私は天使なんかじゃない







父を探して私は旅をする 〜DC廃墟〜






  西暦2077年。
  アメリカと中国の全面核戦争勃発。
  そして。
  そして世界は滅亡した。

  西暦2277年。
  かつてのアメリカの首都であるワシントンDCは瓦礫と残骸の都市と化していた。
  そこに人類の文明の輝きはなく、その足跡すら残っていない。

  栄光は瓦礫の中に。
  栄華は追憶の中に。
  人類が自ら選んだ選択により、もはやそこに都市の名残はない。

  DCは戦場。
  戦場を駆け巡るは人?
  それは既に人ですらない者達、スーパーミュータントの軍勢の支配する暗黒の領域。






  現在の装備。


  『ミスティ』
  44マグナム二挺。アサルトライフル。護身用のナイフ。グレネード1つ。

  『グリン・フィス』
  セラミック刀。護身用のナイフ。グレネード1つ。

  『クリスティーナ』
  スナイパーライフル。32口径ピストル。グレネード1つ。






  「私はサラ・リオンズ。リオンズブライドを指揮する司令官よ。今はスリードッグ達の救出の為にBOSの部隊を引き連れて隠密行動中。それにしても民間
  人、ここに何しに来た? ここはお前達のような観光客が来る所ではない。DCは観光名所ではなく戦場よ」
  「民間人」
  苦笑しながら私は金髪の女性を見る。
  うーん。
  軽装過ぎたかな、私達。
  ……。
  ……ま、まあ、相手がごっつ過ぎる装備しているからそう思うのかもしれないけど。
  パワーアーマー装着してる面々。
  まさかまだ稼動するあのパワーアーマーがあるとはね。
  驚き。
  それにしても……。
  「BOS?」
  なんじゃそりゃ?
  意味不明。
  確かパパと赤ちゃんだった私を護ってメガトンまで同行してくれたのがBOSだったらしいけど……そもそも何者?
  グリン・フィスに聞く?
  無理だろそれ。
  彼は異邦人。
  私と同じでキャピタルウェイストランドには精通していない。
  クリスが面白くなさそうに呟く。
  「西海岸を中心に旧文明の遺産を漁ってる連中。BOSの最大にして唯一の目的は文明の保存。……そこにいるのはキャピタルウェイストランドに来た
  BOSの一派だけど本来の任務を放棄して地元の英雄になるべくスーパーミュータント一掃に命懸けてるご苦労な連中」
  「ふーん」
  さすがは原住民、詳しいですなぁ。
  だけど何故かクリスの口調は結構激しい。
  嫌いなのかな?
  まあいいけど。
  「ここに何しに来たの? 引き返しなさい」
  「それは出来ない。私達はギャラクシーニュースラジオに向ってるんです」
  「そこが戦場なのよ」
  「戦場?」
  「2日前、スーパーミュータントの軍勢がビルを包囲した。我々の同志が駐屯していたけど相手側の数に押されて立て籠もっている。我々は要塞から救助
  の為に移動中。どうしても行きたいのであれば我々に同行してもいいけど、命は保障しない」
  「命の保障?」
  クリスが笑った。
  どこかしらサラに絡むところがある。
  ……?
  何かおかしいなクリス。
  イライラしてる。
  「何がおかしいの?」
  「その程度の人数で何が出来るの? BOSの軍事力ってその程度?」
  「我々は後続に過ぎない。先発隊が既に先着しているはずよ。合流すれば20名になる。……少数精鋭をお見せしてあげるわ」
  「それはそれは楽しみね。……ミスティ、行こう」
  ともかく。
  ともかくBOSに同行する事になった。


  先発隊は敵の部隊を撃破した直後だった。
  テキパキと報告をする兵士。
  「センチネル・リオンズ、報告します。廃墟のビルに陣取ってたスーパーミュータント達は丁度殲滅したところです。これで何も阻む者はありません」
  「移動経路は?」
  「確保しました。廃墟のビルの内部を通れば気付かれずに包囲している連中の脇を衝けます」
  「ご苦労」
  「……あの、その一般市民は?」
  「途中で拾った。敵ではない。……味方としての戦力は未知数だが同行者だ。護ってやれ」
  「了解しました」
  「いずれにしても状況は最悪だな。予想よりも悪い。包囲している数はかなり多い。……負傷兵はここで待機、動ける者だけで行くっ!」
  ふぅん。
  仕官として有能なサラ嬢。
  それにしてもクリスはどうも機嫌が悪い。
  何故だろう?
  「クリス、嫌いなの?」
  「連中は偽善者だからね」
  「偽善者?」
  「奴隷やグールは敵としてみている。少なくとも連中のやり方は正義ではないだろう?」
  「確かにね」
  頷いては見るもののクリスの苛立ちは別にある気がした。
  それが何かは分からないけど。
  それにしても……。
  「スーパーミュータントかぁ」
  駅から出た時に接触したけど戦ってはない。
  強いのかな?
  調べるとしよう。

  ピピっ。
  PIPBOYを起動させてスーパーミュータントを検索する。物柔らかな機械的な声が装着したPIPBOYから流れる。
  この機械。
  ナビにもなるしパソコンにもなる。私の装着しているPIPBOY3000には特別に体脂肪計も内蔵されている優れものだ。
  さてスーパーミュータントの情報っと。

  『スーパーミュータント。戦後に現れた謎の生命体。発祥等の詳細不明』

  『三つのタイプがいます』

  『下級兵士であるスーパーミュータント』

  『戦闘能力に秀でた中級タイプのスーパーミュータント・プルート』

  『他の二タイプを指揮する仕官タイプであるスーパーミュータント・マスター。上位に上がるにつれて車のパーツ等を加工した鎧を装着しています』

  『筋肉は厚く銃弾にも耐性がある為に戦闘向きではありますが知能は低く、独特の片言の発音で言葉を発します』

  『以上で情報終了。では良い一日を』

  なるほど。
  勉強になりました。
  要は人類同士の最終決戦の後に大地に溢れ出した新人類的な感じなのかな?
  発祥不明か。
  ふーん。
  どうやって生まれたのか気になるなぁ。
  さて。
  「我々はこれより包囲された建物と同胞の救助の為に隠密行動、相手の脇腹を衝くべく移動を開始する。指揮は私が執る。全員続け」
  『了解っ!』
  サラ、BOSの面々を率いて移動を開始する。
  半ば崩れたビルに入っていく。
  グリン・フィスとクリスは私を見る。私は静かに頷いた。別に協力を求められているわけではないけど連携出来る内に連携しておこう。別にBOSに心証良く
  しようとかではなくスーパーミュータントの軍勢は叩ける内に叩きたい。大勢いる内にね。
  3人で打倒は勘弁。
  共闘はそれだけの理由だ。
  半ば倒壊した建物の中にはスーパーミュータントの死体がゴロゴロしていた。
  なるほど。
  今まではこいつらに阻まれて分断されていたわけだ。
  それが今は存在しない。
  ビルを包囲しているスーパーミュータント達がこの動きに気付いていないのであれば相手の虚を衝ける。
  奇襲はそこから始まる。
  そして……。
  「全員待機。別命あるまで発砲を禁ずる」
  崩れた壁の向こうではビルを包囲しているスーパーミュータントの軍勢がいる。
  数は多い。
  大軍だ。
  ただまだこちらには気付いていないようだ。
  私達はサラの隣に移動し、壁に張り付きながら相手の動向を窺う。

  「ミライノタメニっ!」
  緑色の巨漢が叫びながら建物にアサルトライフルを乱射している。
  その隣に……いや、その周囲には無数のスーパーミュータントの群れがアサルトライフル、ハンティングライフルを乱射している。
  中にはミニガンを掃射している奴もいる。
  武装。
  人数。
  これは完全なる軍勢だ。
  廃墟のビルの物陰に私達は隠れながらその様を見ている。
  サラが私の耳元に囁く。
  「あの建物がギャラクシーニュースラジオの建物。略してGNR。私達はあの建物をこの区域での活動拠点にしているわ」
  「何故?」
  「強固だからよ。それに広い。ただあそこには最初からスリードッグがいた。彼のしている事にも興味もあったし理解もしている。それにその必要性も分
  かってる。だから協定を結んだの。スリードッグの放送を護る代わりにあの場所に我々が駐屯するという協定をね」
  「ふーん」
  「我々は人類の為になる事に関して惜しみなく協力する。それが父の……いえ、エルダー・リオンズの思想よ」
  「ふーん」
  ビルに立て籠もるBOSとビルを包囲するスーパーミュータントの銃撃戦を見ながら私は興味なさそうに呟く。
  興味?
  実際そんなものはないわ。
  BOSが誰を護ろうと特に関係はない。
  今はこれを何とかする方が一番の大前提だからだ。もちろん無駄話をお互いにしているわけではない。サラも『BOSの偉大さが分かったでしょ?』的な
  演説をしているわけではない。踏み込むタイミングを計っているのだ。
  こちらの人数はわずか10人弱。
  数は圧倒的ではない。
  それにビルのBOSのメンバーは包囲しているスーパーミュータントの軍勢の波状攻撃で身動きが取れない状況。
  今、私達が下手に飛び出したら簡単に返り討ちにあう。
  タイミングを待ってる。
  タイミングを。
  ……。
  ……ただ、サラの話から少しだけ見えて来た。
  私が赤子の頃にパパと一緒にメガトンに同行したBOSのメンバーは『パパが世界の為になる事をしているから』という意味合いで同行していた可能性も
  高い。何をしようとしていたかは分からないけどパパの前歴が何となく分かった気がした。
  まあいい。
  とりあえず再会したらまず文句言ってやるーっ!
  さて。
  「一般市民。私の指示に従ってくれますか?」
  「一般市民ですから。任せるわ」
  「感謝する」
  「いいえ」
  「貴様我々に命令する……っ!」
  いきり立つクリス。
  意味は分かる。
  だけど人数は向こうが多い。連携する必要性は絶対にあるとは言わないけど、私達が勝手な動きをした為にサラの部隊が危険に晒される可能性もある。
  だからこそ私は受諾した。
  それにスーパーミュータントを倒す間の協定だ。
  そこまで腹を立てる事ではない。
  「クリス、言う事を聞きましょ。相手の方が人数多いんだから」
  「一兵卒がそう言うなら承諾する。……だけどミスティ、後でボクの言う事を何でも全部聞いて貰うんだから……」
  「……」
  こいつのキャラ性なんかもう適当な気がして来た。
  もしかしてクリスその場に応じて演じてるんじゃないだろうな?
  うーん。
  それはそれであるような気がする。
  「主。自分はどうしましょう」
  「うん?」
  「この場にいる者が攻撃すれば敵勢は一瞬とはいえ成す術もなく的になる、その時建物に立て籠もる者達も呼応して攻撃する」
  「それが何?」
  「さすがに斬り込むのは危険かと」
  「ああ。なるほど」
  集中砲火のど真ん中に突っ込む馬鹿はただの馬鹿だ。
  グリン・フィスの言いたい事は分かった。
  「もちろん主が突っ込めと言うのであれば自分は玉砕して散る所存。華々しい最後をご覧になってください」
  「待て待て待て勝手に死に急ぐなっ!」
  「御意」
  「はぁ」
  こいつはこいつで疲れる。
  真面目過ぎるのもどうかと思う今日この頃。もちろんクリスの性格もダメダメだ。
  あれ?
  もしかして極端な性格の奴しかいない?
  ……。
  ……やれやれだぜー。
  「配置。攻撃用意。私の指示があるまで全員待機」
  『了解しました』
  ああ。
  まともな奴いた。サラ・リオンズ。有能な指揮官でもある。部下の信頼も厚いらしい。
  全員は位置に付く。
  BOSの構成員にはレーザー兵器の所持者が多い。そういう意味では火力でスーパーミュータントを圧倒出来る。ただまともにぶつかれば数で負けてい
  るのでサラの部隊ではあの軍勢には勝てない。
  だけど。
  だけど真正面に戦うばかりが能じゃない。
  私達はスーパーミュータントの軍勢の背中を見つめる場所にいる。つまり一方的に第一攻撃は連中に叩き込める。

  「ウテっ!」
  「アイツラヲヒキズリダシテクッテヤルっ!」
  「フハハハハハハハハっ!」

  スーパーミュータント達は銃撃を乱射。
  どんだけ弾持ってんだこいつら?
  建物は頑丈だから鉛玉を何千発撃ち込んだところで崩壊はしないだろうけど立て籠もっているBOSの連中は身を伏せる事しか出来ない。
  応戦すら出来ないでいる。
  サラは見極めている。見極めようとしている。
  連中の銃撃のリズムを。
  特にミニガンの弾装交換のタイミングを計っている。あれは連中の火力の中で最も高い。それにあれが健在である限り瞬時に私達は反撃にあって返り
  討ちになってしまう。あれさえ封じてしまえば特に怖い事はない。
  そして……。
  「今よっ!」
  サラが叫ぶ。
  ミニガンの弾丸が尽きた。弾装交換には早くても数十秒掛かる。
  そこが狙い目だ。
  「撃てっ!」
  サラの指揮下にあるBOSの部隊が深紅の閃光を放つ。レーザーライフルの圧倒的な破壊力の前にバタバタと巨漢の軍勢は倒れていく。
  バリバリバリ。
  私は私でアサルトライフルで一斉掃射。
  どんなに人間よりも堅い筋肉を有していようとも頭部に直撃を受ければ行動不能になる。所詮は生き物の範疇だ。殺せない道理はない。私の的確な
  射撃でスーパーミュータントの頭を次々と砕く。クリスのスナイパーライフルも的確に相手を射抜いていく。
  一方的な展開だ。
  建物への攻撃が止んだ。
  集中していた火力が緩んだのを知って建物に籠もっていたBOSの部隊が応戦。
  形勢は逆転した。
  挟撃されたスーパーミュータントの軍勢は一気にその兵力の頭数を減らしていった。
  そして……。

  「テッタイシロ。ニゲロっ!」
  「ジェネラルノメイレイダ。トウショノヨテイドオリ、テッタイダっ!」
  「ニンゲンドモ、マッテロ」
  「スグニコロシテヤル」
  「スグニダ」

  ……?
  気になる台詞を言いながらスーパーミュータント達は後退して行く。ただ何と言ったのかよく聞き取れなかった。こいつら発音悪すぎ。
  もちろんそのまま逃がすBOSではない。
  GNRのビルの防衛という役目がある以上不用意に追撃出来ないにしても、撤退している連中に攻撃を加える事は出来る。当然スーパーミュータント達
  も銃火器で応戦しつつお互いに弾丸の交換をし合い、やがて銃声は途絶えた。
  視界から完全にスーパーミュータントは姿を消した。
  「前進。全員建物の展開」
  サラの指示で私達は物陰から出てGNRの建物の前に展開。制圧した。
  スーパーミュータント達は大量の同胞の死体を残して逃げて行った。
  完全勝利。
  いやいや。これは完全勝利だろうか?
  どうにも納得出来ない。
  何かおかしい。
  「うーん」
  私はアサルトライフルを手にしたまま考える。
  腑に落ちない。
  確かに。
  確かに私達が背後を衝いたのがきっかけで形勢は逆転した。
  GNR防衛部隊を包囲したスーパーミュータントの軍勢の背後を私達が急襲したから確かに有利ではあったものの……それでもどう転ぶかはまだ分から
  ない流れではあった。連中にもまだ勝機はあった。
  何故連中は撤退した?
  スーパーミュータントは確かに頭は悪いとは思う。
  状況の判断が出来ていなかった?
  なるほど。
  それはそれでありえるだろう。
  だけど。
  「主」
  「何? グリン・フィス?」
  「アカヴァル大陸の……」
  「アメリカ大陸ね」
  何度訂正しても無意味の方向か。
  まあいいけど。
  「失礼しました、主」
  「別にいい。それで何?」
  「ここでの戦略はよく分かりませんが、あの連中はどうして後退したのでしょうか? 知能の低そうな連中ではありましたが撤退の行動は迅速でした。少な
  くとも指揮系統が乱れての総崩れではありません。もしかしたら偽装撤退ではないでしょうか」
  「そうなのよ」
  「主もそうお思いで?」
  「不利になったら一時撤退しろという前提があったように思える」
  「さすがは主」
  「どうも」
  グリン・フィスの言い分は正しい。
  スーパーミュータント達は『最初から撤退をする事が前提だった』かのように動いていた。そのニュアンスを含めた撤退行動。
  迅速に。
  的確に。
  連中は撤退した。
  戦略とは相手の裏を掻く事に意味がある。
  スーパーミュータントは『脳味噌が筋肉で出来ている』というのがBOSの中の基本的な認識かもしれないけど、相手側がそれを踏まえた上で裏を掻く事が
  あるとしたら。この撤退はグリン・フィスが言うように偽装撤退だ。
  何の為に?
  簡単だ。
  こちらの虚を衝く為に。
  「グリン・フィス、戦闘態勢維持」
  「御意」
  「クリス、警戒して」
  「すっかり指揮官としての風格身につけたな一兵卒。……命令は了解した。確かにきな臭いな」
  手短に仲間に指示。
  私は弾装を新しいのに交換する。
  推測でしかないもののスーパーミュータントは再度攻撃の為に集結している節がある。外れているならそれはそれでいい。私達の行動が無駄になるだけ
  だからね。しかしもしも当たっていたら?
  ……。
  ……考えたくもないわね。
  BOSは完全に浮かれている。どうやらプロの戦闘集団というわけでもなさそう。
  旧時代の文明兵器を保有しているだけ。
  少なくとも。
  少なくとも正式な訓練を受けた職業軍人ではなさそうだ。
  ただ……。
  「スーパーミュータントどもの動きは油断出来ない。戦闘態勢を維持。……レディン、バルガスから離れないで」
  サラは有能な軍人。
  的確な戦術眼を有している。
  その時、レディンと呼ばれた1人の女性隊員はサラの命令を無視して勝手に隊を離れていく。
  「レディンっ!」
  「……」
  「貴女はまだイニシエイト、新兵なのよっ! 単独行動は許可できないっ! 戻りなさいっ!」
  「……」
  ああ。なるほど。
  レディンとかいう奴は今の戦闘で『ひゃっはぁーっ!』しているのだろう。つまり戦闘に興奮している。しかも一時的とはいえ勝利した事に酔っている。自分
  は強いと思い上がってしまっている模様。正規兵並の動きが出来ると思い込んでる。
  新兵によくある事だとは思う。
  イニシエイトってBOSでは新兵という意味合い、か。
  勉強になりました。
  「イニシエイト・レディンっ! ……まったく。パラディン・バルガス、彼女を連れ戻して」
  「あの馬鹿が」
  レディンは1人で廃バスが放棄されている場所に移動する。
  静寂。
  静寂。
  静寂。
  ここにあるのは瓦礫と廃墟だけだ。それと死骸。
  「静か過ぎる」
  私にはそれが不気味に感じた。
  勝手に離隊して周囲を歩き回るレディン。私はそれを危ないと思った。群れから離れた羊は真っ先に狼に食べられてしまう。それが自然の法則。
  孤立してる。
  危ない。
  「……まずいわ」
  「主?」
  何なんだこの静けさは?
  何かが頭の中で渦巻く。それは疑惑、疑問、疑念。
  スーパーミュータント達は綺麗に撤退した。
  規則正しく。
  規律正しく。
  何かがおかしい気がする。
  あいつらの指揮系統は分からないけど……何名かは踏み止まって戦う連中がいてもおかしくない気がする。それなのに綺麗に全部撤退した。
  つまり連中は戦略を知っているという事になる。
  「まずい」
  「主?」
  頭の中に警告が繰り返される。
  危険。
  危険。
  危険。
  これは、罠だっ!
  「全員攻撃態勢に移行っ! この静寂はおかし過ぎるっ! スーパーミュータントが馬鹿ならあんなにあっさり撤退しないっ!」
  私は叫ぶ。
  命令出来る立場ではないけどこの際指揮権なんかどうでもいい。
  サラはハッとした。
  「確かに。確かにおかしいわっ! あの撤退は迅速で、隊列すら整ってた。奴ら戦術を知ってるっ! ……レディン、戻りなさい、レディンっ!」

  ギィンっ!

  廃バスが軋んだ。
  全員身を堅くする。この時、ようやくレディンは自分が無謀な行動をしている事に気付いた。しかし遅い。
  ……。
  ……いや。遅くない。
  私は走る。
  レディを連れ戻す為に。

  ギィンっ!

  「な、何?」
  レーザーライフルを構えながら不安げに身を堅くするレディン。
  銃口は定まらない。
  どこから敵が来るかも分かっていないようだ。

  ギィンっ!

  「センチネル・リオンズっ! どうしたらいいんですかっ! て、撤退ですか? 攻撃ですか? 防御ですか? わ、私はどうしたら? 教えてくださいっ!」
  「イニシエイト・レディン、後退しなさいっ!」
  「センチネル・リオンズっ! どうしたらいいんですかっ!」
  完全に混乱してる。
  あと少しだ。
  指示するよりも手っ取り早く私が手を引っ張って安全地帯に逃げ込まないと。
  私はレディンの側に……。

  
ドカアアアアアアアアアアアアアンっ!

  「……つっ!」
  爆音が耳に響き渡る。余韻としてその音は残り続ける。
  気が付くと私は空を見ていた。
  ……。
  ……そうか。
  爆風で引っくり返ったのか。
  身を起こすと廃バスはなくなっていた。多分あれが爆発したのだろう。
  「くそ」
  小さく舌打ち。
  レディンの姿はどこにもない。
  あの距離だ。おそらくは吹き飛んだのだろう。……直撃に巻き込まれて。
  「主っ! あれを……っ!」
  珍しくグリン・フィスの動揺する声。
  その先には巨人がいた。
  スーパーミュータント?
  確かにあの連中も巨人だった。人よりも巨大だった。しかし爆炎の向こうに佇むその巨人はスーパーミュータントの数倍の大きさを誇っていた。
  サラ・リオンズが叫ぶ。
  「ベヒモスっ! 何故こいつがここに……くそ、ジェネラルがいるのかっ! 防御態勢、防御態勢っ!」
  何なの?
  それを聞いている場合はなかった。
  我々を包囲する形でスーパーミュータントの軍勢が戻って来たからだ。
  再び銃撃戦が開始されるがさっきとは状況が逆転している。我々は今、包囲されていた。そしてそれを指揮するのは赤いスーパーミュータント。
  そいつが口を開く。
  「人間を全員殺してしまえっ!」
  片言じゃないっ!
  何だあいつ?
  「サラっ!」
  「奴はスーパーミュータント・ジェネラルっ! この近辺の連中を仕切る奴よっ! 気をつけてっ!」
  「ジェネラルぅーっ!」
  何だそいつは?
  そんなタイプはPIPBOY3000にも登録されていなかった。ベヒモスにしてもそうだ。
  特異なタイプなのだろうか。
  「パパを探すのも楽じゃないわーっ!」
  そして……。


  スーパーミュータント、第二派襲来。















  その闘いを見守る者達。
  タロン社の傭兵。

  「地区指令、ここは高みの見物と行きましょう。スーパーミュータントとわざわざやり合う必要はないでしょう」
  「確かにな。カール中尉、君の慧眼には感服するよ」
  「ありがとうございます」
  「ところで君が使ってるレイダーのエリニース、彼女はどこに行った?」
  「物資の調達に出てます」
  「そうか」
  地区指令と呼ばれた中年の士官はその場を離れた。
  動員しているのは50名の部隊。
  管轄地区の全兵力だ。ミスティ抹殺の為にタロン社はDCまで追って来た。
  現在のミスティの賞金は10000キャップ。
  1人になったカール中尉はBOSとスーパーミュータントの戦闘を廃墟のビルの中から見ながら呟く。
  「……ボンクラに地区指令の地位はいらん。ふふふ。ミスティとかいう小娘を利用して俺はもっともっと上に行ってやる。ふふふ」
  野心に燃える男カール中尉は薄く笑った。