」
  「あいよ」
  旧友とゴブにさよならと手を挙げて私は酒場を出た。
  パパ、何の用だろ。



  酒場を出る。
  自宅に向って歩いていると子供達のはしゃぐ声が聞こえてきた。
  マギーもいる。
  子供達は大柄の人影を囲んでなにやらはしゃいでいるようだ。
  近付いてみる。
  近付くにつれて<大柄な人影>の容貌がちゃんと把握出来る様になるけど……皮膚の色が人間じゃなかったり体格が人間じゃなかったりするのに気付く(汗)。
  あれスーパーミュータントじゃんっ!
  「おお。ミスティ」
  スーパーミュータントは流暢な口調で喋った。
  流暢といっても他の個体に比べるとという意味。やはり人が話す言葉よりはどこかたどたどしい。
  「アンクル・レオ?」
  「そうだ。久し振りだな。子供は良いな、無邪気で俺は大好きだ」
  「オアシスにいたんじゃないの……というかどうやってメガトンに入ったわけ?」
  普通ガードに殺されると思うんですけど。
  メガトンは周囲を高い壁で覆われてるし入るには正面の門からしか入れない。
  どうやって入ったんだろ。
  「スーパーミュータントではなくトトロだと言ったら入れてくれたぞ」
  「はい?」
  「トトロだ」

  「ト、トトロ? そのナリでーっ!」
  「不満か」
  少々むっとしたような感じでアンクル・レオは呟き返した。
  あっ。何気に怒ってる?
  彼はそのままの口調で私に反論する。
  「月夜の晩にはちゃんとオカリナ吹いてるし問題ないだろう」
  「……ジブリに殺されるわよあんた」
  「意味が分からないぞミスティ」
  「……まあ、いいけど。で? 何しにここに?」
  オアシスにいるはずの預言者様が何故ここにいるんだろ。
  ハロルドに何かあったのだろうか。
  「問題でも起きたの?」
  「いや。友達に会いに来ただけだ。元気そうでよかったぞ、ミスティ」
  「ありがとう」
  アンクル・レオは良い奴です。
  だけど<トトロ>と自称すれば入れるって……どんだけザルな警備なんだ(汗)。
  まあ、レギュレーターが丁度いないのも幸いしてるのかも。
  連中がいれば今頃はアンクル・レオは死んでる。
  「ハロルドは元気?」
  「ハーバードが最近踊り回ってるのが悩みらしいぞ」
  「ふ、ふぅん」
  相変わらず意味が分からねぇーっ!
  ハロルドの状況が不明です。
  「それでアンクル・レオ、これからどうするの?」
  「昔住んでたところに忘れ物したから取ってくる。ミスティに会えてよかった。じゃあ俺は行くぞ」
  「ええ。またね」



  「ただいま」
  私は自宅に帰る。
  するとパパが荷造りをしていた。
  荷造り?
  「どこか行くの?」
  「ティリアスか。お帰り」
  「ただいま」
  「ブッチから伝言を聞いたのか?」
  「うん」
  「実は今からリベットシティに行くんだ。よかったらお前も一緒に行けたらと思ってな」
  「リベットシティに?」
  随分と唐突だ。
  まあ、暇だからすぐに行けるけど。
  ちなみにティリアスは私の名前です。あくまでミスティは愛称。ミス・ティリアスを縮めてミスティ。
  ……。
  ……というか私の名前を正確に言うのはパパだけな気がする。
  うーん。
  世間的にはミスティで固定なのかも。
  「リベットには何しに行くの?」
  「……」
  「パパ?」
  「……なあティリアス」
  「何?」
  「……お前は父親思いのキャラで今までその流れ出来た、しかし俺の台詞はボルト112脱出後初めてじゃないか?」
  「はっ?」
  「……まったく俺の設定が活かせてないし……その間にピット編まで終わってるんだぞ。なのに台詞ない、まさか俺はこの世界で要らない子なのか?」
  「はっ?」
  えーっと。
  もしかしてパパは寝ぼけてるか酔ってるのだろうか?
  「まあ、そんなこんなでリベットシティに行く」
  「……」
  それは理由として成り立ってるのでしょうか?
  うーん。
  「浄化プロジェクトが何とかなりそうなんだ」
  「えっ?」
  「まだ理論的な段階だが……それでも理論上では何とかなる。リーと彼女の研究顧問団がどうしても必要だ。説得に行きたい、一緒に来ないか?」
  「行く」
  暇だし。
  それに東方面でレギュレーターによる私の偽者探しが始まるらしい。
  メガトンにはいない方がいいだろう。
  さて。
  「パパ、聞きたい事があるんだけど」
  「何だ?」
  「FEVウイルスって知ってる?」
  ウェスカーの言ったこと。
  ボルト77の存在。
  スーパーミュータント・オーバーロード。
  どうも全てFEVウイルスが関係している。そして私がそれに感染している……ような響きだった。
  「……」
  「パパ」
  「どこで聞いた? そのウイルスの存在を?」
  「ボルトテック社の奴が言ってた」
  「……」
  「別に私は気にしてない。この能力気に入ってるし。ただパパの口から説明を受けたい。どこで感染したの?」
  「キャサリンだ」
  「えっ?」
  「ジェファーソン記念館は元々スーパーミュータントの巣窟だった。ただどうしてもあの場所が必要だったんだ。ダイタルベイスンの浄化にはあの場所が
  最適だった。だからBOSと提携した。スーパーミュータントを追い払う為だ。結果として掃討に成功した。だが……」
  「だが?」
  「だが赤いスーパーミュータントが報復を仕掛けてきた」
  「ジェネラルっ!」
  「知っているのか?」
  「うん」
  「そいつの頭部をBOSの1人が破壊した。つまり記念館奪還に来たスーパーミュータントを撃退したのだが……キャサリンが赤い奴の血を大量に浴びてしまった」
  「……」
  私は沈黙した。
  ジェネラルはその時も一度死んでるわけ?
  何なんだ、あいつは。
  死んでも死なないのか?
  前にアンクル・レオが言ってたけど<死んでも別の奴が起きる>らしい。意味不明だけど。
  「ティリアス、その時キャサリンは感染した。スーパーミュータントはFEVウイルスを注入されて作り出される人造兵士。どの個体も感染者。もっとも赤い
  奴以外のウイルスは弱い。感染はしない。しかし赤い奴の血液にはかなり濃いウイルスが……」
  「なるほど。それで私が感染したわけね。ママから受け継いでるのかぁ」
  「……随分と飲み込み早いな」
  「別に支障はないんでしょう?」
  「あ、ああ、完全に適応している。細胞レベルでウイルスが適応している。……ボルト101時代は日常生活には能力はいらないと思い薬で抑制していた。俺が
  去った後はジョナスに頼んでいたのだが……」
  「……」
  そこでパパは言葉を濁した。
  ジョナスはパパのとばっちりで亡くなったようなものだから……そうだね、言葉を濁すのは当然か。
  私は話題を転じる。
  「リベットシティに行くんだよね?」
  「あ、ああ」
  「じゃあ私も用意する。ちょっとした小旅行だね」
  「そうだな」
  一路リベットシティに。
  仲間達も連れて行こう、旅路は色々と物騒だから。クリスにも伝えなきゃね。





  三時間後。
  レイブンロック。

  「大佐。ジェファーソン記念館にて実験再開される目処が立ったそうです」
  「出撃準備」
  「了解しました、オータム大佐」
  「浄化プロジェクト、この私が貰い受ける。私の専用ベルチバードの発進を急がせろ。オータム隊、出るぞっ!」