私は天使なんかじゃない








アンデール 〜最終夜〜






  アンデールの展開は二転三転。
  予測が付かない。

  食人の住人。
  フェラル・グールの軍勢。
  そして、奴隷商人。

  次はどう転ぶ?





  「ほら、立てよ。今からパラダイス・フォールズまで強制連行してやるからよ」
  「……」
  シスターは偉そうに命令する。
  敵は6人。
  ただアンデールの住人達に食料として捕えられた際に銃火器は当然ながら取り上げられたらしい。彼らがしているのはナイフやら包丁であって銃火器
  ではない。私の腰にはまだ44マグナムがある。こんな連中、殺そうと思えば簡単に殺せる。
  アサルトライフルは確かに床に転がってる。
  だけど弾装は空。
  今なら。
  今なら一気に殲滅出来る。
  「無駄な抵抗はするなよ? てめぇの首に嵌ってるのは爆弾だぜ?」
  「……」
  そう。
  爆弾付きの首輪を私はされている。
  逆らえば簡単に頭が吹っ飛ぶだろう。
  仲間がこの状況に気付くのにはまだ少し時間が掛かるだろう。撤退中のフェラルの掃討に力を入れているはずだから。
  ……。
  ……八方塞かも。
  厄介だなぁ。
  もちろん利点もある。向こうは簡単に私の頭を吹っ飛ばせる立場にあるから腰の44マグナムをそれほど脅威には思っていないらしい。しかも私は可愛い。可愛
  い女の子が無抵抗の状態にあるわけだから、こいつら危機管理が少しおざなりになってる。
  そこは付け入る隙だ。
  ただ……。

  「なあ、お前ら。こいつをこのまま連行するのは勿体無くないか?」
  「その意見に賛成ですシスターの兄貴っ!」
  「味見しましょうっ!」
  「……だ、だけど兄貴。ボスに怒られませんかね?」
  「……俺も怒られると思うなぁ」
  「ばれたら俺らも奴隷にされちゃうしまずいっすよー」

  すいません何気に私は現在貞操の危機でしょうか?
  どこかを探したら裏ページがありそうな展開かも。BADENDバージョンがあったり?
  うがああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ男なんて嫌いだーっ!
  まったく。
  こいつらは何て単細胞な連中なんだ。
  下品な奴らだ。
  奴隷商人どもはワイワイと勝手に盛り上がってる。私はその隙に首に嵌っている首輪をよく観察する。さすがに首と目が疲れるけどね、自分に嵌った首輪を見
  るなんて容易じゃない。ただ普通の首輪ではなく爆弾付き。そして遠隔操作する為の機器も付いてる。
  結構でかいので嵌められてても見る事が出来た。
  ……。
  ……ふーん。こういう作りか。
  なるほどなぁ。
  「よーし、決めたっ!」
  奴隷商人達はエロ会議が終わったらしい。
  シスターか叫んだ。
  「おい、ミスティ」
  「何?」
  「今から連行してやるぜ」
  「頼んでないけどね」
  「生意気な奴だ。……こりゃ抵抗されるかも知れねぇな。やっぱ武装解除はしとくべきだな。嫌なら頭吹っ飛ばすぜ?」
  「……」
  ふぅ。
  溜息を吐いて私は銃帯を解いた。
  ガチャン。
  ホルスターに収まっていた二挺の44マグナムが床に音を立てて落ちた。
  「よしよし。誰だって命は惜しいもんな。素直が一番だぜ。……だけどまだだ、武装解除しろ」
  「したじゃない」
  「アホか。全部脱ぐんだよ」
  「はあ?」
  「全裸でパラダイス・フォールズまで連行してやるぜっ! 考えただけでエロティックっ! 俺達は世の男性陣の味方なのさっ! ビバ、エロっ!」
  「……どんな理屈だ、それは」
  「逆らうのかっ!」
  「逆らう」
  ひゅん。
  護身用のナイフを私は投げた。シスターの真横に立っていた奴隷商人の額にまっすぐと刺さる。
  ドサ。
  確認するまでもなく死んでいる。
  相手はまさか抵抗してくるとは思っていなかったらしく反応が遅れた。
  私は逃げる。
  外に?
  いいえ。屋内のさらに奥に。台所に。

  「追えっ!」
  『はいっ!』

  一瞬遅れて追いかけてくる。
  私は台所に飛び込み流し台にあったナイフを手に取る。探す手間が省けたわ、分かり易いところにあってラッキーだ。
  この街は『肉食☆』だから絶対にあると思ってたわ、鋭利なステーキ用のナイフ。
  ナイフを手に取った時、奴隷商人達が台所に乱入。
  咄嗟にステーキ用のナイフを向けた。
  苦笑するシスター。
  「可愛い可愛い抵抗だな。……諦めなって。お前はこの先奴隷として生きて行くんだよ。それしかないんだ」
  「……」
  ふぅん。
  やっぱりか。
  こいつは爆破するつもりなんて最初からないんだ。
  シスターを殺そうと思えば護身用のナイフ投げた時に出来た。私はわざわざ別の奴を狙ったに過ぎない。シスターは気付いてないけどさ。
  要は試したってわけ。
  シスター殺しても別の奴が起爆装置で私の頭を吹っ飛ばした可能性があった。
  ……。
  ……まあ、そもそも起爆装置がいくつあるかは知らないけど。
  ともかく。
  仲間が死んでもシスターは報復として私を殺さない。
  つまり奴隷商人のボスが1人息子を殺した私にご執心という意味合いで殺さない……いや、殺せないのだ。
  もちろんシスター自身は圧倒的に有利な立場にあるという余裕から爆破しない、というのもあるんだろうけど私を不用意には殺せないというのもあながち勝手
  な憶測ではないだろう。
  馬鹿め。
  「……」
  私はステーキナイフを自分の首に突きつけた。
  鋭利だから死のうと思えばこれでも人は死ねるだろう。
  シスターは慌てる。
  「ちょ、ちょっと待てっ!」
  「自殺なんてしない」
  「そ、そうか」
  「爆弾を解体するだけ」
  「な、何?」
  カチャカチャ。
  私は首輪をナイフで弄くる。ボルトを外し、カバーを外し、剥き出しになった配線を躊躇いなく次々と切断する。もちろん切断すべき配線だけだ。
  よし。
  あとは首輪を外すべくロックの部分を壊す。
  ガチャ。
  「はい。一丁上がり」
  『……』
  首輪を外して左手で持つ。
  唖然とするシスター達。私は悪戯っぽく笑った。
  「ごめんね。ボルト101の時から図工は得意なの」
  『……』
  「それにメガトンの核爆弾に比べたらこんなものどうという事もない。爆発する配線がどれかぐらい見ればすぐに分かる。次はこんな子供の玩具じゃなくてもう
  少し難しいのを問題として提供してくれると助かるわ。……それで? 私はまだ全裸で市中引き回しされなきゃ行けない状況?」
  「……出来たらその方がロマンがあるかと」
  「うるさーいっ!」
  この期に及んで妙な発言をするシスターに一喝。
  何だってそんなサービスを私が意味もなくしなきゃならんのだ。
  ともかく。
  「このガラクタ返すわ」
  私は投げて返す。
  奴隷商人達はまだ呆然としていて行動が鈍すぎる。的確な行動する分からないようだ。
  投げた首輪を奴隷商人の1人がキャッチした。
  今だ。
  「やっ!」
  短い気合とともに私はステーキナイフを首輪に投げた。
  正確には爆弾首輪の、露出した配線の部分だ。

  
ドカアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアンっ!

  投げたナイフが起爆の配線を切断した。
  小規模ながら首輪は爆発。
  ……。
  ……だけど納得だ。あの爆発なら頭はなくなるだろう。
  キャッチした奴隷商人は両腕が吹き飛んだ。もちろん胸や顔にも爆発の力が及び見るも無残だ。それでも生きているのがさらに無残よねぇ。
  バッ。
  私は動く。
  相手は完全に混乱していた。
  シスターを殴り飛ばし、手近の奴隷商人を突き飛ばす。
  突き飛ばした際に他の面々も巻き込む形で引っくり返った。私は元いた部屋に戻って床に落ちているホルスターから44マグナムを二挺引き抜く。
  逃げる者を追う、という法則だけで追ってきた連中は無防備。
  ギクっとした顔をしても遅いっ!
  44マグナムが火を噴いた。
  ドン。ドン。ドン。ドン。
  4人の奴隷商人の心臓を的確に撃ち抜いた。
  苦悶の表情で床に倒れ、のた打ち回る奴隷商人達。……おおー。心臓撃たれると辛いって本当なのか。勉強になったなー。
  さて。
  「それでシスター? あんたはどうされたい?」
  「ひ、ひぃ」
  最後に残ったのはリーダー格のシスターだけだ。
  なかなか良い顔してくれる。
  その時……。

  キキキキキキキキキキっ!

  急ブレーキの音。
  ……。
  ……まさか……。
  考えるまでもなかった。というか考える時間もなかった。グールの乗ってたジープが再び舞い戻って来たのだ。そして強力な機銃が私達がいる屋内の中に
  飛んでくる。壁をあっさりと貫通し私達を襲う銃弾。
  ただ幸運なのは壁の向うから撃ってる奴が透視できないって事だ。
  屋内に私がいる。
  その前提で撃っているだけ。
  つまりは無差別だ。
  正確性には欠けまくっている。私はすぐさま二階に移動した。その後を追ってくるシスター。
  一階は機銃の掃射で滅茶苦茶だ。
  もっとも。
  二階に逃げたところで発覚すれば今度は二階に銃弾の雨が襲ってくるだけだ。そもそも一度目の機銃掃射で二階は既に穴だらけだ。
  「ちっ」
  舌打ち。
  シスターどもの所為で展開が面倒になってる。
  アサルトライフルは一階だ。
  グレネード弾は持ってるけど肝心の発射する銃火器がないのでは意味がない。44マグナムは強力な武器だけど機銃と勝負するには決定打に欠ける。
  機銃と打ち合うつもりは毛頭ない。
  ならば。
  「シスター」
  「な、何だよ」
  グレネード弾を放つ銃火器はないけど、ともかくグレネード弾はあるんだ。
  ならば。
  「ほら」
  「な、何だ?」
  グレネード弾を三つ渡す。
  「そいつを持って一階にあるアサルトライフルに装填してジープを撃つのよ」
  「な、何だとっ!」
  「とりあえず一時休戦よ。さすがにグール相手に交渉は出来ないでしょ、奴隷商人でもさ」
  「そ、それはそうだけど……」
  「私が上からジープを撃つ。注意を引き付けるからその隙にアサルトライフルで何とかして。……生き延びる為の最大限の努力をお互いにしましょう」
  「……」
  シスターは考える。
  考えて。
  考えて。
  考えて。
  それからゆっくりと頭を縦に振った。私は微笑。
  「いい? 銃声がしたら下に走るのよ?」
  「分かった」
  シスターはそろりそろりと廊下に出て行く。階段を駆け下りる為の最短距離の位置でスタンバイするようだ。
  それにしても。
  グリン・フィスをはじめとする仲間達の援護はない。
  耳を澄ますと他の銃声もする。
  ジープの機銃音だけではない。つまりフェラルが再び戻ってきて戦闘しているのだろう。
  まあいい。
  私は窓際に移動。44マグナムを1発撃った。
  ドン。
  ドタドタドタ。
  次の瞬間、シスターは階段を駆け下りていく。

  
ドカアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアンっ!

  爆発した。
  ジープが?
  ……。
  ……いいえ、一階に下りたシスターが爆発した。
  「悪いわねー」
  私は44マグナムを天井に撃っただけ。
  他の銃声も響いているのだからジープ側は特に気にせずに一階の掃射を続ける。自分達が攻撃されたわけでもないしさ。
  つまり。
  つまりシスターは機銃掃射の中に突っ込んだ。
  そして無差別射撃はシスターが手にしていたグレネード弾に当たった、それが爆発。さらに残りの2つも連鎖爆発。
  シスター爆死。
  悪いわね。
  元々生かしておくつもりはなかったのだよ、エロシスター君☆
  もちろん残忍な死を与えるのが目的ではない。
  あくまで制裁はついでだ。
  目的は相手の、ジープのグールドどもの注意を引く事にあった。
  そしてそれは成功。
  「食らえっ!」
  私は二階の窓から44マグナムの連打を浴びせる。
  特殊能力で全てが止まる。
  的確な狙いを定めてトリガーを引いた。
  ドン。ドン。ドン。ドン。ドン。

  1発目は機銃に当たる。機銃は向きを変えた。
  2発目は車体に穴を開ける。……外したか。まあ、そんな事もあるさ。
  3発目は機銃に当たる。機銃の破壊に成功。
  4発目は機銃を担当していたグールの左肩に命中。
  5発目はジープの右の前輪に直撃。

  「逃げろ、ロイ・フィリップっ!」
  「再度撤退か、了解したよ、旦那」

  ジープは急発進。
  だけど前輪がパンクしているのでフラフラ運転。私はさらに二階から連打を浴びせる。
  前回と異なるのは敵は反撃手段がないという事。
  私は44マグナムは容赦なく逃げる車体を襲う。
  そして……。

  
ドカアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアンっ!

  大分離れたところで大爆発。
  ジープを破壊したのは勿体無かったけど仕方ないか。
  これで。
  これでアンデールの厄介は全て終わったはずだ。
  フェラル達は再び撤退した。
  まあ、正確にはほぼ全滅した。もしかして私達がその気になればレイダーよりも最悪な組織が形成できるかもねー。
  「ふぅ。やっと静かな夜になった」
  奇跡的にアサルトライフルは無傷。
  回収。
  こうしてアンデールの騒がしい夜は終わりを迎える事になる。
  アンデール、最終夜。
  とりあえず。
  「ゆっくり寝よー」
  ふわぁぁぁぁぁぁぁぁっ。
  眠いー。












  その頃。
  アンデールから三キロ先の荒野。

  「くっそっ!」
  粗末な衣服の男は地面にグールの覆面を投げ捨てた。
  金髪の白人男性。
  タロン社の若きエリートであるカール少佐だった。バギーに装備された機銃を担当していたのはグールではなく、グールの覆面をしたカール少佐。
  何故?
  フェラル・グールは視覚的に物事を捉える性質がある。
  だから。
  だからグールの覆面を被る事でフェラルに襲われない為の防御対策だった。
  運転していたのは生粋のグール。
  カールが覆面を被っているのは当然知っていた。そもそも運転手のグールがカールに『同行するなら覆面を被った方がいい』と忠告したのだ。
  グールの名はロイ・フィツリップ。
  テンペニータワーを中心にテロ活動を続けているグールの犯罪組織のリーダー格だ。
  今回、ロイと手を組む事でカールはフェラルの軍勢を借り受けた。
  その見返りに大量のキャップを支払った。
  ただカールがタロン社のコンバットアーマーではなく粗末な衣服を纏っていたのはロイを欺く為だった。ロイはテンペニータワーへの移住を目的に活動し
  ている。タワーの指導者はタロン社への出資者。
  つまりタロン社とテンペニータワーはロイにとっては怨恨の対象になる。
  ロイ・フィリップとフェラルの軍勢を引っ張り出す為には『タロン社の仕官』という立場を伏せる必要があった。
  だからこそ粗末な格好を通したのだ。
  「ミスティめぇーっ!」
  カールは叫んだ。
  憤怒。
  憎悪。
  殺意。
  様々な負の感情を込められた叫び声だった。
  今回の襲撃は完全にミスティを殺す為の行動だった。
  自信があった。
  だがその結末は返り討ち。
  フェラルの軍勢は壊滅したしロイ・フィリップもバギーの大破の際に生き別れ。……いや。もしかしたら死んでいる可能性もある。
  荒野にカールは1人。
  絶対的な自信が呆気なく崩された為に彼の端正な顔は歪んでいた。怒りでだ。
  「あの女、化け物かっ!」
  当初のデータよりも強くなっていると思った。
  タロン社の大部隊でもあの一行なら撃退出来るかもしれない。だとしたらまるで兵力が足りない。頭脳がないフェラルの軍勢では駄目だ。今回の敗因はそれ
  なら納得は出来る。
  もちろんこのまま済ますつもりはない。

  「おやおや。大金支払ってバギーを購入し、グールを仲間に付けても敗北するとは……世の中意外性に満ちているねぇ」

  ザッ。ザッ。ザッ。
  無数の雑踏と共に女の声が響いた。カールは顔を歪める。あからさまな侮蔑に耐えるのは得意ではない。
  憎々しげに女を見た。
  赤毛の女。
  虐殺将軍とも呼ばれた有名なレイダーの頭目エリニースだ。
  無数のレイダーを従えている。
  少なくとも50はいる。
  かつてエリニースが従えていた部下達よりも多い。
  「随分と集めたものだな」
  「ダニエル爺さんから貰った20000キャップを最大限利用させてもらったよ。ふふふ。これでわたくしはお山の大将に戻れたって寸法さ」
  「よし。上出来だ。ミスティを追撃するぞ」
  「はあ?」
  「何だ、その声は。まさか柄にもなく手下を掻き集めた功績を労って欲しいのか?」
  「ああ。そうじゃない。そうじゃないのさ」
  「……?」
  含み笑いをするエリニース。
  「あんたに指揮権があるのって常識的に考えておかしくないかい?」
  「何だと?」
  「あんたはダニエル爺さんから貰ったキャップで車を買った。グールを雇った。それで20000が飛んだわけだ。……だけど考えてごらんよ、それはあんたの取り分
  のキャップだ。レイダーを集めて軍団を編成したのは、わたくしの20000キャップ。つまりこの軍団はわたくしのモノってわけ」
  「なっ!」
  「驚くほどかい? 至極簡単な理屈だと思うけどね」
  「裏切るつもりかっ!」
  「そもそも仲間になったつもりはないけどね。お互いにミスティに恨みがある、ただそれだけの為に手を組んだに過ぎない。当然タロン社の兵力を当てにしたわ
  けよ、わたくしはね。だからこそ今まで雑用をこなしてきてあげた。だけどあんたはミスティ抹殺にこじつけて出世を優先させた」
  「……」
  「悪いけどあんたの立身出世物語には飽きた。そろそろ別の道を行きましょうかね、既にこれだけの部下がいればタロン社を頼るまでもないし。わたくしはわた
  くしでもう好きにミスティを追えるってわけさ。カール少佐、あんたの手助けなんていらないってわけ」
  「ただで済むと思うなよっ!」
  「……立場分かってるのかい? 一声掛ければあんたは蜂の巣なんだよ?」
  「くっ!」
  「まあ、知らん仲じゃないし。殺しゃしないよ。それはそれでタロン社にばれると面倒だしねぇ。……そうだ、土下座しなよ」
  「な、何?」
  「散々わたくしを出世の為に好きに使った事を詫びな」
  「……」
  主導権はエリニースにある。
  選択肢はなかった。
  さすがに躊躇うものの、カールは膝を付いてその場に土下座した。
  「……今まで好き勝手してすいませんでした……」
  「ふふふっ!」
  ゴリ。
  カールの頭を踏みつけるエリニース。
  「少佐、もしかして女王様に踏まれるの好きなタイプだろ? やだねぇ、タロン社は変態揃いってわけか。世も末さね」
  「……」
  「約束通り殺さないで置いてあげるよ。誇りもない奴なんて殺すに値しないからねぇ」
  「……」
  「じゃあね。負け犬。……ほら、お前ら行くよ」
  レイダー軍団を引き連れてエリニースはその場を立ち去った。
  屈辱がカールの全身を覆う。
  「くそぅっ!」
  憤怒の絶叫が響き渡る。
  彼の心の中に殺意が燃え上がる。ミスティだけではなくエリニースも殺す必要がある。
  絶対に。
  絶対に。
  絶対に。
  「どいつもこいつも俺を見下す奴は殺してやるっ!」





  そんなカールを見守る者がいた。
  老人だ。
  無線機で誰かと話している老人。
  「あの男、それなりにガッツはあるようです。……ええ。利用は出来ると思います。……はい。分かりました。再度接触します。自分にお任せください」


  ダニエル・リトルホーン、カール少佐に再接触。