私は天使なんかじゃない








信仰と信者と預言者と神様






  神様を信仰する者達は、その対象に対して献身的に仕える。
  だけど神様はどう振舞うのか最善?

  神様と崇められる者が必ずしもその座を望むとは限らない。





  「アウトサイダー。ようやく着きましたか。どうぞもっと近くに。貴女に差し迫ってお話しする事があるのです」
  「えっと」
  何なんだこいつ?
  妙な枝の生えた服を着込んだ連中。
  まあ、この世界は末世。
  妙なカルト集団が横行するのも仕方がないか。
  こいつらもそうなのかな?
  少なくともメガトンやリベットで暮らせるようなタイプではないとは思う。
  おそらく長老格なのだろう、老人が私を急かす。
  「急いでください。彼は待たされるのがお嫌いなのです」
  「はっ?」
  「貴女に会えて嬉しいですよ。誰かが我々を訪問してから随分と時が経ちます。彼は貴女のような人が訪れるのを待っていたのです」
  「えっと」
  「すぐに彼の元に案内します」
  「……」
  これって強制イベントですか?
  拒否権はなし?
  ……。
  ……うー、そうかもしれない。てかないだろ、拒否権なんてーっ!
  拒否権発動したい今日この頃。
  というか動乱の街ピットから帰って早々にこの展開ですか?
  世界って容赦ないなぁ。
  「グリン・フィス」
  「はい」
  「今のところはクリス達とも合流出来ないしこの岩場の迷宮からも出られない。話だけでも聞きに行きましょ」
  「御意」



  老人に従って私達は門を通り抜けた。
  銃火器を手にした護衛の2人は門に残った。
  私達を帰さない為?
  うーん。
  その可能性もなくはないと思う。
  こいつらの正体も思想も思惑もまるで分からない以上、その可能性は否定は出来ない。
  だけど純粋に門番として残った可能性もある。
  何故?
  答えは簡単だ。
  ここは瓦礫や廃墟しかないキャピタル・ウェイストランドとはまるで別世界。
  ピットとも別物だ。
  そもそも世界の定義がまるで真逆。
  そう。
  門の向うは完全なる別天地だった。
  出入り口となる門の近くにも植物があったけど奥に行くに連れてその傾向は強くなっていく。今現在私達が足を踏み入れている場所は既に文明の力は届かない。ここは完全なる、自然の世界だった。
  リスや小鳥が自然を謳歌している。
  何なの、ここは?
  私は先頭を歩く、まるで何の説明もしない老人に質問する。
  「ここは何なの?」
  「すみません。つい興奮して先走ってしまいましたね。ははは。貴女に会えた事が嬉しくて、彼に早く会わせたくて礼儀を逸してしまいました」
  笑って誤魔化す老人。
  礼儀ねぇ。
  完全に無礼の範疇でしょ、これ。
  無礼……いや、強引?
  まあ、何でもいい。
  どっちにしてもあまり品の良い接し方ではないだろう。少なくとも初対面にする接し方ではないのは確かだ。
  老人は立ち止まらずに顔だけ私に向けて話をする。
  「申し遅れました。私はツリーファーザー・パーチと申します。彼の民ツリーマインダーのリーダーになる幸運を授かった者です」
  「ツリーマインダー?」
  「門を抜けると我らの地オアシスです」
  「ふぅん。それで彼って誰?」
  「貴女に会えてどんなに嬉しいか分からないでしょう。普段オアシス内でアウトサイダーに禁じられていますが、彼が貴女の来訪を許したのです」
  「……」
  無視っすか?
  完全に会話が一方通行なきがするのは私の気のせいでしょうか?
  見た感じ人里離れた生活者のようだし会話のスキルが低下しているのかもしれない。ここである種のコミュニティを築いているようだけどよそ者が来るのは少ないのだろう。
  もしくはよそ者は排除しているのかもしれない。
  排除の理由?
  まあ、その理由は至ってシンプルよね。
  この地は荒野とはまったくの別世界。このオアシスとかいう場所を護る為に門を作って出入りを制限し、そして銃を持った門番がいるのだ。
  それにしても。
  「物凄い仕掛けだなぁ」
  私は思わず呟く。
  ボルト101にいた際にこういう技術が開発されていたというのを聞いた事がある。
  科学の力で自然を作ったわけだ。
  だけど電源はどこだろ?
  聞いてみる。
  「素敵ね。植物とか木々とか。それで? 電源はどこ? あの動物も機械仕掛けか何かなんでしょう?」
  「はははっ! ……ああ。失礼。我々はそんな機器は使っていません。我々は科学技術を捨てた民なのです」
  「はっ?」
  「貴女の周りにある全てのものは、一番巨大な木から小さな草の葉まで、そこの悪戯なリス達も含めて全てがギフトです。彼からのギフトなのです」
  「また彼か」
  誰だそいつは?
  スーパーコンピューターか何かだろうか?
  自然がギフト?
  ありえない。
  つまりこいつらはコンピューターか何かを神様と崇めているのだろう、多分。
  「まるで神ね」
  「どういう意味ですか?」
  「ツリーファーザー・パーチ、あなたが言う『彼』の事よ。例の彼の存在がまるで神様みたいに聞こえたから言ってみただけ」
  「単なる神とは違うんですよ」
  「と言うと?」
  「彼こそがこの世界で唯一、育み、与え、そして導く者なのです。彼のお陰で我々は様々な恩恵を受ける事が出来るのです」
  「ふぅん」
  やっぱりこいつ会話のスキルが低下してる。
  まあ、いきなり撃ってこなかっただけマシかな。少なくとも会話が可能なレベルでの話術の低下で済んでる。人嫌いにまでは至っていない。
  サバイバル生活者にはよくある症状だ。
  質問の返答は正確な答えではないけど、それでも疑問はたくさんあるので質問してみるとしよう。
  グリン・フィスは寡黙を保っている。
  もちろん今に始まった事じゃないけど。
  「何故ツリーマインダーなの?」
  「我々はここを管理し、ここへ侵入しようとする者から護っているのです」
  「……」
  まただよ。
  また返答と答えが噛み合ってないよ。
  こういう会話って疲れるなぁ。
  「彼は我々に与えてくれる。だから我々も彼にお返しをする。それが20年にも渡ってここを動かしてきた仕組みなのです。我々は科学技術を遠ざけ、自然を抱擁する。それがツリーマインダーの
  生活です。お分かりですか?」
  「……」
  「何か疑問が?」
  「ハイテクを嫌う、だけど武器は持っているのね」
  門番の事を言う。
  銃火器だって機械だ。小さな事を突っつく様だけど気になった事を口にした。
  無礼?
  まあ、そうかもしれないけど、私はここの事を何も知らない。
  ある程度の情報は必要だ。
  それが例え全体から見たらわずかな情報の切れ端でしかなくても。
  老人は私の質問に怒らなかった。
  「悲しい事にウェイストランドは敵意に満ちている場所です。時に我々はその脅威に対して防御せざるを得ない。矛盾しているでしょうが我々はここを護る為に武器を持つ必要があるのです。
  もちろん無闇に行使するつもりはありません。信じていただけますか?」
  「ええ。その努力はするつもり」
  「よかった、貴女が話の分かる人で。彼は貴女に会いたがっている。これはとても異例な事です。預言者を通じて我々にそう告げたのです」
  「預言者」
  ますます宗教じみてきたな。
  そうこうしている間に広場に出た。そこにはたくさんの人々がいた。50……いや、100はいるかな。
  結構多い。
  老人立ち止まり、私の方に向き直った。私達も止まる。
  「この奥に彼はいます」
  「ふぅん。ともかくその人に会ってくればいいわけね?」
  相変わらず会う意味合いが不明だけど。
  だけど良い機会ではある。
  ……。
  ……いや。別に神様に会いたいわけではない。
  まあ、そもそも神様なんて信じてないけど。
  良い機会だと思うのはここには食料が豊富にありそうだからだ。外の世界と隔絶している節がある。
  つまり自給自足。
  私達が分けてもらう程度の余分はあるだろう、多分。
  現在私達の食料はわずか。
  ここでこの地に来れたのはある意味で幸運だろう。
  キャップが使えるかは不明だけど。
  「アウトサイダー」
  「何?」
  「会うには儀式が必要です。……ああ。心配はいりません。ある液体を飲めばいいだけです。害はないはずです。多分」
  「……」
  儀式って何?
  多分って何?
  害があるかどうかも分からん液体を飲めと?
  すいません断固拒絶したいんですけど。
  「アウトサイダー、今すぐに用意します」
  「……」
  飲まなきゃ駄目な展開ですか?
  うー。

  「お前達、儀式は駄目だとハロルドから言われているだろ」

  「こ、これは預言者様っ!」
  ん?
  奥から野太い声がした。
  そしてドスドスという足音をさせながらこちらに向かってくる。住民というか信者達は恭しく平伏した。
  預言者の姿を見て私は絶句する。
  人ではなかったからだ。
  そして理由がもう1つある。見知った顔だった。

  「おお。ミスティ。久し振りだな」
  「アンクル・レオ?」