私は天使なんかじゃない








人は繋がっている






  人は誰しも1人ではない。
  人は繋がっている。






  「あなたの心臓に妙な湿布を貼ってきた。成長を抑制する効果がある……らしいわ。私は植物学者じゃないからよく分からないけど」
  「……」
  地下洞穴から舞い戻った私は再びハロルドの前に戻った。
  グリン・フィス、アンクル・レオは門の前で待機中。
  「パーチが調合した湿布なの。あなたを外部に晒さないように調合した代物らしいから害はないと思う。パーチがあなたに害を与えるようなものを貼るように私には頼まないわけだしね。というか
  木の根に心臓が包まれているのを見た時は私もびびったけど」
  「……」
  ハロルドは沈黙したまま。
  あの後。
  あの後、私はパーチに頼まれて地下に降りた。
  ミレルーク満載でした(嘆息)。
  かなり前になるけどミレルークに苦戦した。その後遭遇したのはボルト92、そこでは圧勝した。
  今回は?
  完勝です☆
  地下に降りるのは私とグリン・フィスで降りた。
  アンクル・レオはハロルドの元に留めた。
  ハロルド、色々と精神的に参っているようだし。
  特に『殺してくれるかもしれない人物の登場』に色々と期待している反面、もしかしたら殺してくれないかもしれないという猜疑心もあるみたいだし。
  万が一ではあるけどハロルドが信者達を扇動するかもしれない可能性もある。
  殺してくれないなら殺すように仕向けてやる、その可能性もある。
  ハロルドの性格的にそれはない?
  さあ、それはどうだろ。
  私はそれほど彼を知らない。
  そりゃそうだ。
  会ったばっかだもん。
  ある程度の備えは必要。
  だからこそアンクル・レオを門の前に配置しておいた。彼は預言者として扱われている、だから彼が『ハロルドは誰にも会いたがっていない』とパーチや他の信者達に言えばわざわざ
  門を越えてハロルドに拝謁しようという信者もいないだろう。
  その間に私達は地下洞穴に侵入。
  ミレルークを蹴散らして目的を達成したわけで。
  さて。
  「成長は抑制したから、これ以上体が大きくなる事はないと思うわ。少しは負担が減ったと思う」
  「何故なんだ?」
  「ん?」

  「連中と同じやり方をする事にしたんだな。何故なんだ?」
  「……」
  「何故なんだ? 俺は死にたいんだよ。頭や体の重さなんてどうでもいい。何だって殺してくれないんだ? 偽善か? 後味の悪さか? 保身の為なのか?」
  「そうじゃないわ」
  返答に詰まっていた私だけど、そこだけはきっちりと否定する。
  どう説明すればいいんだろ?
  ここからは言葉をゆっくりと、確実に、慎重に選ぶ必要がある。
  沈痛そうな声でハロルドは言葉を搾り出した。
  「なあ、どうして殺してくれなかったんだ?」
  「ハロルド」
  「何だ?」
  「人は誰しもが1人では生きられないわ」
  「荒野で1人で生きてる奴だっているだろ?」
  「そうね」
  「なあ、何が言いたいんだ?」
  「だけどそういうサバイバルな人だって一定の生態圏の中で生きている。獲物であり捕食者であり、ね。そういう人だって何らかの世界の1つ。分かる?」
  「分かるけど俺に何の関係があるんだ?」
  「あなただってオアシスという世界の一員。それが言いたいのよ」
  「なるほどなぁ。だけど俺は死にたいんだぞ? 自分の命の始末をしたいんだ」
  「だけど……」
  「死にたいんだよっ!」
  「……」
  ハロルドが吼えた。
  静寂だった森に怒声が響き渡る。
  「分からないんだ、この孤独がっ! どんなに奇麗事言ったって俺は人間ですらないんだぞっ! こんな人生にどんな希望を見ればいいんだっ!」
  「孤独。それがそもそもの本音なのよね?」
  「えっ?」
  「今のあなたは1人?」
  「あの連中は自分達の事しか考えていない。俺の孤独を癒してくれるわけじゃない」
  「サブリングは?」
  「あの子は良い子だけど……」
  「ハロルド」
  「何だ?」
  「あなたは信者達が崇拝する前提を、自分勝手な妄想だと思い込んでる。自分達の都合の為だけにあなたを崇拝していると。……違う?」
  「そうじゃないのか? あいつらは俺の気持ちなんて考えてないんだ」
  「そうね。それは認める。すれ違ってる。だけど皆あなたが好きなのよ。分からない?」
  「俺の事を好き?」
  「ハロルド。あなたは彼らの人生にとって重大な一部になってる。彼ら彼女らはあなたなしでは生きていけない。人は繋がってるのよ、あなたも1人じゃない」
  「繋がってる? 俺が? 俺が1人じゃない?」
  「そうよ」
  「あいつらがそんなに俺を必要としているのかい? そんな風に考えた事はなかったな。自己中だよな、俺って」
  「誰だって自分を中心だと考える。全て視点は自分だからね。自己中は悪い事ではないわ。……まあ、程度によるけどね。あなたの場合はセーフよセーフ」
  「そうかぁ」
  そこで一度ハロルドは黙った。
  私の定義はそう間違ってないと思う。信者達は別にハロルドを神様と思い込んでいるだけではないはずだ。
  真剣に想ってる。
  これは確かだ。
  もちろん今のままでいいとは思わない。
  関係性の改善は必要だ。
  「ハロルド。あなたにとって時間の概念はもうない。でしょう?」
  「ああ。そうだな」
  「もう少し生きてみない? 今度は、神様としてではなく彼ら彼女らの友達として。神様から、このコミュニティの指導者として生きてみたら?」
  「そうかぁ」
  「どう?」
  「あいつらにもう一回チャンスをやろうか、ハーバート? ……分かったよ、ボブ。ハーバートって呼ぶのは面白いと思うけどなぁ。なあ、どう思う?」
  「……すいませんそもそも意味が分かりません」
  うーん。
  ハロルドの言動はよく分からん。
  まあ、いいさ。
  ともかくハロルドは新しい生き方を、まだ暫定的ではあるけれど彼は新しい関係性を試してみるようだ。
  ハッピーエンド?
  さあ。どうだろ。
  結局は自らの死を再び選択するかもしれないし、そうしないかもしれない。それは今後のオアシスの生活の中で決定されていく事だろう。
  彼は大木。
  だからどっちにしても今ここで暮らしている者達よりも遥かに長生きするだろう。そして今いる人達は先に逝くだろう。
  どちらにしてもハロルドは取り残される。
  結果として心が壊れる?
  それとも達観する?
  それは誰にも分からない。
  それは、まだまだ遠い先のお話。





  その頃。
  オアシス近郊の岩場。漆黒のセキュリティアーマーに身を包んだ部隊が展開していた。
  セキュリティヘルメットを装着した一団。
  レイダーかタロン社?
  そうではない。
  これは旧時代に繁栄した巨大企業が従えていた私兵の正式装備だ。どの男達の手にもアサルトライフルがあった。
  隊員の1人が金髪の、ヘルメットを被っていない黒いサングラスの男に報告する。
  「ウェスカー隊長、PIPBOY5000に反応がありました。PIPBOY3000の波長を捕捉、このタイプはボルト101の標準装備です」
  「つまり?」
  「つまり赤毛の冒険者が近くにいるのではないかと」
  「わざわざこんな下等なスーパーミュータントが徘徊する辺鄙な場所まで波長を追ってやって来たわけだが確かだろうな? 無駄足なら笑えんぞ」
  「100%とは言えませんがボルト101は閉鎖されたままです。PIPBOY3000は外の世界にはさほど出回っていませんので、恐らくは……」
  「ふむ」
  「ウェスカー隊長、ご指示を」
  「レッドレーサー工場の研究所を潰し、研究資料を盗んだ赤毛の冒険者ミスティ抹殺が我々の使命だ。進むぞ」
  「了解しましたっ!」


  ボルトテック社の特殊部隊、オアシスに急接近っ!