私は天使なんかじゃない








気が付けばオアシス






  戦いには終わりがない。
  どんなに勝利してもその次の戦いが待っている。
  格で世界が吹っ飛んだ、それでもなお人は争い続けるという事実がある以上、人は滅亡まで戦い続けるのだろう。
  不毛?
  悪夢?
  それでも人は戦い続ける。
  利己的な願望もあるだろう、しかしより純粋に生存の為に、そして大切なものの為に戦い続ける。

  結果として滅亡に繋がるにしても。






  どくん。
  どくん。
  どくん。
  心臓の音がリアルに聞こえる気がする。周囲にスピードがスローになっていく。
  もちろん実際にはスローになっていない、あくまで私の脳が、そして視界がそう感じ取っているだけ。ただ私が倍速で動いているように周囲には見える
  らしいのである意味でこの能力は加速的な意味合いが強いのかもしれない。
  加速装置仕様ですか、私?
  009か私は(笑)。
  まあ、能力の詳細はどうでもいい。私はそこは気にしない……って事はないけど、敵を倒す能力なんだから問題ではない。
  この激動の時代、スキルは必要です。
  周囲がスローになる。
  食らえーっ!
  二挺ある44マグナムをそれぞれ連続発射。
  それは全てただの的になったスーパーミュータントの軍団を次々と撃ち抜く。もちろん全弾は発射していない、あいつ用の弾は残してある。
  私は叫ぶ。
  深紅色のスーパーミュータントに対して。
  「ジェネラルっ!」
  「赤毛っ!」
  いきなりバトルしてます、私達。
  何故に?
  別に戦闘吹っ掛けに来たわけではない……というかここがスーパーミュータントの勢力下だとは知らなかった。
  話は極めて簡単。
  激動の街ピットから私達はキャピタル・ウェイストランドに帰還、さあメガトンに帰ろうと思って岩場を歩いていたら突然スーパーミュータントの部隊に襲われた。
  数は大した事はなかった。
  恐らく哨戒部隊なのだろう、それは既に粉砕した。
  何しろこっちにはグリン・フィスはいるしクリスチームもいるし仲間は多い。あっさりと撃退した。
  ただ叩き潰す直前に無線連絡でもスーパーミュータントはしたのか、それとも銃声を聞いて近くのスーパーミュータントが来たのかは知らないけど敵の部隊
  が次から次へと引き寄せられてきた。
  そして気付く。
  ここがスーパーミュータントの勢力下の土地だという事に。
  ドンパチしている間に連中の親玉的な存在らしいスーパーミュータント・ジェネラルが大部隊を率いて登場。
  何度目の対決だっけ?
  少なくとも二回は殺してる。
  ピット帰り後すぐにも殺しました。
  だけどまた登場した。
  何なんだろ、ジェネラルって。
  ジェネラルとはただの称号で個体数がたくさんいるのか、それとも生き返っているのか?
  まあ、よく分からん。
  だけど言える事がある。
  相手がなんであろうと逃がすつもりはないという事だ。
  ジェネラルは武器を構える。
  だけどそれよりは早く私は照準を定めた。

  ガタガタガタ。

  まただ。
  体が意味不明なほどに震える。
  集中が保てない。
  前もそうだったけどジェネラル相手の時には私の特殊能力は発動しない。能力が強制解除されるっ!
  「隙だらけだぞ、赤毛っ!」
  「くっ!」
  わずかな隙が命取りとなる。
  ジェネラルの方が早いっ!
  他の仲間達はジェネラルの親衛隊とも言うべきスーパーミュータント・マスター達と交戦しているし小隊長級のプルート達もいる、兵士のスーパーミュータント
  も多いので私の援護に向かう余裕はない。何とか自分で回避しないとっ!
  その時。
  「主っ!」
  炎を纏ったシシケハブで敵を一撃で次々と屠りながらグリン・フィスがジェネラルに対して迫る。
  軍勢は盾にすらならない。
  接近戦においてグリン・フィスに勝てる者など存在しない。
  マスターだろうとプルートだろうと敵ではない。
  ジェネラルはグリン・フィスを視界の端で捕捉した。そして戸惑う。どちらを先に片付けるかを迷っているのだ。
  その隙で充分っ!
  「ジェネラルっ!」
  私は引き金を引く。
  深紅の将軍に対して残して置いた2発の44マグナムの弾丸を叩き込む。ジェネラルは胸元から血飛沫を撒き散らしながらよろめいた。
  倒した?
  「おのれぇっ!」
  踏み止まったかっ!
  なかなかにしぶとい。私はピットで手に入れたインフィルトレイターを装備、照準を合わせた。特殊能力さえ使わなければ頭痛も集中力の途切れもない。
  「赤毛ぇーっ!」
  再びジェネラルは銃を構える。
  私は動じない。
  何故なら。
  「はあっ!」
  「な、なんだとぉっ!」
  グリン・フィスがジェネラルの右手を切り落した。切り落した先から炎上する。奴の敗因はグリン・フィスの接近を許した事だ。
  私は静かに宣言する。
  「ジェルラル、同じ相手に三度殺される気分はどう?」
  「くそぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」
  インフィルとレイターの引き金を引く。
  そして……。



  「はあ」
  「主、大丈夫ですか?」
  「ええ。まあね」
  疲れたけどさ。
  私とグリン・フィスは2人で岩場を歩く。途中で足を踏み外して高所から落ちた。怪我しなかったのは幸運だけど、ここがどこだか分からない。
  岩。
  岩。
  岩。
  さながら岩のジャングルに迷い込んだようだ。
  腕に装着しているPIPBOY3000で現在位置は把握できるけど入り組んだ岩場のお陰で途中で道は遮られて岩場の迷路から出る事が出来ない。
  どこだここ?
  「スーパーミュータントがいないのは楽だけどさ。疲れない?」
  「いえ、それほどでは」
  「ガソリンタンク背負ってるのに?」
  「足腰は鍛えてある方なので」
  「ふぅん」
  あの後。
  あの後、ジェネラルを撃破したにも拘らずスーパーミュータントの軍勢は撤退しなかった。今まではボスを失うと逃げていたけど今回は軍勢は退かなかった。
  それで戦闘続行。
  幸いにもピットで得た弾丸は豊富にあったので銃撃戦にはさほど困らなかった。
  だけど数は向こうの方が上。
  次第に分断され、そして現在に至る。
  他の仲間達は無事かな。
  ……。
  ……まー、大丈夫かなー。
  グリン・フィスの武装が妙にバージョンアップしているようにクリスチームも強化されている。特にクリスの部下のカロンはヌカグレネード持ってるし。
  核武装してます、あのグールの准尉。
  最終的にはヌカ・ランチャー装備してGP02サイサリス化しそうだな。
  ハークネスはプラズマ装備してるし、スーパーミュータント程度は鎧袖一触的な感じだと思う。相変わらずミニガンも装備してるし。
  何よりアカハナたちがいる。
  人数的には向こうの方が有利だ、私たちよりも。
  戦闘においての心配はない。
  問題は合流が効率的に出来るかだ。
  特に食糧問題。
  飲料水とともに私達はわずかしか携帯していない。そしてグリン・フィスは男、過酷な状況が続けば理性が吹っ飛んで……18禁に展開になったらどーしよーっ!
  それは困るぞーっ!
  おおぅ。
  「あーあ」
  北部はスーパーミュータントの王国とか言ってたけど、これ、完全に北部に引き込まれてるな。
  倒しても倒してもキリがない。
  ジェネラルもしつこいし。
  一番最初に会った時はスーパーミュータント軍最高司令官っ!的な威厳があったけど最近では完全に雑魚です、あれ多分量産型だろ。となると本物のボスがいるのか?
  嫌だなぁ。
  結局ピットでの戦いで、ピットの平穏は勝ち取ったけど、あの騒動に参加していた敵組織はいまだ健在。
  奴隷商人どもも、タロン社も、デリンジャーもいる。
  その上スーパーミュータントの真のボスとかいるのか、そもそもスーパーミュータントって何なんだろ。
  どこから来てるのか。
  誰が量産してるのか。
  謎だらけだ。
  「しかし主、あいつらは何なのでしょう?」
  「何が?」
  「何故、あんなところにいたのかということです」
  「それは私も気になってる」
  北部が奴らの王国、それは別にいい。
  問題は最初にジェネラルが喧嘩を吹っかけてきたのはピットに通じるトンネル付近、奴隷市場付近ということだ。あそこは北部じゃない。
  その後は蹴散らしても蹴散らしても出てくる。
  気が付けば奴らの王国のど真ん中だ。
  私たちの出迎え?
  いや、あの感じはそうじゃないな、何かを探していたのか?
  でも何を?
  「ん?」
  合流すべく歩いていた私は突然景色が変わったのに面を食らった。
  立ち止まる。
  「どうしました、主」
  「……」
  「主?」
  「これは、植物よね?」
  「それが?」
  「変でしょ、普通に」
  「何故です?」
  グリン・フィスに私の感じる困惑は分からないのかもしれない。別の土地から来た異邦人らしいし。
  前方には木々が生い茂っている。
  植物がある。
  自然がある。
  だけど不自然だろ、これっ!
  放射能で吹っ飛んだ世界に、今だ放射能の影響で荒廃している世界にこんなユートピア的な植物の園はありえない。
  「主、何か来ます」
  「ええ。見える」
  誰かが近付いてくる。
  妙な服を纏ってる、枝を服に無数に付けてる。どんなセンスだ、世紀末ファッション?
  人間みたい。
  3人近付いてくる。1人は老人、その老人を守るかのように残りの2人は銃器を手にしていた。ただし大した武装ではない、ハンティングライフルだ。この距離
  では充分な威力は発揮出来ないだろう、あくまで中距離から遠距離用の武器。今の間合なら私達の方が強い。
  ただ相手からは敵意は感じられない。
  3人は止まった。
  老人は深々と私達に一礼した。
  「お待ちしていました、アウトサイダー」
  「はっ?」