私は天使なんかじゃない
パラダイスフォールズ
パラダイスフォールズ。
それは奴隷商人達の集う楽園。
パラダイスフォールズ。
奴隷商人の本拠地。
支配者はユーロジー・ジョーンズ。
その勢力はキャピタル・ウェイストランドにおいて脅威の1つ。
主な収入源は言うまでもなく奴隷売買。
販売先はピット。
人員や武器、資金力はふんだんにあり、またタロンシャと攻守同盟を組んでいる。
エバー・グリーンミルズのレイダー連合とは敵対関係。
権勢は絶対的……だった。
地雷原と呼ばれるゴーストタウンが没落の発端。
その街に展開していた部隊が全滅。
部隊を全滅させたのは街の生き残りによるものではあったものの、同部隊を指揮していたカイルは赤毛の冒険者によって射殺された。
カイルはユーロジーの1人息子(息子は白人で血縁的な関係はない)。
息子が殺されたことにより奴隷商人達は組織的に赤毛の冒険者を付け狙う。
だが……。
結果は惨敗。
ユニオンテンプル掃討の為に派遣した大部隊は赤毛の冒険者が奴隷解放を謳うハンニバル側に付いた為、大部隊は壊滅。
ピットの乗っ取りの為にユーロジー本人が主力を率いて乗り込むも奴隷王アッシャーの信頼を得た赤毛の冒険者により計画は大失敗。この計画により
アッシャーは奴隷制度を廃止、結果としてパラダイスフォールズは大きな収入源を失った。
憎むべきは……。
赤毛。
赤毛。
赤毛。
全ては赤毛の冒険者に関わったが為の没落。
わずかな生き残りを率いてピットからキャピタル・ウェイストランドから舞い戻ってみれば奴隷売買の主導権はレイダー連合に奪われていた。
巻き返しの為に武器商人ドゥコフから大量の武器を買い入れるもそれを奪われる。
奪ったのは赤毛の冒険者(実際は整形した虐殺将軍エリニース)。
このまま行けばパラダイスフォールズはレイダー連合によって完全に潰されるまで行ったかもしれない。
その時、奴らが襲来した。
それは……。
エンクレイブ。
緻密な計画によりキャピタル・ウェイストランドを襲撃してきたエンクレイブは各地を一気に平定。
敵対勢力は全て一掃された。
タロン社は傘下に組み込まれ、レイダー連合は壊滅、スーパーミュータント軍団は一掃、ドゥコフの武器密売組織は虐殺、連邦は併呑された。
パラダイスフォールズも例に洩れなかった。
エンクレイブの指揮下に入ることを余儀なくされた。
そして今……。
「リトルランプライトからの侵入は不可能と考えるべきかと思われます、ソルジュ大尉」
「地元民は所詮使えなかった、というわけだな」
エンクレイブの仕官ソルジュ大尉は溜息を吐いた。
豪奢な広い部屋はエンクレイブの部隊が通信機器や資材を所狭しと並べておりさながら簡易的な司令室と化している。元々はパラダイスフォールズの
支配者で奴隷商人の元締めであめユーロジー・ジョーンズの私室。当のユーロジーも部屋の片隅に追いやられる形で1人ここにいる。
強襲部隊を率いて奴隷商人の本拠地パラダイスフォールズを制圧。そして奴隷商人達を傘下に置いていた。
奴隷商人の人数は衰退しているとはいえ100人弱。
対して強襲部隊の人数は若干20。
数の上では圧倒的ではあるものの奴隷商人達はエンクレイブの圧倒的な科学力を恐怖していた。
ここユーロジーの邸宅の屋上には奴隷商人の切り札的な航空戦力のジェットヘリの隣にベルチバードが配備されている。奴隷商人の戦力などエンクレイブの
前には塵芥に等しい。それを奴隷商人の親玉のユーロジーも心底認めているからこそ従っている。
エンクレイブの存在はレイダー連合、タロン社、今までの既存の組織との戦力差というレベルではないのだ。
従うしかない。
従うしか。
だが自分の私室を占領しているエンクレイブ兵達には内心では憎悪がユーロジーには湧き上がっていた。
士官と部下の会話は続く。
「大尉。ボルト87の侵入経路は何とか確保できるかと思われます」
「話せ、准尉」
「はい。地表部分からの侵入は可能です。ただし放射能の濃度が高い為、放射能除去部隊の派遣が必要ですが……」
「どこから侵入できる?」
「ポイント785です」
「よし。検証次第オータム大佐に報告するとしよう。ご苦労、准尉」
「ありがとうございます」
ソルジュ大尉率いる強襲部隊はクリスティーナ大佐指揮下ではなくオータム大佐指揮下。
その任務はボルト87の確保。
大尉はユーロジーに冷たい視線を向けて言った。
「君の部下は結局何の役に立たなかったな」
「な、何だとっ!」
さすがに憤然となるユーロジー。
「勝手に俺の部下を徴発しておきながらなんだその言い草はっ!」
「事実だ」
「お前らが徴発したのは俺の部下の中でも一番使える連中だっ! そいつらを都合の良い手駒にしてそこら中に派遣しやがって……っ!」
「都合の良いとは使えるという意味だ。使えない駒に使うべき言葉ではないな」
「……っ!」
「それに君の言う使える部下達はここしばらく音信不通だ。無線で戦闘音が聞こえた、原住民同士で争って死んだか逃げるかしたのかも知れないな」
「き、貴様……」
「ずっとここに我々が駐留して欲しくはあるまい。だったら大人しく従っておくんだな。薄汚い奴隷商人め」
「……」
言い返そうとしたものの言葉は出てこない。
正確には吐き捨てる言葉は、ある。
勢力の差が文句の邪魔をする。
エンクレイブにまともに太刀打ち出来るだけの戦力がパラダイスフォールズには皆無。
特に今の現状の戦力では抵抗というは発想ですら危険だ。
もっとも最盛期であろうとも勝てはしないだろうが。
ただ、赤毛の冒険者と関わらなければ、勝てないにしても抵抗程度は出来ただろう。タロン社あたりと連携すれば持ち応えられたかもしれない。
だが現状がそれを許さない。
タロン社はエンクレイブの傘下に組み込まれ奴隷商人もまた実質併呑されているのだから。
言葉が出ないユーロジーに冷ややかに言った。
「対等だとは思わないことだ。自分だけは特別などと考えないことだな。分かるかな?」
「わ、分かった」
「よろしい。では引き続き自主的な協力を求めるよ、ユーロジー・ジョーンズ。ボルト87の位置を特定した、君の人材を借りるとしよう。問題は?」
「な、ない」
「素晴しい国家への献身だ。感謝しよう」
その頃。
パラダイスフォールズの入り口。
ここが悪名高い奴隷商人の巣窟パラダイスフォールズ、か。
入り口の前には歩哨がいる。
黒人だ。
漁るとライフルを手にこちらを値踏みするように見ていた。
距離はあと10メートルぐらい。
歩きながら、近付きながら私は仲間たちに囁く。
「手筈通りにいくわよ。グリン・フィス、アンクル・レオ、スティッキー、問題はない? 演技大丈夫?」
「御意」
「俺、問題ないぞ、がっはっはっはっはっ」
「問題大有りだーっ!」
よし。
全員問題なし。
全員同意の上の作戦を開始するとしよう(鬼畜っ!)
距離あと7メートル。
グリン・フィスが今度は囁く。
「しかし大丈夫ですか?」
「何が?」
「主のお顔を連中は……」
「知ってるでしょうね。でもわざわざ乗り込んでくるとは思わないでしょ。まあ、一応は変装してるし」
変装というか化粧かな。
やったらケバく顔を化粧品で塗り固めてある。パッと見では赤毛の冒険者とは気付くまい。悪の女幹部的な化粧を施してある(超偏見っ!)
金髪のカツラもしてるし。
たぶん連中の間では顔写真か何かが出回ってると思う、それは確か。
でも顔を完全に諳んじてはないだろ、おそらくね。
化粧もそうだけどカツラの効果は大きいと思う。
赤毛じゃなければすぐには分かるまい。
ちなみに化粧とカツラはリトルランプライトで手に入れた。ボルト87に向かうにはマグレティ市長の援助が必要、そして向うは向うで私の手助けで仲間を
救いたいと思っている。パラダイスフォールズに向かうのは私の目的にしてみれば迂遠かもしれないけど、意味がないわけじゃあない。
良い機会だ。
パラダイスフォールズの状況を知る絶好の機会。
こういう機会でもなければわざわざ行こうとは思わないだろうしね。
壊滅?
させないわ。
それだけの戦力が今はない。
機会があればBOSかレギュレーターと連携して潰したいとは思うけど今回はマグレティ市長の仲間、つまりはリトルランプライトの市民の救出だ。
方法は簡単。
キャップで買い戻す。
それだけ。
チャンスがあれば連中の親玉か幹部をスナイプしたいけど余計はなことは今回はしないつもり。
「主」
「まだ何かあるの?」
歩哨のところまであと4メートル。
「もしも正体が露見した場合は……」
「場合は?」
「自分が主を買い戻します。主が自分だけの奴隷……その言葉を呟くだけで心が、そう、ときめきます」
「変態かお前は」
「ユーモアです」
「どうだか」
「そこで止まれっ!」
歩哨の2メートル前で止まる。
警告された。
止まるしかあるまい。
銃口はこちらを向いていた。
「客よ」
「客だとぉ?」
「ええ」
「それにしては……その、やたらとデカブツ連れてるじゃないか。襲いに来たのかと思ったぜ。もっとも客だとは信じてないがな。そいつは何だ?」
「用心棒よ」
アンクル・レオを警戒している。
まあ、当然か。
スーパーミュータントを手懐けているなんてまずない状況でしょうしね。しかもミニガン装備して歩哨を威嚇してるし。
慣れていない状況のようだ。
「子供を売って欲しいのよ」
「子供?」
「そう。子供」
怪訝そうな顔。
相手が状況に慣れる前に、まともな思考が出来るように立ち直る前に丸め込まないといけない。
「こいつの餌が欲しいのよ」
「え、餌にするのかよっ!」
「スーパーミュータントがバラモンで満足すると思ってるの?」
実際にはバラモンでも満足してます。
菜食でも充分大丈夫です。
まあ、でかい体格の関係上をかなりの量の食事を必要とするけどそこは仕方ないかな。
アンクル・レオは豪快に笑う。
「牛より美味い知ってる。俺様人間丸かじり」
デビサマの悪魔かお前は。
だが歩哨を騙すには充分だったようだ。ごくりと唾を飲み込んだ。
「この剣士も私の手下。この子は……」
スティッキーを指差す。
「リトルランプライトとかいう知らない街の出身者。ビッグタウンに向かうとかでね、危ないから保護したの。子供を保護するのは大人の務めでしょう?」
微笑する。
私から何かを感じ取ったのか、リトルランプライトという地名に興味があるのか、まあ多分両方だろう。歩哨も釣られて笑った。
同じ穴のムジナと思われたかな?
なら成功だ。
「入れよ。ちょうど餓鬼が数人いるんだ。値は張るが金はあるんだろう?」
「ふんだんに」
「なら問題ないな。最近不景気でよ、あんたみたいな上客ならユーロジーも喜んでくれる。酒でも飲みながら商談に移ろうぜ」
「いいわね、それ」
ドサ。
そのまま歩哨は後ろに倒れた。
頭をふっ飛ばして。
器用な芸をする。
奴隷商人風の歓迎の芸なのかな?
……。
……そんなわけないか。
スティッキーは腰を抜かしている。
そりゃそうだ。
何しろ歩哨の奴隷商人はいきなり頭が吹き飛んだんだからね。
こんなの予定にはない。
背後に気配が生まれる。それも多数。
インフェルトレイターを構えながら私は振り向く。グリン・フィスもショックソードを抜き放っているしアンクル・レオもミニガンを構えている。
一戦前交えることも可能。
少なくともそれが奴隷商人であるならば、ね。
「久し振りね」
私は銃を下ろした。
旅は無駄ではなかった。
とうとう彼らはここまでの勢力になった。そして最後の戦いを挑むべくここまで来たのだ。そう考えるとリトルランプライトに向かう際にグリン・フィスが
聞いた銃撃戦の音は彼らが奴隷商人とやりあってたからかな?
その可能性は大だ。
ここに至ると私も決戦しなければならないだろう。
だけどそれでもいい。
何故?
パラダイスフォールズを潰すだけの戦力が今ここに揃った。
「ハンニバル、お久し振り」
「我々は奴隷解放の最後の一戦に来た。また君に会えるとは思ってなかったよ、ミスティ」
ユニオンテンプル、パラダイスフォールズに宣戦布告っ!
最終決戦スタートっ!