私は天使なんかじゃない






lリバティプライム






  リバティプライム。
  古きアメリカの守護神。





  最終決戦開始。
  旧国防総省から進撃する軍勢。

  内訳。
  BOSの部隊130人。
  レイダーの部隊300人。
  ライリーが糾合して集めた傭兵部隊100人。
  また、友軍として別行動しているレギュレーター113人。
  計643人。

  攻め込むべき場所はジェファーソン記念館。
  そこにオータム大佐がいる。
  現在エンクレイプは混乱していた。
  キャピタル・ウェイストランドにおける最大拠点レイブンロックが陥落。エデン大統領は死亡。
  結果として指揮系統は崩壊。
  この地の幹部でありエンクレイプ全体における実力者クリスティーナ大佐、オータム大佐、クラークソン准将は互いに反目し合っていた。クリスティーナはテンペニータワーを
  拠点にし、クラークソン准将はアウトキャストの立てこもる砦を包囲しているため動きが取れなかった。指揮系統は崩壊し利害も一致しない。
  両者どちらもオータムを救援しない状態。
  もっとも。
  もっともジェファーソン記念館にはエンクレイプ部隊300人。
  傘下に加えたタロン社500人。
  リベットシティに駐屯しているオータム大佐の精鋭部隊『ヘルファィヤー部隊』150人。
  計950人。

  数の面で見ればエンクレイプ優勢は動かない。
  質も上だろう。
  まともにぶつかればエンクレイプ軍理優勢は動かない、動かないものの、キャピタル・ウェイストランドにいるエンクレイプ全軍が同時に動くことはあり得ない。
  だから。
  だから反エンクレイプを掲げる軍が反撃する機会もある。
  オータム大佐直轄の第一空挺師団が輸送任務の為に方々に散っているのも好機だろう。
  唯一にして絶好の機会を逃す手はない。
  反エンクレイプは軍を進める。
  奪還作戦、開始っ!



  私たちは進む。
  私たち、それは私、グリン・フィス、サラ・リオンズ、BOS部隊、レイダー、ライリーが糾合した傭兵部隊。
  ライリーとライリー・レンジャーは遊撃部隊として別行動。レギュレーターとはまた別に、別行動。
  ブッチ、アンクル・レオ、フォークスもまた別個の遊軍。
  スティッキーはジェットヘリを操縦、ハンニバル、シモーネは空からの急襲の為、またまた別個の遊軍。
  ああ、そうそう。
  グロスさんはBOS部隊に参加してる。参加してるけど、一兵士(上級兵だけど)という役柄であり指揮に対しての権限はなかったりする。ので黙々と部隊に従軍中。
  全員完全武装でジェファーソン記念館を目指して行軍する。
  邪魔する敵はいるが問題ではない。
  鎧袖一触。
  ……。
  ……というか相手の攻撃は無抵抗に近い。
  ジェファーソン記念館に展開しているエンクレイプ軍はタロン社を傘下にしており、こちらよりも数が圧倒的に多い。
  防衛の為に部隊も派遣してくる。
  だけど。
  「グリン・フィス、銃は万全?」
  「御意」
  私は銃を再点検しながら歩く。
  私の装備、お馴染みの44マグナムが二丁、グレネードランチャー付きのアサルトライフル、護身用にコンバットナイフ、そしてライリーに支給された強化型アーマー。
  グリン・フィスは相変わらずの武装だけど以前と違い32口径ピストルではなく45オートピストルを装備してる。
  デズモンドに貰った銃だ。
  それと今回はアサルトライフルも装備してる。
  まあ、ボルト87戦を見る限り連射系は下手くそだけど。連射してる際にぶれる銃身を制御できないらしい。
  要練習です。
  ともかく。
  ともかく完全武装です。
  今作戦の全権はサラ・リオンズが執ってる。
  エルダー・リオンズ?
  要塞で留守部隊を指揮してる。
  そういえば私はエルダー・リオンズとまともに会ってないな。先のジェファーソン記念館からの逃避行の際には到着後に私気を失ったし。
  まあいいけど。
  一応今作戦の際の見送りには出てきてたけど、サラのお父さんというよりはお祖父ちゃん的な風貌だったな。
  「主」
  「何?」
  「お声をかけた方が良いのでは?」
  「まあ、そうね。……皆、絶対に勝つわよっ!」

  『おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!』

  高まる士気。
  最高にやばいくらいに高まってます。
  私の側を歩く最高司令官のサラは苦笑いをした。
  ぶっちゃけ私が親玉?っていう錯覚はする。
  少なくとも私の声に呼応する形で叫ぶ面々は私の名の下に集まってきたような連中だ。レイダーたち、ライリーが糾合した傭兵団たちも私の名を旗印にして掻き集めたらしいし。
  そういう意味ではサラはBOS部隊を自身の親衛隊とする形で、他の部隊は私の指揮下にあるようなものだ。
  まあ、指揮権なんざいらんけどさ。
  サラは苦笑したまま言う。
  「ミスティ様、進軍で足を痛めておりませんか?」
  「……は、ははは」
  「冗談よ。それにしても不思議ね。最初に会った時はこんなにすごい子だなんて思わなかった」
  「巡り合わせが良かっただけよ。それだけ」
  素直にそう思う。
  私個人ではどうにもならない状況が多々ある。
  巡り合わせが良かった。
  それだけだ。
  その巡り合わせにより、ここに強力な軍団を構成できた。
  そして進む。
  まるで無人の野を進むかの如く。
  展開しているエンクレイプの部隊は私ら本軍と戦うことなく全滅していく。
  先行の物体が強力過ぎるのだ。

  「アメリカ国土にコミュニストを発見。強力な兵器を使用するっ!」

  どしーん。
  どしーん。
  どしーん。
  巨大なロボットが道路を闊歩する。
  ある意味でジャパニーズの最終兵器であるガンダムを連想するような巨大ロボット。
  警戒ロボットとかロボブレインとかとはスケールが違う。
  桁違い。

  「アメリカはコミュニストの侵略に屈しないっ!」

  巨大ロボのリバティプライムの目からジャジャジャジャと一条の閃光が放たれる。
  瞬間、その閃光が地面を強力な熱線で薙ぎ払う。
  エンクレイプ兵たちは成す術もなく蹴散らされていく。エンクレイプ製のパワーアーマーを着ようが意味などない。連中の装備しているのはBOSよりも
  二世代は上らしいけどリバティプライムの攻撃力の前には紙同然。
  瞬時に粉砕される。
  だから。
  だから私たちは無傷。まだ戦ってすらない。
  最大の欠点はリバティプライムの稼働時間かな。15分が限度らしいけどそれでもかなりの数のエンクレイプ部隊を蹴散らせるだろう。
  リミットはまだある。
  このまま突き進みたいものだ。

  ヒュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥっ。
  ドカァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァンっ!

  どこからか迫撃砲の類がリバティプライムに向かって断続的に放たれる。
  エンクレイプ兵たちもバズーカやミサイルランチャーで対抗しているけどリバティプライムは動じることはない。攻撃を受けても揺らぐことすらしない。
  一歩一歩前に、平然と進んでいる。
  どんな材質だ?
  やたらと硬い。
  攻撃力にしても防御力にしても無敵の領域だ。

  「民主主義に賛同せよ。賛同できぬ者は抹殺するっ!」

  熱線で薙ぎ払われる敵部隊。
  リバティプライムは要塞にいるDr.ピンカートンが遠隔操作して動かしている。
  ノリノリのセリフも彼のものだ。
  セリフ自身は彼にとってはブラックユーモアのつもりなのだろう。
  アメリカ復活を掲げるエンクレイプを、かつてアメリカ防衛の為に建造されたリバティプライムによって蹴散らす、ある意味で皮肉なことだ。
  どしーん。
  どしーん。
  どしーん。
  敵をあっさりと蹴散らしつつ軍は進む。
  進むにつれて視界に入ってくるのはエンクレイプ側が構築したトチーカ。どうやらここが最初の関門と言ったところか。
  エンクレイプ部隊約30名。
  トチーカに拠っている以上、骨が折れる。迫撃砲の類が撃たれるもののリバティプライムには通じない。
  ウィィィィィィィンとリバティプライムは音を立てて何かを内部から取り出す。
  それを右手に持ち、投擲の構え。

  「障害を探知。任務の障害となる確率、0%っ!」

  投げた。
  原子の炎が次の瞬間にはトチーカごとエンクレイプ部隊を消し飛ばした。
  粉々です。
  というかクレーターが出来てます。
  ……。
  ……す、すいません、悪役ってどっちでしたっけ?
  あっさりと敵さんの防衛線を突破。
  リバティプライムは何もなかったかのように前進する。
  私とサラは顔を見合わせた。
  「えっと、チートすぎない?」
  「ま、まあ、楽できるに越したことはないと思うわ、ミスティ」
  リバティプライムがこちら側で全力でよかったと感じる今日この頃。
  もしもエンクレイプの手にこんなのが落ちてたらその時点で詰みでしたね。
  危ねぇーっ!
  そしてエデン大統領の言葉を私は肯定してた。
  なるほどね。
  確かにテクノロジーの差は大きいわ。カリフォルニア共和国が50万人抱えていようともエンクレイプは有利に立てるだろう。
  さすがにリバティプライムはないだろうけどベルチバードの編隊とかエンクレイプ製パワーアーマー、プラズマ兵器を保有してるエンクレイプは強大だ。
  移動要塞とやらもあるらしいし。
  もっともそれらの兵器群はキャピタル・ウェイストランドにはない。
  ベルチバードの編隊も、少なくとも今回は敵ではない。方々に散っているらしいから。
  いずれにしてもリバティプライムは今後の要となるだろう。
  この地を守る、ね。
  第一防衛線突破っ!





  その頃。
  テンペニータワー。屋上。

  「ふふふ」
  屋上から眼下を見下ろす将校がいる。
  いるのは彼女だけ。
  女性の名はクリスティーナ。
  階級は大佐。
  テンペニータワーを囲む形で……ママ・ドルスの絡みで構成員が激減している為に囲みは薄いものの、それでも200はいるだろう。
  エンクレイプの部隊?
  いや。
  それは……。
  「随分と、まあ、掻き集めたものだ」
  半ば感心したように呟く。
  囲んでいるのはグールの兵隊。
  かつてロイ・フィリップス(ママ・ドルスの絡みで偽中国軍との戦いで瀕死。逃亡中にレギュレーターのソノラに捕捉され射殺された)が率いた反ヒューマン同盟の軍勢。
  様々な事件で戦力は半減し、首領は死んだものの組織そのものは今だ形を成している。
  組織の目的。
  それはテンペニーの奪取。
  支配者がアリアス・テンペニーからエンクレイプに移ったものの、反ヒューマン同盟は依然としてテンペニータワーを狙っていた。

  「閣下」

  軍服姿の男が屋上に現れ、敬礼。
  クリスは振り向かずに答える。
  「ガルライン中佐か」
  「はい。閣下」
  「どうした?」
  「カロン中尉が戻りました」
  「そうか」
  ガルライン中佐。
  第8歩兵連隊の指揮官。
  元々はオータム大佐の指揮下だったがそりが合わず部隊ごとクリスティーナの指揮下に移った。
  「ガルライン中佐」
  「はっ」
  「お前の忠誠、嬉しく思う」
  「いえ。閣下こそ自分を信頼してくださりありがとうございます。まさか、あのような真実を自分などに……」
  振り返るクリス。
  微笑。
  「カロンが戻ってきた、つまり準備ができたようだな?」
  「はい」
  「よろしい。行くぞ」
  「はい。閣下」





  第一次防衛線突破っ!
  リバティプライムを先頭に私たちは再び前進。
  エンクレイプは今のところ部隊を仕向けてこない。防衛線を突破してからは、ね。
  部隊を集結させているのだろうか?
  それとも。
  それともリバティプライムの稼働時間の短さを知っていてあえて仕掛けてこない?
  そうかもしれない。
  まあいいさ。
  今のところこちらに戦死者はいない。
  負傷者も。

  「全軍前進っ!」
  「サラ・リオンズに続けっ!」
  BOS隊長のサラが鼓舞するとグロスさんがそれに続き、部隊は前進する。
  レイダー、傭兵たちも同じく。
  私はアサルトライフルを剣のように掲げると彼ら彼女らの声が轟く。
  神?
  神なんですか、私?
  ……。
  ……この展開はめんどいなぁ。
  慕われるのは良い。
  特にこの状況の協力はありがたい。
  ライリーがどういうこと言って傭兵掻き集めたかは知らないけど私に従ってくれてる。
  問題は、この後だ。
  戦いが終わったら私はどうなるんだろうなぁ。
  一市民ではいられない気がする。
  うー。
  嫌だなぁ。

  「自由は全アメリカ国民の権利っ!」

  どしーん。
  どしーん。
  どしーん。
  リバティプライムは進む。
  私たちは続く。
  再び視界にトチーカーが見えてくる。
  第二防衛線ってわけだ。
  遠目からだけど敵さんの部隊の数は少ないような。
  問題は何か大きな塊があるということだ。
  2つある。
  何だあれ?

  「あー、あれは厄介じゃな。ワシが全力で何とかするからとっとと突破することじゃな」

  「Dr.ピンカートン?」
  ノリノリの言葉ではなく、響いたのは彼自身のセリフだった。
  何だ?
  「主。あれを」
  「ん?」
  塊が動き出す。
  それは縦に伸びる。
  ……。
  ……いや。
  縦に伸びる、というか胎児のように丸まってたのか体育座りしていたのかは知らないけど、どうやら立ち上がったらしい。
  何が?
  緑色の人影が。
  もちろん人にしては大きすぎる。
  遠目だからどの程度の大きさかは分からないけど、エンクレイプの兵士よりも格段にでかい。5〜6メートルはあるのかな?
  というかあれって……。
  「ベ、ベヒモス」
  サラが唸るように呟いた。
  そう。
  そこにいたのはスーパーミュータント・ベヒモスだった。
  それも2体。
  どっから持ってきたそんなもんっ!
  リバティプライムは止まる。
  自然、行軍が止まる。
  そ、そうか。
  Dr.ピンカートンはあれを見てさっきのセリフを言ったのか。
  確かにあれはリバティプライムに任せたい。
  その結果おそらくリバティプライムの援護は受けれなくなるだろう。そろそろ稼働時間がいっぱいいっぱいだし。
  「主。あれを」
  「はっ?」
  起動した、というか、目覚めた?というべきか。
  ともかく。
  ともかく立ち上がったベヒモスは同士討ちを始めた。
  何だ、あれ?

  「生き物を機械か何かで操ろうとするんだ、どこかに無理が出るさ。機械じゃないんだからな」

  Dr.ピンカートンの言葉は的を射ている。
  壮絶な殴り合いは長くは続かなかった。私達から見て左側にいたベヒモスが、右側にいたベヒモスの首をへし折る。そして大慌てのエンクレイプ部隊に向かって投げた。
  ずしーん。
  地響きはここまで伝わる。
  逃げ惑うエンクレイプをベヒモスは踏み潰している。
  うわぁ。
  えぐいですなぁ。

  「リバティプライムの稼働時間は終了する。最後のエネルギーで道を開こう。後は頑張れよ、赤毛の嬢ちゃん」

  「ありがとう」
  薙ぎ払えっ!的なセリフを言えばよかったかな?
  まあいいか。
  リバティプライムから火閃が伸びる。
  じゃじゃじゃじゃじゃ。
  次の瞬間、火閃が撫でた地面は壮絶な火柱となってエンクレイプの部隊を、トチーカを、そしてベヒモスを薙ぎ払う。
  まさに圧倒的だった。
  「圧倒的じゃないか、我が軍はっ!」
  「……ミスティはガノタ?」
  「はっ?」
  「いえ。いいわ。忘れて」
  意味不明です。
  第二防衛線突破っ!






  ジェファーソン記念館。内部。浄化システムルーム。

  「オータム大佐、第二防衛線が突破されました」
  「ほう? 烏合の衆が、よく足掻く」
  「連中の切り札と思われるリバティプライムはこちらが投入した生物兵器002号を倒した後に起動を停止したようです。01、02も沈黙しましたが……」
  「双方余計なものがなくなりこれで純粋な軍と軍の戦いというわけだな」
  「はい」
  「サーヴィス少佐。第三防衛線に通達。原住民どもを皆殺しにせよ」
  「了解しました」