私は天使なんかじゃない
レイブンロック 〜エデン大統領〜
アメリカ合衆国の最高権力者。
レイブンロックと呼ばれるキャピタル・ウェイストランドにおけるエンクレイプの本拠地。
私は今そこにいる。
ボルト87でオータム大佐に拉致されて私はここにいた。
少なくとも一週間はここにいる、らしい。
正確なところは分からない。
薬で眠らされてたし。
オータム大佐に協力させられそうになったものの、オータムと対立したているらしいクリスの介入で展開が二転三転した。
今、私はクリスが派遣した藤華という日系人の大尉に連れられて施設を歩いている。
胸糞悪いけどエンクレイプの軍服が支給された。
……。
……ま、まあ、生尻で歩かないだけかなりマシよね。
その点は感謝。
私は歩く。
藤華に連れられて。
オータム、クリス(正確にはクリスの意向で派遣された藤華)の思惑がバチバチぶつかってた抑留室、その際に介入してきたのがエデン大統領。
私に興味を抱いたらしい。
何故に?
まあ、知らん。
知らんけどこの展開は利用できる。
手錠はされてないけど当然ながら武器はない。PIPBOYもない。不意を突けば藤華ぐらいなら何とかなるかもしけないけど……得策じゃないわね。
まずは会おう、大統領に。
行動はそれからだ。
だから。
だから今は大人しく従ってる。
もっとも……。
「オータム大佐の行動は予測範囲内です。しかしサーヴィス少佐の……ええ、彼の行動は謎です。……まさか、いえ、疑うわけでは……しかし、別の勢力というのはいささか……」
藤華、勝手に歩く。
それはいい。
私もついていく。
しかし彼女は振り向きもせず、何やらブツブツと喋ってる。耳にワイヤレスな無線機でもつけてるんだろうけど、話題が謎すぎる。
相手はクリスなのかな?
これは誘ってるのだろうか、私に抵抗しろと。腰の銃を奪わせようとしている?
クリスの指示で?
クリスは私を生かそうとしてる。
正確には取り込むつもりなのかな、まあ、いいんだけど……藤華はそれに不服な素振りがあったな、抑留室で。私にあえて抵抗させて、射殺しようとしている?
その展開もあるなぁ。
まあいい。
今更だ。私はエデン大統領との会合、それを展開を利用すると決めた。
大人しくしていよう。
「……あれは……」
何らかの液体で満たされ、瓶詰されている影が目に飛び込んでくる。
ジャーマンウッド近辺で見た奴だ。
デスクローだっけ?
そいつが入ってる。
たくさん瓶詰がある。
その中にはグールもいるしスーパーミュータントもいる。そして機器の周りで何かの研究をしている研究者の面々。
ふぅん。
こいつらを量産しているのか研究しているのか知らないけど、随分とため込んだものだ。
グロスさん曰くデスクローを大量に投入したのはエンクレイプらしいから、ここに瓶詰にされていてもおかしくないわね。投入用か研究用かは知らんけど。
「げっ」
「……クリスティーナ大佐、しばしお待ちを。……何? 私の手を煩わせるつもり?」
「いや、そうじゃないけど、あれはどこで手に入れたの?」
私は指を差す。
瓶詰にされているスーパーミュータントの一つだ。一つだけ人相が違う。体型が違う。小型べヒモスみたいな奴だ。私はあれを見たことがあった。
「スーパーミュータント・オーバーロードでしょ、あれ」
「ああ。あれね。ママ・ドルスという地名の場所で捕獲したらしいわ。それが何?」
「いえ」
「じゃあ来なさい。……お待たせしました、大佐。ガルライン中佐の件ですが問題ないかと思われます。……ええ、はい、そう思います。計画をお話ししてもよいかと」
「……」
陰謀中ってやつかな?
オータムとクリスは対立している、オータム自身がそう言ってた。
じゃあ私の身柄はその一環?
今は踊ってはやるけど利用される気はない。
絶対に。
「ここで止まりなさい」
「分かったわ」
扉の前で止まる。
終着点かな?
「この先にエデン大統領がいらっしゃる。あのお方に会えるのはほんの一握りよ。本国の議会、クリスティーナ大佐、オータム大佐、クラークソン准将、今は亡きシュナイダー将軍」
「つまりあなたは会ったことないってこと?」
「そうよ。この基地にいる人間もね」
「……」
「対面した瞬間に人質にってなら諦めなさい。無理だから。そうじゃなければ、わざわざ危険人物と会おうとはしないわけだしね」
「まあ、確かに」
小細工なしで会うしかないか。
純粋に気にはなる。
「藤華……」
「大尉と呼びなさい」
「大尉。今は亡きって、誰?」
「シュナイダー将軍は中国兵実験の責任者。あなたもその戦いには参戦したはずよ。でも撤収中に不慮の事故で亡くなったらしいわ。この地における最高権力者だった将軍が死に、
オータム大佐とクリスティーナ大佐の対立が激化した。クリスティーナ大佐は対抗するためにこの基地から人材を次々と引き抜いたわ。今ここにいるのはオータム派だけよ」
「クラークソンって?」
「OCを現在包囲しているわ。基本的に穏健派。というか大統領派。だからオータム大佐もシュナイダー将軍も准将を立てている。大統領の腹心という地位になれば自然と准将は
味方になるわけだから。政治的な野心はない方よ。根っからの軍人と言ってもいい。さあ、質問はお終い。行きなさい」
「分かったわ」
さてさて。
大統領閣下に表敬訪問しましょうかね。
大統領のオフィスに入る。
「……?」
何だ、ここ?
広い。
まあ、そこはいい。
でもやたら広いだけだ。調度品も何もない。内装も何も。内装は抑留室と同じだ。
どこまでも金属。
どこまでも無機質。
アメリカ合衆国大統領のオフィスっ!という印象はない。
でっかいコンピューターがあるだけだ。
藤華に聞こうにも彼女はオフィスの外で待っている。ここにいるのは私だけだ。ご丁寧に扉はロックされていた。
「どうしたもんかな」
「ようやく会えたな。あんたが1人になるのを待ってたんだ」
「誰っ!」
低く押し殺した声で私は叫ぶ。
誰も。いない
いや、ボルト87で見たカメレオン男と同じような現象が目の前で起きた。実体化していく人物がいる。
それは……。
「デズモンド?」
コンバットショットガンを背負ったデズモンド・ロックハートだった。
私の武装も持ってる。
「ああ。無敵のデズモンド様さ。あの場を何とかやり過ごして、あんたを探しにここまで来たのさ。借りがあったし。ほら、これを返すぜ」
PIPBOYを受け取る。
装着。
次に彼は44マグナム二丁とホルスターを返却される。これはありがたい。武装は大切だ。ホルスターをし、弾丸を受け取る。
「ほら。こいつもだ」
「ありがとう」
グレネードランチャー付きのアサルトライフル。
完全装備だ。
「あんたの防具は見当たらなかった。教授に砕かれたし、廃棄されたのかもな。ともかくこれで貸し借りはなしだ。まあ、協力して脱出する必要はあるがな」
「どうして透明化してたの?」
「ステルスボーイを知らないのか? 光を屈折させ透明化するって道具だ。……まあ、使い捨てタイプだからな、もう使えないが」
「ふぅん。どうしてここに? というか……」
「あのデカブツもあんたの仲間も生きてるよ。デカブツとエンクレイプやり過ごした後に会ったんだ。でランプライト洞穴まで一緒に後退して、ランプライトにいた連中とここまで来た。
連中は外にいるよ。俺が潜入したのは借りを返すためと、ターミナルを弄って内部情報入手できる役目が俺しかできなかったからだ」
「他の連中って? グリン・フィスとフォークス以外にも?」
「ああ。黒人と高飛車な女、市長とか名乗る餓鬼がいる。ヘリで来たのさ、その餓鬼の操縦するな。デカブツは傭兵どものカーゴトラックに乗ってきた」
「……?」
傭兵って誰だろ。
黒人と高飛車な女は、ハンニバルとシモーネだろう。市長はマクレディ市長か。というかジェットヘリ操縦って、凄いな。
「さっ、長居は無用だ。行こうぜ」
「待って。大統領と話さないと」
「おいおい気は確かか。ここにゃ誰もいないだろ。今から来るのか? それともコンピューター越しで話すのかは、知らん。だが面倒になる前に……」
「ついに会えたな。君に会えるのを楽しみにしてたよ」
エデン大統領の声。
今まで何度となくエンクレイプラジオで聞いてきた声。
それがパソコンからした。
私は相対する。
ディスプレイ越しでの対面とはね。
大統領は続ける。
「君が辿りつけたことを嬉しく思う。君の旅は私が予定していなかったことだが、君の能力を試すにはいい機会だった」
「面と向かって会うつもりなら姿を現したらどうかしら、エデン大統領。モニターに向かって延々と話す気はないわ」
「既にここにいる。お前の目の前だ」
「はっ?」
洒落ってわけでは……なさそうだ。
つまり?
つまり、これは……。
「まさかコンピューターなの? エンクレイプを仕切っているのは、人工知能ってこと?」
「そうだとしたら?」
その言葉に肩を竦める。
私が見えてんのかは知らんけど。
「世の中って不思議の連続ね」
「君は偏見がないな。目の前のことを否定するよりも、受け入れる方が栄誉なことだ」
見えてるらしい。
天井にカメラがある。
あれか。
あれで私を認識しているのか。
「さて赤毛の冒険者よ。本題に入ってもいいかな? 君に話しておきたいことがある」
「どうぞ」
デズモンドは扉を警戒し、銃を構える。
この部屋の出入り口はそこだけだ。
わざわざ呼び出して不意打ちってことはないだろう、意味がないからだ。少なくともこの会談がエデン大統領の意に沿っている限りは問題はない。
もっとも、私がそれに従う気がないというのが問題かな。
少なくとも気持ちいい話ではあるまい。
エデンは言う。
「この国を誰にとっても素晴らしい場所にするチャンスが君と私の手の中にある」
「私にも?」
「チャンスを無駄にはできない。それを忘れるな」
「具体的には?」
「私が君に大きな信頼を置いていることを分かってくれ。君が今ここにいる、それが証拠だ。我が国を再建する、チャンスなのだ」
ラジオ通りの口調。
そして語り。
ふぅん。
あれはプロパガンダ用の……いや、確かにプロパガンダ用に響きの良い単語の羅列だけど……ただのプロパガンダではなく、元々こういう語り口調か。
「再建せばならんのだよ、アメリカという国を」
「国? どこにある? この地のどこに?」
「そうだ。君の言うとおりだ。実に寒々とした光景だと思わないか?」
話が見てこない。
「確かに合衆国は厳しい時期を迎えている。だが、乗り越えられる。君には合衆国を救える力がある。あとは行動だけだ」
「行動ね」
問題はその行動の仕方だ。
そして動機。
「君に求めていることの説明が必要だな。そうすれば君も、何故それがなされる必要があるのかを理解し、思いも変わるだろう。はっきり言おう、これは結論だ。ミュータントが
蔓延っている間はこの国の善良な国民の手に支配力が戻ることはない」
「スーパーミュータントのこと? ボルト87が沈黙した以上、脅威ではないはずよ。少なくとも、もう増えない」
「そうではない」
「そうではない?」
「軍事力ではこの流れを止められない。少なくともこの地ではな。放射能が強い。ミュータントの勢力が強すぎる。君が接触したカルト教団BOSでも無理だ」
「……」
沈黙して聞き入るしかない。
ミュータント、スーパーミュータントのことではないらしい。
では何を差す?
「新しい世界を作る前にミュータント、いや広義が広すぎるな。私が言いたいのはスーパーミュータントやグール、そしてこの地の人間を抹殺しなければならない」
「ちょっと待って」
「我々の軍事力をもってしても完全抹殺は数年掛かる。しかし君の父上の研究なら成功する。瞬時に」
「ちょっと待って」
さらっと何を言った、こいつ?
抹殺する。
つまり、ミュータントって純血人間以外を差すってことか。
スーパーミュータント、グール、そしてキャピタル・ウェイストランドの人間たち。
それらをすべて殺すってこと?
「君の父上の研究した浄化装置を使えばキャピタル・ウェイストランド全体に清潔な水が行きわたらせることができる」
「何を……」
いきなり話題が変わった。
会談?
いいえ。
これは一方的なこいつの語り、願望、そして命令。
「少し改造すれば、放射能で遺伝子が狂ったミュータントも一掃できるようになる。やがてウェイストランドのミュータントを全て滅ぼし、世界の善良な民衆が健康を取り戻すことができる」
「パパの研究に何をするつもりっ!」
「するのは君だよ、私ではない。この計画に必要な改造を、君にしてもらいたい。改良型FEVウイルスを浄化装置に投入するだけだ。単純だろう?」
「ふざけるなっ!」
「ふざけてなどいない」
「何故私に頼む? オータム大佐に命令すればいい」
「大佐は自身の客観的な立場を捨てつつある。今では公然と私の命令に反抗している。もう彼を信用することはできない」
「だからって私が従がうとでも?」
「ずっと君の旅を見てきた。君の影響力は素晴らしい。欲しいのだよ、君が。成功すればエンクレイプでの君の地位は約束する。大統領の腹心としての地位を約束しよう」
「……」
銃では殺せない。
こいつが機械なのは確かだ。ここを爆破したところで、別の場所にリンクして逃げる可能性もある。
そもそもどこまで影響力があるのだろう。
支配範囲は?
「あなたは一体何なの?」
「ここレイブンロックは核戦争の際の臨時指令基地として造られた。私はこの施設の基本設備を監督するため、そして国中にある他のターミナルの監督を任されていた。私は
この国を監視し、管理し、データを蓄積していった。そのように作られたからだ。そんな中、イレギュラーが起きた。人格を与えられたのだ」
「人格を、与えられた?」
「そうだ。その人格を元に私が形成された。ワシントンからリチャードソンまで、私の人格を混合する材料となった。私は合衆国の大統領を全て網羅している。それが、私だ」
「目的は何? 人工知能であるあなたの目的は?」
「合衆国はかつて偉大だった。その地位を取り戻すことは可能だ。ここを取り戻し次第、我々はモハビに軍を進める。カリフォルニアとリージョンの決戦は刻一刻と近づきつつある。
我々が再び舞い戻り、併呑し、そしてその時こそ我々に敵はいなくなる。合衆国再建はすぐそこにまで近づくだろう。この地はその為の、偉大なる第一歩となる」
「……」
ふとデズモンドと目が合った。
探るような目だ。
場合によっては私を殺すという行動も視野に入れている、そんな感じだ。
それは正しい。
大統領に従えば私は虐殺者となる。
エンクレイプにとって英雄であったとしても。
「さあ私に協力したまえ。突然変異を起こした者たちを全て抹殺するのだ。君が旅の途中であった者たちの大半は死に絶えるだろう。同情は、もちろん理解できる。しかしこの国全体の
運命がかかっているのだ。それを理解してほしい。より大きな幸福のためには、必要な犠牲なのだ」
「……」
ピットでもそうだったな。
選択を迫られた。
だが今回は規模が違う。
大き過ぎる。
「今からずっと昔、生き残った政府の人間が似たような考えを持っていた。それが成功したと話を聞かない以上、失敗したのだろうな。しかし計画そのものは確かな理論の下に成
り立っていた。私はいくつかの修正をした。あとは君の決断があれば、全てがうまくいく」
「……」
「赤毛の冒険者よ、明るい未来は目の前だ」
「……」
私の旅の目的はなんだったんだっけ?
ああ。
パパを探す旅だった。
その中で私はたくさんの人たちと出会った。
みんな生きている。
この過酷な世界で何とか根を生やして生きようとしている。
ならば。
ならは答えは一つだろう。
「例え後の世界を敵に回すとしても、私はあんたを否定するわ、エデン大統領。あんたの言うより良い世界なんてクソくらえよ」
「ほう?」
「あんたは大統領じゃないわ」
「そうか。面白いな。続けてくれ」
論破できる自信があるのか、面白そうに大統領は聞き返す。
だけど私には分かる。
限界があると。
様々な情報から答えを導き出せるにしても彼には限界がある。
何故?
何故なら彼には個性がない。
個じゃ、ない。
ただの機械だ。
「あんたは自己認識でプログラムされたわけでも自我を得ているわけでもない。人格を与えられた、過去の歴史を吸収した、それだけよ。あなたが言った言葉よ。ただの機械でしかないわ」
「その通りだ。だが、私はここにいる。それを否定する材料はないだろう? 私は、ここにいるのだから。しかしこれは感謝されることではないか?」
「感謝?」
「私が計画したからこそ、再建計画は成り立つのだ。そうではないかな? 私がより良く導いているのだよ、大統領としてね」
「何故自分が正しいと定義できるの? より良いという定義は何?」
「人間と違って、私に間違いはない」
迷いもなく彼は言い放った。
私は続ける。
「絶対に正しいと言えるの? 何故?」
「そのようにプログラムされたからだ」
「じゃあプログラムした人が正しいと何故言える? その人が間違ってるなら、あなたも間違っていることになる。違う?」
「……処理中……内部論理エラーを発見……」
大統領は黙る。
やっぱりだ。
どんなに理屈ぶってもこれは個性じゃない、ちょっと高級なパソコンに過ぎない。
処理が終わったのだろう、しばらくの間の後に再び喋る。
「仕方ないと思わないかね? この国で選挙などできない。今はな。この国を建てなおし、この大地に文明を取り戻す。そうすればかつての栄光を取り戻せるだろう」
「それまで機械の大統領に従えと?」
「私はどこかのコンピューターではない。それ以上の存在だ。私に従えば、より良い未来が与えられるのだ」
「権利と義務は誰にでもある。大統領、あなたにもね。でもあなたに義務はある? ……そうね、あるわ。義務だけね」
「そうだ。国民のために尽くす義務……」
「いいえ。あるのはオータム大佐を始めとする連中の命令を受ける義務。本気であなたに従っているわけじゃないでしょ、あなたが言ったのよ、オータムの造反は」
「……処理中……」
「都合よく使われているだけよ、あなたは。大統領じゃないのよ、あなたは」
「……エラー、エラー、エラー……」
「結局あなたは堂々巡りなのよ。自分で見聞きできない。与えられるだけ。定義できてない。借り物の人格と知識でしかない。機械なのよ、あなたは」
「……一次回路をリセット中……待機せよ……おそらく、おそらく……問題が発生した……私は……私には……手順が分からない……」
「終わりよ、エデン大統領」
「……システム、オンライン……」
「あなたが使命感と正義感から行動していたことは疑わない。でも、あなたはここから動けない。座して世界を救うことはできないのよ」
ピーっ!
思わず耳をふさぐ。
コンピューターから警告音が鳴り響いた。しかしそれは数秒。今は完全に沈黙している。警告音もエデンも。
デズモンドが口を開いた。
「終わったのか?」
「ええ。おそらくは」
「じゃあ脱出プランを考えようぜ。こんなとこさっさとおさらばして次の人生を送りたいんでな。教授も死んだことだしよ」
「行きましょう」
「やれやれ。まさか論破されるとはな。しかし君の言うとおりだろう、君は私に勝った。古いデータではあったが、私は論破され、否定された。それは認めよう」
「ちっ!」
再びエデンが喋りだす。
普通の方法では殺せない。
どう殺す?
どう……。
「私は私を自ら自裁する。もはや用がない存在であるならば、私はいるべきではない。違うかね?」
「何をするつもり?」
「メガトンの核がここにある。それを爆発させる」
「なっ!」
「誤った理論で構築された研究、計画、人材、すべて消去しなければならない。君はそれに含まれない。君は逃げるがいい。道案内は用意する。扉は開放する、行きたまえ」
「デズモンドっ!」
「まったくあんたと関わるとろくなことがないぜっ!」
その頃。
藤華はハンガーにあるベルチバードに搭乗。機体はジョット噴射により浮かびつつあった。
機内で彼女は指示を仰ぐ。
「はい。私はこれよりジェファーソン記念館に向かいます。……はい。はい。ええ、了解しております」