私は天使なんかじゃない
点と線
全ての点が線で繋がり国となる。
キャピタル・ウェイストランド全域に流れた声。
それはギャラクシーニュースラジオ。
『いやっほぉーっ!』
『こちらはキャピタルウェイスト解放放送、ギャラクシーニュースラジオ。リスナーの諸君、随分と久し振りだな。スリードックだっ!』
『現在全ての電波をジャックしてお送りしているぜ』
『野暮なエンクレイブの連中が放送を妨害するまでの短い間だがお付き合いよろしく頼むぜっ!』
『さて質問だ』
『全てのラジオの前の人達に聞きたい』
『自由とは何か?』
『自由、それはバラモンステーキを食べるかイグアナの串焼きにするかを選ぶことか? それとも太り気味だからマッドフルーツで済まそうと悩むことか?』
『俺達はずっと自由だと思ってきた』
『何をするにも制限なんてなかった、自分達の好きにできた、俺達は自由を謳歌していた』
『だがそれは本当か?』
『いいや違うそんなものは自由なんかじゃない』
『俺達はずっと自由を気取っていただけじゃないのか?』
『荒廃の地キャピタル・ウェイストランドに1人の少女がやってきた』
『その少女はミスティ』
『赤毛の冒険者だ』
『君達はこの名を聞いてどう思う?』
『おそらくウェイストランドの救世主、と連想するだろう。だが別に彼女はこの地を救うためにボルト101から来たわけじゃないんだ』
『彼女の目的はただ1つ』
『父親を探すこと』
『それだけだ』
『地中深きボルト101から来た少女は父親を探していた。ボルト101を脱走した父親ジェームスを追っていた』
『彼女の旅の目的は常にそれだった』
『キャピタル・ウェイストランドはボルトの温室育ちには過酷ではあったが目的そのものは単純だった』
『そう、単純だったんだ』
『だが彼女は回り道をした。彼女の旅は常に迂遠だった』
『何故だ?』
『それは俺にも分からない』
『きっかけは彼女の気まぐれだったのかもしれない。彼女の前に助けを求める者が現れた』
『ボルトの温室育ちゆえの人の良さなのか彼女の性格なのか、彼女はそれを助けた』
『1人助けたらまた助けを求める者が現れた』
『また、助けた』
『こうなると救いを求める者達は整理券貰って並ぶ始末だ。適当なところで無視すればいいのだろうが彼女はそれをしなかった』
『律儀に救い続けた』
『そして俺達はこう呼ぶ。赤毛の冒険者と敬意を込めて』
『BOSの情報では彼女の父親はエンクレイブによって志半ばで倒れたらしい。ご冥福をお祈りしたい』
『彼女の父ジェームスとは一度話したことがある』
『理想を叶えようとする人物だった』
『彼の理想は浄化プロジェクト』
『それが何かって?』
『それはダイタルベイスンの水を蝕んでいる放射能を瞬時に除去するという計画だ』
『彼との会話はわずかな時間ではあったが、彼の語る言葉は俺に感銘と感動を与えてくれた』
『全ての人に安全な水を』
『ジェームスの願いはそれだった。彼は世界を救おうとしていたんだ』
『それをエンクレイブが奪った』
『力尽くで』
『人は1人ではただの生き物に過ぎない』
『点だ』
『だが隣人がいる、さらにその隣にはその隣人、隣人の隣人の隣人……ともかく人がたくさん集まる、それは線で繋がるかのごとく人間関係が築かれる』
『そして集落となる』
『全面核戦争勃発する2077年までは世界は線で繋がってた』
『集落と集落が繋がって街となり、沢山の街が繋がって国となり、そして国々が繋がって世界となる』
『だが今の俺達は国か?』
『いいや』
『集落が関の山だった。そしてその集落だって群れているだけで隣人なんか気にしちゃあいなかった』
『何故集落内で銃を持って歩き回る?』
『簡単だ』
『誰も隣人を信じていなかったからだ』
『世界が核で吹き飛んでから200年が過ぎた』
『この世界を見てみろ』
『国なんてありはしない。街もない、あるのはそこに住む人間達の群れだけだ』
『この200年誰も点を線で繋ごうとはしなかった』
『だが今はどうだろう』
『メガトンを中心に集落は繋がった、それは1人の少女の功績だ。彼女はただ信じていた。彼女だけが信じていたのかもしれない、明日への可能性を』
『勘違いしないで欲しいのは俺は別に君達を扇動したいわけじゃあない』
『エンクレイブに抵抗しろなんて言わないさ』
『示唆もしない』
『俺が言いたいこと、それは屈しないで欲しいということだ』
『エンクレイブはこの地を抑えた』
『連中はアメリカの威光を振りかざしている。だがこの地は、ここで苦労し、ここで生きてきた俺達の故郷だ』
『それを忘れないで欲しい』
『それを……』
ざー。
ラジオからはノイズしか流れない。
「故障か?」
「いえ。おそらくレイブンロックの諜報部が放送を遮断したのでしょう。もしくはアンテナを破壊したかのどちらかだと思われます」
「洒落の分からぬ馬鹿者どもだ」
「御意に」
照らし付けるような太陽を燦々と浴びながら将校用のコートを方には追った女性が高い塔の屋上にいた。優美な椅子に身を預けながら
緩やかな午後を過ごしていた。
その傍らには黒髪の女性仕官が控えている。
場所はテンペニータワー。
かつての支配者であるテンペニーは全てに粛清。
塔の住人はセキュリティとともに反撃してきた為、既に一掃されており完全なる軍事拠点となっていた。
現在テンペニータワーはクリスティーナ大佐が率いる軍団の重要拠点。
傍らに控えているのは副官の藤華(とうか)。
「大尉」
「はい。閣下」
「メガトンの件は聞いた。住人が一昼夜で全て消えたとか」
「はい。住人と思われる者達はメガトン付近で見え隠れするようにメガトン駐屯部隊を挑発しているようです」
「各方面軍に通達。メガトンで反乱の兆しあり。各諸隊は予備兵力を全てメガトンに集結させるように。どの程度の兵力を掻き集められる?」
「一個師団程度かと」
「よろしい。その旨を直ちに通達」
「了解しました」
一礼して藤華は屋上を後にした。
クリスティーナの階級は大佐。
キャピタル・ウェイストランドにおける数少ない実力者の1人。
拮抗している権力を保持しているオータム大佐は浄化プロジェクト絡みのみでありそれ以外の軍権はクリスティーナ大佐が握っている。准将の地位に
ある者も軍を率いて布陣しているものの大統領令によりクリスティーナの地位が優先されている。
治安に関する軍の移動は彼女の領分。
1人きりになった彼女はノイズだけを発するラジオを切った。
「メガトンには無数のマンホールがあり外に通じている。私がそれを気付かないと思っているとはまだまだ甘い。私の方がメガトン暮らしは長いのだよ、ミスティ」
独語。
それから眠るかのようにゆっくりと目を瞑った。
「大方ボルト101に匿わせているのでしょうけど私の手のひらの上なのよ、ミスティ。……やり易くしてくれたわ、実にね」