私は天使なんかじゃない








ボルト101 〜帰還〜






  全てはそこから始まった。
  そして私は戻る。






  親友アマタのメッセージ。
  ボルト101で何かトラブルが起きているらしい。監督官が暴走しているようだ。
  私は仲間達を再び集合させた。
  グリン・フィス、クリス、そしてクリスが協力を約束してくれたので自動的に彼女の従者であるカロン、ハークネスも同行してくれる事になった。
  アンクル・レオ?
  彼は自分の居場所を求めて旅立ったから現在は行方不明。
  ともかく。
  ともかく私達一行はボルト101に向かう。
  
  

  「戻って来た」
  感慨深くはある。
  ここから旅は始まったのだからね。
  ボルト101は洞穴内にある。
  元も洞穴の中に建造されたのか、それとも核で上の施設が吹っ飛んだのかは知らないけどさ。
  「ここがボルト101か、一兵卒」
  「ええ」
  洞穴内を歩く。
  軽快に私達は進む。
  トラブルが起きているからこそアマタはメッセージを送信したんだろうけどそれはあくまでボルト101内のトラブル。洞穴の外はボルト101の管轄外。監督官の力
  は及ばない。だってボルトの外だから。
  メッセージでは内のトラブルらしいから洞穴内は安全だろう。
  少なくとも。
  少なくとも扉の前にいるグールと会う前まではね。
  ボルト101の歯車型の巨大な扉の前にグールがいる。3人だ。フェラルではない。つまり理性がある。
  何者だ?
  こちらを視認して1人が口を開いた。

  「何だお前ら?」
  「それはこっちの台詞、でもあると思うけど?」
  私は言い返す。
  グールは全部で3人。
  パーティー帽を被ったグール、そいつは武器を構えていない。ただ両脇を固めるコンバットアーマーを着込んだ2人のグールはそれぞれ武器を構えていた。
  ハンティングライフルとアサルトライフル。
  こっちはこっちで武器を構えてる。
  火力でこちらが勝ってる。
  人数も。
  戦力も。
  全てがこちらが勝ってる。
  まさか向うは撃っては来ないだろう。この状況下での銃撃戦は向うが不利だ。
  ……。
  ……ま、まあ、よっぽど愚かなら撃ってくるかもねー。
  もちろんその時はその時だ。
  瞬時に制圧する自信が私達にはある。
  瞬時にね。
  「それであんた誰?」
  「俺の名はガロ」
  「ガロ」
  妙な名前だ。
  「それでガロ、ボルト101に何の用?」
  「移住しに来た」
  「移住?」
  「今まで幾度となく襲撃して来た。しかしそれでは効率が悪くてな。どうしようかと思っていたところ、妙な音声を受信したってわけだ」
  「ふぅん」
  なるほど。
  アマタの救難信号は広範囲に渡ってた。
  まあ、メガトンに届く程度の信号だったけどさ。どうやらこいつはたまたま近くにいたらしい。そして受信した。だからここにいる。
  ……。
  ……ははぁん。分かったぞ。
  こいつらその受信を聞いてここに来た、それは分かってる。その真意は『ここのパスワードを知る者が現れるのを待っていた』ってところかな。
  アマタはメッセージでパスワードを私の名前に変えた、と言っていた。
  パスワードを知る者をこいつらは待っていたのだ。
  そしてそれは私。
  つまり。
  つまりこいつらは私の敵となる宿命ってわけだ。
  殺す?
  まあ、穏便に片付かない場合はね。
  多分戦闘になるだろうけどさ。
  ただその前にガロに聞きたい事がある。
  「襲撃って何?」
  「襲撃、不意に襲い撃つ事」
  「単語の意味じゃない」
  「ああ。そうかい。くくく」
  「言え」
  ホルスターから44マグナムを引き抜いて構える。右手、左手、二丁拳銃。
  ガロは腕を組んだまま。
  何だ、この余裕?
  「俺は過去に何度もボルトを襲って来た。天井のあいつらを使ってな」
  「上……( ̄ロ ̄|||)なんと!?」

  ざわざわざわ。

  天井が動いてる?
  まさか。
  岩肌は動かない。
  動いているのは岩壁ではなくそこに張り付いた何百ものラッドローチっ!
  つまりはゴキブリっ!
  放射能の影響で巨大化した奴らが天井の岩肌に張り付いているっ!
  ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!
  仲間達も動揺する。
  そりゃそうだろー。
  ……。
  ……ああ、そうでもないか。グリン・フィスは冷静な顔のままだ。この群れ見てびびらないなんて前歴は何者こいつ?
  もう1人はハークネス。
  これは納得。
  アンドロイドだもん。
  カロン?
  カロンは……。
  「クリスティーナ様に聞けっ!」
  意味不明だし。
  取り乱してるなぁ。
  クリス?
  クリスは……。
  「やめてミスティそのプレイだけはやめてーっ! いやぁっ! 許してーっ! ラッドローチをプレイに使うなんてマニアック過ぎるわ、これは次世代ねっ!」
  すいませんプレイってなんですか?
  おおぅ。
  そんな私達の様を見てガロは笑った。
  「すげぇだろ? 俺の軍隊だ」
  「ぐ、軍隊」
  「幾度となくボルト101に送り込んで来た。俺がボルトの支配者になる為になっ!」
  「……送り込んで来た?」
  「そうだっ!」
  なるほど。
  今までボルト101には過去何度もラッドローチに襲撃されていた。
  こいつの仕業かっ!
  どういう原理でラッドローチを支配しているのかは知らないけど……まあ、大抵は何でもありな世界のようだし、よしとしよう。
  私も大概おかしいし。
  ガロは続ける。
  「しかしラッドローチをいくら送り込んでも効率が悪いと気付いてな。どうしようかと次の作戦を練っていたところに例のメッセージを偶然受信したってわけだ」
  「ふぅん」
  「お前、その腕のはPIPBOYだろ? つまりはお前がメッセージの相手ってわけか?」
  「そうなるわね」
  「パスワードを言えっ! ボルト101をラッドローチで満たしてやるぜっ! そしたら今度からボルト101は俺様の王国だっ!」
  「うぇー」
  やな王国だ。
  排除決定っ!
  ……。
  ……ただグールを倒すのは簡単だけど頭上の岩肌に密集する数百のラッドローチはどうするよ?
  そっちが面倒だなぁ。
  てか怖いっ!

  「撃て撃て撃てーっ!」
  『御意のままに』

  クリスが切れたっ!
  叫ぶと同時に32口径ピストルを連発。ハークネスはミニガンの掃射で天井のラッドローチを粉砕していく。
  破壊力抜群だ。
  さらにカロンもコンバットショットガンを乱射。
  天井の連中は粉砕される。
  ……。
  ……すいません善戦はいいんですけどゴキ汁が降って来るんですけどぉーっ!
  あうう。
  きっともうお嫁に行けない(泣)。
  汚されたーっ!
  汚されつくしたーっ!
  うがああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああグール三人組の所為だーっ!
  排除決定っ!
  「殺すっ! ガロ、お前を殺すーっ!」
  「赤毛の小娘、それはこっちの台詞だっ! 俺の軍隊に手を出した報いを受けさせてやるっ! ただその前に名乗れっ!」
  「ミスティよっ!」
  「ミスティ?」
  「……?」
  考え込むガロ。
  ガロの部下達はまだ銃火器を構えたまま微動だにしない。クリス一行は天井でカサカサと動いているラッドローチを始末してる最中。
  攻撃?
  向うはしてきてない。
  多分ガロが指示してないからだと思う。……多分ね。
  「そうかお前がミスティかっ!」
  「知ってるの?」
  私を付け狙う敵キャラはタロン社、奴隷商人、スーパーミュータントの軍勢。ガロはそのどれかに属しているようには見えない。
  何者だ?
  「知ってるぞ、ミスティっ! お前はロイ・フィリップスの旦那の敵だっ!」
  「……? 誰それ?」
  「アンデールで会ったはずだ。あのお方はグールの輝かしい未来の為にテンペニー・タワーを占領しようとされている。その為に資金稼ぎをしているのだっ!」
  「話が見えて来ないんだけど」
  「アンデールでの一戦は依頼だったと聞いている。お前を殺すように頼まれたとなっ!」
  「うーん」
  こいつ私の言った事が分かってるのか?
  話がまるで見えてこない。
  ただ分かったのはアンデールに襲撃したフェラルの軍勢はロイ・フィリップスとかいう奴の軍勢らしい。
  そしてこいつはその部下?
  部下ではないかもしれないけど私淑しているのは確かだ。
  どうやらロイとかいう奴はグール界ではカリスマらしい。
  まあいい。
  タロン社、奴隷商人、スーパーミュータントの軍勢、そして新たにグールの組織が敵として加わった。
  はい。情報収集終了。
  私は引き金を引く。
  ドン。
  「バイ」
  「……っ!」
  ガロ、頭を吹っ飛ばされて死亡。
  44マグナムの威力は実に素晴しいっ!
  「馬鹿め」
  私は呟く。
  喋り過ぎなんだよ。
  ガロの手下も既に沈黙していた。私が引き金を引いた瞬間、グリン・フィスが抜刀して駆けて2人の側を駆け抜けた。その瞬間、グール2人の首は飛んでいた。
  「排除しました」
  「ご苦労様」
  「御意」
  状況終了。
  完全なる勝利だ。
  完全なる……。

  べちゃああああああああああああっ!

  「うぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!」
  ゴキ汁が頭に、頭にーっ!
  ふぇーんっ!
  ……。
  ……もう私、女として駄目かもしれない。
  トラウマだーっ!
  と、ともかく私達はボルト101の巨大な扉の前に到達した。
  ラッドローチは結局ガロに何の指示をされていないからかまるで無抵抗。いやまあ存在自体がやばいんですけどね。私は44マグナムをホルスターに戻して
  アサルトライフルを乱射。全てを殲滅するまでに一時間掛かった。
  弾丸が無駄に消費されたーっ!
  経費がかさむなぁ。
  「はぁ」
  敵を全て排除した私はアマタの名前を開閉装置のコンピューターに打ち込む。
  認証確認。
  ターミナルはパスワードを了承。
  そして。
  そして扉は開く。





  「止まれっ! どこから潜り込んで来たかは知らんが……っ!」
  「久し振り。オフィサー・ゴメス」
  「おいおい、お前か?」
  「うん」
  「はははっ! ミスティかっ! 埃と煤で誰だか分からなかったぞっ! よく帰ってきたな。それにしても扉を開けちまうとはな。お前には敵わんよ」
  「アマタからメッセージを貰ったんだけど……」
  「……」
  「オフィサー・ゴメス?」
  「そうか。その為に戻ってきたのか。いいだろう、案内しよう。反乱軍の元にな」



  ボルト101、帰還。