私は天使なんかじゃない






ボルト87 〜異能〜








  能力者はこの世に1人というわけではない。





  「よし」
  私は呟く。
  必要なデータはネットワーク上からいただいた。
  情報も地図もね。
  特に地図は重要だ。
  現在グールの武装集団がボルト87を絶賛襲撃中。
  何者?
  さあ、知らない。
  私の知り合いにグールの組織はない。その辺の知識はない。
  ……。
  ……あー、前に反ヒューマン同盟とかいうのがいたな。
  タロン社のカールに雇われてたような。
  アンデールあたりだっけ。
  確かボスの名前はロイ・フィリップスとかいう奴。
  まあ、記憶は曖昧ですな。
  仕方ないよね。
  そんなに接点なかったし。
  でも連中は確かママ・ドルスにおける偽中国軍騒動でボスは死んだし組織も壊滅状態だったはず。規模は知らんから残党がいる?
  んー、いたとしても連中は反ヒューマンであってスーパーミュータントと喧嘩する理由が謎。
  まっ、別にいいか。
  誰だろうと知ったことではない。
  お蔭様でスーパーミュータントの巣窟であるにもかかわらず現在遭遇しているのは死骸だけだ。
  敵の敵が味方とは限らないし共倒れすればいいさ。
  仮に味方だとしても今はそれを知る術はないし、とりあえず我関せずの立場で良しとしよう。
  傍観者のほうが楽だし。
  さて。
  「行こうか、グリン・フィス」
  「御意」
  もうこの部屋には用がない。
  先に進むとしよう。

  ぷしゅー。

  鋼鉄の扉が開く。
  扉は2つ。
  私たちが入ってきた扉、先に進む扉。
  それが同時に開いた。

  『ミライノタメニっ!』

  それぞれの扉にはスーパーミュータン1体ずつ。
  鎧を着ているのが確かマスターとかいうやつ。こいつらは着てないから称号のない雑魚。
  手には中華製アサルトライフル。
  ピット製のを除けばキャピタル・ウェイストランドでは無類の強さを誇るアサルトライフル。
  なるほど。
  幸運はそう長くは続かないようだ。
  だけど慌てるほどではない。

  ドン。ドン。ドン。

  44マグナムを抜いて3連発。
  私たちが入ってきた扉のほうにいたスーパーミュータントの胸に2発、頭に1発叩き込む。
  私の能力は【時間を操る】こと。
  まあ、加速装置的な感じ(超アバウト)。
  もっとも能力使わなくても視界に入る弾丸等はスローに見えるから銃撃戦は怖くない。
  「主、排除しました」
  「さっすがー」
  「光栄です」
  撃ち抜いた奴は生物やめて死骸に転職してるしグリン・フィスはスーパーミュータントを真っ二つにしている。
  とりあえずの敵は排除完了。
  だけど、やれやれだ。
  これからは蜂の巣をつついたような騒ぎとなるだろう。

  「ゲームシュウリョウっ! スグニシネっ!」

  「あー、もうっ!」
  進行方向の扉から無数の雑踏が聞こえる。
  とりあえず意気揚々と叫びながら入ってきたのは1体。その背後には3体いる。おそらく犇めいているんだろうけどこいつらやっぱり脳ミソ筋肉。
  何体いようとこれは敵じゃない。
  自分たちの体格を理解していないのだからね。
  犇めいているから先頭に立っている奴しか戦闘できないし後退もできないわけだから前に出るしかない。背後のその他大勢も身動きが取れない。
  瞬間的にサシでの勝負なら問題はない。
  敵じゃあない。
  「私がやる」
  言いながらホルスターからもう一丁の44マグナムを引き抜く。

  ドン。

  「バカナーっ!」
  「ふん」
  額を撃ち抜く。
  後ろにひっくり返る先頭のスーパーミュータント。しかし後ろが邪魔で倒れきれない、もたれかかるようにご永眠。懐いておりますなぁ。
  一番乗りの奴にもたれれかかってるのもその後ろが邪魔で進退窮まってる。
  つまり?
  つまり身動きできない状態。
  「バイ♪」
  軽くウインク。
  2丁の44マグナムを連打。パワフルな拳銃から次々と弾丸が吐き出され、吸い込まれていく。
  スーパーミュータントの体に。
  倒れては次が悪戦苦闘しながら前に出て、ご苦労様と声をかける前に次も倒れ、以下エンドレス。
  進むもできず下がるもできずで的になるだけ。
  30秒で邪魔は消える。
  ちょうど弾倉は空。
  空の薬莢をバラバラと床に捨てて新しい弾丸を装填。そしてホルスターに戻す。
  障害は消えた。
  とりあえず今のところは。
  まあ、敵の本拠地なので敵さんはたくさんいる。グールのお蔭で楽できたけどそれも終わりのようだ。
  背負っていたグレネード付きアサルトライフルを手に取る。
  楽過ぎたのは事実だ。
  今までの展開からすると今回は楽だった。
  でもそれももうお終い。
  「グリン・フィス」
  「はい」
  「戦闘開始よ」
  「御意」



  バリバリバリーとアサルトライフル連射しながら私たちは進む。
  どうやら休憩時間は終わったらしい。
  通路を進めば進むほどスーパーミュータントの数が増える。
  まあ、的だ。
  要はさっきの室内での戦闘と同じだ。
  こいつらは結局一列の状態だから通路で遭遇する限りは敵じゃあない。
  数揃えてもね。
  むしろ数が多いほどこいつらのほうが進退窮してしまう状況。
  それにグリン・フィスは鹵獲した中華製アサルトライフルを使って応戦している。見た感じあんまりうまくない。単発銃の32口径ピストルは卒なく使ってるけど連射系は不慣れのようだ。
  撃つたびに反動で銃口がぶれるのは、まあ、仕方ないんだけど本人はそれに気づいていないらしい。
  命中率にばらつきがある。
  まあ、狭い通路&巨体の敵、なので撃てば当たる状況だけど野戦ではまだまだかな。
  「そこっ!」
  「ソンナ、バカナ」
  弾丸は充分にある。
  スーパーミュータントはバタバタと倒れていく。
  連中のホームグラウンドだけど今のところすべて私のターン状態。
  「弾幕薄いぞ何やってんのっ!」
  「御意」
  ここに殴りこんだ際の弾丸は半分ぐらい既に使ったかな?
  戦闘開始宣言してから一気に大挙して敵さんが現れだしたから激戦。ただ弾丸の消費量よりも連中の手持ちを鹵獲する量が上回る。
  大抵敵は満足に撃てずに沈黙。
  私たちはそれを回収。
  結構な量の弾丸を携帯しているからかなりおいしい。
  中華製アサルトライフルもキャピタル・ウェイストランドに一般流通しているタイプのアサルトライフルも弾丸の種類は同じ。互換性はある。倒せば倒すほど魂は増える。
  この流れでいけば全滅させる量の弾丸は確保できる。
  敵さんからね。
  まあ、全員が全員同じ武装ってわけではもないけどさ。
  ハンティングライフルの奴もいるし殴打系の近接武器スレッジの奴もいる。だけど最終的に殲滅するだけの弾丸は確保できるだろうよ。
  何故?
  だってデータベースから情報抜いたもん。
  武器庫の場所も分かってる。
  足りなくなったらそこから頂戴するだけだ。
  さて。
  「おかわりは……・いないみたいね」
  「当面は」
  「結構。さて、進みましょうか」
  「自分が先導します」
  「お願い」
  「御意」
  左手で中華製アサルトライフルを前に突き出して構え、右手はショックソードを引き摺るかのように持ちながらグリン・フィスは進む。
  私は後に従う。
  とりあえず敵はいなくなった。
  にわかに忙しくなったけどグールの武装集団は全滅したのだろうか?
  ありえる。
  もっとも敵の敵が味方だとは私も手放しで信じてるわけではない。
  敵かもしれない。
  味方かもしれない。
  判別がつかない以上、壊滅していても別に構わない。
  欲を言えば共倒れが望ましいけどそれは明らかに欲張り過ぎだろう。
  わざわざ敵味方をはっきりさせるつもりもないし確認という危険も冒したくないのでこれはこれで好都合だろう。
  いずれにしてもスーパーミュータントの数を減らしてくれたのだからこれ以上望むつもりはない。
  「……」
  「……」
  私とグリン・フィスは進む。
  とりあえずの山場は乗り越えたのだろうか?
  もてなしは唐突に止まった。
  ここにどれだけのスーパーミュータントがいるかは知らないけどこの程度の数ではないのは確実だ。
  少なくとも。
  少なくともジェネラルを倒すまでは安心できない。
  巨人どもの陣容も階級も分からないけど前にアンクル・レオから聞いた話から推察するとジェネラルが纏めているのは確かだろう。ジェネラル、つまりは将軍。もしかしたら
  キングとかエンペラーとかいるのかもしれないけどジェネラルは要であり実戦部隊の指揮官。奴を消せれば私も安心できる。
  奴がラスボスなのかラスボスの前座かは知らない。
  でも倒せばクリアは約束されたと同義。
  倒すのに専念しよう。
  まずは引っ張り出さないとね。
  「……」
  「……」
  通路を進む。
  グリン・フィスは止まった。
  私も止まる。
  通路は左右に分かれている。分岐点だ。
  pipboy3000を起動して地図を確認。
  右だ。
  「グリン・フィス、右よ」
  「御意」

  バキっ!

  「はっ?」
  間の抜けた声を上げたのは意外な人物だった。
  グリン・フィスだ。
  通路の左側から飛び出してきた鉄やタイヤの廃材、ありあわせの布で作られたレイダー風の衣装の女性。その女性はいきなりグリン・フィスの銃を蹴り上げたのだ。
  アサルトライフルは宙を舞い、床を転がる。
  あまりにも突然の攻撃。
  グリン・フィスは完全に対処できないでいる。いつもの彼なら気配を読んで先制する、例えそれができなくてもショックソードですぐさま対応できたはずだ。
  珍しい。
  「こんのぉーっ!」

  バリバリバリ。

  グレネード付きアサルトライフルをグリン・フィスを押しのけて連射。
  女は、トサカな髪型なレイダー女は突然四つん這いになり、その体勢では考えられない機敏な動きで右の通路に消えた。
  この位置からはもう見えない。
  人間が何故いる?
  グールの仲間、もしくは雇い主?
  それかスーパーミュータントの仲間か仕切ってる奴?
  「グリン・フィス、大丈夫?」
  「……」
  「グリン・フィスっ!」
  「あっ、はい。大丈夫です。……申し訳ありません。アークエンに鍛え上げられ実戦を積んできた自分ですが、気配を読めなかったことは一度もなかったので動揺を」
  「気配が、読めなかった?」
  「はい。まるで感じませんでした」
  「ふむ」
  グリン・フィスがまるで感じないのであればかなりの使い手だ。
  用心しないと。

  「ふははははははははははははははははははははははははっ! 久しいな、赤毛っ! プロフェッサーの生み出した能力者たちの洗礼を受けるがよいっ!」

  背後から響く声。
  10mほど離れた位置に真紅のスーパーミュータントがいた。
  ジェネラルだ。
  2体のミュータントを従えている。
  親交を深めるつもりはない。
  懐かしむつもりもね。

  
ドカァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァンっ!
  
  グレネードランチャーを叩きこむ。
  瞬殺です。
  アンコールは嫌いなのだよ、私は。なのに奴は何度も登場するから嫌になる。
  何度目だっけ?
  DCの廃墟、ビッグタウン、ピットから帰ってきた際にも倒したよね、オアシス付近で。
  ともかくしつこい奴は嫌い。
  なので雑魚扱いします。
  盛り上がりもなく瞬殺です。
  異論は認めません。
  粉々に粉砕した残骸を見て私は肩をすくめた。
  「ゴメン。忙しいから」
  「イタゾっ!」
  爆炎の向こうから声と足音。
  無数に。
  ジェネラルは吹っ飛んでるけど別の雑魚どもが集まってきたらしい。
  面倒くさい。
  装填してもう一発グレネードランチャーを叩きこむ。
  潮時だ。
  「行くわよ、グリン……うわっ!」
  「しゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!」
  さっきの奴が襲ってきた。
  お友達を連れて。
  「はあっ!」
  一刀両断。
  今度はグリン・フィスは冷静だった。ショックソードで女を真っ二つにした。
  レザーアーマーだったり下着姿だったり女だったり男だったりとするけど、いるのは全員人間だった。
  人間がいるとは驚きだ。
  まあ、等しく瞳がやばそうですけど。
  ヤク中なのか実験されたのか、まあ、たぶん何かの実験台にされた可哀そうな面々なのだろう。もちろん可哀そうだからといって殺されてやる義理はない。
  ただ、明らかに異質な奴がいる。
  白衣を着た奴だ。
  両手をポケットに突っこんで冷やかにこちらを見ていた。
  こいつがけし掛けてる?
  そうね。
  立ち位置的にこいつは立場が違うだろう。妙な集団をけし掛け、高見の見物らしい。ヒャッハーしダッシュしてくる奴らが邪魔であいつを狙撃するのは無理だ。
  そういえばさっきジェネラルが言ってたな。
  プロフェッサーとか。
  こいつか?
  黒い長髪の白衣の……性別が分からん。
  中性的な人物。
  胸の凹凸がないから男なのかもしれない。
  そいつが言う。
  「殺せ」
  さらにスーパーミュータントどももドタドタと近づいてくる。ここに至ると出し惜しみはないのだろう、全部マスターだ。連中の本拠地なわけだし総力戦ってわけだ。
  やれやれ。
  そして……。」



  「どこだ、ここ」
  そしてはぐれるっと。
  私とグリン・フィスは完全に分断されてしまったようだ。
  妙な集団との戦いは激化し、その怒涛なまでの猛攻に分断されてしまった。
  白衣の奴を仕留めそこなったし。
  視界に入る限り銃弾はスローだからスーパーミュータントは怖くない。そいつらを蹴散らしてたらヒャッハーどもが猛攻してきて分が悪くなった。
  何らかの能力があるのだろう、たぶんね。
  あのグリン・フィスが苦戦したから私と同じFIVウイルスを取り込んだ奴らなんだろうけど……知性は感じられなかったな。
  「ああはなりたくないなぁ」
  ぼやく。
  能力に不満はないし別に不安もないけど……ああいうの見せつけられるとやっぱりへこむ。
  同類なわけだし。
  さてさて、それよりどうしたもんかな。
  グリン・フィスはグリン・フィスで勝手に切り抜けるだろうし大丈夫だろう。
  一応私の武装は完全武装のままを維持している。
  弾丸も、まだある。少し心許ないけどよほどの激戦が連発しない限りは大丈夫だろう。もっともここは敵の本拠地だから激戦しかないわけだけど(泣)
  武器庫探して補充しないとな。
  とりあえず武装は大丈夫だし、PIPBOY3000もある。
  なので一応は臆する状況ではない。
  左腕に装着している万能機器がある以上、この施設のマップも分かるわけだし。
  グリン・フィスと分断されたとはいえ私は今のところ迷子というわけではない。
  ただ、はぐれただけだ。
  ……。
  ……それは屁理屈?
  お黙りっ!
  さて。
  「どうしようかな」
  ボルト87の通路を歩きながら私は考える。
  マップは分かる。
  目的地も大体は分かる。
  どこに何があるかはターミナルにあったし、それはハッキングしてある。
  仮に分からなくなったにしても別のコンピューターからハッキングして情報を更新すればいいだけだ。何しろこの施設はまだ生きてる。そしてスーパーミュータントを作っ
  ているであろう、さっきの白衣の奴はコンピューターに何か打ち込んであるはず。日記なり記録なりをね。頭だけで全部を処理するには無理がある。
  つまり。
  つまり、私にしてみたらここはやり易い。
  情報が更新されているわけだから。
  それに。
  「敵いないし」
  スーパーミュータントはここ数分ほど見ていない。
  ふぅん。
  どうやらあの巨人どもの大半は外回りのようだ。
  意味は分かる。
  連中はでかいから施設内ではただの的、そして白衣の奴にしてみたらここに留める必要はないわけだし。目的が何かは知らないけど、スーパーミュータントを軍隊として
  外に放り出してる感がある。まあ、そうね、連中の消費する食事の量がここでは確保できない以上、外に放り出して自活させるしかないわよね。
  施設内にいるのは警備程度に過ぎないはず。
  そしてその警備も誰だか知らないグールの集団とほぼ相打ち状態。
  やり易いわね。
  ただー……。
  「あの連中よねぇ」
  妙なヒューマンどもだ。
  あのグリン・フィスに気配を感じさせなかったわけだから只者ではない。でも力量的な問題ではない、というか力量は大したことないだろ。
  まともに相対したらグリン・フィスがあっさり勝ったし。
  となると連中はやっぱり何か弄られてるのだろうか?
  ありえるなぁ。
  「はあ」
  立ち止まる。
  通路はまっすぐに伸びてる、しかし人が住んでいるという感じはまるでしない。通路に無数に立ち並ぶ扉はどれもまともな状況ではない。
  半開きのままだったり血が塗りたくられてたり破壊されてたり。
  今すぐ右手にある部屋は扉が吹き飛ばされ、中にはジューシーな状態の塊が転がっている。
  ここでお食事があったらしい。
  鬱になるなぁ。

  「ゲームシュウリョウ。スグニシネっ!」

  「ちっ」
  まだデカブツもそれなりには残っているらしい。
  三体立ち塞がる。
  乱射が始まる前に私はお食事後の部屋に飛び込む。銃撃音はその直弧に響き渡った。私はその場にはいないけど。
  44マグナムを引き抜いて構える。
  ドタドタと駆け込んでくるスーパーミュータント達。しかし姿を見せた瞬間にはそれぞれ一撃必殺で屠る。
  今更こんな奴らは敵じゃない。

  「イ、イヤダーっ!」

  肉塊に変ずる。
  ここの連中が拉致された人間のなれの果てなのか、それともボルト時代の住民なのかは知らない。
  ただこれだけは言えるだろう。
  ためらう気はない。
  撃つ。
  それだけだ。
  ここで終わりにしなきゃ。
  ボルト87を。
  弾丸を装填して私は通路に戻る。

  ガン。

  「つっ!」
  突然横合いから鈍い痛みが襲う。
  殴られたっ!
  もちろん警戒してた、油断はしてなかった、しかし……姿は見えない。

  バッ。

  殴ってきた方向とは逆に飛び下がる。
  PYPBOYを起動。
  索敵する。
  反応が一つある。
  まさかママ・ドルスで見たステルススーツ着用の敵がいる?
  ただダメージはさほどない。
  だからスーパーミュータントではないだろう。
  44マグナムをもう一丁引き抜いて身構える。PIPBOYは一つの存在しか補足していない。囲まれてないだけ、楽かな。
  その時、視界に移りこんでくる。
  ゆっくりと。
  ゆっくりと実体化した奴の存在が目に飛び込んでくる。

  「どうよっ! どうよー!」

  「……」
  全裸のモヒカン野郎がそこにいた。
  その、股間丸出しで。
  うにゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ露出狂だーっ!
  何の装置もないのに透明化、何らかの能力?
  私と同じ能力者なのかもしれない。
  もちろん私とは違い、明確な計画の下で作り出された人為的な能力者なんだろう。
  ……というか……。

  「俺に見つかるとやばいぞーっ!」

  確かにやばいしーっ!
  うにゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ目が汚れたーっ!
  光を捻じ曲げてるのかカメレオンみたく背景に合わせてるのかは知らんけどトラウマものだーっ!
  やたら股間を見せつけてくる。
  フットワークが軽いのを見せつけたいのかファイティングポーズしながら飛び跳ねてる。その際に……その、例のモノがプランプラン上下する。
  私も女の子です。
  真っ赤になって俯く。
  うわあああああああああああああああああああああああああん、まともに見てしまったーっ!
  何故か勝ち誇った露出狂。
  カチーンときた。
  な、ならばーっ!
  「ふっ」
  さげすむような視線で鼻で笑ってやるー。
  実際には極力見ないように視線そらしてるけどさ。
  あんなの見れるかゴラァーっ!  
  途端に前身がレイダーぽい改造人間は意気消沈になったように見えた。
  気のせい?
  かもしれない。
  まあいいや。
  また姿が消えつつあるこの敵はさっさと撃ち抜くに限る。武器までは消せないのだろう、だから武器は所持していない。視覚的に大ダメージな奴だけど銃で撃ち抜けば一発だ。
  むしろとっとと始末しなきゃ増援が駆けつけてくるだろう。それは非常にまずい展開。
  構える。

  「あ゛ー」

  「はっ?」
  銃声。
  私じゃない。
  そいつはいきなり頭を吹き飛ばしてご臨終した。
  どさっと転がる。
  銃弾は奴の背後から叩き込まれた。
  撃った奴は私の視界にいる、そして私の持つパワフルな二丁拳銃の射程範囲内、そして私の能力に適した範囲内にいる。
  そこにいたのはグール。
  妙に髪がふっさふっさなグールだった。
  かつらかな?
  コンバットアーマーに身を包み、コンバットショットガンを持ってる。ああ。訂正。正確には私にコンバットショットガンを向けてる。まあ、私も武器を向けてるけどさ。
  敵?
  敵かは分からないけどたぶんボルト87を襲撃してるグール集団の奴だ。
  それも生きてるのは初めて見る。
  私達には口がある。
  コミュニケーションは大切だ。
  例え互いに銃を向け合ってる状況でもね。
  「あんた誰?」
  「会話可能ってことは、あんたはあいつの患者ってわけではないようだな? 会話可能レベルな脳はあるんだろ?」
  「患者?」
  何のことだろ。
  ここにいる妙なヒューマンのことだろうか?
  とりあえずこいつは男性のようだ。グールは外観では性別が分かりづらい。
  グールは続ける。
  「あいつはここでビッグ・エンプティと同じようなことしてるのさ。そう、狂った科学のお勉強をしてるのさ」
  「ビッグ……えっ、何それ?」
  「まずはこれからのことを話し合わないかね? ここに入る前の障害なら排除するが、今はまともな奴と手を組みたい心境なのさ。お互いに折り合いがつけば、だがね」
  「ここに入る前……」
  ははあん。
  こいつか。
  ジョリコたち雇ってランプライトにけし掛けたのは。
  たぶん無理攻めだと悟ったのだろう、だからグールの傭兵を雇ったのか元々の部下なのかは知らないけど、そいつら引き連れてここにきたのか。たぶん
  放射能の濃い、別の入り口からダイレクトにボルトに突撃してきたのだろう。たぶんそれで間違いないはず。
  エンクレイプの部隊?
  グール雇って送り込んできた?
  「エンクレイブってわけでは、なさそうね?」
  「エンクレイプだって? あんな差別主義者どもが俺とつるむわけないだろ。それはミラクルな領域の話だぜ?」
  カロンを思い出す。
  まあ、あのあたりはクリスの個人的な感情だろう。
  「そういうあんたこそ……んんー?」
  「何?」
  「赤毛、ってことはあんたまさか赤毛の冒険者か?」
  「赤毛なんてたくさんいるでしょ」
  「こんな物好きなところに潜る赤毛はあんただけさ。あんたなんだろ? だったら話が早い。組もうぜ。傭兵部隊が全滅して困ってるんだ。お互いに助け合おうぜ」

  「イタゾっ!」

  答える前にスーパーミュータントの部隊が来る。
  数は8体。
  ちまちまとまだ出てくるか。
  挟む形で私たちに向かってくる。挟撃された。
  グールは銃をデカブツに向けながらウインクして笑う。
  「とりあえずは交渉置いといてバトルに専念するとしようぜ、赤毛の冒険者。口論してる間に死ぬのはあんたも嫌だろ? 敵の敵は、今のところは中立ってね」
  「仕方ないわね」
  「そうこなくっちゃな」
  「私はミスティ。あんたは?」
  「デズモンド・ロックハートだ。よろしくな、赤毛さんよ」