私は天使なんかじゃない
決戦ジェファーソン記念館
もはや双方引くことはできなかった。
決着をつけるしかない。
和解などあり得ない。
『こちらはこの不条理な世界に温もりと正義を届けるエンクレイプラジオ』
『ハロー偉大なるアメリカよ』
『私はジョン・ヘンリー・エデン大統領。対話の時間だ』
『この放送はエンクレイプの諸君にのみ放送している』
『また、現在ジャミングが発生している地域がある為、受信し辛い者たちがいるかもしれないが理解してほしい』
『さてレイブンロック陥落の報は知っているだろう?』
『心無い暴徒たちによってなされた愚行だ』
『私もまた危ないところではあったがエンクレイプの愛国主義者たちによって今こうして健在している』
『ハハハ。心配をかけたが私は生きている』
『そう』
『アメリカの心は、生きている』
『考えてほしい』
『何故このような愚行が行われたのか?』
『何故我々は理解されていないのか?』
『諸君たちは大義の為の行動が何故受け入れられないのか、そう悩んだことだろう』
『それは、私にも分かっている』
『今我々に必要なのは少しの忍耐、寛容、そして時間だ』
『民衆は迷っているのだ』
『偽者のBOSが吐き出したプロパガンダに脅され、アメリカ国民は赤毛の冒険者という虚像の英雄を信じ込まされているのだ。民衆は恐怖に支配されているのだ』
『だから我々は悪役となった』
『そう。BOSの悪しき計画によって不条理にも悪役とされたのだ』
『だがそれならそれでいい』
『荒療治をする際に我々は民衆から憎まれるだろう。それだけこの地は悪に蝕まれている。だから悪役は必要なのだ。綺麗ごとやお題目だけで民衆を導くことができない』
『名声は時に捨てる必要がある』
『いずれは理解される。だから今はBOSの排除に専念せねばならない』
『ここで霊的な引用を』
『大統領ジョン・ヘンリー・エデン自身が、あなたの心に届けよう』
『平和を得るなら名声を犠牲にせよ』
『エンクレイプの諸君。現時刻を持ってエデン大統領令を発令する』
『ただちに全軍ポイント305に撤退せよ』
『真なる愛国者クラークソン准将の拠点である衛星中継ステーションに集結し、再度侵攻の足掛かりとせよ』
『それが急務だ』
『レイブンロック陥落と同時に私は最高司令本部をシカゴに移した。シカゴの地下施設である軍事要塞ドーンから私は現在指揮している』
『それでは諸君、また会おう』
『大統領ジョンヘンリー・エデンから、さようなら』
最終防衛線到達。
立ち塞がるエンクレイプの兵士は100ちょっと。
それにたいしてこちらの軍勢は350ほど。
負傷兵は後方の元タロン社宿営地に待機。また援軍として来てくれたピット軍もその場に展開して待機。長躯してきたので消耗が激しいと判断したのと、街道封鎖をしていた
エンクレイプの部隊がこちらに対して攻撃を仕掛けてくるという情報を入手したからだ。後方の確保のため、アッシャーは私の頼みを快諾。
現在交戦中だ。
ソノラはレギュレーターを率いてタロン社残党軍を追撃。
ライリーレンジャーもそれに参加。
軍を三つに分けたので私の指揮下は350になったわけで。もっともその内訳の中でBOSが100いる。こちらの大駒だ。
現に……。
「BOS、突撃せよっ!」
『おうっ!』
グロスさんが先陣を切ってBOS部隊は突撃。
勇猛果敢な、鍛えられた部隊。
その後にレイダー部隊&傭兵部隊が続く。
エンクレイプも裏打ちされた訓練を施されたプロの軍隊ではあったものの、その大半は軍服兵士だった。どうやら第三防衛線でパワーアーマー部隊はほぼすべて
投入してしまったらしい。その為BOSのパワーアーマー部隊に圧倒され始めている。
ただエンクレイプも後がないのか、圧倒されてもその都度押し返している。
そうね、後がないわよね。
ジェファーソン記念館はすぐそこまで迫っている。
だから一進一退。
今のところ空挺兵力は到着していない。
どうやらベルチバード部隊は完全にこの戦いには間に合わないようだ。
……。
……訂正。
間に合わせないように決着をつける必要がある。
あくまで私たちが総力戦をしているのはオータム大佐の軍団であって、キャピタル・ウェイストランドにいるエンクレイプ全軍ではない。
全部来たらまず勝てない。
だから。
だから各個撃破する必要がある。
この戦いはその始まりの戦いだ。
「ヘリを撃ち落せっ!」
エンクレイプの兵士が叫ぶ。
ジェットヘリは宙を移動しながら一斉掃射を上空から浴びせる。
当初の案ではミニガンを積もうという話だったけど、バランスが悪かったから廃案となった。元々軍事用のヘリではなく観光用だし無理があった。
スティッキーの操縦でヘリは飛び続ける。
もっとも相手はタロン社ではなくエンクレイプ。的確に弾丸をヘリに与え続けている。防弾とはいえ限度はある。
こちらの軍勢はエンクレイプを圧倒しつつもその戦線を崩せないでいた。
そして……。
その頃。
ジェファーソン記念館。浄化システムルーム。
「オータム大佐、赤毛の軍勢が最終防衛線であるジェファーソン記念館前に到達しました」
「まさかここまで追い詰められるとはな。この、俺が」
「街道封鎖部隊を統括するルチル少佐がピット軍に攻撃を開始しました。また、赤毛の軍勢の一部は撤退をしているタロン社残党を追撃、交戦中です」
「ふむ。軍を三つに分けたか」
「はい」
「ならばまだ時間は稼げるな」
意味ありげに笑みを浮かべるオータム大佐。
その笑みを見て副官は察した。
「浄化システムのデータを引き抜くのですか?」
「そうだ」
「暴走の結果……」
「分かっている。このシステム、水が浄化出来なければ核爆弾のようなものだ。ハッキングしたら最後、パスコードを打ちこまない限り爆発するのだからな。これは欠陥という
べきか、それとも罠か? 暴走するわ爆発するわ起動させたら閉じ込められて放射能で死ぬわ、ふむ、罠だな。意図的なのかは知らんが」
「計算ではタロン社宿営地付近まで消し飛びます」
「一石二鳥だな」
「そうでしょうか?」
「そうではないか。ウェイストランドにそれぞれの拠点で立て籠もられたら粉砕するのに時間がかかる。が今はここにすべて終結している。容易いよ。我が隊も全滅するがな」
「さすがに何ともお答えできません」
「まあいい。クローディス少佐、ルビルス少佐に出撃命令を出せ。データを引き出すまで誰も通すな。そしてベルチバードに発進命令を出しておけ」
「了解しました」
「もうこの地に用はない。何もな」
同刻。
ジェファーソン記念館前。
「ぜえぜえ。死ぬかと思ったぜ」
「……僕もです」
私たちはわずかな部隊で戦線を突破した。
正確には迂回したんだけど。
もちろん迂回路にも敵はいたけど何とか掻い潜ることができた。
目の前にはジェファーソン記念館がある。
私たち、私、グリン・フィス、ブッチ、サラ、アンクル・レオにフォークス。そして何故かいる足手まとい君のトロイ君。
他の人たちはあの場にて戦闘中。
エンクレイブといえど戦力はもう空っぽのはず。
「ミスティ、警備はいないみたいね」
「みたいね」
「だけど油断は禁物よね」
「ですよね」
サラはレーザーライフルを構えて周囲を警戒する。
少数精鋭で叩く。
ジェファーソン記念館を押さえたらとりあえず私たちの勝ちだろう。
少なくともオータムの派閥は潰せる。
後のこと?
後で考えるわ。
とりあえず片付けれることから片付けよう。
「アンクル・レオ、フォークス、この分なら外の警戒はいらないから、中の戦いに付き合ってくれる?」
「任せとけ、ミスティ」
「私も問題ないよ、行こう、ミスティ」
頼もしい仲間たちだ。
私は頷く。
突撃開始……。
「……ううう。兄貴、僕緊張しすぎて吐きそうです。うっぷ」
「お前どっかで隠れてろよ」
「はい兄貴。そうさせてもらいます」
「見つかんなよ」
スタスタと立ち去る。
……。
……いやマジであいつは何なのよ……。
謎です。
謎。
「ブッチ、彼は何なの?」
「俺様の舎弟だ。トンネルスネーク最高っ!」
「いやそうじゃなくて……」
「それより優等生、Dr.リーってどんな人だ?」
「Dr.リー? 何で?」
唐突だな。
「前にここで警備してただろ、俺ら。……いや、変なことを思い出させて悪いんだが……」
「大丈夫よ」
たぶんパパのことを気にしてくれてるんだろう。
ボルト時代はただのチンピラ君だったけど、出てきてからは良い奴だ。
不思議だね。
環境?
だとするとブッチはボルトでは精神的に抑圧されてたんだな。
少なくともウェイストランドの気風はちょうど良いらしい。
「Dr.リーが何?」
「あの時、ずっとお前のことを聞いたり見てたりしてたんだよ。ここにまた来て、今思い出した。まあ、今まで忙しくていう暇なかったんだけどよ」
「ふぅん?」
よく分からない。
何でだろ?
「私の叔母みたいな人、かな」
感覚的にはそんな感じ。
パパとママの古くからの馴染みみたいだし。
Dr.リーの為にも浄化システムを奪還しなきゃね。
その時……。
ガチャ。
記念館の大扉が内側から開く。
どうやら入り口で騒ぎ過ぎたので私たちはを叱り飛ばすためにエンクレイプの大人がやってきたらしい。
大軍のお出迎え?
違う。
そこに立っていたのは1人だけ。
ただ……。
「テスラっ!」
そう。
バチバチと肩の部分が放電しているようなアーマーを着た奴がいた。
ミサイルの直撃でも全く微動だにしなかったチート兵器。
エンクレイプの奥の手テスラアーマー。
オータムかっ!
「お前が赤毛の冒険者か? 初めて見るが随分と雑魚そうだな。何だってお前のような餓鬼を原住民どもは大将に据えたがるんだろうな」
違うオータムじゃない。
声が違う。
物言わずグリン・フィスは身構えた。
ミサイルだろうがミニガンだろうが無効化するデタラメ性能だけどショックソードで斬れることは実証済み。
以前ほど怖くない。
もっとも、正直こんなの量産された日にはキャピタル・ウェイストランドはあっさり陥落します。
デタラメだもんなぁ、性能。
まあどう考えてもコスト度外視で作った品物だから量産はされないだろうよ。
予算半端なさそうだし。
量産した日にはエンクレイプは破産すると思われます。
「あなた誰?」
「クローディス少佐だ。軍隊格闘はオータム隊随一を自負している。大佐に寄与されたこのアーマーの真価を引き出せる俺に勝てると思うなよっ! 消し飛べっ!」
ヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴ。
奴はこちらに手を向けると緑色の光が収束し始める。
いやいやいやいやいやっ!
いきなりビームですかそれ軍隊格闘随一関係ないじゃんっ!
盛り上がりの欠片もない奴っ!
盛り上げれよっ!
「皆避け……っ!」
バキィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィっ!
殴り飛ばす音。
この場に突っこんできた新たなパワーアーマーの人物がテスラを弾き飛ばした。
「おい、マジかよ」
ブッチが呟く。
そう。
まさにマジかよだ。
私もブッチもテスラの防御力は知っている。
デタラメだった。
そんなデタラメな性能で、ミサイルの直撃を食らっても微動だにしなかったテスラが殴り飛ばされた?
つまりあのパワーアーマーの動力は並みの、少なくともBOSレベルではないだろう。
良く見たら形状も違う。
そいつは肩にアサルトライフルをかけている。
サラは唸るように呟く。
「T-51bパワーアーマー」
「何それ?」
「うちのパワーアーマーより後期のパワーアーマーよ。うちのはT-45dと呼ばれる型式。パワーアーマーの中では最も量産された初期のもの。実戦配備された中では一番旧式よ」
「初期って……じゃあ、あれは?」
テスラはゆっくりと立ち上がる。
T-51bはその様を見ていた。
誰だあれ?
グリン・フィスは腰を沈めたまま柄を握って待機している。ショックソードでテスラは斬れるけど、邪魔していいのか躊躇っているようだ。
「サラ、あれは強いの?」
「アンカレッジ奪還作戦の際に試験投入された最新版。少なくともこの地のBOSパワーアーマーより性能は上。BOSの精鋭部隊はあれが配備されている。うちにはないけどね」
「つまり実験的に色々付加してるから強いってこと?」
「そうよ」
「でも、最新のテスラを殴れ飛ばせるっておかしくない? 最新型と言っても過去の最新型でしょ? バージョンはエンクレイプの方が上なんでしょ?」
「おかしくないさ。こいつは当時の状態のままだ。新品同然さ。BOSのは劣化してるからな、壊れるギリギリの性能ってわけだ。最大限まで引き出せばこの時代の最新型ともやりあえる」
知ってる声だった。
「まさかケリィのおっさんっ!」
「おっさん言うなーっ!」
そう。
新型パワーアーマーのヘルメットから聞こえてくる声はケリィのものだった。
元ボルト101の住人で現在はアウトキャスト専属のスカベンジャー……あー、それともディブ共和国の将軍と言うべき?
「問題があるとしたら敵を作っちまったってことだな。勝手に持ち出したからクロウリーに殺されかねんが仕方ない」
「クロ……誰? パクったの?」
「無断借用ってやつだな。昔のスカベンジャー仲間さ。あの野郎、絶対俺を殺しにくるぜ……まいったなぁ……」
「まあ、いいけど。だけど、新品でも、テスラに勝てるものなの?」
「性能を最大限まで引き出せばエンクレイプの最新型だろうがそんなに怖くはねぇよ。実際それぞれのバージョン、能力的にそんなに差はないんだ。全く太刀打ちできないって
わけじゃないのさ。状態を維持できたらだけどな。もっとも今の時代、最新状態で維持できる技術あるのはエンクレイプとピットぐらいだけどな」
「ピット?」
知ってる名前が出てきた。
何故にピット?
「アッシャーって奴はパワーアーマーの動力を最大限まで引き出せるらしいぜ? エンクレイプは、まあ、言うまでもないがよ」
「へぇー」
「BOSは何とか動かせるようにするのが精々なのさ。だからエンクレイプにボコボコにされるってわけだ。そういう意味じゃエンクレイプの技術は最強なんだろうな」
「へぇー」
何気に凄いんだな、アッシャー。
じゃあごく少数だったけどピット軍にいたパワーアーマー部隊はアッシャーが整備&改修したってわけだ。で聞く感じではBOSは動力を効率的に引き出せないらしい。
どんどん取り柄がなくなっているような。
いやまあサラには言わんけど。
……。
……普通にディスられて既に不機嫌だけど。
おおぅ。
怖い怖い。
「旧式が舐めやがってぇーっ!」
テスラ、復活。
殴りかかってくるもののケリィは軽くそれをいなし、投げ飛ばす。再びダウンするテスラ。
「大事なお話の最中だ。黙ってな、能力馬鹿が」
「……何か格好いいわね、今回」
「惚れたか? じゃあ乳揉ませてくれよ、乳っ!」
「……」
恰好よくないです。
いつも通りです。
嫌だなぁ。
「主。こいつ斬りますか?」
「ショックソード持ってるグリン・フィス格好いい〜。どうしようかな〜」
「俺様が悪かったっ!」
「で? 体は大丈夫なの?」
「ショックソードなんて伝説の武器をどこで……はっ? 体? 何でよ?」
「要塞であんたの仲間が、旦那の今の体じゃあみたいなこと言ってなかった? それ着ると負担がある的な意味じゃないの?」
「いやメタボだからこれ装着できんって意味だ。ダイエットに苦労したぜ」
「そ、そうですか」
全然格好いい設定がねぇーっ!
ワンっ!
犬の声。
ふとそっちを見るとケリィの飼い犬とトロイがじゃれ合ってる。
あははは。
仲良く抱きつきながら転げまわってら〜☆
……。
……ふざけんなよゴラァーっ!
ほんっっっっとうにあいつは何なんだっ!
あの刀は飾かっ!
まったく。
「ここはおっさんが引き受けるぜ。ラスボス前に中ボスぐらいは片づけてやるよ。さっさと先に言ってジェームスの仇とって来いよ、ミスティ」
「私に譲っていいの?」
要塞では自分でやると断言してたケリィ。
「親の仇は子が取るもんだ。まっ、行ってこいや。遅れて参戦してきて、さらに大将首も取れないにしても、最新型装備を叩き潰せば俺様だって明日から有名人だろ?」
「あははは」
「行けよミスティ。お前らミスティ頼むな。俺にとっちゃあ、親友の娘だしよ。姪みたいなもんか? まあ何でもいいか。まっ、頑張れよ、ミスティ」
「ありがとう」
私は頭を下げ、そして走り出す。
「承知」
グリン・フィスもまた彼に頭を下げた。グリン・フィス君、男気あふれる人物は好きなようです。
仲間たちも走る私に続く。
えっと、トロイは犬と遊んでる(汗)
あいつは放置で。
「さあて、オータムって野郎は譲るとして。お前の相手は俺様がしてやるよ。軍隊格闘随一、見せてくれよ。俺よか強いんだよな? ボルト体操しか知らん俺様よりもよ?」
「舐めやがってっ! 原住民がっ!」
そして……。
ジェファーソン記念館内。
私たちは突入する。
メンバーは私、グリン・フィス、ブッチ、サラ、アンクル・レオにフォークス。要はトロイ以外は変わらず。
人数的には少ないけど私としては安心できる面子だ。
仲間としても、能力的にもね。
問題はフォークスのミニガンの弾丸が尽きて素手だけど、スーパーミュータントの彼の腕力は馬鹿に出来ないものがある。接近戦では無敵なはずだ。
少なくとも今までのアンクル・レオの戦いぶりを見る限りではそう思う。
「……」
私が先導。
通路を警戒しながら進む。
今のところ敵はいない。
気になることはない。
視覚的には、ね。
ビービービー。
何の音だ、さっきから。
室内に警告音が鳴り響いている。
「ちっ。うるせぇぜ」
確かに。
「ボッチ、主の邪魔をするな」
「誰がボッチだ誰がっ!」
うるさいです。
うるさい。
私は無視して進む。
ここには二度来た。パパを探し来た時とパパと一緒に来た時の二回だ。
浄化システムの場所は分かってる。
サラが声を掛けてくる。
「手薄ね」
「今のところはね。直に忙しくなる」
「どういうこと?」
「この通路を抜けたら大きくひらけたところに出る。何かの展示物があったのかは知らないけど、吹き抜けの大きな部屋。私ならここで仕留める」
「なるほど。じゃあ警戒はしなきゃね」
「そうね」
それから私は黙る。
意識を集中。
弾丸は充分にある。
もちろん激戦で使い果たそうともオータム用に特別に弾丸はよけてある。
逃がすものか。
私たちはそして問題の部屋に到達する。ここを抜けたら浄化システムまではすぐだ。
視界には敵はいない。
今のところは、ね。
バタバタバタ。
その時エンクレイプの兵隊が私たちを取り囲む。
数は13人。
そう多くはない。
おそらくジェファーソン記念館内における最後の兵力だろう。少なくとも迎撃用に兵隊はこれで最後のはず。
オータムはオータムで総力戦だし。
側近的に何人かオータムについているのかもしれないけど、この記念館内の兵力はもうほとんどいないだろうよ。
自動小銃をこちらに向ける兵士たち。
パワーアーマーはいない。
全員軍服組だ。
1人だけ軍帽を被っている。たぶん士官だろう。
蹴散らしてやるっ!
「やめなさい。あなたたちでは無駄に死ぬだけ」
そう言って現れたのは日系の軍人だった。
橘藤華。
階級は大尉。
クリス派の士官だ。
ここはオータム派の巣窟なのに、なんでこいつがいるんだ?
そして何気に髪の色が銀色になってる。
染めるのが趣味?
まあ、どうでもいい。
藤華は軍服、右腰に自動式拳銃、左腰にコンバットナイフを所持。武装はそれだけ。腕を組んでこちらを見ている。
それに対してエンクレイプの士官は露骨に嫌そうな顔をした。
自尊心を傷つけられた?
たぶんそれもある。
だけど一番は派閥に違うであろう藤華に言われるのが嫌なのだ。
「ルビルス少佐、引いていただきたい」
「はいそうですかと……」
「邪魔です。赤毛たちは私が纏めて私が仕留めます」
橘藤華、立ちはだかる。