私は天使なんかじゃない







拾い物






  パパを探して三千里。
  地下のモグラ生活から脱して荒廃した世界に。
  安定したボルト101。
  安息したボルト101。
  外の世界キャピタルウェイストランドは危険と悪意、殺人と飢餓、狂気と凶器に色濃く支配された土地。
  





  「ふぅ」
  喧騒と雑踏。
  中心に巨大な爆弾が今現在も残るもののメガトンの街は活気に満ちている。
  ……。
  ……まあ、街の住人はよそよそしいけど。
  よそ者大嫌い集団らしい。
  愛くるしい女の子供も愛想ないし。
  何なんだこの街。
  まあ、意味は分かるけどさ。
  こんな時代だ。
  街の住人という連帯感が自分を護る事に繋がるわけだ。私のようなどこから来たか分からないようなよそ者は危険……と認識しているかは分から
  ないものの信用は出来ない。それがよそよそしさに繋がる。
  よそ者を信じる→街の平和が崩れる。
  この方程式は正しいでしょうよ。
  メガトンの街の住人は100人ちょっと。
  それほどの大所帯ではない。
  その100人ちょっとの人数の中で私に対して好意を抱いてくれるのはノヴァ姐さん、ゴブ、ルーカス・シムズにビリー・クリール。
  ああ、あとはモイラかな。
  彼女は良い人だ。
  少し変わり者だけど親切だ。
  彼女のお店で仮眠した。ご飯も奢ってくれたし武器の修繕もしてくれた……いや、現在してくれている最中。
  まっ、見返りがあるんだけどさ。
  スーパーウルトラマーケットの調査だとか。
  交換条件ってわけ。
  安い条件よね。
  「んーふふー♪」
  鼻歌交じりに街を歩く。
  スーパーウルトラマーケットの調査の助っ人として今回もルーカス・シムズの助力を得るべく彼の家に向かう。
  街の為。
  そう言えば手助けしてくれるだろう。
  その《スーパーウルトラマーケット》がどんな場所なのかは知らないけど建物。建物にはレイダーとかいそうだから頭数は多い方がいい。
  もう1人当てがある。
  眼帯の伊達男ビリー・クリールだ。
  マギー(可愛いけど愛想のない女の子の事だろう、多分)の養父らしくお金が必要みたい。
  モイラは報酬を提示してくれなかったけどスーパーウルトラマーケットには金目の物が転がってるかもしれない。
  きっと話に乗るはず。
  きっとね。

  

  「悪いが力になれん」
  「はっ?」
  ルーカス・シムズは申し訳なさそうにそう言った。
  メガトンの市長にして保安官。
  熱血漢。
  今のところ私が知る限りではこの街で一番頼りがいのある人物なのだけど……まさか断られるとは。
  予想外だ。
  ルーカス・シムズの家はメガトンの唯一の出入り口のすぐ近くにある。
  睨みを効かしているという事だろうかな。
  「どうしてなわけ?」
  聞いてみる。
  人にはそれぞれ事情がある。
  私にもだ。
  それはいい、だから別に力になれないと断られても問題ではない。
  ただ面倒見の良さそうな彼が拒否するのが純粋に気になった。
  「どうしてなわけ?」
  もう一度聞いてみる。
  「理由は2つある。1つは爆弾絡みだ」
  「爆弾?」
  解体を託されている、街の中心ある爆弾。
  あれは200年前に落とされた爆弾で人類のほぼ大半を死に追いやった全面核戦争の際の遺産。
  当然の事ながら200年爆発していない。
  街の住人はもう爆発する事はないと安心している。それでも不気味に思い撤去しようとする者達(その筆頭が保安官)には爆弾を神と崇める教団
  が邪魔する。そしてずっと爆弾は放置されて来た。
  爆発しない?
  いいえ。
  この街の住人は勝手に爆発しないと思い込んでいるに過ぎない。
  安心という虚構の上で惰眠を貪っているに過ぎない。
  あれは爆発する。
  アクセスコードを打ち込めば爆発するのだ。
  解体する必要がある。
  ……。
  ま、まあ、そもそも爆弾の周りに街を作った連中の気が知れないけどさ。
  わざわざ爆弾囲んで街作る意味分からん。
  さすがは外の世界。
  ボルト101では通用しない妙に常識があるんだなー。
  まあ話を元に戻そう。
  「爆弾絡みで手を貸せないって何?」
  「君が申請した工具を掻き集めている。その為だ」
  「なるほど」
  解体には特殊な工具が要る。
  今現在にこの街にある工具は使えないのかって?
  んー、使えないね。
  質が悪い。
  いやまあ質が悪くても解体には使えるけど……工具の質が悪いのが原因で爆弾が爆発したら嫌です。私吹き飛ぶし。……ついでに街もね。
  それは避けたい。
  だからこそルーカス・シムズに申請したのだ。
  ……。
  特別な工具の為に奔走しているわけだ。
  そりゃ仕方ないか。
  で?
  「もう1つの理由は?」
  「息子が風邪だ」
  「そ、そう」
  ……私情かよ。
  別に悪いとは言わないけどさ。
  だけど当てが外れたなー。
  私の内面を読んだのかルーカス・シムズは申し訳なさそうに頭を下げた。
  「すまん」
  「い、いいわよ、別に」
  外の世界キャピタルウェイストランド。
  ボルト101にいた際には外にいるのは全部変人ばかりだと聞かされていたけど……いやまあ変人の確率は高いんだけど……市長はまともな人
  だし人当たりが良い。ウルフギャングもそうだったけど、ボルトとは異なる感じの良い人がいるんだなーと実感してた。
  だから。
  だからそう恐縮されると弱い。
  「いいわよ別に」
  「しかし……」
  「問題はないわ」
  「問題はあるぞ」
  「……?」
  「スーパーウルトラマーケットだろ?」
  「ええ」
  「あそこにはレイダーの一団が巣食っているぞ。スプリングベールとは当然ながら別の集団だ。銃火器の数はスーパーウルトラマーケットの方
  が多いぞ。人数もな」
  「そうなの?」
  「ああ。戦前の食料品等がたくさんあるからな。食えるから大勢いる。大勢いれば自然、集団の力が強くなる。必然的に銃火器の類や物資を他所
  から略奪できるようになる。意味は分かるな?」
  「ええ。まあね」
  私は馬鹿なつもりじゃないし。
  理解できますとも。
  「討伐のプランも考えている。しばらく待て」
  「それは無理」
  「何故だ?」
  「私はパパを探してるのよ」
  私は馬鹿ではない。
  だから。
  だから取り乱して《パパどこなのーっ!》と荒野を彷徨う事はしないし急いではいない。武器の調達や情報収集を万全にする必要がある。
  しかしだからといって悠長に時間を潰すつもりはない。
  スーパーウルトラマーケットの調査。
  それをする事によってモイラ・ブラウンに武器の修繕を施してもらえる。いや正確には武器の修繕をして貰ったお礼に調査、という順序だけど。
  時間を掛ければもっと人数を繰り出せるのかもしれないけど、そこまで時間を掛けるつもりはない。
  私は馬鹿?
  ……。
  んー、なんだか分からないけど《時を止める能力》は使える。
  使いようによってはさほど多人数を制するのも難事ではない。状況にもよるけどさ。
  過信はしてない。
  一応は身の程を知っている。
  まあ、どんなに客観的に自分の能力を評価してもやはり甘く見てしまうけどさ。自分にはどうしても甘くなるのが人間。
  それでも過信はし過ぎてない。
  「保安官忠告をありがとう。息子さんの看病、頑張ってね」
  「待ちたまえ」
  「……?」
  「保安官助手を紹介しよう」
  「保安官助手?」
  メガトンの門番のロボットを思い出す。
  ロボコ製の護衛用タイプの兵器。両腕のレーザー兵器は強力ではあるものの、速度が遅い&装甲が薄い。少しでも腕のある人間なら……いや
  いやレイダー達の一斉射撃の前ではただの的でしかない。だからこそ軍用には転用されなかったわけだし。
  ……。
  ふふん。私物知りでしょ?
  ボルト101で勉強したもの。アマタが主席で私が次席。
  さて。
  「君の考えている事とは違う」
  「はっ?」
  「人間だよ。ヒスパニック系の女性だ。半年前にメガトンに流れて来た女性だ」
  「へー」
  「今は哨戒の為に街の外に出ている。君は今日中に発つんだろう?」
  「まあね」
  「それまでには戻るんだろう。合流させる」
  「ありがとう」
  「ただまあ、気をつけてくれ」
  「気をつける?」
  「何というか掴み所のない女性だ」
  「はっ?」


  掴み所のない保安官助手の女性の助っ人を約束して貰い、次に私はビリー・クリールの家を目指す。
  掴み所のない?
  ……それってどんな奴よ?
  「あっ」
  名前聞くの忘れた。
  まあいいか。
  今日中に会えるわけだし。
  それに女性かぁ。何歳ぐらいの人なんだろ?
  出来ればお姉様系がいいなー。
  ノヴァ姉さんみたいな感じの女性希望☆
  「ふんふーん♪」
  鼻歌交じり。
  今日は私は上機嫌。
  モイラ・ブラウンと友達になったからだ。確かにお互いに利用し合ってる(私は武器の修復、相手は調査の助手目当て)関係とも言えるけど、ただ
  純粋に打算だけの関係ではないと私は思ってる。ボルトを出て私は当然孤独。友達は必要だし、嬉しい。
  だから上機嫌なわけ。
  分かるでしょ?
  「ふんふーん♪」
  市長であり保安官であるルーカス・シムズの自宅から、時計とは逆周りにビリー・クリールの家を目指す。
  途中、メガトンの水道施設、モイラの店を通り過ぎる。
  モリアティの酒場に差し掛かった時に怒声が聞こえた。男の声だ。
  男同士が口論している。
  途切れ途切れに聞こえてくる。
  息を潜めて聞き入る。

  「……それでは約束が……」
  「……おいおい。この金額で口止め何ざ安い……」
  「……どこまで強請る……」
  「……人聞きの悪い。おれはお前さんに情報を買い取ってもらってるだけ……」
  「……それが強請り……」
  「……マギーにお前がした事をばらしても……」


  そこで会話は途切れた。
  私に気付いた?
  それはない。
  ちゃんと物陰に隠れていたもの。そもそもこちらから会話している相手が見えていないし、会話の内容も途切れ途切れ。つまりそれほど接近
  しているわけでもないし向こうからも見えるわけない。気付かれるわけない。
  会話が終了したのは話が済んだのか、別の誰かがその会話の側を通りかかったのだろう。
  まあいい。
  「……」
  私は何食わぬ顔して歩き出す。
  先程会話が繰り広げられていたと思われる場所は……そうね、位置的にモリアティの店の前。
  そこまで足を進めたものの誰もそこにはいなかった。
  いつもならここから影の支配者面したモリアティが街を見下ろしている。
  けれど今日はいない。
  まあ私はまだこの街の新顔。……というかまだまだ通り掛かり程度でしかない。毎日モリアティがここにいるのかもただの当て推量でしかない。
  「うーん」
  しばらく立ちすくむ。
  会話の内容。
  マギー云々が出てきたけど……マギーはビリー・クリールの娘のような存在だ。
  会話していたのはビリー?
  だとするともう1人は誰?
  「よお、嬢ちゃんじゃないか」
  「えっ?」
  眼帯の男が手を振った。
  ビリー・クリールだ。
  クレイジー・ウルフギャングのようなキャラバン隊とは昔馴染み、そんな過去を有意義に活用してキャラバンの持ち込む商品を買い取りメガトンの
  街に適正な価格で販売している。いわば仲介人ってわけね。
  昔馴染み。
  つまりビリー・クリールも昔はキャラバンに属してたのかな?
  まあいいや。
  「親父さんは見つかったかい?」
  「途中」
  「見つかるといいな。それで、今日はどうしたんだい?」
  「えっと」
  私は空気は読める。
  さっきの会話の事を持ち出すべきではないと思った。本当に会話していたのがビリーだという証拠もないし。それに仮にビリーが誰かに強請られ
  ているにしてもそれを口にすれば彼は良い顔をしないだろう。
  モグラ生活していたけど人の心の機微は分かる。
  用件を切り出そう。
  ストレートに。
  「実はスーパーウルトラマーケットの調査に行くのよ」
  「ほう。それで?」
  「手を貸してくれません?」
  「……分け前は?」
  「そこにある物はなんでも」
  「宝探しってか? ははは。それはそれで楽しそうだな。いいぜ、出掛ける時は声掛けてくれよ」
  「ありがとう」
  「いいって事よ」
  これで二人目。
  旅は道連れ死ぬ時は地獄に道連れ☆
  ……。
  ……冗談。
  ともかくこれで二人目の仲間。
  保安官助手の能力はともかくビリー・クリールは頼りになる。コンバットショットガンを悪党に躊躇いもなく叩き込める豪快な男だ。
  頼りになる。
  「さて。モイラのところでもう一眠りしようかなー」


  ただ来た道を戻るだけではつまらない。
  そう思い別の道で帰ろうと思った。
  道を変えれば視点も変わる。街の姿も変わる。それはそれで楽しいものだ。
  私ってボルトっ子だし。
  滅菌され清潔感のあるボルト101の生活を否定するつもりはないしそれはそれでいいのだけど、メガトンの不衛生でも『生きている』という感じも
  また捨てがたい。
  ……。
  まあ、不衛生である必要はないんだけどさ。
  出来たら清潔感希望。
  「パパ何考えてたんだろ?」
  ボルト101を捨てて外に。
  ついでに私も捨ててさ。何してんだろ?
  まさか女?
  私ってモノがありながら女なんか外に作ってたら殺してやるぅーっ!
  パパは私のモノなのーっ!
  究極のファザコン娘ミスティの冒険が今始まるっ!
  ……なーんてね。
  などと考えて歩いていると……。
  「ん?」
  何か路肩に黒いものが落ちている。
  でかい。
  何だこれ?
  近付く。するとそれは人だと気付く。ボロボロの黒衣を纏った男性だ。近くには半ば折れた剣が落ちていた。
  男の体は動いている。小刻みに息をしているのは確認出来る。
  「……」
  周囲を見る。
  街の人は知らん顔。
  既に《よそ者は知った事か》ではなく《厄介ごとには関知しないぜー》だね。
  冷たい街だ。
  ……。
  まあルーカス・シムズやモイラ・ブラウン、ビリー・クリール、ノヴァとゴブがいる。そう捨てた街じゃないけどさ。
  さて。
  「大丈夫?」
  「……」
  「大丈夫?」
  「……」
  意識がない。
  混濁している。
  致命傷ではないもののお腹に鋭い切り傷がある。今、必要なのは意識を回復させる事。
  このまま意識がない状態がまずい。
  ……仕方ない。
  ……あんまり《そんな部分☆》には握りたくないのだけど、これも人命救助だ。
  せーのっ!
  むぎゅーっ!
  「うぎゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!」
  「目が覚めた。よかった」
  どこを握って刺激したのかって?
  男の弱点☆
  究極の急所に痛いまでの刺激を与えた事により男は意識回復。
  ビバ人命救助☆
  「私はミスティ。あんたは?」
  「……」
  「沈黙もいいけど、口を動かしたら気分転換になるわよ。頭もしゃっきりするしね。次に意識失ったら多分死ぬわ」
  「……」
  「名前は?」
  「……与えし者グリン・フィス……」