私は天使なんかじゃない








人間狩り





  奴隷。
  所有者の財産として取り扱われ売買された労働者。
  または自由を奪われ行動を縛られた人物。






  ボルト92。
  ボルト108。
  カンタベリー・コモンズ。
  3つの舞台で私達は大冒険をしました。……しかし確か目的はパパのパソコンのパーツ探しだったような……?
  まあ、ともかく旅は終わった。
  そろそろ帰るとしよう。
  メガトンに。




  風になる。
  バイクはとても心地良い。頬を撫でる風が心地良い。
  「ひゃっはぁー☆」
  ……。
  ……いえ。レイダーにあらず。
  アクセル全開っ!
  私の乗るバイクは爆音を立てて疾走する。その少し後ろを仲間達が乗ったジープが着いてくる。ただしスピードは私のバイクの方が上、だから
  次第に間隔は離れていく。
  置いてくぞー☆
  「ふふふ」
  気持ち良いなぁ。
  午後の太陽は燦々としていて気持ち良いし。
  少し前まではボルト101暮らしだった私にしてみれば、バイクに乗って爆走するなんて考えもしなかった。
  穴蔵で人生が終わるものだと思ってた。
  なのに今は?
  人生、意外性に満ちている。
  この先何が起きるかなんて誰にも分かるものではない。
  最近よくそう思う。
  「んんー☆」
  カンタベリー・コモンズを北上。
  大きく迂回してメガトンに戻るつもり。
  何故?
  だって今の時代は整備されたハイウェイがある時代ではない。道路が残っている方が稀なのだ。最短コースで戻るのも良いけどデコボコな
  道の可能性もある。徒歩ならそれはそれで、まあ、問題はないけど車両に搭乗している私達にしてみればあまり好ましくない。
  遠回りになっても来た道を通った方が良い。
  その方が確実だ。
  だから。
  だから私達は北上する。ある程度北上したら西に、そしてアガサの家あたりから緩やかに南西に進めばメガトンに帰れるって寸法だ。
  迷う心配はない。
  PIPBOY3000があるから迷う心配はない。
  ナビにも使えます。
  一家に一台、是非ともボルトテック社までお買い求めください……って、何のコマーシャルだ?
  さて。
  「ん?」
  何かを通り過ぎる。
  視界の端に何かを捉えた。……人だったような……?
  キキキキキキキ。
  急ブレーキ。
  止まる。
  別に行き倒れ何て珍しくないけど視界に入った以上、ちょっと気になる。振り返った。

  
ドゴォォォォォォォォォォォォォォォォォォンっ!

  「うきゃっ!」
  急に停車したから追突されました。
  急停車はやめましょう。
  私はそのまま衝撃で前に大きく弧を描いて飛ばされる。
  ……世界は暗転して行く……。




  「はっ!」
  目を覚ます。
  視線の先には空がある。夕焼けだ。いつの間にか夕方になってる。
  「……んー……」
  状況を確認する。
  確か後ろからジープに追突されたような気がする。
  「一兵卒、気付いたか」
  「ちょっとっ!」
  食って掛かる。
  不満?
  不満ですともーっ!
  運転してたのはクリスじゃなくてハークネスだけど苦情はクリスチームのリーダーのクリスにさせて貰いますともっ!
  まあ、正確にはハークネスに文句言っても意味ないし。
  今回は関係ないけどカロにも無駄。
  何故?
  だって何か文句を言ったとしても『I'll be back』『クリスティーナ様に聞け』しか言わないでしょうしね、あの2人は。
  「あいたたた」
  腰を打ったらしい。
  摩りながら立ち上がる。
  うん。
  動ける。
  結構盛大に吹っ飛んだような気はしたけど……特に問題はないらしい。
  腕、足と自分の体を調べるものの骨も折れてない。
  よかった。
  さすがにあの死に方だと死に切れない。というかあれが物語の巻く引きなのはどうよ?
  事故死の後にエンドロールも嫌だなぁ(泣)。
  さて。
  「ところでクリス。聞きたい事があるんだけど……」
  「分かってる」
  「分かってる?」
  「まったく必要はなかったがディープキスと胸モミモミ……じゃなかった、人工呼吸と心臓マッサージをしておいたぞ。ハハハ☆」
  「……すいません既にその発言はセクハラですよね?」
  「うむっ! 行動に移したから既に性犯罪だなっ!」
  「……」
  侮れんなぁー。
  まあ、実際そんな事があればグリン・フィスがクリスを殺す……じゃない、止めるだろうから冗談なのだろう。
  冗談じゃなかったら?
  ……。
  ……それは考えないようにしよう。色々と精神的に嫌ですので。
  てか本気でそんな事したら私が殺すわよっ!
  うがああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああセクハラは犯罪です捕まりますっ!
  「はあ」
  溜息。
  相変わらず疲れる奴だ。
  「主。お眼が覚めましたか」
  「ええ」
  「大丈夫ですか?」
  「ええ。問題ないわ」
  「胸は大丈夫ですか?」
  「胸?」
  「はい」
  「大丈夫だけど……」
  「よかった。皆で交替で揉んだので痛みとして残っているかと心配しました」
  「……」
  「ユーモアです」
  「……グリン・フィス、今度同じ発言したら殺すわよ」
  「御意」
  疲れる。こいつも疲れる。
  露骨に溜息を吐いて私は遠くを見る。キャピタル・ウェイストランドって悪意の世界ですなぁ。
  遠くを見る際にバイクが目に入る。
  よかった。
  それほど壊れてない。
  メガトンに帰ったら修理は必要だろうけど運転には問題はなさそうだ。修理も見映えの観点から必要なだけで走る分には問題なさそう。
  「主」
  「グリン・フィス、何?」
  「死体を確認しますか?」
  「死体?」
  「御意」
  指差すグリン・フィス。
  そこには確かに死体があった。
  粗末な衣服の男性だ。
  近寄ってみる。
  「ふーん」
  「背後から撃たれている。3発撃ち込まれている」
  「そうみたいね」
  クリスの補足説明に頷く。
  3発背中に直撃している。死体を触ってみる。微かに温かい。この体温なら死後一時間ぐらいかな。
  この世界は安全ではない。
  だから。
  だから死体が転がっててもおかしくない。
  レイダーかな?
  そうかもしれない。少なくとも銃を使える奴が殺したらしい。
  誰だろう?
  まあ考えても分からんけどさ。
  「埋めたら行こうか」
  「御意」
  見たからには埋葬してあげんと。
  「あれ?」
  その時、この死体の側に食料が転がっているのに気付いた。一日分ぐらいの食料かな。お酒もある。
  どういう事だろう?
  レイダーなら……いや、レイダーじゃないにしても、誰かを殺すのは持ち物を奪う為だ。なのにこの死体は食料を奪われていない。
  何となくで殺したのだろうか。
  ありえないと思う。
  だってただ殺すだけなら弾の無駄だ。
  ……。
  ……まあ、世の中変な奴は多い。快楽や気まぐれで殺す奴がいてもおかしくはないけどさ。
  ジェットとかキメながら殺しをする。
  そんな変質的な奴もいるだろう。
  まだこの近くにいるなら始末しなきゃね。私達の旅の安全の妨げにもなるし。
  「一兵卒、どうする? 討伐するか?」
  クリスも気付いたらしい。
  殺したのがレイダーではないという事に。
  もちろん相手が誰だろうと問題はない。処方箋はいつだって1つだ。
  「クリス、始末しましょ」
  「心得た」



  「あれか」
  すぐに相手は見つかった。
  ただ、まあ、数が多過ぎるんですけどね。
  「20はいるな」
  「30はいるんじゃない?」
  クリスの推測を訂正する。
  来た時にはなかった。
  丁度帰路に位置する場所だ。つまり掃討は流れ的に……ふむ、これは強制イベントってわけだ。
  小高い丘の上かに観察。
  陣地の連中は気付いていない。
  「主。いかがしますか?」
  「待機」
  「御意」
  軍用テントが立ち並んでいる。テントの数は五つ。
  傭兵の服を着た連中がそこで憩いの時間を過ごしていた。手にはそれぞれ銃火器。
  レイダーではなさそうだ。
  レイダーにしては小奇麗な服装。多少なりともお上品だ。
  タロン社でもなさそうだし。
  「奴隷商人だな、一兵卒」
  「やっぱり?」
  「おそらくはな。パラダイス・フォールズの奴隷商人と見るのが妥当だろう」
  「ふぅん」
  こんなところでキャンプ張って何してるんだろ?
  まさか私の首目当て?
  ありえる。
  だって私はボスの息子のカイルを殺したし。
  ……。
  ……あー、だけどこの間も奴隷商人に会ったな、逃げた奴隷を追ってた。
  逃亡奴隷の捕縛かも。
  それはそれでありえると思う。
  そもそも連中は私の顔を記憶しているのだろうかも疑問だ。だってこの間の幹部は私の顔を知らなかった。
  まあいいさ。
  殲滅するだけ。それだけ。
  処置の方法は手っ取り早く、そしてシンプルに。
  さて。
  「潰すとしようか」
  「しかし一兵卒、奴隷商人でなかったらどうする。万が一という事もある」
  「大丈夫」
  「……? その自信は何だ?」
  「あいつら悪人っぽいもん」
  「……」
  もちろんそれを理由とはしていない。
  テントに囲まれた陣地内に積まれている人々が目に入ったからだ。PIPBOY3000で確認する。視認出来るこの程度の距離なら熱感知で人数が分かる。
  だけど人間の山は熱は発していない。
  死んでる。
  組体操しているわけではなさそうだし……こいつらに殺されたと見ていいだろう。
  何の死体かは知らない。
  ただし分かるのは等しく同じ粗末な服。
  私の察するところでは逃亡奴隷だろう。制裁の為か、それともあくまで抵抗し続けたから殺したのかは知らないけど……少なくともまっとうな連中では
  なさそうだ。私は静かにクリスに頷くと彼女も頷き返した。
  「カロン准尉、ハークネス曹長。配置」
  『御意のままに』
  ミニガンを持ってハークネスはこの場に待機。ここからミニガンを撃ち込むって寸法だ。
  カロンは静かに丘を下りる。コンバットショットガンは遠距離には適していない。
  私は再度PIPBOY3000で熱感知。
  ……。
  ……全部で28名あそこにいる。外にいるのが、えーっと……23名。中にいるのは何名だ?
  奴隷が中にいた場合が面倒だ。
  奴隷まで敵としてカウントするのは可哀想だし。
  何とか全員を外に出さないと。
  「仕方ない」
  バリバリバリ。
  私はアサルトライフルを撃つ。空に向って。
  身は伏せたままだ。
  相手からは見えてないはずだ。敵さんを撃とうとも思ったけど、それをすれば位置で大まかな場所が分かってしまう。だから空を撃った。

  「なんだなんだっ!」
  「襲撃かっ!」
  「防御体勢、防御体勢っ!」
  「ユニオンテンプルの連中かもしれん、防御しろっ!」
  「総員配置に付けっ!」


  騒ぐ面々。
  テントから出てきた5名。これで総勢で28名。奴隷はその場で射殺して中には誰もいないらしい。
  どんなに微弱でもPIPBOY3000は熱を感知する。
  確実に中には誰もいない。
  よし。
  「攻撃開始っ!」
  グレネード弾をテントの1つに撃つ。

  
ドカァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァンっ!
  

  大爆発っ!
  どうやらたまたま弾薬が集積されていたテントを吹っ飛ばしたらしい。
  これも日頃の行いが良いからだろう。
  ほほほ☆
  予期せぬ爆発で奴隷商人達は吹っ飛ぶ。一気に数を減らせたわね。
  「撃て撃て撃てっ!」
  『御意のままに』
  クリスチーム、攻撃開始。
  ハークネスのミニガンが圧倒的な銃弾を吐き出す。奴隷商人達は反撃空しくバタバタと倒れる。
  「俺は機械だっ!」
  はいはい。
  旧時代の映画の見過ぎな気がするけど……まあいいか。強ければ何でもいい。静かに忍び寄ったカロンが近距離からショットガンを連打。
  戦いは勢いだ。
  銃の数も必要だけど虚を衝けば何とかなる。
  ズザザザザザ。
  小高い丘を滑り降りる。
  もちろんアサルトライフルを撃ちながらね。グレネード弾も発射、一気に敵の数は半数に減った。
  クリスもスナイパーライフルで敵の眉間を撃ち抜く。
  このメンツに勝てる連中はいる?
  バッ。
  小高い丘からグリン・フィスが大ジャンプをして着地。
  そのままゆっくりと歩を進める。
  「ふむ」
  私は理解した。
  激戦の戦場の中からスレッドハンマーを手にした2人の男がゆっくりと向ってくる。2人ともメタルアーマーを着込んでいる。
  1人は髭面のおっさん。
  1人は若造。
  奴隷商人の階級は分からないけどメタルアーマーを着込むというのは幹部という印かな?
  あの鎧は高価なものだし。
  あいつらは任せるとしよう。というかほとんど制圧完了だ。
  最初の一撃が効いたみたい。
  残るのはあの2人のみ。
  「主。お任せください。最近出番がないので。このままでは脇役になります。あくまで準主役でいたいのです。この戦闘任せていただけませんか?」
  「意味は分からんけど……任せるわ」
  「感謝します」
  チャッ。
  セラミック刀を抜く。しかし相手は動じない。少なくとも髭面はね。奴は口を開く。

  「ハハハ。やあ、ユミルだ。この部隊の指揮官をしている。そこの良い男が俺の息子で、副官のジョダンだ」
  「自分はグリン・フィス」
  「そうか。まあ、お前らが誰かは知らんが……なかなかやってくれたな。しかし使えるようだ、ユーロジーに推薦しよう。仲間にならないか?」
  「主が承諾すれば」
  「そうか。どいつが主だ?」
  「私よ」
  名乗り出る。ユミルは豪快に笑うだけ。
  なるほど。
  こいつらは『ミスティを殺せ』は指令されているものの、当の私の顔は知らないらしい。意味ないじゃん、それ。
  「どうだ? お仲間共々仲間にならないか?」
  「そいつは無理ね。だって私はミスティだもん」
  「……何だと? お前はカイルを殺った奴かっ!」
  「そうなるわね」
  「殺すっ!」
  ユミル、ジョダンは同時にスレッジハンマーを持って動く。
  グリン・フィス、刃を手に踏み込む。

  キィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィンっ!
  キィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィンっ!
  キィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィンっ!

  相手の攻撃を避けつつ攻撃を繰り出すグリン・フィス。スレッジハンマーは彼にかすりもしない。腕の差は歴然だ。あんなでっかい武器を振り回せる
  あの親子の腕力は凄いとは思うけど、腕力オンリーね。グリン・フィスのフットワークと動体視力の良さには及ばない。
  ただグリン・フィスには問題もある。
  刃で鎧は斬れない。
  それが現実だ。
  攻撃は当たっているものの刃は鎧を貫通出来ない。
  「ジョダン、俺を援護しろっ! 足止めしろっ! その間に俺が奴をミンチにするっ!」
  「分かった。父さんを護るっ!」
  麗しい親子愛だ。
  敵わないと悟ってかグリン・フィスは大きく飛び下がった。2人の親子は追う。腰を沈めるグリン・フィス。
  そして……。
  「はあっ!」

  ひゅんっ!

  セラミック刀を投げた。
  回転しながら刃は先頭に立って間合いを詰めてきたジョダンの首を飛ばした。全身を鎧で包んでも顔の部分は露出している。
  首は天高く舞う。
  刃はそのまま弧を描いて飛んでいく。ジョタンの後ろにいたユミルには当たらなかったけど敵は1人減った。
  「ジョダンっ! おのれ、貴様殺して……っ!」
  「嘆くな。お前も息子を追えばいい」

  ばぁん。

  えっ?
  グリン・フィスは銃を発砲した。32口径ピストルだ。
  銃を隠し持っていたらしい。
  驚きだ。
  確かに32口径ピストルは隠すのには最適だ。眉間を射抜かれてユミルはそのまま引っくり返った。
  「主。排除しました」
  「ご、ご苦労様」
  私には絶対服従のグリン・フィス。しかし敵に回せば彼ほど恐ろしい存在はいないだろう。冷酷に敵を排除する性格。私も結構冷酷に
  振舞うけど、眉1つ動かさず、顔色1つ変えずには少し自信がない。
  少し身震いをしつつ私は彼を労った。
  奴隷商人撃破完了。



  戦闘の後、さらに北上。
  建物があった。
  崩れ掛けた建物。ここは前に通らなかったな。少しルートがずれているらしい。調べてみようと停車、降りてみる。
  休憩したいし。
  すると二階部分から鋭い女の声が響いた。
  「そこのあんたら、何の用っ!」
  人が住んでるらしい。
  居住地かな?
  「怪しい者じゃないわ。休める場所を探してるのよ。奴隷商人とドンパチやって疲れたから。……ここって宿泊施設ある?」
  「奴隷商人とやり合った……?」
  「えっ? うん」
  「……分かったわ」
  声に戸惑いを感じる。耳を済ませるとさっきの女は誰かと話しているらしい。
  内容までは聞こえない。
  誰と話しているのだろう、と考えている再び先ほどの女の鋭い声が響く。
  「ハンニバルが入れてやれって言うからで、私が好きで入れてやるわけじゃないんだからね」
  「ハンニバル?」
  口調がツンデレみたい。
  まあいいですけど。
  「手を見えるところに置いて。いきなり動かないでよ。今からゲートを開けてあげるわ」
  「……」
  何かまた妙な展開に首を突っ込んだ気がする。
  そう思いつつ待つ。
  ガチャリ。
  ゲートを開いたらしい。そこから女が出て来た。アサルトライフルを手にしていた。
  きつそうな女性だなぁ。
  「私はシモーネ・キャメロン。ここでは防衛を担当してる。……以上よ。質問は受け付けない。ハンニバルは上階にいる。話をして来なさい」
  「話? 何で?」
  「奴隷商人とやり合ったんでしょう? それと、少し前にここに保護を求めて来た奴が赤毛の娘が奴隷商人を叩きのめしたお陰で救われたとか言っ
  てた。ハンニバルはそれがあんただと思ってる。流れから見て多分そうなんでしょうね。だからハンニバルと話してきなさい」
  「あの」
  「何っ!」
  こいつ怖いよー。
  今のご時世では静かに話し合いって存在しないのだろうか?
  おおぅ。
  「ここは何なの?」
  「ここはユニオンテンプル。奴隷達の最後の砦よ。ようこそ、奴隷の街に」
















  その頃。
  エバーグリーン・ミルズ。
  各地のレイダーの組織のボス達がここに集結していた。
  その数は30名。
  組織全体の総兵力は300を超える。


  「皆様の集合に感謝します」
  虐殺将軍と称されるエリニースは慇懃に円卓の座に着くボスの面々に一礼した。
  序列としては新参のボスの為に礼儀は必要だ。
  「ミスティとかいう小娘を始末する程度に我々を招集するとはな。自分の尻拭いも出来んのか?」
  『はははははっ!』
  仲の悪い西地区のボスが罵倒すると他のボス達も笑った。
  エリニースは黙殺する。
  彼女の視線は1人の老人に向けられていた。
  グランドマスターだ。
  ここにいるレイダー達はそれぞれ自前の組織を持っている。一致団結しているのではなくあくまで組織が群れているに過ぎない。そんな無数の
  組織の頂点に立つのがグランドマスターと呼ばれる車椅子の老人だ。
  最大勢力のレイダーの組織の総帥であり連合の元締め。
  ……。
  ……ただしそれは既に昔の話だ。組織そのものは強大ではあるもののグランドマスターは老いた。
  明晰な頭脳にも狂いが生じ始めている。
  もちろんそれに誰も気付いていない。あくまでエリニースのみが知る事実だ。
  彼女は口を開く。
  グランドマスターの方を向いて。
  「我々には飛躍が必要です。ミスティ抹殺は私のメンツの問題ではありません、グランドマスター。我々連合の為の布石です」
  「どういう意味じゃ?」
  「奴隷商人、タロン社、2つの組織があの女を狙ってる。だからこそ殺すのです。確実に」
  「話が見えんようじゃが……」
  「2つの組織を潰す為の布石なのです」
  「馬鹿なっ!」
  ボスの1人が叫んだ。それに共感するように次々とボス達は口を開く。

  「2つを敵に回すだと?」
  「馬鹿馬鹿しいっ!」
  「それぞれに領域というものがある。決して侵すべきではなぁいっ!」
  「そうだっ!」
  「そんな事をしたら身の破滅だっ!」

  「そうでしょうか?」
  憤るボス達とは異なりエリニースは冷静そのものだった。
  その口調のまま続ける。
  「連合に所属する組織の中には奴隷売買に手を出しているところもあるとか。……ルディウス、あなたの組織はどうです?」
  「そ、それは……」
  「奴隷売買はパラダイス・フォールズの領分。……それは古い。奴隷売買は儲かります。莫大な利益をもたらす。ピットが奴隷を買い続けて
  くれる限りわずかな元手と手間で莫大な利益が生まれる。何も奴隷商人どもに甘い汁をいつまでも吸わせる必要はない」
  『……』
  沈黙するボス達。
  確かにその通りだった。奴隷売買は金になる。
  「まずは奴隷商人どもを併呑します」
  「か、可能なのか?」
  別のボスが聞き返した。
  頷く。
  「可能です。銃の数も人数も我々が上です。その後にタロン社と全面対決します。タロン社の軍事力は強大ですが……」
  そこまで言ってエリニースはカールの顔を思い出す。
  野心的で自侭な性格。
  レイダー連合との戦いが勃発したら、奴はきっと利益の為だけに動くだろう。
  「タロン社の軍事力は強大ですが一枚岩ではありません。切り崩せます。分裂させる事は可能だと思います。そこを叩く。各個撃破です」
  『……』
  「しかしいきなりはどちらも無理でしょう。ですからミスティを始末するのです」
  「何故だ」
  西地区のボスが聞き返した。
  嘲りは消えている。
  本当に聞きたがっているようだった。エリニースは静かに微笑む。
  「どちらの組織からも狙われているからですよ。我々がその女を殺す事で連中のメンツを潰します。気勢を殺ぐのです」
  「……なるほどのぅ」
  グランドマスターが呟く。一同、黙った。
  「殺しのプロを雇うのじゃ。殺し屋を差し向けろっ!」
  「グランドマスター」
  「なんじゃ?」
  西地区のボスが提案した。
  「デリンジャーのジョンを差し向けたらいかがでしょう? 値は張りますが、腕は確かです」
  「よかろう。呼べ」
  「直ちに」
  「この場に集いしボス達よっ! ワシらの時代の為に力を温存するのじゃ、そして赤毛の女を殺せっ! 殺した者には恩賞を与えるっ!」
  『おうっ!』