私は天使なんかじゃない






ボルト87 〜相棒〜








  
戦いには相棒が必要だ。






  「こんのぉーっ!」
  「まったく。こんなに抵抗が激しい施設だとは思わなかったぜ」
  一斉掃射。
  私はアサルトライフル、デズモンド・ロックハートと名乗るグールはコンバットショットガンを乱射。
  お互いにそれぞれ向い合せになっている部屋に立てこもり、銃身だけ出して通路に集まりだしているスーパーミュータントを蹴散らしている。
  連中の人海戦術もこういった狭い通路では意味がない。
  むしろただの的になるしかない。
  面白いようにバタバタと倒れていく。
  一人での戦いなら弾倉交換している際に虚を衝かれるかもしれないけど、このデズモンドと名乗るグールのお蔭でその心配もない。お互いにカバーし合えるからだ。
  まあ、今のところはね。
  この後の予定?
  さてね。
  それはこいつ次第だ。
  私と同じものを狙ってここに来たのであれば、その時は敵対する可能性もあるけど……うーん、戦う前の会話のニュアンス的には違う気がする。
  スーパーミュータントの製造者に用があるようだ。
  たぶんね。
  まあ、いい。
  今のところは仲間とみてもいいだろう。
  お互いに利用し合うだけの関係とはいえ相棒がいるといないとでは難易度が変わる。
  ……。
  ……まあ、展開次第では相棒がラスボスに変わるという仕様もあるわけですけど。
  さてさて。
  「しつこいなぁ」
  実験台にされたであろう人間はいないけどスーパーミュータントは執拗に突撃してくる。
  もちろん全て返り討ち。
  粉砕してる。
  だけどこうもしつこいと弾丸がもたない。
  「赤毛さんよ」
  「何?」
  「その腕の機械で最下層のルートが分かるだろ? ルートを検索してくれや。うちのナビゲーターはとっく永眠してるんでな、行先が全く分からん」
  「何あんた迷子なの?」
  「……やめろ。プライドってもんがあるんだ。そういう言い方はよせ」
  「そりゃ失礼」

  ピピピ。

  一時射撃を中断してPIPBOYを弄る。
  ルートは……よし、分かる。
  あれ?
  「あんたの行き先と私の行き先が被らない場合もあるんじゃない? 私は……」
  言いかけてやめた。
  狙いが同じ場合、ここでズドンもあるわけだし。
  まあ、やられませんけど。
  「俺は科学者に用があるんだよ」
  「科学……ああ、プロフェッサーとかいう奴?」
  「教授って言う方がしっくりくるな」
  「意味同じじゃん」
  「日本語と英語では響きが違う」
  「意味の分からんことを」
  ふと思う。
  こいつスーパーミュータントのボスを知ってる?
  「教授って?」
  「全面核戦争前から因縁のあるクソ野郎だよ。あいつの足跡をずっと探してたんだ。あいつの放つ刺客を蹴散らしながらな。でここキャピタル・ウェイストランドにたどり
  着いたってわけだ。あの野郎はスーパーミュータントを作って世界を支配しようとしてやがる。マリボサのザ・マスターと同じようにな」
  「えーっと……」
  情報が断片的過ぎてまるで分らない。
  核戦争前?
  ということはさっきの科学者は別物?
  そうよね。
  さすがに200歳には見えんかったし。
  だとしたら教授はグールか何かか。
  「それよりもっ! ルートは分かったのかっ!」
  「怒鳴らないで。聞こえてる」
  次第にデズモンドはスーパーミュータントを捌ききれなくなってる。
  数が多すぎる。
  「道は分かったけど、どうするの? 殲滅するには弾丸が足りないわ。いえ足りるけど、出来るだけ温存しないと」
  「合図したら行先目指して走れ。グレネード投げて連中の足止めする」
  「おっけぇ」
  「よし……行けっ! 援護するっ! 振り向かずに走れよっ!」
  通路に出て走る。
  デズモンドは私をカバーする形で乱射、そして何かのピンを抜く音がする。私は振り返らずに走る。
  数秒後、爆発音と悲鳴が響き渡った。
  だけど私は振り返らない。
  うなじに熱い風を感じながら走り続ける。



  「はあはあ。あー、疲れた」
  「まったくしつこいデカブツどもだったぜ」
  あの後。
  あの後、私たちは何とか敵さんを出し抜きながら最下層に向かって走り続けた。
  今は休憩中だけど。
  ボルト87にある部屋の一つに隠れてる。
  何の部屋、うーん、ごみ置き場?
  大量の骨が散乱していた。
  一欠けらの肉もついていない完全なる白骨のみなので匂いの心配がないのがいい。……まあ、全体的に生臭いんですけどね、この施設。視覚的に白骨もよろしくないしなぁ。
  今お互いに弾丸を確認してる。
  多少心許ないけど、まあ、しばらくは戦える。
  もっとも。
  「グレネード弾があと一発しかないから派手な戦いは無理。デズモンドは?」
  「俺はもうグレネードはないよ。コンバットショットガンもただの飾りだ」
  そう言って彼はショットガンを背負い、腰に差していた9oピストルを引き抜いた。この展開では豆鉄砲みたいなものだ。
  雑魚のスーパーミュータント倒すのに弾倉まるまる一本必要だろうよ、あれじゃあ。
  仕方ない。
  「私のアサルトライフル貸してあげるわ。弾倉はまるまる三つある。これがあれば何とかなるでしょ」
  「はあー?」
  怪訝そうな顔をするグール。
  何故に?
  「あんた頭大丈夫か?」
  「……? いやいやそんな豆鉄砲で戦い抜こうって方が頭大丈夫? 何、女に借りを作るのはプライドが許さないってやつ?」
  「……」
  「何?」
  「あんた、面白いな。というか変な奴だな」
  くくくと含み笑いする。
  訳分からん。
  「どこの誰だか分からん奴に大切な武装貸すってか? あんた長生きできないタイプだぜ」
  「冗談。おばあちゃんになるまで生きるわよ、私。大往生するのが夢。まあ、それにマグナムあれば大抵は何とかなるし」
  弾丸もある。
  問題ないだろ。
  通路は狭いし44マグナムがあれば十分立ち回れる。
  広い空間に出たとき?
  まあ、そんな時は能力発動すれば問題ないだろ。
  弾丸は視界に入る限りは常にスローになるし、集団出てきても時間をスローにする能力使えば戦える。
  ……。
  ……いや、加速装置的な能力かな、あれは?
  使ってる本人の私がまるで意識せずに今まで使ってきた能力なので概要が分からん。誰からも説明受けてないし。
  まあ、瞬殺できるだけの力があるってことだ。
  この装備でもね。
  アサルトライフルと弾倉を渡す。グレネード弾もだ。
  「銃は後で返してね。お気に入りだし」
  「……おいおい。本気で渡す気かよ」
  「そうね」
  「あー、あれだ、赤毛さんよ。こんなことは俺の主義として言いたくはないんだが……どうもありがとう」
  「あは」
  笑うと彼はそっぼを向いた。
  なかなか照れ屋な性格らしい。
  さて。
  「これで装備が整ったわけだし行こうか」
  「ああ。前衛は俺がするよ」
  「お願い。……あっ」
  「ん?」
  「進む前に聞きたいんだけど、ジェリコってあんたが雇った?」
  「ジェリコ? ああ。あいつね。ここ襲撃するのにランプライト通りたかったんでな。雇った傭兵の一人だよ。失敗したがね。奴がかき集めた傭兵は
  死んだか逃げたか知らんが戻ってこなかった。ジェリコもな。力押しは無理だとおももってな、グールの傭兵雇って別ルートで来たのさ」
  「ふぅん」
  「それがどうした?」
  「いえ。別に。さあ行きましょう」
  「了解だよ。赤毛さん」
  マクレディ市長は殺人通りに捨てたと言ってたな、ジェリコ。
  能力者に改造されたのか、はたまたスーパーミュータントになってるのか、出来そこないのケンタウロスになったのか、もしくは貴重な食料になったのか。
  まあ、まともな最期ではないわね。
  奴にはピットでの仮がある。
  ジャンダース・ブランケットがやったのかジェリコがやったのかは知らんけど意識のない私を全裸に剥いて奴隷服着せやがった。
  どっちが主犯にしても、片方も与り知らないわけではないから同罪だ。
  偽ワーナーは死んだ。
  あとはジェリコだけ。
  貞操の危機がリアルにあったんだ、これぐらいの復讐は当然だろう。私自身が下せなかったことに不満はあるものの、これはこれでいい末路だろう。
  私たちは進む。
  最奥へと。



  無駄のない動作で私たちは進む。
  下へ下へと。
  どういうわけか下層へと進むたびにスーパーミュータントの追撃が鈍くなってくる。立ちはだかる連中も少なくなってくる。
  武装を貸した場所から三層下ると完全に敵はいなくなった。
  まったく?
  まったく。
  白衣の奴も、奴がけし掛けた能力者っぽいヒャッハー達も全くあれから姿を見せていない。
  ……。
  ……グリン・フィスもね。
  もちろん悲観はしてない。
  彼のことだ。
  人間っぽい奴らを纏めて彼が相手しているのだろう、私はそう思う。
  強がり、ではなく、まあ、ポジティブに考えようってことだけど、ただのポジティブでは終わらない。
  実際にグリン・フィスは強い。
  いつも私に尽くしてくれる、グリン・フィス。
  労わる意味合いも兼ねて全部厄介終わったら一緒に観光でも行きたいな。そうだ、アンクル・レオにも約束してたっけ。
  皆で遊びに行けたらいいな。
  どこに行こう?
  「デスモンド」
  警戒態勢で前衛を務めて進むデズモンドに声をかける。
  彼は振り向かず、立ち止まらずに答えた。
  「何だ? 何か問題が?」
  「観光地知らない? 冒険できるようなところ」
  「……」
  「デズモンド?」
  「……状況分かってるのかよ、赤毛さんよ」
  「気分転換よ」
  「はあ。キャピタル・ウェイストランドはどこでも冒険できるさ、硝煙と血の匂い、枯れた大地に廃墟、まさに冒険日和だぜ」
  やけっぱちに答えられてもねぇ。
  「風光明媚なところが良いんだけど。私ボルト育ちで出て間もないし分かんないし。キャピタル・ウェイストランドは、まあ、分かるけど別の土地がいいかなぁ」
  「じゃあポイントルックアウトにでも行くんだな」
  「ポイントルックアウト?」
  前に聞いたことがあるような。
  未開の地だっけ?
  「うっそうと茂るジャングルに亜熱帯の気候、沼、ハンティングでもお宝探しでも出来るところさ。最近は港に歓楽街もできたし良いところだぜ。まあ、原住民刺激したら八つ裂きに
  されるから侵入できる部分のジャングルは限られてるがな。あとは、そうだな、お宝探しのスカベンジャーも気をつけな。レイダー並みに獰猛だ」
  「ありがとう。参考にするわ」
  「そのポジティブさには敬服するよ」
  「どうも」
  「……褒めちゃいないさ」
  やれやれと言い彼は首を横に振った。
  失礼な。
  文句を言おうとすると突然デズモンドは止まった。
  「何だこいつは?」
  目の前には強化ガラスの窓の付いた部屋がある。ボルト101にもあったし他のボルトにもあったからボルトの標準的な部屋なのだろう。
  ここで行き止まり?
  いや。
  通路そのものは伸びてる。直進はここで行き止まりではあるけど、左右に通路が伸びてる。進むべきは左。
  だけど私もデズモンドもその強化ガラスの向こうを見ていた。
  スーパーミュータントが閉じ込められている。
  ここから見る限りでは出入り口に行くには右の通路を進む必要がある。
  まあ、それはいい。
  そのスーパーミュータントは私たちを見つけると喋りだしたのだ。つまりこちらを視認して喋りかけてくる。
  もちろんこれもいい。
  知能そのものは五歳児くらいだけど確かにスーパーミュータントは喋れる。
  ただ強化ガラスの向こうの奴は流暢に話していた。
  アンクル・レオよりもだ。
  そしてジェネラルよりも理知的に。
  「すまないがここを開けてくれないか? 受けた恩は必ず返すよ、約束する。だから開けてほしい。このまま処刑を待つのも忘れられるのも苦痛で仕方ない。助けてほしい」
  デズモンドは構えようとするものの私が前に進み、彼の前に立つ。
  自然彼は撃てない。
  舌打ちが聞こえたかな?
  まあいい。
  「あなたは誰?」
  「私は……いや、まずは聞きたい。私の言葉は変じゃないか?ターミナルで習得したが話すのは初めてだ。変な言葉づかいではないか? 発音は大丈夫か?」
  変なの。
  なんかおかしかった。
  「大丈夫よ。完璧。あなたの言葉は、変な話、そこいらの人よりも上手だから」
  「よかった。心配したんだ、コミュニケーションができるかって。それで君は誰だ? ああ、すまない。私はフォークスと言う」
  「ミスティよ」
  「よろしく」
  「ええ。こちらこそ。……それで、フォークス、ここで何してるの?」
  「閉じ込められたんだ、こうなる前のおぼろげな記憶があるのがばれてね。出来そこないなのだよ、私は。あいつの定義からするとね」
  「あいつ、ジェネラルね」
  「ジェネラル? ああ。プロフェッサーのことか」
  「はっ?」
  ジェネラルとプロフェッサーは同じ?
  デズモンドに振り替える。
  彼は首を振った。
  どうやらプロフェッサー……いや、彼風に言うなら教授ね、そいつを追っていたけど正体は知らないらしい。たぶんずっと同じグールだと思ってたのかな。
  ……。
  ……待てよ?
  この口振りからするとジェネラルの正体を知ってるのかもしれない。
  聞いてみよう。
  「ジェネラルって何なの?」
  「多少知能の高い、上位種だ。マスターの上だな」
  「多少? 結構頭が良い奴だったわよ。登場の際にばらつきがあったけど」
  「奴の頭には何か埋め込まれているらしい。それを通してプロフェッサーがここから操っているのだ。知能のばらつきは、まあ、私も原理は知らんが頭に埋め込まれた
  何かで操りだした時間に関係する。操り始めはジェネラル本来の性格が出てくるらしい」
  「なるほど」
  ははあん。
  それでか。
  ワシントンDCで殺す前は頭良かったのに、再登場のビッグタウンでは粗野な感じがしたのはその為か。まだ馴染んでなかったのだろう、教授の遠隔操作が。
  なるほどねー。
  アンクル・レオが言ってたのはこれか。一人でたくさん。個体数はたくさんいるんだろう、でも一度に操れるのは一体。倒しても起きるってそういうことか。今まで複数同時に
  ジェネラルと遭遇してないから遠隔操作分の奴が動いている間はここで他のは氷漬けか瓶詰にでもされてるんだろう。
  ……。
  ……というか、さっき倒したジェネラルはプロフェッサー云々と言ってた。
  自作自演か。
  何考えてたんだ、教授は。
  「中二病なのさ、あいつは」
  デズモンドが面白くなさそうに呟いた。
  納得です。
  私も同意します。
  「でもフォークス、何でそんなこと知ってるの?」
  「ターミナルで勉強してたんだよ、ハッキングしてね。知識の向上は楽しい。しかしそれが面白くなかったのだろう、ターミナルは壊され私は処刑を待つ身だ。それで」
  「うん?」
  「ここへは何しに?」
  「G.E.C.K.」
  彼は問題ないだろ。少なくとも敵ではないと思う。
  デズモンド?
  彼も敵にはならない可能性が高い。
  何の反応も示さなかった。
  フォークスは笑う。
  「じゃあ、ここから出す理由ができたな。私が案内しよう。出してくれ。頼むから私に自由を与えてくれ。こんな人生は残酷すぎる」
  「……」
  彼を見つめる。
  必死に生きようとしている眼だ。
  コクン。
  首を縦に振った。
  彼は破顔した。
  「絶対に後悔はさせない。受けて恩は返す。ありがとう、ミスティ」
  「いいわよね、デズモンド?」
  「あんたのお人好しは気に食わないが、そのお人好しで俺も生き延びたもんだしな。まあ、今のところはだが。あんたの判断が正しいことを祈るぜ、赤毛さんよ」