私は天使なんかじゃない
ボルト87 〜侵入〜
物語は結末へと向かっている。
そして終息へ。
パラダイスフォールズとの決戦は終わった。
因縁は決着。
本拠地にいた連中は蹴散らしたしキャピタル・ウェイストランドを徘徊している連中もほぼ壊滅していると見ていい。
何故?
エンクレイプだ。
本拠地にエンクレイプの連中がいたし奴隷商人どもに加勢しようとしていたからおそらく力で押さえつけていたのだろう、拠点を急襲してね。
ただし生かされて利用されていたのは拠点にいる連中だけだ。
エンクレイプは各地を強襲して一気に支配下に置いた。
道という道には陣地を築いて物流を止めたしレイダーや旅行者、傭兵、キャラバンといった類は一掃されてしまった。勝手に連中は戒厳令を敷いた、従がわない者は殺された。
奴隷商人もまた然り。
故に悪名高いパラダイスフォールズの奴隷商人は全滅したものと私は見ている。
まあ、わずかに残党はいるだろう。
でもさほど問題はない。
自然に自滅するはず。
一番のお得意だったピットは奴隷を必要としていないし、そもそも連中はピットに喧嘩売って返り討ちにあってる。
アッシャーの性格もあるし街の状況的に考えても今更奴隷商人との提携はあり得ない。
勝手に奴隷商人は立ち枯れするだろう。
レイダーに鞍替えしようにも傭兵に鞍替えしようにも既にその業界にはレイダー連合もいるしたタロン社もいる。鞍替えしても芽は出んだろ。
ボスのユーロジーも死んだし後釜の目処もない。
他の勢力に叩き潰されるか残党内部での食い合いによって、いずれにしても潰れる。
ここに。
ここに厄介な勢力はまた一つ潰れた。
レイダー連合は現在は私に従ったしタロン社はエンクレイプに併呑された。
次第にキャピタル・ウェイストランドの勢力は二分化されつつある。
決戦は近づいている。
私はそのことを胸に秘め、パラダイスフォールズから奪ったジェットヘリに操縦してリトルランプライトを目指す。
リトルランプライト。
そこは子供だけが隠れ住む洞窟の中にある集落。
私はパラダイスフォールズで救出した子供たちをマグレティ市長に引き渡した。特に子供たちは怪我もない。
子供たちは口々に礼を言って門を抜けて集落に戻っていった。
現在門にいるのは私、グリン・フィス、市長。
スティッキー?
あいつも何故か門を通って行った。
帰郷は許可されてんのだろうか。ドサクサか、まあ、いいけど。
市長は笑う。
「ありがとう。助かったよ。まさか君が良いムンゴだとは思いもしなかったよ」
「信用してくれた?」
「まあね」
「奴隷商人も壊滅させたから心配は一つ消えたわ。……ところで私が頼まれたのは救出であって奴隷商人の粉砕じゃないわよね?」
「そうだけど?」
「頼みがあるのよ」
「言ってくれよ」
「門を通さなくてもいいからしばらく洞穴に大人……ムンゴたちを匿ってほしいのよ。元奴隷でユニオンテンプルって集団」
「匿うだけ? 援助はしなくていい?」
「それは問題ないわ。エンクレイプの脅威がなくなってDC廃墟に帰れるようになったら連中は出ていくわ」
「面倒を起こす集団かい?」
ハンニバルの性格を思い出す。
問題あるまい。
「ないわ」
「まあ、だろうね。君の推薦だから問題はないだろうね。いいよ。街に入れないけど洞穴には匿うよ。ただし侵略しようとしたら君の知り合いでも容赦しないけどね」
「その場合は私の顔を立てる必要はないわ」
まあ、ユニオンテンプルなら問題あるまい。
物資もパラダイスフォールズから奪ったのが大量にあるだろうし喧嘩するような展開にはなるまい。
……。
……たぶん。
さて。
「マグレティ市長。そろそろ本題に入りましょう」
「あー、待って」
「ん?」
「武装が完全にボロボロだね」
「え? ああ、まあね」
ライリーレンジャー仕様のコンバットアーマーは弾痕だらけ&一部粉砕しているから防具としてはもはや何の意味がないしインフィルトレイターも使い物にならない。
現在まともに使えるのは44マグナムが二丁だけ。
グリン・フィスの黒いコンバットアーマーは無傷だしショックソードも32口径ピストルも健在。
何気に無傷なグリン・フィス君。
強いよなぁ。
私は人類規格外だけどこいつも大概デタラメ。
「君、あれ持ってきて」
マグレティ市長は門のほうに叫ぶと子供二人が走ってくる。手には何か持っていた。それを私の足元に置いて子供たちは去る。
銃とアーマーだ。
「報酬として考えていたんだ。弾薬もある。ちょうど良かったね、持って行ってくれよ」
「助かる……ん?」
コンバットアーマーは黒いカラーリングで背中には赤いバツマーク。どうやら元々はタロン社の代物だったらしい。
それは、いい。
問題は銃だった。
グレネードランチャー付きのアサルトライフル。
……。
……これ、私のじゃん。
偽ワーナーとジェリコに拉致られてピットに送り込まれる際に奪われたものだ。
マグナムは返されたけどこれだけは紛失したままだった。
ジェリコが近くにいる?
あいつは最後はタロン社に転んで姿を消した。その後は知らないけど気に食わない敵の一人だ。
「どうしたんだい?」
「これはどこで手に入れたの?」
「君達がここに初めて来るよりも前に襲撃してきた傭兵の一人が持ってたんだ。……いや奴隷商人か傭兵かは分からないけど、街の敵が持ってたんだ」
「それでどうしたの?」
「銃で威嚇しながら門を開けろって言ってきたんだからおもてなししてあげたよ。それはその際に鹵獲した武器の一つさ。質が良かったから売らずに僕のにしたんだ」
「で、敵は?」
「何人かは逃げて何人かは喋らなくなった。その銃を持ってた奴は負けると節操もなく売り込みを始めたから殺人通りに縛って捨てたよ」
「殺人通り、ね」
物騒な名前だ。
「つまり殺したのね?」
「いや。敵として戦ってる際には殺すけど捕虜をどうにかする法律はここにはにないんだ。失念してたよ。だから捕虜は取らないようにする法律を新しく作ったよ」
「でもジェリコは適応外でしょ? 法律の前なんだから」
「ジェリコ? 知り合いなのかい?」
「鉛玉叩き込むつもりの知り合い」
「それは悪いことしたね。もしかしたらまだ生きてるかもだけど、殺人通りは物騒だから期待薄だね」
「そもそも殺人通りって何?」
「ご希望のボルトへの道さ」
「殺人ねぇ」
「本当に本気か? あそこは恐ろしい場所だよ。怖くはないけど、気は進まないな。でっかい奴の巣窟だからね」
スーパーミュータントか。
まあ、連中の製造元なわけだから巣窟なのは分かってる。
装備は整った。
人員?
私とグリン・フィスだけ。
でも問題はないだろ。
連中はでかいしボルト内は総じて狭い。通路が込み合えば敵の数なんて問題にはならない。グレネードランチャー付きのアサルトライフルも手元に戻ってきたし完璧。
グリン・フィスに視線を移す。
「御意」
彼は静かに頷いた。
よし。
行くか。
「お願いするわ、市長」
「行こう。あんたの為に門を開いてあげるよ」