私は天使なんかじゃない







ママ・ドルス





  その者達は這い出るだろう。
  遠い過去から。






  <部隊編成>

  ソノラ率いるレギュレーターの部隊30名。
  部隊の基本装備は44マグナム。レギュレーター愛用のコート。後は各々が別々の銃火器を所有している。
  対戦車用ライフルを持つ者もいるしミサイルランチャーを持つ者もいる。


  OCの部隊10名。
  旧時代の技術があるかもしれないという理由で今回OCがレギュレーターと同盟締結、一時的に組んでいる。
  部隊の基本装備はレーザー系。
  レーザーピストルもいればレーザーライフルを保有する者もいる。パワーアーマー着用。
  人数こそ少ないもののプロテクトロンとロボブレインを多数従えている。
  機械部隊は30体。
  総合的に見ると戦力はレギュレーターに見劣りするものではない。


  そして私の仲間と部下達。
  私、グリン・フィス、ピットから付いてきたアカハナ含め10名のピットレイダー、計12名編成の部隊。
  私の武装は44マグナムが二挺、インフィルトレイター。ライリーレンジャーのアーマー。
  グリン・フィスはシシケハブと32口径ピストル。塗装は漆黒のコンバットアーマー(通常のコンバットアーマーよりもさらに黒い)。
  アカハナはレーザーピストルを所持。武装はコンバットアーマー。
  名前すら知らないその他大勢の部下(笑)はアサルトライフルとコンバットアーマー、そしてバイクのヘルメット。


  総勢52名。
  なお今回はクリスチームは不参加。
  誘おうと思ったもののメガトンにはいなかった。どうやら別件で出かけているらしい。
  別件?
  さあ知らない。
  そもそもクリスの素性は不明だし。
  ……。
  ……まあ、私も大概不明な素性なんですけどね。グリン・フィスに関しては完全に意味不明。
  出身地シロディールって何、みたいな感じです。
  だけど、まあ、クリスはピット帰還後にしばらく忙しいとか言ってたから、多分今回の不在はそれが理由なんだろうな。
  今回の敵は中国軍。
  さてさて。
  どうなることやらね。





  目的地はママ・ドルス。
  地名ではなく建物の名前らしい。建物の前方にはアーリントン墓地が広がっている。
  私達は建物の裏手に潜んでいる。
  裏手と言っても距離として5キロほど離れてる。ソノラの情報では中国軍は500ほどいるらしいし、あまり近付くのは得策ではない。
  丁度遮蔽物もあるし私達はその裏側に野営地を設置、機会を窺っている。
  武器。
  弾薬。
  物資。
  戦いに必要な類の代物は揃ってる。
  人数こそ相手には劣るけど質では勝ってると誰もが自負している。レギュレーターは精強だし今回初顔合わせのOCの面々もリオンズの新生BOS
  から独立し、独力でウェイストランドを放浪してるだけあって歴戦の勇士といっても過言ではないだろう。
  私もグリン・フィスも大概人類規格外だし(笑)。
  それに……。

  「積み下ろし作業を急げ」

  独特のカラーリングを施したパワーアーマーを着ているOCの連中は数台のカーゴトラックからプロテクトロンとロボブレインを下ろしてる。
  ただOCの人数、機械系は多くても人間は10人。
  作業の人数は足りてない。
  レギュレーターや私の部下達も手伝ってる。
  それにしても数台のカーゴトラックねぇ。
  あるところにはまだあるんだな、車。
  あれがガソリンなのか核燃料で走るのかは知らないけど。
  「主」
  「何?」
  私とグリン・フィスは遮蔽物に身を隠しながら建物を見ていた。
  動きは特になさそう。
  「主。静か過ぎると思いませんか?」
  「そうね」
  中国軍はまだこちらに気付いていないと見るべきだろう。
  まあ、これだけ離れて隠れてるわけだから見つかっても困るけど。
  私達の作戦。
  それは直に出張ってくるタロン社の大部隊と中国軍の大部隊をぶつける事。
  いや正確にはその点に関しては何もしない。
  勝手にぶつかってくれる。
  詳細はよく分からないんだけどタロンの小部隊が中国軍に殲滅された報復でタロンは出張ってくるらしい。
  実に結構。
  実に効率的。
  勝手に潰し合えばいい。
  その隙に私達は施設に侵入、制圧もしくは爆破する。
  中国軍はママ・ドルス周辺の存在をすべて排除しつつある。
  小さな集落を潰したとの情報もある。
  多分まともな人達が住んでる集落。
  他にはレイダーやタロン社などが無差別に排除されてるらしいけどこいつらはどうでもいい。
  ともかく。
  ともかく中国軍がこれ以上勢力を広げるとメガトンを中心とする共同体も危ない。
  カンタベリー・コモンズのキャラバン隊が中国軍の勢力圏内で捕捉されると物流が止まってしまう。まずいのです、それはさすがにね。
  だから歯止めを掛ける。
  タロンと中国軍が全面対決している際にね。漁夫の利というやつです。
  戦いはスマートに。
  なおかつ楽に行きたいものですね、はい。
  「主、自分は単独斥候しようかと思っているのですが」
  「単独で?」
  「はい」
  「危険」
  「それは自分を気遣ってくれているのですか?」
  「まあ、そうね」
  「主。この戦いが終わったら結婚しましょう。農場を購入して静かに暮らしましょう」
  「……自ら死亡フラグ立てるとは……それもユーモア?」
  「ユーモアです」
  「……」
  グリン・フィスすげぇーっ!
  死亡フラグの定番を口にするなんてね。
  まあ、結婚なんてしませんが。
  私がグリン・フィスに単独斥候を許可すると彼は猫のような身軽さで建物の方に走り去っていった。
  私はその後姿を見送った。
  問題が生じる?
  問題はないだろうよ。
  グリン・フィスほど万能に何でも出来る奴はそうはいないと思う。
  ウェイストランド広しと言えどもね。
  「んー」
  さて。
  特にやる事がないな。
  結局のところ私達が行動するのはタロン社が<タロンシャダーっ!>と言って突撃してから。
  つまりタロン社と中国軍が全面対決してから。
  それまでは待機。
  だって単独で相手の本拠地に突っ込んだら簡単に叩き潰されるし。そもそもの数の差が圧倒的である以上、利用出来る状況は利用しないといけない。
  それが兵法であり戦略。
  私は建物が見える場所から離れて野営地を見る。
  野営地、と言っても仮設のテントがあったりテーブルがあったりするだけ。テーブルの上には簡易食料や飲み物が置かれている。
  まあ持久戦ですね。
  タロンが来て戦闘開始するまでは休憩時間。
  「あーあ」
  大きく伸び。
  このまま完全に敵同士で潰し合ってくれないかなぁ。
  たまには何もせずに終わってみたいものだ。
  レギュレーターのコートを羽織った名前の知らない白人のおっさんが座りながら携帯型ラジオのスイッチを入れた。
  ラジオから陽気な声が流れてくる。
  スリードックだ。

  『こちらはギャラクシー・ニュースラジオのスリードックだ。もう一度繰り返して放送するぜ』
  『現在ママ・ドルスに中国軍が展開している』
  『連中は手当たり次第に殺戮をしているって話だ。だから付近に住んでいる人はすぐにそこから離れてメガトンかりベットシティに避難をお勧めする』
  『ああ。レイダーとかはそのままそこにいた方がいいな。その方がウェイストランドの為だからたまには貢献してくれ』
  『それにしてもエンクレイブラジオはこの件には完全にスルー……』

  ザー。
  突然スリードックの声が途切れた。ザーザーというノイズだけが響く。白人のおっさんはラジオを叩くものの直らず。
  周波数を変えたけどノイズだけ。
  突然ザーザーとラジオが言い出したので一同の視線が集中する。
  その時、突然声が流れて来た。
  知らない声がラジオから。
  少なくともスリードックではないのは確かだ。
  その声は言う。
  その声は……。

  『私はジンウェイ将軍だ。現在全ての周波数をジャックして放送している。その非礼をまずお詫びしよう』
  『しかしアメリカ人よ。お前達も我々に非礼を詫びる必要がある』
  『あの戦いを誰が始めたのか誰の為の戦いなのか誰の為の正義なのか、それを忘れてはいけない。全ては石油を独占しようとしたアメリカに責任がある』
  『そう。アラスカ州アンカレッジの大義は我らにあった』
  『にも拘らずアメリカは我々を駆逐し正義を謳った。それは罪である。それは大罪である』
  『私は精強かつ忠誠心溢れる人民の軍勢を率いて虎視眈々としていた。しかし既に雌伏の時は終わった』
  『本日この瞬間を持って我々は行動を開始する』
  『これはすなわち我々がアメリカ政府に突きつけた開戦宣言である。人民軍万歳っ! 共産主義万歳っ!』

  おーおー。
  意気を上げてますね、はい。
  どうやら敵さんはやる気満々らしい。だけどまだこちらの準備は整ってない。直にタロン社の大部隊が来るみたいだし、それまでは待機。
  ジンウェイ将軍とかいう奴の演説はそれで終わった。
  ふぅん。
  本気でウェイスランドを攻撃するつもりらしい。
  ソノラの見立てでは敵の数は500。
  一昔前なら大した数ではないだろうけど、現在のこの地域の状況を考えると圧倒的な人数だと言っても過言ではない。
  メガトン、アンデール、スーパーウルトラマーケット、ビッグタウンにメレスティにアレフ居住地区、交易路で繋がった全ての街を合わせても500に満たない。
  敵勢500は圧倒的だ。
  さて。
  「ミスティ、こっちに来て欲しい」
  「分かった」
  ソノラに呼ばれた。
  彼女はOCの1人と一緒にテーブルを囲んでいる。OCはパソコンを弄っている。私はソノラに近付き、隣の椅子に座った。
  「ソノラ、何?」
  「紹介しよう。彼女はOCのアン・マリー・モーガンさんだ」
  「どうも。ミスティです」
  「初めまして」
  ああ。
  このOCの人は女性だったのか。
  パワーアーマー邪魔だなぁ。顔分からんし性別も分からない。人付き合いするには邪魔ですね。
  そんな彼女は顔も上げずにパソコンのキーボードを叩いている。
  覗いてみる。
  ディスプレイに表示されているのはママ・ドルスとと思われる建物の透視画像だった。
  ふぅん。
  さすがは技術屋集団ね。
  失われたハイテクを現在も保持しているらしい。そしてそれは時に銃弾よりも強い武器となる。
  そう。
  情報は武器。
  どうやらOCのお陰で突入は容易になりそう。
  OCは呟く。
  「この建物、地表部分はただの廃墟同然ね。本体は地下にある。結構深い。かなりの規模の地下施設があるとみていい。ただ……」
  「ただ?」
  「ただ屋上に機体がある。解析度が低いので判別できないがヘリではなさそうだ。何らかの航空機だと思う」
  「ふぅん」
  航空機ねぇ。
  あの建物を見る限り滑走路なんてない……つーか、あるはずないかー。
  垂直上昇できる機体ってこと?
  そのあたりはよく分からないけど機体が稼動可能ならジンウェイ将軍が脱出する際に使われる可能性もあるってわけか。
  まあ将軍はどうでもいい。
  要は敵の軍勢を叩き潰す、拠点を再起不能にする、それだけで充分。
  もちろん可能なら指揮官を倒すけどそれはあくまで二の次。焦点は軍勢の撃破と建物の制圧。
  新たな軍勢を再結集するは時代的に不可能だと私は思ってる。
  中国が存在しているかすら不明。
  そういう意味合いで将軍はどうでもいい。
  もちろんわざわざ見逃してやる気はないけど。
  「キャスディンの決断は正しかった。この施設には我々が求めるテクノロジーがある可能性が高い」
  「それぞれの思惑はこの際どうでもいいだろう、作戦を再確認するとしよう。ミスティも聞いて欲しい」
  「分かったわ」
  そういえば作戦聞いてなかったな。
  ソノラは提案する。
  「正面はタロン社が勝手に受け持ってくれる。我々は後方を衝く。OCの部隊が堂々と布陣する手筈になってる」
  「堂々とねぇ」
  「そうよ」
  「囮?」
  「話が早くて済む。その通りよミスティ。敵も当然そう読む。そして囮がある以上、本命の位置を読む。レギュレーターの部隊が左翼方向から攻撃を開始する」
  「なるほど。つまりはそれも囮でしょ?」
  「そう。本命はミスティの部隊。右翼方向から隠密に建物に侵入、制圧して欲しい」
  「解析してみたけど」
  OCの女性が口を挟む。
  「内部にはそれほど数はいないわ。解析機能が古いから動いている物体しか認識できないけど多くても50」
  「50ね。それはそれは魅力的な数字」
  一応相手の数は私の手勢の5倍か。
  まあ開けた場所での野戦ではなく建物の中での戦闘だから必ずしも数の差が圧倒的な戦力差にはならない、か。
  「ミスティ、少し歩かないか」
  「はっ?」
  「作戦は以上だ。タロン社が来るのにはもう少し掛かる。散歩しても問題はない」
  「まあ、そうね」
  何か話したい事でもあるのだろうか?
  ソノラは立ち上がり歩き出す。
  私は後に続いた。
  今回の戦いは私の部隊、レギュレーターの部隊、OCの部隊の混成軍。
  質の面ではかなり高いと自負してる。
  ただし誰も死なないという選択肢は残念ながらないのは確かだ。
  レイダーあたりとの小競り合いではなく相手は軍隊。
  数も多い。
  死者は必ず出るだろう。
  考えてみると人間の本質は核で吹っ飛ぶ前と変わらないのだろう。
  戦争好き。
  少なくとも戦争を忘れていない。
  つまり核という教訓から何も学ばなかったって訳だ。
  攻撃準備をするそれぞれの間を通り抜け、陣営の外れでソノラは立ち止まった。
  「ミスティ」
  「ん?」
  「お前には感謝している。正義の戦いにはお前のような同志が必要だ。お前は私が思う以上の逸材だった。何より信念がある」
  「信念? んー、ないような」
  「あるさ」
  ソノラは笑った。
  そのままの表情で彼女は言葉を続ける。
  「あるところに1人の女がいた。武器商人に囲われていた女だ。その武器商人というのはウェイストランドで随一の人物でね、金も酒も食べ物にも女は不自由する事はなかった。女は満ち足りていた。
  この時代、何にも不自由しないというのは最高の幸せだ。だろう? 女は全てを手にしていた、全てをだ」
  「それで?」
  「ある時武器商人の屋敷に1人の男が流れて来た。旅人だった。サングラスをかけた陽気な黒人だった。その男はみすぼらしい格好をしていた、食べ物も飲み物もほとんど持っていなかった。
  武器商人は流れて来た浮浪者のようなその男を戯れに一晩泊めた。ある意味で座興の為だ」
  「座興って?」
  「その男がいう滑稽な話を酒の肴にしたのさ。男は言った。正義の戦いをしていると。このウェイストランドに希望をもたらしたいと。熱っぽく語るその男をドゥコフ達は酒の肴にして笑った。しかし女は
  笑わなかった。その信念に心を打たれた。彼は何一つ持っていなかった、しかし、確固たる自分を持っていた。信念も、理想も。そして女は気付く。自分は何も持っていないことに」
  「ソノラ、その話って自分のことなの?」
  「ある女の話さ」
  静かに笑うソノラは遠くを見た。途端に笑みは消える。
  私もそちらを見る。
  敵?
  ……。
  ……いや。それはグリン・フィスだった。
  ただ、一人ではない。
  誰かを連れている。誰かに肩を貸して歩いてくる。近付くにつれてその人物が判別できるようになる。
  ヒューマンではない。
  グールだ。
  ソノラは物言わずに銃を構えた。
  「ちょっとソノラっ!」
  「お前の仲間を撃つ気はない。あのグールは問題がある」
  「誰?」
  「奴は<反ヒューマン同盟>の親玉ロイ・フィリップスだ。死に掛けているらしいが自然死を待つ気はない。処理する」










  「約300名の武装集団が墓地に展開しました。タロン社の部隊だと思われます」
  「全部隊に<シナリオは開始された>と伝達せよ。良い機会だ。我が軍勢の威力を思い知らせる絶好の機会だ。直ちに起動させよっ!」
  「了解しました、将軍閣下」