私は天使なんかじゃない







始まりの終わり





  メガトンでの日々は終わりを告げる。
  さあ進もう。
  本来の目的に、私の望みを叶えに、さあ行こう。

  序章は終わった。
  それは始まりの終わり。





  『俺はこの間ボルトから脱出した奴と知り合った。名前はジェームス。良い奴だ』

  『最近放送が途絶えていたのは知っているよな?』

  『あれはアンテナをスーパーミュータントどもに撃ち抜かれたからだ。あの緑の化け物どもはアンテナを撃つのが楽しい遊びだと考えてやがる』

  『そんな中ジェームスと知り合った。彼は俺の不幸を知ると自らライリー・レンジャーという傭兵達を率いてアンテナを修理しに行った。多くは語らなかった
  があいつは信念に満ちた偉大な男さ。きっとすごい事をやるぜ。世界にとってすごい事をな』

  『さてここで最新ニュースだ。また1人ボルトの穴蔵から這い出してきた奴がいるらしい。一体あそこで何が起きてるんだ?』

  『革命か? 休暇か? 誰か屁をしたか?』

  『君も俺もその程度の予想しか出来ないな』

  『聞いてくれて感謝するよ。俺はスリードッグっ! いやっほぅーっ!』

  『こちらはギャラクシーニュースラジオだ。ウェイストランド解放ラジオが君にお送りするよ。じゃあここで曲を流そう』


  「パパっ!」
  思わず私はラジオに縋りついた。
  モリアティのパソコンを調べている間に誰かが……多分客なんだろうけど、ラジオのスイッチを捻ったのだろう。そして流れて来た。
  ギャラクシーニュースラジオの放送が。
  聞こえてきた内容は私のパパであるジェームスに関する事。
  内容は別人?
  ……。
  ……いや。それはないだろう。
  アンテナを修理したジェームスはボルトからの脱走者との事だから確実にパパだ。
  事態は急展開。
  モリアティの不審な死?
  いやいや。それはもうどうでもいいです。特に感慨深くもないし。それに既にパパの居場所がざっくりとだけど判明している。ギャラクシーニュースラジオ
  の放送局にいるのだろう。そこでこの異様に陽気なDJと接触したのだ。
  放送局。
  それはどこに?
  それは……。
  「ようやく本題に入れそうですね」
  「えっ?」
  そう答えたのはレギュレーターの元締めであるソノラだった。
  モリアティの店の営業?
  急遽定休日っす。
  そりゃそうだ。
  ミスターオーナーが墜落死しちゃったんだもんね。今後の営業とか利権とかの問題上、休業。来た客は全て追い返した。
  ゴブもノヴァ姉さんもルーカス・シムズも店内の椅子にそれぞれ座ってこの急展開を傍観している。
  さて。
  「ミスティ。私がわざわざメガトンに来たのは貴女の技量を見るためだけではありません」
  「というと?」
  「前に約束しませんでしたか」
  「前に?」
  「やれやれ。私はミスティがレギュレーターとして協力してくれるなら父親の居場所を探すと約束したはずです。レギュレーターの組織力を甘く見てはい
  けません。どんな悪事も見逃さないように徹底した情報網を敷いています。……まあ、前置きはいいですね。ともかく父親の居場所を見つけました」
  「どこにいるの?」
  「ニュースの通りです。私が居場所を知ったのは3日前。今はいるかは分かりませんがラジオ局にいます」
  「ラジオ局?」
  場所はどこだろ。
  少なくともメガトンにはない。
  考えてみれば東はスーパーウルトラマーケット、西はアレフ居住区までしか知らない。
  ラジオ局か。
  どこだろ。
  ソノラは話を続ける。

  「貴女の父親は南東の街に向ったそうよ。何かの情報を求めてね。ギャラクシーニュースラジオに向ったとの報告がある。それを知らせにここまで来た」
  「スリードッグって誰?」
  「スリードッグはおかしな連中の王様。正義の戦いとか騒ぎ立ててるわね。私達レギュレーターは彼をあまり認めていない」
  「……」
  「まずはそこに向かうべきじゃない?」
  「うん」
  私は素直に頷いた。
  手掛かりは見つけた。ならば後は動くだけだ。
  必要なのは忍耐?
  必要なのは努力?
  いいえ。
  今一番必要なのは行動だ。
  「そこはどこ?」
  「DCよ」
  「DC?」
  「ワシントンDC。……かつての都市は今や廃墟であり戦場。気を付けなさい」
  「戦場?」
  「タロン社の傭兵ども、スーパーミュータントの軍勢、BOSの連中が三つ巴の争いをしている。……レギュレーターは介入していないわ。お互いに潰し合っ
  ているのだから好きにさせてる。ともかく気を付けなさい。勝手に死なれるとあげた銃が無駄になるから。死ぬ際にはご返却をよろしく」
  「……」
  そう言ってソノラは微笑んだ。
  善人?
  悪人?
  さてね。
  どっちか定義するのは私の領分じゃないけど……まあ、良い人ではないわね。
  心凍らせている冷たい魔女。
  ……。
  ……味方にしている間はラッキーだけど敵には回したくないなぁ。
  レギュレーターに組織的に狙われる。
  考えただけでゾッとする。
  私を付け回しているのがタロン社でよかったぁ。
  「ミスティ」
  「何?」
  「貴女はメガトンを離れる。おそらくあの剣士も離れるのでしょうね。ルーカス・シムズは自分の保安官助手を同行させると言っています」
  「保安官助手?」
  考えるまでもない。
  クリスだろう。
  ルーカス・シムズは私の視線に気付き軽く会釈した。至れり尽くせりでなんか悪いなぁ。
  パパと一緒にメガトンに暮らす際にはこの恩返しをしなきゃ。
  「その間の防備はレギュレーターが援助する事にしました。ルーカス・シムズも我々の同志ですから助け合いは当然の事。先程の3人がここを一時的に
  去る3人の代わりを務めます。もちろん貴女1人に勝てない3人ですが傭兵やならず者よりは強い」
  「……絡むわね?」
  「絡んでませんよ。事実を言ったまで。……ただ貴女は狙われてますよ。知ってますか?」
  「タロン社でしょ?」
  知ってる。
  「いいえ」
  「……?」
  「連中もそうですが奴隷商人達も貴女を狙ってます」
  「……? 何故?」
  「心当たりあるくせに」
  「心当たり」
  地雷原を思い出す。
  だけど問題はないはず。
  あの場にいた奴隷商人達はアーカンソーが始末した。生き残ってたカイルは私が処分した。伝える者は誰もいないはず。
  ばれる筈はないんだけど……。
  「私は全部殺したわ」
  「生き残りがいたのか誰か別の奴が伝えたのかは知りません。しかし奴隷商人は貴女を狙ってますよ。カイルを殺したでしょう?」
  「驚いた。殺した奴の名前知ってるの?」
  「有名な奴です。厄介なのを殺しましたね」
  「厄介?」
  「奴は奴隷商人のボスであるユーロジーの1人息子です。タロン社だけでなく奴隷商人にも狙われるとはレギュレーターとして相応しいですね。それだけ
  敵を引き付け、それだけ敵の数が減らせるのですから。死ぬまで敵を殺し続けなさい。それが正義です」
  「……そうかなぁ……」
  偏った正義感のソノラさん。
  あまり仲良くしたくないお人ですねー。
  まあ、いいさ。
  利用出来る人物ではある。
  情報源として使える。
  レイダー達を粉砕するのは旅する者としての務めだから特に問題はない。避けては通れない連中→始末→レギュレータとして貢献、簡単な方程式。
  それでソノラが喜ぶなら安いものだ。
  その報酬として情報が得れるわけだからね。
  ここでダンマリを決めていたゴブが口を開いた。
  「街を離れるのか、ミスティ?」
  「ええ。そうなるみたい」
  「この間も行ったけどアンダーワールドに行くならキャロルによろしく言っておいてくれ」
  「覚えておくわ」
  「それで店はどうなるわけ?」
  ノヴァ姉さんの素朴な疑問。
  オーナーであるモリアティは変死。今後、店がどうなるかが気になるようだ。
  特にモリアティを悼んでいる様子はない。
  ……。
  ……人望ないなぁ。故モリアティ氏。
  「今後はノヴァとゴブ、君が運営したまえ。保安官であり市長である私の権限だ。幸運を祈る」
  『えっ?』
  呆気に取られる2人。
  それは一瞬で、次の瞬間には歓喜に変わる。
  バーテンと酌婦が今ではオーナー。世の中は驚きの連続だ。
  何が起きるか分からない。
  私はゴブに微笑んだ。
  「キャロルにオーナーとして頑張ってると伝えとくわ。会えたら、だけど」



  店を出た。
  モイラの店で待機しているグリン・フィス(店番しているともいう。モイラは店をグリン・フィスに任せて研究に没頭)にDC行きを伝えるべく私は店に戻る。
  2つ返事でグリン・フィス同行。
  ルーカス・シムズの指示で保安官助手のクリスも同行。
  3人の旅だ。
  店で作戦会議していると訪ねて来た人がいる。
  女性だ。
  ルーシー・ウエストだった。
  「ハイ。ミスティ。元気してる?」
  「ええ」
  「アレフの件では本当にありがとう。あの後、メガトンとアレフの交易路が確立したから兄は気軽にメガトンに来るようになった。感謝してる」
  「いえいえ。仕事だったから」
  「これ、貰って」
  「……?」
  「貴女のしてくれた事に街の皆は感謝してる。もちろんこんな事では感謝は返し切れないけど」
  「あっ」
  それはアサルトライフルだった。
  それも新品。
  ……。
  ……いやまあ、生産ラインは当の昔に止まってるから新品ではないだろうけど質は見る限り最上のものだ。
  レイダーが使っている銃とは比べ物にならない。
  まるで新品だ。
  高かったと思うよ。新品だもん。モイラの店でもアサルトライフル販売してるけど粗悪品が多い。もちろんモイラの手抜きではない、この世界で性能を
  維持するのは容易ではない。
  大抵は粗悪品を安く購入して、その上で修理して貰う。もちろん修理して貰わなくても最低限使えるけど……弾詰まりや暴発の危険性を防ぐ為に修理して
  貰うのがベターな方法。修理には多額の費用が掛かる。だからこそ今までアサルトライフルが購入出来なかった。
  「ありがとうルーシー」
  「じゃあ私も貢献しないとね」
  ドン。
  小さな箱がテーブルの上に置かれた。
  モイラだ。
  「弾丸を提供するわ。……ああ、いいのよお礼は。また戻ってきてサバイバルガイドの作成の手伝いをしてくれたらね」
  「ありがとう」
  私は素直に頭を下げた。
  メガトンでの日々は無駄ではなかった。
  今、私には友達がいる。







  1日目。
  私達はスーパーウルトラマーケットを越えた。順調な旅だ。
  特に支障なく進んでいる。
  ……。
  ……まあ、レイダーの集団や野生動物、この辺りを徘徊していたタロン社の斥候は叩き潰したけどさ。
  支障?
  ないわよ。
  この程度の事は既に『支障』ですらない。
  日常の事だ。
  ともかく。
  ともかく私達はスーパーウルトラマーケットを越えて既に未知の領域に足を踏み入れている。


  2日目。
  ファラガット西メトロ駅に到着。
  ワシントンDCは全面核戦争で吹っ飛んでおり現在は瓦礫の山で分断されている。地上からは行けないので地下を通る事にする。
  ただその地下が問題だった。
  何故?
  巣窟だったからだ。
  亡者達の。
  そこはフェラル・グール達の領域だった。
  私達は取り囲まれた。
  グールとフェラル・グールはまったく異なる存在だ。話なんて通用しないし遠慮も必要ない。
  戦闘あるのみだ。
  「弾幕薄いぞ。何やってんのっ!」
  ブライト・ノア大佐……じゃない、軍人娘のクリスティーナが32口径のピストルを発砲しながら叫んだ。娘と言っても私より年上なんですけどねー。
  フェラル・グールの頭が吹き飛ぶ。
  連中に知性は存在しない。
  ただ対象の血肉を貪るしか連想出来ない。あの腐った頭ではそれ以上の事は考えれないのだ。
  「こんのぉーっ!」
  バリバリバリ。
  私はアサルトライフルを連射。
  周囲を一斉掃射。
  メガトンで貰ったこの銃は早速役に立っている。
  頼もしい銃だ。
  フェラル・グールには戦略などなく私達を貪ろうと我先に駆けてくるだけ。
  走るゾンビは反則だと思うけど私達の武装なら問題なく対処可能。不用意に駆けてくるフェラル・グール達は次々と撃ち抜かれて絶命していく。
  たまに弾幕を突破してくる運の良い奴がいるものの、そいつはグリン・フィスのセラミック刀の前に屠られる。
  私達の布陣に敵はなし。
  殲滅。


  3日目。
  あらかた殲滅したものの、わずかに残るフェラル・グール達を倒しながらファラガット西メトロ駅の地下を彷徨う。
  道に迷った?
  そうじゃなくて休息したりしてたから時間が掛かった。
  あまりにも銃を連射してたから冷却が必要だったし。銃のメンテも大切な事柄だ。
  「主。亡者は殲滅完了のようです」
  「みたいね」
  「特殊部隊の我々に勝とうとは笑止千万っ! クリスティーナ師団はまさに無敵よっ! ほほほっ!」
  「……」
  師団っすか?
  たった3人なのに?
  まあいいけどさ。
  いずれにしてもフェラル・グールは雑魚だった。一応はグールよりも放射能汚染が進んで脳が冒された面々だ。世間様ではフェラルとグールを混同して考
  えてるけどまったく異なる。瞳に知性が宿っているか宿っていないかは見れば分かる。
  ゴブがメガトンで受け入れられない理由は街の人間の無知によるものだ。
  偏見と言ってもいい。
  「ミスティ二等兵っ!」
  「二等兵なのか私は」
  「今回の功績は賞賛に値するぞっ!」
  「それはどうも」
  フェラル・グールは上半身裸の骨と皮のゾンビ。どんな銃でも当たりさえすれば射殺可能。まあ出現の数が多かったから面倒といえば面倒だったけど
  元々脆弱な連中だし私はアサルトライフル持ってたから一掃はそんなに手間ではなかった。
  レイダーより弱い?
  まあ、そうね。
  素手だし裸だし間合さえ保てていれば問題なく粉砕可能。
  事実粉砕したし。
  さて。







  地下鉄を抜けて外に出る。
  「くぅ」
  夕日が眩しくて私は手で目を覆う。
  眩しい。
  だけどボルト101を最初に出た時ほどの強烈な光ではない気がする。
  まあ、そりゃそうよね。
  あの時の私の視力はモグラだった。
  今は人間。
  それが決定的な差だろう。
  「さて。ここからラジオ局まではどう行くのかなぁ」
  「主っ!」
  グリン・フィスの鋭い警告。
  私は既に素人ではない。瞬時に戦闘隊形に移行する。クリスもスナイパーライフルを身構えた。崩壊した廃墟の中からドスドスと足音を立てて進んでくる
  影が五つ。人にしては妙にでかいし、人にしては妙に肌が緑。
  ……。
  ……既に人間じゃないか。
  ボルト101では色々な勉強をした。外の世界の生物の勉強もね。今考えるとそういう情報がボルト101に入るという時点で外界との接点があると見るべき
  だったんだけど当時はそれに気付かなかった。そう考えると私も監督官に洗脳されていたらしい。
  ともかく。
  ともかくあの巨漢は知ってる。
  接触するのは、実際に見るのはこれが初めてだけどあれはスーパーミュータントだ。
  手にはそれぞれライフル。
  スーパーミュータントは物凄い勢いで突進してくる。
  「ミツケタゾっ! ニンゲン、ミナゴロシっ!」
  面白い。
  やれるものならやってみろ。
  私達は銃を構え……。
  『……っ!』
  ピカっ!
  赤い閃光が突然閃いた。
  それはスーパーミュータント達を背後から貫通。数条の赤い閃光は瞬時に醜い生物達を殲滅した。
  私達は硬直する。
  第三勢力の出現?
  そう。
  そうよ。新たな連中が現れた。そいつらが瞬時に、そして圧倒的な火力でスーパーミュータント達を殲滅した。殲滅する事に関しては驚かない。
  問題はその武器だ。
  旧時代の遺産であるレーザー兵器だ。
  そしてその連中が纏っているのはこれまた旧時代の遺産である、ロストテクノロジーであるパワーアーマー。
  その一団の数は10名。
  ヘルメットを被っていない金髪の女性が指揮しているように見える。
  仕官だろう。
  その女性は部下達にレーザーライフルを下ろすように指示してから私に言う。凛とした声で。
  「ここはDC、戦場よ。民間人、直ちに去りなさい」
  
  

  それが。
  それがサラ・リオンズとの最初の出会いだった。














  その頃。
  メガトンの街。


  「待ってビリー・クリール」
  「あんたは?」
  「私はレギュレーターのソノラ。レイダーの前歴がある貴方に話があるの」
  「何故それを……」
  「私の言いたい事は簡単よ。たった一つの鉛弾で終わるわ。すべてが終わる。すべてが。悪意と悪行は必ず裁かれる。必ず? 必ずよ」
  「えっ?」
  「レイダーには死を」
  バァン。
  夕暮れの街に銃声が響いた。