私は天使なんかじゃない








決戦ビッグタウン






  準備は整った。
  準備をする時間は充分にあった。

  一宿一飯の恩義。
  それだけの為に戦うのかと聞かれれば私は首を横に振るだろう。
  それだけではない。
  人との繋がりを強くする事で私は強く生きていける気がする。
  そんな気が……。





  早朝未明。
  ビッグタウンの前にスーパーミュータントの大部隊が展開した。手にはそれぞれアサルトライフル、ハンティングライフルを装備している。
  見た感じミニガンやミサイルランチューの類は装備していない。
  ふむ。
  どうやらジャーマンタウン警察署の爆破は当たりだったようだ。
  あそこには様々な銃火器が山積みされていた。
  つまりあそこは前線基地であり本拠地(おそらくはボルト87。場所は知らないけど)との中間地点、そして武器や弾薬、物資の集積場所。そこを吹き飛ばし
  た事により相手の戦力は一気に半減したのだろう。
  正直な話として大型兵器がないのは助かる。
  ミサイル乱打されても困るし。
  数は100。
  正確には当然ながら数えていないけど大体100だ。
  つまり。
  つまりジャーマンタウン警察署にいたのはやっぱり留守部隊だったのだ。
  それを見越していたから私達は準備が出来た。
  よかったよかった。
  そして……。


  「撃てっ!」
  私の掛け声と同時に銃声が轟いた。
  吊橋を渡ろうとするスーパーミュータントどもを住民達の一斉射撃が次々と撃ち抜く。もちろん正式な訓練を受けたわけではない住人達のは正確な射撃で
  はなく結構甘い狙いではあるものの数撃てば当たる。
  バタバタとスーパーミュータントは倒れる。
  相手は奇襲するつもりでいた。
  いつも通りの襲撃気分でやって来たのだろう。
  それはつまり『ビッグタウン、オソッテヤルゼー。ガッハッハッ』的な感じのノリで襲撃した来たのだろうね。
  それがそもそもの過ちだ。
  街の住人は反撃する準備を整えていた。それに対してスーパーミュータントは甘く見ていた。そこに大きな差が生じる。そしてその差が勝敗を分けるのだ。
  必死で戦うつもりでいた私達が負けるはずがない。
  それに……。
  「食らえーっ!」
  バリバリバリ。
  バリケードに隠れながら私はアサルトライフルを掃射。
  1発1発の威力は大した事はないアサルトライフルの威力でもそれが頭部に集中すれば意味はまったく変わる。スーパーミュータントは数発で動かなくなる。
  頭部は生き物の中枢。
  スーパーミュータントといえどもそれは例外ではない。
  効率的に私は敵を撃破していく。
  ……。
  ……まあ、私だから出来る事よね。
  特別な能力私にはあるし。
  正確な射撃の為に時間を止められる。理屈?
  そんな食べ物は知らんクマ(ペルソナ4のクマ風味)。
  まあ、ともかく敵はまだこちらの攻撃から立ち直っていない。ある意味で私達が奇襲を仕掛けたようなものだ。
  敵軍は満足に反撃すら出来ていない。
  いや。
  もちろん撃ち返しては来ている。
  だけどこちらはそれぞれ今回用の為にバリケードを作っている。それぞれバリケードに身を隠しながら応戦している。何名かは腕とかに銃弾を受けて倒れ
  るものの死んではいないし、それに大抵の攻撃はバリケードに阻まれて届かない。
  地の利はこちらにある。
  負けるものか。
  それに……。

  「ふっ」
  「俺は機械だっ!」

  吊橋の右手にある建物の屋根の上。冷笑を浮かべながらスナイパーライフルで的確に相手の頭を射抜くクリス。
  吊橋の左手にある建物の屋根の上。意味不明な台詞を叫びながらミニガンを乱射するハークネス。
  様々な角度からスーパーミュータントは攻撃されて立ち直れないでいる。
  特にハークネスが目立っていた。
  ミニガンの銃撃音は激しい。
  さらに言うならハークネスは屋根の上に突っ立っている。仁王立ちだ。目立つ。
  スーパーミュータントはどうしてもハークネスを意識してしまう。そして他の者達への視認が散漫になってしまう。
  当然ながらハークネスは攻撃の対象にもなりやすい。
  だけど。
  「俺は機械だっ!」
  アンドロイドのハークネスには銃撃は効いていない模様。
  ミニガンが火を噴く。
  どんなに堅い肉体を持ちタフなスーパーミュータントといえどもミニガンの豪快な掃射をまともに受けてはどうにもならない。
  その時……。
  
  「ヒケーっ!」

  スーパーミュータントの1人が叫んだ。
  悲痛な叫びだ。
  その言葉と同時にスーパーミュータント達は後退を始める。隊伍なんてあったものじゃない。連携も指揮系統もバラバラだ。だけどこっちはそれを許さない。
  容赦なく敵にに攻撃を加える。
  減らせる内に減らす。
  それは基本だ。
  街の真正面、吊橋の右手の建物の屋根の上、吊橋の左手の建物の屋根の上。
  3方向からの射撃は容赦なく敵を殲滅していく。
  銃弾?
  たんまりとあるわ。
  警察署から強奪して来たのは基本的に弾薬が多い。その次に食料等の物資だ。6人で救出に行き、帰りは解放した人質を含めて8名程度の人数とは
  いえハークネスは腕力全開のアンドロイドですからお陰様で大量に戦利品は頂けました。
  アンクル・レオもいたしね。
  だから。
  だから頂戴した弾薬はたくさんある。
  撃って。
  撃って。
  撃って。
  私達は撃ちまくった。
  スーパーミュータントは次々と後退して行く。射程から消えるまでの間に死骸は40を越えるほどに築いた。
  「ふぅ」
  射程外に撤退すると私は安堵の溜息。
  追撃?
  しないわ。
  そもそもこの籠城を前提に準備して訓練した。追撃を出来るスキルは街の人にはない。
  人数もいないし。
  わざわざそこんな危険を冒す事はないだろう。
  とりあえず。
  「勝利かな」
  第一次遭遇戦、勝利。


  「何とか生きてる。今はまだね」
  「……ビターカップ、捻くれてるわね」
  昼食終了。
  缶詰の類もジャーマンタウンから大量に失敬して来た。だから昼食はなかなか豪勢でしたとも。
  満腹満腹。
  あの後。
  あの後スーパーミュータントは何度か攻撃して来た。
  ただ小競り合い程度。
  それを数度繰り返した。当然勝利した。相手には何か考えがあるのだろうか?
  よく分からない。
  というかよく相手の考えが読めない。
  こちらの防御は完璧。
  少なくともビッグタウン前面の防衛能力は完璧だ。当然防衛能力=攻撃力。つまり攻撃は完璧。相手がどれだけ襲来して来ようとも撃退するまで。
  今はこちらのペースだ。
  このままこれを維持しないとね。
  相手はもしかしたら繰り返し小競り合いを続ける事でこちらを引っ張り出そうと挑発しているのかもしれない。
  取るに足らない存在だと思わせる事でね。
  だとしたら甘い。
  そんな挑発になど乗るもんか。
  「ねぇ」
  「何?」
  ビターカップと私は一緒に食事をした。
  意味?
  さあ分からない。
  普段ならクリスが何か言ってくるところだけど彼女は屋根の上で待機。スナイパーは大変だ。狙撃する能力に長けているという事は見張りにも長けて
  いるという事だ。視力は私達よりも良いし。それに狙撃レンズを通して周囲を見る事に慣れている。
  全面的に任せるとしよう。
  吊橋の左手にある屋根の上にいるのはハークネス。彼は探知能力に長けている。
  敵が来れば簡単に分かる。2人とも見張りには最適だ。
  お任せしましょう。
  さて。
  「ねぇ」
  「だから何?」
  「本当に勝てると思ってるの?」
  「まあ、そのつもり」
  「やめてよ」
  「はっ?」
  「あたしはようやくこれで死ねると思ってたのに。……皆がうるさいのよ。早く一緒に逝けってさ」
  「……」
  あらぬ方向を見ながら言うビターカップ。
  うーん。
  霊視がデタラメな能力だとは言わない。てか私も大概妙な能力有しているしね。
  その時クリスの声が響く。
  「一兵卒っ! 乳繰り合ってる場合じゃないぞっ!」
  「乳……」
  何言ってんだあいつはーっ!
  ビターカップとの会話を妬いているのだろうか?
  ……。
  ……いやまあ妬かれても困るんですけどねー。
  ともかく。
  私は彼女の叫びを聞いて立ち上がって街の外を見る。奇妙な連中が群れをなしてこちらに向かって来ていた。そしてその背後にはスーパーミュータント。
  なんだぁ?
  あの不気味に肉塊の群れは?
  「一兵卒、あれはケンタウロスだ。数は推定で200っ! その後方にはスーパーミュータントが展開している。数は50っ!」
  「まったく。大軍引率してきたわね」
  なるほど。
  撤退&小競り合いはあの妙な連中を掻き集める為か。つまりここで巨人共々全部倒せばこの辺りは平和になるってわけだ。
  それにしても初めて見る敵だなぁ。
  ケンタウロス?
  あっ、前にモイラが『前任の助手がケンタウロスに食べられちゃった☆』的な事を言ってたような記憶がある。
  ふぅん。
  これがケンタウロスか。
  醜い連中。
  肉塊でしかないボディ。そこから伸びているのは首だけで手がない。ただ口から異様に伸びている無数の舌……触手があるだけ。
  PIPBOYを起動させる。
  機械的な女性の声が響く。

  『ケンタウロス』
  『謎に満ちた生物。放射能汚染によって生まれた存在というのが一般的です』
  『主にスーパーミュータントの番犬的な存在として認識されており実際に使役されている節があります』
  『攻撃方法は口から吐き出される放射能を帯びたヘドロ』
  『では良い一日を☆』

  ふぅん。
  ヘドロね。あんまりお上品な敵ではないらしい。
  ……。
  ……はあ。だけどやっぱりボルト101での日々は嘘っぱちだなぁ。閉鎖空間ならこんな情報はPIPBOYに内蔵されていないだろうよ。そもそも閉鎖されて
  いるなら知り得ない情報なわけだからね。色んな意味で外と繋がっているのだ。
  私始末する為に監督官はタロン社に依頼したわけだし。
  「ビターカップ」
  「ここは一先ずあんたの言葉を信じて生きる事も考えてみるわ。ただあんたが死んだらあたしは死ぬからね」
  「それって添い遂げるって事かしら?」
  「馬鹿っ!」
  街の後方に走り去るビターカップ。
  馬鹿って言われた。
  冗談の分からん奴だ。
  ま、まあ、クリス同様に私に惚れちゃってない事を祈ります。何気に女性に好まれる性質なのだろうか、私は。
  それはそれで困るなぁ。
  さて。
  「攻撃続行っ!」
  『おうっ!』
  私は叫ぶ。
  それと同時に街から放たれる火力は増した。連続する敵勢の攻撃にようやく住民達も吹っ切れたのだろう。そして度胸が付いた。
  反逆の弾丸は敵勢に降り注ぐ。
  反逆?
  ええ。反逆ですとも。
  今までいいようにカモにされていたビッグタウンの住民達がスーパーミュータントに対しての反逆だ。
  これで今後も明るいわよね。
  だってスーパーミュータントを撃退出来るだけの戦力なら奴隷商人達を恐れる必要はないからだ。戦闘能力で言えばスーパーミュータントの方が上なわ
  けだし、それに撃退したという情報を聞けば奴隷商人も手を出すまい。
  ビッグタウンの要塞化。
  一応は当たりの様だ。
  もちろんそれを口にしたいのであればこの戦いを乗り越える必要があるわけだけど。
  バリバリバリ。
  弾丸はふんだんにある。私のアサルトライフルの掃射はケンタウロスを街に近付けさせない。街の住人の射撃にも度胸がある。次第に的確になりつつある。
  良い傾向ですなぁ。
  ケンタウロス、ただの的。
  もちろんスーパーミュータントどもにしてもケンタウロスを当てにしていたわけではないようだ。ケンタウロスを前面に布陣させて後退している。
  ふぅん。
  つまりは盾代わりというわけか。
  なるほど。
  どうやらケンタウロスは攻撃兵力という区分ではないらしい。
  斥候程度の能力。
  それを今回は盾として使うってわけだ。
  実際にケンタウロスを盾にしつつこちらに銃弾を浴びせてくる。……まあ、こちらの防御は万全。弾除けは設置してある。さほど怖くはない。
  「ふぅむ」
  銃弾をバリケードに身を伏せて防ぎつつ私は理解する。
  相手さんはこの程度の戦略か。
  大量の肉塊を布陣させこちらを恫喝しつつ攻撃してくる。この程度ってわけだ。
  確かに。
  確かにケンタウロスが邪魔でスーパーミュータントには弾丸は届き辛い。だけど屋根の上からはクリスの狙撃、ハークネスの圧倒敵弾幕。屋根の上から
  だから遮蔽物はそれほどない。つまり盾としてはあまり機能しない。
  それに……。
  「出番よっ!」
  私はグレネード弾を放つ。

  
ドカァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァンっ!

  リベットで追加パーツでグレネード弾を発射出来るように改造してもらったアサルトライフル。
  圧倒的な威力ではない。
  少なくともミサイルランチャーには劣る。……まあ、そもそも弾のサイズが違うけどさ。
  それでも。
  それでもまともに直撃した奴をバラバラに粉砕しさらに周囲の敵にもダメージを与えられる。そして何より音が大きい。相手を恫喝するには充分だ。
  そして……。

  「ギャァァァァァァァァァァァァァっ!」
  「ウシロカラダーっ!」
  「テキガキタゾ、ケイカイシローっ!」

  スーパーミュータントの背後を攻撃する者達が出現。
  どこから?
  ビッグタウンは街を的確に、そして充分に防衛する為に不必要な建物を放棄した。そういう建物が現在のビッグタウンを囲んでいる。
  そしてスーパーミュータントの背後にも存在していた。
  敵さんは前面からしか攻撃して来ないのは想定していた。吊橋渡るしかないからね。つまり前面からしか来ない。
  それを想定して私は吊橋の真向かいにある廃屋に仲間達を伏せていた。
  これが戦略。
  グレネード弾の爆発音を合図として仲間達は駆け出す。
  そして相手の背後を攻撃。
  仲間、それはグリン・フィス、ケリィ、カロン、警戒ロボット。いずれも……まあ、ケリィが得意かは知らないけど、強襲は大の得意だ。
  相手の背後を強襲。
  グリン・フィスは相手の間を駆け回っては刃を振るう。そしてその度にスーパーミュータント達は大きな音を立てて倒れる。
  カロンはコンバットショットガンを近距離で乱射。近接距離では絶大の威力を発揮する。
  ケリィは自分の体に無数に帯びている銃火器を引き抜いては乱射。わざわざ弾丸を交換する事はせず弾丸尽きた銃は放り投げて次を抜き放ち射撃。
  ……。
  ……意外に使える奴ね、ケリィ。人間兵器みたい。
  あと、ロボットはさすがは軍用だ。
  その火力は絶大。
  人数の面ではほんの一握りではあるものの相手の不意を攻撃したのだからとりあえずはこちらのターンだ。
  そして形の上では挟撃している。
  このまま押そう。
  勝てるっ!
  「ミライノタメニっ!」
  スーパーミュータントの一体が叫んだ。
  戦意が落ちていない?
  恐れ知らずな連中ではあるけどこの状況でもまだ戦意を失っていないようだ。馬鹿なだけというのもあるけどあまり知能の面で侮ると火傷する場合がある。
  GNRでは連中は戦略を知っていた。
  だけどジェネラルは死んだ。
  うーん。
  アンクル・レオみたいな頭の良い奴がスーパーミュータント達の指揮系統を引き継いでいると想定する場合だってある。
  だけどそんな奴はいなさそうに見える。
  相手は執拗だ。
  しつこい。
  何故ここまで攻撃してくるのだろう。

  「……?」
  おかしい。
  敵勢の攻勢は執拗過ぎる。
  確かに。
  確かに新たな戦力であるケンタウロスの数は結構多い。というか、かなり多い。数だけで行けばこちらを圧倒出来る。しかし銃火器を扱えない……そもそも
  手がないケンタウロス。武器を扱えない連中が街の前面に展開していてもそう怖くはない。
  放射能濃度の濃いヘドロのようなものを吐き出しては投げてくるもののこちらはバリケードに身を隠している。
  それに。
  あまり受けたくはないけど、直撃を受けても死ぬ事はないだろう。
  当たったら放射能に冒される程度。
  致死量の被爆でない限りは治療で何とかなるのだ。
  何しろ旧文明は核で吹っ飛んだ。そして世界に放射能が満ちた。そういう意味合いから人体からの放射能の除去は理論的に確立されている。
  そして医学として存在するのだ。
  つまり。
  当たったところで特に問題はない。……まあ、敢えてヘドロを浴びるつもりはないけどさ。
  「食らえーっ!」
  バリバリバリ。
  アサルトライフルを乱射。死すら恐れないケンタウロスの群れを次々と屠る。ある意味でただの的だ。その的の後ろからスーパーミュータントはこちらを
  攻撃しようとする腹だったのだろうけどまだまだ甘いわねー。
  グリン・フィスとケリィ、警戒ロボット、そしてカロンがその背後を攻撃して相手を撹乱している。相手の戦術の裏の裏を掻いたってわけだ。
  まだまだ甘い。
  戦略家ミスティちゃんに勝てるものかー☆
  街の前面にはスーパーミュータント&ケンタウロスの混成大部隊が今だ展開しているものの流れはこっちが握っている。
  屋根の上からのクリスの狙撃。
  屋根の上からの戦う州知事ハークネスのミニガンの圧倒的弾幕。
  ……。
  ……うーん。何か簡単過ぎるな。
  まさかベヒモス投入する為の時間稼ぎじゃないだろうな?
  DCで会った……というか私も隊員になったのか、そういえば。副長とか呼ばれてたなー。忘れてた。……まあ、脇道にそれだけど、ともかくDCで会った
  ライリー・レンジャー曰くベヒモスは5体存在しているらしい。2体は屠った。まだ3体残ってるってわけだ。
  ここで投入してきてもおかしくはない。
  それだけ。
  それだけ敵軍の攻撃はお粗末過ぎる。
  まあ、ケンタウロスを大量に引っ張ってきた程度の戦略しかないのかもしれない。指揮官はいなさそうだし。

  ドカアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアンっ!

  その時、爆発音が響いた。
  戦闘区域から?
  いや。今私達が演じている激戦区からではない。それは街の後方からだった。
  まさか……。
  「クリス、ここの指揮は任せるわっ!」
  「了解したっ!」
  受け持ち場所を私は離れて街の奥には知って向かう。
  誰か続いてくる?
  いいえ。
  私1人だ。
  街の住人が何名か続こうとするものの私は手で制した。
  ここの戦闘は有利な状況ではあるけど、あまり油断出来る状況ではないのは確かだからだ。これ以上人員が欠けるとそこが戦線の穴となり崩壊する
  可能性は否めない。
  だから押し留めたってわけだ。
  私は急ぐ。



  「これは……」
  絶句した。
  街の奥、向った先は混沌としていた。スーパーミュータントの部隊が侵入していたのだ。
  どうやって?
  バリケードを爆破したのだ。
  おそらく大量の火薬で破壊した。街の前面のしつこいほどの激闘はもしかしたらこちらの裏を掻く為だったのかも知れない。
  そう。
  こうやって侵入する為の布石。
  「……」
  無言で銃火器を構えるスーパーミュータントの部隊。
  街の住人達は動けないでいる。後方にいるのは全て女子供。戦える戦力は全て前方に回してある。ここにいる人達は銃火器すら持っていない。
  ……。
  ……別に女性は戦力じゃないとは思ってないわよ。あらかじめ断っておくけどさ(って誰に断ってるんだ私?)。
  後方支援が必要だからそちらを頼んだだけに過ぎない。
  まるで非戦闘員ではないのだ。
  まあ、私は女性だけど前線で戦ってるんだけどさ。
  ともかく。
  「……」
  スーパーミュータントの部隊は銃火器を突きつけたまま動かない。
  その配置、無駄はない。
  なるほど。
  街の前方で戦闘している連中よりは強そうだ。スーパーミュータントの精鋭部隊というわけだ。ここにいる個体は全て上位タイプのマスター。
  それが20ほどいる。
  侵入したのはスーパーミュータントの精鋭部隊で正解だろう。
  私は私でアサルトライフルを構えているもののある意味で敵に住人を人質に取られているようなものだ。
  撃つに撃てない。
  さてさて。どうする?
  その時……。
  「戦略の根本を相手の常識の裏を掻く事。そうだろう?」
  「あんたは……」
  悠然と姿を現したスーパーミュータントを私は知っている。
  深紅の将軍。
  「ジェネラルっ!」
  「DCでは世話になったな。赤毛の冒険者」
  「殺したはずよっ!」
  「だがこうして生きている。その事実を真実と代えて受け止めるのが最善だと思うがな。ふふふ」
  「訳の分からん事を」
  殺した。
  確かに殺した。
  ソードオフショットガンの二連発で頭を吹き飛ばした。確かにわざわざ心臓の鼓動を聞いて死亡を確認したわけじゃないけど……普通じゃなくても頭が
  なくなれば死ぬ。スーパーミュータントだって生物の範疇だ。死ぬだろう、普通は。
  だけど。
  だけどここにジェネラルはいる。
  騙り?
  それともクリスが言ったようにジェネラルというタイプが他にもいるのか。
  いずれにしてもここにそいつが存在する。
  何なんだ、ジェネラルって?
  「あまりにもベタな展開なのは好きではないがここに宣言するとしよう。抵抗すると街の住人が死ぬぞ?」
  「言うと思った」
  「武器を捨てろ。それから話し合いだ」
  「はいはい」
  私はアサルトライフルを放り投げた。
  そして……。