私は天使なんかじゃない
決着の日
抑圧する者達と抑圧されし者達。
最後の戦いが始まる。
決着の日。
「こんのぉーっ!」
「奴隷商人を迎撃っ!」
凄まじい銃撃音が響き渡る。
旧交を温め合うという時間は用意されていなかった。
旧交、それはハンニバルとの旧交。
彼は元奴隷。
脱走後は同じように脱走した奴隷を支援するという名目でユニオンテンプルを組織。同組織の構成員はハンニバル同様に元奴隷。
知り合ったのは偶然。
パラダイスフォールズで起きた奴隷の大脱走の際に知り合った。
追撃に派遣された奴隷商人の大部隊、脱走した奴隷達を支援するユニオンテンプルとの攻防に私が力を貸したのがきっかけ。
当然私はユニオンテンプル側に手を貸した。
それにより奴隷商人側の大部隊は全滅。
パラダイスフォールズに大打撃を与える事に成功、キャピタル・ウェイストランドにおける連中の支配力の低下に繋がった。
ハンニバルはリンカーン記念館に新たな街を創設した。
そんなハンニバル達がここにいる。
数は50名。
連携したとかそうではなくただの偶然、また偶然での参戦だけど、それもいいだろう。
パラダイスフォールズと決着を付ける。
それはそれでいい。
歩哨が倒れると同時に奴隷商人達が大挙として奥から出張ってきた。
現在その迎撃中。
私はインフェルトレイターを掃射。
消音機能の施されたピット産のアサルトライフルはカタカタと静かな音を立てながら弾丸を吐き出す。
それは死を奏でる静かな吐息。
ぎゃっと絶叫をあげて奴隷商人の1人が倒れた。
出張って来ているのはわずか10名。
向うは廃車やドラム缶といった遮蔽物に隠れながら防戦している。とはいえこちらの方が多い、撃ち出す銃弾も多い。あの程度の防御力なら大したことはない。
「アンクル・レオっ!」
「任せろ」
回転音。
それから圧倒的なまでの弾丸が廃車やドラム缶を撃ち抜き、そこで防戦していた連中を次々とあの世へと送る。
パワフルなミニガンの前ではあの程度の防御力など意味はない。
アンクル・レオはミニガンを横に掃射。
その弾幕を前に奴隷商人達はバタバタと倒れた。
基本的に連中の武装はレイダーよりは強いけどタロン社よりは弱い。レイダーよりお上品な格好ではあるもののタロン社のようなコンバットアーマーではない。
キャピタル・ウェイストランドで<傭兵の服>と称される系統の服を好んで着ている。
とてもじゃないけど戦闘向きではない。
元々奴隷商人は数で押して相手を生け捕りという戦法を好んでいる。それが連中の商売。少なくともタロン社のような傭兵稼業ではない。
戦闘向きではないのだ。
対してハンニバルが率いるユニオンテンプルは決戦を挑むつもりで完全武装している。
中古みたいだけど全員がコンバットアーマーに身を包み、10mmサブマシンガンやアサルトライフルを全員が装備している。連射系の武器だ。ただ例外なのは
ハンニバルだけスナイパーライフルを装備していた。狙撃が得意なのかな?
グレネードも各自携帯している。
現状の勢いを維持すれば奴隷商人といえども問題はないだろう。
そう。
あくまで現状の勢いを維持すれば、ね。
奴隷商人達が立ち直る前に決着を付ける必要がある。
「ふん、いい気味ねっ!」
ぺっと唾を死骸に吐き捨てる女性。
シモーネだ。
相変わらずきつい性格しているようだ。
とりあえず敵は全て沈黙した。
入り口付近は一掃した。
「主」
「何?」
まったく出番のなかったグリン・フィス君。
最近は32口径ピストルを所持してるけどパワー不足だし連射も出来ない。なので基本的な彼は接近戦に特化している。
「敵の応戦、脆弱ではありませんか?」
「確かにね」
迎え撃つにしては数が少なかった。
まあ、ユニオンテンプルの一件やピットの一件で戦力が低下しているんだろうけど拍子抜けするほど手薄だ。
負傷者の手当ての指示を終えたハンニバルが私に頭を下げた。
今のところこちらに死者はいない。
「また君の手を借りることになる。恩に着る」
「いいわ。決着は付けて置きたいしね。ところでハンニバル、手薄だと思わない?」
「連中は何故だか知らんがランプライト洞穴付近に複数の部隊を展開していた。我々はそれらを各個撃破した。手薄なのはその為だ」
「ランプ……ああ、なるほど」
ボルト87に行く為か。
エンクレイブにいい様に使われてるようだ。
部隊をリトルランプライトに行く為に派遣、それを決着を付ける為にここまでやって来たユニオなテンプルによって全て潰されたってわけだ。
どこの神様だか知らないけど楽しいことしてくれるじゃないの。
随分と楽になった。
つまり奴隷商人の戦力はここにいるのが全てってことだ。
多少潰し損ねた部隊がいるとしても大幅に戦力が低下している今こそが絶好の機会。
潰せる。
これならパラダイスフォールズを潰せる。
死んだ奴隷商人から武器を回収しているユニオンテンプルの面々を見ながら私はこれは勝ち戦だと認識。
勝てるわね、この戦い。
「あんた、これを使いなよ」
シモーネがグリン・フィスにアサルトライフルと弾装を渡す。
「あんたは……おいっ!」
「俺は非戦闘員だからいらないっ! どっちかというと小説家向きだからな、俺っ!」
スティッキー、物陰に隠れる。
まあいい。
元々戦力としては期待していない。
「主、また来ます」
「敵の第2波、防御体勢っ!」
「……何故あんたが仕切るのよ」
シモーネ無視。
奴隷商人は奥から再びやってくる。
その数は5名。
少ないな。
こちらに突っ込んでくる。44マグナムを一挺引き抜いて突っ込んでくる奴の額に……武器を持ってない?
服装は傭兵の服。
別に奴隷商人御用達の服装ではないけどパッと見では奴隷商人。
だけど無手で突っ込んでくるって何?
自爆するとか?
レイダーの中には完全にプッツンしているのがいるけど基本的に奴隷商人はそういうタイプではない。インテリとは言わないけどそういう手は使わない。
違和感。
連中の首には……爆弾首輪っ!
「お、おい、あんたら助けて……っ!」
「離れてっ!」
ドカァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァンっ!
爆発。
爆発。
爆発。
爆発。
爆発。
彼らの首に付いていた首輪爆弾が連鎖爆発。爆発そのものは大したことはない、前にアンデールの一件でその威力は知っている。
連鎖で爆発したところで私達にまで爆発は届かない。
破片等は飛んでくるけど実害はない。
ただ……。
「何ということだ」
絞り出すような声でハンニバルは呟いた。
おそらく今のは奴隷だろう。
爆弾代わりに使ったというよりはこちらの戦意を殺ぐのが目的。
たったそれだけの為に奴隷商人は今の5人を殺した。
ユニオンテンプルの面々はハンニバルのように意気消沈する者が多い。シモーネのように憤然とする者もいるけど士気は目に見えて落ちている。
戦って死ぬのは想定済みだろうけど、覚悟しているだろうけど、まさか人間爆弾などという酷いな行為は想像していなかったに違いない。
もちろん私も想像なんてしてない。
「主」
「ええ。見えてる」
正真正銘の奴隷商人だろう、今度こそ敵の第2波登場。
数は11名。
多いようで少ない。
小出しにしてる?
何の為に?
……。
……まあいい。
血祭りにあげてやる、殺された者達の霊を慰める為にも。
どくん。
どくん。
どくん。
心臓が脈打つ音が妙に耳に響く。
時間がゆっくりと流れる。
そんな中、私だけが普通に動く。
二挺の44マグナムを構えた。
11名の奴隷商人達は武器を手にこちらにゆっくり、ゆっくりと迫る、銃口を向ける動きもスロー。私は連中の頭に向けて全弾発射。
そして時間が動き出す。
平常な流れに。
「……はっ? えっ? えっ? えーっ!」
ちっ。
1人仕留め損なった。
他の奴隷商人達は44マグナムで頭を吹っ飛ばされて絶命。私は素早く左手の44マグナムをホルスターに戻し、右手の44マグナムの空の薬莢を捨てて装弾。
ばぁん。
響く銃声。
眼前に立ち塞がっていた最後の1人を吹き飛ばす。
「報いよ」
吐き捨てる。
ハンニバル達は唖然としていた。シモーネも。
改めて私の凄みを実感したらしい。
まあ、大概私は人類規格外ですから驚きもするだろう。だけどそれで命が救えるなら悪くない。
「さて行きましょうか」
同時刻。
パラダイスフォールズ、ユーロジー・ジョーンズの邸宅。
その私室。
「どうやら君の部下達は本気で役に立たないらしい」
「ふざけるなっ!」
現在ユーロジーの私室はエンクレイブの作戦司令室になっている。
エンクレイブ強襲部隊の隊長はソルジュ大尉。
部屋にはエンクレイブの兵士達だけではなくユーロジーの手下達もいる。愛人であり護衛のクローバとクリムゾンもいる。ここ最近の傾向としてユーロジーは
エンクレイブには徹底的に服従していた。反感はあるものの服従するしかなかった。
だが今は違う。
完全に頭に血が上っていた。
部下の手前もあるのだろうが、それ以前にエンクレイブさえ来なければここまで損害は出なかったという思いが強い。
言い募る。
「いいかっ! お前らが俺の精鋭達をそこら中の使い走りさせるから手薄になったんだぞっ! ここまで攻め込まれたんだぞっ! 分かっているのかっ!」
「いいや分からんな」
「何だとっ!」
「ユーロジー、エンクレイブの強襲部隊がここに控えているのだ。最悪の場合は助けてやるよ」
「信用出来んなっ! ……おい、お前たちっ!」
居並ぶ奴隷商人たちに向き直る。
そして叫ぶ。
「赤毛どもは中庭に侵入してくるっ! ここの警備はもういい、中庭の部隊と合流して赤毛どもを皆殺しにして来いっ!」
『はいっ!』
「行け、グズグズするなっ!」
『はいっ!』
バタバタと駆け出す奴隷商人たち。
鼻で笑うソルジュ大尉には目をくれずに手振りで愛人2人を呼び寄せる。
「ここに至っては仕方ない。俺達も行くぞ、付いて来いっ!」
「分かったわ、ダーリン」
「了解よ」
パラダイスフォールズの住人は全て退室。
ソルジュ大尉は副官の准尉を呼ぶ。
小声で呟く。
「撤退の用意だ。連中には用はない。この場所にもな。付き合う必要などあるまい。撤退する」
「しかしベルチバードには全員搭乗出来ませんが」
部隊の人数は20名。
パラダイスフォールズ襲撃時に強襲部隊は地上から攻めた。その後、オータム大佐からベルチバードが一機寄与された。
全員は搭乗出来ない。
搭乗数は6名。
荷物の類を捨てれば8名は載れるがどちらにしても部隊全員は乗れない。
「連中のジョットヘリを徴発するのですか?」
「あれは使えん。修理が必要だ」
「では……」
「諸君っ! 邸宅の前に布陣、ユーロジーに助勢せよっ!」
『了解しましたっ!』
敬礼。
その後鶯色の軍服を着た兵士達は武器を手に邸宅を出た。
准尉は驚く。
「捨て駒に……っ!」
「勝ち抜けば捨て駒にはならない。要は彼らの腕次第だ。さあ、ベルチバードの発進準備に取り掛かれ。お前も置いて行かれたくはあるまい?」
「わ、分かりましたっ!」
「閣下に寄与されたベルチバードにミニニュークを搭載していないのが残念だ。全て消し飛ばしてやれたのに。……実に残念だ」
分厚い鉄の門扉をグレネードで吹っ飛ばして私達は中庭に突入。
円形の中庭。
囲む形で建物が立ち並ぶ。
かなり広い。
一番奥にあるあの大きな建物が親玉の屋敷なのかな?
多分そうね。
屋上にはピットで見たジェットヘリ、そして……。
「ベルチバード」
BOSで聞いた戦闘機の名称を呟く。
エンクレイブだ。
どうやらパラダイスフォールズに駐屯しているらしい。
厄介だ。
視界の中には親玉の邸宅や手下の寝起きの為と思われる建物群だけではなくフェンスに覆われた場所も見える。そこにはたくさんの人々がこちらを見ていた。
どうやらあれが奴隷の収容場所みたい。リトルランプライトの子供を救出しに来ただけなんだけど、この際だ、全員救おう。
問題は敵が既に防備を固めているということだ。
「防御体勢っ!」
「……だからなんであんたが仕切るのよ」
中庭に入った途端に手厚い歓迎。
なるほど。
小出しに出していた戦力は中庭の防衛ラインを構築する為だったのか。
奴隷商人達は待ち構えていた。
「隠れてっ!」
私が叫ぶまでもなかった。
ユニオンテンプルの面々は遮蔽物に身を隠す。私もだ。
1人隠れたなかった者がいる。
グリン・フィス?
彼も隠れてる。
隠れなかったのはアンクル・レオ。アサルトライフルやサブマシンガンの連打を受けながらも平然と立っている。もちろん完全に平然とじゃない。
どんなに分厚い皮膚をしていても。
並みのスーパーミュータントよりもタフみたいだけど、それでもダメージは次第に蓄積している。
「人間、どうして戦うっ!」
叫びミニガンを構える。
回転音。
そしてバリバリバリと轟音が響く。パワフルな銃身から吐き出される弾幕は奴隷商人達を襲う。
だがそれだけだ。
「伏せて、アンクル・レオっ! 無駄よっ!」
「分かった。ミスティの言う通りにする」
物陰に隠れるスーパーミュータント。
そう。
それでいい。
ミニガンとはいえここであまり絶対的ではない。もちろん一度撃てば敵は身を伏せて隠れるだろう。でもそれだけだ。完全に防備を固めているわけだから
こちらの攻撃に対する対策は出来上がっている。これは長引く戦いになりそうね。一進一退で展開するだろう。
相手の陣地を少しずつ奪うしかない。
問題は、こっちは持久戦には向いてないということかな。
弾丸に限りがある。
包囲戦という手もあるだろうけど奴隷商人の数は思っていたよりも多い。
40やそこらはいる。
廃車や大型トラックのタイヤの山などを弾除けにしながらこちらを迎え撃つべく待ち構えていた。
全戦力?
そうは思えない。
建物の窓の向うや屋根の上にもチラチラと見える。
ざっと見て目に付くのは兵力は全部で60。
つまりパラダイスフォールズ自体の総兵力は少なくとも60以上入るってことだ。
まだこんなに残っていたとは正直予想外。
まあ、最盛期に比べたら完全に残党寸前の戦力なんだろうけど私達より多い。何よりここは連中の文字通り庭。相手の庭先で戦えば庭の主の方が勝手
を知っているだけあって分があるだろう。弾丸や食料、水などの蓄えもあるに違いない。
少なくとも私達は持久戦には向かない。
物資の欠乏は目に見えてる。
「うわっ!」
「ぐあああああああああああああああああああああああああっ!」
「……くそぉ……」
その時、激しい銃撃音が響き渡る。
私の側にいたユニオンテンプルの戦士3人が絶叫をあげて弾け飛んだ。
弾丸がコンバットアーマーを貫通している。
私達はさらに頭を低くして物陰に潜む。
そぉーっと見る。
「あれか」
真向かいの建物の屋上に奴隷商人が1人陣取ってる。
物凄い勢いで弾丸を吐き出している。
ミニガンだ。
ミニガンはどちらかと言うと拠点防衛向きだと思う。
攻略用に使うにはその重量が少々問題。
まあ、スーパーミュータントなら軽々と持ち歩けるからそれでもいいんだろうけど人間には重過ぎる。ミニガンの乱射は私達をこの場に釘付けにする。さらに他の
奴隷商人達の射撃で私達はまったく成す術もない。私の能力で視界に入る限り弾丸はスローになるけど、あんな大量の弾丸はまず避けれない。
こちら側のミニガンの遣い手が提案する。
「ミスティ、俺があいつやるか?」
「駄目よ」
「分かった」
一蹴する。
ミニガンとミニガンの撃ち合いは不毛。おそらくどちらも相打ちだ。
……。
……いや。
多分アンクル・レオが撃ち負ける。
こちらは支援のしようがない、頭を上げたら即座に吹っ飛ばされるからね。対して向うは常に<俺のターン>状態。
スーパーミュータントがどんなにタフでもこれじゃあ撃ち負ける。
さてさてどうしたもんかな。
手がない。
奴隷商人もこちらを圧倒的な弾丸で釘付けにするだけでは終わらないはずだ。ランプライト洞穴周辺に展開していた部隊の中にユニオンテンプルが撃ち
洩らしたのがいるかもしれない、それが戻ってくるかもしれない。もしくはエンクレイブの増援が来るかもしれない。
今私達が陣取っている位置は分が悪い。
挟撃されたら抵抗の仕様がない。
「あんた達っ!」
名前も知らないユニオンテンプルの戦士達に声をかける。
危険だけど少しずつ相手を減らすしかない。
危険だけど、ね。
「グレネードを大よそでいいから連中に向って投げてっ!」
「わ、分かった。だけど相手には当たらない……」
当たるわけがない。物陰から頭を出すだけでもあっさり撃ち抜かれる状況だ。ただ目的は爆風で吹っ飛ばすことじゃない。
相手の攻撃を一時止める事だけだ。
「構わないわ。やってっ!」
「よ、よし。……1、2の3で投げるぞっ! 1、2の……3っ!」
8個のグレネードが空を舞う。
グレネードを視認して奴隷商人達は物陰に隠れた。距離が遠い。遮蔽物で爆風も破片も届かないだろう。
でもそれでいい。
ドカァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァンっ!
爆発。
万が一を考慮して奴隷商人達は遮蔽物の向うに伏せた。
地上にいる連中からの銃撃が止む。
その気に突撃する?
無駄ね。
上からミニガンを撃ってる奴は継続してるもの。
だけどその他大勢の支援さえなければ、撃っているのが1人だけなら私の能力でどうにでもなる。
どくん。
どくん。
どくん。
鼓動が耳の奥に響く。
スロー。
全てが緩やかに流れる。
インフェルトレイターのスコープを覗き、私はトリガーを引いた。
装填されている弾丸全てを吐き出す。
時が元に戻った瞬間、ミニガンを撃ってた奴は弾丸の洗礼を受けて舞うように視界から消えた。
よし。
これで邪魔な奴が消えた。
ばっ。
私は再び伏せる。
奴隷商人達の銃撃が再開されたからだ。
伏せながら弾装交換。
敵の大駒とも言うべきミニガンを操ってた奴はこの世から退場した。これで少しはやり易くなる。弾丸を交換している間にユニオンテンプル側のターン。
遮蔽物に隠れながら一斉射撃。
もちろん奴隷商人側も射撃している。
互いに弾丸を応酬。
ミニガンの援護がなくなって相手の火力は弱まっている。アンクルレオは立ち上がってミニガンを乱射。タフさだけではない、彼はどうやら再生能力も半端
ないようだ。再生能力はスーパーミュータント特有なのかは知らない。基本その場でデストロイしちゃうからね。再生の暇など与えない。
ただタフさはダントツなのは理解出来る。
ジェネラルだってここまでタフではなかった。
どうやらアンクル・レオの耐久力はジェネラル以上ベヒモス未満ってところかな。それでも並みのスーパーミュータントは比べ物にならないんだけどね。
奴隷商人側はバタバタと倒れていく。
ミニガンはまさにデストロイな火力。
私もグリン・フィスも応戦。
だけどどんなに私達が獅子奮迅したとしても怪我人は出るし死人も出る。私達だって一歩間違えれば怪我はするし死ぬ。
ハンニバルの部下達も数人倒れた。
頭部に弾丸を受ける者。
腹部に弾丸が貫通せずに残る者。
銃が突然暴発してその場に倒れる者。
それは回避しようがない犠牲。
どんなに器用に立ち回っても必ず犠牲は出てしまう。
自由の代価?
それは分からないけど……無駄にしないっ!
「そこっ!」
カタカタカタと静かな音を立てて一斉掃射。奴隷商人3人の頭を立続けに吹き飛ばす。
敵側の火力が弱まった。
陣地を捨てて後退し始める。
一気に蹴散らすっ!
ごぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!
「何? 何の音?」
轟音が断続的に響く。
爆発音?
そういう類ではない。
「主、あれを」
「ちっ」
グリン・フィスの指差す方向を見た。
奴隷商人の親玉の屋敷と思われる建物の屋上にあったベルチバードがゆっくりと宙に浮かびだす。
切り札でくるか。
さらにその建物の方から援軍が来る。
パワーアーマーの奴が5人、防弾ジャケットを着込んだ一般兵士が10名程度。
エンクレイブの駐留軍か。
どうやら業を煮やして騎兵隊が出張ってきた。
後退を始めた奴隷商人達も勢いづいて再びこちらに戻ってくる。そしてバリケードの向うに再び身を潜めた。エンクレイブの援護があれば防衛ラインを死守できる
と踏んでいるのだろう。その判断は間違いじゃない。正式な戦闘訓練を積んだであろうエンクレイブ部隊の参入は確かにそれだけの価値がある。
さらに言うならパワーアーマーの存在だ。
5人とはいえあれはBOSの纏っている旧世代タイプよりも発展した代物。BOSの改修しているそれとは違い発展進化した、完全なる次世代タイプ。
まあオータムが着ていたテスラよりも劣るだろうけど、それでもエンクレイブアーマーはBOSのものより一世代かニ世代進んでる。
厄介ね。
厄介。
新手の参入で私は突撃を宣言できず遮蔽物に身を隠した。他の面々も言われるまでもなく隠れている。
決定打がない、こちらの戦力には。
ユニオンテンプルの武装はバランスはいいけどあくまで対奴隷商人用の装備でしかない。レイダーあたりでも充分対処できる装備ではあるけどタロン社には
及ばないだろう。その全てを凌駕するエンクレイブには到底敵わない。たかだか一個小隊が相手であろうともね。
せめて奴隷商人どもがいなければ包囲して殲滅も可能だろうけど現状の戦力ではそれも許されない。奴隷商人の数にも劣っている現状ではね。
一旦入り口まで退くか。
「ハンニバル、ここは……」
そう言い掛けた時、ベルチバードは大きく宙に待った。
ただしこのエリア内を維持している。
機銃とミサイルを装備しているのが嫌でも眼に入る。
どうやらあれでこちらを吹っ飛ばすつもりらしい。
万事休すっ!
「自由の為にっ!」
ハンニバルは叫びスナイパーライフルのトリガーを静かに引いた。
放たれる1発の弾丸。
そして……。
ドゴォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォンっ!
ベルチバードは空中で大爆発した。
降り注ぐ残骸。
その大半は奴隷商人とエンクレイブ部隊に降り注ぐ。小さな破片は支障はないが大きな残骸は容易に兵士達を押し潰した。一気に敵の戦力は半減。
幸いなことにエンクレイブアーマーは今ので全滅。
ハンニバルはおそらくベルチバードに搭載されていたミサイルを撃ったのだろう。そして爆発。
スナイプの腕は悪くない。
クリス並だ。
「行くわよっ!」
私は叫んだ。
そしてインフェルトレイターを手にしてまっすぐと走り出す。銃を撃ちながら。
敵は完全に動揺している。
反撃も防御も出来ずに次々に倒れていく。
防衛ラインは既にズタズタだ。
そして今攻めなくていつ攻めるんだ?と聞いてしまうぐらいの好機。
今を逃してどうするっ!
ユニオンテンプル側も全員突撃。グリン・フィスもアンクル・レオも私に続く。混乱して慌てて逃げようとする奴隷商人達は容赦ない一斉射撃で壊滅的なまでの
一撃を受け、エンクレイブ部隊は過酷な訓練の成果を発揮することすらなくあっさりと全滅してしまった。
弾装交換。
インフェルトレイターを左手に、右手に44マグナムを撃ちながら私は走る。
パラダイスフォールズの奴隷商人達は防衛ラインを捨てて後退。完全に勢いと戦意を失って後退を続けている。
ユニオンテンプルの兵士達は防衛ライン部隊が後退した為に孤立した建物に居残っている奴隷商人たちを排除している。
私達は追撃を続ける。
アンクル・レオのミニガンは決定的な一撃。殺人的な弾丸の雨は突破口を開いていく。
追い詰められて奴隷商人達はどこまでも後退していく。
めぼしい場所は既にユーロジーの豪邸と奴隷の収容場所だけ。奴隷を人質に使うという発想は今のところはないらしい、というかその余裕がないのだ。
フェンスで区切られた奴隷の収容所の真横を通り過ぎようとした奴隷商人たちを突如銃弾が襲う。
響き渡る銃声。
私達?
そうじゃない。
撃ったのは奴隷たちだった。
小型の単発銃の類なのだろう、それを奴隷の数人が撃っている。このドサクサに奪ったというわけではなさそうだ。おそらく脱走の機会を窺ってたに違いない。
いつか脱走する為にどういう手段かは知らないけど手に入れていたのだ。
自由を得るために。
それを今行使したのだ。
実にありがたい。
後退していく奴隷商人達は突然の横からの攻撃に我を忘れてさらに混乱。
実際には倒れたのは1人。
だけど思わぬ攻撃で士気はさらに低下した。
……。
……が、それにより敵は完全に追い詰められた。
後退するのをやめてこちらに突撃して来た。当然乱射しながら。
数は屋敷の前にいた連中も合流して30そこそこ。
ユニオンテンプル側も被害があるので数はほぼ同等。そしてお互いに弾丸の手持ちが心許ないようで銃撃戦はほんのわずかでナイフや銃床、体術を使った
白兵戦になる。奴隷たちも小型拳銃を手に入れるのが関の山で弾丸の予備などなくフェンスの向うでユニオンテンプル側に声援を送っている。
白兵戦で活躍できる人材が私の仲間にいる。
グリン・フィスだ。
ショックソードを振るってまさにバッタバッタと無双乱舞状態。
アンクル・レオも素手で大暴れ。
私は44マグナムを撃つ。
向ってきた1人の頭を吹き飛ばした。そのとき突然押し倒された。既に乱戦なので味方なのか敵なのか咄嗟に判断できなかった。押し倒したのは敵。いや正
確には敵だった、というべきか。死体になってしまったら敵も何もあったものじゃない。
私を押し倒した瞬間には胸元に穴が開いていた。
仲間の援護、ではないだろう。
この乱戦だ。
銃撃する余裕がない以前に、敵と味方の間を器用に弾丸を通らせてこいつを撃ち抜くなんて芸当は出来ない。
私は視線を巡らせる。
次の瞬間強い衝撃が胸を襲う。
ライリーレンジャー仕様の特製コンバットアーマーに弾丸がめり込んだ。私には到達してない。ひびわれている。今度は補強しても使い物にならないだろう。
素早く弾丸を飛んで来たであろう場所を見る。
豪邸の屋上に狙撃手がいた。
確かクリムゾンって言ったっけ?
スナイパーライフルを持っているのは親玉の愛人で用心棒の女だった。
私は44マグナムを構える。
そして射撃。
ばぁん。
弾丸はスコープを貫通し、そのスコープを覗き込むクリムゾンの目に飛び込んだ。
大きく仰け反って女は倒れる。
撃破っ!
ピットからの因縁の相手の1人を片付けた。残る因縁の持ち主は親玉ユーロジー、そしてもう1人の愛人で用心棒のクローバーのみ。
乱戦の中2人の姿を探す。
いたっ!
「ユーロジー・ジョーンズっ!」
「赤毛ぇーっ!」
相手は9ミリの自動拳銃を持っていた。ただし発射されたのは単発ではない、フルオートで発射できるようだ。
10発の弾丸が放たれる。
全ての弾丸を回避するなど最早容易い。
回避。
ばぁん。
相手が弾装を交換するよりも早く44マグナムで左足を撃ち抜く。
豆鉄砲のような向うの拳銃とは意味が違う。
44マグナムは優れた威力の銃。
立てないし歩けない。
頭を吹っ飛ばさなかったのは別に余裕とかじゃない。左からクローバーが迫っていたからだ。だからとりあえずユーロジーの動きを奪った。撃った直後にクローバー
が中国製の剣を手に肉薄、インフェルトレイターで私は受け止める。ただ相手は両手で斬りかかって来ている。防御しても力負けする。いつまでもしのげない。
44マグナムで狙いを付ける。
3発発砲。
だがクローバーは身を低くして私に体当たり。
こいつも大概デタラメだと思う。
弾丸は空しく通り過ぎる。
体当たりされた瞬間に私は尻餅を付く。そして右手の44マグナムは私の手の中から地面を滑る。好機と思って飛び掛ってくるクローバー、ホルスターから44マグナム
を引き抜いて発砲。ただし狙いが定まらず銃弾はクローバーの頬を掠め、さらに剣の刀身を吹き飛ばしただけ。
無理攻めを避けてクローバーは後ろに退いた。
狙いを付ける。
今度こそっ!
「……っ!」
ドサ。
私は横合いからの衝撃に押し倒される。
銃撃だった。
ユーロジーからの銃撃。
嬲るつもりなのか銃の腕がないのかは知らない。ユーロジーのフルオートの連射はアーマーで覆われていない右足と右腕を貫通、あとはアーマーに3発、残りは外れ。
頭を狙われなかったのは幸いだ。
もう1つ幸いなのはクローバーの手持ちは剣だけだったということ。ユーロジーは再び慣れない手つきで弾装交換している。
つまりわずかな反撃の時間は残ってる。
左手にあるインフェルトレイターで2人を銃撃。
カチ。
……
……あれ?
カチ。
カチ。
カチ。
トリガーを引くものの弾丸が出ない。
弾詰まり、いや、おそらくクローバーの一撃を受け止めた際に不具合が生じたのだろう。
こんな時にぃーっ!
「ここまでだな、赤毛っ!」
「ええそうねっ!」
私の方が一瞬速かった。
インフィルトレイターが弧を描きながらユーロジーの頭に直撃。奴はそのまま引っくり返った。もちろん死んではいないし脳震盪も起こしていない。
ただ意外な一撃を受けて驚いただけ。
ダメージはわずか。
右手は使い物にならないけど左手は問題ない。私は44マグナムを持ち替える。インフェルトの一撃で若干の時間が稼げたので持ち替える時間が生まれた。
狙いを付ける。
そして……。
「ちくしょぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」
残った弾全てをその体に受け、まるで舞っているようだった。
鮮血を振り撒きながらユーロジーは倒れた。
倒れた瞬間には既に死んでる。
その時、金属の音が背後からした。
見ると残った刀身で私の首を落とそうとしていたのかクローバーが襲い掛かってきていた。もっともそれはグリン・フィスによって未遂で終わったけど。
クローバーは刀身を捨てて後ろに下がる。
「まだやる?」
「……」
私の問いに彼女は答えなかった。
パラダイスフォールズ内の喧騒は既に終わりを迎えていた。奴隷商人側は完全に敗北、そして全滅。
今さらクローバーが暴れようがどうにもならない。
「主。自分にお任せを」
「……? クローバーを斬りたいの?」
意外だ。
というかそういうキャラじゃないと思うけど。
「あいつの相手は自分が引き受けます。借りがありますので」
「あいつ?」
「パーティーに遅れたけど参加させて欲しいな。鮮血、肉塊、そしてたくさんの死体。死体を彩り飾り付けパーティーを楽しもう。楽しいよね、ユージン」
「もちろんさボーイ」
「あいつっ!」
私は思わず背筋が寒くなった。
何でここにいるっ!
何でっ!
「主。自分にお任せを」
「異能力者同士、僕は彼女と友達になるんだ。君は眼中にないよ。でも邪魔するならそれもいい。潰してあげるよ。それが礼儀だよね、ユージン?」
「その通りだよボーイ」
ボルト77のあいつ、グリン・フィスと最終決戦っ!