私は天使なんかじゃない
気が付けば街の便利屋さん
外の世界に脱走したパパを追って私も外の世界に。
そこは過酷な世界。
そこは残酷な世界。
そこは……。
どんな定義をしようともこの世界はまだ生きている。
人々も生きようとしている。
私が今いるのはメガトンの街。パパを探す為の目的の為に色々と人助けをしてきていたものの……いつしかそれが当たり前のように思えていた。
気が付けば私は街の便利屋さん。
「……驚いたな」
メガトン。
不発の核爆弾がある広場に、街の中心には観衆が取り囲んでいた。……本当は避難して欲しかったんだけどね。もっとも爆発すればボルト101の
ある近辺まで避難しないと爆発の巻き添えを食うんだけどさ。そこまでの避難は事実上不可能。
何故?
だって外には放射能で突然変異したバケモノもいれば暴走した軍事ロボットが徘徊している。
レイダーだっている。
それに。
それにだ。
メガトンが吹っ飛べば彼らは生活する術を失う。
すなわち死を意味する。
どうせ死ぬなら爆弾で吹っ飛びたいのも心情だろう。それならば一瞬で終わるからだ。
……。
……まあ私を信用してくれていた、と思う事も出来るけどさ。
ともかく既に問題はない。
「お前解除出来たのか? 解除出来たんだろ?」
「ええ」
観衆を掻き分けて保安官が前に出る。
ルーカス・シムズだ。
一番驚いているのは彼だ。何度も『驚いたな』と口にしているし。信用していなかったのですか市長兼保安官殿?
「解体終了よ」
「お前は街の救世主だっ!」
「どうも」
私は手にしていたレンチを、私の側に控えていたグリン・フィスに手渡す。彼はずっと工具箱を持ったまま側に侍立していた。正体不明の男ではあ
るものの悪い奴ではないのは私も理解している。妙な拾い物だけど、拾って良かったかな。
お互いに異邦人。
仲良く出来れば幸い。
「よくやったぞ一兵卒っ! 勲章ものの戦功だっ!」
「……どうもクリス」
「敬礼っ!」
「……どうも」
ツンデレ軍人のクリスも素直に私を誉めてくれる。街の皆もだ。万歳を叫んでいる。その中にはビリー・クリールもいた。
誉められると嬉しい。
逆に落胆しているのはチルドレン・オブ・アトムという宗教集団だ。連中はメガトンの核爆弾を神様として崇拝していた。最終的な望みは爆弾で吹っ
飛ぶ事という意味不明な思想を抱く連中だ。ルーカス・シムズはこいつらを警戒していたのだろう。
今までこの教団は核を爆破しようとはしなかった。
あくまで自然に爆発する事を望んでいたものの、それがいつ強制爆破に変えるか分からない。
だからこそ解体者を探していたのだ。
「これでもう安全なのか?」
「ある程度はね」
「ある程度?」
私は囁く程度の声で呟く。
自然ルーカス・シムズは私の側に来る。少なくとも民衆には教団にも聞こえまい。聞いているのは側にいるグリン・フィス、保安官助手としてルーカス
の側に控えるクリスだけ。要は仲間内だ。この3人には聞かれても問題はあるまい。
さて。
「結構頑丈だからグレネードじゃ無意味。信管も抜いたから……まあ、一応は大丈夫」
「一応はというと?」
「ここに小型核を叩き込めば連鎖爆発するわ」
「ふむ」
ヌカ・ランチャー。
それはアメリカ軍が中国との大戦末期に開発し、量産した携帯用の核兵器だ。
ミニニュークと呼ばれる小型核を発射出来るランチャーでありこれを実戦に投入した結果、中国軍は大きく後退したらしい。
今どの程度現存しているかは知らないけどゼロではあるまい。
万が一そんな物騒な兵器をこの核爆弾に叩き込まれればどうなるかを私は伝えた。
不安がらせるだけ?
いいえ。
充分な対処の為よ。
幸いメガトンの出入り口は1つだけ。
そこで街へ入る者達を検査すればいい。つまり小型核を持ち込ませないようにするのだ。教団は今存在理由を失っている。暴徒化する可能性は
低いだろうけど万が一という事もある。その対応策を練る為にこの爆弾の状況を知っていて欲しかった。
ルーカス・シムズは大きく頷いた。
「任せておけ。それは保安官である俺に仕事だ」
「お願いね」
「それにしても……」
「ん?」
「それにしてもお前は報酬も求めなかった……お前はなんて良い奴なんだっ!」
「ど、どうも」
突然大声を出す。
私はびっくりするものの民衆達もそれに同意する。
ふぅん。
なかなか芝居がお上手です事。
「どうだここに永住しないか? 家なら用意してやる。……まあ、多少は時間が掛かるがな。親父さんを見つけてここに住むといい」
「ありがとう。そうさせて貰うわ」
つまり。
つまり余所者嫌いの住民達が私を受け入れ易くする為の芝居なのだ。まあ純粋に感謝もあるんだろうけど。
ここに住む、か。
それは私にしてもいいかも。
だってパパ見つけても今更ボルト101には戻れない。監督官が許さないだろう。なぜなら脱走した私達を許せば今後ボルトの管理は緩む。例外は
認められないのだ。もちろん監督官は『絶対に許さない』だろうし私にしてもそうだ。
監督官は叔父のような存在であるジョナスを殺した。
それは許さない。
絶対に。
だからあいつが頭下げようが私は意地でも戻れないのだ。……アマタに会えないのは寂しいけどさ。
ここに住む、か。
パパと一緒にメガトンに住む。
それはとても都合がいい。
家まで建ててくれるらしいし好意には甘えよう。
その時……。
「ミスティ、すげぇぜ」
「ありがとうビリー」
眼帯伊達男であるビリー・クリールが私を祝福してくれる。そのビリーの後ろには養女のマギーが恥かしそうに私を見ていた。
何気にここに来てからずっとマギーには嫌われてます。
……。
……まあ、純粋に嫌われているというか敬遠されてるだけなんだけどさ。
意味は同じ?
そうとも言うー(クレヨンしんちゃん風味☆)。
「ほらマギー」
「う、うん」
ビリーに促されてマギーは私の近くに寄ってくる。マギー、落ち着かないのか俯いたままだ。
うーん。
嫌われたままっていうのも寂しいものがある。
結構私は子供が好きのようだ。
ずっと妹が欲しかったし。
マギーは顔をゆっくりと上げて微笑んだ。
「お姉さんはあたしの英雄。大きくなったらお姉さんみたくなりたいな」
「……」
「お姉さん?」
「可愛いー☆」
むぎゅー。
マギーのその言葉がめちゃくちゃ嬉しくて私は彼女を抱き締めた。
最高の報酬だ☆
最高の……。
核爆弾の解除。
私は万歳の声を背に受けながらその場を後にした。
どこに行く?
モイラの店(現在一緒に暮らしてます)?
モリアティの酒場?
そのどちらでもない。
「どうです?」
向かった先は診療所。
診察する事数分。
私は少し緊張した面持ちでドクターに聞く。ドクターに会うのはこれで二度目だ。前にグリン・フィスを運び込んだ時に会っている。
「どうです?」
もう一度聞く。
ボルトを出てから体調がおかしい。
……。
……いや。
正確にはおかしくはない。絶好調だ。
私が気にしているのは『時が止まって見える』瞬間がある事だ。お陰でレイダー達を倒すのに好都合なんだけど……病気?
やっぱ病気怖いです。
「ふむ」
「主が病気かと聞いている」
考え込む医者に凄むグリン・フィス。
脅してどーする。
診察中グリン・フィスはずっと側にいた。私の生涯の従者を勝手に宣誓している奇妙な奴。……まあ、悪い気はしないけど。ちなみに診察は眼を調
べたり脈を計ったりだけ。いくら生涯の従者でも胸を見せてたまるかボケーっ!
さて。
「私どこかおかしいんですか?」
「ふむ。まあ、普通だな」
「普通?」
「お前さんはキャピタルウェイストランドに住む者達と同じだ」
「はっ?」
意味分からん。
謎掛け的な言葉が気に障るのかグリン・フィスは刃に手を……。
「あんたは外に出てなさいーっ!」
「御意」
……疲れる奴。
グリン・フィス退場。これでようやく診断が聞ける。
「相変わらず奇妙な奴だな、あいつ」
「あははは」
「で診断の結果だが……お前さんはメタヒューマンだな」
「メタヒューマン?」
「俺らと同じだ。放射能の世界で生まれた新人類だ。そういう意味ではボルトで暮らしてる連中は昔の遺伝情報のままの旧人類だ。この放射能が
残る世界で生きるべく進化したのが俺達だ。お前さんもそれと同じらしいな」
「……」
「時が止まって見える現象はよくは分からんが……まあ、そんな特殊能力がある奴もいるだろう」
「突然変異ってわけ? 私?」
「遺伝子解析しないと何とも言えんが……俺達とも多少毛色が異なるのは確かだな。診察の前に聞いたが親父さんから何か注射されていたそう
だな。それは多分その能力を抑える為のものだろう。ボルトはよそ者を嫌う。ばれない為の措置だったのだろうな」
「……」
「凹んだか?」
「そうでもないけど……」
気に食わない。
気に食わないのだ。
つまりずっとはパパは私に嘘を付いていた。
ボルトで生まれた、それは最初から嘘。パパもママもそして私もボルトとはまるで関係ない。そこはいい。だけど嘘が嫌。
嘘は嫌いだ。
「それにしてもお前さんボルト生まれでないのにボルトにいたわけだよな。それはおかしな話だよな」
「ええ」
そうなのだ。
ボルト生まれでない、つまり遺伝的に突然変異の外の人間をどうしてボルト101に監督官は入れたのだろう?
パパはどんな密約を結んだ?
気になる。
もしかしたらボルトの外に出た意味がそこに繋がるのかもしれない。
「特に支障はないだろう、能力を使ってもな」
「ありがとうございます」
ぺこり。
頭を下げた。
天上天下唯我独尊的に振舞う事もあるけど、私は一応は謙虚のつもり。診察のお礼を言う。もちろんキャップも支払う。
「いくらですか?」
「診察料はいらん」
「はっ?」
「爆弾解除したんだろここまで声が聞こえてたよ。メガトンの救世主から金を取り立てようなんざ思わんよ。……今回だけだがな」
「ありがとうございます」
ぺこり。
また頭を下げる。
気を良くしたのかドクターは三本の注射器を私に手渡した。何かの薬液が満ちている注射器。
「やるよ」
「スティムパック?」
「そうだ」
「へー」
外の世界にもあるんだっ!
スティムパックを注射すると骨折は治り裂傷は癒える。万能の薬だ。
ロストテクノロジーでもある。
……。
……いや理論そのものはボルト101では今だ確立されているけど、それに必要な物質を精製するのに膨大な時間が掛かる。
外の世界でお目に掛かるなんて驚き。
まだキャピタルウェイストランドの全てを見て回ったわけではないけどメガトンの現状を見る限り完全に失われた技術のはず。出所は……昔の病院
とか医療施設から入手してきたものかな。
もちろん出所はどこでもいい。
非常に助かる。
「ありがとうございます」
「気にするな」
『ハロー。愛しきアメリカよ。私はエデン大統領、対話の時間だ』
「はっ?」
診療所の奥から聞き覚えのある声が響く。
エデン大統領の声。
つまりはラジオ放送だ。患者が聞いているのかな?
ドクターは不快そうな顔をした。
「ネイサン腰痛持ちはラジオいじらずに寝てろっ! それとエンクレイブの放送は俺は嫌いなんだ、聴きたいなら退院しろっ!」
怒鳴る。
よほどエンクレイブラジオが嫌いらしい。
私?
別に。
聞いてて楽しいとは思うけど、別にどうでもいい。関心もないし。いずれにしても再放送だしさ。
エンクレイブが世界を救ってくれる、そんなのただの夢物語。
その時奥から白髪の老人が出てくる。
「帰らせてもらうよ。退院する」
「気を付けてな」
素っ気ないなぁドクター。
まあ腰痛だから帰っても問題ないのだろう。グリン・フィスを無償で治療してくれた事を考えると、ドクターはその辺りの配慮は出来る人間だ。つまり
医療を生き甲斐としている。人間的な好き嫌いで病院から追い出すという事はしないだろう。
……。
……多分ねー。
ネイサンは私を探るように見ている。私を知らないらしい。まあ知らなくても当然か、新入りだし。
それに老人はずっと寝てた。爆弾解除も知らないのだろう。
一応私はメガトンの救世主。
さて。
「んー? 見掛けない顔だな。いきなりだがお前さんエンクレイブって聞いた事あるかい?」
「……本当にいきなりね。でエンクレイブ? それってラジオ放送の?」
「そうだ。古きよきアメリカの心を持つ正義の組織だ」
「はっ?」
アメリカねぇ。
確かにここはまだアメリカ大陸だろうけど政府は核爆弾で吹っ飛んでると思うけどね。
大統領も一緒にさ。
「君の事は特に知らないがどうやら君もこの国を愛しているようだな。ようこそメガトンへ。ワシはネイサンだ」
「はあ、まあ、よろしく。ミスティよ」
どこをどう見て愛国心云々?
ボケてるのかこのおっさん。
ドクターはやれやれと言いたげに首を振っている。ボケている可能性は高い。……いやボケ云々はともかくこのおっさん、エンクレイブ好きとして
有名なのだろう。で煙たがられているというわけだ。
なるほどなー。
「真の愛国者ならエンクレイブと共に戦わねばならん」
「戦うって……」
誰とよ?
「もうじき彼らがこの地獄を終わらせてくれる。もうじきな」
「どうしてエンクレイブが好きなの?」
「何故かって?」
「うん」
「周りを見てみろ。これがアメリカの良さだ。もちろん最近ちょっと様子がおかしいがそれでも君はアメリカの大地の上にいるんだ」
「まあ、そうっすね」
掴み所のないおっさんだ。
誇大妄想?
言ってる意味分からんし。アメリカの良さがここのどこにある?
「分からんのか、意味が?」
不機嫌そうな声。
下らんお話にお付き合いしなくちゃいけませんか?
……やれやれだぜー。
「私はボルト101育ちなもんでね。上の世界はよく理解出来てないのよ」
「例えボルトの地下で生まれ育ったにしても、合衆国に生まれたのだから君はアメリカ人だ。自信を持ちたまえ」
「自信?」
「そうだ。祖国と大統領を支えるのはワシの義務であり君の義務でもあるんだ。……分かるかな?」
「ええ」
曖昧に頷く。
ええ、まったく分かりませーん☆
「それでこそ誇り高き愛国者だ。もちろん真の愛国者でなければ国のリーダーに選ばれる事などないがな。自分にとって何が大切かを知るには
他人の判断を信じリゃあいい。これがアメリカ流だっ!」
「ですよねー☆」
アメリカ流ねぇ。
レイダーとかもアメリカ流なわけ?
アメリカ=レイダー?
そんな価値観で物事を考えたら昔のアメリカのオバマ大統領あたりに怒られそうよねぇ。
で結局のこのおっさんはなんなんだ?
迷惑親父?
「エンクレイブって結局……その、何者?」
「彼らはアメリカ政府っ! ワシの申し子っ! 誉れ高きジョン・ヘンリー・エデン大統領が率いる正当なる政府なのさっ!」
「……」
スイッチ入りましたーっ!
ネイサン、何気にいきなりエキサイトっ!
このまま血圧で倒れてくれ頼むよ寝込んでくれーっ!
いい加減お付き合いしたくありません。
……やれやれだぜー。
「ラジオでエデン大統領はアメリカ再建の演説をしているんだ。エンクレイブは飛行ロボットを使ってあらゆる場所を監視している。最終的にこの
場所を浄化する為の情報収集をしているのさ」
「ふーん」
「街の皆はワシをいかれた老人だと思っている。だがエンクレイブが再建に乗り出せばワシが正しかったと皆は思うだろうさ」
「はぁ」
溜息。
変なおっさんに延々と『エンクレイブ救世主伝説っ!』を聞かされて耳が痛い。てか神経が磨り減った。
私は遅くなった昼食を食べにモリアティの店に。
グリン・フィス?
彼は先にモイラの店に帰した。サバイバルガイドの手伝いをして欲しいと言われていたのを思い出したからだ。代用だけどモイラ許してねー。
さて。
「はぁ」
「どうしたんだ今日は疲れたのか?」
「まあね」
ゴブが労わるような視線で私を見つめているのに気付いた。
座るのはいつもカウンター席。
バーテン兼コックのゴブとは常に近い距離にいる。
「何?」
「お前は凄いよなぁ」
「凄い? ……ああ、爆弾の事?」
「それだけじゃないさ」
「……?」
「その、ボルトに住んでる奴って皆お前みたく良い奴なのか?」
「うーん」
アマタは良い子だったなぁ。ブッチも……まあ、友達よね。
多分ゴブはボルト101=聖人君子の集団という方程式を抱いているんだろうけど……ボルト101は高度な技術を今だ保有している人間の集まり
に過ぎない。良い人間もいれば悪い人間もいる。メガトンとそう変わらない。
「ねぇゴブ。救世主様はお腹空いたぞー」
「まったくお前さんには敵わないよ。……ヌードルが珍しく入手できたんだ。食ってくだろ?」
「もちろん」
ガチャ。
その時お客が1人入って来た。
「いらっしゃい」
ゴブが威勢良く迎える。
私は振り返る。
お客は若い女性だった。私より少し上だろうか。綺麗な人だ。視線が向けられているのに気付いたのか彼女も私を見た。
その視線には『誰?』という感情が込められている。
まあ私は新入りですから知らないのだろう。
彼女は呟いた。
「旅人さん?」