私は天使なんかじゃない








アレフ居住区への旅路






  物事は思惑通りには運ばない。
  常に回り道。
  脇道。
  脇道。
  脇道。
  パパを探して三千里って感じなのに、物事は容易に運ばない。
  でも今はそれでいいと思う。
  きっと誉めてくれる。色々な人と関わり、色々な人と共に歩む私を、きっとパパは誉めてくれる。
  きっと。






  《現在の装備》

  ミスティ。
  44マグナム(スコープなしバージョン)二挺。10mmサブマシンガン。コンバットナイフ。

  グリン・フィス。
  モイラ特製セラミック刀。ナイフ。

  クリスティーナ。
  スナイパーライフル。32口径ピストル。





  「旅は道連れ世は情けー♪」
  意味不明な歌を口ずさみながら私達一行は荒野を進む。
  メガトンを旅立って三時間。
  特に何の支障もなく旅路を快適に進んでいる。
  私達一行の内訳、当然私ミスティちゃん、私が行動すれば金魚のフン……ま、まあ、どこでも付いて来るグリン・フィス。そして今回も同行をお願
  いしました保安官助手である鬼軍曹的な女性クリスティーナ。
  合計3名だ。
  ……。
  ……いえいえ、クリスを誘ったわけじゃないのよ。
  ただ『アレフ居住区』に行くとルーカス・シムズに言ったらクリスを同行させようという話になったに過ぎない。もちろん人手が多い方が旅には最適
  ではあるから私は拒否しなかった。レイダー、奴隷商人、放射能で変異した動物、狂った軍事テクノロジーの遺産である戦闘ロボ。
  障害はそれだけではない。
  放射能汚染の大地も人間に牙を剥く。
  人数は多い方が旅には適している。だから申し出を喜んで受けたのだ。
  ただルーカス・シムズはソノラ率いる『レギュレーター』のメンバーではあるもののクリスはまったく関係ないらしい。
  さて。
  「主。大分陽が落ちてきました」
  「そうだね」
  ほぼ夜だ。
  メガトンを旅立った時刻が既に遅かった。
  まあ、そりゃそうよね。
  だって今日は『爆弾解除』をずっとやってたんだ。それとは別にルーシー・ウエストから『郵便配達』を請け負い、『レギュレーター参加』。
  イベント三昧。
  濃密な一日ですなぁ。
  ……。
  ……もしかして私労働基準法に違反してる?
  働きすぎ?
  そうかもしれない。
  出来る女は辛いですなー☆
  あっちこっちに頼られる。
  やれやれだぜー。
  「気をつけーっ!」
  「……っ!」
  バッ。
  思わず立ち止まり気を付けする私。
  「ミスティ二等兵っ! 今日はここで夜営するべきだと自分は思うのだが、どうだっ!」
  「……いいですねそれ」
  思いっきり『どうだっ!』と凄まれりゃ頷くしかないでしょうに。
  遠距離スナイプ得意の彼女、横暴です。
  まあいい。
  夜の領域は野生動物達の行動の時間になる。
  辺りが暗闇の中を無理に進めば思わぬ後れを取る事も考えられる。
  クリスの言い方が威圧的で多少は気になったものの、夜営の為の準備は確かに必要だ。夜営の準備と言っても焚き火をするだけなんだけどさ。
  放射能の影響下で変異した動物が火を恐れるかは知らないけど周辺の闇を削るのには役立つし暖も取れる。
  必要だろう。
  「グリン・フィス、準備しよう」
  「御意」
  「頑張れよ二等兵、衛生兵。自分が見学しているから、設置しろ」
  「手伝えボケーっ!」
  「き、貴様上官に向ってその口答えは何だっ! 軍法会議モノだぞっ! 嫌なら全裸で土下座しろっ!」
  「……」
  全裸で土下座って何?
  も、もしかしてクリスって……女性が好き?
  ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!
  私にはその趣味ないぞーっ!
  「二等兵っ!」
  「な、何?」
  「男なんて不潔なだけだ。究極の愛を営めるのは女だけだ。分かるな貴様っ!」
  「……」
  決定。
  クリスは女好きです。
  おおぅ。


  「……」
  「……」
  「……」
  焚き火を囲んで私達はコーヒーを飲んでいる。
  クリス女好き説とか色々と浮上したけど……真相は聞けなかっただって怖いもんーっ!
  おおぅ。
  「……」
  「……」
  「……」
  ともかく。
  ともかく私達は焚き火を囲んでリラックスタイム。
  私達のお尻の下にはそれぞれ毛布敷いてある。今現在は食事を終了させコーヒーで一服している最中。空は完全なる闇、時は完全なる夜。
  もうしばらくしたら毛布の上に転がって寝るだけだ。
  もちろん交代で見張りもする。
  基本よね、基本。
  「あー、疲れた」
  結構歩いた。
  ピッ。
  腕に装着してあるPIPBOYを私は起動した。GPS内蔵なので現在地が地図に表示される。誤差は二メートルもないはずだ。
  「んー」
  現在アレフ居住区とメガトンの丁度中間だ。
  つまり明日の昼には到着する。
  今のところ特に問題は泣くたびは続けられている。
  まあ唯一の戦闘は焚き火の準備をしている際にモールラット(放射能の影響で突然変異した化けネズミ)が襲って来た事ぐらいかな。クリスは
  モールラットを丸焼きにして食べようと提案したけど私は拒否した。
  まずいから?
  いえいえ。そんな単純な理由ではないのだ。
  PIPBOYは知識の宝庫。様々な情報が記憶されている。そこで調べるとモールラットの肉は『胃の中で暴れる☆』らしい。
  そんなもの食えるかーっ!
  ……。
  ……ま、まあ、メガトンで気づかないうちに食べているのかもしれないけどね。
  ちなみに夕食は缶詰でした。
  200年前のねー。
  それはそれで怖いなー。
  ともかく。
  ともかくボルト101生まれの私にしてみれば、キャピタルウェイストランド生まれの連中の感性はまだ付いて行けないところがある。
  グリン・フィスの反応は……私ともクリスとも異なってたなぁ。
  モールラットを食べる食べないの際の彼のコメント。

  「ネズミの肉。ゴブリンと囚人の主食ですね。ネズミの肉と気にしなければ結構おいしくいただけますね」

  すいません。
  ゴブリンと囚人の主食の意味が分からないんですけど。てかゴブリンって何?
  グリン・フィスどこ生まれだろ。
  意味不明です。
  銃火器携帯すらしないし。
  もしかしてこいつもボルトの出身なのかもしれない。
  それはありえるなぁ。うん。
  ボルトとは地中深くに造られた放射能隔離施設。全面核戦争から逃れる為に……というか核戦争の脅威すらも金儲けにしたボルトテック社が開発
  した隔離施設なのだ。私の出身地はボルト101。他にもたくさんのボルトがあるらしい。
  グリン・フィス、他の施設出身の可能性もある。
  さて。
  「そろそろ寝る?」
  「御意。それがよろしいかと。……自分が見張りを務めましょう」
  「すぐに寝たがるのは一人前の軍人ではないっ! 一兵卒、マラソン50周だっ!」
  クリスの言い分?
  無視です。
  無視。
  付き合いは短いけど扱いは理解している。
  「ふぅ」
  ゴロン。
  横になる。
  今日は一日働き過ぎた。労働基準法を無視するほどの労働時間だったと思う。
  寝よう寝よう。
  「……んー……」
  眼を閉じる。
  チュッ。
  ……はっ?
  「一兵卒。寝床の上で軍法会議だ。とことんネチネチと責めあげてやるぞ☆」
  クリス、眼がマジです。
  えっと今私は唇奪われたんですかね?
  眼を開けたら滅茶苦茶近い位置にクリスがいるんですけどなんかすっごい怖いんですけど。
  今夜襲われる?
  とうとう読者の期待に沿える展開になってきた?
  あっはっはっはっ。
  今夜は『夜間戦闘訓練☆』をじっくりしちゃうぞー☆
  ……。
  ……なーんて……言うかボケーっ!
  ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああファーストキスを女に奪われたーっ!
  ごめんパパ私汚されちゃったよーっ!
  「場を和ませる冗談だ一兵卒っ! それが分からんのか、不敬罪で処刑ものだぞっ!」
  「……」
  逆切れかよ。
  こいつの性格設定完全にデタラメですなー。この世界の神様の行き当たりバッタリの影響?
  新たに『女しか愛せない☆』が追加されましたー。
  ……。
  い、今まで一番面倒な性格設定ですね。
  おおぅ。
  「主。こいつ殺りますか?」
  「やめろーっ!」
  「御意」
  「……はぁ」
  グリン・フィスはグリン・フィスで容赦ないし。
  まともな奴はいないのかー。
  カラン。
  「……ん?」
  カラン。
  何かの音がする。
  前にボルト101で聞いた事のある音だ。確かアマタと旧時代の牧場の映像を見てた際に……そうそう、カウベルの音。
  どこからか聞こえてくる。
  「グリン・フィス」
  「主、西の方向からです」
  チャッ。
  暗視機能の付いたスナイパーライフルのスコープでクリスが周囲を見据える。
  「案ずるな」
  「えっ?」
  「キャラバン隊だよ一兵卒」
  なるほど。
  約二分後に目視出来る地点にバラモンに荷物を積んだ2人組が現れる。1人は見るからに護衛。白人だ。もう1人は薄汚れた黄色のツナギを着て
  いる黒人だった。
  悪い人物には見えない。
  黒人は微笑を浮かべて私達に手を振った。
  「今夜出来たら同席させてもらえないかな。人数が多い方がお互いに得策だろう?」
  「まずは自己紹介でしょう?」
  油断せずに私は言う。
  キャラバンに偽装したレイダーかもしれないからだ。
  「こいつは失礼。俺はラッキー・ハリス。見ての通りキャラバンが仕事だ」
  「へー」

  「拠点というところはないけど……まあ、カンタベリー・コモンズのロエさんの援助でキャラバン組んでるから、そこが拠点かな」
  「へー」
  カンタベリー・コモンズね。
  知らない。
  知らないけど前に聞いた事がある地名だ。
  「クレイジー・ウルフギャングの仲間?」
  「おお。あいつを知ってんのか」
  「うん」
  「そうかいそうかい。赤毛の旅人とはあんたの事かい」
  「はっ?」
  「ウルフギャングが言ってたよ。ボルト出身の珍しい女の子に会ったってさ」
  「へー」
  何気にキャラバン仲間では有名らしい。
  てかボルト出身って珍しい?
  聞いてみる。
  「ボルト出身って珍しい?」
  「珍しいさ。大抵のボルトは壊滅してるからな。残骸が多いよ」
  「そうなの?」
  「何だ知らないのか。まあ、知るわけないか。ボルトテック社が開発した地下居住施設ボルト。表向きは放射能から逃れる為の施設だが実際は
  軍事技術の開発の為の施設だ。入居者使って人体実験してたのさ」
  「そうなのっ!」
  「ああ」
  それは知らなかった。
  ……。
  ……あれ?
  でもボルト101は200年の間、穏便に時の流れを過ごして来た。
  人体実験もない……と思う。
  最大の面倒は監督官の横暴だけ。
  もしかしたら開発していた軍事技術が他のボルトほど物騒ではなかったのかもしれない。例えば武器の開発とかさ。
  じゃあ他のボルトは人体実験の挙句に壊滅?
  何開発していたかは知らないけどボルトって怖い場所なのか。
  今更ながらガクブル。
  さて。
  「ボルトテック社がアメリカ軍の命令で軍事技術を開発していたのか、それとも中国に高値で売るつもりだったかは知らないけどな」
  「ふぅん」
  結構危険な場所だったみたい。
  外は核戦争の真っ最中、ボルト内では人体実験。当時、人間はどこにも逃げ場がなかったってわけだ。
  「ところで何か買ってくかい?」
  「何売ってるの?」
  「俺は武器と弾丸の類だよ。銃がなくては自殺行為。武器がないと旅は出来ないよ。安くしておくけどどうだい?」
  銃か。
  だけど今、私達の装備は充実している。
  弾丸もある。
  10mmサブマシンガンではなくアサルトライフルに買い換えたいものの……あまり手持ちのキャップがない。いやいや下取りに出して買い換える事
  は出来るけど弾丸にまでは手が回らない。弾がない銃など邪魔なガラクタでしかない。
  現在の手持ちは300キャップ。
  まあいい。
  一撃必殺の威力を持つ44マグナムがある。
  もうちょっと経済的に余裕が出来てからにしよう、アサルトライフルは。
  「一兵卒、グレネードの類は購入しておくべきではないか?」
  「ああ、そうね」
  クリスの言い分は正しい。
  銃でドンパチするだけが戦闘ではない。
  レイダーが群れをなして襲ってきた際には広範囲の攻撃手段を有していると便利だ。ワイヤートラップにも使えるし。
  ……。
  ……てか私が購入するんですか?
  クリス姐さん奢ってくださいよ年上でしょー。
  まったく役に立たない奴だ。
  やれやれだぜー。
  「グレネード三つくださいな」
  「はいよ。大負けに負けて30キャップでいいぜ。今回だけだがね」
  「ありがとう☆」
  感謝感激。
  素直に喜びを現すとラッキー・ハリス、ニヤリと笑う。
  「……またお客に喜んでもらえたぞ……」
  「すいませんなんでいきなり押し殺したような声に変わるんですか?」
  購入後の口調変わり過ぎ(ゲーム経験者には分かるはず☆)っ!
  何なんだこいつはー。
  何気に『くっくっくっ』とか笑い出しそうなラッキー・ハリス氏。
  ……なんだかなぁー……。

  その後。
  他のキャラバンの概要を教えてもらった。扱ってる品物もね。……前にウルフギャングに聞いたような聞いてないような。
  いずれにしても覚えてないんだけどさ。

  クレイジー・ウルフギャング。
  品物はジャンク品。

  クロウ。
  品物は戦前の衣服と防具。

  ドクター・ホフマン。
  品物はスティムパックや血液パック等の医療品、食料品。

  ラッキー・ハリス。
  品物は銃火器、弾丸。

  いずれもカンタベリー・コモンズを拠点にしているキャラバン隊であり、従えている護衛はその街の防衛を任されている傭兵らしい。
  私は『珍しいボルトの人間』としてキャラバン隊に浸透しているようだ(ウルフギャングが広めたから)。
  今後とも付き合いを深めて行こうじゃないの、キャラバンとはさ。
  さてさて。
  「寝るかな。明日も早いし」
  世界には出会いがたくさん転がっている。
  それはとても素敵な事だと思う。
  それはとても……。




















  「いたっ! いましたよ少尉。赤毛の女……間違いない、ボルト101の脱走者ですっ!」
  とある小高い丘の上。
  暗視機能がある軍用の双眼鏡でミスティ達が夜営している姿を見ているのは若い男だった。他にも数人いる。
  全員黒いコンバットアーマーに身を包んでいた。
  そのアーマーの胸元には『T』の文字。
  傭兵会社タロン社の刻印だ。
  「確かか?」
  少尉、そう呼ばれた金髪の二十代後半の男が確かめるように呟いた。
  双眼鏡を持って眺めている男は頷く。
  「よし。奴の首に懸かっている額は1000キャップだったな?」
  「ええ。少尉」
  「……そうか」
  「直ちにリーバス少佐に無線報告を……」
  「よせっ!」
  「はっ?」
  少尉は報告を止めるように指示した。
  ここにいる彼らは本隊ではなくあくまで斥候の任務を与えられた小隊でしかない。人数は8名。ミスティ達はキャラバンを含めて5名。奇襲をすれば
  勝てるかもしれないが負ける公算も高い。だからこそ報告をして本隊と合流すべきであるものの、少尉はその提案を退けた。
  その理由は……。
  「本隊全員で1000キャップを分配するとなると雀の涙だ」
  「まさか少尉、少佐を出し抜く……」
  パス。
  小さな空気の音だった。
  だがそれは凶悪な殺意を秘めた音であり、死を予感させる音でもあった。
  ……。
  ……いや。
  既に死を体現していた。
  報告をしようとしていたタロン社の傭兵はその場に死骸となって倒れる。サイレンサー付きの10mmピストルで射殺されたからだ。
  銃を手にしたまま少尉は宣言する。
  「我々はこれより本隊から離れる。異論はないな?」
  『……』
  隊員達は顔を見合わせた。
  ここで異議を唱えれば今射殺されたルデウス伍長の二の舞だ。異論を口にするのは難しい。しかしタロン社には基本的に忠誠心など皆無。ある
  のは利己的な打算のみ。本隊全員で1000キャップを分けるよりは、小隊全員で分けた方が儲かる。
  ならば。
  「異論はないなっ!」
  『カール少尉に従います』
  「それでいい」