私は天使なんかじゃない
ボルト87 〜先客〜
パーティーは既に始まっていた。
リトルランプライトにある殺人通りを抜けた先には洞穴があった。
かなりの規模だ。
おそらく天然の洞穴の中にボルト87を建造したのだろう。
コスト抑えられるし。
ボルト87はスーパーミュータントの巣窟だと聞いている。
今までの情報を総合すると連行した人間をここでスーパーミュータントに改造しているのだという。どういう方法かは具体的には分からないけど全面核戦争以前
の何かが今だ稼働しているのだろう。
現在キャピタル・ウェイストランドはエンクレイプによってほぼ完全に抑えられている。
レイダー、奴隷商人、この類は私が手を加えたのもあるけど完全に一掃された。レイダーの生き残りの一派は私の傘下に入ったし奴隷商人に関しては先頃退場した。
永遠にね。
まあ、いい厄介払いだ。
タロン社はエンクレイプに併呑され、キャピタル・ウェイストランドは反エンクレイプとエンクレイプによって二分してる。
実にやり易い構図になったものだと思う。
……。
……ああ、例外は今潜ってる施設かな。
スーパーミュータントはどちらにも与さない。少なくとも勢力としては与さないだろう。アンクル・レオみたいに個としてはあるにしても。
地上の軍勢は空爆で一掃されたと聞く。
なら連中は当然地下に潜るしかない。
当面エンクレイプの攻撃の心配のない地下、本拠地であるボルト87にね。
こちらの数は私とグリン・フィスの2人。
心許ない?
まあ、不安はあるけどボルトに関しての知識は私にはある。
狭いのだよ、ボルト。
あんな巨体は2列も無理。
確実に潰していけば問題はない。
問題があるとしたら洞穴だった。高低、横幅、それによっては包囲される可能性もあったし苦戦する可能性もあった。実際洞穴内はかなり広く防御陣に有利。
もっとも……。
「死体死体死体、ね」
「御意」
転がっている無数の死体。
洞穴内はそこかしこに死と血、そして硝煙の匂いで充満していた。
先客がいるらしい。
転がっている死体は圧倒的にスーパーミュータントが多い。
奇襲されたのだろう。
先客はたぶん別の入り口からきた。ランプライト側は先客がいることを言ってなかったし黙っている理由もない。
おそらくは放射能に汚染された地表の入り口部分から。
スーパーミュータントに混ざって死んでいるのは重武装のグール達。
何者だ?
ボルト87内部。通路。
何の妨害もないまま私達は洞穴を抜けてボルト87に入ることができた。
罠?
かもしれない。
当然ながら警戒は解かない。
撃てる態勢は維持している。
まあ、敵地だし。
それもキャピタル・ウェイストランドで一番のデンジャラスゾーン。
正直観光は勧めない。
それにしても……。
「増やす気あるのかな、ここの連中」
進みながらぼやく。
グールとスーパーミュータントの死体以外にあるのは貪られた血肉。何の血肉かは、まあ、想像するまでもなく分かる。原型はないけど。
増やすためにさらってんだか食料としてさらってんのか謎。
素体は素体、食料は食料としてさらってる?
それはないかな。
さすがにその方式でやってたら今頃キャピタル・ウェイストランドに人間はいなくなってる。
つまり。
つまりスーパーミュータントはアホってことだ。
アンクル・レオみたいな例外はいるんだろうけど基本的には5歳児……いや、もっと下の知性しかないのかもしれない。
欲求に目的が押し流されてる。
まあ、こいつらの目的がなんなのかは分からないけどさ。
「主」
目の前に扉がある。
私は頷く。
グリン・フィスが先行して扉に近づき、私は支援のためにアサルトライフルを構える。
ぷしゅー。
ボルトの扉は基本的に鋼鉄製の自動ドア。
上下に開閉するタイプ。
明かりは点滅しているものの一応は点いている。
妙に赤い照明が目に痛い。
まあ、お蔭で床に食い散らかされた代物がカモフラージュされていいけどさ。
グリン・フィスが手招きする。
私も中に入る。
「研究室かな」
医療用の器材やパソコン、薬品が並んでいる。
もちろんほぼ全てがとっくに残骸と化しているけど。
ぷしゅー。
扉が自動で閉まる。
先に進む扉を見ながらこのまま進むべきか考える。
今のところは一本道だ。
誰だか知らないけど露払いしてくれてあるから戦闘する手間も省けているし。
幸運よね。
ただ私は幸運がいつまでも無条件で続くと思うほど子供ではない。
幸運を持続させる為には努力も必要だ。
「グリン・フィス、警戒」
「御意」
研究室には扉が2つ。1つは入ってきた扉、もう1つは進むべき扉。それなりに大きな研究室だけどスーパーミュータントが潜むスペースはない。
一応PIPBOYで生体反応を索敵するけど、少なくとも室内には私達しかいない。
つまりグールもいないってことだ。
敵の敵が味方とは限らないしグールも警戒しないと。
グールの目的も分からんし。
エンクレイプ?
クリスはカロンを従えてたけど、クリスの口癖である「グールは次世代には連れていけない」はエンクレイプの共通思想じゃないかな。だからエンクレイプとは別物だと思う。
まあ、憶測だけど。
さて。
「こいつは生きてる……よし」
起動するパソコンを見つけて私はパソコンの前に座る。
キーボードを叩く。
セキュリティ?
「この程度なら」
PIPBOYでハッキング。
よし。
リンク接続、セキュリティ突破。必要なデータを抽出する。
ボルト87の構造、つまりは地図をゲット。
これでパパの研究を完成させる最後のピース、そしてエンクレイプを出し抜ける材料の場所が分かった。
「ん?」
目的を遂げたから何か面白いものがないかと探していたら妙なファイルを見つけた。
なになに?
実験体観察経過……ふぅん、スーパーミュータントに関するものかな。
見てみるか。
『進化実験プログラムの新しい被験者が改良型FEVウイルスの一度目の摂取後、早くも好ましい兆候を見せている』
『現在の被験者は男2人、女3人の合計5人でいつものように各被験者を24時間体制で観察している』
『今回の実験が1つの突破口になればいいが』
『ボルトテック社とマリポーサ基地からのプレッシャーは尽きることなく、まったく持って頭が痛い』
『信じられない結果が出たっ!』
『わずか3日で女性サンプル3名が個性的な変化を遂げている』
『肉体は大きく変化し、外観的な女性らしさはほとんど消滅し、無性状態に近付きつつある』
『また、上半身の力が強化され筋肉の付き方も男性に近い』
『同様に男性サンプル2名も男性らしさを失い、女の被験者同様に無性化しつつある』
『どうやらFEVウイルスが地慣らしを始めて白紙の状態から仕事に取り掛かろうとしているようだ』
『実験は一歩後退した』
『被験者B440のメアリー・キルバトリックが死亡した』
『検死の結果、脳機能が著しく減退し身体的バランスを維持できなくなったことが死因だと分かった』
『FEVの実験の定番のパターンで人間の基本的欲求である睡眠や食欲などを放棄してしまうほどのダメージを受けているのだ』
『今のところその他の被験者は順調に肉体的変化を遂げている』
『10日目、あることに気付いた』
『残りの被験者の皮膚が分厚くなり張りが増しているのだ。FEVが新たな適応変化を迎えているのだ』
『待ち望んだ結果だった』
『この適応化は戦闘で有効利用することが可能だろう』
『Drフィロにおめでとうを言ってやろう。君の皮膚エンジニアリングは成功だ、と』
『彼がこのウイルスに組み込んだ遺伝子コードが期待通りの結果をもたらしたようだ』
『また壁にぶつかった』
『全ての被験者が怒りや不安といった感情を激しく表現するようになった』
『実験チームや施設全体を危険に晒すほどで今回もまた被験者の強制処分が余儀なくされた』
『いつものことだが心が痛む』
『どのテストも同じことの繰り返しだ』
『肉体的な適応能力はいつも優秀なのだが精神的な変化が破滅の元となる』
「うーん」
これでまた分からなくなった。
戦前に、いや、少なくともここが崩壊する直前までに生み出された連中はいい。いいんだけど今の連中はなんだ?
どうやって生み出してるんだ?
これは戦前でも最高レベルの技術だ。もちろん倫理的には屑にしてもだ。
どう考えてもここは崩壊してる。
人はいないはずだ。
統制が成功していたボルト101でさえ技術の劣化は著しかった。ここは崩壊してる、実はまだ生き残りがいるにしても技術水準を維持できるレベルではない。
というか人は死ぬ。
当時の人間は生きてない。
どうやって技術を維持したまま受け継いでいる?
……。
……ジェネラル?
あの赤いスーパーミュータントは確かに知性は高いけどスーパーミュータントを生み出すのは無理だろう。
じゃあ私が知らない奴がいる?
そうかもしれない。
考えてみたら私はスーパーミュータントの目的も陣容も知らない。
何らかの科学者達が関わっているのかもしれない。
それかロボットか。
プログラム通りに作り続けているのか。
ふむ。
興味深くなってきた。
「進みましょうか」
「御意」