私は天使なんかじゃない








勝利への条件





  勝利への条件を描いたのは誰?





  ジェファーソン記念館。浄化システムルーム。
  オータム大佐とサーヴィス少佐の会話。

  「オータム大佐」
  「どうした」
  「リベットシティで暴動が発生した模様です」
  「暴動?」
  「はい。報告では元リベットシティセキュリティ隊長とやらが傭兵部隊を率いて攻撃してきたと」
  「それで増援はいつ来る?」
  「暴動発生でヘルファイヤー部隊は身動きが取れない模様です。被害はないようですが……」
  「馬鹿な」
  「いかがなさいますか?」
  「……くくく」
  「はっ?」
  「どこの神が画策したかは知らんが奴に頼らねばならんとはな。クリスティーナ隊に救援を要請。……まあ、奴が動かずともまだ手はあるが平和的に終わりたいものだ。極力な」





  テンペニータワー。5階。ゲストルーム。

  ゲストルームで今会談が行われていた。
  テーブルを囲む面々。
  招かれた3名は出された紅茶やデニッシュには手を付けず、神経質深そうに相対して座っている人物に向けられていた。
  相対している者、名をクリスティーナ。
  エンクレイプの大佐。
  テンペニータワーを拠点とするクリスティーナ隊の最高指揮官。
  彼女の後ろにはガルライン中佐、クインシィ少佐、リナリィ中尉、カロン中尉が待立している。
  「増援の件だがオータム大佐、残念ながら無理だ。……いや、今までの確執とかは関係ない。我々はグールどもに取り囲まれている。そうだ、余力がない」
  無線機で話すクリス。
  相手はジェファーソン記念館のオータム大佐。
  政治的に対立している相手。
  その相手に救援を頼まねばならないほどにオータムは追い込まれていた。
  それだけピット軍の参戦は痛かった。
  クリスは相手の声に聴き入り、何度も頷き、それから言う。
  「ベルチバードは貸せない。この囲みを突破するには是非とも必要な戦力だ。それに私には5機しかない。悪いが回せない。ただ、そちらにいる藤華のベルチバードは提供する」
  現在、橘藤華大尉はジェファーソン記念館に駐留している。
  クリスの懐刀。
  「ああ。そうだな。通信終了」

  ガタ。

  無線機のスイッチを切ってテーブルに置く。
  紅茶を一口啜り、それから気付いたように客人たちに問う。
  「口に合わなかったかな?」
  「……」
  「君たちの協力には感謝している。我々の要請を聞き入れ、取り囲んでくれたので断る口実が出来た。ただ断るより、口実があった方がリアリティがあるからな」
  「……約束は……」
  「ああ。守るとも」
  クリスはにこりと笑った。
  それから背後に立つカロンに対して振り向かずに謝意を述べる。
  「カロン中尉、お前が使者として反ヒューマン同盟と交渉してくれたお蔭で援軍を断ることができた。感謝する」
  「御意のままに」
  「さてグールの諸君」
  相対して座る客人、それはグール。
  反ヒューマン同盟の幹部たち。
  「我々はここを引き払う。元々の住人達は我々に抵抗した為、もういない。ここは空き家だ、好きにしたまえ」
  「もしも……」
  「もしも?」
  「もしも、空手形を切る気なら……」
  「後悔しろ、かな? 空手形を切る必要のない兵力が我々にはある。こちらは無駄な手間を省きたい。平和的に終わろうではないか。信用したまえ。我々は撤退するよ。そちらが
  手を出さない限り、こちらも何もしない。信用していただけると助かるのだがね?」
  「……分かった」
  「素晴らしい」
  立ち上がる。
  後ろに居並ぶ士官たちに指示を出す。
  「ガルライン中佐、撤退の総指揮を任せる」
  「了解しました」
  「クィンシィ少佐は中佐の補佐に付け。リナリィ中尉は先発隊を率いて先導せよ、邪魔する者は蹴散らせ。……まあ、エンクレイプに手を出す馬鹿はまずいないだろうがな」
  『はっ!』
  「カロン中尉。ベルチバードを一機与える。リべットシティにいるハークネス中尉を迎えに行け。その後、先に目的地に撤退」
  「御意のままに」
  「クリスティーナ隊は陸路、アダムス空軍基地まで撤退。私はベルチバードでポイント259に行く。藤華との合流ポイントにな。中佐、撤退までの所要時間は?」
  「一時間もあれば」
  「よし。行動開始せよ」
  全員敬礼。
  退室。
  唖然として座っているグール3人にクリスは笑いかけた。
  「以上だ。我々はここを引き払う。その後に入ってもらおう。今入ると撤退の準備が遅れるのでな」
  「あんた」
  「ん?」
  「案外慈悲深いんだな」
  「さてな。それでは私は失礼する」
  口々に謝意を述べるグール達を後にしてクリスも退室。
  廊下に出るとガルライン中佐とジャンプスーツ姿のメガネの男性が待っていた。
  クリスが問う。
  「何だ? 何か問題が? 指揮を任せたはずだが何故ここにいる」
  「彼は技術士官ですが、彼が妙なことを自分に訴えてきたのでここで待っておりました」
  「妙なこと?」
  ガルラインが技術士官に話すように促す。
  ぎこちない敬礼をクリスティーナは遮り、報告するように求めた。
  「構わん。報告しろ」
  「自分はジムニー准尉です、閣下。……その、キャピタル・ウェイストランド各地で先ほどから通信障害が発生しております」
  「通信障害?」
  眉をひそめる。
  たった今ジェファーソン記念館と交信していたクリスにしては意味が分からなかった。
  「どういうことだ?」
  「キャピタル・ウェイストランドの通信区分が現在5つに分割されています。何らかのジャミングが出ているのではないかと」
  「つまり場所によっては通信が遮断されるということか?」
  「はい。閣下」
  「報告ご苦労。何か分かればまた連絡してほしい」
  敬礼。
  通信士官は下がる。
  立ったままクリスティーナは考え込む。
  「ジャミング、か」
  「赤毛でしょうか?」
  「この地にそんなハイテクはない。しかしオータムが……そんなことをする理由もないな。とすると、何だ、この状況は」
  「准尉には口止めしたのですが」
  「ん?」
  「エデン大統領令が発令されたとか。わずかな通信を傍受しただけですが、全軍ポイント305に撤退せよと聞こえたと」
  「ポイント305……クラークソン准将の拠点か」
  「はい。衛星中継ステーションです」
  また訳が分からなくなる。
  エデン大統領はデータに過ぎない。エンクレイプ上層部しか知らない事実。ただクリスティーナは自身の側近には漏らしてある。ガルライン中佐もクリス経由で知った。
  クラークソン准将はエンクレイプの大物であり彼もまたその事実を知っている。
  「エデンのデータはもうないはずだ。レイブンロックもろとも消し飛んだ。……不愉快だな、この状況。私の与り知らないところで謀略など」
  「いかがなさいますか?」
  「ふむ」
  「オータム大佐の件は……」
  「捨て置け。どうでもいい。まあ、奴は奴で有能だ。我々の支援がないとはいえ易々とは勝てんだろうな、ミスティは。どう転ぶかは知らんよ。ガルライン中佐」
  「はっ」
  「エデンの件は想定していないが我々は撤退する。アダムス空軍基地までクリスティーナ隊を後退させろ。急げよ」
  「了解です。閣下」





  テンペニータワーとの通信後。
  ジェファーソン記念館。浄化システムルーム。

  白衣の科学者たちは浄化システムのデータを抜き取っている。
  カタカタと端末を叩く音。
  ただ基本的なデータしか抜けない。
  というのも無理に手を出せば暴走して爆発するからだ。
  この近辺は建物ごと消し飛ぶ。
  だからこそパスコードが必要だった。そしてそのパスコードを知る唯一の人物は軍勢を率いてジェファーソン記念館を目指している。
  科学者たちの作業を見守る人物。
  オータム大佐とサーヴィス少佐。
  「クリスティーナめ。出し惜しみしおって」
  「その割には」
  「ん?」
  「その割にはお怒りではない様子ですが」
  「奴が貸すとはそもそも思っていない。まあ、ベルチバードを一機運用できるだけよしとするか」
  「しかしここに攻め入られるのも……」
  「時間の問題だな」
  オータムはこともなげに呟く。
  代々アメリカ政府に仕えてきた軍人の家系であり、全面核戦争後はエンクレイプの軍人として仕えてきた先祖を持つオータム。その血筋と己への自負ゆえにに傲慢であるものの
  指揮官としての能力は高い。だからこそレイブンロックの司令官に抜擢され、その権限は議会や州知事(エンクレイプの地方司令官の俗称)をも超える。
  唯一のオータムよりも上位の政敵だったシュナイダー将軍は事故死(クリスが謀殺)し今や彼に並ぶ者はいない。
  状況的に現在は赤毛に追い込まれているもののまだ余裕はあった。
  「閣下」
  「どうした」
  「実は妙な報告がありました。エデン大統領令が発令、現在キャピタル・ウェイストランドに展開する全軍はポイント305に撤退しろと」
  「衛星中継ステーションにか?」
  「はい」
  「誤報ではないのか」
  「正確なところは分かりません。反軍の虚報かもしれません」
  「クラークソン准将に野心はないと思うが……ふむ、クリスティーナ……でもないな。まあいい。目の前の敵を叩く。カールにタロン社一手で任せると言っておけ」
  「了解しました」
  「いざとなればデータを強制的に引き出す。ベルチバード全機に機材を積み込め。引き払う準備をしておくとしよう」
  「外の兵は……」
  オータムはその問いに肩を竦めた。
  「全兵は国家に尽くすと誓約している。必要な犠牲であり、納得してくれるだろう。私の合図でいつでもデータを引き出せる用意をしておけ」





  同時刻。
  第四防衛線。タロン社の宿営地。司令官のテント。

  タロン社。
  キャピタル・ウェイストランドにおける最大で最強の組織。傭兵会社。本社はバニスター砦。
  小国程度の軍事力を有する武装集団。
  現在タロン社はエンクレイプの指揮下に入っている。
  司令官はカール大佐。
  カールはデスクに踏ん反り返り、眼前に居並ぶ主だった士官8名に命令を下す。
  「全部隊防衛につけ。我々が反軍を蹴散らす」
  『はっ』
  「行け。各隊に通達しろ」
  『はっ』
  敬礼。
  バタバタと士官たちはテントを後にした。
  その姿を見送るカール。
  しばらくはそのままでいたものの、まるまる一分かけてからゆっくりと立ち上がった。
  直に戦闘が開始されるだろう。
  そうなればこのテントにも伝令たちが飛び込み、宿営地全体がハチの巣をつついたような状況になる。
  カールは面白くなかった。
  命令を通達してきたサーヴィスの口振りからするとタロン社は見捨てられているのだから。一手で引き受けろ、つまりはそういうことだろう。
  エンクレイプに転んだのは向上心からだった。
  ある意味で虚栄ではあるが立身出世が目的だった。
  だがどうだろう?
  階級上は大佐ではあるが、あくまで外様組織のタロン社の大佐であり、エンクレイプの大佐ではない。
  それがカールには面白くなかった。
  話が違うと思っている。
  立場上、エンクレイプから出向しているレム中尉よりは上司ではあるものの、実際にはどうだか分からない。
  ていの良い使い捨てだ。
  カールは低く呟いた。
  「逃げ出す潮時だ」





  カール逃亡。12分後。
  第四防衛線。タロン社宿営地。弾薬保管庫。

  ガタガタ。
  弾薬が所狭しと集積されているタロン社の弾薬庫用のテントの一つ。万が一破壊された時に備えて五つの弾薬集積所をタロン社は設けていた。
  ここはその一つ。
  ガタガタ。バタン。
  持ち込まれた大きな箱が開く。数は4つ。
  「ふぅ。閉所恐怖症なら死んでるところだぜ」
  箱から出てくる人物。
  ブッチ。
  トンネルスネークの親玉でボルト101出身者。
  さらにアンクル・レオ、フォークスが出てきた。もう1つの箱は……。
  「おい、トロイ」
  「うっぷ。狭くて死にそうでした」
  「……お前何しに来たんだ?」
  「一応、兄貴のお手伝いに」
  流れ者トロイ。
  背に日本刀を背負っているものの賊避けらしい。
  白い髪を異様に白い手で掻く。
  髪で顔の半分が隠れている。
  何の縁なのか現在はトンネルスネークの構成員。革ジャンは着ておらずぼろぼろのローブのままだが。
  トロイは懐から何かの注射器を取り出すと……。
  「おいおい。私が思うにそれはサイコか。薬は駄目だな」
  「あーっ!」
  フォークスがひょいっと取り上げて地面に落とした。
  「あのなトロイ。ヤクは駄目だ」
  「いや、でも」
  「駄目だ」
  「……はい、兄貴」
  サイコ。
  攻撃性を高める中毒性のある麻薬。
  「攻撃的になりたかったんです。その、ビビりだし」
  「薬に頼るのは反則だろ。それより武器を選ぼうぜ」
  「がっはっはっはっはっ。やっばり、俺はこれだ」
  アンクル・レオはミニガンを選ぶ。
  フォークスも同じく。
  ブッチはアサルトライフル、そして腰にはボルトを脱出した時にちょろまかした10ミリピストル。
  ここへの侵入経路は物資に紛れての潜入。もちろん物資は勝手には歩けないし、紛れ込むにしても中身を改められる。にも拘らず侵入できた理由。
  それは……。

  「ああ。準備完了みたいね」

  テントに入ってくるタロン社13名。
  タロン社の頭数は多く、またこのバタバタした状況。それ故にタロン社のコンバットアーマーを着こんでいれば、堂々としていればまずばれない。
  偽装しているのはライリー・レンジャーの面々だ。
  「ライリーさん、そちらも準備できたのかい?」
  「完璧よ。ブッチ。……そっちの彼は……」
  「あっ、僕は見学で」
  「……ブッチ、彼は何しに来たの?」
  「……ここに来た度胸だけは認めてくれよ。トロイ、邪魔にならんようにしとけよ」
  「はい」
  大丈夫かしらという目でトロイを見るものの、気を取り直すライリー。
  部下に命じる。
  命じる内容は……。
  「さあ。パーティーを始めましょうかっ!」
  「トンネルスネーク始まるぜぇ。始まるんだぜぇーっ! ロックンロールっ!」





  同時刻。
  第四防衛線。タロン社宿営地。

  
ドカァァァァァァァァァァァァァァァァァンっ!

  突然火柱が上がる。
  テントが次々と吹き飛ぶ。
  もっとも攻撃準備の為に前線に押し出していたため、宿営地には兵士はあまりおらず、またテントの中もほとんどは空。
  居残っているのは警備のための兵士と前線に銃火器&弾薬を運搬する補給部隊のみ。
  守備兵は100もいない。
  テントが吹き飛ぶのはタロン社的には面白くないものの、痛くはなかった。問題は弾薬集積庫が全て爆破されたことだった。
  これにより武器と弾薬の供給が出来なくなった。
  警備が甘すぎる?
  そう。
  確かに、そうだった。
  ただタロン社に隙があったわけではなかった。
  確かに突如現れたスーパーミュータント、激戦区に革ジャンで現れた危機管理ないリーゼント、ライリーレンジャー(物資にライリーレンジャー仕様のコンバットアーマーを
  紛れ込ませていて、着替えてから攻撃を開始した)の攻撃に動揺していたものの防御がズタズタになったのはその為ではなかった。
  歩哨達は人知れず喉を掻っ切られて殺され、テントに引きずり込まれていた。
  だから。
  だから防御がズタズタとなり、また、警備が甘くなっていた。
  「はあはあっ!」
  エンクレイプから派遣されていた小太りの士官レム中尉は逃げ惑っていた。
  タロン社が立ち直れない理由。もう一つあった。
  それはタロン社の司令官であるカール大佐からの命令がまるで出ないことだった。
  レム中尉は司令官用のテントを開き、中に入る。
  「カール大佐っ!」
  そこまで言って言葉に詰まった。
  伝令だろう兵士たちが折り重なるように倒れている。生きているようには見えなかった。
  そして入った瞬間に銃を突きつけられていることに気付く。自分の両脇にカウボーイハットとコートを着込み、44マグナムを突きつけている男女がいる。
  カールが座っていた椅子には冷たい瞳の女がいた。
  デスクの上には44マグナム。
  「だ、誰だ」
  「ソノラ。レギュレーターを統括している。以上よ」
  流れるような動作で44マグナムを撃つ。
  レム中尉の頭が吹き飛んだ。
  「ソノラ、どうしますか?」
  部下2人が指示を仰ぐ。
  レギュレーターに階級は存在しない。統括しているのはソノラなので敬意は当然あるが呼び捨てでも非礼ではない。もちろんさん付けもいる。ただソノラは呼び方は気にしていなかった。
  タロン社の宿営地で露払いをしていたのはレギュレーター。
  忍び寄ってナイフで喉を切り裂くことで騒がせずに歩哨たちを永眠させていた。
  「ここはもう充分でしょう。背後から前線を突く。さあ、悪党を狩りに行くとしましょうか」
  『はい』

  タロン社宿営地、制圧。





  第四防衛線陥落から8分後。
  赤毛の軍勢を迎撃に前線に出たタロン社部隊。その上空。

  パワフルな爆音を立てて空を舞うジェットヘリ。
  機体にはアリゾナ観光と刻まれている。
  元々はパラダイス・フォールズの奴隷商人たちが保有していたものだがミスティが鹵獲、その後はスティッキーが操縦している。
  今もそうだ。
  操縦しているのはスティッキー。
  後部座席には元奴隷たちで構成されたユニオンテンプルのリーダー、ハンニバルとその側近のシモーネが眼下に向けて銃を乱射している。
  眼下ではキャピタル・ウェイストランドを守るべく集結した軍勢。
  エンクレイプの指揮下となったタロン社の軍勢。
  双方が激突。
  高々一機のジェットヘリではあるものの、この時代航空兵力は基本存在しない(あくまでエンクレイプが例外)のでタロン社は上空の敵に対しての反撃手段がない。ミサイル
  ランチャーでの迎撃はもちろん可能ではあるもののタロン社は現在混乱していた。指揮系統が全く機能しておらず混乱している。
  何故?
  それは……。

  「おいっ! 補給はどうしたっ! 弾がもうねぇぞっ!」
  「知らねぇよっ!」
  「司令部からの指示はどうしたっ! カール大佐は何やってんだっ! エンクレイプからの援軍はっ!」
  「知らねぇよっ!」

  そう。
  全く命令が来ないのだ。
  現在交戦している彼らは知らないものの既にタロン社の本営は陥落、カール大佐は単身で脱出、そしてエンクレイプはタロン社を見限っていた。
  だからどこからも援軍は来ないし指令も来ない。
  見捨てられた軍勢。
  ジェットヘリは空中を滑るように移動する。
  降り注ぐ弾丸。
  圧倒的な火力ではないがタロン社は成す術もなく倒れていく。反撃手段は、ほぼない。
  敵を倒すというよりは敵の気勢を削ぐ意味合いだ。
  ヘリ内部の会話。
  「ちょっとあんたっ! 安定して、それでいて攻撃的な飛び方しなさいよっ! うまく撃てやしないっ!」
  「無茶言うなよムンゴっ!」
  「この一戦で決まる。我々は独立した人間だ、エンクレイプの奴隷になどなるものかっ!」





  前進してきたタロン社部隊。
  その部隊と交戦する赤毛の冒険者、その軍団。
  戦闘区域は旧市街。

  「こんのぉーっ!」
  バリバリバリーっとアサルトライフルを連打する私。
  タロン社は第四防衛線から前進してきた現在私たちと交戦中。
  「行くわよっ!」
  「御意」
  遮蔽物から乗り出して私たちは突撃を開始する。
  銃の数も人数もこちらが圧倒的だ。
  当然援護の火力も圧倒的。
  敵さんは廃棄された車や崩壊した壁に身を隠したまま出てこれないでいる。火力の差に連中は完全に委縮している。
  「BOSも行くわよ、私に続けっ!」
  「了解しましたっ!」
  敵の数、たぶん200、もしくは300ぐらいかな?
  ただし敵は交戦した当初から既に総崩れ状態だった。こちらの数が関係しているのかもしれない。ピット軍が参入してるし。
  現在うちの数は1000人超えてる。
  数でこちらが既に飲んでる。
  まあ、それもあるけど、決定的なのは後方が完全に遮断されていることかな。
  ソノラはここぞというところで参戦してきた。
  もちろんブッチ達の活躍もあるんだけどレギュレーターの下準備が一番影響していると思う。そのレギュレーターはタロン社の後方部隊をかく乱してる。
  後方が落ちたのであれば補給もできない。
  さらにこっちは上空からも攻撃してる。
  負ける要素はない。
  圧倒的だ。
  勝利の条件は揃っている。
  一気に抜くっ!



  12分後。
  タロン社壊走。
  戦闘らしい戦闘は行われず相手に撤退した。
  ……。
  ……いや。
  撤退というかデタラメに支離滅裂になって逃げてった。
  結局こんなもんだろ、タロン社。
  利で動く集団でしかない。
  軍隊用語やら階級で遊んでるだけの集団だ。少なくともエンクレイプのような軍の規律もないようだ。もちろん後方が陥落しているのも影響している。
  私たちは既に陥落している第四防衛線、つまりはタロン社宿営地に軍を進める。
  そこで補給。
  そして長距離を長躯してきたピットの軍団をここに留めた。
  後方の確保のためだ。
  むろん意味はあった。
  この時ソノラが私に警告したからだ。街道を封鎖していたエンクレイプの部隊の一部がここを目指していると。どうやらレギュレーターはそこら中に密偵を放ち、連絡網を
  設けていたらしい。私たちと連動せずに先に動いていたのは密偵や連絡網、下準備の為だったようだ。実に頼りになる。
  アッシャーはここに軍を展開することを快諾。
  ソノラはレギュレーターを率いてタロン社残党軍を追撃するようだ。連中は戦域を撤退しつつあるけどこちらが苦戦したら勝ちに乗じて反転してくる可能性は否定できない。
  ライリーレンジャーもソノラに連動。
  負傷した面々はここで待機。
  何だかんだでこっちも減ったけど、この勢いなら勝てるだろう。
  「サラ、行こう」
  「BOS聞こえたなっ! 私とミスティに続けっ!」