私は天使なんかじゃない








カンタベリー・コモンズ






  受難?
  必然?
  世界は意外性に満ちている。様々な意味で。

  その意外性な出来事と全てに引っ掛かるのは……必然ではなく受難なのだろうか……?






  ボルト92から見て南東に移動。
  昔の旧道を走る。
  その先にボルト108があるそうだ。そのすぐ近くにカンタベリー・コモンズという街があった。
  前にクレイジー・ウルフギャングに聞いたキャラバン隊の拠点の街だ。
  そこで体を休める事にした。
  ボルト108攻略の為に。
  問題はその街にも厄介があったという事だ。
  それは……。



  「いずれこの私、アンタゴナイザーのアリの軍団が世界を支配するだろうっ! 覚えておくがいい、愚かなるメカニストよっ!」
  「戯言をっ! 正義のメカニストのロボット部隊がお前の悪事を粉砕してみせる、今回は……お互いに痛みわけだな」

  「……何あれ?」
  「分からんな」
  商人の街カンタベリー・コモンズ。その入り口。
  私達は少し離れた場所から妙な衣装を来た、妙な2人組の戦いを見ていた。
  クリスは首を捻った。
  私もだ。
  意味が分からない。
  妙な衣装を着込んで戦ってるだけなら問題はないんだけど……2人が異様な部隊を率いているのが問題なのだ。ロボット風のスーツを着込んだ男
  はロボット部隊を率いている。まあこれは理解出来る。ありえる光景だからね。
  だけど仮面ライダーっぽい格好をした女は巨大なアリを率いていた。これはまずお目に掛かれる光景ではない。
  何なんだこいつら?
  ともかく。
  ともかく2人は争い、双方痛みわけで引き分けとなった模様。
  口汚く罵り合いながら2人は引き上げて行く。
  男は南に。
  女は北に。
  停車して遠巻きに見ていた私達には気付かずにそれぞれ引き上げていく。
  もちろん気付く必要はない。
  関わるつもりはないし。
  この街に来たのは休息と補給の為だ。
  クリスが呟く。
  「一兵卒。あれは……俗に言うヒーローショーか?」
  「あー、それっぽいね」
  「しかし何故街の前でそんな悪ふざけみたいな事をする必要がある?」
  「私に聞かれても……」
  「知らんだとっ! そんな奴はお仕置きだなっ! カロン准尉、ハークネス曹長、一兵卒を全裸にして荒縄で縛るのだっ!」
  『御意のままに』
  ……。
  ……変態かお前らは。
  私は無視してバイクを進める。ジープの運転席に座っているハークネスはクリスに促されて車を発進させた。
  街の入り口まで進める。
  すると……。
  「そこで止まれっ!」
  厳しい声が響いた。
  ハゲ頭の男が自動小銃を手にして私達の前に陣取っている。
  傍らに女性。
  そしてその背後に部下らしい連中が5名いる。この街の警備の連中ってわけか。大人しく私達は従う。
  バイクもジープもエンジンを切った。
  ハゲ頭は言う。
  「ここに来たのは初めてか?」
  「ええ」
  「俺はドミニク・デルサレロ。こっちは副官のマチーテ。カンタベリー・コモンズによく来たな。ここはキャラバン隊の拠点だ。俺はここでレイダーどもを
  撃退したり連中を無縁墓地に埋めたりして過ごしている。もっともこの近辺のレイダーは全て埋めたがね」
  「つまり何が言いたいわけ?」
  「つまりだ。お前さんらが妙な真似さえしなければ廃れちまう芸術って事さ。余計な手間だけは勘弁してくれ」
  「目的は物資の補給と休息だけよ」
  「それは良い考えだ。その方が商人達も喜ぶよ。俺達も弾が節約できるしな」
  「さっきの連中は何なの?」
  「アンタゴナイザーとメカニックの喧嘩さ」
  「はっ?」
  「興味があるならロエに聞いてくれ。この街の市長だ。市長と言っても出来る事は限られてるがね。大抵の厄介は話し合いでは解決しない、だから俺
  がいる。しかしロエは話し合いで解決出来る事を全て解決している。そうやってこの街は発展した。お前さんらはどっちのタイプだ?」
  「平和主義者」
  「ならロエと話をしな。丁寧に教えてくれるよ」
  「ありがとう」



  仲間達は三々五々、散らばる。
  弾薬や物資の補給、ガソリンの確保、休息、それぞれにやる事があるわけだ。
  私はロエという市長に話を聞きに食堂に向かう。
  この街で唯一の食堂らしい。
  基本的にカンタベリー・コモンズは寂しい街だ。キャラバン隊の拠点だからもっと賑やかなところかと思ってたけどそうでもないらしい。
  街の警備は元傭兵。
  ドミニク自身もこの街に雇われていた流れの傭兵だったらしい。今ではこの街に住んでいるそうだ。愛着が湧いたらしい。
  そして自然と警備主任に収まったようだ。
  さて。
  「あの2人組に興味があるって?」
  「ええ」
  「つまり解決に導きたい、そういう気持ちなのだな? それはありがたいっ!」
  「はっ?」
  待て待て待てっ!
  一言もそんな事は発言してないだろうがーっ!
  ロエは構わずに続ける。
  すいません。強制イベント過ぎませんか?
  選択権もないのかよ。
  おおぅ。
  「なあ、アンタゴナイザーとメカニストをどうにかしてくれないかな? 君があの有名な赤毛の冒険者なんだろ?」
  「赤毛の冒険者? ……ああ」
  思い当たる節はある。
  確か前にスリードッグが私の事をそうやって評していたような。
  ……。
  ……まさか世間的に『赤毛の冒険者』って救世主的に扱われているわけ?
  面倒だなぁ。
  「報酬はもちろん払うよ。そうだな、額は……」
  提示された額は悪くはない。
  だけど私は言う。
  「報酬は倍よ」
  とりあえず吹っ掛けてみる。
  これで断れば問題あるまい。もちろん欲の皮を突っ張らせているだけではなく実際に金欠。最近出費が多いし。
  ロエさんは苦笑。
  「商人の街でその発言をするとはね。あんたもなかなかの商売人だな。だが我々だけでは手を焼いているのも事実だ。分かった、その額でいいよ」
  あらま。
  了承しちゃった。
  これで受ける事が決定だ。
  面倒ではあるけど自分で自分を追い込んだのも事実。
  まあいいさ。
  受けてあげましょう。
  「ただ大金払うんだからちゃんと成果は出してくれよ」
  「分かった」
  「それとお願いだから頭を使って平和的に解決してくれよ」
  「平和的に?」
  「英雄気取りでドンパチやってる連中の仲間入りだけはしないでくれ。それに、迷惑ではあるけど実害はまだない。殺すほどではないんだ」
  「分かったわ。善処する」
  「善処って……」
  「相手の出方にもよるわね」
  銃を向けられた場合は、それに適した交渉をするまでだ。
  そう。
  それに相応しい交渉をするまで。
  相手次第だ。
  その結果、私の処方箋も変わる。それだけの話。ともかく受ける事になったわけだから連中の情報が必要だ。
  聞いてみる。
  「アンタゴナイザーとメカニストって何者?」
  「アンタゴナイザーが何者かは知らんよ。ある日突然アリの軍団を率いて街にやって来たんだ。人類は終わりだとか今後地球はアリが支配するとか、そ
  んな事を言いながらね。それで傭兵の1人がアリ達に一発二発ぶっ放したのさ。奴は一旦逃げたものの、その後もアタックを仕掛けてくるんだ」
  「……なんと傍迷惑な奴」
  「そうだろう? ただ、その時は奴もそんなに危険な存在じゃなかった。皆面白がって色々な憶測をしたもんさ。でも……」
  「でも?」
  「でもメカニストが奴と争い出して状況が変わった。アリは我々でも簡単に追い払えるけどレーザー装備のロボットの軍団となると相当厄介なんだ」
  「メカニストは何?」
  「彼は元々この街でメカニックをしていたスコット・ウォリンクシだ。無口な奴だがレンチとハンダを手にすると人が変わるんだよ」
  「ふぅん。それで?」
  「奴は街の守護役だったロボットの整備を担当していたんだが……それがアンタゴナイザーの攻撃を受けてバラバラにされてしまってね。屈辱だったん
  だろうな。そしたらあいつはわざわざスーツまで作って、ロボット部隊で仕返しをしだしたのさ」
  「……なんと傍迷惑な奴」
  「今はプッツンしてて我々の言葉すら聞きはしない。それに奴のロボット部隊はアリなんかよりよっぽど危険だよ」
  「でしょうね」
  アリはアリだ。
  放射能で変異して巨大化している。表皮も堅いし顎の力は強力。それでも銃があれば簡単に射抜ける。
  それに対してロボットは厄介この上ない。
  タイプにもよるけど銃火器が効果ないほどに堅いタイプもある。
  いずれにしても面倒な喧嘩よね、アンタゴナイザーとメカニストは。それも街のすぐ真ん前で繰り広げてるらしいし。
  厄介な事してるなぁ。
  「何か飲むか?」
  ジョー・ポーターという黒人男性が聞いてくる。
  この食堂の主人だ。
  「いらないわ」
  「そうか。ところで、何でもあんたらはこの街の厄介を片付けてくれるとか」
  「ある意味で強制イベントの真っ最中だからね」
  「実はアンタゴナイザーの情報があるんだ」
  「情報?」
  「この街に出入りしている商人の1人の話なんだが……あの女を昔見た事があるらしい。何でもその女の一家はアリに皆殺しにされたらしい」
  「それで?」
  「だがその女の死体だけはどうしても見つからなかった。名前はターニャ・クリストフ。アンタゴナイザーの正体かも知れんぞ」
  「覚えとく」
  ふぅん。
  つまりはただの人間か。
  どういう理屈でアリを制御しているのかは知らないけど人間の女性なら相対しやすい。
  さすがにミュータント化したアリ人間ではやり辛いし。
  「ねぇねぇ叔父さんっ! 今日の戦い見た? 最高に格好良かったね、アンタゴナイザーとメカニストっ!」
  子供の声がした。
  食堂に新たに入って来たのは子供。
  ロエさんを叔父と呼んだ。
  なるほど。
  市長の甥っ子ってわけだ。嬉しそうにはしゃぐ子供とは逆にロエさんは厳しい口調で甥をたしなめる。
  「デレク、家に帰ってなさい」
  「いいじゃんっ! この女の人は何? もしかして新しいヒーロー? すげぇっ!」
  娯楽が少ないんだろう。
  多分この子にとってあれはショーなのだ。
  まあいいけど。
  「やあ、君が新しいヒーロー……じゃないか、女の人だから……ヒロインだねっ!」
  「はっ?」
  「僕はデレク。ロエ叔父さんの甥っ子さっ!」
  無駄に元気な子供だ。
  まあ、子供はそういうものかなぁ。
  「ヒロインって何?」
  「僕はこの街のスーパーヒーロー達の戦いは欠かさずに見てるんだっ! それで? 君はどんな必殺技があるの? ビーム出せる? ビーム?」
  「ビームはちょっと……」
  「じゃあ名前は? スーパーヒーローっぽい名前はあるの?」
  「ないけど……」
  「じゃあ僕が付けてあげるっ! そうだなぁ、スーパー巨大人なんてどう? スーパーミュータントの軍勢を率いて戦うんだっ!」
  「……ははは」
  凄い事を言う子供だなぁ。
  スーパーミュータントの軍勢率いているのはジェネラルであって私ではないです。
  まあ、ジェネラルは二度殺したけどね。
  ……。
  ……そういやジェネラルは完全に死んだのかな?
  死骸は粉砕したけど一度は復活したし。
  うーん。
  出来れば死んだままでいて欲しいですね、これ以上敵を増やすつもりはないので。
  さて。
  「お仕事お仕事っと」



  「仲裁だと?」
  「うん」
  クリスは怪訝そうな顔で私を見た。
  語調を抑えているものの明らかに不満そうなのが分かった。私はそれに気付かない振りをして話を進める。
  「問題ある?」
  「ボルト108はどうするんだ?」
  「行くわ。終わった後で」
  「地元民なんか放っておけ。助けても助けてもキリがない」
  「地元民?」
  変わった言い方ではある。
  だけどまったく変な単語ではない。カンタベリー・コモンズ市民の問題、つまりはそこに住む地元民の問題なわけだから変な単語ではない。
  多少は気になるけどさ。
  「別に手伝ってくれなくてもいいけど……」
  「分かった分かった。そんな言い方はするな一兵卒。カロン、ハークネス、クリスチーム出撃だ」
  『御意のままに』
  「では用意をする。一時間後に出発しよう。問題は?」
  「ないわ」
  「また後でな」
  明らかに不満そうなクリスは2人を引き連れて歩き去る。
  私の側に控えるグリン・フィスは呟いた。
  「真相を聞き出しましょうか?」
  「真相?」
  「何故、不満なのかを」
  「必要ないわ」
  「御意」
  クリスの気持ちは分からなくはない。
  あまり人助けに時間を費やしたくないのだ。正確にはいちいち救って歩くのが面倒なのだ。
  それは理解出来る。
  だけど、まあ、これが私の性分なのだ。
  「主、近付いてきます」
  「ん?」
  「ロエに雇われたみたいだな」
  ハゲの主任だ。
  確か名前はドミニク。部下は引き連れていない。
  「耳が早いのね」
  「小さな街だ。すぐに噂は広まる」
  「連中について何か知ってる事は? まずはアンタゴナイザーから教えて」
  「彼女は迷惑を掛けたわけじゃないんだ。襲撃ははっきり言って悪いジョークのようなものなんだ。実害はない。むしろ街に貢献してるよ。アリの軍団に
  びびってレイダーどもは近寄りもしないからな。街の治安は保たれている。ある意味で彼女の功績だ」
  「ふぅん」
  「いつも北の巣穴から出てくる。行ってみるといい」
  場所が判明。
  北に住んでるらしい。おそらくそう遠くないはず。アリの軍団率いて遠くから出張してくるはずないだろうし。
  何故?
  だってアリは雑魚だもん。
  大移動して出張しているのであれば途中で野生動物とかに粉砕されている可能性が高い。
  それなりの数で街に辿り着けるのだから、近場に潜んでいるのだろう。
  「メカニストは?」
  「奴がこの街の住人だった事は……」
  「聞いたわ」
  「奴は俺の親友なんだ」
  「えっ?」
  「近頃は南にあるロボットショップに入り浸ってアンタゴナイザーと戦う事しか考えてない。俺としてはロエは杞憂で怯えてるだけさ。実際のところ、スコットに
  は街を襲う意思なんかないしアンタゴナイザーも街をどうこうするにしては幼稚過ぎる行動だ。街に実害はないよ」
  「南のロボットショップね」
  よし。
  場所は判明した。
  これで探索は容易となった。特に建物として存在しているロボットショップは探し易い。
  まずはそこから攻めてみるとするか。
  「赤毛の冒険者、頼みがあるんだ」
  「何?」
  「手荒な真似だけしないで欲しい」
  「心得てるわ」