私は天使なんかじゃない








レッドレーサー工場






  脅威は常にそこにある。
  常にだ。
  それに気付くか気付かないかは運次第。どちらが幸で不幸かは断定出来ない。

  気付かない幸せもある。






  『ハロー、アメリカ』
  『私はジョン・ヘンリー・エデン大統領。話したい事があるんだ』

  『最近私は誰もが関りを持てるものについて考えている』
  『アメリカ人にとって疑問の余地もなく逃れる事の出来ないもの。もちろん、私は国民的な娯楽である野球の話をしている』

  『かつてはそうだったのだ』
  『そうだ。アメリカ国民よ。核戦争で荒廃する前はそれぞれの州にプロ野球チームが存在していた』
  『雲一つない完璧な空を想像してみよう』
  『太陽は温かく歓迎している』
  『ハイとヒッコリーのバットで武装した古のナイトのように彼らはもうすぐ姿を現そうとしている』
  『彼らの名は首都の国会議員だ』

  『彼らの目的は親愛なるアメリカ国民にスポーツする喜びを与える事だ』
  『午後の間だけだとしても自分に問い掛けなさい』
  『首都の国会議員達がもしまた生き返ったら。ペンシルベニアやメリーランドの野球チームのように彼らが勝負を挑んできたら』

  『偉大なるアメリカ国民よ』
  『ジョン・ヘンリー・エデンに信念を捧げれば野球はまた蘇る』
  『安心、改善、健全な競争』
  『全てはまた蘇る』
  『この国は、また、蘇る』

  『だがアメリカ国民よ。今はお別れだ』
  『世界でもっとも偉大な国にかつての栄光を取り戻すのだ』
  『例えエンクレイブでも簡単には片付かない仕事だ』
  『ではまた会おう。大統領ジョン・ヘンリー・エデンから、さようなら』






  レッドレーサー工場。
  メガトンの南東にある三輪車製造工場。レッドレーサー……粋な名前よね。
  私達一行はそこに向かった。
  一向?
  相変わらずのメンバー。
  私、グリン・フィス、そしてクリスチームだ。
  今回の移動は楽だった。
  というのも前回のボルト112の探索の際にジープとバイクをゲットしていたからだ。石油使用の骨董品だけどなかなか使い勝手は良い。もっとも舗装
  された道路がないので完全に楽というわけでもない。走行不能な場所もあったし。
  それでも歩くよりは良い。
  楽です。
  物資の積載移動も容易だし。

  レッドレーサー工場に向った理由。
  レギュレーターの総帥であるソノラの依頼だ。詳細は不明だけどここにいる奴を始末する事らしい。
  別に彼女に従う必要性は特にないんだけど彼女の組織力は役に立つ。
  何しろ私には敵が多い。
  タロン社。
  奴隷商人。
  スーパーミュータント。
  そして徒党を組んでいない(少なくとも横の繋がりがないとされているのが定説)とはいえレイダーとも敵対している。
  だから。
  だからレギュレーターと手を組んでいる事は大切だ。
  これ以上敵を増やすと面倒だし。

  冷酷ではあるもののソノラは使い勝手は良い。役に立つ。同盟は必要だ。とりあえず良識はあるし。
  ビリーを殺さずに仲間に引き入れたりとしてる。
  そういう意味では融通が利く。


  ボルト101への帰郷は終わった。
  さあて。
  お仕事お仕事。



  「こんのぉーっ!」
  バリバリバリ。
  アサルトライフルが火を噴く。
  工場内にはフェラル・グールが多数潜んでいた。工場内に入り込んだ私達は連中にとっては餌。
  人間の血肉はご馳走なのだ。
  そう。
  今日、久し振りにご馳走にありつけるってわけだ。
  もちろんそんなに簡単には行かない。
  「クリスっ!」
  「心得ている一兵卒。カロン准尉、敵陣を突破。背後から攻撃」
  「御意のままに」
  カロンはグール。
  フェラルは彼を敵視はしていない。というのもそもそもフェラルはグールから変異した存在。フェラルにしては身内として認識するのだろう。
  だからスルーの対象となる。
  カロンは敵陣を突破、突破しつつコンバットショットガンを撃って敵を撃破していく。
  「ハークネス曹長」
  「はい」
  「地獄への片道切符を連中に渡してやれっ!」
  「御意のままに」
  ミニガンが火を噴く。
  ほとんど裸のフェラルなどひとたまりもない。たまに防具を着込んだフェラルもいるものの結末は同じだ。数秒耐えれるだけ。
  圧倒的火力は私達の側にある。
  フェラル・グールが私達に危害を加える為には白兵戦を仕掛けるしかない。
  そしてそれはありえない。
  私達は敵を寄せ付けないからだ。
  的確に銃撃を加えて走り寄って来ようとするフェラルの群れを排除していく。
  「気色悪いから、下がれっ!」
  バリバリバリ。
  アサルトライフル、撃つ、撃つ、撃つっ!
  的だ。
  的でしかない。
  もちろんこれは私達だから出来るわけで普通なら死んでる。
  「主に近付くな」
  ザシュ。
  セラミック刀で弾幕を奇跡的に掻い潜ったフェラルを切り裂くグリン・フィス。
  さすがな腕前だ。

  ボン。

  グリン・フィスが倒したフェラル頭が吹き飛んだ。
  頭を私達が粉砕した?
  いいえ。
  ここのフェラルの性質なのか倒すと頭が自動的に吹っ飛ぶ。
  何故に?
  理由は分からない。まあいいけどさ。自身の存在を恥じて自動的に死んでくれているのかもしれない。どっちにしても私達が撃ち倒した時点で死んでる
  わけだから死骸の頭が勝手に吹き飛ぼうとも問題はない。
  ……。
  ……最初はびびったけど。
  「そこっ!」
  的確に。
  的確に。
  的確に。
  トリガーを引く度に確実にフェラルは数を減らしていった。
  フェラルの包囲網は次第に弱くなっていく。
  それでも私達は気を抜かずに、油断せずに、容赦もせずに攻撃を与えていった。
  数十分後には殲滅完了。
  さほどフェラルは狡猾ではない。少なくとも相手の姿を確認すると突撃してくる。そこに策略など何もない。まあ、そもそも放射能で脳が冒され尽くしちゃっ
  てるわけだから思考能力もあったもんじゃないんだろうけどさ。
  もちろん突撃一本槍も怖いけど私には仲間がいる。
  連携さえすれば問題はない。
  相手は突撃。
  私達は連携。
  この均衡は容易には崩れない。突撃だけの奴に私達が負けるものか。連中は銃火器を使うほどの知能もないわけだし。
  殲滅完了。
  私達は奥に進む。
  ここはフェラルの巣窟なのか、それともソノラが討伐を指示する奴が飼っているのか?
  まあいい。
  意味は同じだ。
  「全部片付けるわよ。皆、行きましょう」
  奥へ。




  工場を抜けると昔はオフィスがあったであろう場所に行き着く。
  フェラル?
  散発的に襲ってきたわよ、ここに来るまでにね。
  大した数ではなかった。
  結果?
  粉砕しました。あっさりとね。
  正直な話としてフェラルの強みは数で押す事にあると思う。群れとしてのフェラルは既に大打撃を与えた後だ。残党程度怖くもなんともない。
  蹴散らしておくに進んだってわけだ。
  オフィスにはフェラルは見当たらない。……ああ、元オフィスかな。
  少なくとも今は三輪車工場のオフィスには似合わない化学薬品や実験器具、拘束ベッドなどが並んでいる。
  ……。
  ……ふぅん。なるほど。ソノラが始末したがってる奴は科学者か何かだろう。
  だとするとフェラルは何らかの実験の産物?
  ありえる。
  頭が吹っ飛んだのもそんな意味合いからだろう。
  誰か人間がいるのは確かだ。
  「待て、一兵卒」
  「何?」
  「あれを見ろ」
  「あれを……うげっ!」

  ドス。ドス。ドス。

  巨体が足音を立ててこちらに向かってくる。手にはハンティングライフルを持ったでかい緑色の奴だ。
  スーパーミュータントっ!
  三体いる。
  数としては大した事はないけど……どうしてこの連中がここにいるのだろう?
  スーパーミュータントはグール系を親戚だと思っているらしく手を出さない。だからフェラルと共存は出来るだろうけど……何でここにいる?
  また意味が分からなくなった。
  向こうはまだこちらに気付いていない。
  「グリン・フィス」
  「はい」
  「始末して」
  「御意」
  猫のように足音もなくグリン・フィスはスーパーミュータントに接近する。
  三体はまだ気付いていない。
  音もなく冷たい刃を振るうとスーパーミュータントの首が飛んだ。残りの二体が気付くよりも早くグリン・フィスは冷たい洗礼を与える。
  彼は小さくこちらに一礼。
  排除しました、という意味だろう。
  例えスーパーミュータントとはいえどグリン・フィスの剣術の前には敵ではない模様。
  三体は音もなく死んでいた。
  「進みましょう」
  私がクリス達を促すと……。

  ドカアアアアアアアアアアアアアアアアアアアンっ!

  爆発音が耳を襲う。
  爆風も。
  「お前は死肉の塊だぁーっ! どうよっ! どうよぉーっ!」
  「……」
  ミサイルランチャーを肩に担いだ白衣の……レイダー?
  モヒカンで髭モジャの男だった。
  突然の爆発は十中八九こいつがミサイル攻撃してきたからだろう。照明が音をジジジと音を立ててから消えた。おそらく何かの装置が吹っ飛んだのだろう。
  電力が落ちたらしい。
  「俺に見つかるとやばいぞぉーっ! 殺人タイムだぁーっ!」
  「うるさい」
  ばぁん。
  44マグナムを引き抜いて私は引き金を引く。
  照明は落ちたものの室内は薄明るいし大体の位置は分かる。
  「嫌だぁーっ!」
  ドサ。
  科学者は引っくり返った。
  よし。撃破終了。
  銃をホルスターに戻す。
  「一兵卒、盛り上がりも何もないな」
  「そう?」
  「ああ」
  「クリスはどんな展開を期待してたの?」
  「ミスティが悪の科学者に実験材料という名の玩具にされる事かな」
  「はっ?」
  「くっ! 玩具にされてるのに喜ぶとは何事だっ! この淫乱めっ!」
  「……すいませんその最後の単語は正義の小説サイトでは決して口にしてはならないNGワードですよね?」
  「意味の分からん事を。そんな一兵卒には、お仕置きタイムだぁーっ!(レイダーな口調で)」
  「……」
  意味分からん。
  意味分からんーっ!
  「主」
  「クリス始末したい? だったらお好きに……」
  「いえ。何か来ます」
  「えっ?」

  バキィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィっ!

  警告の声は間に合わなかった。
  私が反応する前に『それ』は襲い掛かって来た。咄嗟に私の間に入るグリン・フィスではあるものの刃を振るう暇なく吹っ飛ばされる。
  嘘っ!
  グリン・フィスが反応出来ないほどの速度だなんてっ!
  光り輝く『それ』は銃を構える間もなく私をも投げ飛ばす。一瞬意識が暗転、飛びかけた。
  最悪なのはアサルトライフルを落としたらしい。
  「撃て撃て撃てっ!」
  『御意のままに』
  クリスチーム、銃撃開始。
  私は起き上がろうとしながら戦闘の推移を見ていた。銃弾をあいつ素早い動きで回避している。
  「ヒャッハァーっ!」
  化け物だ、あれ。
  敵は光るフェラル。何故光ってるかは不明。
  ただ腕に装着したPIPBOYに内蔵されたガイガーカウンターの機能が反応を示している。どうやらあの光るフェラルは放射能を帯びているらしい。
  それもガイガーカウンターに反応するほどに。
  微量ではある。
  微量ではあるけどあまり戦闘を長引かせると汚染されるかもしれない。
  チャッ。
  私は44マグナムを二丁引き抜く。
  そして……。
  「食らえっ!」
  ドン。ドン。ドン。ドン。ドン。ドン。
  連射。
  六発中二発が命中した。
  一瞬よろける敵は……あー、名称ないと面倒。勝手に命名『光りし者』に決定。ともかくそいつはよろけただけでまだ動いている。
  もちろんそれが命取り。
  クリスチームの銃弾が襲う。銃弾を浴びながらもまだそいつは行動していた。
  何なんだこの耐久力は。
  私に向き直る。
  やばっ!
  疾風の如く『光りし者』は私に一直線に向ってくる。そんな奴の横顔に蹴りを入れるグリン・フィス。ナイスっ!
  再びよろけるそいつに徹底的に44マグナムの弾丸を叩き込む。
  「キシャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアっ!」

  光り輝く体液を撒き散らしながら『光りし者』は派手に吹っ飛ぶ。
  あれだけの銃弾を浴びたんだ。
  今度こそ。
  今度こそ動けまい。
  いくら放射能で突然変異化しているとはいえ生き物の範疇だ。死なないわけがない。……というか死んで貰わないと困る。
  『……』
  息を呑んで敵を見る。
  引っくり返ったまま。
  数分、私達は武器を構えたまま倒れている突然変異の敵を見守った。
  そして。
  そして今度こそ死んでいる事に気付いた。
  ふぅ。
  息を吐く。
  「疲れる戦いだったなぁ」
  「御意」
  律儀にグリン・フィスは私のぼやきに頷いた。
  それにしても。
  「ここは一体何なのかな」
  自然にこうなったわけではあるまい。少なくともあの科学者の格好をした奴がここで何らかの実験をしていたのは確かだ。
  ソノラは討伐しか言わなかったから理由が分からない。
  もちろんそれはそれでいい。
  この科学者は討伐されても仕方がないように私には思える。

  ボン。

  突然『光りし者』の頭が吹き飛んだ。
  レッドレーサー工場内で遭遇した他のフェラル、スーパーミュータントと同じだ。つまり完全に死んだという証拠だ。
  ここの連中は生命活動が停止すると頭が吹き飛ぶ性質らしい。
  何かの仕掛けがある?
  まあ、そうよね。
  そうじゃなきゃ意味が分からない。
  いずれにしても頭が吹き飛べば死んでいるのは確実だから気が休まる。
  こいつには二度と動いて欲しくない。
  「一兵卒」
  「何?」
  クリスがコンピューターを指差す。
  こまごまと何かの資料が置かれたテーブルの上にあるコンピューターだ。
  カチャカチャとハークネスがキーボードを叩いていた。
  電源は落ちている。
  だけどパソコンには光が灯っていた。
  「予備電源だ」
  「ああ。なるほど」
  クリスの補足説明で私は頷く。画面を私は覗き込んだ。ハークネスはハッキングしている模様。
  電子機器には強いらしい。
  「クリス様、出来ました」
  「ご苦労。下がっていい」
  「I'll be back」
  単語の意味分かってるのだろうか?
  まあ、ノリでいいです、ノリで。
  ハークネスは後ろに下がると私とクリスは画面を覗き込んだ。


  『爆薬庫から入手したちょっとした素材を使って、実験から身を護る為に徹底的な対策を講じた』
  『チップに細工をした。暴走して私に逆らった場合にパソコンからの遠隔操作で連中の頭を吹っ飛ばせるようにした』
  『肉体的な死に直面した場合もチップが自動爆破するようにした』
  『一流の科学者は防護策をいくつも講じるものだ』
  『これでチップの情報が外部に漏れるのを避けれるってわけだ』

  『グールに関してはフェラル化させなければチップが作動しない事が分かった』
  『捕獲した……いやいや、善意あるボランティア精神で実験台に志願してくださったグール諸君に大量の放射能を浴びせる必要がある』
 
  『駄目だ』
  『フェラルを下僕にする事は成功したが本社が望んでいるのはグールの奴隷化だ』
  『まあいい。データの収集の為には実験は必要だ』
  『気長に頑張るとするさ』

  『初期の試作型チップが誤作動を起こすようになった』
  『チップはオーバーヒートを引き起こし、最終的には内蔵チャージを爆発させてしまう』
  『そこで私は誤作動対策としてP7シリーズ以降のチップをアップグレードした。また、ミュータント用のY2シリーズも先手を打って改良した』
  『グールはいくらでも代用が利くがスーパーミュータントはそうはいかない』
  『あの連中は凶暴だからな』
  『特殊部隊も殺す事は出来ても生け捕りは難しいようだ。お陰でスーパーミュータントのストックは少ない』

  『巨体との釣り合いを取る為にミュータント用のチップをさらに改良する必要性があったようだ』
  『成功したかと聞かれれば、愚問だと私は答える』
  『成功だっ!』
  『スーパーミュータントはフェラル・グールとは異なり高次元の知性を備えている。従順になった彼はさらに巨大な奴の話をしてくれた』
  『ベヒモスとかいう奴がいるらしい』
  『捕まえれたら楽しい実験が出来そうだ』
  『特殊部隊に出撃の準備をしてもらうべく本社に要請するとしよう』

  『最高傑作の誕生だっ!』
  『ステファンと名乗った実験体のグールは最高のフェラルに変異したっ!』
  『頭に埋め込んだチップのお陰でステファンは私の思うがままに動く。まさに本社が望んだ結果を私は出したのだっ!』
  『彼の頭の中の最新型のチップは完全に適応し作動しているようだ』
  『グールの奴隷化はまだ出来てはいないが、ステファンはある意味で究極体だろう』
  『本社への良い手土産になりそうだ』

  『それにしても美しい』
  『ステファンをフェラル化する際に大量の放射能を浴びせたのだが……許容量を越えた所為か淡く発光している。放射能のお陰でステファンの能力は
  増強され、それでいてチップの影響で私の思うがままだ。このデータはすぐに本社に送信するとしよう』
  『出世は思いのままだっ!』


  「……クリス。これ、どう思う?」
  「関らん方が得策そうだな」
  「だよね」
  「ディスクにも触らん方がいいだろう」
  その方が無難か。
  クリスの言い分は正しい。
  パソコンの内部にあった情報は正直物騒過ぎる。あの科学者が何者かは知らないけどこれだけは言える。
  狂ってるってね。
  ただ巨大な組織が背後にいる感じがするのはファイル内部の情報を読んでいて、そのニュアンスで理解出来た。
  タロン社?
  そうかもしれない。
  ファイルの中には『本社』という言葉が頻繁に出てくるから。
  ……。
  ……いや。違うか。
  タロン社は傭兵会社だ。科学者集団ではない。仮にタロン社の内部にそういう部門があるにしてもグールを手懐ける意味合いが分からない。
  奴隷商人でもない。
  スーパーミュータントの軍勢?
  レイダー?
  いずれも該当しない。
  新たな組織と認識するのが正しいだろう。
  「クリス」
  「何だ?」
  「連邦って事はないわよね?」
  「それはないだろう」
  連邦。
  ハークネスを造った連中の総称だ。私はよく知らない。そもそもDrジマーにも会ってないし。
  クリスはハークネスに命じる。
  「一兵卒に説明してあげて」
  「御意のままに。……連邦は機械工学に長けている集団だ。もちろんアンドロイドを人間らしく振舞わせる為に心理学や生体工学にも通じているがあく
  まで連中の興味と理念はアンドロイド技術に特化されている。グールやミュータントは専門外だ」
  「うーん」
  私は唸る。
  連邦ではないとするとやはり新手の敵か。
  まあ、まだ敵対はしていない。
  少なくとも『本社』とやらにはばれてない。このまま撤退するとしよう。ここにあるものは触らない方がいい。
  後々『あの時盗んだ物を返せーっ!』と敵対されても面倒だし。
  撤退しましょう。
  撤退。
  「ちくしょうこいつら。俺の仲間を玩具にしやがって」
  カロンが憎々しそうに呟く。
  気持ちは分かる。
  ここにいたフェラル達はどこかから誘拐して来たであろうグール達に放射能を浴びせさせて強制的にフェラルかさせた存在だ。
  それも頭にチップを埋め込まれてね。
  「皆、撤退するわよ。クリス、問題は?」
  「ない。妥当だな」
  こうして。
  こうして私達はレッドレーサー工場から撤退した。
  問題に巻き込まれる前にね。
  メガトンに帰ろ。










  五時間後。
  レッドレーサー工場。研究室。
  セキュリティアーマーを着込んだ一団がせわしなく動き回っていた。
  カッ。
  突然照明が灯る。
  サングラスをした仕官らしき隊長の元に兵士の1人が敬礼した。
  「アルバート隊長。システムを復旧させました。照明も回復。監視カメラの内容を確認しました」
  「何か映っていたか? ここで何があった?」
  「システムがダウンする前までの映像なので完全なる状況の把握とはいきませんが……赤毛の女がここを襲撃しています。仲間も数名いるようです」
  「赤毛」
  「はい。最近タロン社や奴隷商人にちょっかいを出している女かもしれませんね。奴も赤毛ですから」
  「他には?」
  「機密ディスクが紛失してます」
  「グール研究のか?」
  「はい」
  「……」
  「アルバート隊長」
  「特殊部隊の出動を要請。機密を奪還しろ」
  「了解であります。……あの」
  「何だ?」
  「施設の壊滅の件、本社には何と報告したら……」
  「バイオハザードが発生したとでも報告しておけ。どうせお偉方は会議室から動かん。ばれる事はない。……特殊部隊の要請を急がせろ」
  「はい」
















  ※補足。
  エデン大統領の『ハイとヒッコリーのバット』って何なのだろう?
  私の聞き間違えの可能性もあるとは思いますけど意味不明です。ハイ→灰?