私は天使なんかじゃない








再会






  仮想世界は崩壊した。

  そして。
  そして私は現実に戻る。





  スタニスラウス・ブラウンは突然仮想世界から消滅した。
  現実世界で死んだらしい。
  だけどそれは誰が?
  私達は元の世界に戻る。
  システムがダウンしたのだ。……ようやくね。



  トランキルレーンの動作を終了した。
  キャノピーが開く。
  「ふぅ」
  そこは現実。
  ボルト112のトランキルラウンジだった。無数にトランキルレーンが立ち並ぶ場所。現実に戻ったのだ。
  「ふぅ」
  もう一度溜息。
  疲れた。
  というか肩が凝った。
  ポッドの中は窮屈だった。もちろん精神が向うに飛んでいたので肩凝りには今の今まで気付かなかったけど急速に肉体の疲れを脳が察知している。
  疲れたー。
  「一兵卒」
  「クリス」
  メガトンの保安官助手のクリスティーナは心配そうな顔をして私を見ていた。
  既に仲間ってわけよね。
  色々とセクハラ発言やら行動をされるけど仲間でいれて嬉しいと思う。背中を預けれる大切な戦友だ。
  「無事か?」
  「ええ」
  「必要なら人工呼吸をしてやるぞ? 心臓マッサージはどうだ? 何なら身体検査もしてやるぞ?」
  「……結構です」
  「ちっ! 空気読めっ! この空気詠み人知らずめっ!(ペルソナ3のテレッテレー風味)」
  「……」
  すいません戦友やめてもいいですか?
  相変わらずのクリス。
  うがああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああたまにはシリアスしたいぜこんちくしょーっ!
  ギャグからシリアスに転向したいミスティちゃんです。
  何気に仲間に恵まれてない?
  そんな気もするなぁ。
  やれやれ。
  「ミスティ、よく戻ってきたな」
  「アンクル・レオ」
  ドスドスと足音を立てて私の方に近付いてくる温厚なスーパーミュータント。……気付けば風変わりな仲間よね、彼って。
  まあ外観は関係ない。
  紳士な仲間よね。
  「あっ」
  「んん? どうした?」
  アンクル・レオの方を見て初めて気付く。
  破壊されたロボブレインがあった。
  首を回して周囲を見る。
  全滅だ。
  ロボットは全滅していた。
  何故?
  「クリス」
  「ああ、あの時代遅れの兵器どもか。突然襲ってきたから排除したのだ」
  「そう」
  突然、ね。
  トランキルレーンに入らない奴を排除するように命令されていたのか、それともブラウンの暴走の影響でその管理下にあるロボブレインも暴走したのか。
  謎だ。
  いずれにしてもその謎は解明できないだろう。
  ブラウンは既にいないのだから。
  「主」
  「助かったわ、グリン・フィス」
  ボルトスーツを着た従者が駆け寄ってきた。彼の精神もこちら側に戻ったのだ。
  正直な話、彼がいなければ私はここにはいないだろう。
  ブラウンはあちら側での自分の存在を強化していた。あからさまなまでにデタラメに、完全なるチート、完全なる改造コード。
  バランスブレーカーの極み的な存在だった。
  私では勝てなかった。
  グリン・フィスはアメリカ出身ではなくシロディール(どこだか知らんけど)で育ったらしい。多分ボルトテックのデータベースにも彼の出身地のデータが
  ないのだろう。つまり弄るに必要なだけのデータが存在していなかった。だからこそあちらの世界では『NO DATA』になってたのだろう。
  ……。
  ……多分ねー。
  自信?
  そんな食べ物は知らんクマ(ペルソナ4のクマ風味)。
  「ところでクリス」
  「何だ?」
  「他の生存者は?」
  トランキルレーンは全て開いている。
  もちろん。
  もちろん全員が生き延びたとは思ってない。小さなスラッシャーが虐殺して回ったから結構な数が亡くなったと思う。仮想世界での死は現実世界の死として
  作用するとDrブラウンは言っていたから死者が出たはずだ。全員助かったとは到底思えない。
  どれだけ生存?
  どれだけ死亡?
  気になる。
  クリスは答える。
  「全員死亡だ」
  「はっ?」
  「死んでいる」
  「そんなはずは……」
  「向うで殺された者はこちらでも死ぬ。そこに説明はいらんだろう。リンクが遮断されて戻った者達の死は仮説だが説明出来る。生命維持装置が稼動していると
  はいえ肉体活動は継続していた。システムが終了した時点で維持もまた遮断される。システムが稼動していたからこそ生きていたのだ」
  「……」
  答えたのは。
  答えたのはクリスではなかった。アンクル・レオでもグリン・フィスでもなかった。
  それは……。
  「久し振りだな、ティリアス」
  「あっ」
  ティリアス。
  それは私の本名だ。ミスティはあくまで愛称でしかない。ミス・ティリアス→ミス・ティ→ミスティ。本名で私を呼ぶのは限られている。
  Drリー、アマタ、そして……。

  「お前に助けられたな。一生あそこに閉じ込められるかとヒヤヒヤしたよ」
  「パパっ!」
  大きく両手を広げるパパ。
  私はトランキルレーンからその両手に飛び込む。
  「このボケーっ!」
  「ぐはぁっ!」
  バキィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィっ!
  必殺の飛び蹴りっ!
  そのまま引っくり返るパパ、その前に仁王立ちする私。感動の再会を期待していたのだろうか、クリス達は唖然としていた。
  感動の再会?
  感動の再会?
  感動の再会?
  はっはっはっ。世の中そんなにメルヘンだとお思いで?
  舐めんなよこの過酷の世界をーっ!
  うがあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああパパのお陰でどんだけ苦労した事かっ!
  誕生日の翌朝には監督官の部下達に襲われるわ外に出たら出たで身の危険なんて日常茶飯事っ!
  タロン社には狙われるわ奴隷商人とは因縁深めるわスーパーミュータントの軍勢とは宿命的な敵対するわで最悪だっ!
  さらにセクハラ娘に好かれる始末っ!
  黙って胸に飛び込む?
  はっはっはっ。
  ありえないんだよお父様よぉーっ!
  「反省したっ!」
  「……悪かった。置いてって悪かった」
  「誠意が籠もってないっ!」
  「すいませんでしたっ!」
  「よしっ!」
  「……お前、性格変わったな……」
  誰の所為だ。
  まったく。
  パパは戸惑いながらも立ち上がる。
  まあ、戸惑うのは仕方ないわね、私でも自分が変わったと分かってる。しかし変わらないなんてありえないでしょうよ。
  ボルト101とキャピタルウェイストランドとでは生活はまったく異なる。
  さて。
  「会えて嬉しい。……だがどうしてここにいるんだ?」
  「パパを探しに来たのよっ!」
  「ああ。そうしてくれて嬉しいよ。お陰で助かった。……まあ、こんな展開を予想していたわけじゃあないがな。ブラウンの性格がもう少し分かっていれば
  俺はあんなに間抜けな事にはならなかっただろうが」
  「犬になってたしね」
  「まさか娘に助けられる日が来るなんてな。ははは。俺も歳を取るわけだ。一人前だな、もう」
  「えへへ」
  「それに何だかんだで、ブラウンのお陰で浄化プロジェクトも死なずに済んだ」
  「何か分かったの?」
  「浄化プロジェクトを知っているのか?」
  「うん」
  「そうか。お前の辿った旅路がよく飲み込めないが……まあ、分かっているなら話も早い。説明しよう」
  「うん」
  今までの旅路は落ち着いてから話すとしよう。
  メガトンには新居があるし。
  核爆弾解体の報酬としてルーカス・シムズが家を提供してくれる事になってる。
  ……。
  ……パパとの新居。
  くっはぁー☆
  やべぇ。きっと濃厚な日々が待ってるんだろうなぁ。
  「ブラウンの事は思ったとおりだった。彼の開発した技術は不安定で危険でさえあった。ただ浄化プロジェクトに利用する事は可能だ」
  「どういう事?」
  「あくまで推測でしかないが目処は立ったとは言えるだろうな」
  「ふぅん」
  「しばらくは研究が必要だがな。G.E.C.Kを見つければ浄化プロジェクトは実行可能だ」
  「ここにはなかったの?」
  「ここのシステムはその応用だ。応用ではなく基礎が欲しいんだ。基礎が分からずして応用は理解出来ない。ブラウンは確かに天才だよ」
  「パパ」
  「なんだ?」
  「どうしてボルト101を捨てたの?」
  ずっと気になってた。
  どうして?
  どうして?
  どうして?
  そればかり思ってた。
  私は捨てられたとも思ってる。どうして何も言ってくれなかったのだろうと気に病んでいた。
  それは何故?
  「分かってくれ。あそこは俺の場所ではなくお前の居場所だった。娘がどこか安全な、ここでの出来事とは無縁の場所で育って欲しかった。お前
  に外に出て欲しくはなかった。あそこに留まって、安全で幸福な人生を歩んで欲しかった」
  「どうして言ってくれなかったの?」
  「もし俺が出て行くと知っていたら、ついて来ようとしなかったと本当に言えるか?」
  「それは……」
  「そういう事だ」
  「……」
  私は沈黙した。
  そう言われたらこれ以上の反論のしようがない。
  まあいい。
  今はこれ以上の議論はやめよう。
  「パパ」
  「何だ?」
  「私の仲間達。グリン・フィス、クリスティーナ、アンクル・レオ」
  「娘がお世話になっている」
  仲間に頭を下げるパパ。
  アンクル・レオを見ても特に驚いた様子はない。さすがはパパ……で済ませていいのかな?
  まあ、いいか☆(超投げやり)
  「お義父様。クリスティーナです。ふつつかものですがよろしくお願いしますわ☆」
  「娘がお世話になってます」
  ……。
  ……いえ、お世話になってませんからーっ!
  お義父様はやめてくれ。
  あぅー(泣)。
  「パパ。メガトンに落ち着かない?」
  「メガトンに?」
  「そう」
  「確かに研究の為にしばらく落ち着ける場所が欲しいが……」
  「ルーカス・シムズが家をくれるのよ」
  「家を?」
  「爆弾を解体した報酬」
  「ではあれはお前が解体したのか?」
  「えっ? あっ、うん」
  そうか。
  私らがここに到達する前にメガトンに立ち寄って爆弾解体を知ったのかもしれない。
  「お前は自分の身を危険に晒してまで人々を救った。お前は俺の自慢の娘だよ」
  「ありがと」
  わーい☆
  「お前の功績の家で研究を続けるとしようか。浄化プロジェクトの研究は止めるわけには行かないからな」
  「浄化プロジェクトは人類の希望だもんね」
  「だがそんな希望も最初はただの思い付きだったのさ」
  「そうなの?」
  「ああ。母さんの大好きだった聖書の一部を覚えているか?」
  「うん」
  「皆が無償で綺麗な水を使える。それがウェイストランドの人達の生活をどれほど変える事が出来るか、そうずっと考えていた。やがて時を経て
  その思い付きは浄化装置という形になった。だがボルトにあるようなものとは違う」
  「違う?」
  「こいつは巨大でいっぺんに何万リットルものを水を浄化出来るものなんだ」
  「Drリーに聞いたわ」
  「そうか。ともかく、ジェファーソン記念館をその設置場所に選んだ。DCのタイダルベイスンのすぐ側のな。お前の前で実現したいと思ってる」
  「私も見てみたい」
  「お前の育ったボルト101には独自の浄水システムがあった。綺麗な水の事を心配する必要はなかった。だが外の世界ではそうはいかないんだ。ここ
  の水はまず綺麗じゃないしほとんどの場合放射能に冒されている。通常の生活を送るのは困難だ。分かるだろう?」
  「うん」
  「それを変える事が出来れば人類再建の基盤となる。やり直せる可能性が生まれるんだ」



  ここに。
  ここにパパとの再会は無事に終わった。
  さあ、メガトンに帰ろう。





















  「ある情報を入手しました。大規模な作戦が必要です。世界の再生計画の為に。裁可を頂ければ幸いなのですが……」
  「君に任せよう。オータム大佐」
  「ありがとうございます。エデン大統領」