私は天使なんかじゃない






レイブンロック 〜派閥と対立〜








  組織が大きければ大きいほど、派閥は必然なのかもしれない。
  そして対立も。





  ……?
  ひんやりとしている。
  ひんやりと。
  確かな前にこんな感じがあったような?
  ああ、前に宇宙人に誘拐された夢を見たなぁ。ボルト101を脱走して、スプリングベールの廃墟で一晩過ごしたときに。
  その時と同じ感触だ。
  冷たい金属の上で寝ている感じだ。
  裸?
  裸なの?
  そんな感触。
  「……んー……」
  体がだるい。
  というかやたらと重い。
  体調悪い?
  そうかもしれない。
  思えば行動し過ぎだったな、私。
  たまには休まなきゃ。
  ……。
  ……あれ?
  何か忘れてるような。
  寝てる場合?
  いやいや。
  そんな場合じゃない気がする。
  何してたっけ?
  確か、そうだ、確かボルト87に潜って……ああ、そうだ、確か……。
  「オータムに……っ!」

  ドサ。

  「あ、あれ?」
  勢いよく立ち上がろうとして私はその場に倒れた。
  足がうまく動かない。
  いや。
  正確に言うと力が入らない。
  「ど、どうして……」
  言いかけてやめた。
  周囲の状況を把握、理解する。
  私がいる場所、どこだか知らないけどボルト87ではなさそうだ。部屋全体が真っ白。出入り口らしきものがあるけどこちら側に取っ手がない。窓もない。
  プライバシーの欠片もないトイレ、そして部屋の四隅にある監視カメラ。
  極めつけが私の格好。
  手術衣。
  前は隠れてるけど後ろ……いや、背中はいいけど……お尻丸出しの格好。というか下着は穿いてないし。
  もうお嫁行けない(号泣)
  何というハレンチっ!
  今更だけど監視カメラを通して生尻見せるのが癪なのでその場に座る。
  くっそ。
  当然ながらPIPBOY3000もない。
  「うー」
  どうやら私は囚われの身らしい。
  考える。
  考える。
  考える。
  教授に負けて人体実験……でないのは確かだ。むしろそれを回避できたのは幸いか。
  まあ、今の状況が最善ではないけど。
  オータムに囚われた。
  そうだ。
  あいつに負けたんだ。
  いや正確にはあいつの部下に囚われたんだけど……くそ、つまりここはエンクレイプの基地かどこかか。
  フォークスとデズモンドは無事かな。
  教授戦終わって完全に油断しているときに来たから、あっさりとらわれてしまった私。抵抗したけど兵士に銃床で殴られて気絶したらしい。
  そして拉致られてここに来たっと。
  「……」
  何されたんだろ、私。
  体が重い。
  妙な事されてなきゃいいんだけど。貞操込みで。さすがに私も女だからそのあたりの心配はするし不安にもなる。
  
  ぷしゅー。

  扉が開く。
  白衣の医者だか科学者だか知らないけど、白衣の女性が入ってくる。資料に目を落としながらの入室なので私の覚醒には気付いていない。
  チャンスっ!

  コテ。

  「あ、あれ?」
  襲いかかり当面の人質にしようとするものの私はその場に転がってしまう。
  駄目だ。
  まともに立つことすらできない。
  私がコントしているのを見て女性は冷ややかに言った。
  「無駄よ。一週間薬で眠っていたんだからすぐには動けないわ。薬の効果は直に解けるけど、それまでは私にも勝てないわ」
  「一週間? 薬?」
  「そうよ。あなたの体はFEVウイルスを完全に取り込んでいる。実に不思議な体。だから研究室が念入りにあなたを調べたのよ、隅々までね。あと浄化プロジェクトのパスコードを
  聞き出すために自白剤も投与したらしいわ。私は立ち合ってないけどね。とりあえず健康に害はないわ。まあ、今のところは、だけど」
  「……」
  相手の目を見る。
  こいつどっかで会ったような……。
  たぶん会ったことがあるのだろう、女性は私を見下すように見ている。実際蔑んでる。
  誰だ、こいつ。
  「あなた誰?」
  「正式には挨拶してないから私の名前を知らなくて当然よね。Dr.アンナ・ホルトよ。Dr.リーの助手をしていたわ。あの場にもいたのよ、ジェファーソン記念館にね」
  「どうしてここにいるの? 私と同じように拉致られた……というわけではなさそうだけど」
  「そりゃそうよ。私が、オータム大佐を呼んだんだから。あの場所にね」
  「……どういうこと?」
  「全てにうんざりしてたのよ。そう。あなたが生まれてからね。ジェームスはその時に浄化プロジェクトを捨てた。あの時点では彼がいたからこそBOSは援助していた。彼だけ
  を買っていたのよ。だから援助は打ち切られた。そしてプロジェクトは無期限の凍結。世界を救いたかったのは彼だけじゃなかったっていうのにね」
  「……」
  「彼が去った後、私はDr.リーとともにリベットシティで研究を再開したわ。でも駄目だった。何故だか分かる? 確かに彼女はジェームスに次ぐ才能を持ってた。でもね、彼女が
  どこから機材を持ってくると思う? ゴミ捨て場よ、ゴミ捨て場っ! BOSの科学力ってのも幻滅したわ。連中のゴミは、ちょっと高級なゴミ程度」
  「だから、裏切ったの?」
  感情的になりそうだけど、主導権は向こうにある。
  体がうまく動かない。
  今やってもこいつにすら負けるのは確かだ。
  下手に挑発はしないで置く。
  ……。
  ……あとでぶっとばしてやるけど。
  「裏切った?」
  「そうでしょ」
  「まさか。私はね、浄化プロジェクトを完成させたいのよ。この部屋だけ見ても分かるでしょ、エンクレイプにはね、過去の技術が生きてる。ずっとBOSは最先端だと思ってた、
  でも連中は廃品回収業者でしかなかった。見ていなさい、あなたの腰抜けの父親が出来なかったことを私がやって見せるわ」
  「……っ!」
  「野蛮ね、そんな目で睨むなんて。私の采配一つであなたはここで死ぬのよ?」
  「ふぅー」
  息を吐く。
  落ち着け、私。
  「私を殺す?」
  「ええ。モルモットみたく実験した後でね。……あんたさえいなければ彼は研究を捨てなかった。人類の再建が遅れなかった。だからね、私はあなたが嫌いなの。容赦しないわ」
  「私も嫌い、あんたが。だから言うけど、あんたじゃ私を殺せないわ。絶対に」
  「何故かしら?」
  「だって私はパスコード知らないもの。自白剤投与したんでしょ? でもパスコードを言わなかった。だから生かされてる。違う?」
  「……」
  「正確には私は知ってる。でも私自身パスコードと認識していない。だから自白剤では効果がなかった。でしょ?」
  「だからあんたが嫌いなのよっ! 賢しい餓鬼がっ!」
  「19歳だから餓鬼じゃないけどね。お利口さんぶってるおばさん」
  段々と体の調子が戻ってくる。
  よしよし。
  挑発しない気だったけど相手がいろいろと情報漏らしてくれたお蔭で有利になった。
  実際私はパスコードを知らない。
  だから自白剤では効果がなかった。パスコードと認識していないから自白しようがなかった。わざわざパスコードを聞き出そうとしているということは、パパが作ったシステムはパスコード
  抜きでは使えないのだろう。たぶんセキュリティ的にハッキングもできない。
  私が生かされている理由はそれだ。
  拷問される?
  可能性はあるけど、たぶん、その可能性は低い。
  認識していないパスコードを拷問されたからといって吐けるもんじゃない。自白剤済みだから向こうも拷問は効果薄と認識しているはず。
  自白剤で言わないことを拷問で言うわけないし。
  相手の出方?
  たぶん協力しろと言ってくるんじゃないかな。何らかの条件を出してくるはず。
  だとしたら。
  随分と楽観的な展開だ。
  少なくともここでセクハラ的な格好を延々としている展開とはおさらば出来るはず。
  もちろん条件なんざどうでもいい。
  相手を出し抜くための口約束だ。
  ポジティブに行こう。
  ポジティブに。
  「素直に協力した方が身のためよ。人類の未来のために、献身的に協力しなきゃね」
  「じゃあトイレぐらいプライバシー守ってよ」
  「薬でとはいえ一週間意識なかったのよ、あなた。意識なくても生理現象は止まらない。つまり、分かるわよね? ……今さらでしょ?」
  「いやだからって晒されるのに抵抗なくなったわけじゃないし」
  「その余裕がいつまでも続けばいいわね」
  そう言いながら彼女は透明な液体の入ったアンプルに注射針を刺し、注射器に液体を満たしていく。
  お薬の時間らしい。
  「さっ。腕を出して」
  「この……っ!」
  「そう。いい子ね」
  「くっ」
  「ほんと無様ね」
  パンチしたけど……駄目だ、力がマジで出ない。自主的に腕を出したようなものだ。
  抵抗のしようがない。
  アンナ・ホルトは冷ややかに私を見ながら注射針を刺した。
  意識が暗転していく。



  「……はっ」
  目覚める。
  相変わらずお尻はひんやり。
  くっそ。
  恰好はこのままかよ。
  「ん?」
  今度はどこだ?
  今度は金属質な部屋にいる。鉄アレルギーなら死ぬところだ。
  部屋はさっきより狭い。
  そして私の行動範囲はそれよりも狭い。
  檻に入れられてる?
  いや。
  ……。
  ……まあ、檻か、これ。
  光の檻だ。
  天井から光が円形に降り注いでいる。
  内装に拘ってるってわけじゃないわけだから……たぶんエネルギーフィールドか。拘束用にフィールド展開しているらしい。
  こりゃこじ開けるのは無理そうだ。
  今度はトイレもない。
  ということは何らかの会談は間もなくってことかな。
  オータムか誰か知らんけど私にパスコードを吐かせに来るのだろう、ここに。となるとここは私にとっての尋問室か。
  エンクレイプ、変態の集まりでない限りは間もなく会談だろう。
  じゃなきゃいずれ漏らす(切実)
  あのおばさんに薬打たれてからどの程度経ったか分からないけどさっきよりは覚醒している。
  立ち上がってみる。
  よし。
  立てる。
  かなり体がだるいけど、これは薬の所為というよりは……いや、まあ、厳密には薬の所為なんだけど、一週間以上寝たきりだった為の体力の低下だろう。
  確認作業終了。
  その場に座る。
  白い部屋同様に監視カメラが部屋の四隅にあるからだ。
  生尻タイム終了です。
  一応パスコードを言うまでは身の安全は保障されている。私自身がパスコードをパスコードとして認識していないわけだけど。だから自白剤は聞かなかった、そして自白剤でも
  吐かんかった以上は拷問という行動にはなるまいよ。少なくとも自白剤の次の段階の懐柔策が失敗するまでは。
  前向きに考えているけど長居するとろくなことはなさそうだ。
  たぶん私はパスコードを知ってる。
  パパが託すと言ったのだから、知っているのだろう。
  もちろん連中には教えない。
  そんなつもりはない。
  懐柔策に乗りつつも、答えを言わずに脱出しないと。
  
  ぷしゅー。

  扉が開く。
  士官用コートの男が現れた。
  「目が覚めたようだな、赤毛の冒険者」
  「……オータム大佐」
  「睨むな。睨むのは筋違いだ」
  「筋違い? パパを殺しておきながらっ!」
  やばい。
  どうしても感情的になってしまう。
  「君は負けたのだよ。私は勝った。エンクレイプは勝った。つまり正義は勝ったのだ。今は残りの些末なことを処理中だ。浄化装置は私の手にある。あとはパスコードだけだ」
  「つまり起動できないんでしょ。それで勝ったとかよく言えたもんね」
  「あまり面倒をかけさせるな。協力すれば……」
  「殺さない?」
  「ああ。生かして帰してやるさ。お前を殺せばクリスティーナがうるさい。政治的に対立しているとはいえ、わざわざ怒らせるのも面倒なのでな。あいつにくれてやるさ」
  「クリスが?」
  どういうつもりだろう。
  「さあ協力しろ。もちろんお前はパスコードを認識していないのだろうな、自白剤で吐かないのであれば、そうなのだろう。考えろ。思い出せ。痛い思いはしたくないだろう?」
  「思い出せったって……」
  何だか意味は分からないけどクリスは私の身柄の安全をオータムに要求しているらしい。
  とはいえパスコードを教えるつもりはない。
  厳密には知らんけど。
  出し抜けるか。

  ぷしゅー。

  ん?
  新たに軍服の女性が現れた。
  小柄な女性だ。
  緑色の短髪。
  顔立ちが白人っぽくない。アジア系かな。
  「オータム大佐。失礼します」
  「誰だ」
  「クリスティーナ大佐の副官を務めさせていただいている橘藤華大尉であります、閣下」
  橘藤華?
  日系か、彼女。
  じゃあ髪は染めているだけなのかな。
  「サーヴィス少佐」

  ぷしゅー。

  オータムが苛立たしそうに言うと再び扉が開く。
  今度は長い銀髪を後ろに結った男性だ。
  綺麗な顔立ち。
  女でも通用するな。
  「何でしょう、大佐」
  「誰も通すなと言っておいたはずだ」
  「しかしクリスティーナ大佐から特命を帯びてきた、と大尉が言ったので……」
  「サーヴィス……あなたがサーヴィス少佐ですか」
  そこまで言いかけると藤華はサーヴィスと呼ばれた男性に噛みつく。
  名前も知らずに押しとおったようだ。
  何か私放置?
  そんな気がする。
  まあ、勝手に噛み付きあってればいいさ。
  「初めまして大尉。オータム大佐の副官を務めているサーヴィス少佐です」
  「どういうつもりですか少佐」
  「どういうつもり、とは?」
  「ガルライン中佐と中佐の第8歩兵連隊をクリスティーナ大佐の指揮下に移籍させたことです。あなたが参謀本部に口利きしたと聞いています。何の魂胆でしたのですか?」
  「私がオータム大佐の派閥の二番手になるためです。それに中佐の代わりに大佐はタロン社を手にしました。代替以上の戦力を大佐は保持したわけです」
  「……俗物」
  「今のは聞かなかったことにしますよ、大尉。派閥が違うとはいえ私が上官なのをお忘れなく」
  「もういい」
  オータムは2人に割って入る。
  「大尉、何しに来た。クリスティーナの使いできたのだろう、何だ?」
  「赤毛の冒険者の身柄は我々が預かるとの約束のはずです、閣下。父親、科学者、仲間もです。にも拘らず閣下は父親を……」
  「今は渡せん。浄化プロジェクトは最優先事項だ。クリスティーナとの約束よりも上位になる。パスコードを入手次第、この女はくれてやる」
  「それでは約束が……」
  「手ぶらで帰ればクリスティーナに可愛がってもらえなくなるのか?」
  「……」
  クリスって本当に同性愛者なのかな?
  もうどこまで演技でどこまで本当なのか分からない。
  「大尉、失言だったな」
  「いえ。お気遣いなく」
  さすがに言い過ぎたことに気付いたのだろう、オータムは詫びた。
  私は黙って聞いてる。
  ふぅん。
  エンクレイプって一枚岩じゃないのか。
  「以上だ。下がりたまえ大尉。……それよりサーヴィス、第一空挺師団は出撃したのか?」
  「先ほど物資を積み込み出撃しました」
  「お待ちください閣下」
  「今度は何だ、大尉」
  「閣下の第一空挺師団はレイブンロックに待機のはずでは……」
  「サーヴィスに進言されるまではな。第二、第三空挺師団では各方面軍の補給が滞っているらしいので支援しているのだよ。それがどうした」
  「いえ」
  派閥。
  対立。
  勝手にやってください。
  私は関係ない。
  適当にやりあって適当に潰しあえばいいさ。
  しかしギャラリーは飽きますな。
  藤華とかいう奴はサーヴィスという奴が嫌いらしい。バチバチと視線を交差させている。
  ……。
  ……で?
  私が自由になれるのはいつ?
  ともかくクリスの思惑がオータムの行動の邪魔をしている。
  思惑が何かは知らんけどさ。
  利用はできる。
  「閣下。赤毛を引き渡していただけないでしょうか」
  「パスコードを吐けばな」
  「しかし……」
  「くどい」

  「まあ待ちたまえオータム大佐。彼女に興味がある。彼女の身柄を私が預かろうではないか。話してみたいのだよ、2人だけでね」

  エンクレイプラジオの声が部屋に響き渡った。
  エンクレイブラジオの声、つまりはエデン大統領の声。
  こりゃ大物が出来たわね。
  ということは、何?
  ここってもしかしてエンクレイプの本拠地ってこと?
  ふぅん。
  敵の懐にいるのか。
  案外ついているのかもしれない。
  ま、まあ、全裸を隅々まで確認されたり生理的現象を連中に1週間管理されちゃったりと黒歴史満載ですけどね。
  ……。
  ……悪夢よね。もうお嫁にいけない(絶望)
  おおぅ。
  「しかしエデン大統領……」

  「下がりたまえ大佐。さて大尉。ご足労だが彼女を私のオフィスまで連れてきてくれたまえ」

  「了解しました。エデン大統領」
  オータムの歯ぎしりが聞こえたかな。
  踵を返して歩き出す。
  「行くぞサーヴィス。G.E.C.K.を私の専用ベルチバードに詰め込めさせろ。大統領と赤毛の会談が終わり次第、赤毛を連れてジェファーソン記念館に向かう」
  「はい」
  そのまま2人は立ち去った。
  残っているのは私と藤華だけ。
  彼女は口を開いた。
  「先に言っておく。クリスティーナ大佐がお前をご所望だから、私はそれに従う。でも手を煩わせてごらんなさい、その瞬間に殺す。いいわね?」
  「……」
  うわぁ。
  こいつマジな目だわ。
  分が悪い。
  「ええ。分かったわ」
  「フィールドを解除する。おかしな真似をしないように。手錠はかけないけど、信用しているわけじゃないから。さあ、来なさい」
  「……」
  「そう。抵抗するのね。仕方ない」
  「いやいやいやっ! 抵抗しないけど、その、服をくれると助かるんですけど。ほら、何というか、生尻状態だし。このまま基地内を練り歩くのも……」
  「捕虜のくせに生意気ね」
  「……生意気を謝罪するのでせめて下着をプリーズ……」
  「やれやれ」






  その頃。
  キャピタル・ウェイスランドにおけるエンクレイプの総司令本部レイブンロック内。
  ハンガーに繋がる直通通路。

  「オータム大佐。ジェファーソン記念館の研究員から面白い話が」
  「何だ」
  「浄化装置のシステムのハッキングに成功したそうです。パスコード抜きでは稼働はできませんが、データを解析、引き抜くことはできます」
  「ほう。それで?」
  「データ解析すれば暴走し装置ごと施設は爆発を起こします。しかしデータを抜き取るだけの時間はあります」
  「最悪データだけ入手できる、ということだな」
  「はい、大佐」
  「一つ聞くが暴走した状態で正確なパスコードを打てばどうなる?」
  「暴走は解除されシステムが稼働するようです。ダイタルベイスンの水は浄化されます。しかし、コントロール室は放射能が満ちて閉鎖されます。大佐の時と同じです」
  「暴走させ、データを抜き、赤毛にパスコードを打たせる……ふっ、奴を追い込む手としては使えるな。奴が打ち間違えて吹き飛んでも知ったことではない」