私は天使なんかじゃない
ジャーマンタウンへの突入
パパを訪ねて三千里。
その為だけに私は安全で平穏な穴蔵生活を捨てて、危険で物騒な外の世界に出て来た。
にも拘らず私は色々な事に関わっている。
余分?
余計?
それは今の私には判断出来ない。
ただ私は思う。
心のままに生きようと、そう思うのだ。
スーパーミュータントや奴隷商人の攻撃に晒される風前の灯の街ビッグタウンを北上。
私達はジャーマンタウンを目指す。
警察署があるらしい。
そこを拠点にスーパーミュータント達は活動しているという。
私達の目的は簡単。
悪い奴らを殺して誘拐された人々を助ける。
目的は単純明快。
私達は正義の味方であってスーパーミュータント達は悪玉。それを倒して正義を成すだけだー……というのは冗談です。連中が悪いとは一概には言えない
けど狩られる側にも身を護る権利はある。戦う権利はある。ただそれを行使するだけだ。そして主張する。
スーパーミュータントも結局は同じ価値観だろう。
それならそれでいい。
互いに主張し合って殺し合うだけ。
私達は進化しない。
結局は200年前と同じ。
いや。
それよりももっと昔の人間と同じ。本質は変わってない。
戦い好きでしかないってわけだ。
「それで? どうする?」
ジャーマンタウン警察署の数キロ手前で私達は作戦会議。
こちらの人数は6名。
私、グリン・フィス、クリス、ハークネス、カロン、そして気さくで愉快かいなスーパーミュータントのアンクル・レオ。
人数的に不利な上に問題も抱えてる。
絶対的な攻撃力のミニガンは現在弾切れ中。つまりハークネスは戦闘では役に立たない。
……。
……いや。もしかしたら白兵戦でも強い?
アンドロイドだし。
戦う州知事も肉弾戦は強かったしなぁ。
「主。ご命令があれば自分が斬り込みますが?」
「……」
「主」
「今考えてる」
「失礼しました」
警察署の防備は完璧だ。
スーパーミュータントが張り巡らせたのかはしらないけど建物の周りにはフェンスが張り巡らされ、さらに鋼鉄の何かの残骸を積み上げて鉄壁の
防御を誇っていた。まあ過去の遺産かもしれないけどね。
旧時代、戦争の拡大化で警察組織は準軍事組織に格上げされたらしいし。
あの警察署も基地として機能していた可能性は高い。
遠目からでもその防御力はよく分かった。
なるほど。
地の利は向こうにあるわけか。
「一兵卒、これは力押しでは勝てんな。つまりお前の初期の作戦は捨てねばなるまい」
「そうね」
私は素直に認めた。
内部に入りさえすれば何とかなるけど……これは結構骨だなぁ。
スーパーミュータントの数がどれだけかは知らないけど入り込む前に返り討ちになる可能性が高い。
だが利点はある。
相手はあの防御力を強みにしている。
おそらく籠城防衛に徹する。どんなに馬鹿なスーパーミュータントでも挑発したところで全軍突撃して、野戦に付き合ってくれるとは限らない。引っ張り出
せないならこちらから潜り込むまで。潜り込めさえすればどうにでもなるな、これは。
そして。
そして潜り込む手段を私達は有している。
「私に手があるわ」
にっこりと微笑した。
それは……。
「こいつら捕虜」
「オオ。ヨクヤッタ。チカニツレテイケ」
スーパーミュータントに捕まった私達。
嫌ぁっ!
お願い、それだけは許して私汚されるー……は、まあ、いいか。悪ノリはやめよう。
コツ。コツ。コツ。
警察署の地下に行く。
途中スーパーミュータントに止められる事はない。
何故なら私達を先導しているのはスーパーミュータントなのだ。見た目では知能の差は分からない。つまりアンクル・レオは極力喋らなければ見た目
では見分けがつかない。私達はアンクル・レオに捕まったという名目で建物内を移動していた。
……。
……てか簡単には入れ過ぎ。
まあいいですけど。
銃火器も帯びていてもまるで反応ないのは驚いた。
こいつらの知能は幼児並?
それはありえるかもしれない。
だとしたらジェネラルやアンクル・レオは際立って知能が高い。おそらくは人間よりも。
うーん。
それを考えると突然変異なのかな、アンクル・レオ。
「ミスティ。我々は別を行く」
「了解」
途中でクリス、ハークネス、カロンは別れる。
問題はないだろう。
潜入さえすれば……まあ、問題ないだろう。多分ねー。
残った私達は地下に。
道順が分からなければどうするかって?
アンクル・レオが徘徊しているスーパーミュータントに聞くだけだ。それで問題は解決する。簡単なもんね。
それにしても。
「数は意外に少ないわね」
「御意」
数えて回っているわけじゃあないけど身につく数は少ない。
別の場所にいるのかな?
ともかく。
ともかく地下に到着。
何の戦闘も起きなかった。こんなに簡単に行き過ぎると逆に怖いんですけど。
罠?
「主、声が聞こえます」
「声?」
耳を澄ます。
あっ、本当だ。
「ハラヘッター」
「お、おい、俺を食おうってのかっ! そこら辺に肉は転がってるだろうがっ!そいつを食ったらどうだっ!」
声が聞こえる。
私は目配せ。察したグリン・フィス、アンクル・レオは物陰に隠れた。
チャッ。
44マグナムをホルスターから引き抜く。
廊下の向うから聞こえる。
静かに。
静かに。
静かに。
私は足音を立てないように進む。
いた。
1体のスーパーミュータントが手を縄で縛られた男を食い殺そうとしていた。
野蛮な。
私は銃を発砲、それは狙い通りにスーパーミュータントの頭に直撃。10mm弾では例え頭に当たっても死なないかもしれないけど私の使用して
いるのは尊敬しているダーティーハリー先生も使用していた44マグナムだ。
簡単にスーパーーミュータントの命を奪った。
楽勝。
「来ていいわよ」
仲間に手招き。
「ミスティ、今行くぞ」
「御意」
この部屋にいるのは私と縛られている人質だけ。あっ、2人が来た。さすがに人質はアンクル・レオに驚く。知性の面では普通のスーパーミュータントを遥
かに凌駕するけど見た目は変わらないから怯えて当然だ。
「見張りは1体だけみたいね」
転がるスーパーミュータントの死骸。
そして床にはたくさんの人骨が散乱していた。
……。
……誘拐するってそういう意味?
まさか食料?
アンクル・レオを見る。
彼が『人間をボルト87に連れてってスーパーミュータントに改造する』と言ったのだ。誘拐する理由が食料、とは言ってなかった。
デマ?
「どういう事?」
「皆頭悪い。当初の目的より目先の食欲を満たそうとするんだ」
「なるほど」
苦笑する。
別にアンクル・レオは自分がインテリだと自慢しているわけではないのだけど、なんかおかしかった。
「本当に馬鹿な連中だ」
「そうね。貴方ほど頭の出来は良くないわよね」
「そうじゃないんだ」
「うん?」
「こいつらは知らないんだ。知ろうともしないんだ。殺したら殺されるって知らないんだ。人を殺すだろ、そしたら人は許さなくなる。どっちが最初に殺し
たかは俺は知らない。だけどこうやって負の連鎖が続くんだ。終わらせなきゃ行けないんだ。終わらせなきゃ」
「……」
私は言葉もなかった。
アンクル・レオの言葉は正論だ。
そして。
そしてその言葉は私達にも向けられている。彼が意識してそれを口にしているかは分からないけど胸が痛んだ。
だけど現実問題として分かり合えるとは思わない。
武器を構える以上はね。
こちらから武器を捨てる事は出来ない。そしたら撃たれるからだ。
そして人類は死ぬまで戦い続けるっと。
……。
……やめよう。
こう考える時が滅入る。
正論ではあるけど理想論でもある。実際問題としてそれはありえない。そしてその証拠にアンクル・レオは同族から追い出された。
正論過ぎると受け入れられないものだ。
なかなか難しい。
人もスーパーミュータントも本質は同じかなのかもしれない。
その時、断末魔が響いた。
まあ結局はこの展開よね。戦うしかないわけだ。
さて。
「バカナっ!」
「グワアアアアアアアアっ!」
「ヤラレターっ!」
背後ではグリン・フィスがセラミック刀でスーパーミュータントを三体斬り倒していた。
さすがだね。
接近戦では無類の強さを発揮する。
まあ、遠距離で銃撃されても弾丸斬り落とすだけの非常識さなんだけどさ。……銃弾の弾道が見れる私がそこを指摘するなって話なんだろうけど。
ともかく。
ともかくグリン・フィスは接近戦に長けている。
頼りになるなぁ。
「主、排除しました」
「ご苦労様」
とりあえず周囲に敵はいないようだ。
「早く解いてくれよっ!」
「はいはい」
生意気な男だ。
タイムボムと同年代かな。
縄をナイフで切る。
「恩に着るぜー。あんたは誰だい? ……ま、まあいいか。俺はショーティ」
「私はミスティ。助けに来たわ」
「そ、そうか。そいつはありがたいぜ。レッドを連れて早く逃げよう」
黒人の眼鏡の女性を連れてきたのは当然ながらクリス達だ。
「一兵卒、待たせたな」
「クリス」
「銃弾の補給は出来た。お陰で上層の敵は一掃出来た。……ただ少ないな、意外に」
「確かに」
それは私も思ってた。
地下にいたのはわずかな数でしかなかった。
つまり。
つまり絶対的な数ではないのだ。
上層にどれだけいたかは分からないけど、地下のあの広さから考えて4体しかいなかったのであれば。上層もそう変わるまい。
ならどこにいる?
可能性として考えられるのはここにいるのは本隊ではなく留守部隊という事だ。
だとしたらまずいかも。
戻ってくる前にとっとと逃げるに限る。
「ショーティっ! よかった、生きていたのねっ!」
「無事でよかったぜレッド。さあ、こんな場所から逃げようっ!」
無事を確かめ合う2人。
よかった。
とりあえずは、よかった。
「大丈夫のようね」
2人を確認する。
疲労感は目に見えて感じられるものの外傷はないよう見える。
怪我をしていないのは助かる。
自分の足で動いて貰わないと撤退がし辛いしね。
「私とショーティを助けてくれてありがとうっ! もう駄目だと思ってたわ」
「ギリギリセーフね」
正直な話、運が良いとしか言いようがないのは確かだ。
普通なら死んでる。
この2人は幸運だった。本当に幸運だった。
「他に誘拐された人は?」
私達一行はこの建物を隅々まで調べたものの生存者はこの2人だけしかいない。つまりこの建物にはもう誰もいないのは分かってるんだけど確認
はしておかないとね。迂闊だったけど依頼された際に何人誘拐されたのかは聞いてなかったし。
……。
……本当迂闊だったわー。
意外に私ってば後先考えない熱血漢なのかなー。
うーん。
どうなんだろ。
「レッド。他に誘拐された人は?」
「……他の人達は死んだか、もっと酷い目にあったか」
「そう」
「ここはどうも一時的な抑留所みたい。他の人達は別の場所に連れて行かれたわ。それがどこかは分からないけど」
なるほど。
つまりどこか別の場所に護送された……そしてそれがどこかは分からない。
ならば追撃のしようがないか。
それに私達はそこまで万能ではない。
全部を救うほど救世主ぶってはいない。限界がある。そして2人の救出が私達の限界だろう。
「クリス」
「何だ、一兵卒」
「撤退が最善だと思う?」
「……そうだな。目的は果たした。ここで妙な時間を食えば展開が厄介になるのは明白。撤退が最善だろう」
「分かった」
わざわざクリスに聞いた理由。
それは戦略を彼女は知っているからだ。軍隊ごっこの延長線なのかよく分からないけど戦術眼を有している。それと別の理由としてハークネスとカロン
に対する手前、どうしてもクリスを立てて接しなければならないからだ。
ハークネスとカロンはあくまでクリスの仲間であって私の仲間ではない。もちろん私は別にそういう分け方をしているわけではない。
両名がそういう考え方をしているのだ。
だから。
だから面倒だけど立てるような発言をしなければならない場合がある。
まあ、別にいいんですけどね。
面倒だけど。
「じゃあ皆、撤退しましょう。もちろんその前に持てるだけの物資を奪ってね。……ところでクリス、爆破系のスキルはある?」
「ハークネス曹長が有しているが、それがどうした?」
「爆破するのよ」
「何?」
「爆破」
拠点を残さずに吹き飛ばすのも兵法だ。
敵さんがここを経由しているのは確かだから吹き飛ばしましょう。それに上手くいけば戻って来た敵の本隊にも打撃を与えられる。
本隊はいる。
確実にね。
いくらスーパーミュータントだからって建物にいた程度の数で街を襲えるわけがない。
「ハークネス曹長、爆破の準備を。カロン准尉は曹長のサポート」
『御意のままに』
上手くいけば敵を吹っ飛ばせる。
上手くいかなくても敵の前線基地を叩けるわけだから問題はない。
さて。
「その間に物資を頂戴しますかね」
次の戦闘の為にもね。
……。
……ついでに私腹を肥やす為に☆
最近は支出オンリーだったので助かりますなぁ。稼げる時に稼がないとね。
持てるだけ持って行かなきゃ。
ジャーマンタウンの警察署を離れて20分後。
突然大気が震えた。
爆音だ。
……。
……いや。轟音と言うべきか。
大気が振動する。
ドカアアアアアアアアアアアアアンっ!
巨大な火柱が天を衝く。
ありあわせの部品で作った簡易型の起爆装置があの建物に集積されていた火薬の類に引火。
大爆発したのだ。
あの場にまだ生き残っていたスーパーミュータントがいても全滅だろう。
あの火炎と威力だ。
建物ごと吹っ飛んだはず。
……。
……まあ、弾薬や武器、物資の類は勿体無かった。
全員で持てるだけ抱えてはいるものの、出来れば全部持って行きたいところだった。
何故爆破したか?
まあ、簡単よね。
スーパーミュータントの根本を叩いたわけではなく、あくまであの場にいたのは留守を護る駐屯部隊でしかない。あの程度の兵力でビッグタウン攻撃を
敢行出来る筈がないから、留守部隊なのだろう。つまりまだ本隊が残ってる。
そいつらの為に物資をと拠点を残しておいてやる必要はないのだ。
だから吹き飛ばした。
建物をね。
勿体無かったけどこれで相手の戦力を低下させれたはず。
あの程度の戦いで終わるとは私は思ってない。
おそらくは本隊が襲来する。
おそらくは。
ビッグタウンに舞い戻った。
とりあえず追撃される事なく無事に帰還できた。ただし再度戦闘は時間の問題だろう。
街を要塞化したいものの時間的に無理だろう。
とりあえず何もしないよりはマシな程度の出来ではある。
まあ戦い方次第だろう。
街の広場を進むとレッドとショーティを無事に連れ戻した私達を人々は歓喜で迎える。口々に渡した耐える街の人々。
悪い気分ではありませんねー。
もちろん浸ってもいられない。
仲間に囁く。
「皆、スーパーミュータントは必ず来るわ。準備して」
「一兵卒、分かっている」
クリスが頷いた。
仲間達も。
私達はこの一件があれで終わりとは誰も思っていない。そんな甘い展望は誰もしていない。
仲間達に防衛の準備を任せて私はレッドを診療所に送っていく。
ショーティは途中で別れた。
診療所に入る。
「ああ。帰ってこれた。こんなにもここが懐かしいだなんて思ったのは初めてよ」
「よかったわね」
ギュ。
私の右手を強く握り彼女は何度も何度も頭を下げた。
それから申し訳なさそうな口調で口を開く。
「あの、報酬の事なんだけど、この街は貧しいからあまり多くは……」
「別にいらないわ」
スーパーミュータントから色々と巻き上げたしね。
お金、弾薬、食料。
補給物資はたんまりと頂いているので問題ナッシング。
レッドは笑った。
「貴女って本物の正義の味方なのねっ! お礼しようと思ってたけどそのお金で薬とかを買うのに回す事にするわ」
「ええ。そうした方がいいわよ。医療品全然なないものね、ここ」
「どうして知ってるの?」
タイムボムの一件を話す。
「驚いた。もしかしたら貴女は私よりも医療技術に長けているんじゃない? ねえ、良かったらここで医者を一緒にしない?」
「それも魅力的だけどメガトンに住んでるのよ。いずれはパパとも永住する予定」
「残念だわ」
心底残念そうな顔だ。
私ってばオールマイティに好かれる性質らしい。
主人公としての気質は万全よね。
ほほほ☆
「……あの。お礼もせずにこんな事を言うのは気が引けるんだけど……」
「何なの?」
「実は私、スーパーミュータントが最後の襲撃を仕掛けると話しているのを聞いちゃったのよ。直にここに来ると思うわ」
「でしょうね」
「……驚かないの?」
「別に」
数が少なすぎたからおかしいとは思ってた。
どんなに強いとはいえ所詮は生き物だ。あの程度の数なら住人の必死の攻撃で撃退できるはず。なのに今まで敗北の連続。つまりあそこにいたのは
あくまで留守部隊であり本隊は別にいると見るのが自然だろう。
もちろんわざわざ私達がそれを見抜いていた事を丁寧にレッドに説明するつもりはない。自慢している場合ではないからだ。
それに。
それにあまり時間がないだろう。
カウントは刻まれたのだ。
どれだけの大部隊かは知らないけどGNRでの戦闘よりはマシだろう。少なくともベヒモスは出てこないだろうよ。
雑魚の兵士タイプなら問題はない。
それにジェネラルももう死んでるし問題はないだろう。
「出来るだけの防備はする。ここまで来たら最後まで面倒見るわよ」
「本当? よかったっ! 貴女は真のヒーローねっ!」
「最高のヒロイン、でしょ?」
そう言って私は微笑した。
ジャーマンタウンの残骸。
そこに集結するスーパーミュータントの大部隊。もっともその半数はミスティの計略した爆破で吹き飛んだ。それでも数は100を越える。
一路南に移動を開始する。
ビッグタウンに向って大部隊は進軍開始。
スーパーミュータントの軍勢、迫る。