私は天使なんかじゃない








吸血鬼






  昔々の御伽噺。
  夜の闇に乗じて人の生き血を啜った化け物がいた。血を啜った相手を自らの眷属とし、その数を際限なく増やしていく。
  ただの御伽噺。
  ただの……。

  だけど誰がそう言い切れる?
  旧文明の際には人はスーパーミュータントの存在すら知らなかった。予測すらしなかった。
  今、それらは確かに存在している。
  グールもケルベロスも。

  吸血鬼なんてこの世にいない。
  誰が言い切れる?
  誰が……。






  メガトンに一度戻りルーシー・ウエストに両親の死と兄の失踪を伝えた。
  その後、私はアレフ居住区に戻る。
  途中レイダーが邪魔したので叩き潰した。徹底的にね。気が立ってる時に襲ってくる連中が悪い。あの世で反省するがいい。
  でアレフ居住区。
  私が戻ってくるとグリン・フィスとクリスティーナは既に待機していた。
  2人とは別行動し居た。
  ルーシーの兄であるイアン・ウエストはファミリーに誘拐された。ファミリーがレイダーの集団なのかは知らないけど誘拐されたイアンの残り時間は
  少ないはずだ。どういう思惑の誘拐かは分からないが身の危険は確かなはず。
  だから別行動。
  メガトンに報告に戻っている間に2人はファミリーの潜伏場所と推定される場所を探索していた。
  結果は……。

  「主。自分が遭遇したのはレイダーとサソリの攻防戦だけでした。どちらも排除済みです。最奥の扉は開きませんでしたが、気配はありませんでした。これは戦利品です。お納めを」
  グリン・フィス、空振り。
  差し出したのは100キャップと弾丸、食料品。……ああ、アルコールもある。
  とりあえず荷物になるので食料云々はエヴァン・キングに預けておこう。
  ともかく。
  ともかくグリン・フィス空振り。
  ハミルトンの隠れ家はファミリーのアジトではなかったようだ。

  「気をつけーっ! ……二等兵、伝達するっ! ムーンビームシネマには数名レイダーがいた程度だった。殲滅終了、以上だっ!」
  ……。
  ……すいませんその高飛車な報告はなんですか?
  軍人娘クリスも空振りの模様。
  まるで計算された符号のように残るは北西セネカメトロステーションのみ。結局私が関わるわけか。
  まあいい。
  「よし」
  装備点検。
  準備万端だ。完全無欠の絶好調っ!
  銃火器もベストな状態だし何の憂いもない。ファミリーがどれだけの規模かは知らないけど私達チームはそれそれ一芸に秀でている。
  遠距離のクリス、白兵戦のグリン・フィス、万能な私☆
  何を恐れる必要がある?
  何もない。
  何もね。
  機は熟した。潜伏場所の三択の内、外れ二つは既に判明している。残る当たりのみ。
  ……。
  ……当たりの確証は……ないけどさ。
  そ、そこはエヴァン・キングの責任よ。あいつが三つの内のどれかだっていうわけだから。
  まあいいさ。
  出撃っ!
  「行くわよ2人とも。気合入れてねっ!」
  「御意」
  「任せろ二等兵っ! よし、駆け足準備っ! 全力ダッシュで敵陣に突撃だっ! 後から行くから、先に行けっ!」




  
  北西セネカメトロステーション。
  予想通り廃墟。
  人気はどこにもない。
  コンビニがあったものの無人。ラッドローチが二匹いただけに過ぎない。ファミリーの姿はなかった。
  まあ妥当よね。
  ファミリーの規模は知らないけどコンビニ一軒で居住スペースが済む程度ならエヴァン・キングもそこまで怯える事はないだろう。
  だとすると……。
  「ふぅん」
  地下への入り口は塞がれてはいない。
  地下かぁ。
  闇に乗じて移動しているファミリー。夜型人間の集まりなのかな?
  正直な話、あまり地下は好きではない。
  屋内での戦闘は数の差を覆せるけど……地下だと話は別だ。暗闇での戦闘はあまり利があるとは言い難い。向こうが闇に潜んで暮らしている
  以上は向こうに利がある。夜目が利くからね。
  「主」
  「ん?」
  「何か来ます」
  「何か?」
  バァン。
  聞き返した途端、銃弾が私達を通り過ぎる。
  狙いは甘い。
  だけど確実に私達を狙っていた。咄嗟に物陰に身を潜ませる。
  まさかファミリー?
  「一兵卒。面倒な事になったぞ」
  「……みたいね」
  物陰に潜みながら私は見る。
  銃撃をしながら迫ってくる連中は黒いコンバットアーマーに身を包んでいる。手に当然ながら銃火器。連射しながら迫ってくる。
  距離にして50メートル。
  威嚇発砲なのか本気で銃の腕が最悪なのかは知らないけど……当たらない。
  ……。
  ……ああ。銃火器の整備が悪いのかな?
  どっちにしろ当たらない。
  空しく外れ続ける。

  「タロンシャダーっ!」

  銃撃しながら接近してくるのはタロン社。
  傭兵会社タロン社の構成員だ。
  この間の逃げた金髪の士官はいない。この近辺を徘徊する別の部隊なのか、金髪が差し向けた刺客なのかは知らないけどタロン社の傭兵。
  数にして10名。
  大した数ではないがレイダーに比べると洗練された動きだ。
  ……。
  ……あくまでレイダーと比べるとねー。
  連携もそれなりに出来ている。
  ただ私に言わせると銃火器の数が多いだけのレイダーでしかないけどさ。
  それでも数が目障り。
  イアンの残り時間は確実に減っていってるわけだからあまり時間を無駄に出来ないのは確かだ。
  「くそ」
  チャッ。
  10mmサブマシンガンを手に取って安全装置を外す。
  殲滅する。
  出来るだけ時間を掛けずにね。
  その時……。
  「一兵卒、自分に任せろ」
  「クリス?」
  スナイパーライフルを構えながらクリスが私に促す。
  彼女は微笑。
  「連中は私が受け持とう」
  「いいの?」
  「軍隊ごっこの連中に真の軍人がいかなるものか教えてやらんとな」
  誰が真の軍人だ誰がだ。
  私的にはクリスは連中よりも『軍隊ごっこ☆』に精通している気がするけど今は言わないで置こう。せっかくの戦意を殺ぐのは悪いし好意も受け取る
  べきだからだ。ここは彼女に全面的に任せるとしよう。
  タロン社の傭兵相手なら問題はあるまい。
  「任せたわよクリス」
  「その前に1つ問題がある」
  「問題?」
  「エネルギー切れだ」
  「はっ?」
  「エネルギー切れでは仕方あるまい。一兵卒、口と口を合わせてエネルギーを分けてくれ。……そしてたら私は頑張れるから……」
  「嫌じゃーっ!」
  「……けち」
  何なんだ。
  何なんだこいつはーっ!
  出来る事なら軍人娘の性格だけど今後通して欲しいものです同性愛は出来る事なら勘弁してください。
  アントワネッタ・マリーだけで充分でしょそのキャラ。
  ……。
  ……やれやれだぜー。



  北西セネカメトロステーション、地下。
  要は地下鉄だ。
  その内部。
  潜って数分は銃撃音が地下にまで響いてきたものの今はもう聞こえない。別にクリスが負けたわけでも戦闘が終結したわけでもなく、私達が深い
  ところまで潜っただけに過ぎない。音がここまで届かないだけだ。
  「大丈夫でしようか」
  「クリスの事?」
  「御意」
  「大丈夫よ」
  クリスを心配してるのか。
  なかなかグリン・フィスも良いところあるじゃないの。
  「安堵しました。あの女が死ねば主の弾除けがいなくなりますので」
  「……」
  こいつ全然良いところねぇーっ!
  弾除けかクリスは弾除けなのかーっ!
  すげぇ事を考えるわね。
  おおぅ。
  「クリスは大丈夫よ」
  「御意」
  スナイプの腕は天下一品。接近しようとする者は容赦なく銃弾で脳天を貫通されるだけだ。タロン社の傭兵の実力かは知らないけど見た感じ素人
  に毛が生えた程度に過ぎない。人数と銃火器だけで悪名高い集団として君臨しているに過ぎないわけだ。
  腕さえあれば問題ナッシング。
  私達?
  ええ。私達凄腕よ。クリスもね。
  まあ、性格に難がありだけど問題はないわ。仲間だから、信頼してる。
  ……。
  ……仲間かぁ。
  人と人との繋がりって不思議。
  さて。
  「主」
  「分かってる」
  人の気配がする。
  それなりに修羅場を潜ってきたからそういうのに最近は過敏になってる。良い兆候か悪い兆候かは分からないけど。
  ともかく。
  ともかく人の気配を感じる。
  誰かいる。
  「主。敵意は感じません」
  「へ、へぇ」
  こいつは凄いよなぁ。
  グリン・フィスは敵意すらも感じ取れるわけだから……どんな生活してたんだ、こいつ。
  聞いてみよう。
  「どんな生活してたわけ、今まで?」
  「自分ですか?」
  「うん」
  「闇の一党の伝えし者アークエンに拾われました。元々は孤児です。……闇の一党ダークブラザーフッドの暗殺者として養育されました。最終決戦
  の際には与えし者としての地位を頂き、フィッツガルド・エメラルダ抹殺の特命を受けましたが敗北。今に至ります」
  「えっと……」
  「ご理解頂けましたか?」
  「……」
  無茶言うなちくしょう。
  意味不明。
  結局何も分からず。ともかくグリン・フィスは常人では理解出来ない生活をしてたんだなー、と認識した程度。
  まあいいさ。
  コツ。コツ。コツ。
  私達は足を止めた。にも拘らず足音が近付いてくる。
  チャッ。
  私は銃火器を手に取り、グリン・フィスは柄に手を掛けた。足音は何の警戒なく近付いてくる。足取りは確実にこちらだ。つまり誰かいると認識して
  いるものの警戒していないのだ。敵意がないというのは正しいようだ。
  敵ではない?
  「そこにいるのは誰だ?」
  現れたのグール。それは放射能の影響で変異した人間。生殖能力を失う代わりにほぼ不死に近い寿命を得ている。
  自我はある。
  つまり見た感じが腐乱死体っぽいけど人間のカテゴリーだ。
  ただフェラル・グールと呼ばれるタイプは放射能に脳が冒されているので完全なる化け物。世間ではフェラル・グールとグールを混同して考えてい
  るのでメガトンのモリアティの酒場でバーテンしているゴブのような街で暮らしているグールは村八分な目に合っているわけだ。
  偏見って嫌い。
  さて。
  「お前ら誰だ?」
  「えっと……」
  白いシャツは血塗れではあるが自身の血ではない模様。返り血?
  だが少なくとも武器は持っていない。
  私とグリン・フィスは顔を見合わせる。敵と判断すべきか、それとも……。
  「んー」
  私は武器を収めた。
  銃を握っている限り誰かと握手は出来ない。戦争の根本は武装する事にある。武装して相手を威嚇するからこそ分かり合えない。
  ……。
  ……まあ、人類は誰とでも分かりあえるという奇麗事は言わないけど。
  それでも。
  それでもこの場合は武器は不必要だろう。
  相手に敵はないのだから。
  「お前ら誰だ? ここに何の用だ?」
  「用は……」
  こいつはファミリーではなさそうだ。少なくともエヴァン・キングが言うような攻撃性は感じない。
  だとしたら誰だ?
  てかここも外れの可能性もあるわけ?
  それは予測してなかった。
  まずいなぁ。
  グールは若干戸惑いながら言う。

  「も、もしかして……秘密を盗みに来たんじゃないよな?」
  「秘密?」
  「ウルトラジェットだよ……ああ、くそっ! 言っちまったっ!」
  「……」
  おかしなグールだ。
  「まあいい。こっちに来いよ。中で話をしよう」
  「ええ」
  誘われて一室に。
  元々は駅員の事務所だったのかもしれない場所。
  室内を覗く。
  化学薬品とかたくさん置かれている。白衣を着込んだグールが数名、そこで何かの作業をしていた。傭兵らしきグールもいる。
  ふーん。
  麻薬の密造所か。
  ジェットは麻薬。だとするとウルトラジェットは……ジェットより凄い麻薬なのだろう、ウルトラだし。
  マーフィー。グールはそう名乗った。
  彼は続ける。
  「俺達グールにはジェットが効かない。だからウルトラジェットを開発してるんだ。しかし材料が足りない……そうだ、手を貸してくれないか?」
  「何するの?」
  「材料集めさ。暇なら手伝ってくれ。相応の報酬は支払うぞ」
  「忙しい」
  「そうか残念だな。で、何が忙しいんだ?」
  情報を得るには会話。
  RPGの鉄則だ。
  「ファミリーってあんたらの事?」
  「ファミリー? ……ああ、あいつらか。お互いにちょっかいは出さない事にしてるよ。俺達はグール相手のウルトラジェット開発してるに過ぎん。銃
  でドンパチは俺達の領分じゃないんだ。連中に用ならここの奥のマンホールから行けるよ。連中のアジトと繋がってる」
  「……」
  「ただマンホールの下にはミレルークが徘徊してるから気を付けな」
  「どうして手助けしてくれるの?」
  普通の疑問。
  マーフィーは楽しそうに笑った。
  「俺は善人で通ってるからさ」
  「あは」
  麻薬業者が善人かは知らないけどレイダーやタロン社よりはマシだろう。多少は上品なお仕事だとは思う。
  麻薬が正しい?
  まあ、そうは言わないけどさ。
  だけどまっとうな世界ならともかく今は核爆弾で世界が吹っ飛んだ状態だ。
  現実逃避に麻薬。
  ……。
  ……正しいとは言わないけど……うーん、合法だと言うと私の倫理観疑われるから断言はやめよう。ただしこれだけは言える。
  麻薬、良くない。


  マンホールを開けてさらに地下に潜る。
  出た場所は地下鉄の路線の残骸なのだろう。ただ微妙に天然の洞穴みたいに見える箇所もある。
  まあ200年の間世界は混迷の真っ最中。
  今だったそうだ。
  だから。
  だからこういう変化もありえるだろう。
  さて。
  「……」
  「……」
  私とグリン・フィスはマーフィーの言葉を信じて地下を進む。
  信じる価値?
  そんな食べ物は知らんクマ(ペルソナ4風味)。
  「主」
  「何?」
  しばらく進むと視界の向こうに人影があるのに気付いた。しかし人にしては形がおかしいし大き過ぎる。
  ピピ。
  PIPBOYが反応する。
  生物を索敵したのだ。勝手に反応するから面倒だ。

  『ミレルークを発見』

  ふーん。
  あれがカニ人間のミレルークか。
  ボルト時代にミュータント生物の講義を受けてたからある程度はどんな生物かは理解出来る。PIPBOYの音声に反応したのか向こうもこちらを確認
  したらしく向ってくる。敵を発見、排除するっ!
  チャッ。
  10mmサブマシンガンを構える。
  バリバリバリバリバリバリ。
  銃口が激しい火を放つ。連射性のある銃のトリガーを引き、圧倒的な数の銃弾を対象にぶちまける。
  全弾命中。
  こんな閉鎖空間なら外す方が難しい。
  敵はただの的だ。
  しかし……。
  「嘘っ!」
  弾装が空になるまで連射したのにミレルークはまだ立っている。
  無傷?
  いいえ。
  全身銃撃で凹んでいるものの死んではいない。
  殻が厚過ぎるのだ。
  装甲と言うべき?
  ともかく。
  ともかくミレルークは健在。
  「くっそ」
  10mm弾では力不足というわけか。人間系ならともかくミレルークの厚い装甲は貫通出来ない。つまり殺せない。
  意外に素早い動きでこちらに肉薄する。
  「主、お下がりくださいっ!」
  ギィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィンっ!
  ハサミの一撃をセラミック刀で防ぐグリン・フィス。私の間に入り、ミレルークの一撃を弾きそのまま突きに転じる。しかしその装甲は貫けず。
  「ちっ」
  バッ。
  もう片方の手のハサミを振り下ろされて大きく飛び下がる。
  ミレルークの弱点は何?
  ボルト内で勉強してたからこの手のミュータントの存在は知ってたけど弱点のまでは調べてなかった。
  リアルに関わるとは思ってなかったしね。
  だけど今は関わってる。
  世の中どうなるかは分からないものだ。
  ……。
  ……それにしてもどうしてボルトにミレルークの情報があったのか?
  考えてみるとおかしな事よね。
  外と隔絶されていたのに。
  まあ今なら何となく分かる。監督官は外界とは遮断されていると言ってたけど実際は出入り結構自由なんじゃないかなーと推測してる。少なくとも
  情報のやり取りはしてるんでしょうね。だってタロン社に私の暗殺依頼したし。
  隔絶する理由?
  さあ、なんでだろ。
  もっともその謎は二度解けないでしょうね。
  監督官は私やパパをボルト101に到底戻すとは考えられないから。まあ戻るきはナッシングですけど。
  何故?
  答えは簡単よ。
  連中はジョナスを惨殺した。
  アマタには会いに戻りたいけど私が戻ると騒動は必至だから。私もまた監督官を許さないだろう。今なら監督官を殺すだけの力がある。
  だから戻らない。
  それがきっとお互いの為なのだ。
  さて話を戻そう。
  「主、こいつカニの分際でやります」
  「みたいね」
  弾装を交換しながら私は身構える。セラミック刀を突きつけながらグリン・フィスも後退、私に並ぶ。
  その間にもミレルークは迫ってくる。ついでに仲間もね。
  「……カニはアレルギーだから嫌いなんだよなぁ」
  暗闇から這い出てくるミレルークども。
  数は合計で五体になった。
  ピピ。
  PIPBOYが再び反応する。機械的な女性の音声が響いた。
  
  『ミレルークハンターの存在を確認』
  『ミレルークの上位タイプです』
  『補足ですがミレルークにはテリトリーを支配するミレルークキング、攻撃性の高いミレルークハンター、一般的なミレルークが存在しています』
  『生態系&社会性は不明』
  『放射能の産物なのかボルトテック社の開発したヒューマノイドとカニの融合生物なのかは不明です』
  『その厚い装甲は銃撃に耐性を持っています』
  『以上で音声ガイドを終了します』
  『良い一日を』

  「うるせぇーっ!」
  沈黙した機械に思わず叫ぶ。
  意味のない情報をダラダラと並べやがってーっ!
  弱点を教えろよ。
  弱点を。
  ミレルークがカニだろうがエビだろうが知った事か結局私はエビもアレルギーなんだからどっちでもいいんだよボケーっ!
  もう少しマシな情報をインプットして欲しいものですね、PIPBOY。
  この装着型端末機は監督官が管理していた。つまり情報のインストール云々もあのおっさんの管轄だ。
  クソの役にも立たない情報だけしか記録されていないらしい。
  使えない。
  ……やれやれだぜー。
  ともかく。
  ともかく10mm弾では力不足なのは確実。そりゃ効いてないわけではないけどあと何十発叩き込めば死ぬ?
  当方は財政難。
  それに弾だってたくさん持ってるわけじゃあない。
  ミレルークは五体。
  そいつら全員死ぬまで射撃していたら当然ながら弾が足りない。
  ならば。
  「偉大なるダーティーハリー先生、加護を」
  今までその強力な威力ゆえに使わなかった44マグを引き抜く。二丁同時にだ。
  昔のガンマンのように二丁拳銃を構える。
  44マグナム。
  凶悪なまでの破壊力を秘めた携帯用銃火器。リボルヴァーから死神に等しい弾丸が飛び出す。
  ドン。ドン。ドン。ドン。ドン。ドン。ドン。ドン。ドン。ドン。ドン。ドン。
  12発の圧倒的な威力を持った弾丸を吐き出す銃。
  「……つっ!」
  反動が凄いっ!
  引き金こそ引けたものの思わず引っくり返りそうになる。てか引っくり返った。
  狙いなんてまともに付けられなかった。
  両腕がもげる痛みだ。
  いったーい。
  ……。
  ……まあ、そりゃそうよね。
  二丁拳銃するに威力が高過ぎる。
  その反動を抑えるにはどうしても両腕が構える必要がある。特に私はか弱いレディー。44マグナム発射時の反動を抑えるだけの力はない。
  しかも二丁だからね。
  ある意味で撃てただけでも凄い。
  引き金を引くたびに上に上にぶれていった私の腕と照準。
  「主」
  「ええ。大丈夫」
  差し出す手を掴み私は立ち上がる。
  二丁拳銃は危ない?
  そうね。
  危ないかも。
  少なくとも正確な射撃は出来ない。両腕で構えて……つまり一丁だけでも正確な射撃は不可能に近い。
  反動が凄いからね。
  正確無比な射撃は不可能に近い。
  例えばレイダーに人質を取られてた際、レイダーだけを撃ち殺すのはちょっと怖い。結局反動が凄いからぶれる、という結末に行き着く。
  まあそんな状況は少ないだろうけど。
  人質ごと敵を撃ち殺すだけの威力があるのは確かよね。
  怖い発想?
  ほほほ。こめんあそばせー☆
  さて。
  「お見事でした、主」
  「お見事?」
  「お見事です」
  「……わぉ」
  ミレルーク達を見る。
  強力な44口径の弾丸は厚い装甲のミレルークを完全に貫通していた。強力な破壊力の前にはあの程度の装甲はないに等しい。
  ただまあ人間系相手には勿体無いかも。
  高いもん44マグの弾丸。
  強力=高価。
  この方程式は文明崩壊した今でも代わる事はない真理。
  ともかく。
  ともかく撃破完了。
  「無駄な時間を過ごしたわね。行こう、グリン・フィス」
  「御意」


  44マグナムの弾丸を装填した後、私達は先に進む。
  強力無比な銃火器の唯一の弱点。
  それは装填に時間が掛かるという事だ。弾装のある銃火器ならともかく44マグナムはそうではない。装填に時間がかかる。
  ふぅん。
  予備の武器として10mmサブマシンガンは必要不可欠よね。
  出来るならアサルトライフルがいいんだけどさ。
  買うお金がない。
  さて。
  「終着のようね」
  柄の悪そうな男がアサルトライフルを肩から掛けている。
  私達が向こうを確認しているように、向こうもこちらを視認しているようだけど、まだ銃は構えていない。
  あの後。
  あの後、様々なトラップを掻い潜ってここまで到達した。
  悪意のあるトラップの数々。
  つまりここには到着して欲しくない誰かがいるというわけだ。そしてそれは前方にいる奴の仲間なのだろう。それがファミリー?
  そうかもしれない。
  そうじゃないのかもしれない。
  まあそこはどうでもいい。
  私達はここに到達した。ならばその先の事はどうでもいい。
  グリン・フィスを促して先に進む。
  アサルトライフルの男は当然私達を阻む。
  敵意は感じるけど明確な殺意はなさそうだ。まだ銃には手を掛けていない。
  「ちょっとちょっと待ってくれよ」
  「ん?」
  「ここはファミリー以外は立ち入り禁止だ。どこに行こうとしているんだ?」
  ビンゴだ。
  正解です。
  この場で一気にこいつを倒してこの場を制圧するのは容易いけどアサルトライフルの男は攻撃を指示されていないように見える。少なくとも無条件
  に私達を射殺するような任務を帯びていないようだ。
  だったら私達の態度も改めなきゃ。
  この男は門番なのだ。
  交渉が出来るうちは交渉で片をつけよう。別にそこまで殺しが好きなわけじゃあない。
  というか私は普通の女の子だし。
  ほほほ☆
  私は肩を竦める。
  「お金の使い場所を探しているのよ。お金があり過ぎて移動に大変なの。対処法知らない?」
  「なかなか興味深い話だな。100キャップを俺に渡してくれたら身が軽くなるぜ。そしたら俺達は友達だ。通りたいんだろ? 金くれたら通してやるよ」
  グリン・フィスと顔を見合わせる。
  簡単に買収される門番。
  ……門番の意味がねぇー……。
  まあいいさ。
  簡単に、手っ取り早く事が片付くなら問題はない。むしろ歓迎すべき事だ。お金なんて色々な事の手段でしかない。
  交渉が手っ取り早く片付くならそれに越した事はないのだ。
  さて。
  「通っていいの?」
  100キャップを手渡し私達は奥に進もうとする。
  だがアサルトライフル男は立ち塞がったまま。まさか通さないってわけ?
  男はニヤリと笑う。
  「いいかは入ったらまずヴァンスと話をつけろ。それが賢いやり方だ。彼がここのボスだもんでね」
  「ありがとう」
  うーん。
  ファミリーは悪党集団と聞いてたから偏見持ってたけど……ただの偏見?
  まあ家畜殺したわけだから正義の集団ではないだろうけど話の持って行き方次第では交渉が可能かもしれない。
  ……。
  ……もちろんそれは擬態であって、私達をアジトに招きこんで抹殺する気かもしれないけど。
  それならそれでいいさ。
  人生は驚きが一杯。
  ファミリーの連中にその驚きを提供してあげなくちゃね。
  ほほほ☆


  そこは駅の構内だった。
  電車の車両が並んでいたりもする。もちろん全て壊れているけど。
  大勢の人間が寝起きしている。
  「へー」
  私は驚きの声を上げた。人生はまさに驚きが一杯だ。
  ファミリーのアジトかと思ったけど……いやまあアジトなんだろうけど、アジトというよりはある意味で居住区だ。街と言ってもいい。
  一種のコミュニティがそこには形成されていた。
  興味深そうにこちらを見る男女。
  子供もいる。
  手近な男にヴァンスの居場所を聞く。
  高架にいると言う。
  お礼を言って私達はその場に向かう。
  「ようこそメレスティへ。ここが俺達の街さ」
  渋めの良い男がそこにいた。
  なかなかダンディだ。
  そいつはニコニコとしながら、私を抱き締めんばかりのフレンドリーさを発揮しながら目の前にいる。
  ファミリーは敵じゃないの?
  うーん。
  「メレスティへようこそお嬢さん。よく来てくれたな。私がヴァンス。ここを取り仕切っている。それで何か用かな?」
  「……」
  「どうした?」
  「……意外にフレンドリーね」
  「ロバートがここに通した、それはすなわち君が信頼に値するという意味だ」
  「ロバ……ああ、アサルトライフル男」
  あいつが通したら信頼に値する?
  簡単に買収されたましたけどそれでも信頼できるのですか?
  こいつらの信頼関係微妙。
  「私はミスティ。こっちはグリン・フィス。……でヴァンス、ここは……何?」
  「ここは虐げられ、誤解された者達が集う場所だ」
  「どういう意味?」
  「そのままだ」
  謎掛けか。
  付き合うつもりはない。彼もまた無用な議論をするつもりはないのだろう。簡潔に答えを述べる。
  「我々は他者の血を摂取する」
  「……えっ?」
  「世間や科学者は我々を変人と呼ぶ。化け物、悪魔、吸血鬼、様々な呼び方で呼ばれている。しかし我々は生きている。生きている以上、それは
  神に生存を許されているのだ。だが誤解しないでくれ。我々には理性がある。人は襲わぬ。もっぱら動物の生き血を啜る」
  「あっ」
  思い当たる節がある。
  動物の血を吸う?
  「それでバラモンの……」
  「アレフ居住地区の事か? そうだ。しかし誤解を解きたいと思う。レイダー達がバラモンを盗んだ、元々はな。我々はレイダーからバラモンを巻き
  上げたに過ぎん。もちろん屁理屈ではあるが囲いの外に出た瞬間にバラモンの所有権はレイダーに移った」
  「そしてレイダー駆逐した貴方達の手に、ね」
  「そうだ」
  なるほど。
  ある辺り一帯にはレイダーの集団もいたわけだ。ケイリンホテルの一党は私達が始末したけどまだいたのだ。エヴァン・キングはレイダーとファミリー
  を混同していたようだ。もちろん家畜を殺したのはファミリーなんだろうけど、完全なる恐怖の集団ではないようだ。
  まあ別の意味で恐怖なんだろうけど。
  血を吸う、か。
  ふーん。
  それを聞いたらアレフ居住区の連中はさらにガクブルするでしょうね。
  私は冷ややかな目でヴァンスを見る。
  フレンドリーさに危うく騙されそうになったけどこいつはウエスト家の夫婦の生き血を啜ったという濃厚な疑いがある。
  こちらも簡潔に済まそう。
  「イアン・ウエストに会いに来た」
  「イアン? 彼か。確かに彼はここにいる。しかし彼は我々の仲間となる事を誓っている。自主的にな。ファミリーを帰すわけにはいかん」
  「妹からの手紙を預かってる。せめて会わせて貰えない?」
  「妹? 彼にはまだ人間の肉親がいるのか? ……ならば尚更会わせられん」
  「何故?」
  「今イアンは人生の大切な節目にいる。アレフであんな事を起こしてから彼は恐れているのだ」
  「おかしな言い方ね。アレフでの騒動は……」
  「はっきりさせておこう」
  「……?」
  「我々はバラモンをレイダーから取り上げて血を啜った。それだけだ。ウエスト家の殺人には加担していない」
  「どうして知ってるの? 私はそれを言ってないわよ?」
  「イアンだ」
  「えっ?」
  「イアンが血の誘惑に負けて両親に手を掛けたのだ」
  「ちょっと、ちょっと待ってよ」
  ええ?
  それだと意味が変わってくる。
  というか全然異なる。
  ええーっ!
  「我々はあの地を見守っていた。どんな理由であれあの街を恐怖に陥れたのは我々だからな。だから見守っていた。……あの夜は私がたまた
  ま介入したからイアンは他の住民の血を啜りたいという欲求に流される事なく事無きを得た」
  「じゃあ彼が吸血鬼……」
  「その呼び方はよせっ!」
  「ごめんなさい」
  叱咤が飛ぶ。
  なるほど。その呼び方には拘りがあるんだ。
  なるほどなぁ。
  「彼はもう変人などではない。ここではそれが普通なのだ。……我々は人は襲わぬがな。ともかく彼は我々のファミリーだ。我々だけが受け入れ
  てやれる。血の渇きを抑える術を彼に施している最中だ。我々は同胞を決して裏切る事はない。だがお前ら人間はどうだ?」
  「……」
  「違うか?」
  「……」
  理屈はそうだ。
  理屈はヴァンスが全面的に正しい。
  奇麗事を並べてもそれは実生活には反映されない事は多々ある。今がその時だ。
  ヴァンスは続ける。
  「イアンは自制心を失っていた。指導者がいないからだ。私は別にここの者達をギャングに仕立てるつもりはない。ただ血の渇きを抑える欲求を教
  えているのだ。それさえ身につければ人間が餌に見える事はない。イアンには指導が必要なのだ」
  「……」
  理屈は正しい。
  だけどこちらも『はいそうですか』と帰るわけには行かない。子供のお使いではないのだ。
  うーん。
  攻め方を代えてみよう。
  「家族がいるのに遮断する必要がある? 家族、ファミリーの絆は大切じゃないの?」
  「……家族……」
  「そうよ。ルーシーにとって最後の肉親。せめて彼女の意思を尊重すべきじゃない? 手紙、渡させて欲しいんだけど……それは過ち?」
  「……」
  「ヴァンス」

  「……ふふふ。君を誤解していたらしい。そうだ、家族は大切だ。君をただの報酬目当てのメッセンジャーだと思っていた私の認識は甘かった。いい
  だろうイアンと会わせよう。そして彼と話せ。その結果次第で……答えが出るだろう」


  ヴァンスに案内されて私はイアンの部屋に入る。部屋、というよりは監禁場所?
  電子ロックされていた。
  中からは出れない仕組みだったから……なるほど、ここで血の渇きを制御させるつもりなのだろう。手当たり次第に誰かを襲わせない為にね。
  つまりまだ渇きに対する調整不足。
  ヴァンスは大人しく引き下がりグリン・フィスは部屋の外。イアンと相対するのは私だけだ。
  さて。
  「家に帰ろう」
  「家? 家なんてもうない。俺が壊したんだ。……だろう?」
  両親を殺したのは覚えているんだ。
  なるほど。
  血の渇きに負けて衝動的に両親に手を掛けたんだろうけど……今は罪悪感に苛まれている。イアンは吼えた。その口には鋭い2本の犬歯。
  人にしては長く、鋭過ぎる。
  「何かが俺の中で蠢いているっ! それが怖いんだっ!」
  「……」
  「俺はミュータントだっ! 怪物なんだっ! 分かり合えるのはルーシーだけだったっ! ……だが彼女はもういない……。分かるだろ今の俺を事
  を気に掛けてくれるのはヴァンスだけだファミリーだけだっ!」
  「何から逃げてるの?」
  「何から……?」
  「逃げてるようだから。少し見つめなおしてみたら?」
  「何から逃げるべきか分からない。……だけど時間があれば時計の針を戻せるかもしれない」
  ふぅ。
  彼は短く溜息を吐く。
  その視線は私を見ていない。遠い過去を見ているようだった。
  その表情のまま彼は語り始める。
  「10歳ぐらいの時、ルーシーと高架下で遊んでいた。俺達のお気に入りの場所だった。水の中に石を投げ込んだりして遊んでた。その時、囲いを破
  ってバラモンを盗もうとしている奴に出会ったんだ。やめろと俺は叫んだ。そいつはただ笑って俺を蹴飛ばした」
  「……」
  よくある話だとは思う。
  今のご時世まっとうだけでは生きていけない。犯罪を別に肯定するわけじゃないけどさ。
  「蹴飛ばされた弾みで俺は気を失った」
  「……」
  「意識が戻った時、気が付いた時ルーシーがそいつから俺を引き離そうとしてた。そいつの首には牙の痕があった。俺が殺したんだ」
  「……」
  妹の前で吸血行為、か。
  つまりルーシーは知っている。兄が異形だと知っていて安否を気にしている。
  家族だから?
  兄妹だから?
  絆ってすごいなと思う。
  「ルーシーが言うには俺は別人のようだったらしい。止めようとするルーシーに睨み付けた。まるで彼女を殺すような目付きで。バラモン泥棒が棒
  か何かで俺を殴った。俺は振り向いてそいつを殺した。……多分奴に殴られなければきっとルーシーを殺してた……」
  「……」
  「両親は絶対に理解してくれない、受け入れてくれない。ルーシーはそう言った。2人の秘密にしようと。私が助けてあげるからとルーシーはそう言っ
  た。渇きを覚えると彼女は俺を抱き締めて離さなかった。……ははは、すごいよな、一歩間違えれば殺されるかもしれないのに」
  「……」
  「それでもルーシーは俺を抱き締めてたんだ」
  「そっか」
  ギュッ。
  私は彼を抱き締めた。突然抱き締められて彼は戸惑ったようだけど、その戸惑いはすぐに変化した。
  私に心を許した?
  いいえ。
  「血血血血血血血血血血血血血ぃーっ!」
  「……っ!」
  私の首筋に容赦なく牙を突きたてる。
  ガキン。
  しかしそれは叶わなかった。
  噛まれる寸前に私は彼を引き剥がし、牙のある口にサブマシンガンのマガジンを突っ込んだ。鋭利な2本の長い犬歯は当然他の歯よりも突出して
  いる。長い犬歯を硬い金属に突き立てたわけだからそれは音を立てて折れた。
  他の歯は無事。
  何故?
  だって他の歯より長いもの。
  当然ながら他の歯よりも先に金属に届く。音を立てて牙は床に落ちた。
  「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!」
  「聞きなさいイアン。これで血は吸えない。だから自分で渇きを抑えなさい。いいわね?」
  「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!」
  「これで人は襲えない」
  「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!」
  「血しか受け付けないならその対処は考えてある。だから」
  「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!」
  口元を押さえてのた打ち回るイアン。
  私は優しく囁いた。
  「だから、アレフに帰りなさい。あそこが貴方の家なんだから」


  ヴァンスを見つけ、私は声を掛けた。
  丁度彼は女性と話していたけど、イアンとの会話の結果が知りたいらしい。女性に労りの言葉を発してから下がらせる。
  「今の女性は私の妻だ」
  「へー」
  「それで話し合いはうまくいったのか? 是非結果を聞かせて欲しい」
  「その前に提案があるわ」
  「提案? 聞こう」
  「血ならどんな血でもいいの?」
  「そうだ」
  「なら病院等にある血液パックでもいいわけね? 血液パック供給してあげてもいいわ。その代わり条件がある」
  「我々と何らかの協定を結びたいのか?」
  「そうよ。アレフの再興に手を貸して欲しい。その代わり彼らは血液パックを提供する。……簡単よ、行商人と交渉すればいい。でも貴方達は出来
  ないわよね世間的に。アレフが仲介するってわけ。共存できるんじゃない? この条件なら」
  「ふむ」
  共存する理由?
  特にない。
  あるとすれば安心感だ。ここでこいつら殲滅するのは多分容易いけど……殲滅する理由はない。
  少なくともヴァンスは常に紳士的だった。ファミリーも同じく。
  ならば。
  ならば共存は出来る。
  無理に殲滅する必要はないし無用な争いを招く必要性はどこにもない。
  共存共栄。
  いつかは破綻するのかもしれないけど……今はどちらも歩み寄れると思う。将来の事ははどうなるかは分からない。
  推測は出来ても予言は出来ない。
  仲良くしよう。
  同じ人間なんだしさ。
  「どう?」
  「君のお陰で人間にも信用の置ける奴がいる事を知った。この教訓は忘れない。恩は必ず返すぞ、友よ」
  「友か。ありがとう」
  「それでイアンはどうなった?」
  「ファミリーを抜けるそうよ」
  「……そうか。仲間を失うのは辛いがそれぞれの道がある。仕方あるまい。家族は大切だからな」
  「そうね」
  「また会おう友よ。君との時間は実に有意義だった」