私は天使なんかじゃない







過去の栄光に縋る者達






  あの頃は。
  あの時は。
  人は追憶に縛られ易い。

  そして過去の栄光に。






  「今日貴女は偉大な行いを為しました。偉大なる者とオアシスの住民の安全を確保したのです」
  「そんな大層な事じゃないけどね」
  オアシスの広場。
  パーチの後ろには信者……いや、オアシスの住人達が一堂に並んでいた。皆等しく私達に頭を下げている。長老パーチの隣にはアンクル・レオ。
  スーパーミュータントの友人は軽く頭を下げた。
  「ミスティ。お前には感謝してる。やっぱりお前は俺の心の友だ」
  「するべき事をしただけよ、アンクル・レオ」
  「するべき事?」
  「この地は護る必要があるのは私も理解してる。決して利己的な願望だけの問題じゃない。この地は、幼い。今、全てを知らせれば簡単に略奪されてしまう。
  私はそれを護る意味を知ってるつもり。そしてハロルドをそっとしておいてあげたかった。だから行動した。それだけよ。別に偉大じゃない」
  「ミスティ」
  「何?」
  「それを世界では偉大な行為と言うんだ。俺、お前と友達で誇らしい」
  「あ、ありがと」
  赤面する。
  アンクル・レオが冗談を言う性格ではないという事は知っている。……ま、まあ、愛嬌がないだけという説もあるけどさ。
  ともかく。
  ともかくアンクル・レオは冗談は言わない。
  それはつまり今の言葉は彼の本心という事になる。私だって照れる時は照れる。
  「アウトサイダー」
  「何、パーチ?」
  「この短い訪問で貴女は多くを学ばれました。この荒れた時代に、貴女という存在は稀なるギフトです。友よ。貴女の旅に幸あらん事を。ここでの時間は
  貴女の目を開き、心をも開いた事を期待しています。私は誤解していました、貴女という存在を」
  「疑ってたってわけ?」
  「いえ。そうではないのです」
  「つまり?」
  「我々は彼を唯一のギフトだと思っていたのです。だけど違った。そうじゃなかった。彼はギフト、それは紛れもない。しかし彼は種だったのです」
  「はっ?」
  「貴女は彼という存在を開花させた。我々の価値観も昇華させた。貴女こそ真の神と言うべき……いえ、神がこの世に与えたもうたギフトなのです」
  「そ、そりゃどうも」
  誉めてる?
  うーん。
  それを完全に通り越してる。まあ、悪い気はしないけど。
  「主」
  グリン・フィスが私に囁く。
  私は頷いた。
  ここにこれ以上いるとまずいような気がしてきた。
  ……。
  ……変な話、今度は私を生き神様に祭り上げそうな勢いだからね、こいつら。
  うー。
  それだけは勘弁。
  ここは緑豊かな世界。瓦礫と残骸の世界に生きるウェイストランド人から見たら理想郷かもしれないけど……まあ、私にしても珍しいし綺麗な世界だと思う
  けど私はまだ冒険したい。まだまだ隠居するには早過ぎるだろ。というか早くクリス達と合流しないと。
  激動の街ピットから帰還した直後にスーパーミュータントの軍団と遭遇戦した私達。
  結果として仲間と分断されて離れ離れ。
  クリス達全滅?
  まさか。
  逆にズーパーミュータント軍団の方が危ないだろ。今頃は壊滅してるんじゃない?
  だけど早く合流しないと。
  「アンクル・レオ」
  「何だ?」
  「私達は行くわ。あなたはどうするの?」
  「俺の冒険はお終いだ。ハロルドや彼らと一緒にここで暮らすよ。ここは俺が望んだ世界だと思う。ここが俺の冒険の終着点だ」
  「そっか」
  「また遊びに来てくれ。それと……」
  「ん?」
  「俺達はずっと友達だからな。いつだって力になるぞ、いつだって」
  「ありがとう」





  オアシスを離れ、私達は岩場を登った。
  岩山。
  岩山。
  岩山っ!
  どこもかしこも岩だらけ。
  オアシスは岩に囲まれた場所だったってわけだ。まさかこんな場所に理想郷があるだなんて誰も思わないだろう。
  そしてここには基本的に誰も来ない。
  見つからなかったわけだ。
  多分これからも見つからないだろう。
  何故?
  だってハロルドには千里眼みたいなもんがあるらしいから。木の根を伝わせて物事を見れるらしい。だから私を見つけれた。見れるだけでは監視は出来ても
  防御は出来ない、だけどハロルドには仲間達がいる。監視が出来れば防御の時間も出来る。
  ツリーマインダー達の持っている武器は古臭い。
  火力も大した事ない。
  だけど地勢的にオアシスは防御に適している。
  銃火器が古ぼけていて攻撃力が低くてもあの人数で、あの地形の場所に立て籠もれば鉄壁の防御力となる。
  侵略者がよっぽど未来兵器使わない限り落とせないだろうよ。
  「主」
  「何?」
  「どこへ向われているのです?」
  「あはは」
  彷徨う私達。
  どこに向ってる?
  さあ。
  不明です(苦笑)。
  クリス達と合流したいんだけど連絡手段はない。というわけで彷徨っているだけです、合流出来たらいいなー……程度の期待で歩いてます。
  確固とした意味はなく彷徨ってます。
  PIPBOY3000には生体反応を探知する機能があるけど距離が制限される。かなり近くにいなければ反応しない。
  少なくとも数メートル近くにいないと反応しない。
  ……。
  ……ついでに言うと反応してもそれがクリスとは限らないわけで(泣)。
  面倒な展開。
  今度からクリスにもPIPBOYを持って貰おうかな。
  キャピタル・ウェイストランドで一般的に流通しているかは知らないけど、どこかのボルトから収集してくるという手もある。
  あっ、ゲイリーは装着してたような気がする。
  死体から回収してくる?
  うん。
  それはそれで手だ。
  だけどその前に自力でクリス達と合流する必要があるわけで。
  「主」
  「だから当てもなく彷徨ってるだけだって言ってる……」
  「いえ。そうではありません」
  「ん?」
  「囲まれました」
  「えっ?」

  ピピ。

  PIPBOY3000がその時、索敵。
  囲まれてるっ!
  ……。
  ……にしてもグリン・フィス、すげぇ。機械よりも早く察知したんだ。しかも数メートルの範囲にいる連中を。
  敵、か。
  クリス達ではあるまい。
  画面には30名ほどの数が探知されている。クリス達ではないのは明らかだ。
  そしてグリン・フィスは『囲まれました』と言った。
  包囲されている。
  少なくとも相手側はこちらを既に察知している、敵意があるかどうかは不明ではあるけど、包囲するぐらいだから攻撃してくる意思はあると見た方がいい。
  私の腰には二挺の44マグナム、背にはインフィルトレイター。
  弾丸は豊富にある。
  グリン・フィスは接近戦用の武器である炎の剣シシケハブ、そしてどういう心境の変化かは知らないけどピット到来時には32口径ピストルを装備していた。
  飛び道具も装備している以上、グリン・フィスはほぼ無敵の状態だ。
  フォールアウト無双も出来ますよ、私達。
  激・無双乱舞ーっ!(笑)。
  「主」
  「ん」
  「視認の位置まで来ます」
  「そいつらに敵意はある?」
  「ふんだんに」
  「そう」
  警戒する。
  そして……。

  ザッ。

  「赤毛の冒険者だな」
  金髪の、サングラスを掛けたちょっと美形の男が出てくる。装備しているアーマーはボルト101のセキュリティアーマーに似てる。
  一瞬タロン社かと思うけどそうではないみたい。
  包囲する形で現れたのは30名ほど。
  正確には33名。
  その動作は訓練に裏打ちされたものだ。
  ど素人ではない。
  少なくとも良質の武装をしたレイダーではない。徹底した訓練された、統率された武装集団だ。
  「赤毛の冒険者だな」
  「ええ。そう呼ばれてる。自分で称したつもりはないけど」
  私はまだ銃に触れてもいない。
  わざわざ御託を並べる相手なのだからいきなり攻撃はしてこないと踏んでいる。そしてそれはそう間違いでもあるまいよ。
  今、この時代は法整備された時代ではないのだ。
  確認せずに殺せばいい。
  突然攻撃したけど狙う相手ではない場合は?
  それならそれで問題ないんじゃないかな。何故なら今の時代は、法整備なんてされてないわけだからね。
  無法の時代ではそれが常識となる。
  なのにそれをしない。
  つまり?
  つまりこいつらは私に用があるのだ。
  多分殺す前にお話し合いがしたいのだろう。少なくともリーダーと思われる金髪以外の連中は銃口をこちらに向けているわけだから殺す気はあるのだろう。
  お話し合いが終わった後にね。
  「レッドレーサー工場ではやってくれたな」
  「レッドレーサー?」
  「そうだ」
  記憶を思い返す。
  結構前の話だ。もちろんその場所は知ってる。
  レギュレーターの依頼でその施設を探索、そしてそこにいた科学者みたいな奴を始末した。そいつはグールやスーパーミュータントの実験をしてた。
  確か研究施設みたいになってたな、最奥は。
  「盗んだデータを返せ」
  「はっ?」
  それには心当たりがない。
  同行したクリスが『データには触らない方がいい』と言ったからだ。余計な厄介に首を突っ込む可能性もあるからやめた方がいいと。
  私は納得してその通りにした。
  あの狂科学者の所有していた実験施設の規模から考えると何らかの背後組織があると考えられたからだ。それだけ施設の規模は大きかった。
  私はデータに触ってない。
  ただ研究者を殺して、実験生物を薙ぎ倒しただけ。
  データは知らない。
  だけどそれをそのまま言ったとしてもこいつらは信じないだろう。
  金髪は繰り返す。
  「データを返してもらおうか。あれは我々の社会保全計画の為に必要なものだ。我々の再興の為にはどうしても必要なのだ」
  「社会保全計画?」
  「我々はボルトテック社直轄の特務部隊だ。私は隊長のウェスカー。赤毛の冒険者よ、お前もボルト101にいた身だ。我々の命令に従う義務がある」
  「ボルトテックの残党か」
  「残党ではない。我々は再びこの世界に君臨する。その為にはどうしてもデータが必要なのだ、そう、依頼を続行する事で研究施設の拡大の為になるのだっ!」
  「訳の分からん事を」


  過去の栄光に縋る者達の襲来。
  そして……。