私は天使なんかじゃない








ボルト106 〜幻影都市〜






  現実。
  幻影。
  その境界線を見極める事は容易ではない。
  何故?

  自分の瞳に映るモノが必ずしも一定ではないのだから。
  そう。それが現実なのか幻影なのか、誰が見極める事が出来るのだろう。
  誰にも出来はしない。
  誰にも……。

  人は誰しもが自分が一番まともだと思い込んでいる。
  だからこそ見極めが難しいのだ。

  現実。
  幻影。
  その境界線を定めるのは他人ではなく常に自分。
  自分だけだ。






  ビッグタウンでの一件は完了。
  再びジェネラルを下して私達は南西に向かう。向かう場所はボルト112。場所はほぼ正確だ。
  ……。
  ……少なくともビッグタウンのダスティからもらった情報通りの方角に、位置に向っている。それが正しい場所なのかは不明だけどさ。
  私達は進む。
  ボルト112。
  それが目的地でありパパの居場所だ。
  ただ。
  ただ途中で面白い場所を見つけた。ボルト112じゃないけど別のボルト、見つけたのはボルト106だ。
  入ってみる。
  ある意味で興味本位だ。
  そしてそれが仇となる。



  「おーい。誰かいませんかー?」
  コツ。コツ。コツ。
  私は静寂に包まれたボルト106の通路を進む。
  誰もいない。
  誰も。
  1人で進む。
  他の仲間とは別れた。
  クリスとアンクル・レオは出入り口の確保で施設には足を踏み入れていない。何らかの問題で開閉システムが破壊されていたからだ。外からは開け
  られるけど中からは不可能。全員入った後で何らかの形で閉じらた場合、生き埋め状態となる。
  だからこそ入り口に2人を配した。
  一応はクリスは自発的にだ。
  アンクル・レオの人選?
  それは私ではなく実はグリン・フィスの進言だ。私に小声で彼は耳打ちした。

  『クリスの派閥で固めさせては面倒かと。万が一という事があります』

  グリン・フィスの言い分。
  それはつまりクリスに思惑があった場合、ここに閉じ込められるのではないかという示唆だ。
  馬鹿馬鹿しいとは思う。
  だって仲間だもの。
  疑うのは好きではないけど、一応はグリン・フィスの進言を取った。
  もちろんクリスにはそうは言わずに『アンクル・レオは巨漢だから屋内の探索には向かない』という理由で彼を配置した。
  そして私達は侵入した。
  扉の制御区画こそ荒廃していたものの内部は極めて綺麗だ。
  どうやらまだこのボルトは機能しているらしい。
  地下深くに建造された核シェルター。
  もっとも核の直撃を受けたり内部崩壊したりとした壊滅したボルトは多いと聞いた事がある。ここは清潔で滅菌されている。機能しているらしい。
  ただ……。
  「うーん」
  誰もいない。
  誰も。
  そして仲間ともはぐれてしまった。
  グリン・フィス、ハークネス、カロンはどこに行ったのだろう?
  私がはぐれたのか、それとも……。
  「まあいいか」
  特に問題はないだろう。
  全員武装しているし。
  仮に問題があってもボルトの防衛能力は実際問題それほど大した事はない。唯一の出入り口の扉の強度は軍用兵器でも吹っ飛ばせない。
  要は内部の統制の為の銃火器さえあればいい。
  だから。
  だからあまり大袈裟な武器は必要ないのだ。
  私のいたボルト101の最強の武器は10mmピストルだった。もちろん銃だから危険だし物騒だ。だけど今の私達の武装からしたら豆鉄砲だ。
  まあ、戦闘を考慮はしているけど戦闘するつもりはさほどない。
  特にここに敵意はないし。
  向こうの出方次第だ。
  ……。
  ……だけど人が誰もいないのよね。
  清掃は行き届いている。
  清潔だ。
  空調も完全に作動している。特に問題なく……まあ、ただ、少し臭うかなぁ。
  何なんだろ、これ。
  それに視界にたまに青みが広がるような感覚に陥る。
  疲れてるのだろうか?
  そうかもしれない。
  ビッグタウンの激戦の後にすぐに旅立ったからなぁ。
  ここ最近旅の連続だし。
  疲れがたまっているのかもしれない。
  コツ。コツ。コツ。
  無人なのだろうか?
  私は静寂の世界を1人で進む。アサルトライフルはいつでも発射出来る態勢を維持している。歩調も当然ながら不意打ちにも対応出来るようにしてある。
  タタタタタタタタタタタッ。
  「ん?」
  誰かが視界の端を走っていった。
  白衣の人物。
  誰だろう?
  部屋の1つから飛び出して廊下の角を曲がっていった。
  私も走る。
  「あれ?」
  いない。
  廊下を曲がるもののその姿はなかった。見た感じ先に繋がる廊下は一本道。部屋すらない。どこ行った?
  それにしても今の後姿ってパパ?
  ありえない。
  気のせいだろう。
  「いや。そうでもないか」
  パパはボルト112に向った。そしてここはボルト106。向かう場所とはまったく異なるものの、パパはボルトの技術を欲していた。何らかの形でここを見つけ、
  そして探索している可能性もある。
  まあ、憶測だけど。
  だけど可能性としてはまったくゼロではないだろう。
  「うーん」
  左手で赤毛の髪を掻きあげる。
  目の錯覚だろうか。
  それとも視界にはただの一本道の廊下に映るだけで、進んでみれば部屋があるのかもしれない。もっともそうだとしてもあの白衣は足が速過ぎる。
  まあいい。
  白衣の人物が飛び出した部屋を調べてみる。
  清潔な部屋だ。
  久し振りに滅菌されたボルトの世界。
  これが今まで普通だと思ってた。つまりボルト101での生活が世界の共通基準だと思ってた。実際外の世界は不潔で不衛生の世界だった。だけど今の私
  には外の世界の方が心地良い。不潔や不衛兵を肯定するわけじゃあない。
  ただここは綺麗過ぎる。
  まるで冷たい棺桶の中にいるようだ。
  さて。
  「このパソコン、起動している」
  誰かが起動させたのだろう。
  おそらくさっきの白衣の人物。機密ファイル閲覧のパスワードが既に入力されておりファイルの閲覧は可能だ。
  トップシークレットと記されている。
  見てみよう。



  『セキュリティへ』

  『居住者が異臭や空気に微かな味が混ざっている事に気付いたら心配は無用だと彼らを安心されるように』
  『建物の空調ろ過システムにわずかな障害が生じただけで警戒するには及ばない。既に不具合は修正されたと告げるように厳命する』
  『薬物散布の影響を色濃く受けて挙動がおかしくなった居住者は直ちに拘束、医療チームに引き渡す事』
  『居住者は我が社の開発した新薬の実験台だという事を悟られてはならない』
  『万が一の際の発砲は許可する』


  「新薬?」
  何だこの情報。
  そしてその薬は散布されているらしい。空調システムから漏れている。
  もしかして私って今危険?
  ……。
  ……危険ね。
  もちろんこれが正しい情報だと仮定した場合だ。ただわざわざ欺く内容をファイルしているとも考えられない。
  だとしたら限りなく真実なのだろう。
  「うーん」
  住民がいないってそういう事?
  だけど誰の死体もないっていうのはおかしいだろ。暴動があって誰もいないにしてもさ。
  それに清潔過ぎる。
  血糊等がないのだからデマなのかしもれない。つまりプロパガンダ。
  まあいい。
  進むしかないわけだ。来た道は覚えてる。つまりクリスと合流する事は容易に出来るし銃火器も身につけている。奥に進んでも特に問題はあるまい。
  大抵の問題は実力で粉砕できる。
  奥に進む。
  奥に。
  無言で私は進む。……1人なんだから饒舌に進んでも仕方あるまいよ。
  進んでも特に問題はない。
  支障もない。
  ただただ視界に青がちらつくだけ。
  散布されている薬物?
  まさか。
  ただのデマに過ぎないわ。
  世界でもっとも偉大なボルトテック社が開発した核シェルターであるボルトでそんな実験が行われるわけがない。
  監督官は偉大なのだ。
  そんな計画が実行に移されるわけがないのだから。
  エントランスに出る。
  そこには大勢の人間がいた。

  「やあ」
  「君も一緒にビリヤードをしないか?」
  「あら。新しい子ね」

  人々はボルト106のジャンプスーツを着ている。
  ふぅん。
  どうやら誰にも会わなかったのはビリヤードの大会をしていたかららしい。
  なるほどなぁ。
  監督官の事を少しでも疑って私は恥かしく思う。
  1人が柔和な笑みを浮かべて近付いてくる。彼女は私に右手を差し出す。私も穏やかな笑みを浮かべてその手を握った。これで友達だ。
  彼女は言う。
  「ボルト106へようこそ。あたしはビターカップ」
  「ミスティよ」
  ビターカップ?
  聞いた事がある名前だ。
  まあ、気のせいだろうけど。
  「そんな物騒なものを持ってどうするつもり? もしかしてパーティーを盛り上げる為? だとしたら無粋よ。その手のギャグはブッチがした後よ?」
  「うわぁ。もしかして私って二番煎じ?」
  「そうなるわね。ふふふ」
  「じゃあ預けておくわ」
  「ゴミ箱に捨てちゃいなさいよ。……だけど安全装置は掛けてね? ルーシーとイアンは暴発してびっくりしたらしいし」
  「気をつけるわ」
  安全装置をかけてゴミ箱に銃火器の類を捨てる。
  「モイラ、彼女に服を。ああ、ありがとう。……さっ、これに着替えて」
  ボルト106のジャンプスーツを貰う。
  「ここでー?」
  「そうよ。皆家族じゃないの。いつまでも不潔な世界のモノをここに持ち込んでは駄目よ。さあ、全てを神聖なるボルトのモノと交換しなきゃね」
  「そうね。裸なんて大した事ないわね。……ちょっとクリス、ニヤニヤして見ないでよっ!」
  「ふふふ」
  クリスの視線が気になるものの着ているモノを全て脱いでジャンプスーツを纏う。
  これで私も規律あるボルト106の住人だ。
  「さっ、おいで。皆に紹介するわ」
  「お願いします」
  「ちょっと聞いて」
  ビターカップは仲間達に呼び掛けると皆こちらを向いた。50人はいるだろう。
  視線は私達に集中した。
  「この子はミスティ。新しい仲間よ。ほら、挨拶して」
  「ミスティです。新参者ではありますがこれからボルト106の住人としてベストを尽くします。監督官の忠実に生きる事を誓います」
  ぺこりと頭を下げた。
  ピターカップはにこやかに笑う。そしてボルトの規律を口にした。
  皆もそれに続く。
  私もその規律を知っている。ボルトの住人の義務であり誇りだ。

  『私達はボルトで生まれ死んでいく。監督官は偉大なお方』

  うーん。
  やっぱりボルトって素敵よね。
  ここに骨を埋める事が出来るのは私の誇りだ。ボルトは永遠で不変。私はこの先もここで生きていく。その為には監督官に忠実でいよう。あの偉大な
  お方の手足として、いいえ、それすらもおこがましいか。そんな贅沢は言えないわね。
  ともかく。
  ともかく私はボルトの管理&運営の為の歯車でいよう。
  消耗品でもいい。
  こんな不出来な私を置いてくれている監督官に感謝。
  奉仕の心こそが全てだ。
  「ビターカップ、監督官にお会いした事はある?」
  「当然よ。偉大なお方よ」
  「いいなぁ」
  「ミスティは監督官に全てを捧げる準備は?」
  「当然あるわ。人生捧げてご奉仕しないとね。ここに住まわせてくれている恩義を忘れるぐらいなら私は死ぬわ」
  「さすがね。良い子良い子」
  「えへへ☆」
  頭を撫でられて私は嬉しくなる。
  アマタってやっぱり頼りになるお姉さん的な存在だ。
  「あれー?」
  「どうしたのミスティ?」
  「どうしてアマタになったのー?」
  「まだ幼いミスティには分からないかもしれないけど、これが心地良い現実なのよ。さてミスティ、ママと一緒に偉大な監督官様をお部屋で讃えましょうね」
  「うん。ママ☆」
  ギュッ。
  ママに抱き付く。
  やっぱりママは温かいなぁ。
  「さあ。お部屋に戻りましょうか」
  「手を繋いでいこうよ」
  「はいはい。甘えん坊ね」
  「えへへ☆」
  手を繋いで私はママと一緒にお部屋に戻る。パパは今日も遅くなるらしい。お仕事大変だなぁ。
  私も大きくなったらお仕事手伝ってあげたいな。
  だけどどうしたら大人になるんだろ?
  手を繋いで歩きながら隣を歩くママを見上げる。比べると分かるけど私はまだ小さな子供なんだなぁ。ママが私を見た。微笑している。
  「どうしたの、可愛い娘」
  「大きくなったらパパとママのお仕事私も手伝ってあげるからね☆」
  「ミスティは良い子ね。他の5歳の子ならそんなにしっかりしてないわよ? 本当に貴女は自慢の子供ね」
  「わーい☆」
  部屋に戻る。
  部屋で監督官様を讃え、その後でママと遊ぶ。夕食はママと2人。パパはまだ戻って来ていない。大変だなぁ。
  私はママが洗い物をしている間にパパの研究室に遊びに行く。
  研究ラボ。
  パパがいた。だけどまだ気付いていない。
  私は忍び足でラボに入る。
  まだ気付かれていない。
  そして……。
  「わっ!」
  大きな声を出した。
  パパは驚いた……あれ?
  パパがいない。
  そして気付けば私はいつの間にかパソコンの前に座っていた。どうして?
  文章が画面に現れる。
  次々と。


  『TO.ME』

  『この場所はどうです?』
  『ここはとても素晴しいでしょう。そろそろ貴女もどうですか?』
  『新しきを認め、この変化を受け入れる時期では?』
  『さあ。肩の力を抜いて』

  『ほぉら。実に素晴しいじゃありませんか?』
  『青に包まれて深呼吸してごらんなさい』
  『さあ。肩の力を抜いて』

  『いいですか。ここには必要なモノが全て揃っています』
  『貴女の大好きなパパも、ママも、親友のアマタも、悪友のブッチもいます。貴女も受け入れるんです、この青の幻影を。受け入れれば幻影は実体』
  『全てを委ねれば貴女は常に幸福になれるのですよ?』
  『ここにいるうちに楽しみましょうよ』
  『悦楽は貴女の思いのままだ』

  『楽しみましょう』
  『どうせいつかは死ぬんだ。だったらなんでも思い通りになる世界の方がいいでしょう?』
  『全て貴女の思ったとおりの世界です』
  『愛も安らぎも至福もここにはある。苦痛な世界などには必要がないでしょう。誰だって傷付かない方が一番幸せなんだから』
  『さあ。貴女もどうです?』
  『さあ』


  「わ、私は……」
  頭が痛い。
  頭が。


  『否定しますか?』
  『それならそれでいいんですよ。そしたら貴女のパパとママはこの世界から消える。お友達も全部いなくなる。貴女は一人ぼっちだ』
  『この孤独な世界』
  『耐えられますか?』
  『誰にも必要ともされずに生きていける自信がおありですか?』
  『全てを受け入れるんです。そして深呼吸』
  『深く深く深呼吸』
  『もう一息で貴女は安らぎの住人になれます』
  『さあ。深く呼吸を』
  『さあ』


  「わ、私は……」
  頭が痛い。
  頭が。
  何か大切な事を忘れている気がする。
  何だろう?


  『ふん。もういいです。貴女との会話はお終いだ』
  『せいぜい地獄を生きればいい』
  『そうさ』
  『死の一瞬までね』
  『……それがお嫌なら深呼吸してごらんなさいよ。何が幸福で何が苦痛かが分かる。心がそれを真実と認めればそれが真実なのですよ』
  『何も戸惑う事などない』
  『そしてそれは恥ずかしい事ではないのです。人間ならば好きに選択すべきです。どのような流れでも幸せなら別に良いじゃないですか』
  『さあ。受け入れましょう、これが真なる世界だと。最初の一歩だけですよ勇気がいるのは』
  『さあ』


  「わ、私は……」
  頭が痛い。
  頭が。
  何かが頭の中を掻き乱す。
  勝手に頭の中を掻き乱すこの声が頭痛の原因か。
  「お前、うるさいっ!」
  ガチャアンっ!
  私はパソコンを机から放り投げた。バチっと音を立ててパソコンは沈黙する。
  「はあはあ」
  立ち上がる。
  頭痛が消えていく。そして気付く。傍らに立っている仲間達と暗く薄汚れたボルト106の室内。……さっきまで誰もいなかったし清潔感溢れる世界だった。
  何故?
  すべての計器は沈黙している。
  壊れて随分経っているようだ。だとしたらさっきまでは……。
  「主」
  「グリン・フィス」
  「どうぞ」
  「あ、ありがとう」
  銃火器を差し出される。私のだ。コンバットアーマーも私のだ。ライリー・レンジャーから貰った代物だ。
  今現在纏っているのはボルト106のジャンプスーツ。
  服は汚れきっていた。
  そして……。
  「死体?」
  仲間達の後ろには死体が転がっている。無数にだ。
  ボルト106のジャンプスーツを着込んだ連中だ。
  カロンが呟く。
  「あんた大丈夫か?」
  「私どうかしてた?」
  「心ここにあらずって感じだな。呼び掛けにも応じてなかった。さっきだって1人で食事食べる振りしてたぞ。ママがどうのこうの言ってたな」
  「……」
  あ、危ないところだった。
  つまり。
  つまり完全に薬物中毒になってたわけだ。
  妄想の虜に。
  その時ボルト106の住人達の奇声が響いて来た。さっきまでのフレンドリーさは幻覚なのか、それとも幻覚に冒されていない者には敵対的なのか。
  よく分からんが好意的ではないのは確かだ。
  「防御体勢っ!」
  「御意」
  そして……。





  『ボルト106の監督官の日記』

  『本社からの命令により計画をスタートさせる』
  『この計画はある新薬の散布実験』
  『ボルト106の全住人対象の大規模な実験だ。こんなご時世だからボルトに入りたがっている人間はたくさんいる。補充は容易だろう』

  『我々管理部は予防薬を摂取している』
  『我々だけが常に平静と理性を保てるというわけだ』

  『実験の初期を完了』
  『これといった変化は見られない』
  『次の段階に進むとしよう』

  『散布計画が成功すれば我が社は大きな権力を握る事になるだろう』
  『感染した人間は理性を失い、自我を失い、妄想の虜となる。そしてこれが軍隊に影響を及ぼせば勝手に瓦解する。仲間同士で殺し合うからだ』
  『ボルト92の実験とともに並行してスタートした我々の計画』
  『向うの計画は暗示性のある音だ』
  『つまり我々が進めている実験と共に必要不可欠というわけだ。2つが合わされば妄想に支配された軍隊を牛耳る事が出来る』
  『責任ある実験だ。従事出来る事を誇りに思う』

  『住民が騒いでいたのでセキュリティに鎮圧させた』
  『麻薬中毒者として処理した』
  『モルモットが足りないな』
  『本社に要請しよう』

  『新たにモルモットが50名やって来た』
  『ボルトに避難出来た事を喜び、至福そうな顔をしているおめでたい連中だ』
  『モルモットに過ぎんというのにな』

  『第三次計画に移行』

  『失敗だっ!』
  『強過ぎる薬物散布により住人が多数死亡した。推定被害は80名』
  『まあ予備はいくらでもいる』
  『補充を再び要請しよう』

  『モルモット100名補充完了』

  『外の世界で大きな展開が起きた』
  『本社からの連絡がなくなった。今後は我々はどうすればいいのだろうか?』

  『計画続行を決定』
  『各ボルトとの通信会議により我々の社会保存計画は続行される事になった。今後はボルト87の監督官が指揮権を振るう事になる』
  『本社がなくとももはや問題はない。連中は所詮は現場を知らない無能でしかないのだから』
  『我々が世界を制するのだ』

  『提携していた別企業アンブレラ社が壊滅したらしい。フェラル・グールの暴走を抑えられずに全滅したようだ。バイオハザードという報告もある』
  『ウイルスの扱いは業界随一と言っていたにしては管理はずさんだな』

  『第四次計画に移行』
  『今回は薬物の濃度を控えてある。研究部はこれで問題ないと言っている。信じよう』

  『ボルト92、ボルト108が通信を絶った。ただの通信事故だろうか?』

  『今度はボルト87が音信普通となった』
  『残るは我々のボルト106、ボルト101、ボルト112のみだ。他にもボルトはあるようだが知っているボルトは既に壊滅している』
  『他にもあるのかもしれないが我々には知らされていない』
  『本社がない以上問い合わせる事も出来ない』
  『本社が真っ先に吹っ飛んだりだから』
  『会議により今後はボルト101が主導権を引き継ぐ事になった』

  『第五次計画に移行』

  『物資が尽きつつある』
  『補給は望めない以上、外から調達するしかない』

  『日に日に状況は悪くなる』
  『備蓄の物資は次第に底を尽きつつある』
  『特に問題なのが精密機器の維持だ。そして薬品。当然ながら開発は出来るもののそのスピードは消費に比べると遅過ぎる』
  『このままでは研究ラボが維持出来ない』

  『このまま実験を続ける意味が分からなくなる』
  『ボルト112からの報告が途絶えた』
  『ボルト106以外で制御出来ているのはボルト101のみだ』

  『薬物の散布システムが崩壊したっ!』
  『もはや我々には散布を止める手立てがない。予防薬を摂取している我々には問題はないがモルモット達は次第に狂いつつある』
  『だが濃度を薄める事すらもはや出来ないのだ』

  『住民が暴徒と化したっ!』

  『まずい事に外界に通じる唯一の扉の開閉システムが暴徒に破壊された』
  『我々はここに閉じ込められたのだっ!』
  『外からなら開閉出来るのだが、そもそも外に出る手立てがない。そして通信機器も破壊された。ボルト101に助けを要請する事も出来ない』
  『孤立した。この妄想と暴走の世界に』

  『セキュリティは銃火器を有してはいるものの住民全てを全滅させるほどの弾薬は有していない』
  『次第に我々は追い詰められつつある』
  『さらにセキュリティの中にも挙動がおかしい奴らがいる。空調から流れる薬物の濃度が高過ぎるのだ。予防薬が感染を抑えきれないっ!』

  『最後の砦だ』
  『我々は私のオフィス、つまり監督官の執務室に立て籠もる』
  『住民達は我々をどういう対象として追い込んでいるのだろう。既に理性はなく妄想だけで動いている暴徒達は恐怖を知らずに襲ってくる』
  『弾薬は尽きた』
  『もうこれでお終いだ』

  『思えば』
  『思えば私は監督官なのか?』
  『私も実は薬物で理性を失い、自分が監督官だと妄想している住人ではないのか?』
  『心を操作するのが恐ろしい事だと初めて気付いた』
  『お願いだ。誰か助けてくれっ!』

  『ボルト。ボルトテック社が最先端の技術で開発した核シェルター』
  『だが思うのだ』
  『我々は自らをエリートだと思い込み、この地下深き王国に君臨してきた。だが実はここは墓穴だと思う事がある』
  『我々はお利口そうな顔をしながら自分達の墓穴を作っていたのだ』

  『予防薬の摂取を中断して3日』
  『奇跡的に暴徒から逃れて1人生き残ったがこれ以上生きれる自信がない』
  『暴徒達はセキュリティを全員殺し、その次には暴徒同士で殺しあった。何と浅ましい姿だ。我々が薬で弄ったとはいえこれが人間の本質なのか?』
  『なんと浅ましい』

  『冷たい墓穴に生きるのは私だけだ』

  『青い幻影に身を委ねよう』
  『心地良い』
  『そう。心がそれを認めれば幻影は現実、現実は幻影。私は幻影という現実に生きるのだっ!』






  「はぁ」
  散布システムを爆破して私達は再び荒野を行く。
  ボルト106の探検終了。
  結局あの施設は何だったのだろう?
  いや。
  施設の目的も意味も理解している。私が思うのはあの施設のシステムは完全に自律して作動していた。空調に流れる薬物は常に精製されて補充さ
  れていた。既にそのシステムを扱う人間すらいないのに動作していた。
  まるで怨念が動かしていたようだ。
  怖い怖い。
  「はぁ」
  寄り道は思った以上に疲れた。
  興味だけで動くもんじゃない。
  それに大分自己嫌悪をしている。シロディール出身のグリン・フィスには薬は通用しなかった。出身地によっては効かないのかな?
  カロンはグール。あの薬は人間専用だったらしく彼にも無効。
  ハークネスはアンドロイド。そもそも効かない。
  クリスとアンクル・レオは薬の範囲外。
  つまり私だけが影響下にあったわけだ。そして薬の影響でずっと側にいた仲間達すら気付いていなかった。ずっと視認出来ないでいた。という事は全裸を見
  られたわけだ。おそらく仲間の制止すらも聞こえないまま、仲間の前で全裸になったのだろう。
  晒されたミスティちゃん☆
  えへへ☆
  ……。
  ……うがあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああなかった事にしてくれーっ!
  クリスいないでよかったーっ!
  そこはマジ感謝っ!
  おおぅ。
  「はぁ」
  「主。その、申し訳ありませんでした。全て見てしまって」
  「ん? ああ、あ、あれは仕方ないわ。気にしないでー」
  「御意」
  
投げやりな私。
  クリスはクリスで悔しそうに舌打ちしている。
  はぁ。
  疲れる展開。

  それにしても監督官(あくまで自称。途中で監督官と思い込んでいる住民と代わっている可能性あり)の日記を読んで私は思う。
  ボルトは悪意の場所なのだと。
  比較的に私の住んでいたボルト101は平和だった。
  それは何故?
  それも発覚した。ここのターミナルを操作して知ったのだけどボルト101は『純血』を維持する為の施設だった。
  世界が再建した後に世界に再び満ちる為の純血の保存場所。
  そして知る。
  ボルト101の監督官が私を毛嫌いした理由が分かった。要は私は不純な血筋の外の人間。そんな私が目障りだったのだ。監督官は純血至上主義者
  だったというわけだ。だから娘のアマタに私が近づく事を嫌ったというわけだ。
  なるほどなぁ。
  「はぁ」
  「どうした一兵卒」
  「何か色々と知って疲れたのよ」
  「添い寝してあげようか?」
  「……遠慮しておく」
  「相変わらずツンデレだな。世の中損するぞ、それではな。たまには黙って服を脱いで私に抱き付くといい。素直になれ。……うふ、うふふ……」
  「……」
  誰がツンデレだ誰が。
  相変わらずクリスは変態……いえいえ、一風変わった奴だ。
  それにしても。
  「あいつらは誰だったんだろ」
  ボルト106はずっと昔に壊滅していた。
  あいつらは生き残りではないだろう。多分偶然ボルト106を見つけてそこに住み着いた連中なんだろうけど……どうして自分達をボルト106の住民だと思いこ
  んで演じていたのだろう。場所柄的に勝手にそう思い込んでいただけかな?
  自分達も気付かないままに?
  うーん。
  真実は闇の中だ。
  今さらもう分からない。
  今さらね。
  全滅させたし。
  さて。
  「ボルト112か。ボルトって実はかなり怖い場所なんだなぁ」
  だけど向わなきゃ。
  そしてパパに会うんだ。





















  「主任。クライシス主任」
  「どうした?」
  「遠隔操作して実験していたボルト106の機能が停止しました。反応がありません」
  「何だと? 通信システムの誤作動ではないのか?」
  「いえ。ボルト92とボルト108は操作出来るのでそれはないかと思われます。どうやら完全に向うのシステムがダウンしたようです」
  「つまり破壊されたと? 何者かが入り込んで破壊したと言うのだな?」
  「おそらくは」
  「被験者達はどうなった?」
  「全滅したかと思われます。調査部隊の派遣を要請しますか?」
  「……」
  「主任」
  「データのバックアップは?」
  「あります。昨日のもので最新ではありませんが……」
  「後で私に提出するように」
  「了解しました」
  「本社に指示を仰がねばならんな」