私は天使なんかじゃない







ライリー・レンジャー 〜依頼〜






  生きるという事は出会うという事。
  日々出会いは待っている。
  そして今も。
  





  「ライリー・レンジャーが運び込まれた?」
  「そのようだよ」
  アンダーワールドで宿泊した翌日。
  もちろん舞台はまだアンダーワールドであり、現在キャロルのお店で朝食中。話を持って来てくれたのはキャロル本人だ。
  「どうして運び……うきゃっ!」
  「ほらほら。朝は忙しいんだからさっさと食べて」
  キャロルの娘のグレタに後ろからメニューで殴られた。
  ちくしょう。
  実際には義理の娘的な存在であり本当の娘ではない模様。ゴブにしてもそうだ。もちろんグールの家族間の意味は分かる。グールには生殖能力がない
  から実の息子&娘というのは実質存在しない。
  ……。
  ……まあ、例外もあるだろうけど。
  例えば家族単位で放射能でグール化したとかの場合は実の家族になるんだろうけど……あくまで例外だ。
  さて。
  「主」
  「……駄目」
  「御意」
  「はぁ」
  グリン・フィスが何が言いたいか分かったからとりあえず止めといた。
  何をしようとしたか。
  今さら明言するまでもあるまい。
  不敬罪でグレタを始末しますか云々と言いたかったのだろう。
  殺伐とした奴だ。
  「とりあえずとっとと食べましょ」
  「御意」
  それにしても。
  それにしてもクリスがいなくてよかったぁ。
  クリスはグール嫌いもあるから問答無用で発砲しかねない。……ま、まあ、本気で撃つかどうかは分からんけど可能性高いよなぁ。グリン・フィスは私の指示
  ですぐに止まるけどクリスの場合は意外に猪突猛進だから怖いんだよなぁ。
  クリスは別の店で食事中。
  ナインズ・サークルとかいうお店。
  食事はここの方がおいしいらしいんだけどナインス・サークルはアルコールの類の数が多いらしい。
  朝から飲んでる模様。
  まあいいけど。
  「主」
  「何?」
  「このシチューの中身は何でしょうね。この肉、ビクンビクン動いています。実に活きが良いですね。主も食したらどうですか?」
  「……遠慮します」
  「何故ですか?」
  「……聞かないで」
  「御意」
  私はグレタ特製シチューは食べてないけど食欲なくなるのでその話題はやめてください。
  アンダーワールド恐るべしっ!
  やれやれだぜー。




  朝食終了。
  シチューの話題はスルーでお願いします。
  グリン・フィスの感想も脳内から削除してます。なかなか削除できませんがねー。

  「なかなか美味なシチューでした。ネズミの肉のような食感でしたが美味でした。調理法次第ではああも美味とは。……ふむ。そう考えるとゴブリンは美食家
  なのかもしれませんね。主も今度食してみてはいかがでしょうか? お勧めです」

  ……ネズミの肉なんですか、あれ?

  ま、まあいい。
  ともかく食事が終わりライリー・レンジャーの話を聞く。
  聞けばライリー・レンジャーのリーダーであるライリーがここに運び込まれたらしい。運び込んだのは人間のスカベンジャー。ケリィとかいうおっさんらしいけど、
  そいつはとっとと街を離れたそうだ。
  何故運び込まれたか。
  キャロルは詳しくは知らなかったけどスーパーミュータントに襲われたのではないかという事。
  今、ライリーはアンダーワールドの医院にいる。
  私達はそこに向った。



  チョップ・ショップを訪ねる。
  アンダーワールドで唯一の診療所のようだ。
  診療所で働くグールの看護士の女性に私は面会を申し込む。
  「すいません。ライリー・レンジャーのライリーと面会したいんですけど」
  「面会ですか?」
  「駄目?」
  「いえ。人間同士の方が話が弾むでしょう。ライリーさんは少し興奮状態ですが意識はハッキリしてます。詳しくは先生から聞いてください。奥にどうぞ」
  「ありがとう」
  「仕事ですから」
  看護士に一礼。
  私は奥に進む。グリン・フィスは置いて来た。クリスはまだ酒場。別に全員で行動する必要はない。
  さて。

  「医者のDrバローズだ。チョップ・ショップに何か用かな?」
  グールの医者だ。
  まあ、当然よね。何故ってここはグールの街。グールが主なのは当然の事だ。
  「私はミスティ。実は……」
  「ああ。協力しに来たんなら大歓迎だぞ。人間の新鮮なサンプルは常に必要だからな。人間の皮膚や臓器、器官はいつでも欲しい。摘出していいのか?」
  「……死ぬでしょ普通に」
  「ははは。冗談だ。人間にしてはジョークのセンスがあるな。普通は取り乱すぞ?」
  「普通は射殺すると思う」
  「ははは。それで?」
  「何?」
  「ここに何しに? 別に見た感じ君が患者というわけではなさそうだが……」
  「ライリーに会いに来たのよ」
  「友人かね?」
  「聞きたい事があって。……面会は無理ですか?」
  「無理ではない。しかし彼女はここを出て行くと言っている。まだ容態は良くないんだがな」
  「意識は?」
  「話をする程度にはハッキリしている」
  「それはよかった」
  助かる。
  パパの行き先を知っているであろう人が意識不明では困る。
  「ライリー・レンジャーはDCの廃墟を拠点にしている傭兵団だ。彼女はそれを率いているライリー。何か問題があるのかもしれん。ともかく退院は許可
  できない。人間同士の方が話もし易いだろう。説得してくれ」
  「説得? いや、私は話を聞きたいだけ……」
  「説得してくれ。頼む」
  「はいはい。それで彼女どうしたの?」
  「コンバットアーマーが粉々に砕けていた。複数の切り傷、打撲、足の骨折、それから内出血と鈍器で殴られた傷があった。スーパーミュータントに襲われた
  んだろうな。生きているだけ奇蹟だ。……まあ、大量にスティムパックを投与したから持ち直したわけだが、普通はあの時点で死んでる」
  「死んでる、か」
  私もこの間危なかった。
  ジェネラルにショットガンでお腹を撃たれてね。
  死は間近。
  私にも経験あるので苦笑い。
  「スカベンジャーが彼女を拾ってくれなかったらその時点で死んでたな。放置されていたら今頃は何かに食われていただろうな」
  「説得しながら私の用件済ませればいいのね?」
  「そうだ」
  「了解。任せといて」


  鍵を開けて貰いライリーが収容されている病室に入る。
  ふぅん。
  病室はなかなか小奇麗なのね。
  少なくとも監禁されているわけではなさそう。待遇はいいらしい。……まあ、脱走しようとしたとかで鍵掛けられてるけど。
  「……何? あんた誰?」
  栗色のポニーテールの女性。ライリーだ。
  昨夜死に掛けで運び込まれたとは思えないほどふてぶてしい顔だ。
  活力に満ちてる。
  長生きするタイプだ。
  「アンダーワールドで人間に会うとは思ってなかったわ。それであんたは誰?」
  「ミスティ。貴女はライリーよね。ジェームスの居場所を知らない?」
  「ジェームス? ああ、この間の雇い主か。なかなかダンディな奴だったけど……あんた、依頼人の何? 依頼人だった相手の情報を口にするほど安くないわよ」
  「私のパパよ」
  「ふぅん」
  「どこに行ったの?」
  「まあ、娘だと信じてあげるわ。彼はリベットシティに向ったわ。Drリーに会いに行くとか言ってた。浄化プロジェクトを再び始めるには彼女の手助けが必要だと
  か何とか。よく意味は分からないけどね。……で、それだけ聞きにここに?」
  「……」
  「ちょっと、あんた」
  リベットシティ、か。
  それがどこか分からないけど手掛かりは掴んだ。
  目的は果たした。
  ……。
  ……ああ。そうか。
  Drバローズの依頼を達成しないとね。
  ライリーは絶対安静。
  それを彼女に分かってもらわないといけない。そういう約束で会わせてもらったんだし。
  約束は約束。
  出るのは無理だと彼女に伝えた。
  「ライリー。出るのは無理だとDrバローズが言ってた」
  「ここから私を出すように言ってっ! 私のチームが……くそっ!」
  「まだ動ける傷じゃないでしょう」
  「そんなの私のやり方じゃないわ。ライリー・レンジャーのライリーが病院で寝たきりなんて噂が出回ったら評判はどうなると思う?」
  「でも出たら即座に死ぬわ」
  「だけど仲間が待ってる。このままじゃ全滅よ」
  「……」
  「どこかにガッツのある人はいないかしら? そしたら、そしたらその人に頼んで私は療養してられるけど……都合良いわよね、そんなの」
  「……」
  「でもどこかにいたらいいな。仲間が、仲間が」
  「……ああ、もうっ! それでっ! どうして欲しいわけっ!」
  「貴女、受けてくれるの?」
  「受けんとまずい流れじゃないのよ今のは」
  強制イベント勃発の模様。
  回避しろ?
  それは容易い。
  だけど回避したらしたでもっと面倒な事が待っているのが私の人生の常(泣)。
  ならば。
  ならば受けてあげようじゃないのよ。
  どうせ最後は助けるわけだし。
  やれやれだぜー。
  「どういう経緯でここにいるの? チームって何?」
  「あんたに……」
  「私はミスティ。ベヒモス倒したのよ。それなりに腕には自信があるわ。一騎当千の仲間もいるし。……2人だけど」
  「ベヒモスを倒したですってっ!」
  「そう。だから力になれると思うわ」
  「……」
  「ライリー」
  「ダウンタウンのヴァーノン広場で地図作りをしてたらスーパーミュータントの大部隊が襲ってきたの。……くそっ! タロン社の所為よ。あいつらが議事堂
  を制圧するから辺鄙な場所でしかない公園にスーパーミュータントが行軍してきたのよ。ろくな事やらない連中だわっ!」
  「それで?」
  「それで、私達は油断してたから遅れをとった。レディーの希望病院に逃げたのよ」
  「ふぅん」
  「気のない返事ね」
  「地理が分からない」
  「まあいいわ。ともかく逃げたのよ。そしたらそこにもスーパーミュータントが追いかけて来てね。それでも屋上まで戦い抜いて隣のステーツマンホテルへ
  の通路を見つけたの。スーパーミュータントはしつこく追撃してきた。仲間のセオはそこで戦死したわ。これは確かよ」
  「仲間が……そうなの」
  「それでも戦い抜いて、ホテルの屋上に私達は逃げた。拳銃の弾丸は全て空になってた」
  「……」
  「まだ最悪の状況だとは思ってなかった。屋上だから電波がよく届くと思ったのよ。私達、BOSの依頼で地図作りしてた。だから救難信号を出せば来てくれる
  と思ったのよ。だけど来なかった。仲間がGNRを聞いた。その時知ったのよ、BOSは出払ってるってね」
  「あれからずっと立て籠もってたの?」
  彼女の言うGNRでの戦闘を私はリアルに関わっていた。
  つまり。
  つまりライリー・レンジャーは数日間戦い抜いていたわけだ。タフなご一行の模様。
  「それで?」
  「私は単身で救援を求めるべく脱出した。もちろん逃亡じゃない、仲間と打ち合わせての事よ。……だけどスーパーミュータントの部隊がDCを徘徊しててね、見
  つかった。連中は飛び掛って来た。腕がもぎ取られるかと思ったわ。あいつら凶暴で最悪ね。臭いし」
  「それ分かる」
  「最後に覚えているのは排水溝に落ちる瞬間だけ。……で今はここにいるわけ。とんだ救出作戦だわ」
  「私は何をすればいい?」
  「レンジャー助けて。それをお願いしたいわ」
  「ふむ」
  考える。
  考える。
  考える。
  はっきりいって面倒な事に首を突っ込んでいるのは分かるけど……このまま見殺しにするのは寝覚めが悪い。
  私のモットーは見捨てない事。
  少なくとも助けれる者を見捨てる事はしたくない。
  ライリー・レンジャーはまだ何とかなる。
  やれやれ。
  行くしかないなぁ。
  「受けるわ」
  「受けてくれてありがとう。……ほら、急いで。お礼なら再会の時に言うわ。隊員がいつまでも耐えられるか分からない」
  「ヴァーノン広場ってどこ?」
  「助けを借りるんじゃなきゃ近付くなって言うわ。あそこはスーパーミュータントの巣窟よ」
  「立て籠もっているのは何人?」

  「立て籠もっているのは4人……ああ、セオは死んじゃったんだっけ。可哀想。……私が知る限りでの生き残りは重火器専門のブリック、医者のブッチャー、技
  術者のドノバン。皆長年を共にした仲間よ。一生信頼出来る奴らよ。本部にはまだ数名いるけど、立て籠もっているのは3名だけ」
  「分かった」
  「ありがとう」
  「いいわ。別に」
  受けて正しいのかどうかは分からないけど受けてしまいました。
  パパも怒らないだろう。
  誉めてくれるかも。
  とりあえず。
  とりあえず他の皆とも合流しないとね。
  さて。
  「お仕事お仕事」






  その頃。
  アンダーワールドのナインス・サークル。

  ここは酒場。
  自分は、私クリスティーナはミスティと別れてここで酒を飲んでいる。
  コップに満ちているのはスコッチ。
  「……」
  ごくごく。
  一気に飲み干す。
  カウンターにはグールのバーテンが常時いる。あまりグールは視覚的に好きではないので私は出来るだけ離れたテーブルで酒を飲んでいる。
  ヤケ酒ではないがあまり面白くはない。
  ミスティは突然変異に対しての愛情が強過ぎる。
  こいつらは淘汰されるべき存在だ。
  少なくとも次世代に連れて行ける存在ではないだろう。あくまで放射能による突然変異でしかない。
  つまり。
  つまり遺伝的に問題がある。
  淘汰は排除ではないけど接するには少し距離をおく必要があるとは思う。
  別に偏見だけの感情ではない。
  合理的に考えてだ。
  フェラル・グール化した場合の対処も必要だと私は言いたい。より濃厚な放射能に脳を冒された場合という限定ではあるものの、慣れ親しんだグールがいき
  なり暴走した場合、傷付くのは結局自分だ。精神的にも傷付く。
  だから。
  だから私はミスティに近付いて欲しくない。
  万が一の際に嘆くのはミスティ自身だからだ。
  「ちっ」
  コップは空。
  ついでにビンも空だ。
  さっきはグールの従業員が運んできてくれたが、店は込み合い始めていた。
  グール。
  グール。
  グール。
  ふぅ。
  BOSは差別しているが私は連中とはまた別の見方と接し方がある。要は区別している。差別ではない。
  周囲を見てみる。
  壁に背を預けて妙に存在感を発しているグールがいる。コンバットショットガンを背負ったなかなかの面構えのグールだ。
  用心棒だろうか。
  他にも店の中には用心棒のような奴がいるものの発している威圧感の質が異なる。
  まあいい。
  酒を追加しよう。
  そいつに声を掛ける。
  「スコッチおかわり」

  「知らん。アズクハルに聞け」
  「客に向って……」
  「アズクハルに聞け」
  「……」
  客に向って失礼な奴。
  私は無言で席を立つ。別に相手の威圧に負けたわけではないがここで暴れればミスティは良い顔をしないだろう。彼女の顔を立てるとしよう。
  ふん。
  随分と丸くなったものだな、私は。
  カウンターに移動。
  白いビジネススーツを着込んだ奴がバーテンでありオーナーらしい。
  だがどんなに身なりを整えても中身はグールでしかないがね。
  ……。
  ……差別?
  区別。
  私は彼ら彼女らを人間とは見ていない。あくまでグールというカテゴリーで括っている。
  そこは問題あるまい。
  ミスティ自身もそこは私と同じ価値観。
  根本になる起点は同じなのだから問題はない。
  さて。
  「スコッチ」
  「何て哀れなんだ」
  「何?」
  「腰掛を引いて、そこに少しキャップを置いて、アズクハルおじさんに何でも話してごらん」
  「……」
  一瞥して分かった。
  食えない奴だ。
  私は無言で席に座る。スコッチを注文した。バーテンはニヤニヤしながら注文した酒を出す。
  一口啜る。
  相手のニヤニヤが不愉快だ。
  「珍しいスムーススキンを見つけた。私はアズクハル、ここはナインス・サークルだ」
  「知ってる」
  腹が立つ。
  スムーススキンという人間の別称も忌々しい。
  もちろんこいつらにしてみればグールという名称の仕返しもあるのだろう。
  ふん。
  「人々は問題を抱えており私は彼らに酒を売っている。酒と、ちょっとしたものをね。もし何か必要なら教えてくれ」
  「必要ないわ」
  「おお。満ち足りているというのだな。それはいい事だ」
  「無愛想な彼は誰?」
  コンバットショットガンを背負ったグールの男を指差す。
  愛想というものを知らない。
  だから聞くまでもなくどんな類の奴かは分かるには分かる。用心棒だろう。ただ体から発散される殺気はただの用心棒とは思えない。
  殺し屋と言っても通じるほどの殺気だ。
  「彼はカロンだ。そうだな……彼は忠誠心のある使用人とだけ言っておこう。言っておくが私に手を出すなよ。そうしたら彼も君に手を出さない」
  「脅し?」
  「事実だ」
  「ふぅん」
  「私の持っている契約書により私が彼の雇用主になっている。彼は私が言う事をいつでも口答えせずに行う」
  「……」
  「分かるだろ? カロンはとても躾熱心な人々に囲まれて育った。その結果、彼は契約をした相手に絶対の忠誠を誓う。この紙がある限り不変で、確固
  たる忠誠で、契約が終了するその日まで雇用主に従い続ける」
  「……」
  なるほど。
  話が見えて来た。
  カロンは奴隷か。おそらくアズクハルが奴隷商人から購入したのだろう。
  それにしても雇用人とか契約とかビジネスマンを気取った態度が面白くない。むしろ不愉快だ。
  アズクハルは続ける。
  「誤解しないでくれたまえ。彼が私に果てしない憎悪を抱いている事は承知している。好かれているとは思っていない。だが私がこの契約書を有している
  限り彼は私に対しては可愛らしいテディベアのように優しい」
  「あれがテディベアって顔?」
  「くくく。可愛いだろ?」
  「ふん。下らない。結局あれはあんたの奴隷なだけでしょ?」
  「私を侮辱するつもりですか? 私は奴隷制度に反対だ。私はリンカーン大統領を心の底から尊敬する男ですよ。奴隷制には嫌悪すら覚える」
  「……」
  偽善者が。
  だがカロンはなかなか使える。
  今後の事を考えると契約で動く奴が1人いた方がいいだろう。
  ミスティの為にもね。
  「私は個人の自由を大切にしている。他人を隷属させるなどありえない。鎖は獲得するもので強制されるものではないのだよ」
  「つまりカロンは自分で今の立場を望んでいると?」
  「そうだ。彼の過去は……まあ、奴隷商人の所有物の奴隷だったかもしれん。しかし今は契約の上で成り立つ関係だ。従属と従事は異なる」
  「詭弁ね」
  「君は私をイラつかせますね。いいですか、契約はカロンが選択した事なのです。だから他人の君が口を挟むべきではない」
  「結局カロンはここで何を?」
  「バーを見てくれ。酔っ払い達を列に並ばせている。大抵、私が指差した者をカロンは痛めつける。彼は堕落したバーテンが頼れる、これまでで最高の
  用心棒さ。決して自の下らないモラルで私を煩わせたりはしない」
  「他の用心棒は?」
  「そことそこ、あとは厨房にいる。3人だ。だが連中はカロンほど有能ではない」
  「ふぅん」
  「君は彼と話したか?」
  「会話にはならなかったけどね」
  「彼との会話はむしろ爽快だ。そうだろ? だが彼の簡潔さを愚かさと勘違いしてはいけない。それこそ浅はかだな」
  「無言は男の証明だと?」
  ミスティの従者の剣使いを思い出す。
  寡黙は美徳?
  あまり興味がないので男はよく分からない。
  「いいかね。相手の過小評価は歴史の中でとても多くの人が最後に犯す過ちとなってきた。……さて、スコッチのおかわりはどうするね?」
  「もらう。……良いお店ね」
  「キャピタルウェイストランドで唯一私の仲間が上の世界の悲惨さから逃れられる場所さ」
  アズクハルは含み笑いをした。
  グールの容姿は元々好きではないが邪悪そうな顔はもっと好きではない。
  醜いゾンビめ。
  「くくく。その悲惨さが私のような男を幸せにする。それにとてもとても裕福にね」
  つまり。
  つまり悲惨に境遇を忘れる為に酒を飲み続けるグール連中から金を巻き上げている、という意味合いだろう。
  もちろんそこは否定しない。
  それは商売として成り立ってる。
  好きにすればいい。
  「……」
  ごくり。
  スコッチを喉に流す。
  「隣のグールの彼女が可愛く思えるまで飲め。……はははっ! すまんな、グールのジョークの1つさ。君には分からないとは思うが」
  「……」
  アズクハルは小悪党に過ぎない。
  どんなに粋がったところでメガトンのモリアティと大差はない。決定的に異なるのはモリアティは人間でありアズクハルはグール、それだけだ。
  あとは全部同じだ。
  ならば。

  「カロンの契約を売って欲しい」
  「何? ……彼は私とナインス・サークルにとって大変価値のある財産だ。何を考えているのかな?」
  財産。
  そう言いつつもアズクハルが興味を示したのを私は察していた。
  そう。
  アズクハルはモリアティと一緒で金で動くタイプの奴だ。
  金額次第でどうにでも転ぶ。
  私はカロンが欲しい。
  奴の境遇も性格も知った事ではない。ただ契約を結んだ相手に忠誠を誓うのであれば是非にでも部下にしておきたい。
  ……今後の為に。
  「金額を提示して」
  「1000キャップでどうかな」
  「じゃあ2倍出す。キャッシュで2000。損のある取り引きではないと思うけど?」
  「……よし、分かった。それでいい。契約書はこれだ。では代金を全額支払ってもらおうか」
  意外に物分りがいい。
  展開も早い。
  私は2000を支払う。メガトンを旅立つ際に経費して受け取っていたのだが、ここで役に立った。丁度2000を支払い、さらに酒代を支払った後で書類を受け取る。
  よし。
  もうこれでここに用はない。
  アズクハルにもね。
  「カロンには君から知らせてくれ。……それと」
  「……?」
  「用心棒はカロンだけではないんだ。妙な真似をするなとカロンに言っておいてくれたまえ」
  「分かったわ」
  こいつ、びびってやがる。
  金に目が眩んでカロンを手放した。
  怯えるぐらいなら最初から金に目を眩ませるんじゃない。
  まあいい。
  アズクハルの状況なんか知った事ではない。カロンとの関係性もね。
  私は守銭奴のグールから離れて用心棒のカロンの元に移動する。相変わらず背を壁に預けて店内を睨みを利かせている。
  ……。
  ……2000かキャップ。安い買い物ね。
  これは安い。
  カロンの腕は素人ではない。店内の用心棒だけではなく戦闘に使える。
  安い買い物だ。
  私の私兵。
  使える。
  「カロン」
  「アズクハルに聞け」
  「カロン」
  「知らん。アズクハルに……」
  「自分が今日からあんたの契約者」
  「何だと?」
  「私の名はクリスティーナ。今日からカロン、あんたの指揮官」
  「別に誰の物でもないが主が変わったなら新しい主に仕えるまでだ。だがその前にやる事がある」
  何がしたいのか?
  聞くまでもない。
  怨恨か。
  「アズクハルは用心棒が他にもいると言っている。それでも?」
  「多少時間が掛かるが片付ける」
  「私は急ぐ」
  「しかし……」
  「手伝ってやるからとっとと片付けるわよ。……アズクハルは好きにしていい」
  「御意のままに」
  カロンを先頭に私は続く。
  あくまで主役は彼だ。

  ざわざわ。

  店内がざわめいた。
  カロンが動くのは珍しい事らしい。もちろんざわめきの理由はそれだけではなく、アズクハルの用心棒3人がご主人様を護るべく周りを固めた。
  周囲に人垣が出来る。
  「アズクハル。今日で勤めをやめる事になった」
  「おお。カロン。さよならを言いに来てくれたのか? ……銃をしまえ。今すぐここで現世とさよならするつもりかな?」
  チャッ。
  コンバット・ショットガンをアズクハルに向けるカロン。
  その瞬間、用心棒の3人が銃火器をカロンに集中させた。カロンはアズクハルを射殺出来るが次の瞬間には自分も死ぬ事になる。
  確実に。
  ……。
  ……ふぅ。それは困る。
  2000キャップ分は生きて貰わないと私が損をする。
  手を貸してやるか。
  バァン。
  バァン。
  バァン。
  私は32ミリ口径のピストルを連続して発砲。
  用心棒は沈黙した。
  殺した?
  いいえ。
  相手の銃を銃弾で弾き飛ばしただけ。
  殺してもよかったけどミスティに迷惑が掛かるのは困る。用心棒は丸腰になり一気に戦闘能力がゼロになった。
  「さよならだアズクハル。今までありがとう」
  「ま、待てっ!」
  バァン。
  コンバット・ショットガンが火を噴いた。アズクハルは直撃を受けて大きく後ろに倒れた。即死。
  だがカロンは止まらない。
  既に死んでいるのが確定のアズクハルの死体に駄目押しの一発を叩き込んだ。
  「くくく」
  満足そうに笑う。
  武器を失った用心棒達はご主人様も失った。しかしアズクハルの死を悼むのではなく自分達の保身の為にそのまま逃げていった。
  臆病者は長生きする。
  それだけの事だ。
  「クリスティーナ様、行こう」
  「満足した?」
  「アズクハルは悪魔だ。奴と契約している限り俺は奴隷以下でしかなかった。契約書がある限り命令には逆らえなかった。だが主が変わったのならもう奴の
  命令を聞く事もない。生かしておく事もな。今後どういう展開になるか分からんが、ともかく、新しい主であるあんたに仕えよう」
  「ミスティと合流する。行くわよ」
  「御意のままに」



  こうして。
  こうしてカロンを部下にした。
  今後の布石になる。自由に使える手駒が欲しかったところだ。
  ミスティと合流するとしよう。
  次の旅路に進む。