私は天使なんかじゃない







敵対のフラグ






  決められたルートとフラグ。
  ある一定以上のルートを通過した時、それに相応しいフラグが立つ。
  そこに到達するともう戻れない。
  ただ進むだけだ。
  ただ……。







  ミスティの装備。
  44マグナム二挺。サブマシンガン。護身用のナイフ。


  グリン・フィスの装備。
  セラミック刀。護身用のナイフ。



  「ここが目的の『地雷原』かぁ」
  腕に装着されたPIPBOYで確認。この場所で正解だ。
  にしてもリアルに物騒な地名ですなぁ。
  まあ、分かり易いけど。
  私達は街が見渡せる小高い丘から見下ろしている。街並みは結構しっかりしてる。ていうかメガトンより生活感のある街並みだ。
  ふぅん。
  もしもここが住めるようになるのであれば格好の集落になるわね。
  建物さえしっかりしていれば建築するという手間を省いて集落として成り立つからだ。
  集落が増えるという事はそれだけ世界が潤うという事だ。
  何故?
  簡単よ。
  たくさんの集落が各地に点在するようになればそれだけ旅が容易になる。そして街と街の間に安全な旅のラインが成り立てば旅は安全となりレイダー
  の類はその勢力を減らしていくだろう。潜む場所が減ればレイダーは存在出来なくなっていく。
  こりゃ頑張らなきゃ。
  地雷の撤去が目的ではないけど街が街として再起動するのであれば頑張ろう。
  たくさん良い事をすればパパも自慢に思ってくれるだろうし。
  動機が不純?
  動機なんてどうでもいいのよ。
  結果として世の中に貢献出来るのであればそれで良い。貢献の出所元なんて誰も気にしないのだから。
  さて。
  「グリン・フィス」
  「はい。なんでしょう、主」
  時間帯は日暮れ。
  今回の調査の場所である『地雷原』には幽霊が出るらしい。
  放射能汚染で変異した生物や暴走した軍事テクノロジーの遺産であるロボット群は確かに脅威ではあるが視覚的にも存在するし理屈も分かる。
  だけど。
  だけど幽霊はジャンルが異なる。
  実体ないのも納得出来ない。
  私はボルト101の出身であり地下深くに蓄えられた旧時代の科学技術や常識等を身に付けている。だから非現実的で非科学的な存在や物事は慣れてい
  ないし理解出来ない。グリン・フィスはまったく別の地域から来たのだから幽霊の知識を持っているかもしれないと思った。
  だから聞いてみる。
  ……。
  ……もちろん確証はない。
  ただ今回同行しているのは彼だけなので聞く相手が彼だけ、というのもある。
  さて。
  「グリン・フィス、幽霊っていると思う?」
  「います」
  「マジ?」
  「ほら主の後ろに呪怨に出て来るような奴がいます。……今、主の背中にへばり付いて右肩に顎を乗せていますがどうしますか?」
  「うひゃっ!」
  「主。その怨霊は頬に舌を這わせてますが」
  「うひゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!」
  「主。その怨霊……いえ、これ以上は18禁ですね。表現は規制しなければ」
  「すいませんでしたすいませんでした今まで生意気言ってました神様この罰ゲームは許してーっ! 清純が汚されるーっ!」
  「主。冗談です」
  「……はい?」
  「主。冗談です」
  「……」
  こいつ冗談言えるのかっ!
  なかなか侮れん。
  おおぅ。
  「グリン・フィス、冗談言えたんだ?」
  「はっ。申し訳ありません」
  「いや別にいいんだけどさ」
  「以前自分を倒した相手が『あんたの敗因はユーモアのなさ』と言われたので。少し愉快になってみようかと」
  「……愉快ねー」
  「御意」
  うーん。
  世の中には凄い奴がいたもんだ。
  グリン・フィスを倒す、か。
  銃があれば勝てるとは思うけど……あくまで思うだけだ。こいつの場合銃弾なんか物ともせずに間合い詰めてくるし。グリン・フィスを倒す。なかなか世の
  中には凄い奴がいるらしい。最初こいつが瀕死だったのはその所為かな?
  だとしたら末恐ろしい奴がいたもんだ。
  いつか会う事はあるかなぁ。
  うーん。
  「それで主」
  「何?」
  「どうされますか?」
  「ん?」
  「アカヴァル大陸に幽霊がいるのかは分かりませんが……」
  「アメリカね。何度も訂正するけど」
  「申し訳ありません。アメリカ大陸に幽霊がいるのかは分かりませんが、いずれにしても夜が迫る中を調査するのはよろしくないと思います」
  「うーん」
  確かに。
  確かにそうだ。
  幽霊は夜中に徘徊するのが世界のルールだ。別に幽霊を省いてもここは『地雷原』。わざわざ地名になっちゃってるぐらいだから地雷の名産地(?)な
  のだろう。そこら中に地雷が設置されている可能性があるのにわざわざ入る馬鹿はいない。
  地雷の撤去は視認が第一前提。
  夜中で地雷見える?
  無理っす。
  「どうされますか?」
  「うーん」
  街は見えてる。
  見た感じ建物はまともだし夜露を凌ぐには最適な場所だろう。そのまま街再開出来るぐらいの丈夫さであり見映えも良い。
  泊まる?
  「うーん」
  悩む。
  悩む。
  悩む。
  街に入れば寝床には困らないだろうけど『地雷原』だし。……そ、それに幽霊もいるんだろうし。
  そもそも入った者は生還出来ないらしい。
  少なくともモイラはそう言ってた。
  つまり。
  「誰かいる、か」
  「よくお分かりですね」
  「ん?」
  「子供連れの血塗れの幽霊が冥府への道連れとして主に祟っています。ほら、すぐ側に誰かいます」
  「ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!」
  「主。冗談です」
  「……」
  こいつ嫌い。



  結局、私達は丘の麓にベースキャンプを設営した。……まあ、焚き火して毛布敷いただけなんだけどさ。
  一応は街から見えない場所に設置した。
  おそらく『地雷原』には何かいる。
  幽霊?
  さあね。
  基本的に非現実的&非科学的な物事や事象を私は信じてない。
  ともかく何かいるのは確かだ。
  街に足を踏み込んだ者は誰も帰って来ない。つまり殺されているという事だ。人か化け物にね。
  地雷で吹き飛ぶ?
  うん。
  それはそれでありえる。
  だけど地雷は自然には設置されない。放射能の影響で大地が自動的に地雷を生み出す事なんてありえない。それこそ非現実的であり非科学的だ。
  誰かは知らないが設置している奴がいる。
  ……。
  ……ああ。つまりは人間系なのは確かよね。
  手がなければ地雷の設置なんて出来やしない。そしてロボットではないだろう。ロボットの手は精密作業には向かないからだ。そもそも構造的に地面に
  手を付けれない。関節の構造的問題で屈む事すら出来ないのだから地雷の設置は不可能だろう。
  つまり。
  人間系がここにいるのだ。
  理由は知らない。
  意味は知らない。
  だが『そいつ』はここで人を殺し続けているのだ。さらに推測するのであれば『そいつ』はここに誰も来て欲しくないのだ。
  地雷が大量に設置してある、それはつまり持ち物目当てではない。
  地雷は効率的に人間を吹き飛ばすけど器用に来訪者の持ち物だけを避ける事は出来ないからだ。
  持ち物ごと吹っ飛ばす。
  ここに誰も来て欲しくないからだろう。それは警告でもある。
  だとしたらレイダーではない。
  あの連中は遊戯的に人を殺すけどそれ以上に物資を欲している。大切な物資ごと吹っ飛ばすなんてありえない。
  だったら何者だ?


  今回、同行しているのはグリン・フィスだけ。
  クリスティーナはノヴァ姉さんと親しく話をしていたのが面白くなかったらしい。拒否られた(泣)。
  ツンデレでいうところのツン状態。



  ビリー・クリール。
  彼も駄目。
  この間はメガトン近辺に大量発生したモールラット退治したんだけど……今日は忙しいらしい。最近よくモリアティの雑用をしている。
  私が見る限りあれは脅されてるよね。
  脅迫材料は、何だろ?


  ルーカス・シムズ。
  市長であり保安官の彼もまた忙しいご様子。
  アレフ居住区との交易ルートが確立したのでその関係で私を手伝っている暇はないらしい。
  まあ頑張ってください。
  街が潤えば私も嬉しいし暮らし易くなる。
  パパを見つけたらメガトンに永住しようと思ってる。
  今更ボルト101には戻れない。というかそもそも戻りたくないしね。





  ドカアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアンっ!
  「……っ!」
  翌朝。
  私は爆音で眼が覚めた。まだ私はまどろみの中にいるものの、寝ぼけた瞳の端にはきのこ雲が映っていた。
  核爆発っ!
  「何なのよっ!」
  「主」
  武器を手にしたグリン・フィスが冷静にその様を見ている。
  「主」
  「何?」
  「あれは……なんですか?」
  「核爆発」
  「核……?」
  知らないらしい。
  どこの生まれだろう?
  「性質の悪い攻撃手段よ」
  「なるほど」
  説明は簡略。
  それでいい。特に問題はないでしょうよ。
  「グリン・フィス。あんた起きてたの?」
  「主の身を護るのが自分の使命です。……それに熟睡した事はありません」
  「ふぅん」
  「報告します。先刻妙な一団が街に入って行きました。我々には気付いていないようです。敵対する意思が不明でしたし、とりあえずは問題ないと判断
  して無視しましたが、その後に銃撃とあの爆音です。斥候を指示されれば自分が向いますが」
  「いいわ。行きましょう、一緒に」
  「御意」
  グリン・フィスを従えて私は街に向かう。
  街のすぐ側まで来て合点した。
  「車か」
  なるほど。
  小型核を誰かが使用したのではなく車が爆発したのだ。何故爆発したのかは分からないけど。
  車の残骸が転がっている。
  ……。
  ……おおっと危ねぇっ!
  そこにあるのは地雷だ。路肩に設置されている。別にそこあるかないから問題ないけどさ。
  にしても物騒な車よね。
  旧時代の人間が何を考えたかは知らないけど車は全て核エンジンが搭載されている。核エンジンを刺激すれば……つまり交通事故を起こしただけで核
  は爆発する。渋滞中に玉突き事故なんざ起こした日にはそこは連鎖核爆発の地獄と化す。
  本気で何考えてんだ旧時代の連中。
  何となく世界が滅んだ意味が分かる気がする。
  街に一発核を叩き込んだだけで連鎖的に周囲は灰燼に帰すわねぇ。潜在的な核爆弾は一家に一台の車に搭載されているのだから。
  「主」
  「見えてる」
  そこら中に死体がゴロゴロと転がっている。
  核で吹っ飛んだ死体。
  だけどそれだけではなく銃撃された死体もあった。……やっぱり誰かがこの街にいるのだろう、多分。
  「……ううう……」
  「ん?」
  「……ううう……」
  「生き残りね」
  一人生きていた。
  かなり傷を負っているものの致命傷ではない。私は前回ドクターに貰ったスティムパックをその男性の腕に打つ。黒髪の若い男性だ。
  なかなか美形。
  「ちょっと痛いわよ」
  スティムパック。
  旧時代の医療の遺産。この注射器に満たされている薬液は人間が持つ自然の治癒力を爆発的に高める。
  よっぽどの致命傷ではない限り死ぬ事はあるまい。
  「大丈夫?」
  「あ、ああ」
  「私はミスティ。貴方は?」
  「カイル」
  「そう。よろしく。それでここで何を?」
  「お尋ね者のアーカンソーを倒しに来たんだが狙撃された。仲間が狙撃されて死に、地雷を狙撃して爆発で仲間を殺し、核エンジンを……」
  「他に仲間は?」
  「ここに展開していた仲間で全部。つまり全滅だ」
  「そう」
  妙な拾い物ではある。
  なかなか美形のカイル。気も良さそうな若者だ。私より年上かなぁ。
  グリン・フィスに命じて建物に匿う。
  すぐには動けないだろうし。
  この街の調査がメインであり戦闘がメインではないけど……ここは狙撃手を倒すのは必要不可欠でしょうね。
  さて。
  「やるか」



  グリン・フィスと一緒に物陰に隠れながら敵と応戦中。
  バリバリバリ。
  崩れ掛けた廃墟のビルにサブマシンガンの連射を浴びせる。
  「……駄目ね」
  目標はスナイパー。
  隠れているようだけど完全にではないので標的は見えている。だけどこの距離ではまず当たらない。私の目測は正しいんだけど……サブマシンガンの
  特性上精密な遠距離射撃には適さない。どうしたって誤差が出る。標的には当たらない。
  離れていれば離れているほどに当たらない。
  ……。
  ……もちろん偶然当たる事はあるけど偶然を当てには出来ない。
  44マグナム?
  いやいや。
  強力だから当たるというわけではないのだよ。
  この場合は精密な遠距離射撃が出来るスナイパーライフルしかない。もしくはハンティングライフルでもいいけど当然持ってない。
  その点、狙撃してくる奴はスナイパーライフルを装備してる。
  さらに射撃位置も向こうに有利。
  優劣では向こうに利がある。
  「ちっ」
  舌打ちして物陰に隠れる。
  迂闊に動けない。
  向こうは高見から私達の位置を把握しているし、その辺に地雷がある。廃車もある。そこら中に爆発物があるわけだし狙撃される可能性も高い。
  このまま持久戦?
  それもいいけど余り時間を掛けるつもりもない。
  高見から相手は私達を完全に把握しているけど、逆を考えれば相手も高見から動けない。スナイパーライフルは高威力だし狙撃に適しているものの
  近距離での撃ち合いには適さない。連射も出来ないし装填数も少ないからだ。
  だから。
  だから相手も廃墟のビルの上から動けない。
  私達の姿を見逃すと立場が簡単に逆転するからだ。
  それに問題がもう1つある。人数だ。
  カイル達は狙撃され、動転し、正しい対処法が出来ないままに次々と狙撃された。最初の1人はともかく次の瞬間に散開していればカイル達は全滅しな
  かっただろう。相手はあくまで1人。……今のところはだけどね。
  つまり同時に別々の行動を取れば相手を翻弄出来る。
  「グリン・フィス」
  「はい」
  「あんたの脚力はずば抜けてるわ。地雷を避けつつビルに接近できる?」
  「容易い事です。妙な物を踏まねばよろしいのでしょう?」
  「そうよ」
  「あの敵を始末すればよろしいのですね、主」
  「ええ。私は私で銃弾を叩き込んで敵をあの場に釘付けにする。私は陽動、あんたは本命。おっけぇ?」
  「御意。自分は主の本命の彼氏です」
  「……」
  「ユーモアです」
  「……そ、そう、頑張って」
  「御意」
  なかなか疲れる性格になりつつあるなぁ。
  まあいいけど。
  さて。
  「ゴーっ!」
  バッ。
  同時に私達は動く。物陰から身を剥がした瞬間、私はサブマシンガンを一斉掃射。スナイパーがいるであろう場所に集中砲火を浴びせる。
  バリバリバリ。
  物陰から撃てばいい?
  それはそれでありだろうけど、身を晒した方が標的になる。相手の視覚の中に2人が現れ、別々の行動を取ればそれだけ相手の射撃は精密性を失う。ど
  んなに凄いスナイパーでも結局は人間だ。機械のようにいつでも冷静でいれる事はありえない。
  ビルの上から空気を裂いて銃弾が飛んでくる。
  「見えるっ! 私にも敵が見えるぞっ!(赤い彗星風味)」
  狙いが甘い。
  相手も多少は動揺しているようだ。わざわざ回避するまでもない。
  私は『人類規格外☆』だから銃弾が見える。もちろんそのままのスピードではなく近付くにつれて多少スローになる。もちろん実際にはスローにはなって
  いないんだろうけど視覚がそう捉えている。まさに戦闘向きの能力者だ。
  「これでも食らえーっ!」
  バリバリバリ。
  弾装が空になるまで撃ち込む。
  別々の行動をしている私達に敵は動揺している。そして私の銃撃により身動きが取れないのも確かだ。この距離だからどんなに狙って撃っても多少の
  誤差が生じるから当たる可能性は少ないだろうけどゼロではない。向こうも迂闊には動けない。
  カチ。
  ちっ。弾装が空か。
  グリン・フィスは地雷にも狙撃にも捕まる事なくビルに到達。もう直だ。相手がグリン・フィスに気付いているのかは知らないけどこのまま釘付けにしな
  きゃね。サブマシンガンを捨てて腰に帯びている二挺の44マグナムを抜く。
  左右の手に収まる44マグナム。
  「いっけぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!」
  連射。
  連射。
  連射ーっ!
  ここからはよく見えないけどビルの壁に穴を開けるぐらいの威力がある。狙撃手は身を隠す。
  次の瞬間、ビルに突入したグリン・フィスが男の背後に現れた。
  閃くサラミック刀。
  勝敗決した。



  狙撃が終わって数分後。
  私はビルに突入した。弾装を再装填したサブマシンガンを手にゆっくりとビルの中を進み狙撃手の死体を見つけた。傍らにはグリン・フィス。
  「ご苦労様」
  「いえ」
  狙撃手は禿げ上がった爺さんだった。
  喉を刃で貫かれている。
  即死だろう。
  だけどこいつは一体何者だったんだろう。既に詳細は闇の向こうだ。

  「主」
  「ん?」
  グリン・フィスの視線は謎のスナイパー爺に注がれていた。生きているようには見えない。生きてるわけがない。
  セラミック刀が喉を貫通したのだから。
  「死んでるわ。それが何?」
  「いえ。奴のズボンのポケットをご覧ください」
  「ズボン?」
  ああ。紙切れがはみ出している。
  見た感じ何かの文字が綴られている。手紙かは知らないけど文章ではある。
  この爺の素性が分かるかもしれない。
  既に死んでる。
  殺した後。
  だけどやっぱり自分達が殺した相手が誰かが気になる。……少しだけどね。
  ポケットから紙切れを取る。
  紙切れは日記の一部だった。


  『……連中は突然現れて銃を乱射した。抵抗する者は容赦なく射殺された。ワシの孫も殺された』
  『生き残った者は全員首輪を付けられた。こいつらは奴隷商人だっ!』
  『ワシは抵抗して娘を逃がした。次の瞬間爆発した。娘はその場に倒れた。頭部は遺体にはなかった。首輪は爆弾だったのだ』

  『皆、連れて行かれた』
  『逆らう者は全て殺された。全てだっ!』
  『ワシは抵抗したものの生きている。首輪が不発だったからだ。しかし生き残って何になる? この街には誰もいない。誰も』

  『この間の奴隷商人どもがまたやって来た』
  『奴隷確保の為の前線基地にするつもりなのだろう。そうはさせるものか。ここはワシらの街だっ!』
  『このワシ、アーカンソーが奴隷商人を全部殺してやるっ!』





  地雷がまだ残る街だけど道路は……少なくともさっき私達が歩いた道路上の地雷は既にない。全部爆発したからね。
  まあ、多分大丈夫なんだろう。
  ガチャ。
  私はカイルが傷を癒している家の扉を開けた。
  半裸の男がいる。
  包帯で悪戦苦闘しながら上半身を覆っている。わずかに血が滲んでいるもののスティムパックをさっき打ったから致命的ではない。
  「や、やあ」
  気恥ずかしそうに服を半身を覆う。
  そりゃそうか。
  女性の前だもんね。立場が異なってれば私だって恥かしい。……そりゃそうよねー……。
  「随分と静かになったけど」
  「片は付いたわ」
  「そうかっ! 君には感謝するよっ! 僕達の任務も何とか達成だ。僕以外は全員全滅してしまったのは残念だし痛ましいけど……」
  「問題ないわ。お前も死ねばいい」
  「……えっ?」
  バァン。
  44マグナムをカイルの額に叩き込む。
  強力な一撃を受けてカイルの頭は半分吹っ飛ぶ。誰かも分からないほどに原形を保っていない。
  死んでる?
  死んでるわ。
  普通じゃなくても死んでる。
  私は傍らに控えるグリン・フィスに囁く。
  「間違った事した?」
  「いいえ」
  「よかった」




















  「ユーロジーの1人息子を殺した相手がミスティとかいう賞金首だと?」
  「はい。地区指令」
  「よくぞ報告したカール少尉。……いや、昇格させよう。カール中尉よくぞ報告した。直ちに奴隷商人どもにこの情報を提供するとしよう。連中とは中立
  だがこれで親睦が深められるな。息子の仇の相手を奴隷商人の親玉は知りたがっているだろしうな」
  「はい」
  「カール中尉。今後も頼むぞ」
  「了解であります」