私は天使なんかじゃない








ヨハネの黙示録





  因縁?
  運命?

  言い回しは色々とある。

  ジェファーソン記念館。
  ここで父と母は出会い、私が生まれ、母は出産でここで死に、父もまたここで倒れた。
  不思議な縁だとは思う。

  私もここで死ぬ。





  「私たちを、あなた一人で? 正気なの橘藤華?」
  「別にあなたに心配されるいわれはない。それと私のことは大尉と呼びなさい」
  橘藤華は宣言する。
  全員を一人で相手すると。
  ここまで突破するまでに色々と消耗している。とはいえ一人に負けるほど私たちは弱くない。
  ……。
  ……失礼。
  ブッチは除く。
  弱くないけど限りなく一般人です。
  私ら?
  まあ、デタラメよね。
  FEVウイルスを極めて自然に取り込んで能力者な私、スーパーミュータントでやたらとタフで高知能を持つアンクル・レオとフォークス、BOSで正式に訓練を積み権力者の
  身内だからという人事ではなく実際に腕が立つ精鋭部隊リオンズ・プライド隊長のサラ、そして闇の一党とか訳分からん組織出身の人間兵器グリン・フィス。
  そんな私らを相手に1人で?
  意味が分からん。
  ここにいる兵士を建物外の掃討に向かわせようとしているし、クリスの命令?
  うーん。
  退室させた後に私らをオータムのとこに手引きする?
  そうかもしれない。
  そうじゃないかもしれない。
  オータム側の士官もさすがに無謀を通り越して馬鹿者に見えるのか藤華に対して侮蔑の視線を送っている。
  もちろん自分より下士官に命令されるのも癪なんだろうけどさ。
  あとは派閥の違いかな。
  どの程度の敵対関係かは知らないけどレイブンロックでのやり取りを見る限りではオータム派とクリスティーナ派は仲良しってわけじゃあない。
  藤華、また銃を構えてすらいない。
  私はアサルトライフルを奴に向けた。
  「主。お気を付けを」
  「グリン・フィス?」
  「奴は不気味です」
  「はっ?」
  すっと左手を横一杯に広げる大尉。
  同時に私の仲間たちが一斉に構えた。だけど藤華は無手。コンバットナイフも銃も握っていない。
  「少佐、邪魔です」
  「大尉に命令される筋合いはない」
  「命令ではありません。ただ、邪魔なのです」
  「だから……」

  ぶんっ!

  藤華は腕を大きく右に振る、それから私に腕を向け、キュルキュルという音と同時に私は奴に向かって小走り、そして全力疾走。
  転びそうなまでに走る。
  「ちょっ!」
  違う。
  走りたくて走ってるわけじゃない。
  走らされているっ!
  超能力?
  いや。
  私の体に見えない何かが巻き付いている。その結果私は気をつけをしたまま走っている。傍から見ると間抜けな走りだ。
  だけどギャグじゃない。
  ギャグでアサルトライフル落として、気をつけ走りで敵に向かって一直線で走るもんかっ!
  透明なワイヤーだ。
  私の体に巻きついてるっ!
  たぶん奴の左手の袖口から伸びてるんだろう。機械か何かで巻き込みしてる、私は奴に吸い寄せられている、奴が近付いてくる。奴の右腕の掌が私の顔に……。

  バァァァァァァァァァァンっ!
  ドサ。

  平手打ちが私の顔に直撃。
  その場にひっくり返る。直後にワイヤーが外れ奴の袖口に収まる。
  こいつ強いっ!
  「あなたには随分と辛抱したのよ、赤毛の冒険者。GNRでスーパーミュータントから救ったのは私の部隊。クリスティーナ様を警護するために隠密行動してたのよ。あなたを
  救えって、言われたから救った。あんなにも取り乱した閣下を見たのは初めてだったわ。閣下はお前のせいで遠回りをした。お立場も危うくしたわ」
  「それは、どうも」

  ばぁん。

  ホルスターから銃を引き抜いて倒れている私の右足を撃ち抜いた。
  さすがに避けようがない。
  それにしてもこいつ、眉一つ動かさないで攻撃してる。
  マジ強い、こいつ。
  何となくクリスが全幅の信頼を置いているのも分かる気がする。
  「引き寄せての打撃、今の銃撃、その気なら二度死んでるわ」
  「そ、そうね」
  痛みがひどい。
  私の顔は苦痛に歪む。
  藤華は少し考えてから私を見下ろして呟いた。
  「本気で死ぬ?」
  「ミスティから離れろっ!」
  その時仲間たちが動き始める。さすがにとっさ過ぎて、あまりにも鮮やか過ぎて誰も反応できなかったようだ。
  「……」
  無言で藤華は銃を撃つ。
  サラの持つレーザーライフルを撃ち抜き、レーザーライフルは爆発。アーマーを着ているとはいえ衝撃でサラは吹っ飛ばされた。ヘルメットはしていないので顔に軽いやけど。
  ブッチも10oピストルが弾き飛ばされる。
  だけど彼は怯まずにスイッチブレードを片手に突っこんできたため私同様に足を射抜かれた。
  倒れるブッチ。
  瞬間、走るグリン・フィス、フォークス、そして橘藤華。
  グリン・フィスとフォークスは藤華に向かってだけど藤華はアンクル・レオに向かって一直線に走る。掴みかかってきたフォークスをかわし、藤華の敏捷性はグリン・フィスよりも
  素早いらしく、グリン・フィスは追うのを断念しデズモンドから譲り受けた45オートピストルを撃つ。
  藤華は左腕からワイヤーを飛ばしアンクル・レオに巻きつける、私の時と違いスーパーミュータントは引き摺れない。逆に藤華は機械でワイヤーを巻き込み、アンクル・レオに向かう
  速力を上げた。グリン・フィスの銃のスキルは基本的に並み。まだ動く物逮を射抜くのは得意ではない。藤華には当たらない。
  藤華は弾が見えてる?
  仮にそうだとしても私は驚かない。
  デタラメに強い。
  アンクル・レオは接近してきたら捕まえるつもりなのか動かない。藤華は速力を上げながらグリン・フィスに、そしてフォークスに弾丸を叩き込む。
  グリン・フィスは回避、フォークスはあの程度の弾丸は豆鉄砲、つまりは牽制ってわけだ。
  気の良いスーパーミュータントに最接近する。

  ドゴォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォンっ!

  接触した瞬間、アンクル・レオは仰向けになって倒れた。
  ……。
  ……えっ?
  ピクピクとしているアンクル・レオ。
  あいつ何をした?
  ワイヤーを外し立っている残りの2人に目を向ける。

  すっ。

  藤華は銃をホルスターに戻し、両手を今度は高く上げた。
  何するつもりだ?
  何もない両手。
  突然ジャキーンと音を立てて鋭い刃が生まれる。
  ウルヴァリンかよっ!と思ったけど違う。指と指の間から小型のナイフのようなものが出現した。
  投擲用のナイフ。
  あいつ暗器使いかっ!
  それをグリン・フィス、フォークスに向けて放つ。グリン・フィスはショックソードで弾き、フォークスは屈せずに突き進む。刺さってるけどこの程度では死なない生命力がある。
  藤華は動かない。
  パンチを繰り出すポーズ。
  そして……。

  バキィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィっ!

  「ぐふぅっ!」
  フォークスの胸に藤華のパンチが決まった。口から血を吹き出すフォークス。
  藤華の顔が戸惑う。
  屈しない。
  フォークスは踏み留まっており藤華の肩を掴んだ。疾走して肉薄するグリン・フィス。
  勝ったっ!
  しかし藤華は動じない。
  グーの状態だった手をパーにして呟く。
  「パラライジング・パーム」
  「……っ!」
  ドサ。
  フォークスはその場に崩れた。
  だけどその時グリン・フィスの間合いに藤華はいた。瞬時にグリン・フィスに向き直り構える。
  「斬っ!」
  「パラライジング・フィストっ!」

  ズザザザザザザザザザザ。

  藤華の方が早かった。
  まともに腹部に打撃を食らったグリン・フィスは床を滑りながら吹き飛ばされた。しかし抜刀の構えのまま次の攻撃に備えているあたりはさすがだ。
  だけどどんな打撃だ、素手でコンバットアーマーを砕いてる。
  こいつまさか……。
  「能力者」
  私は呟いた。
  「違う。そうではない」
  藤華はそこまで言ってから、呆然と成り行きを見ていた少佐に言う。
  「邪魔です」
  「りょ、了解した」
  バタバタと部隊を引き連れて退室する少佐。
  そりゃそうだ。
  私だってこんなのと同室って怖いもん。
  「能力者でもサイボークでもない。アンドロイドでもない。これは氣。お前のようにFEVになど感染していない」
  「氣?」
  「肉体の潜在能力を引き出した恩恵。エンクレイプでは私だけが体得者だけど、他に例がないわけじゃない。拳を鋼鉄のようにするアイアンフィスト、触れた対象を麻痺にするパラライ
  ジング・パーム、そして二つの特性を合わせたパラライジング・フィスト。だけど何故お前は麻痺しない? 耐えた理由も分からない。人間ではないの?」
  「ブレトンには及ばないにしても、こう見えても魔法耐性は高い方でね」
  藤華は私を見ていない。
  グリン・フィスだけを見ている。
  どうやら彼を目障りな敵と認めているようだ。
  「ブレトン? 意味の分からないことを」
  「主。ここは自分にお任せを。サラ殿、動けるでしょうか? 動けるのであれば主をお願いします。……さて、フィッツガルド・エメラルダ級の敵とアカヴァル大陸で戦えるとは、光栄だ」
  「フィッツガルド・エメラルダ? アカヴァル大陸? ……本当に意味の分からない男。閣下の為に排除します」
  「グリン・フィス、参る」



  施設内では相変わらずビービーと警告音が鳴っていた。
  頭が痛くなってくる。
  片頭痛がする。
  何のサイレンだ?
  「はあはあ」
  「大丈夫、ミスティ?」
  私とサラは進む。
  ジェファーソン記念館の通路を。
  止血はしたけど正直やばいような気はします。あいにくスティムパックがないので耐えるしかない。サラはサラで火傷しているけど軽度だし傷も残らないだろう。
  デタラメな藤華はグリン・フィスに任せて私たちは浄化システムルームに向かってる。
  サラの手には44マグナム。
  私のだ。
  私の武器も同じく44マグナム。
  ワイヤーで引き寄せられたときにアサルトライフルは落としたし、拾う為には藤華の脇を通る必要があったから、諦めた。
  あいつはやばいだろー。
  油断してなくても危なかったと思われます。
  おおぅ。
  サラの武器だったレーザーライフルは爆発、四散したため私が44マグナムを貸している。
  ブッチ達は置き去り。
  人道的にはどうだよだけど、全員を連れていける余裕がなかった。まあ藤華がエンクレイブ部隊追い出したし、藤華自体はグリン・フィス任せだから大丈夫だろう。
  今はやれることをやらなきゃ。
  「サラ、この扉の先が浄化システムルームよ」
  「そう」
  44マグナムのグリップを握り直す直すサラ。
  それから頷いた。
  「行くわよっ!」
  「ええっ!」

  ガチャ。

  扉を開いて私たちは踏み込む。
  その場にいたのは救急バッグを持った兵士1人、大型のトランクを共同で運んでいる兵士2人、兵士はいずれも軍服組だ。白衣の科学者5人。
  そしてオータム大佐。
  もう一つの扉、私たちが入ってきた向かい側の扉に向かって歩いている最中だった。撤退しようとしていたところらしい。
  敵はギョッととした顔をした。オータムを除いて。
  オータムは素早く銃を引き抜いてこちらに銃を向けた。
  早い。
  でも私はもっと早い。
  奴の眉間を射抜く。
  ……。
  ……ちっ。実際には右手に銃弾を叩き込んだだけだった。
  駄目だ。
  痛みで意識が集中できない。
  オータムは屈せずに発砲。そういえばあいつの手はグリン・フィスに落とされていたな。じゃああれは義手。それも銃弾でも射抜けない鉄製か何かかな?
  大佐の弾丸は私の着ているコンバットアーマーが弾く。
  そのまま奴は柱の陰に隠れた。
  狙えない。
  撤退しようとしていた連中は不意を突かれて反撃するままならない。
  兵士はサラの攻撃で呆気なく死亡、逃げようとした科学者も倒れた。最後の科学者は扉を開けたものの、それが最後だった。サラは容赦なく弾丸を背に叩き込んだ。
  全滅。
  残りはオータムだけだ。
  私とサラは弾丸を装填、柱に向ける。
  「ここまでよ、大佐っ!」
  「まさかここまで俺を出し抜くとはな。お前を甘く見ていたよ、赤毛の冒険者っ!」
  「投降しなさい」
  「捕虜になる気はない。そもそも俺は捕まれば何の罪状でお前ら原住民に殺されるんだ? 俺はこの地にいた司令官の中で一番まともだぞ」
  頭が痛い。
  ズキズキする。
  「まとも?」
  「ああ。そうだ。俺は水を利用してお前らを飼い慣らそうとしただけだ。手荒ではあるがな。それが叶わないから、まあ、今はデータを手土産に帰るつもりなんだがな」
  「FEV……っ!」
  「はっきりさせておこう。それはエデンの差し金だ。俺じゃあないよ。奴はお前を新たな手駒にするつもりだった。前の奴はへたれたからな」
  「エデンのもくろみは何だったの?」
  「ミュータント皆殺し。それだけだ。ボルト101以外の連中は全部ミュータントだからな。ここは滅びるって寸法だ。むろん俺たちは残る。しかし更地にしてから入植するほどの
  兵力は俺たちにはない。俺たちは純血種。数はいないんだよ。少なくともカリフォルニアのようにはな。だから知事を立て、原住民を支配する」
  「何故エデンに従うの、エンクレイプは何故機械に従うの?」
  「エデンに逆らうな。それが不文律だからさ。オカルトのようなものだがね。エンクレイプ発足からの、絶対的事項だ、だから議会のあるシカゴもジョン・ヘンリー・エデンには逆
  らえなかった。奴らは恐れてるのさ、リチャードソンの二の舞を。先代大統領はエデンに逆らった。だからFEVでの皆殺しに失敗して死んだ」
  「リチャードソン?」
  ワシントンからリチャードソンまで。
  それでエデンだ。
  時代が合わない。
  「ジョン・ヘンリー・エデンは暴走した。奴はリチャードソン大統領の思考を重要視した。それを止める必要があった」
  「オータム大佐、あなたが正義の味方ってわけ?」
  「この地は俺たち権力者のポイント稼ぎの場だったのさ。それだけだ」
  「あなたの言葉は破綻してる。エデンに逆らうなって言ったって、リチャードソンの前にはエデンはいなかったはずよ。知識としてはまだなかったはず。エンクレイプ発足はいつからかは
  知らないけどリチャードソン大統領よりエデン大統領が先に存在していたわけがないと思うんだけど?」
  「それだよそれっ! 議会は本質を見失っている。混同しているっ! だから俺が大統領になる、オカルトを払拭する必要があるっ!」
  「どういうこと?」
  「答えるつもりはないよ。それよりも提案がある。お互いの為になる、良い提案だ」
  「よく喋る」
  「赤毛の冒険者、取引しよう。警告音が響いているだろ?」
  「ええ。それが?」
  「データを引き抜いたから爆発するのさ。その警告音だ。そうだな、計算ではタロン社宿営地までは消し飛ぶな。この戦いに関係している者全部死ぬ。俺と撃ち合えば時間切れに
  なるぞ? パスコードを入力しろ。水は浄化され、爆発もしない。しかし入力した人間は制御室に閉じ込められて放射能で死ぬ。お前の親父と同じだ」
  「何よそれっ!」
  サラが叫ぶ。
  オータムの意味は私にはよく分かる。つまり何もしなければ爆発で皆死ぬし、爆発を止めるためにパスコードを打てば打った人間だけが死ぬ。
  何だこの展開は?
  「憎い俺をその手で殺して時間切れで爆発で消し飛ぶか、何もせずに爆発で丸ごと吹っ飛ばすか、お前だけ死んで皆生き残るか、選べ」
  「……」
  銃を握り直す。
  柱の向こうの奴は饒舌だけど、運を天に任せている感はある。このあたりはさすがに大佐ってところか。取り乱してはいない。
  柱に目を向ける。
  ゆっくりと私は銃を下した。
  「とっとと行きなさい」
  「いいんだな?」
  「気が変わらないうちに消えなさい」
  「良い選択だ。……サーヴィス少佐、まだいるな? ベルチバードを出す準備をしろ、すぐに行く」
  多分無線で話しているんだろう。
  オータムはその時柱から駆け出した。サラが無言で銃を乱射するけどオータムは扉の向こうに消えた。
  「くそっ! 逃げられたっ!」
  私はそれを無視して救急バッグの側まで行って、漁る。
  これは違う。
  違う。
  違う……あった。
  薬瓶を握りしめる。
  「それでミスティ、どうする? パスコードのあてはあるの?」
  「今なら、分かる気がする」
  「そう。よかった。どっちが入るかクジで決める? ……嘘よ。私が行くわ。偉大な父を持つってお互いに大変よね。でも、これで私が父を超えれるわ」
  
  ガリガリ。

  薬瓶の薬剤を噛み砕いた。
  RAD-X。
  放射能耐性を引き上げる薬だ。
  これで少しは持つだろう。
  「違うわサラ」
  「えっ?」
  「これは私の父が始めたこと。だから私が完結させなきゃね。あなたはあなたの役割がある。でもここじゃないわ」
  「な、何を……っ!」
  「後はよろしくね」
  「ミスティっ!」
  「もっと話がしたかった。バイバイ」
  「ミスティっ!」
  私は彼女を振り払い、銃を向けた。彼女の弾丸はゼロ。オータムに向けたからゼロ。
  痛む足を引きずりながら私は制御室に入る。
  追ってくるサラ。
  威嚇で撃った。でも彼女は止まらない。一瞬間があっただけ。
  でもそれで充分だ。
  制御室のコンソールに向かって私はパスコードを入力。

  「パスコードの入力を確認しました。では安らかな一日を」

  柔らかな女性の声が響いた。
  前の時と違う。
  音声データだけエンクレイプが変えたらしい。意味のない、悪趣味なことだ。
  安らかな一日ね。
  ありがとう。
  堪能しますわ。
  御機嫌よう。
  パスコードを打った瞬間にここは緊急閉鎖される。サラもここにはもう入ってこれない。誰も入ってこれない。水が浄化されるまでは。
  「……」
  ドサ。
  声もなく倒れる私。
  薬で耐性上げているからか痛みはまるでない。眠るように死ねるようだ。
  痛いのは嫌いだ。
  実に助かる。
  パスコードは216.。なるほど、私は知ってた。何度もパパから聞いてたから。ママが好きだった言葉だって。

  ヨハネの黙示録21章6節。
  私はアルファでありオメガである。最初であり最後である。
  私は渇く者にはいのちの水の泉から値なしに飲ませる。

  ママとパパが始めたこのプロジェクト。
  私が完結した。
  私の命で。
  両親はそんな私を褒めてくれるのだろうか?























  「警告音が消えた?」
  藤華の体から闘志が消えていく。
  そして手を挙げた。
  やめようと。
  グリン・フィスは構えながら問う。
  「どういうつもりだ?」
  「もうやめよう。これ以上戦っても意味がない。早くあなたの主人のところに行きなさい。BOSではなく彼女が多分死んでいる。でも今ならまだ死に目には会えるかもしれない」
  「どういうことだっ!」
  「言ったままよ。エンクレイプは負けた。外もそろそろ決着が付く。我々は負けたから引く。それだけよ。……今はね」
  藤華は背を向けて歩き出す。
  ブッチ達にも見向きもしない。まるで興味がないように藤華は呟く。正確にはワイヤレスの無線機で報告しているのだがグリン・フィスには関係なかった。
  ミスティたちのいる場所に向かう。
  藤華は無線で報告。
  「こちらの決着は尽きました。これより撤退します。……いえ。閣下の為ならば。はい。ありがとうございます、クリスティーナ・エデン閣下」