私は天使なんかじゃない








アンデール 〜第一夜〜






  パパの足跡が見つかった。
  それはまだ遠いけれど確実に足跡はそこにある。
  一歩。
  一歩。
  一歩。
  私はそれを辿って旅を続ける。






  ジェファーソン記念館から旅立って3日。
  私達は西に向かう。
  西に何がある?
  西にはエバーグリーン・ミルズという地名がある。正確にはジェファーソン記念館の北西の位置だ。そのさらに西にはボルト112があるらしい。
  情報はこれだけ。
  だけど。
  だけどこれで充分だ。
  私達は西に向う。


  「こんのぉーっ!」
  ウェイストランドの荒野を私達は行く。
  だが当然ながら阻むモノがある。
  自然?
  空腹?
  いいえ。
  エデン大統領曰く『アナーキスト』の代名詞であるレイダー達だ。

  「新鮮な肉だーっ!」
  「来いよっ! 来いよーっ!」
  「流血患者だぁ。医者を呼びなぁ」

  旅を続ける私達の前に突如出現、物資を略奪すべく突撃を開始して来た。夕刻の戦闘の開始だ。
  レイダーの数は15名程度。
  こちらは私、クリス、グリン・フィス、カロン、ハークネスの5名。
  数的には3倍差。
  ただ持っている武器と力量には大きな差があった。
  私の持つアサルトライフルが火を噴く。
  バリバリバリ。
  レイダー達の持つ整備の行き届いていない銃火器とは異なり完全に整備されている私のアサルトライフル。
  整備の有無は銃火器の命中精度に関ってくる。
  バタバタと倒れるレイダー達。
  さらに。
  クリスの正確なるスナイプ、カロンの攻撃力抜群のコンバットショットガン、敵陣に斬り込むグリン・フィスの剣術の前に敵は圧倒されていく。何よりレイダー
  を粉砕するのに貢献しているのはアンドロイドのハークネスだ。
  手にしているのはミニガン。
  圧倒的火力。
  例え敵がスーパーミュータントの軍勢だろうとミニガンの前に不用意に立てばただのミンチと化すのは必至。
  銃弾系の武器では最強だ。
  レイダー達は私達の持つ絶対的な攻撃能力の前に成す術もなく壊滅した。
  ……。
  ……ふん。他愛もない。
  もちろん私達だからこんなに簡単に勝てたわけで普通の旅人にしたら脅威だ。
  それを排除した。
  つまり。
  つまり私達はキャピタル・ウェイストランドの平和に貢献した事になる。
  1つの悪がここに滅びたわけだ。
  レイダー殲滅。
  「戦利品を回収したら再び西に向いましょう」
  相手の装備を剥ぐ。
  もちろん使用可能なものだけだ。そしてキャピタル・ウェイストランドの鉄の掟で下着類は剥がないのがお約束。
  死者の装備を剥ぐのは不謹慎?
  まあ、死者に装備は必要ないだろという理屈ですね。
  物資欠乏の世界。
  再利用はすべきでしょう。
  銃火器は足りているしレイダー達の武器は銃器貧弱&整備最悪なのでスルー。銃弾と少量の食料、ウイスキー3本ゲット。あとは100キャップ。
  戦利品を頂き私達は西に向う。
  「一兵卒」
  「何?」
  「……ボクの衣服も華麗に剥いで……」
  「……」
  西に向かうっ!
  西にーっ!





  私達は西に向う。
  レイダーを蹴散らして数時間後、私達は1つの街に到達した。
  スプリングベールに比べるとまともな家屋が残っている。そして住人も大勢いるようだ。何名か私達をじろじろと見ている。
  街に入った瞬間から付き纏われている。
  何だこの街?
  敵意は感じられないけど好意も感じられない住人達の視線。
  「主」
  「何、グリン・フィス?」
  「以前ハックダートという村に潜入調査した事があるのですが……ここはその雰囲気に酷似しています」
  「ふぅん」
  適当に相槌。
  どこだそりゃ?
  相変わらず謎の言動の多いグリン・フィス。
  まあ、今更ですけど。
  その時……。
  「君って新顔でしょ? 観光客でしょ?」
  「はっ?」

  少年が声を掛けて来た。
  観光客?
  ……。
  ……アンダーワールドでも歩哨のウィローにそう言われたっけなぁ。
  私はそんなに安穏としたように見えるのだろうか?
  まあいいけど。
  苦笑交じりに少年に答える。
  「まあ、そうね」
  「いつもパパが先に話し掛けてたから新顔と話すのは初めてなんだ。あっ、僕はジュニア・スミス。君は?」
  「ミスティよ。それでここってどこなの?」
  「アンデールだよ」
  「アンデール」
  「ここは凄く良いところだよ。……ただ周りにあまり子供はいないし観光客の人も誰も長居しないんだ。だけど良いところだと思うよ。パパは他はもっと酷い
  土地だって言ってる。食べ物もないらしい。でも、やっぱりもっと一緒に遊べる友達が欲しい」
  「ふぅん」
  なかなか裕福な街らしい。
  ただ私はもちろん、クリスも、そしてグリン・フィス、カロン、ハークネスも無言のまま警戒している。
  何かがおかしいと思う。
  何かは分からないけどこの街は変だと思う。
  うーん。
  疑心暗鬼?
  「ご両親はここで何の仕事を?」
  「他の家と同じだよ」
  「他の?」
  「ママは料理と掃除、パパは仕事に行く。この街じゃ皆そんな感じだよ。パパ達がどんな仕事をしてるかは知らないけど。ただパパ達は家の地下室か
  Mrウィルソンの小屋で仕事をしてる。パパは僕が大きくなったら仕事を教えてくれるって言ってる」
  「仕事、か」
  何の仕事なんだろう?
  見た感じよく分からない。バラモンを飼育しているでもなく商業で街を活性化させようとしているわけでもなく。
  立地条件としてはいいのにどういう政策で街を運営しているのだろう?
  私から見ると何もしていないように見える。
  まあ、私はよそ者。
  気にする事もないか。
  「今日は泊まっていってよ。僕の父さんは市長なんだ」


  特に断る理由もなかったので誘われるまま彼の家に。
  まずは母親が出迎えてくれた。
  暖かな笑みだ。
  ……。
  ……少なくとも表面的には。
  何だろ、この感じ。
  あれが仮面に見える。顔に張り付いた暖かな笑みは何?
  その意味するとこは?
  「あら、こんばんは。アンデールにようこそ。USAコンテストでベストに選ばれたのよ、この街は。私はリンダ・スミス。よろしくね」
  「はっ?」
  何言ってんだこの人。
  USAコンテストで一番良い都市に選ばれた?
  まあ、比較できる都市がどれだけ残っているかは知らないけどさ。核で大半以上は吹っ飛んでるわけだから。
  次に出迎えてくれたのは男性。
  この家族の家長だろう。
  「こんばんは、初めまして。私はジャック・スミス。リンダは愛すべき私の家内、ジュニアは自慢すべき私の息子、そしてアンデールは誇るべき私達の
  街です。ヴァージニア州で一番偉大な都市ですよ。はははっ!」
  「はっ?」
  このおっさんも何言ってんだ?
  ヴァージニアは200年前に核で跡形もなく吹っ飛んだ。
  電波か?
  電波の街なのかなここは?
  もちろん礼儀を忘れないだけの精神は私も持ち合わせている。
  微笑して答えた。
  「素敵な街ですね」
  「分かってくれて感謝します。アンデールには好きなだけ滞在してくださって結構ですよ。……そうだ今夜はここに泊まるといい。この街には残念ながら
  ホテルはありませんからね。というかホテルは必要ないんです」
  「何故です?」
  「アットホームがここのモットーだからです。ははは。旅人さんと家族として食卓を囲む。それが我々のモットーなんです」
  「……」
  泊めて貰う事になった、らしい。
  強制イベント?
  まあいいけど。
  確かに既に夜だ。漆黒の闇の中で旅を続けるつもりは全然ない。
  私は仲間を見る。
  クリスは胡散臭そうな顔をしていた。
  私も同感。
  こいつらは胡散臭い。
  ジュニアはともかく大人達は胡散臭さ全開。
  スミスは続ける。
  「私は毎日家族を養う為に働いています。健康的なアメリカ男性なら当たり前の事ですがね」
  「まあ、そうですね」
  適当に相槌。
  とりあえず。
  とりあえず寝床は大切だ。
  仮にこの街が妙な街……例えば表向きはフレンドリーでも裏ではレイダー達の街だとしても、野宿するよりは室内で寝た方がいい。防御としてはその方が
  楽だ。ここはお言葉に甘えるとしよう。
  ……。
  ……レイダーの可能性?
  さあ、それは分からない。
  だけどレイダー全てが『俺達は北斗の拳の雑魚キャラだぜーっ!』という格好しているとは限らない。というかわざわざそんな格好をする理由も法律も実
  際には何もないのだ。まともな服装でまともな住人然としているレイダーがいてもおかしくはない。
  ただ……。
  「食事を妻に用意させましょう」
  「お構いなく」
  「しかし……」
  「お構いなく」
  私は微笑しつつも頑なに拒否。
  寝床は感謝。
  防御にも適しているしね。もちろん完全に信じているわけではないので交替で寝ずの番をするとしよう。
  食事を断った理由?
  妙な薬を混ぜられて困るし。
  ここまでフレンドリーだと当然ながら警戒しますとも。
  フォールアウト3の取説にもこう記されてる。

  『日々のサバイバル生活で常に不安に晒されている人は次第に心が病み人を信じる事が出来なくなります』

  まあ、そんなわけで信じれません☆
  何しろ私はサバイバルな旅をしている真っ最中なわけだしさ。
  頑なに私が拒むのでスミスは多少は不満そうではあったものの息子のジュニアに私達を二階に案内させる。空き部屋があるらしい。仮にこの街で面倒な
  展開ではあったとしても私達は全員武装しているし、特にハークネスはミニガンを担いでいる。
  物騒すぎるまでの火力のミニガンだ。
  まあ、わざわざこちらに喧嘩売る事はないだろう。
  少なくとも今夜は。
  ……。
  ……当然ながら私達の考え過ぎの可能性もある。
  それならそれでいい。
  たけど無条件で他人を信じるのは人が良いのではなくてただの馬鹿でしかない。多少の疑う心は必要だろう。
  世の中善人しかいないわけではないのだから。
  「主」
  「何、グリン・フィス?」
  「お気をつけください」
  「……? 何を?」
  「この街からはモートの肉の臭いがします」
  「はっ?」
  モートって何さ?
  「主」
  「分かったわ。気を緩めるなって事よね? なら大丈夫よ」
  「御意」


  アンデール、第一夜。