私は天使なんかじゃない
地上の天使
天使。
天国よりの使者。
やさしく護り労わる者の意。
ボルト92。
同施設にあった爆薬の類を使用してシステムを吹っ飛ばした。中枢を吹っ飛ばした事によりあの施設は永遠に眠りにつく事になった。
ボルトテック社の遺産→ミレルークの巣に変更。
忌々しい過去の悪意は消え去った。
忌々しいっ!
「ただいまー」
「お帰りなさい。出掛けてから何年も経ったようだわ。お願いだから素晴しいニュースがあるって言って」
アガサの家に帰還。
最初に来た時同様に仲間達は外で待たせている。
何故?
だってここ狭いもん。
少なくとも仲間全員が寛げるほど広くはない。
ボルト92で私達はソイル・ストラディバリウスのバイオリンを入手した。凄腕の私達ですからその日の内に帰還。まあ、そもそも行った時間が
遅いから既に深夜になってしまったけど、その日の内に任務達成するなんて凄腕よね☆
ほほほ☆
「約束の物よ。どうぞ」
「まあっ!」
特殊な加圧ケースを手渡す。
……。
……そうね。ソイル・ストラディバリウスを入手したかも、が正しい表現よね。
このケースを開くには暗証番号が必要。
私達はそれを知らない。
だからケースごと持って来たに過ぎない。
中身は不明。
アガサさんはケースを受け取ると暗証番号を打ち込んだ。
なるほど。
一族にはそれが伝わってるわけだ。
カチャ。
音を立てて加圧ケースは開いた。その途端、アガサさんは簡単の声を発した。
「……想像していたよりもずっと美しいわ……」
「そうですね」
頷きながら私も美しいと思った。
素晴しい逸品だ。
音楽に、楽器にまるで精通していない私にもそれが美しいと思える。真に美しいモノは理屈や知識云々関係なく誰の眼にも美しく感じ取れる。
ソイル・ストラディバリウス。
何て美しい。
アガサさんは深く頭を下げた。
「感謝しきれないわ。貴女の苦労を労えるだけの御礼が出来ればいいんだけど」
「別にいいです」
「でも……」
「私は私のしたい事をした。それだけですから」
「そうだ。私のバイオリンの放送局の周波数を教えてあげるわ。いつでも周波数を合わせてこの年寄りの演奏を聞いてね」
「いつも生放送してるんですか?」
「まさか」
「ですよね」
「夫の古いラジオに組み込まれた便利な機械に全部演奏を録音させてあるの」
「なるほど」
「そうすればいつでも演奏が聴けるし年老いた私はぐっすりと眠れるわ」
なかなか高級なラジオセットらしい。
周波数を教えてもらう。
周波数さえ分かればPIPBOYで音楽を受信出来る。最近はエンクレイブラジオも飽きてきたところだ。美しい旋律も悪くない。
「またいつでも遊びに来て頂戴ね」
「はい」
パパが望むモノはボルト92にはなかったけどアガサさんの喜ぶ顔が見れて良かったと思う。
人助けが大好き、というわけではない。
ただ私は助けれる術があるのに見て見ぬ振りをするのが嫌なだけ。
それだけだ。
それだけ。
別に特別な事を私はしているわけではないと認識している。
だって当たり前の事だもん。
「ところで貴女はどうしてボルト92を探していたのかしら?」
「欲しいモノがあったんです」
「それは手に入った?」
「無理でした」
「実はボルト108の場所も私は知っているのよ。何を探しているかは分からないけど、ボルト絡みのモノなら行ってみるのもいいんじゃない?」
「教えてくださいっ!」
ビバ人助け☆
誰かを助ければ私も助けてもらえる、そうやって世界は回ってる。
ボルト108か。
このままメガトンに帰るのは無能よね。ボルト108によってパパのパソコンの強化に必要なパーツを捜すとしましょうか。
いざ進めボルト108っ!
アガサの音楽放送。
彼女の一言。
『私の音楽が美しく聞こえるのであれば、それは孤独な年寄りを助けてくれた特別な人のお陰』
『ありがとう。赤毛の天使』
『それでは最初のメロディを奏でましょう。エリック・サティ作曲ジムノペディ』
爆音立てて私達は荒野を進む。
爆音?
バイクとジープの爆音。
私はバイクを吹かして進む。ガソリンの確保は比較的容易だ。石油の涸渇が全面核戦争の要因だけど私達が使う程度の石油は今でもある。
そもそも今のご時世車なんて走ってないし。
「ふふーん☆」
ブォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォっ!
バイクで私は爆走。
先頭を走る私。
それから少し遅れてジープが走る。運転しているのはハークネス、助手席にはクリス、後部座席にはカロンとグリン・フィスだ。
車があると楽でいい。
移動も楽だけど、それ以上に物資を積載出来るのがいい。
食料。
弾薬。
武器。
その移動が楽でいい。
それに風を切って進むのはとても気持ちが良いものだ。
アガサの家を辞去して四時間。
私達はぶっ通して運転している。
目指すはボルト108。
この速度なら、この進度ならもうすぐ到着するだろう。もっとも既に日付は変わっている。数時間前にボルト92を攻略した。それから睡眠はまだ
取ってない。さすがに連続して攻略する気力はない。とりあえずボルト108の前で夜営しよう。
睡眠が必要。
その後に、リフレッシュした後に攻略するとしよう。
「ん?」
バイクを走らせながら私はある一団が眼に入った。
追う者と追われる者。
それが嫌でも私の眼に飛び込んでくる。
……。
……ふぅ。やれやれ。
私は左手を挙げつつ爆走する。左手を挙げたのはジープの面々への合図だ。止まるという意思表示。
つまり介入するってわけ、あの一団にね。
追ってる側がレイダーなのかは知らないけど……まあ、レイダーにしては小奇麗だとは思うけど、ともかく、追ってる側は武装している。それとは逆に
追われている側はまるで武装していない。少なくとも私にはそう見えた。
あっ。追われてる側が追いつかれた。
威嚇されて止まる非武装の面々。
ブォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォっ!
キキキキキキキキキっ!
私は思いっきり吹かし、そのまま急ブレーキを掛けて横滑りに両者の間に滑り込んだ。
一同、声もない。
まあそうよね。
普通は驚く。私に少し遅れてジープも到着、停車した。
チャ。
私はアサルトライフルを構える。
「それで? 非武装の連中に何するつもり?」
善人ではないです、私。
お節介なだけ。
それが世間では善人というのかは分からないけど……甘いところでは甘いつもりではいるけど、冷酷な時は容赦なく冷酷にも振舞うわよ、私。
「邪魔をする気かっ!」
トゲトゲのコンバットアーマーを着込んでいるのは中年のメタボ男性。確かあれはメタルアーマーだっけ?
まあ鎧の名前はどうでもいいか。
追っている側の人数は8名。
おそらくは声を発した奴がここの指揮官だ。何故なら他の面々は『傭兵の服系』を等しく着込んでいる。メタボだけがジャンルの異なる服装なわけだし
指揮官だと見るのがお約束って奴だろう。逆に追われている側はみすぼらしい格好をしていた。
その数は5名。
彼らの首には首輪。
……。
……首輪ね。それも見た事ある首輪だ。
アンデールで見た首輪。
つまり追われている側は奴隷。あの首輪は爆弾内蔵の首輪だ。という事は追っているこの連中は奴隷商人か。
殺す?
そうね。
その方が後腐れがないのかもしれない。
何故なら私は奴隷商人のボスの1人息子であるカイルとか言う青年を始末した。お陰で奴隷商人に狙われてしまう結果になった。
つまり。
つまり敵対している。
ならば消しても問題ない。むしろ消した方が楽だ。今なら特に楽。
何故ならこの連中は私が誰かに気付いていないから油断している。組織を挙げて抹殺する対象だと気付いていない以上、奇襲して始末出来る。
それは容易な行為だ。
追われている側、おそらくは奴隷なのだろう。
「我々はパラダイス・フォールズに連行されそうになって逃げ出したんですっ! 助けてくださいっ!」
「そいつはやめといた方がいいな。女、パラダイス・フォールズを敵に回す覚悟はあるのか? 何だったらてめぇをメス奴隷にするぞ、ああん?」
私が口を開く前にメタボなリーダーが私を威嚇する。
やだやだ。ボキャブラリーの少ない奴は。
あの世に行ってもらうとしよう。
無視して私は奴隷に言う。
「いいわ。助けてあげる。だけどあんたらの生活の面倒までは見ないわよ?」
「ユニオンテンプルに逃げ込みますから、大丈夫です」
「ユニオンテンプル?」
組織?
建物?
まあよく分からんけど奴隷の逃げ場所は存在しているらしい。
だったら話は早い。
保護まで組み込まれていないのであればやる事はただ1つで済むってわけだ。それはつまり奴隷商人の抹殺。
「あんたら奴隷商人よね?」
「そうだ。聞いて驚け。俺はパラダイス・フォールズの幹部の1人で名を……」
「先に私の名前を教えるわ。ミスティよ」
「……ミス……」
リーダーは考え込む。
数秒、無意味に間が空く。それから突然リーダーは吼えるように叫んだ。
「ユーロジーが殺すように指示した奴かっ!」
「左様でございますわ」
次の瞬間、私はアサルトライフルを躊躇いなく撃った。
血煙を上げて倒れる奴隷商人達。
ジープから仲間達も発砲してるしね。遭遇戦ではあったけど相手は完全に油断していたから奇襲の形となった。私達に利があった。
「く、くそぅっ!」
胸に数初の弾丸を受けながらもリーダーは銃を引き抜いて私に向って撃つ。
なかなか根性があるわね、こいつ。
だけど甘い。
「ふむ」
ひょいっと頭を横に動かして回避。
弾丸の軌跡、私には見える。
当たるものか。
44マグナムを引き抜いてそのまま発砲。
ばぁん。
「はい。終了」
奴隷商人のリーダーの頭の半分が吹っ飛んだ。
状況終了。
私達の完全なる勝利だ。
奴隷商人ってある意味で中途半端なのかもしれない。レイダー以上タロン社未満。さほど怖い敵ではない。そもそも奴隷商人は生かして奴隷を
確保するのが商売であって虐殺は専門外。つまりさほど戦闘に強いわけではない。
少なくとも殺すのメインのタロン社には劣るだろうよ。
いや。
もしかしたらレイダーよりも弱い?
まあいいけどね、どっちでも。
例えなんであろうとも殺すだけだから。
「大丈夫?」
「は、はい」
奴隷の1人が頷いた。
「こいつらの武器とか物資持って行っていいわよ」
「い、いいんですか?」
「ええ」
「ありがとうございますっ!」
奴隷達は全員私の前に頭を深く下げた。
……。
……気まぐれなんだけどね、私の行動の大半は。アガサさんにしてもそうだった。それなのにこんなに感謝される。
それはやっぱり嬉しい。
奴隷達は私達に感謝しつつ『ユニオンテンプル』とかいう場所に向っていった。
そこがどこかは知らない。
まあ、関係ない。
「余計な道草よね。ボルト108目指して進みましょうか」