私は天使なんかじゃない








ユニオンテンプルの騎士団






  全面核戦争。
  それは文明や国家だけではなく人々の心すらも砕いた。
  悪が蔓延する世界。

  だけど。
  だけどそれでも人の善意は消えない。善意は未だ欠片となって存在している。誰の心にも残っている。
  それらは目覚める日を待っているのだ。

  世界はそして蘇る。





  
  奴隷商人の陣地を殲滅。
  集積されていた弾薬が吹っ飛んだ事により陣地は一気に半壊。その後私達がさらに追い討ちをかけて全滅させた。
  敵は全員死亡。
  さあ、帰ろう……と思った矢先、妙な建物を発見、そのまま強制イベントに移行。
  その建物はユニオンテンプル。
  奴隷の保護を目的とする者達の集団の街だ。




  「ああ。君が奴隷商人から同胞を救ってくれたお嬢さんか。ユニオンテンプルにようこそっ! 私はハンニバルだ、よろしくなっ!」
  「ミスティよ」
  黒人のヒゲモジャ親父。
  別に紹介して欲しくなかったけどシモーネに連れられて面会。当のシモーネは私達の後ろに立ってる。状況次第では殺すって事かな?
  面倒な流れだなぁ。
  「我々は全員、元奴隷だ。パラダイス・フォールズの奴隷商人達には我々の事を黙っておいて欲しい」
  「心配ないわ。告げ口できないほど私は連中に嫌われてるから」
  「そうなのか?」
  「ええ」
  嫌われてますとも嫌われてますとも。
  ボスの息子のカイル殺したし。
  最近では奴隷商人も次々と殺っちゃってますからね。今さら『仲良くしましょ☆』と言ったところが無意味っす。奴隷商人側は向うは絶対に折れない
  でしょうしね。私を殺す事でしか納得しない状況まで来ている。
  和解なんてありえない。
  ……。
  ……まあ、私も仲良くするつもりはないけど。
  潰し合うまでです。
  さて。
  「君達は同胞を助けてくれた、つまりは同志だ。ここを我が家だと思ってくれっ!」
  「ありがとう」
  同胞が誰かは知らないけどこの間助けた奴隷の誰かだろう。
  どうやらここに辿り着けたらしい。
  「ハンニバル、気になったんだけど全員元奴隷?」
  「そうだ」
  「あなたも奴隷だったのよね?」
  「ああ。23年間奴隷だった。14歳の時からだ」
  「23年」
  気の長くなるほど長い月日だ。
  そしてその月日を強いたパラダイス・フォールズの奴隷商人達。いつか決着つけないとね。
  ハンニバルは続ける。
  「私は5年前、所有者の所からどうにか逃げ延びた。奴は以来私をずっと追っている。私は逃げた。ここまでな。そしてあれを見つけたんだ」
  石で出来た巨大な人の顔がある。
  誰だろ。
  「何あれ?」
  「リンカーン大統領の頭部だ。私はあれを見つけた時、神の啓示だと思った。奴隷達の解放を手助けせよ、そう告げられた感じがした」
  「なるほど」
  「私はユニオンテンプルを設立して、この場所を各地で逃亡中の奴隷達の避難場所にしたんだ」
  「避難場所?」
  「そうだ。我々を頼る者達には誰にでも食料や生活品を供給して逃亡の手助けをする」
  「待って」
  「何かな?」
  「つまりここには住まわせないって事?」
  「そうだ。今いる者達も……防衛の為の騎士団以外はいずれは旅立つ者達だ。ここは仮の住まいなんだよ、彼らのね」
  「どうしてここに街を作らないの? あなた達の街を」
  「ここには充分なスペースがないんだよ。水と食料も足りない。恒久的にあれだけの人数を住まわせる力はないんだ」
  「ふぅん」
  なるほどなぁ。
  屋内にバラモンを飼育しているけど……野菜の類は栽培していない。というかそもそも全員この建物に立て籠もっている状況だ。てか閉じ込め
  られてると言うべきかな。奴隷商人がこの辺りに出没するから常に籠城しているのかな?
  だけどバラモンねぇ。
  衛生的にも屋内はまずいだろ。
  臭いとか。
  「最近さらに元奴隷が増えてね」
  「どうして?」
  「パラダイス・フォールズで集団脱走があったんだ」
  「へー」
  「だから奴隷商人達がこの近辺に張ってるんだ。君達が連中を倒してくれたから安心だけどね。……ここに辿り付けずに死んだ者達に神の慈悲を」
  「……」
  そうか。
  だから奴隷商人の陣地に死体がたくさんあったんだ。
  見せしめとして全て殺したのだろう。
  何て奴らだ。
  「我々の未来はさほど明るくはないだろう。しかしプランがあるんだ」
  「ハンニバルっ!」
  シモーネとかいう女が口を挟む。
  意味は分かる。
  素性不明の面々にそこまで言うべきではないと思っているのだろう。そしてそれは至極当然だ。
  私は苦笑しながら言う。
  「そこまで私達を信頼していいんですか?」
  「人を見る目はあるつもりだよ、お嬢さん」
  どう答えるべきだろう?
  いずれにしても聞きたくはない流れですね。だって聞くとそのままプランとやらに組み込まれそうで。だけど聞かないと悪いのも確か。
  流れは大切です。
  聞くかなぁ。
  「それで計画とは?」
  「全ての奴隷達にとって希望の場所に街を作る計画だ」
  「全ての……?」
  意味が分からない。
  希望の場所ってどこだろう?
  「DCの廃墟には偉大なるアブラハム・リンカーンの記念館がある。そこに仲間を避難させたいんだ」
  「はっ?」
  何言ってるんだ、こいつ?
  確かに。
  確かに奴隷商人はそこまでは追ってこないだろう。
  だけどあそこはスーパーミュータントの巣窟だ。別の意味で物凄く物騒な気がするんだけど。
  「頭、大丈夫?」
  「……」
  ストレートに言い過ぎたらしい。
  ハンニバルは黙る。
  おっほん。
  わざとらしく咳払いしてから私は話を続ける。
  「DCはスーパーミュータントの巣窟。それぐらいは知ってるでしょ?」
  「常識だ」
  「ならそんな物騒な場所に引っ越すリスクは何?」
  「実はDCで動きがあったんだ」
  「動き?」
  「この間ここを立ち寄ったスカベンジャーに聞いたんだがスーパーミュータントの大半が姿を消したそうだ」
  「姿を消した?」
  「ああ。ここ最近な」
  「ふぅん」
  何気ない素振りの私だけど何となく分かる気がする。

  GNRでの戦い。
  ステーツマンホテル近郊での戦い。
  私自身は関ってないけどタロン社との議事堂での戦争。

  色々な戦いでスーパーミュータントは確実にその個体数を減らしている。
  特にベヒモス2体の敗北は痛いだろうよ。
  ジェネラルも死んだし。
  ……。
  ……いや、まあ、ジェネラルっぽい奴はビッグタウンの戦いにも登場したけどね。あいつ不死身か?
  ともかく。
  スーパーミュータントはDCの廃墟でかなりの痛手を受けた。
  数が減るのも頷ける。
  それに連中には生殖能力はない。
  人間を改造してスーパーミュータントにしているのだから勝手には繁殖しない。当分はDCは静かななのかな。あくまで当分だけど。状況次第では
  今後DCはまた物騒になるかもしれないけど、そこはハンニバルの問題であって私が口を出すべき事ではない。
  だけどスーパーミュータントってどこで増えてんだろ。
  謎だ。
  「君は奴隷商人を蹴散らした。その腕は賞賛に値する」
  「ありがとう」
  私達の腕を誉めるハンニバル。
  嫌な予感がするなぁ。
  「数倍の差の奴隷商人を倒すなんて並大抵ではない。それは本当に……」
  「回りくどい」
  「な、何?」
  「用件を言って。問題なければメガトンに帰りたいんだから」
  私に美麗な飾り文句は必要ない。
  ストレートに行こう。
  「護衛して欲しいのよね?」
  「そ、そうだ」
  「リンカーン記念館まで連れて行くわけ?」
  「出来れば頼みたい」
  「んー」
  「私は戦える、シモーネも戦える、しかし戦えるものはここにはそう何人もいないのだ。確かに拠点から応戦する程度は出来る」
  「現地で戦うのは無理?」
  「そうなる」
  銃は誰でも撃てる。撃ち返せる。しかし舞台が戦場となるとまるで意味が異なる。
  ここにいる元奴隷の中にはサバイバルが得意な者がいないのだ。
  「どうだろう、君さえ良ければ手伝ってくれないか?」
  「んー」
  「もちろん報酬は払う。……どうだろう? 200キャップでは?」
  「はっ?」
  安っ!
  「250、いや、285っ!」
  「……」
  300キャップと言わないところがミソですね。
  別にケチってるわけではあるまい。
  資金がないのだ。
  おそらくは移住用の準備に資金をほぼ全て費やしてしまったのだろう。
  弾丸。
  銃器。
  食料。
  飲料。
  そしてその他諸々の生活用品。
  ジリ貧なのは確かだ。
  「はぁ」
  溜息。
  こうも『貧しいんですっ! 沢山お礼出来なくてごめんなさいっ!』という感じで来られると私は弱い。断れないじゃない。
  別に狙ってこういう交渉をしてるわけではあるまい。
  少なくとも彼はそういうタイプではない。
  やれやれ。
  「いいわ。受ける」
  「本当かっ!」
  「ただし手間賃として確実に285キャップは貰うわよ。私は要らないけど金銭が介在してないと怒る人もいるから」
  クリスの事だ。
  ただ彼女は別にお金が欲しいわけではなく私のボランティア精神が気に食わないだけだ。
  「感謝する」
  「いいわ。お金貰う以上は仕事だし。で? 出発は?」
  「明日には出立する」
  「おー。早いのね。楽で良いわ。ここで延々待機は面倒だし」
  「ははは。君達のお陰さ」
  「私達の?」
  「奴隷商人達を倒してくれた。お陰で身軽になった。明日、出発する。よろしく頼む」
  「了解」



  「分かった分かった。クリスチーム、ミスティに付き合ってやるとする。出立は明日明朝、それまで自由時間だ。以上っ!」
  『御意のままに』
  何とか納得してくれた模様。
  やれやれ。
  クリスとその仲間達はある意味で扱い辛い。結構私とクリスとでは価値観に差があり過ぎる。
  まあ、別の人間ですし。
  ともかくその価値観によっては共闘しない場合もありえるだろう。
  クリスチームの不参加は戦力的に痛い。
  今回は納得してくれたから良かった。
  「ふぅ」
  ズリズリズリ。
  石壁に背を預けながら私はその場に腰を下ろす。クリス達はどっか行った。建物内にはいるだろうけどさ。
  私の側にはグリン・フィスが待立している。
  「ふぅ」
  あー。疲れた。
  メガトンからここまで、さほどの日数は経ってないけど戦闘戦闘戦闘の連続なのでかなり疲れた。
  家に帰ってお風呂にゆっくり浸かりたいなぁ。
  「主」
  「ん?」
  「あの女が来ます」
  「あの女……ああ」
  入り口で会った女だ。
  シモーネだっけ?
  「あんた、ハンニバルの依頼を受けたそうね」
  「ええ」
  「改めて自己紹介するわ。シモーネ・キャメロンよ。舐めた真似はしないでね。ハンニバルはあんたを買ってる、だから後ろから撃つ事はしない
  けど信用出来ないからあんた用の弾だけは準備しておくわ」
  「そりゃどうも」
  なかなかのご挨拶だ事で。
  まあ、立場的に雇い主になったわけだから文句は言えない。一応、私らはお金貰う側だからね。
  シモーネ、私の近くに立つ。
  別に私に懐いているわけではない。
  窓の外をここから監視しているってわけだ。どうやらここが彼女の担当の場所らしい。
  邪魔だなぁ。
  「主」
  「何?」
  「主。リンカーンとは誰ですか?」
  「奴隷解放の父。奴隷解放の為に命を懸けたの。何百年も前の人物だけどね」
  「つまりハンニバルはそれを模そうという事ですか?」
  「まあ、奴隷解放の祖と同じ事をすれば、噂は広まる。奴隷達に希望を与えたいんでしょうね」
  「なるほど。理解しました」
  歴史の勉強終了。
  文明の灯が消えて久しいから歴史の知識がないのは恥ではない。……まあ、グリン・フィスの場合は異国の者だから知らないって事もあるだろうけどさ。
  シロディールがどこか未だに不明。

  バリバリバリ。

  突然、シモーネは外に向って発砲した。
  びっくりしたーっ!
  「何なのよ、いきなりっ!」
  「奴隷商人の残党がそこにいたんだよ」
  「残党?」
  「ああ。陣地をあんたらに吹っ飛ばされた奴だろうね。食べ物も何もないから助けて欲しいってさ。まったく笑わせてくれるねっ!」
  「撃ったの?」
  「私は以前、傭兵仲間と一緒に奴隷商人に捕獲されたのよ」
  「そう」
  ならば憎しみは当然か。
  それに。
  それに窮したから援助を求められたところで『はあ? 本気で言ってるの?』という感情は至極まともだろう。
  私でも殺すかな、そういう奴は。
  「七ヶ月間、飼い犬のように言いなりになって服従してきたわ。でもチャンスを見つけて逃げた。他に行く先もなかったところをハンニバルが匿って
  くれたのよ。過去の事は一切聞かれなかったわ。奴隷商人は人間じゃないわ、だから殺すのよ。。問題は?」
  「ない」
  論じるつもりはない。
  例え彼女と論じたところで何も得るものがない。お互いにね。
  価値観はそれぞれ異なる。
  他人が干渉すべきではない。
  「グリン・フィス」
  「はい」
  「彼女の邪魔をしちゃ悪いわ。奥で、寝れる場所を探しましょう。明日は頼むわね、グリン・フィス」
  「御意」



  明日、久々のDCに向かうとしよう。だけどそれは明日の話。
  色々と疲れたから休むとしよう。
  今は眠りたい。
  今は……。