私は天使なんかじゃない






レイブンロック 〜脱出と追撃〜








  逃げる?
  逃げる。
  逃げるっ!



  「準備は?」
  「問題ないぜ、赤毛さんよ」
  「結構」
  エデン大統領との対談は終了。
  一応は論破した……らしい。
  たぶん。
  再起動したけどさ。
  そして再起動後は前よりも饒舌になった。いや。饒舌といえば前もそうだったけど、何というか、フランクになった?
  「あんた気付いたか?」
  「何が?」
  「あんたに論破された時、あいつシステムオンラインとか抜かしたぞ」
  「あれオフラインじゃなかった?」
  「いいや。聞き間違いじゃないはずだ。あいつどっか別のとこから情報更新したんじゃないか? じゃなきゃオンラインにする必要ないだろ」
  「別の……」
  まあいい。
  ともかく私に言い負かされたエデン大統領はここ、レイブンロックを爆破するとか宣言しやがった。
  人員も。
  施設も。
  研究も。
  ぜーんぶだ。
  どうやらはちゃけちゃったようだ。
  私たちは逃げる。
  エデン大統領曰く、私たちは奴の失敗には含まれないらしい。爆破するのはエデンの失敗のみ。
  だから。
  だから私達には生き延びるチャンスがある。

  ごごごごごごごごごごごっ。

  扉が開く。
  私とデズモンドは銃を構えて部屋を後にする。
  大統領が脱出のための道案内をつけてくれているらしいけど、どこまで信用できるか謎。というかそいつも大統領の吹っ飛ばされプランに含まれてるだろうし。
  道案内は例外?
  そうかもしれない。
  そうじゃないのかもしれない。
  私らと一緒に脱出してもよいとエデンに許されているのか、脱出直前にタレットあたりで始末されちゃう人材なのかは謎。
  まあ、私には関係ないけど。
  「誰もいないわね」
  「誰もいないな」

  ガタン。

  背後で扉が閉まる。
  大統領のオフィスに続く扉が閉じた。戻る意味はないけどね。
  「どうする、赤毛さんよ。リミットは知らんが、俺らだけで逃げるか?」
  「出口は分かるの?」
  「そりゃ分かるさ。単独で、独力で侵入したんだからな。問題があるとすればステルスボーイがもうないってことだな。巡回してる兵に見つかる可能性は大だ。必要最低限の
  戦闘は構わんが、それやっただけで連中は総力戦で来るからな。そしたら俺らはお陀仏だ。で? どうするよ?」
  「うーん」
  どうしたもんかな。
  可能性の一つとして藤華あたりが道案内役にいるかと思ってた。
  あいつはクリス派だし。
  大統領的には、奴のニュアンス的には、オータム派を一掃したいという感じだったし。
  さてさて。
  どうしたもんかな。

  ドタドタドタ。

  考えていると兵士の一団が駆け込んできた。
  パワーアーマーはいない。
  全員が軍服。
  計5名。
  そのうちの一人は軍帽を被っていた。立ち位置的にこの一団を率いている身分らしい。尉官か佐官は謎。
  ふぅん。
  これが道案内か。
  私は鷹揚に手を振った。
  「道案内役ご苦労様」
  「はっ?」
  指揮官は妙な声を発し、兵士たちは顔を見合わせる。
  スチャ。
  銃口を私らに向ける。
  「えっと……」
  「オータム大佐の命によりこれより射殺するっ!」
  ちょっと待てーっ!
  オータムの奴、完全にエデン大統領を見限ってたってわけだ。というかあいつ意味不明すぎるだろ、私殺したらパスコードどうするんのっ!
  まずい。
  まずいですよ、これ。
  道案内だと思って油断してしまった。デズモンドもだ。

  スー。

  新たに浮遊した物体が部屋に入ってきた。
  Mr.アンディ……いやMr.ガッツィーか。
  そいつが喋る。
  「気をつけーっ!」
  「何の用だ、軍曹」
  兵士たちの指揮官が面倒そうに振り返った。
  自然、兵士たちも待機状態。
  銃口は向いてるけど。
  「この階級章が見えないのか、RL-3軍曹。自分はロドムス中尉だ。軍曹、その口の利き方は何だ。オータム大佐の命令で我々は動いている、邪魔するな」
  「本日は戦死日和だな」
  「何?」
  「エデン大統領令に従い排除する」

  その瞬間、激しい銃撃音が炸裂した。
  一瞬で兵士4名はミンチと化す。
  軍曹の攻撃。
  違う。
  その背後に居並ぶ警戒ロボの軍団による攻撃だ。
  ミニガンの嵐。
  「ななななななななななななななななななな」
  「エデン大統領令が発令された。施設の全職員をこれより抹殺する」
  緑色の閃光が中尉を包む。
  そして。
  「オ、オータム大佐……っ!」
  どろどろの粘液と化した。
  融解した。
  プラズマ兵器装備の軍曹、強力です。
  こいつが道案内ってわけだ。
  にしても過激だな、大統領。ロボット軍団仕切って施設の連中を全滅させるつもりのようだ。いや正確にはメガトンの核が爆発するまでの時間稼ぎ、かな。
  誰も逃がすつもりはないらしい。
  ……。
  ……一応、私ら以外は。
  たぶんね。
  デズモンドは呟く。
  「これで何とか生き延びる目処が立ったってわけか?」
  「なのかなぁ」
  「だが安心できんな」
  「まあね。不特定多数の要素もあるだろうし」
  「いやあんたがいるからさ」
  「はっ? 私?」
  何でよ。
  にやりと笑うデズモンド。
  「アンラッキーガールがいたら、どんなラッキーな展開でも覆っちまうからさ。最高の手札からブタってこともありえるからな」
  「……」
  そこまで言うか。
  そこまで。
  失礼しちゃうわ、プンプンっ!
  「じゃあ行こうぜ赤毛さんよ。エデンは逃がしてくれるつもりらしいが、オータムって奴はそうじゃないらしいしな」
  「そうね。……よろしく頼むわ、えっと……」
  「RL-3軍曹だ。エデン大統領令により我々第三セクションセキュリティ部隊があんたらを保護する。俺達ぁ強いぜ賢いぜぇっ!」
  ……。
  ……大丈夫か、こいつ。
  妙にハイテンション。
  アンダーワールドにいたいたケルベロスもテンション高かったな、確か。
  まあいい。
  オータムがエデン大統領に逆らって私の抹殺を指示したようだけど、その対抗策としてエデン大統領はロボット軍団を動員しているようだ。おそらくオータムは人間を、エデンは
  機械を仕切る形でレイブンロックは成り立ってたのかな。お互いに潰しあえばよいですよ、ええ、ガンガンよろしく。
  最終的にエデンは折れたけど好意はない。
  メガトンの核でこのまま吹っ飛んでもらうとしましょう。
  全部ね。
  もちろん私らは逃げる。
  ここレイブンロックは全面核戦争前に臨時指令基地として建造されたらしい、つまり核に対しての防御力がある。内部から爆発したとしても外に逃げた私らには影響はないはずだ。
  地震という形で影響あるだろうけど崩落はないと思う。
  たぶんね。
  「行きましょう、デズモンド、軍曹」
  「了解だ。赤毛さんよ」
  「付いてこいよ、走った方がいいぜ、コミュニスト野郎っ!」
  やっぱ扱いにくいなぁ。
  うー。



  レイブンロック内は阿鼻叫喚の図だった。
  まずは放送だ。
  エデン大統領が「メガトンの核爆弾が爆発する」&「ロボットが暴走してる」と放送で宣言、研究職員たちは逃げ惑うし兵士たちはロボット軍団と交戦してる。
  だから。
  だからオータムの「赤毛を殺せ」は実行不可能な状態。
  そりゃそうだ。
  核は爆発寸前だしロボットは退避の邪魔をする、そんな状況で私たちを殺す余裕はないだろ。
  それにしても……。
  「随分と思い切ったことするもんよねぇ」
  「機械だからな、あの大統領。不要と感じたら処分するのに躊躇いなんてないんだろ」
  軍曹に従いながら私たちは走る。
  正直エデン大統領の論破されたから全部処分します計画はよく分からない。
  まあ、デズモンドの言葉が正しいのだろう。
  機械なのだ。
  結局はね。
  必要と感じたら合理的に動ける性質なのだろう。
  だからこそ私のパパの研究を利用してキャピタル・ウェイストランド全域にFEVウイルス入りの水を浸透させようとしていたってわけだ。
  極論過ぎます。
  「付いてきているかっ!」
  「うるさいぞ機械、とっとと先導することに専念しろ」
  軍曹に辟易しているデズモンドは嫌そうに言い返した。
  まさに鬼軍曹って奴ですか?
  うざい。
  先導しているのは軍曹、その後ろを私たちが走る。
  私たち、私とデズモンドだ。
  最初の頃にいた警戒ロボットたちは逃げ惑う職員&抵抗している兵士たちと交戦しているロボットたちの援護の為に途中でいなくなった。
  何だかんだでエデン大統領の戦力は馬鹿に出来ない。
  指揮下には警戒ロボットだけではなくロボブレイン、軍曹以外のMr.ガッツィーがいるのかは知らんけど……それにプラスしてタレットもある。そもそもレイブンロックのシステム
  そのものがエデン大統領なわけだからここにいる人間の面々はまず逃げれないだろう。エレベーターも大統領に管轄なわけだし。
  ふぅん。
  つまりこれはオータムも逃げれないってこと?
  だとしてら好都合だ。
  私としたらこの手で始末したいけど、どういう結末にしろあいつが死ぬのであれば問題ない。
  「付いてきているかっ!」
  「……他に言い方はないのかよ……」
  私たちは走る。
  邪魔するものはいない。
  流れ弾はともかく、魂に銃口を向ける兵士もいるけど次の瞬間には動かなくなる。システムを支配しているんだ、エデンが強いのは当然だろう。というか勝ち目はない。
  そして逃げるチャンスも。

  「開けてーっ! 私は、私は人類を救うのよーっ!」
  バンバンバン。

  逃げる最中、エレベーターの扉をいくつも通る。
  その扉は等しく閉じ、等しく中から叩く音、無数の叫び声が聞こえる。
  あれ?
  今聞いたことがあるような女科学者の声が聞こえたような。
  気のせいかな。
  うん。
  きっと気のせいだ私気にしなーい(すっとぼけ☆)
  確かめる手段はないけど、というか確かめる時間もないだろうけど、まあ、付いていく奴を間違えたってことかな。
  エレベーターに入った連中を逃がす気はないらしい。入って扉閉めた瞬間にシステムダウンって感じなのかな。爆発まで閉じ込める気らしい。
  誰も逃がす気はないのは確実のようだ。職員&兵士は機械が暴走したって思ってるんだろうけど、エデンにしてみたら既定路線なわけで。何の情報もないまま消し飛ぶ。
  えぐいなぁ、大統領。
  「はあはあ」
  「くっそ。かなり体力奪われるな」
  走る。
  走る。
  走る。
  宙に浮かぶ軍曹の後に続いて私たちは走る。
  邪魔は入らない。
  確かに兵士たちはそれどころじゃないから攻撃はされないけど、延々と走るのも疲れる。
  私はボルト87で意識奪われてここまで運ばれた。
  だから。
  だからここがどこなのか全く分からない。
  出口までどれぐらいなのかも。
  「デズモンド」
  「ぜえぜえ。な、何だ? ぜえぜえ。な、何か問題が?」
  「……」
  「ぜえぜえ。ど、どうした?」
  「かなり息上がってるけど、歳?」
  「くだらないこと言うんじゃない。俺は戦前生まれのグールだぞ。200歳超えてるんだ、それにしちゃあ元気な方さ。で? ぜえぜえ、何だ?」
  「出口まではどのぐらい?」
  「大体、今3分の1ぐらいだな」
  「マジっすか」
  嫌だなぁ。
  「どうした一兵卒っ! とっとと走れっ! 怠惰は軍法会議ものだぞっ!」
  「うるさいっ!」
  むかむかして軍曹に言い返す。
  こいつに他意はないのだろう。
  まあ、ないだろう。
  過敏になり過ぎてるのは私。
  くっそ。
  今の言い方でクリス思い出した。
  前向きなつもりだけど、そんなに簡単に吹っ切れるわけではない。
  イライラする。
  イライラーっ!
  「ん?」
  何かが後ろから飛んできた。私とデズモンドの間を通り過ぎる。

  ドゴォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォンっ!

  それは当然ながら軍曹に直撃。
  立ち止まる私達。
  そして……。
  「……故郷のママに伝えてくれ。俺は誇り高く戦ったと……プシュー……」
  「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああこいつ装甲が紙か脆いぞっ!」
  軍曹死すっ!
  完全に機能停止です。
  「まあ、いいじゃねぇか。俺は道分かるしよ、赤毛さんよ」
  「そうだけど……」
  「それより、何だってパワーアーマーの兵士が飛んでくるんだ?」
  飛んできたのは、軍曹に直撃したのはパワーアーマー装着の兵士。ピクリとも動かない。死んでる?
  私たちの逃亡を阻止するために突っ込んできたってわけではなさそうだ。
  じゃあ何故に?
  振り返る。
  「……」
  「……」
  2人して沈黙。
  やたら凶悪な顔をしたスーパーミュータントがこちらを睨んでる。距離は20メートルってぐらいかな。たぶんあいつが投げたんだろう、パワーアーマーの兵士を。
  もちろん雑魚じゃない。
  ウェスカー曰く、究極の存在のようです。
  限界まで発達している筋肉が逞しいを通り越してむしろ逆に痛々しく見えちゃう小型べヒモスとも言える奴。
  スーパーミュータント・オーバーロードだ。
  「……逃げよう、デズモンド……」
  「……奇遇だな。俺様も同じ答えを導き出していたところだ……」
  踵を返してダッシュっ!
  猛烈ダッシュっ!
  あいつとは戦ったことないけどわざわざ戦ってみようとは思わない。
  今は亡きウェスカーのハッタリも入ってるだろうけど、わざわざ究極だのと明言するのだから雑魚ではあるまい。
  タイムリミットもある。
  いつ爆発するかは知らないけど遊んではられないのは確かだ。
  ここは逃げるのか吉。
  問題は……。

  「ウォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォっ!」

  相手が殺る気満々だということだ。
  迷惑だなぁ。
  おおぅ。
  私とデズモンドは走りだす。
  どすどすと足音を立てて追撃してくる音が聞こえる。
  どうやら私らを敵として認識したらしい。
  追撃してでも殺したいようだ。
  嫌だなぁ。
  速度は向こうの方が遅いけど、向こうに体力の概念があるのか謎。
  ……。
  ……いやぁ向こうは体力底なしそうだぞー……。
  少なくともこちらより体力はあるだろうよ。
  まずいなぁ。
  一応私らは障害物、あー、逃げるのに忙しそうなエンクレイプの兵士たちを避けて走ってるけど、向こうはそれらを吹っ飛ばしつつ走ってる。
  障害物に当たりまくってるから若干速度はそのたびに落ちる。
  逃げれるか?
  うーん。
  微妙かも。
  「おい、どうするっ!」
  「攻撃効くか試す。倒せるなら仕留める。駄目なら逃げる。おっけぇ?」
  「ちぃっ。仕方ない。いいか?」
  「ええっ!」
  立ち止まり、振り向きざまに一斉掃射。
  敵との距離は10mちょっと。
  私はアサルトライフル。
  デズモンドはコンバットショットガン。
  的はでかい。
  外す方が難しい。
  全弾命中。

  「ウォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォっ!」

  咆哮。
  雄叫び。
  スーパーミュータント・オーバーロードはその場に留まり、天井を向いて叫んでる。
  おいおいおい、マジかあいつ。
  弾丸効いてない。
  距離は多少離れてるけど目は良い方だからよく見える。あいつの皮膚を弾丸は貫けないらしい。
  まったく?
  まったくです。完全に弾丸を弾いている。
  どんな肌だ(汗)
  ならばっ!
  「これでも食らえっ!」
  アサルトライフルに装着されているグレネードランチャーを放つ。
  
  
ドカァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァンっ!

  「やったか、赤毛さんよ?」
  「……」
  爆炎。
  奴はその向こうだ。
  完全に直撃した。
  どんだけ高級かは知らないけど元々の素体がスーパーミュータントならこれで死ぬはずだ。
  少なくとも無傷……ええ、無傷でした。
  なんでーっ!

  「ウォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォっ!」

  高らかに雄叫びを上げて突進してくる。
  勝てません勝てませんとも。
  回れ右して逃げる。
  2人とも。
  「お、おい、赤毛さんよ、どうするっ!」
  「どうするったって無理よ無理っ! 手持ちの武器じゃあいつには勝てないわ無傷だもんあいつっ! ヌカ・ランチャー隠し持ってないのっ!」
  「ねぇよっ!」
  「役立たずっ!」
  「なんだその言い方はっ!」
  ギャーギャー言いながら私らは逃げる。
  律儀に追撃してくるのはスーパーミュータント・オーバーロード。
  レイブンロック爆発前に逃げようとしている兵士たちも、さすがにあの化け物を脅威と感じているのかギョッとしながらも立ち向かっている。
  瞬殺だけど。
  障害にもなりゃしない。
  ただ分かったことが一つある。あいつプラズマ兵器も効いちゃいない。ウェスカーはこれを手土産に連邦に逃げようとしてたけど、事前にあいつ死んでよかったと思う。ついでに
  言うと教授の手にも落ちなくてよかったと思う。こりゃ化け物だ、完全にね。量産でもされた日にはたまらない。
  幸いこの施設は核で吹っ飛ぶ。
  私らで倒せないにしても施設内吹っ飛ばす規模の爆発に耐えれる道理はない。
  私らは逃げる、あいつはここに居残って吹っ飛ぶ、それでいこう。
  それにはあいつを振り切る必要があるけど。
  「騎兵隊のお出ましだぜ」
  デズモンドが幾分か安心したかのように呟いた。
  前方から警戒ロボットが3機向かってくる。
  その内の1機が私らの前に止まり、残りはオーバーロードに向かっていった。どれだけ持つかは知らないけど、あれでも勝てないだろう。スーパーミュータントとは既に別種だ。
  止まった警戒ロボットは私たちに背を向け、機体から声が響く。
  機械的な声?
  いえ。
  聞き覚えのある声。
  「乗りたまえ。最初からこうすれば楽だったな」
  「エデン大統領?」
  「この機体を遠隔操作している。早く乗りたまえ。あれが暴走したのは、私も予想していなかった。時に人生とは、予測不可能なことがあるものだな」
  「デズモンド」
  「ああ」
  私は警戒ロボの左側に掴まり、デズモンドは右側に掴まる。
  「しっかり掴まっていたまえ」
  ゆっくりと前に進み始める。
  その時、背弧で爆発音がした。振り返るまでもない、向かっていった2機が倒されたのだろう。
  咆哮が聞こえる。
  どすどすという音も。
  大統領は次第にスピードを上げながら直進していく。
  「こりゃ楽だな」
  「そうね」
  GOGOGOーっ!
  考えてみたら警戒ロボットってあんまりお付き合いなかったな。
  メカニストの施設で遭遇したきりだっけ?
  ……。
  ……ああ、ビッグタウンでも見たなぁ。
  ケリィのおっさんが修理したやつ。
  あれってまだビッグタウンの防衛に使ってるのかな?
  ともかく。
  ともかく私が言いたいのはその機動力だ。ビッグタウンではスーパーミュータント軍の奇襲役だったしメカニストの施設では屋内での戦闘だった。メカニスト
  の警戒ロボットに関しては瞬殺だったし。ふぅん。この機動性、馬鹿に出来ない。
  事実オーバーロードをどんどん離していく。
  それに楽。
  楽チンです。
  「エデン大統領、出口までまだあるんでしょ? その間に聞きたいことがあるんだけど」
  「何だね?」
  私の冒険には関係ないだろうけど気にはなることがある。
  「カリフォルニアとかリー……なんとかって何?」
  「カリフォルニア共和国は西海岸にある国だ。キンバルという男が大統領をしている。勢力としては最大だな。50万以上の国民がいる。唯一国家体制が整っていると言ってもいい」
  「50万っ!」
  そりゃ桁違いだわ。
  「唯一国家って……エンクレイプは違うの?」
  「国家というよりはフィクサーだな」
  「フィクサー?」
  「基本表立っては我々は動かない。よっぽどのことがない限りな。つまり、この地はよっぽどのことというわけだよ」
  「そいつらに喧嘩売る気なのよね?」
  「そうだ」
  「勝てるの?」
  「心配してくれるのかね?」
  「全然」
  「ふむ。まあ、いい。さて勝てるか、だったね。勝てるさ」
  「根拠は?」
  「元々西海岸は我々が仕切っていた。BOS本軍に敗れ、ポセイドン海上施設とリチャードソン大統領を我々は失った。西の基盤を我々は放棄して東に撤退した」
  「良いとこないじゃん」
  「結果BOSは肥大した。しかし各地に散らばり過ぎた。カルフォルニア共和国が勢力を伸ばし、BOSは敗退した。問題はここからだ。カルフォルニアには我々のテクノロジーはおろか
  BOSの持つ旧世代の装備の保守能力すらない。BOSと共和国が敵対した時点で終わったのだよ。連中にはテクノロジーはない。維持できないのだ」
  「つまり」
  「つまりエンクレイブのテクノロジーを持ってすれば勝てる。それに向こうでは我々の脅威は衰えていない。潜在的に共和国は我々に脅威を抱いているのだよ。再来を恐れている」
  「ふぅん」
  「装甲車の類は維持しているようだがね、ことテクノロジー……レーザーやプラズマの類は扱えても保守できない。ふふふ、連中、稼働していないパワーアーマーを精鋭部隊とやらに
  支給している。ただの鉄屑に過ぎない。まあ、それを着て動けるのだから、筋肉馬鹿とはいえ、評価はするがね」
  「要は実弾系の軍隊ってこと?」
  「そうなるな」
  「脅威では……」
  「脅威ではある。数もいる。が、それだけだ。我々の残したベルチバードも保有しているようだが、兵器の数では我々が圧倒的だよ。移動要塞も2基あるしな」
  「移動要塞?」
  なかなか興味深くはある。
  というか本家BOSは向こうで敗北したのか。
  エンクレイプ相手に敗北したんだー、と言われたら吹いてるのかよと思うけど、別の敵相手に負けたというのであれば信憑性は多少はある。
  ここを含めて方々に部隊を派兵し過ぎて手薄だったのかな?
  いやぁ。
  数の差だろうなぁ。
  50万以上はすごい。
  「リー……えっと、何とかって?」
  「リージョン」
  「それ」
  「シーザーと呼ばれる男が率いる軍団だ。コロラド川の東は奴の領土だと言われている。多くの部族を力で掌握しモハビに軍を進めている。いずれ共和国とぶつかるだろう」
  「モハビ?」
  「モハビ・ウェイストランド。かつてのネバタ州だ。フーバーダムがある。電力確保と水資源のために共和国は軍を進め、リージョンは……ふむ、謎だ。ダムを吹き飛ばしたいだけなの
  かもしれんな。いずれにしてもリージョンも軍を進めた。我々は漁夫の利を狙うつもりでいる」
  「強いの?」
  「質の面では高いな。少なくとも士気の面では遥かに高い。個々の兵の強さも馬鹿にならん。弱者はことごとく捨ててきた軍団だ、共和国では勝てまい」
  「どうして? 物量では勝ってるんでしょう?」
  「共和国は多方面に敵を持ち過ぎている。リージョンもそれは変わらんが国という形は取っていない。カリフォルニアはあくまで国だ。国となれば国民がいる、治安維持も必要となる、
  何より軍隊にも金がかかる。戦争だけしていればいいというわけではない。が、リージョンにはそれがない。完全なる独裁。総兵力は共和国が上だが一度に動かせるわけではない」
  「局地戦ではリージョンが上だと?」
  「そうだ」
  「聞けば聞くほどここって復興が遅れてるのね」
  「落とされた核の差だな。ここは徹底的に落とされているがモハビはMr.ハウスというニューベガスの支配者が核を迎撃したお蔭で昔の面影を残している。あくまで、面影だがね」
  「もう一つ聞きたい。ダム、電力、つまりは水があるのね。水資源とも言ったけど……」
  「ああ。そういうことか。汚染はされていない。浄化されている」
  「……」
  沈黙。
  どういうこと?
  ダムほどの水量の水も浄化できる技術がある?
  おそらくエンクレイプにもあるのだろう。
  じゃあ……。
  「はっきりさせておこう。水は浄化できる。君はボルトの生まれだ、綺麗な水に苦労しなかったはずだ。街にもお粗末とはいえ精製システムがある。ダイタルベイスン程の規模を浄化する
  システム、BOSには無理だろうが我々にはある。可能なのだよ、我々にはね。既に既存のシステムだ。オータム大佐が奪おうとした理由は……」
  「横取りしたかった?」
  「半分正解だな」
  「半分?」
  「奪うつもりなのは確かだ。しかしそこにあるから、作る手間を省きたいから、ではない。画期的なのだ。そのシステムが。研究の着眼点が面白い。君の父上のシステム、それは本来
  掛かる費用の十分の一以下で済む。安全な水、安全な食料は支配するうえで必要な飴となる。大佐はそのシステムを手に入れたいのだろう。そして自身の権勢を確実なものとする」
  「そうなの?」
  「君の父上は天才だよ」
  「そりゃどうも」
  パパを褒められて嬉しいけど、今はそれどころじゃない。それにパパを殺した組織の親玉に褒められるのも面白いものではない。
  警戒ロボットはレイブンロックの通路を走り続ける。
  わりと進んだな。
  ここまで来るとエンクレイプの兵士も職員も目に入らない。
  この区画には人がいない?
  いや。
  いるにはいるけど、それはもう人ではない。少なくとも生きた人ではない。全員死んでる。
  殺すべき対象がいないからだろう、ロボット軍団は停止していた。
  「でも分からないな、どうしてみんな殺すの?」
  正直意味不明。
  ここのを殺したところで、例えばクリスの部隊はスルー。あくまでここにいるのを殺すだけ。エデンはこことともに果てる。残りはどうするのだろう?
  「君の敵だ。別に悲しむ必要はないだろう?」
  「悲しんではないわ。意味不明なだけ」
  「ふむ。どこがだね?」
  「ここ以外の連中はどうするのさ? あんたも果てるんでしょう。残りはどうするのよ、呪い殺すの?」
  「ああ。そういうことか。今現在私が排除したいのはオータム大佐の派閥だけだ」
  「何故?」
  「癌だからだ」
  「まあ、それは分かるけど」
  「私は私のロジックの誤りを正す。彼と彼の一派を排除すれば問題ない。あとは本国の議会が新しい大統領を選出する……ああ、くそ」
  「くそ? 珍しいことを言うわね」
  茶化す。
  しかし大統領はそれを無視した。
  まあ、いいけど。
  「装甲隔壁を解除された。ベルチバードの発進を許してしまった。ハッキング……監視カメラの映像から察するに、これはサーヴィス少佐か」
  「何オータムに逃げられたの?」
  「ベルチバード3機は発進する。捕捉は、無理だな。どうやら君の仕事が増えてしまったようだな」
  「私が? 何でよ?」
  「オータム大佐を倒すしかあるまい、君がね。ジェファーソン記念館で雌雄を決する必要があるだろう? たぶんに私怨もあるだろうが、この地の為にもな」
  「ふん」
  なーにがこの地の為にもな、だ。
  お前親玉だろ。
  
  「ウォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォっ!」

  「おいおい勘弁してくれよ」
  あの雄叫び。
  背後を見るまでもない、奴がいるのだ。
  「大統領、急いで急いで」
  「スピードアップするのは可能だ。荷物を下せばいい。が、それはできまい。私は後ろを見ずとも全ての監視カメラが目だ。奴は迫ってきているぞ。追いつかれる」
  「嘘っ!」
  後ろを見る。
  確かに。
  確かに奴はだんだんと近付いてくる。
  距離にして10メートル。
  やばいっ!
  「あいつは何なのっ!」
  「ボルトテック社が……」
  「じゃなくてっ! 何だってあいつは堅いのっ! 攻撃が全く通じないなんて詐欺でしょっ! テスラでも教授でもないのに、何あいつの防御力っ!」
  「ああそういうことか。君と同じだ、能力者だよ」
  「能力……防御力を高めてるってわけ?」
  「正確には身体能力を全般的に、だな。脚力もアップしている。故に私に追いつきつつあるということだ」
  「……」
  私は両手で機体にしがみつく。
  これしか、ないか。
  「デズモンド」
  「何だ」
  「私が悲鳴を上げたらショットガンを乱射して」
  「はっ?」
  「いいからっ!」
  「相変わらず意味不明だぜ。まあ、了解だ。存分に叫びな」

  すーはーすーはー。

  深呼吸。
  能力と能力は反発し合う。
  お互いに相殺し合う。
  その際に頭痛が生じるけど……頭が割れそうになるけど……この祭だ、我慢しよう。
  いっくぞーっ!

  「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」
  「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア」

  私は叫ぶ。
  奴は叫ぶ。
  私の能力は時が止まる能力。正確には緩やかになる……まあ、加速装置的な感じか。思考錯誤で使ってきた能力ですので詳細不明。
  ともかくそれを使った。
  瞬間、お互いに叫びあう。
  反発し合う。
  そしてそれは激しい頭痛という形で現れる。
  「食らいやがれ、デカブツっ!」
  デズモンドの攻撃。
  私は必死に機体にしがみ付きながら能力を発動し続ける。発動し続ける限り、奴も発動し続ける限り頭痛は襲い続ける。
  「効いてる、効いてるぜっ!」
  「が、それでは威力不足だな。掴まっていたまえ」

  ぐるん。

  突然機体は全速力で進みながら回転する。
  危うく私は弾き飛ばされそうになるものの、耐える。ただの回転ではない。奴を向いた瞬間、エデン大統領はミサイルを発射した。
  そしてそれは背を向けたときには爆発音として私たちに届く。
  「完了だ」
  「……そう、よかった」
  能力解除。
  「が、念のためだ。全ての装甲隔壁を閉じるとしよう。我々が進むべき道以外のね」
  「おいっ! 急に旋回するんじゃないっ! コンバットショットガンを落としたじゃないかっ! お気に入りだったんだぞっ!」
  「掴まっていたまえと言ったはずだ」
  「ちっ」
  デズモンドは左手で掴まりながら、右手で9ミリピストルを引き抜く。
  敵を警戒しているようだ。
  「この区画には誰もいない。警戒は不要だ」
  「信用ならんな」
  「ほう? 何故だね?」
  「さっきから与太話を聞いてきたけどな、デタラメだろ、あれは。俺は教授を追って各地を旅したがエンクレイプなんて過去の残骸でしかなかったぜ?」
  「我々は現在13の州を平定している。新大統領選出にあたり、おそらく混乱があるだろう。その結果統治地域を2〜3は失うだろうが問題はない」
  「今までエンクレイプの旗なんて見たことないぜ?」
  絡むなぁ、デズモンド。
  まあ基本的に人となりはよく知らないけど疑り深いところはあるな。
  もちろんそれは間違いじゃないけれど。
  「ええ? 大統領さんよ」
  「学んだのさ」
  「学んだと?」
  「基本我々は表立っては動かない、先ほども言ったな。つまり学んだとはそのことだ。BOSに敗れるまで我々は西海岸を統治していた。が、敗北した。東に逃れるに当たり我々は
  情勢を見るための部隊を残した。その部隊からの報告は面白いものだった。BOSは驕り、堕落し、共和国に取って代わられた。そして共和国も繰り返す」
  「あんたらは黒幕でいるってことか?」
  「そうだ。我々は表立たない。立つ必要がないのだ。その地を支配する者を我々が支配する、それだけだ。その方が確実なのだよ。民衆は我々の支配に気付かない、気付く必要
  などないのだ。必要なのは我々が管理しているということだけ。民衆はそこに気付く必要などない」
  「まあ、合理的ではあるな」
  「それで」
  私が割って入る。
  好奇心を満たすのは楽しい、そう、フォークスが言ったように楽しい。
  けれど今はその場合ではない。
  「それで? 出口まではどの程度?」
  「出口までは3分と言ったところか。爆発までは5分。脱出は充分だ」
  「……? 私らが出た瞬間に爆破じゃなくて?」
  「レイブンロックは私の管理下だが爆弾は違う。メガトンにあった核爆弾を私が操作したロボットで起爆させたに過ぎない」
  「ふぅん。そういえば爆弾は何に使うつもりだったの?」
  「ペンタゴンを攻撃する為の奥の手だ」
  「ペンタ……」
  「国防総省だ。分かり易く言うなら、BOSが不法占拠している場所だ。連中はリバティ・プライム惜しさに攻撃してこないと思っていたようだがね」
  「……はぁ」
  「どうしたのかね?」
  「全部あんたらの掌の上って言いたいわけ?」
  「そうではないさ。君の存在は予想できなかった。その成長も未知数だった。私の計算でも導き出せなかった。まさかこの地をここまで纏めるとは思ってなかった」
  「褒めてんの?」
  「最高の絶賛だよ。敵にさえならなければ、だけどね。敵である以上、君は最大の脅威だよ」
  「そりゃどうも」
  エデン大統領は進む。
  次第に通路は上り坂になる。
  出口が近い?
  ……。
  ……ああ、遠くに外が見える。
  出口間近か。
  「ここを抜ければ出口だ」

  「ウォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォっ!」

  えっと。
  向かう先に吠えてる人影があるんですけどあれは……何?
  「何であいつが先回りしてんのよっ!」
  「ふぅむ。面白いな。おそらくエレベーターの扉をこじ開け、シャフトを上って先回りしたのだろう。能力者同士は惹かれあうというデータがある。君と惹かれあってるようだ」
  「あんなのと絆深めるなんて断固として断るわっ!」
  「それよりもっ! どうするよ、赤毛さんよっ!」
  私たちの乗る警戒ロボットは止まらずに進む。
  エデンは止まる気はないらしい。
  それは分かる。
  爆弾はエデン大統領の管理下でない以上、ここで止まれば爆発に巻き込まれて終了。
  進むしかない。
  しかし迎え撃って倒すにしても時間が少々心許ない。
  どうする?
  次第に奴に近づきつつある。
  吠えながらオーバーロードもこちらに向かって突進を始めた。
  「提案がある。ただちに飛び降りろ。私が時間を稼ぐからその隙に逃げたまえ」
  「だけど……」
  「余計な問答は不必要だ。さあ行きたまえ」
  それしかないか。
  エデン大統領の速度が若干緩む。これなら飛び降りても問題あるまい。
  私とデズモンドは同時に飛び降りる。
  その瞬間、ミサイルを叩き込むエデン。爆発と爆風、効いているとは思えないけど、これでいい。目眩ましだ。
  「行くわよっ!」
  「おうっ!」
  黒煙の中に突入、黒煙の中に佇む漆黒の影を避けて走り抜ける。
  よし。
  抜けたっ!
  晴れていく黒煙、私が逃げたことに気付いたオーバーロードは追撃を始めるもののその背後にエデンは再びミサイルを叩き込む。そしてミニガンの乱射。
  ほとんど効いてはいないだろう。
  奴には鉄壁の防御力がある。
  しかしエデンを目障りな敵と認識したようだ。奴に向かって突進を始めた。
  キャピタル・ウェイストランドにおいて警戒ロボットは最強のロボット。しかもここに配備されているのはエンクレイプ製だ。そこらの野良よりも格段に強いはず。それでもオーバー
  ロード相手では分が悪い。どの程度の時間稼ぎができるだろうか。
  時間稼ぎの間に私たちは全力疾走。
  出口が近付いてくる。
  出口が……。

  「ウォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォっ!」

  ちぃ。
  背後で爆発音と同時に咆哮が轟く。
  そして足音。
  追撃が再開されたってわけか。
  振り返るまでもない。
  スーパーミュータント・オーバーロードが再び私らを捕捉したのだ。だけどエデンの時間稼ぎは充分だ。
  あと少し。
  あと……。
  「出たっ!」
  空がある。
  空が。
  私たちはレイブンロックを脱出した。その瞬間、ガーっと背後で音がした。振り返る。装甲隔壁がスライドして外と中を完全に遮断した。中から何かが殴る音が断続的に響く。
  銃を構えながら私たちはそこから離れる。
  まさか破られないわよね?
  「岩壁の中?」
  少し余裕が出てきた私は装甲隔壁の周囲を見る。そびえ立つ岩壁。どうやらレイブンロックはその地下にあったらしい。
  ここはキャピタル・ウェイストランドのどのあたりだろ。
  オアシス付近?
  
  ザーザー。

  腕のPIPBOY3000からノイズが響く。
  そして声。
  「大統領ジョン・ヘンリー・エデンから、さようなら」
  直後、大地は鳴動。
  立っていられないほどの揺らぎ。
  大地は怒り狂う。
  地震?
  違う。
  これは地下で大規模な爆発が生じているから。
  オーバーロードもこの爆発の中では耐えられまい。能力者だろうが耐えられるはずがない。
  厄介払いだ。
  色々とね。



  レイブンロック、陥落。