私は天使なんかじゃない
奪還作戦、開始
エデン大統領に乗せられた感は確かにある。
だけど決戦は必要。
白黒付けよう。
決戦の始まり。
「大統領ジョン・ヘンリー・エデンから、さようなら」
PIPBOY3000から響く大統領の声。
それが。
それがレイブンロックの陥落の宣言だった。
大地は鳴動。
地下では原子の炎がキャピタル・ウェイストランドにおけるエンクレイプ最大拠点を焼き尽くしているのだろう。
元々レイブンロックは旧世界のアメリカ政府が核戦争を想定して作った臨時指令基地。当然核攻撃も想定して建造されている。対核攻撃の防御力を備えている。
外界と内部を遮る装甲は核の炎を通さない。
爆発に耐えうる構造。
若干の不安はあったけど脱出した私たちを巻き込むことはなかったようだ。
やれやれ。
耐えられんかったら私らがどこまで逃げても逃げ道はなかった。
「いい厄介払いだな」
「そうね」
次第に揺れは収まっていく。
あの中でエンクレイプの生き残りは全滅しているだろう、生身で耐えられるわけがない。というかどんな装備使っても耐えられんだろうよ。
スーパーミュータン・オーバーロードも死んだだろう。
確かに。
確かにいい厄介払いだ。
まとめて片付いた。
オータム大佐はベルチバード3機編成で逃げたみたいだけど……状況はわずかにだけど好転している。
現在この地にいるエンクレイプの有力者は3人いるみたいだけど、何とかって将軍の人となりは知らんけど、クリスとオータムは敵対しているようだ。
手を組むことはあるまい。
少なくとも互いに牽制しあうはず。同調することはないだろうさ。
キャピタル・ウェイストランドにいるどの程度の部隊がオータムの下につくのかは知らないけど、ついこの間までの完全制圧は崩れてる。
本国がどこにあるのかは知らんけど態勢が整う前に決着付けないと。
エデン曰く、決戦の地はジェファーソン記念館。
倒してやる。
絶対に。
「主。ご無事で」
揺れが収まり、警戒を解いた時に後ろから声をかけられた。
テンパってて全く気付かなかった。
振り向くとグリン・フィスがいた。
そして仲間たちも。
カーゴトラック5台、ジョットヘリ1機が待機してる。
「心配かけたわね、グリン・フィス」
「いえ。救助が遅れて申し訳ありませんでした」
「ううん。ありがとう」
「もったいないお言葉」
「……ははは」
相変わらず堅い奴だ。
まあいいけど。
グリン・フィスらしいといえば、彼らしい。
さて。
「アンクル・レオ、フォークス、来てくれたのね」
いたのはグリン・フィスだけではない。
スーパーミュータントの彼らもいた。
アンクル・レオはお馴染みのミニガンを背負っていた、そしてどこから調達したのかは知らないけどフォークスはレーザーガトリングを背負ってる。
物騒すぎる強力兵器。
「ミスティは俺の親友、当然のことだ」
「君のお蔭で私は自由になった。その恩返しがしたかった。これで貸し借りなし。これで、私たちは友人……だよな?」
「アンクル・レオ、ありがとう。フォークスもね」
微笑。
本当に助かった。
「無事そうでよかったぜ、優等生っ!」
「ブッチ」
ボルト101の旧友がいる。
服装は相変わらずトンネルスネークの革ジャンのリーゼントな悪友。側に白髪の髪ぼさぼさの奴がいる。ぼろぼろのローブを着た、前髪で顔が半分隠れてる……男?
誰だ、あいつ?
みすぼらしい格好だけど一振りの刀を背負ってる。
……。
……ん?
ブッチPIPBOYをしてる?
元々ブッチが持ってたのはノヴァさんにあげたって言ってたけど……どこから調達したんだ?
「わざわざ来てくれたの?」
「メガトンの件で報告しようと思ってよ、探してたんだ。そこを……」
彼はちらっとカーゴトラックの持ち主たちを見る。
ふぅん。
デズモンドが言ってた傭兵たちってライリー・レンジャーだったのか。
しかし何故ここにいるんだろ。
ブッチは続ける。
「そこをクールなライリーさんに拾われたのさ。話してみたら優等生を探してるみたいでよ。で俺のPIPBOYで追跡してここまで来たのさ」
「PIPBOYはどうしたの?」
「ん? ああ、アマタに新しいのを貰ったのさ。必要でしょってな。おせっかいな奴だが、助かったぜ」
「アマタ……じゃあ……」
「ああ。メガトンの連中をボルト101に受け入れてくれたぜ。でメガトンの連中はボルトを拠点にメガトンに駐留してるエンクレイプを挑発するように神出鬼没にやってるぜ」
「成功ってこと?」
「ミスティの計画は当たったぜ。エンクレイプは増援をメガトンに集結させて攻撃に備えてる」
よしっ!
これでエンクレイプの各方面兵力をメガトンに集中させた。
当然各地はこれで手薄になる。
動き易くなる。
「それよりブッチ、彼は……誰?」
見たことない。
誰だ?
「こいつか? お前探してる途中で行き倒れてた奴だよ。トロイって名前らしい。見捨てるのもあれだったんでな、ライリーさんに頼んで一緒に乗せてもらったんだ」
「ふぅん」
「よ、よろしくお願いします」
おどおどした感じ。
飾りか、あの刀。
私の思いに気付いたのかトロイは小さく呟いた。
「ぞ、賊避けです」
「ふぅん」
賊避けねぇ。
あんなにおどおどしてたら威嚇にもならないような。
まあいいけど。
さて。
次の仲間たちに視線を向ける。
「わざわざ来てくれたの? 感謝するわ、ハンニバル、シモーネ」
「恩返しをと思ってね。ここまで来たんだ。同胞たちはリトル・ランプライトにいる」
「私は別にどうでもよかったんだけどねっ!」
シモーネ、相変わらずツンデレです。
いつデレるか知らんけどさ。
……。
……あれ?
「ハンニバル、リトル・ランプライトって言った? ランプライト洞穴じゃなく?」
「相変わらず鋭いな。ああ、そうだ。街に入れてもらっている」
「何故?」
マクレディ市長が入れるとは……いやいや、そもそも市長どこだ?
デズモンドは市長がヘリを操縦してたとか言ってたような。
どこにいる?
というか何でスティッキーがいるんだ?
「おいおいミスティ。俺を忘れないでくれよ」
「市長どこよ」
「無視の方向かい? まあいいけど。聞いて驚け、今じゃ俺が市長なんだ。スティッキー市長だよ。まあ、それもすぐ終わるけど」
「あんたが市長? 何で?」
「ミスティみたいなムンゴがいるって誰も知らなかったんだ。そりゃ外は厳しいけどさ、それでも完全な絶望でもないらしいとマクレディ前市長は知ったのさ。で色々考えた。その
考えるに至った起因の一つは一応も俺もそうだろ。あんたを連れてきたのは俺なんだから。その功績で市長になったんだ、俺」
「そうなの? それで、すぐに終わるってどういう意味?」
「まんまさ。エンクレイプだっけ? その絡みが終わり次第、俺たち皆ビッグタウンに向かうんだ。潮時だしね、洞穴暮らし。元々食料も居住スペースも限定されてたし」
「でもヘリはマクレディ前市長が操縦してたんじゃないの?」
「何を思い違いしてるのかは知らないけど操縦したのは俺さ」
「習ったことあるの?」
「ミスティのを見ただけだよ。簡単だった」
「……」
絶句する。
こいつめちゃくちゃ頭が良いんじゃないの?
「ミスティっ!」
いつまでたっても呼ばれないから痺れを切らしたのか、傭兵の女性が声をかけてくる。
ライリーだ。
「DC残骸が活動地域のライリーが何でここにいるの?」
「ミスティを探してたのよ」
「私を? 何で?」
「スリードッグの演説を聞いてね。いてもたってもいられなくなった」
「スリードッグ」
演説、ね。
聞いてないからまったく内容は知らないけど、どうやら無事だったらしい。
よかった。
ライリーレンジャーの数は13人。
そういえば前に本部にはもっといるとか言ってたような。
「ミスティ、アーマーはどうしたの?」
「ごめん。壊れた」
「だと思った。あんたはちゃけすぎてるからね。強化型のを持ってきた。それをあなたに支給するわ。副隊長だしね」
くすりと彼女を笑う。
副隊長か、そういえば私もライリーレンジャーだったっけ。
忘れてた(笑)
ライリーは熱っぽく語る。
「エンクレイプだか何だか知らないけど私らの故郷に喧嘩売るなんて許せることじゃないからね。私らも参戦させてもらうわ。その為に、あなたを探してたのよ」
「心強いけど、連中は強大よ? タロン社の数倍はある」
「だからってこそこそ隠れてろって? そんなの、ライリーらしくないわ」
「じゃあ私たち戦友ね」
「そうよ。戦友。だから背中を預けるわよ?」
2人で笑いあう。
騎兵隊は集まりつつある。
あとは悪者軍団に最後の戦いを仕掛けるだけだ。
「おぅおぅ。盛り上がってるな。俺様のことを忘れているようだが、それでいい。忘れといてくれ。悪いけど俺は関わりあいにはならないぜ」
「デズモンド」
世故長けたデズモンド・ロックハートはにやにや笑いながら言う。
そんな彼に何故かグリン・フィスは目礼した。
何故に?
……。
……あれ?
グリン・フィス、妙な銃を腰に差してる。
見たことない形状だ。
というか私が行方不明になるたびに装備が変わるのは何故なんだ、ビッドもそうだったし。
おおぅ。
デズモンドが銃を差して説明する。
「俺がやった銃だ。ここに来る際にあいつには命を助けられたからな。俺が持ってる銃で、最高の威力のやつさ」
「……あのさぁ」
「何だ? 何か問題が?」
「あんたどこまで出し惜しみするのよっ! 教授戦では使わんかったじゃんっ!」
「奥の手は極力最後まで使わないのが奥の手なのさ。前も言ったが、俺が普通だよ。あんたが馬鹿正直すぎるだけさ。まっ、そこが魅力的なんだろうがな」
「何よそれ」
「まあいいさ。あの銃は昔教授を追ってニューカナーンにいた時に手にしたのさ。45オート。最高の銃だ」
「ニューカナーン?」
「世界は広いんだよ、赤毛さんよ。ここだけが世界じゃないのさ。世界は続いてる、戦ってるのも、あんたらだけじゃないのさ」
「そうね」
「で俺はもう戦い疲れた。そうだな、ポイントルックアウトあたりで余生を過ごすさ。あんたも気が向いたら来いよ。そん時は酒でも飲もうぜ。じゃあな」
「デズモンド」
「何だ」
「いろいろありがとう」
「よ、よせ。そういうのは俺の柄じゃない。まあ、なんだ、俺も、ありがとう」
そう言って彼は去っていった。
出会いがあれば別れもある。良い奴だったな、あいつ。多少へそ曲がりだったけど。
「主。それでこれからどうしますか?」
「要塞に行くわ」
最終決戦にはBOSの協力が必要だ。
ソノラもレギュレーターを率いて要塞にいる。
決戦は近い。
「ライリー、異論は?」
「愚問ね。ライリーが逃げるとでも思ってる?」
「まさか」
「行きましょう、皆っ!」
3日後。
私とグリン・フィスはスティッキーが操縦するジェットヘリで一足先に要塞に到着。
同乗者は他にハンニバル、シモーネ。
ユニオンテンプル自体は参戦しないらしいけど2人は協力を申し出てくれた。
頼もしい。
ハンニバルのスナイプ能力はパラダイスフォールズ戦を見る限りクリス並に強力だしシモーネの勇猛さも素晴らしい。
他の面々は地上をカーゴトラックで移動中。
まだ到着していない。
さて。
「まさか空からの凱旋なんて、ちょっと格好付け過ぎじゃない?」
「戻ったわ、サラ」
要塞の中庭に着陸。
リオンズ・プライドの隊長であるサラが迎えてくれる。
隊列組んで部隊が私たちを迎えてくれた。
あっ。
グロスさんもいる。
「ところでミスティ」
私たちはヘリを降りて要塞の建物に向かう。その際にサラは悪戯っぽく笑った。
「何?」
「ソノラだっけ? 彼女怒ってたわよ?」
「ソノラが? 何で?」
「心当たりあるくせに」
「はっ?」
何言ってんだ?
全く心当たりがない。
「主っ!」
「……っ!」
警告の声と同時に冷たいものが私の首元に突き付けられた。
ナイフ。
「お帰りなさいミスティ」
「た、ただいま、ソノラ」
「あなたの留守中に『ミスティ様の為にっ!』とか言ってレイダーどもがここに集結してきたのよ。いつの間に親玉になったのかしら? あらあなた偽者の方?」
「は、ははは。や、やだなー」
そうか。
それで怒ってるのか。
「レイダーはどうしたの?」
「要塞の外にいるわ。さすがにBOSのお嬢さんも中に入れたくなかったらしいわね。外でキャンプ張ってるわ。300近くいるけど、大親分ねぇ」
「は、ははは」
偽ミスティことエリニースが私の名を騙って掻き集めた連中か。
何気に数増えてるけど、当初の宣言通り私を慕って集結してきたのか。
敵じゃあない。
少なくともエンクレイプの回し者じゃない。
「ソノラ、味方よ、今のところは」
「将来的には?」
「さあ」
私は肩を竦める。
まだ分からない。
まだ、ね。
ソノラはナイフを元に戻して一歩下がった。にしてもこいつ気配消すの上手過ぎ。グリン・フィスでさえ直前まで気付かなかった。
敵には回したくないですね、レギュレーターは。
怖い怖い。
「ミスティ。説明は必ずしてもらうわよ」
「分かってるわ。……ん? 今から聞けばいいんじゃないの?」
「その暇はないわ。私はレギュレーターを率いて先に戦場に配置させてもらう。我々は軍人ではない、BOSのような戦いに同調する必要はない。隠密が得意なのよ」
「任せるわ」
「ミスティ」
「何?」
「戦場で」
「ええ。戦場で」
柔和な笑みを浮かべてソノラは背を向けて歩き出した。
相変わらず目は笑ってなかったな。
怖い怖い。
「物騒よね、彼女。ずっと要塞にいたけど空気違い過ぎて近寄りがたかったわ」
「は、ははは」
サラの言い分は分かる。
よーく分かる。
悪い人じゃないんだけどね、ソノラ。
さて。
「サラ、BOSはどんな感じ?」
「父……いえ、エルダー・リオンズは煮え切らないわね」
「兵力的には?」
「大半が訓練兵でまだ実戦は無理。あれからエンクレイプが要塞付近に展開してきてね、何度か交戦したわ。今戦えるのは130人ぐらいかしら」
「130人」
「こういう言い方は悔しいけど、エンクレイプは確かに強大ね。うちのパワーアーマーより2世代は上だし苦戦してる。負傷して戦えない者が続出したわ」
「そう。それで、どんな感じなの?」
「エルダーは防戦を検討してるけど、私としては……オフレコだけど、それは無意味だと思ってる」
「そうね。応援が来ない以上、防戦しても結局負ける。連中にはベルチバードっていう空挺戦力あるし。それに」
「それに?」
「それに、レイブンロックが陥落してエデン大統領は、死んだ。各方面に展開してる兵力もメガトンに集中させたから個々に孤立してるようなもの。今叩くチャンスだと思ってる」
「レイブンロック?」
「キャピタル・ウェイストランドにおけるエンクレイプの最大の拠点よ」
「それが、陥落した?」
「そうよ」
「……」
「サラ?」
「私が説得するわ。展開は動いてる。我々が動かなくても、ソノラは動くでしょうね。あなたが動くから。あなたはBOSの援護なくとも動く気でしょう?」
心を見透かされた気がした。
でもそれは正しい。
私は動く気でいる。
例えBOSが動かないにしても。
「レイダーの連中もあなたが動けば動くでしょうね。知ってる? ライリーって傭兵。彼女が檄を飛ばしたのよ、各傭兵団は立ち上がろうって。ここに向かってきてるわ。事態は
動きだしてる。そして兵力的にあなたは今エンクレイプと戦えるだけの兵力がある。当ててあげましょうか、狙う場所。ジェファーソン記念館よね?」
「そうよ。パパの研究もある。オータムもそこにいる」
「ここで勝てばミリタリーバランスは」
「傾くわ。こっちにね」
「私が説得するわ、エルダーを。我々が動けば無駄な消耗をなくせる。違う?」
「違わない。歴戦のあなたたちが必要」
「じゃあ少し待ってて。必ず説得するから」
「リバティ・プライムも完成したしのぅ」
「Dr.ピンカートン?」
「そうじゃよ。赤毛の嬢ちゃん。あんたのお蔭で能力の持ち腐れもせずに毎日楽しくやっておるよ」
偽ミスティが拉致ってた老人。
会った時は楽しくなさそうな顔をしてたけど今はキラキラした顔をしてる。
毎日をエンジョイしているようだ。
サラが確かめるように彼に言う。
「完成した? 本当に?」
「必要電力の問題は稼働時間の再設定じゃったというわけだ。設定を変えるだけで問題はクリアじゃ。まあ、ワシじゃなければそのプログラム変更はできなかったわけじゃがな」
「稼働時間は?」
「精々15分じゃな。それでもジェファーソン記念館に展開してるエンクレイプどもの前衛を蹴散らすのは充分じゃ」
「操作は?」
「ワシがここから遠隔操作する。問題ないよ」
「……つまり」
「つまり、じゃ。連中の攻撃の要となりうる。ワシの趣味で連中を索敵してみたがな、空挺部隊は方々に散ってる。今が好機じゃと思うぞ、赤毛の嬢ちゃんの言うとおり、な」
「ミスティ。すぐに戻るわ」
サラはそのまま要塞内に消えた。
好む好まないに関わらず展開は動いてる。
もう止まらないだろう。
止まりようがない。
そして。
そして止まるつもりもない。
決戦は迫ってる。
その頃。
テンペニータワー。屋上。
「カロン中尉。当初の予定通りに行動せよ」
「御意のままに。クリスティーナ様」
「ハークネス中尉もリベットシティにて既に配置に付いている。藤華大尉もジェファーソン記念館に。……諸君、私は次のステージに進む。付いて来いっ!」
『了解しました、クリスティーナ様っ!』
クリスティーナの暗躍は続く。