私は天使なんかじゃない







偽善? いいえ独善です





  本当の意味での善人は存在しない。
  正しい事をしよう、そう思う時点で意図的な行為となるからだ。
  そしてそれは偽善となる。

  そもそも誰もが認める<善行>など存在しない。
  必ず誰かにとってはその行動は悪意となり邪魔となる。

  人の世界を生きるのはとかく難しい。




  
  「前進」
  「前進します」
  私の指示で部下達は進む。身を低くして進む。
  賽は投げられた。
  既に戦闘は勃発している。
  ママ・ドルスの建物前面では中国軍とタロン社の大部隊が激突している。
  中国軍500名VSタロン社300名の激突。
  タロン社全体の保有戦力は知らないけど300名という数は連中のほぼ全ての戦力と見てもあながちデタラメではないだろう。
  双方全面対決。
  その戦闘の隙を衝いて今回レギュレーター&OCの同盟軍がママ・ドルスの背後を攻撃。
  「主、先行します」
  「お願い」
  「御意」
  中国軍がママ・ドルスを中心に円を広げるように各地を併呑していた。
  現在のところ被害はレイダーとかタロン社とかしかないけど、いずれはメガトンの被害もありえた。旅人やキャラバンも被害にあう可能性もあるし、何より物流が止まれば街は干上がる。
  ようやく交易路が確立され集落同士の繋がりが出来た大切な時期だ、邪魔者は排除しなきゃね。
  今のところ私達は敵に発見されていない。
  銃撃音は遠くでも近くでも聞こえるけど私達は敵に認識されていない。
  まずOCとその指揮下の機械部隊が敵に見つかるように布陣しド派手に攻撃を開始した。
  もちろんこれは囮。
  敵は敵でこれだけ派手に動けば囮だと気付く、
  そして周囲を索敵しレギュレーターの部隊を発見、戦闘に発展。
  これもまた陽動。
  本命は私達の部隊。
  別にわざわざ連携しているわけではないけどタロン社の行動はぐっじょぶっ!
  あれだけの数を動員しているから当然中国軍も全戦力を投入する事になる。その隙にこちらが攻撃。中国軍は残った戦力で迎撃に出張ってる。
  当然私達用の戦力はない。
  まあ、建物内に最低限の戦力は残してるだろうけど不意を衝けば問題なさそう。
  ……。
  ……多分ねー(汗)。
  私達は次第に建物に近付きつつある。
  従う部下はグリン・フィス、アカハナ、その他大勢のピットレイダー9名。
  9名の名前?
  さあ?(笑)。
  一応アカハナ以外はバイクのヘルメット被ってる。別にバイクがあるわけじゃないけど、被ってる。
  頭部を護る為であってモブ認定ではあらず。
  本当だぞっ!
  さて。
  「建物に侵入するわよ。全員気を引き締めて」
  「了解です、ボス」





  その頃。
  レギュレーター&OC同盟軍の野営地。
  遮蔽物があるのでママ・ドルスからは直接は見えない。
  全ての戦力が攻撃の為に出払っているものの僅かに数名が残っている。
  ソノラを含めて8名。
  実のところミスティ達もまた陽動であり、この場にいるのが本命。
  レギュレーターの中でも精鋭中の精鋭がこの場に待機し、組織の指揮官であり創設者でもあるソノラの指示を待っている。
  その当のソノラは地面に転がっている1人のグールを腕組みをして見下ろしている。
  戦闘開始前にグリン・フィスが拾ってきたグールだ。
  胸から血が出ている。
  既に銃撃で致命傷を受けていた。
  ソノラが撃ったわけではなく中国軍に銃撃はされたとこのグールは先程告げていた。
  この人物、あまり協力的ではないグールではあるものの最低限の事はすらすらと喋った。ただ素性は頑なに口にしなかったがソノラはこのグールを知っていた。
  ロイ・フィリップス。
  テンペニータワーを占拠するべく暗躍しているグールの最大組織<反ヒューマン同盟>の総帥だ。
  最大目的である塔の占拠の為の資金稼ぎの為にテロや傭兵も行う。
  以前アンデールにフェラルをけしかけたのもこの男だ。あの時はタロン社のカールに依頼されての行動だった。
  レギュレーターにしてみれば最大の敵の1人。
  そのグールが今、血塗れで倒れている。
  ソノラは言う。
  「ロイ。お前は中国軍には関係ないのね?」
  「ああ。関係ないさ。もっとも連中は中国なんかじゃないがな」
  「どういうこと?」
  「あんたらヒューマンには俺達グールの見分けは最低限しか付かないんだろうがな、俺達グールは同胞の顔がよく分かる。あいつらは一体何なんだ?」
  「……」
  言葉を返しようがなくソノラは沈黙した。
  沈黙もするだろう。
  意味が分からないからだ。
  「俺の仲間の三分の一は抜けた、そいつを説得する為にここまで来たらいきなり攻撃されて三分の一は死んだ、残りは俺を捨てて逃げやがった」
  「抜けた? 何故?」
  「グール化の治療薬だよ」
  「ああ」
  聞いたことがあるとソノラは思った。
  一時期キャピタルで話題になった、噂話。大々的に広がり、一気に消え去った、謎の噂。
  「ロイ、何を言っている?」
  「あんたには分からんか。まあ、そうだろうな。あ、あいつらの顔は全部同じだ。全部だ」
  「ロイ」
  「ま、まあいいさ。ヒューマンよ、ここで憎いグールが死ぬぞ。嬉しいか? レギュレーターの女よ、お前の偽善で世界を救えるのかよ?」

  ばぁん。

  ソノラは素早く銃を抜いて頭を撃ち抜いた。
  これ以上有益な情報を引き出せないと考えた上での行動だった。
  ロイ・フィリップスは悪党。
  確かに。
  確かにグールの求心力は強い。
  ヒューマンを否定しグールの為の安寧の地を作ろうとしている。アンダーワールドとは別の新しい地を作ろうとしている。
  その発想そのものは正しい。
  ただし人間を排除しようとしている時点で人間の敵となる。
  ソノラは笑った。
  「私の行動が偽善? いいえ独善。一人よがりの正義。だけどそこは問題ではない。お前の行動と同じだよ、ロイ。誰かを排除して誰かの平穏を守ろうとしているその時点でお前と私は同じだ。
  決定的な違いはお前は死んで私は生きている、それだけだ。生きている者だけが道を作れるのよ」

  チャ。

  弾装に新たな弾丸を装填。
  常にフル装填しないと落ち着かない性質なのだ。
  部下に手で合図する。
  「そろそろ行くわよ。施設に潜入、爆薬を設置して撤退する。続きなさい」
  「了解しました」






  「クリアです、ボス」
  「ご苦労様、アカハナ」
  ママ・ドルスに潜入。
  私の率いる部隊が侵入したのは倉庫だった。
  正確には車庫なのかな?
  私には倉庫を車庫に改造したように見える。
  まあ、それはいいか。
  アカハナを始めとするピットレイダー達が自動小銃を構えて散開、広大なスペースのガレージを索敵。クリアなわけだからとりあえず敵はいないようだ。
  とりあえずはね。
  「手際良いですね、主」
  「そうね」
  グリン・フィスは感嘆の声を上げた。
  頷いて私は同意。
  見た感じはレイダーだけど軍人顔負けの動作。
  その動きに無駄はない。
  ふぅん。
  結構役に立つんだなぁ。
  当初は仲間としてどうなのかと思ったけど、私をボスとして仰ぐピットレイダー達は有能だと見ていい。
  さて。
  「どうするかな」
  このガレージ(この室内の名称はガレージに統一)にある外部との出入り口は2つ。
  車両用の巨大なシャッターとその隣にある通用口。
  建物の奥に通じる道は1つ。
  昇りと降りの階段がある。
  昇降の階段の側にはジープが2台停車されている。ジープには機銃が装備されているところを見ると侵入者をここで迎撃する意味合いであの場所に停めてあるのだろう。
  奥に進ませない為にね。
  ただし無人。
  中国兵は配置されていない。
  外の戦いに全軍を投じているのだろうか?
  それでも内部防衛の為に最低限の兵力は当然残してあるはずだから油断は出来ない。
  「ジープの銃座、発射可能?」
  「調べます」
  ピットレイダーの1人がそう答えてジープに駆け上り、機銃を調べる。
  「可能です、ボス。弾丸も申し分なしです」
  「あなたはそこで待機」
  「了解です」
  停めてある車両はそれだけではなくシャッターのすぐ近くに大型トレーラーがある。
  白いトレーラー。
  私はグリン・フィスを連れて荷台に回って扉を開けてみる。
  もちろん警戒して銃は手にしてる。
  「面倒な展開だな」
  開けてみるけど誰もいない。
  ただ内部は凄かった。
  ボルト101の研究所よりも凄い設備がそこにあった。このトレーラーは移動型研究施設って感じだ。
  パソコンなどの精密機器類がある。
  そこはいい。
  そこはいいんだけど放射性物質の入っていると思われるドラム缶が三缶ほど置いてある。
  中身が放射性物質かは知らないけど缶に記されているマークはまさにそれ。
  それと強化ガラスと思われる円形の容器に緑色の液体が満ちていた。
  「走る研究室ってわけか」
  本当に中国軍か、これ。
  別に連中の文明レベルに似つかわしくないというのではなく軍隊らしくない。こんな移動型研究施設を何に使うんだ?
  よく分からない。
  「主、どうしますか?」
  「当初の目的を遂行する。ジンウェイ将軍を捕縛もしくは射殺。敵の司令部を制圧する」
  「御意」
  トレーラーの荷台の扉を閉じて私は奥の階段へと進む。
  向かうのは上?
  向かうのは下?
  迷わず下です。OCの情報では屋上に何らかの機体があるらしいけどママ・ドルスの施設の本体は地下にある。一気に下層に向かうべきだと思う。
  機体はスルー。
  どうせ脱出用だろうし。
  もちろんそれを先に抑えるのもありだと思うけど、それをするにはこちらの人数が足りない。
  私、グリン・フィス、アカハナ、ピットレイダー9名の計12名。
  人数は少ない。
  それに現在のところタロン社と中国軍が激突してるからここは手薄だけど、私の見るところ中国軍が勝つ。
  そもそも数は500と300、数で押し合えばタロン社は負けるだろう。
  戦闘が終われば中国軍がこっちに戻ってくる。
  そうしたら私達に勝ち目はない。
  私達の勝てる要素があるとしたら速攻と奇襲。
  それだけだ。

  「アイヤー、テキアルヨっ!」

  下層から階段で上がってきた連中と鉢合わせ。
  中国兵は3名。
  厳密には中国兵なのかは不明ですけどね。グールだからアジア系なのかすらも分からない。
  ただ身に付けている衣服や武器は中国製だから、中国軍?
  安易です。
  安易な気はします。
  何か<俺達中国軍っ!>というのを誰かが印象付けようとしているような気がするのは私の気のせいだろうか?
  私は44マグナムを躊躇いなく撃つ。
  それは相手の頭、胸、腹に吸い込まれていく。
  一撃必殺。
  中国兵は全員倒れた。
  ただしその銃声が仇となったのは確かだ。しばらくの間の後に階段を無数の足音が駆け上がってくる。
  ちっ。
  敵さんのお出ましだ。
  階段を駆け上ってきた敵は私や部下達が放つ銃弾にバタバタと倒れる。しかし敵の数は次第に増えてくる。ピット組の1人が操るジープの機銃は圧倒的な弾丸を吐き出すものの、残念ながら操る
  彼の力量が不足していた。そうでした、ピットレイダーってキャピタル・ウェイストランドよりも戦闘能力が低いんだった。
  弾幕をかわしつつジープの機銃に敵が取り付こうとするのを私は銃撃で蹴散らしていく。
  だがこちら側は相手側が放つ銃弾に次第に力負けしていく。
  幾ら私とグリン・フィスが無双しようとも数の差は無視できない。
  何しろ敵の数がすでに20名に達してる。
  こちらの2倍だ。
  さらに増えてくる。いつの間にかもう1台のジープに駆け上り、備え付けられた機銃をこちらに向ける中国兵。
  まずいっ!
  「グレネード行きますっ!」

  
ドカァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァンっ!

  1台のジープが爆発。
  アカハナが投げたものだ。
  ぐっじょぶっ!
  銃座に取り付いていた中国兵と付近の中国兵は爆発と飛び散ってきた破片で致命傷を受けた。
  敵は動揺しているものの殺到してきた敵の増援の一斉掃射の前に私達は大型トレーラーの陰に隠れるしかなかった。ジープにいた部下もジープを放棄して逃げてくる。
  あんな数と撃ち合っても負けるだけだ。
  私はトレーラーの陰に隠れてその場に転がる。
  車と床の間の僅かな隙間からインフィルトレイターを掃射。機銃の援護でこちらに向かって来ていた中国兵の足を次々と撃ち抜く。
  引っくり返る敵。
  ピットレイダー達は私に続いて隙間から銃を乱射。
  倒れている中国兵はそれがトドメとなった。
  「グレネードっ!」
  『グレネードっ!』
  アカハナが叫ぶと部下達が隙間からグレネードを中国軍側に転がす。
  数秒の間。
  そして……。

  
ドカァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァンっ!

  こちらが放棄したジープの機銃を操ろうとした敵もろともジープを吹き飛ばす。
  爆音と爆風。
  視界は遮られる。
  だけど敵はさらに下から上がって来たらしくこちらに向かって散発的に銃撃を乱射してくる。しかし視界は煙で遮られているので命中率は悪い。
  しつこい。
  しーつーこーいーっ!
  「こんのぉーっ!」
  撃っても撃っても、倒しても倒しても相手は階段を上がってくる。
  誰だよ外に出張ってるのが主力だって言った奴っ!
  ママ・ドルスにいるのも大概おかしい数だぞっ!





  その頃。
  ママ・ドルス地下にある指令室。
  「……まったく。余計なことばかりする」
  モニターを見ていた女性が、低く呟いた。