私は天使なんかじゃない
ボルト87 〜突破〜
知識は必ずしも人を幸せにするとは限らない。
「こっちだ」
新たに知り合ったフォークスというスーパーミュータントの先導で私たちは進む。
先頭は当然フォークス。
次に私、デズモンドは今度は後衛として敵を警戒しつつ進んでいる。
道案内がいるのは心強い。
まあ、PIPBOYあるからルートが分かるといえば分るけど、道案内してくれる人がいるというのは心強いものだ。要は人数多い時が楽になる。
戦力的には?
うーん。
未知数よね。
フォークスは武器を持っていない。
あの場には武器になるものはなかったし、上層でのごたごたで結局武器庫はスルーしちゃったし。
まあ、スルーしなくてもあの時点ではフォークスにはあってなかったわけだからどの道、彼用の武器はないけど。さすがにこの出会いを見越してミニガンをゲットしておくとか無理だし。
私の武器を貸すにしても44マグナムは使えないだろうし。
指太いから引き金引けないだろ。
アサルトライフル貸す?
確かにあれは私のだけどデズモンドは拒否した。
要はフォークスを信用していないのだ。
射殺できる立場でいたいのだ。
でも私は疑った末の敵対はしたくない。
何故?
……。
……まあ、私の性格よね。甘いけど。
だけどフォークスに限っては問題ないだろ。
少なくとも騙ってるタイプではない。
これで実は騙し討ち用に配置された敵であるならば、見抜ける奴いないだろ。
それに。
それに彼が監禁されていた部屋の扉には薬殺できるスイッチがあった。
つまり私たちが殺そうと思えばあの時殺せた。
リスクもなくね。
雑魚ミュータントならともかく確固たる意志を瞳に宿らせたフォークスはそんな一か八かの策を使う為に配置はされんだろうと思う。仮に配置されても彼は策に殉じないだろう。
自分を持ってる、彼は。
策の為に死ぬタイプではない。
何より彼は生きようとしていた。生きたいという眼だった。
だから信じた。
まあ、デズモンドは不服そうだったけど。
さて。
「……なあ、赤毛さんよ」
「何?」
フォークスの先導で進む私達。
歩きながら小声でデズモンドが囁く。
まあ、言いたいことは分かるけど。
「彼なら心配ないわ」
「その自信がどっから来てるかは知らんけどな。まあ、知るつもりもないし同調するつもりもないがな。今なら殺れる、面倒になりそうなものをわざわざ背負い込む必要はないだろ?」
「……」
「何故黙るんだ?」
「それ私らにも適用されない?」
「ちっ」
舌打ち入りましたー。
あざーす。
「言いたいことは分かるけど、彼は問題ないわ。そこらの雑魚ミュータントじゃない、頭のないブリキの兵隊じゃない」
「知性の有無が敵味方の証明か? 教授に同調してる奴かもしれんだろ」
「それはないわ」
断言する。
凛と。
「何故だ?」
「必死に生きようとしている眼だから」
「ちっ」
舌打ち入りましたー。
あざーす。
これだけは明確にしておかないといけないから、私は彼に言う。
「お互いにやるべきことをやりましょう。私はG.E.C.K、あなたは教授、フォークスは自由。望むものはそれぞれに違う。やるべきことをしましょう。狙いは彼じゃない、でしょう?」
「……」
「デズモンド」
「ああ。分かったよ。ただ、面倒な事になったらあんたがそいつをどうにかするんだぞ、赤毛さんよ」
「ええ。そうね」
それっきり彼は黙る。
敵がまるでいないとはいえ会話していると隙が生まれる。警戒がおろそかになる。集中が途切れる。
注意しなきゃ。
「ミスティ」
「うん?」
今度はフォークスが囁く。
私たちを案内して進みつつ、振り向かずに囁く。デズモンドには聞こえてないかな?
まあ、微妙な距離感ではあるけど。
「庇ってくれてありがとう」
聞こえていたらしい。
デズモンドの舌打ちが聞こえたかな。
なんだ。やっぱり小声の話は聞こえる距離か。
まあ、そうよね。
フォークスは普通の声の高さに戻して私たちに言う。
「この区画は完全にプロフェッサーしか入れない。少なくともマスター級までは立ち入りが許可されていないし連中も恐れて入ってこない。ここの聖域のようなものだ」
「聖域ねぇ」
そんなにきれいな響きの場所かなぁ。
禍の源のような気がするけど。
「雑魚がエンカウントしないのは楽だけど、マスター級までって意味深に言ったわね。つまりそれ以外は出てくるのね?」
「プロフェッサーが眠っているジェネラルたちをけし掛けてくる可能性は充分にある」
「患者どもはどうなんだ?」
最後尾からデズモンドが問う。
口調が荒々しい。
フォークス本人が嫌いというよりは疑心があるからなんだろうな、彼が敵じゃないかとまだ疑ってるらしい。
「患者……ああ、能力者実験で改造されたFIV被験者たちのことか。そうだな、連中は施設中を徘徊している。私たちを視認したら立ち入り禁止エリアなど関係なく襲ってくるだろう」
「もう一つ聞きたい。教授はどんな姿だ?」
「今まで見たことない奴追ってただなんておかしな話よね」
疑問に感じて私が口をはさむ。
振り向くと彼は肩をすくめた。
「200年奴と追いかけっこさ。俺が見てきたのは、奴の痕跡と奴が差し向けてくる刺客だけだ。200年前の容姿は知ってるが、今のは知らん。ずっとグールだと思ってるが顔は知らん」
「プロフェッサーはグールではない。若い男だ。ヒューマンだよ」
「若い? ヒューマン? ……ありえない。200年前より若返ってる? まさかここも外れなのか、奴の痕跡の一つなのか……」
ブツブツと呟くグール。
ポジティブに行くとしよう。
「デズモンド。ここまで来たらどの道ここを潰さなきゃ終わらないでしょ。回れ右して帰るより、ここの親玉倒す方が早いわ。でしょ?」
「ふっ」
鼻で笑われた。
失礼な。
「何よ」
「赤毛の冒険者が、地獄のようなキャピタル・ウェイストランドで有名になったのが分かった気がするよ。底抜けに明るいから、あんたは挫折しないんだな」
「そりゃどうも」
褒められてるんだかけなされてるんだか。
うーん。
微妙なところね。
「ところで赤毛さんよ」
「何?」
「あんたは何人編成でここに来たんだい?」
「2人」
「……すまない。よく聞こえなかった。たぶん聞き間違いだろうしな。それで、何人編成なんだ?」
「2人」
「……」
デズモンド、無言で立ち止まる。
私たちも止まる。
「どしたの?」
「……い、いや。いい。コメントしようもない。ただ言えるのは、あんた完全にバカだろ」
失礼な。
まあ、はたから見たら非常識なんだろうけどさ。というか私も自分たち以外がしてたら同じ感想だろう。
ただこれで成り立つのだから仕方ない。
私もグリン・フィスも人類規格外だし。
「コミュニケーションは楽しそうでいいな」
「あなたも混ざりなさいよ、フォークス」
「いいのか?」
「もちろん」
嬉しそうな顔をした。
会話に飢えてたんだろうなぁ。
分からなくもない。
閉じ込められてたわけだし。
それに雑魚ミュータントは完全に頭が弱いし、フォークスと会話可能レベルじゃないし。それ以前に処刑待ちのフォークスとは話さないのかな。
「それよりもとっとと行こうぜ」
デズモンドに促されて行軍再開。
確かに止まっている場合ではないか。
……。
……というかあんたが止まったんじゃん、デズモンドさんよぉ。
まったく。
自分勝手な奴。
「そうだな。行こう。こっちだ」
「ところでフォークスは昔の記憶があるのよね?」
疑問を口にする。
もちろん歩きながらだ。
ヒャッハーどもに捕捉されるのは面倒だしとっととケリつけに行くとしましょう。
「本当におぼろげだ。白衣を着た連中に連れられて研究室に入る、その程度の記憶だ。思い出そうとすれば思い出せるのかもしれないが、頭痛が酷くなる」
「そっか。辛いね」
「慰めてくれてありがとう。だが、吹っ切ることにしているんだ。過去は戻らない。今を生きるしかないと思う」
「あは」
「……? 何がおかしいんだ?」
「アンクル・レオみたく哲学的だなぁと思ってさ」
「アンクル……誰だ?」
「スーパーミュータント。私の親友」
「ああ。前例があったのか。それで私に偏見がなかったのだな」
「たぶんそれはボルトの穴蔵育ちだからだと思う」
ゴブ見たときもなんとも思わなかったし私の性格というよりは環境かな。ボルト101に帰郷した際にカロンいたけど誰も何も言わなかったし。
環境って大きいんだなぁ。
「ミスティ。生まれた理由が何か分かるか?」
「生まれた理由?」
「ミスティは何のために? 私は何のために?」
一応デズモンドに振り替えると勝手にしてくれというジェスチャーをした。
会話に飢えてたんだなぁ、フォークス。
付き合うか。
「生まれた理由、ね」
「そうだ」
「そんなもんないわ」
「ない?」
「ない」
「どうしてか聞かせてほしい」
「生き物は生き物よ。人間だって生き物。特別でも神様のお気に入りでもない。生き物。生まれた意味なんてないのよ、動物とか昆虫と同じ。増えて減って、減って増えて。
同じサイクルを繰り返してるだけ。生まれた理由はない、でもさ、生きた結果に理由がついてくるんだと思うのよ、私は」
「つまり?」
「つまり、最後まで生きて、それによって自らの意味を、生きた意味を定義するんじゃないかな」
「興味深い話だ。そして心地いい。こういう会話がしたかったんだ」
「よかったわね」
フォークスは知的で理性的。
だけど失敗作。
ふぅん。
「教授って本気でブリキの兵隊だけがほしいのね」
「それは否定できないな。私が排除されたのもおそらくは思考があるからだと思う。私以外の者たちも思考力はあるが……知性があるとは言い難い」
「そうね」
フォークスは過去の記憶があるから排除。
アンクル・レオの場合は過去の記憶はないけど今の在り方に疑問を持っていた。結果として哲学的な考え方ができるようになった。故に追われた。
ふぅん。
教授って奴は随分と俗物な野心家らしい。
ふんぞり返って王様気分ってわけだ。
「殺人タイムだーっ!」
やれやれ。
後方から声が響き渡った。
そしてドタドタと走る音。
無数に。
「なんかえらい勢いで走ってきてる連中がいるぜ。まさかお仲間さんじゃないよな? お仲間さんなら、友達は選べと忠告しておくよ」
「冗談。グリン・フィスは品があるわ」
「安心したぜ」
デズモンドの呟きに私は頷き、臨戦態勢。
数は13。
間合いさえ保てば問題あるまい。敵は無手だし。
二つの銃口を連中に向ける。
能力者どもだ。
どの程度の戦闘能力があるのかは知らないけど普通の人間とは思わない方がよさそうだ。もっとも武器も持たずに突撃してくるから寄せ付けなければ敵ではあるまい。
無手なのは何か意味があるのかな?
最初に出た奴も含めて等しく非武装で登場する。
もしかしたら武器を使うほどの知能もないのかもしれない。知能というか発想というか。能力付与の代償に知性を失ったのかもしれない。
まあいい。
排除するっ!
どくん。
どく……。
「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!」
そうでした。
能力者同士は反発し合うんでした。
敵さんの方も何人か頭を押さえてひっくり返ってる。何らかの能力を行使していたらしい。何かは知らんけど。
バリバリバリ。
アサルトライフルを掃射して敵を寄せ付けないデズモンド。
接近を許さない限りは能力者といえど的でしかない。
バタバタと倒れていく。
先ほどのスーパーミュータント戦での共闘の際にも思ったけどデズモンド、銃の腕が良い。無駄なく相手を射抜いていく。
ただし例外が1人。
「ヒャッハーっ!」
「ちっ」
舌打ち。
何発か受けても平然と走ってくる奴がいる。
体力が強化されてるようだ。
頭を押さえながら私は叫ぶ。
「高く掃射してっ! 頭を狙って!」
「了解した」
強化されているとはいえ人間だ。
頭潰されたら死ぬ。
ある程度タフになっていたとしても頭は致命傷だ。生物としての枠にとらわれている以上、そこは鉄板だ。
次々と倒れていく能力者たち。
撃ち尽くしたときには敵は完全に沈黙。デズモンドは悠々と弾倉を交換した。
これで彼の残りの弾倉はまるまる二つ。
まあ、自前の9oピストルあるから弾倉尽きても戦力外ではないけど。
あー、頭痛かった。
「……うー」
「赤毛さんよ、どうしたんだ?」
「片頭痛みたいなもん」
としか言いようがない。
能力者同士ってめんどくさいな。
お互いに能力行使したら反発し合って戦いどころじゃないほどの頭痛に襲われるし、一方が使わなければ使った方の奴が超有利だし。
駆け引き?
んー。
より純粋にめんどくさい。
まあ、FIVウイルス感染者なんか基本いないから能力者バトルが主流になることはないかな。
基本的には自然発生するもんじゃないし。
人為的に作るにしてもここ潰せば後腐れなく禍根は断てるし。
それに細胞レベルで適合しない場合はおそらくケンタウロスになるだろうし。細胞レベルでの適合、確率的にはおそらく奇跡の範疇だろう。
「……うわぁ……」
「……? 本気で大丈夫か、赤毛さんよ」
「お構いなく」
「ならいいが」
今嫌なこと考えちゃった。
ケンタウロスかぁ。
嫌だなぁ。
ああはなりたくないです。
もちろん人体実験の犠牲になった人たちには悪いんだけど……あれは嫌だなぁ……。
「ミスティ。体に問題ないならそろそろ行かないか?」
「そうね。フォークス」
「プロフェッサーのいる研究区画はすぐそこだ。ミスティ、デズモンド、君たちの望むものがそこにある。もちろん恩義があるから私も協力するぞ」
「ありがとう」
目当てのものは研究区画、つまり教授撃破も込みで考えないといけないらしい。
まあいいさ。
いつも通りの展開だ。
奴隷商人は退場した、その前にはレイダーを統括していたエリニースも退場した。まあ、レイダーに関しては一山幾らな雑魚はまだ大量に残ってるんだろうけど。
そろそろスーパーミュータント達にも退場してもらわないとね。
グリン・フィスが交流していないけど仕方ない。
「行きましょう、フォークス、デズモンド」
「微力ながら協力するぞ」
「了解した」