私は天使なんかじゃない








メガトンの休日






  旅は終わった。
  仲間達はそれぞれの新しい道を探した。

  クリスは保安官助手に戻り、グリン・フィスは私の家の執事(笑)、カロンは『ノヴァ&ゴブ』という酒場(旧名モリアティの酒場)の用心棒、ハークネスは
  機械類の修理、そしてアンクル・レオは居場所を探しに旅立って行った。
  旅は終わり一行は解散。

  私とパパはメガトンの一軒家で水入らず。……ああ、グリン・フィスはいるけど。
  旅は終わったのだ。
  旅は……。






  『エデン大統領だ。こちらはアメリカの代弁者エンクレイブラジオ』
  『少し話をしようか』

  『私達は貧困、欲望、暴力、そして破壊の時代を生きている』
  『合衆国政府があったワシントンDCは今はキャピタル・ウェイストランドと呼ばれる土地にまで成り下がってしまった』
  『キャピタル・ウェイストランドよ。何故アメリカはこうなってしまったのか?』
  『地球でもっとも強い国が死んでいくのを何故指導者達は黙って見ていたのか?』

  『答えは極めて単純だ』
  『それは力の喪失だ』
  『最高権力者が力を欲しがった事だ。私達は愚か者に全てを委ねてしまった』
  『恐れを知らない指導者達は権力、富、名声、欲しいものをすべて手に入れた。だから彼らはナマケモノになった』
  『そうだ。怠惰は愚かさを生むのだ』

  『私は誓う』
  『過去の大統領達が犯してきた過ちを繰り返さない』
  『ジョン・ヘンリー・エデンが創る国は長く続いていく国だ』
  『それがアメリカ流だ』

  『親愛なるアメリカ国民よ。君は値しないのか?』
  『戦争、恐怖、深い不安のない未来に値しない存在なのか?』
  『いいや。そんな事はない。私は合衆国大統領として全ての人が相応しいものを得るまで決して手を休めない。それが大統領という正しいあり方なのだ』
  『厳粛に誓う事をここに宣言する』
  『私が目指す国こそが君達にとっての本当の意味での、家だ』

  『アメリカ国民よ。覚えていて欲しい』
  『エンクレイブはこの国にかつての栄光を取り戻す為に休まずに働いている。君達に唯一必要なのは少しの忍耐、少しの信念だ』
  『ではまた会おう。ジョン・ヘンリー・エデンから、さようなら』






  旅は終わったけど……それはパパ探しの旅が終わったという意味。
  冒険はします。
  探検はします。
  今回の旅は依頼だけどさ。
  メガトンを2日空けた。
  グリン・フィスとともにメガトンを離れていた。
  うー、疲れた。
  「よおミスティ」
  街に入るとルーカス・シムズに声を掛けられた。
  市長であり保安官だ。
  「ただいま」
  「親父さんとの暮らしはどうだ?」
  「順調よ。もうすぐべッドインにこぎつけると思うなー☆」
  「……」
  「冗談よ」
  「そ、そうか。ま、まあ、念願の親父さんとの暮らしだ。毎日を大切にな。……さて、巡回に行くか。最近レイダーが多くてな」
  「レイダー?」
  「スプリングベール小学校に再び新たなレイダーの一団が住み着いてきた。今度は前回より数が多い」
  「ふぅん。討伐に行く?」
  「まだいいだろう。あの近辺に住んでたシルバーも街に戻って来たしな」
  「そうね」
  「では巡回に戻るとするか。じゃあな」
  「バイバイ」
  分かれる。
  気がつけば完全に私はこの街に溶け込んでいる。
  ボルトに比べると不衛生だし見映えも汚いけどメガトンは滅菌されたボルトとはまた別の魅力がある。今はこの街に住める事を誇りに思う。
  「グリン・フィス」
  「はい」
  「先に家に戻ってていいわ」
  「よろしいのですか?」
  「問題ないわ」
  「御意」
  忠実な従者を家に戻す。
  街の中は完全に安全地帯だ。旅を終えて戻って来たら保安官助手が5名ほど増えてたし、それにレギュレーターも10名駐屯している。
  街の外には副官ウェルドがいるし。
  貧弱な武装のレイダーは近寄る事は出来ないしタロン社、奴隷商人も手出し出来ない。
  防衛は鉄壁だ。
  特にレギュレーターがいる、というのは連中にとって恐怖らしい。
  結構名が売れてるのね、レギュレーター。
  ……。
  ……ああ、そうだ。
  街に久し振りに戻って来たらビリー・クリールがレギュレーターになってた。
  何故かは不明。
  ソノラが自ら任命したようだ。ただソノラは私と入れ違いで本部(どこにあるかは不明)に帰った模様。だからビリーに直接聞いた。その経緯を。
  ビリー曰く過去の清算らしい。
  意味分からん。
  ビリーの過去って何?
  ともかく。
  ともかくビリー・クリールはレギュレーターとしてこの街に駐屯している。レギュレーター専用のコートを纏ってたし。
  何気に同僚になったわけよね。
  さて。
  「報告しようかな」
  今回の依頼人にね。




  「ねえっ! 殺鼠剤の効果はどうだったの? ねえっ!」
  クレーターサイド雑貨店に行く。
  店主であり友人のモイラが待ち切れないのか質問攻めをして来た。
  「ちょっと待ってよ」
  「時間は待ってくれないのよっ! さあ、ミスティ、報告してっ!」
  「はいはい」
  依頼。
  それは当然サバイバルガイド絡み。
  今回の調査は実地試験。
  モイラ・ブラウンが開発したモールラットの殺鼠剤の実験だ。ただ、殺すのが目的ではなく殺鼠剤でモールラットを追い払うのが目的だった。
  あまり彼女の気に入る報告ではないだろうけどさ。
  結果は最悪でした。
  報告しよう。
  「モールラットの殺鼠剤を広範囲で検証したわ」
  「それで? それで?」
  「……」
  目をキラキラさせてます。
  この情熱を他に向けたらいいと思う今日この頃。
  方向性がねー。
  まあ、それがモイラの生き方なんだろうから別にいいけどさ。
  「それにしても相変わらずミスティは素晴しいわっ! 充分な実地試験、精密な調査、そしてその献身っ! モルモットとして言う事なしね☆」
  「モル……はい?」
  「アシスタントの事よ、別語でそう言うでしょ?」
  「……」
  すいません絶対に言わないと思います。
  こいつ怖いっ!
  完全にサバイバルガイドの調査中に私がどうなるかも興味として持っているのだ。私が得てくる知識とは別にね。
  外の世界は半端ないなぁ。
  おおぅ。
  「それで、あの殺鼠剤の効果はどう? 魔法みたいに安全でお見事だったでしょう?」
  「うーん」
  モイラの殺鼠剤。
  彼女の思惑では殺鼠剤に怯えてモールラットが近付いてこない、というもの。
  ある意味では追い立てる意味合いだと思う。
  だけど実際の結果はそうではなかった。
  報告はすべきだよなぁ。
  きっとモイラは凹むだろうけど。
  「悪いけどこの殺鼠剤、爆発性のモールラット弾みたいだったわ。モールラットはこの薬品に対して強いアレルギーがあるらしく全部死んだわ」
  「嘘っ!」
  「本当」
  「……ああ。可哀想なモールラットちゃん達。低アレルギーの薬作れるかしら。でもそれじゃあ効き目ないわよね……」
  「モールラットちゃんねぇ」
  愛着が湧いているらしい。
  確かに可愛いけどさ。
  見慣れると結構愛嬌があって可愛い生き物だとは思う。……攻撃的だけど。
  「納得した?」
  「ええ。この事は本に載せないとね。モールラットを家畜化出来るとしたら扱い方に注意しないと。どんなアレルギーを持っているかも分からないわけだから。
  ミルクはあげてもいいのかな? うーん。知識の探求は尽きないわ。アレルギーの事を聞いたら別のテーマも思いついちゃったわ」
  「あははははっ」
  思わず笑う。
  モイラ嬢、逞しいです。
  「ところでミスティ」
  「何?」
  「ハークネスってアンドロイドって本当? 本当なら少し研究したいのだけど」
  「それはクリスに言って」
  クリスの部下なわけだし。
  私のお願いは基本的に受け付けてくれない。カロンも同様。2人ともクリスに対して絶対的に忠誠を誓ってる。クリスの裁可がなければ無理だろう。
  もちろん取り成すけどね、クリスに。
  「彼女苦手なのよねー。じゃあ別の研究テーマにしましょうか。協力して、ミスティ」
  「嫌な予感がするなぁ」
  「交配実験よ」
  「交配?」
  「貴女とお父さんの交配実験なんだけど……」
  「是非ともー☆」
  「献身的な行いね☆」
  ……いや。
  冗談っすよ私の発言?




  モイラとのガールズトーク(そういうレベルだろうかは謎)を終えて私は昼食の為に酒場にいる。
  現在カウンター席でステーキ頬張ってます☆
  モリアティの酒場?
  いいえ。
  今ではノヴァ&ゴブの酒場と名前は変更された。
  経営陣の交替で清潔なお店になった。そういう意味では今の店の方が私には性に合っている。シルバーも噂を聞いて再びこの店で働いている。
  さて。
  「どうだい、うまいかい?」
  「おいしいわ。オーナー・ゴブ」
  「よ、よしてくれよ」
  まだその名称に慣れていないらしい。
  モリアティが変死して結構経つ。私達はその後すぐにパパを探しに街を離れたから経緯は分からないけど店は順調そうだ。
  よかったよかった。
  「元気してる? ミス・デンジャラス」
  「ノヴァ姉さん」
  「お父さんを置いて一人でここで昼食だなんて悪い娘ね。……そういう子にはお仕置きしてあげないとね……」
  「お、お願いします」
  どきどき☆
  「……だから、冗談よ」
  「えー」
  「まったく」
  相変わらずノリの良い素敵お姉さんだ。
  この流れをクリスに適用したら?
  ……。
  ……こ、怖いわね。きっと速攻で縛られて×××されたり×××しろと強要されたり挙句には……おおー、こわーいっ!
  ×××はお好みでお願いします。
  ほほほ☆

  ギィィィィ。バタン。

  扉が軋んだ音を立てて開き、そして閉じた。
  何気なく見る。
  「はぁ」
  溜息。
  その人物を私は見知っていた。
  柔和な表情をしているもののそれがどこまでもまやかしだと私は知っている。目は凍るほどに冷たい。
  ソノラだ。
  仕置き人組織レギュレーターの元締めだ。
  コツ。コツ。コツ。
  こちらに近付いてくる。
  当然私に用があるわけよね。
  「はぁ」
  聞いた話では本部に戻ったんじゃなかったの?
  やれやれ。
  「何かご用? ソノラ?」
  彼女は私の隣に座る。
  「お父さんと再会出来てよかったわね」
  「わざわざそれを言いに来てくれたってわけじゃあないわよね?」
  「お祝いよ」
  革の袋をテーブルに置く。
  「開けてみていいわよ」
  「そう?」
  促されて開ける。
  中には大量のキャップが入っていた。
  「3000あるわ。再会出来たお祝いにあげるわ。とっといて」
  「ありがとう」
  素直にお礼を言った。
  パパは今、メガトンの新居で実験の日々。邪魔をしたくないので私は大抵外をうろついてる。食事も夕飯以外は外だ。
  「ソノラ」
  「何かしら?」
  「私が街にいない間にビリーがレギュレーターになってたけど……何で?」
  「見込みがあったからです」
  「見込み?」
  「彼の過去を罰する為に私は彼を撃ちました。彼はそれを避けた。しかも過去を悔い改めようとしている。レギュレーターは過去の悪事から逃げる者を罰し
  ますがやり直そうとしている者は寛容に受け入れます」
  「そうやって手駒を?」
  「受け止め方は自由です。お好きにどうぞ」
  「で? 仕事って何?」
  「そんな事は……」
  「言ってない? あのねソノラ、貴女がお祝いだけで来る性格だとは思えないんですけど」
  「なるほど。ならば話は早い。討伐任務です」
  「誰を? ……ああ、スプリングベール小学校のレイダー?」
  「いえ」
  「じゃあ誰を討伐すんの?」
  「科学者です。レッドレーサー工場で何やら怪しげな実験を続けています」
  「ふぅん」
  レッドレーサー工場か。
  それどこ?
  PIPBOYを起動させる。起動させながらソノラに聞く。
  「そういえばどうしてメガトンに頻繁に来るの? 部下も配置しているし」
  「ミスティがいるからよ」
  「私が?」
  意味が分からない。
  ソノラは笑った。冷たい笑顔だった。……敵じゃなくてよかったなぁ。
  「ミスティを狙ってタロン社や奴隷商人がこの近辺を徘徊しています。我々はそれを排除する。正義の為にね。敵部隊を探して回るより効率がいいのです」
  「それって私が餌って事?」
  「受け止め方は自由です。お好きにどうぞ」
  「……」
  ふん。
  気に食わない。だけどメガトンを護ってくれているなら、まあ、よしとしよう。
  ピピ。
  PIPBOYに地図が表示される。
  さてさて。
  レッドレーサー工場はどこかな?

  『これは、ボルトテック社ボルト101からの自動救難メッセージである。メッセージ、開始』

  「ん?」
  緊急メッセージを私のPIPBOYが受信した。そしてそれを再生している。
  機械的な自動メッセージ。
  ただボルト101とか言ってたな。私がいたボルトだ。
  そして……。

  『貴女が去ってから大分時間が経ったわ』
  『きっと外にいるのよね。生きていて、これを聞いてくれてたらと思って』
  『貴女が去ってから事態は悪化するばかり。父は権力に取り付かれてしまったわ』
  『もしこれを聞いていたらお父さんを探すのをやめて私の父を止めて欲しいの』
  『扉のパスワードを私の名前に変えたわ』
  『これを聞いていて私を助けてくれるなら覚えていてね』


  「……アマタ……」
  「どうしました、ミスティ?」
  「悪いけどソノラ、任務は後回しよ。それが駄目なら他の人に回して。私はボルト101に戻る必要があるみたい」
  「そうですか。では任務は貴女に預けておきます」
  「分かった」