私は天使なんかじゃない







人という生き物





  戦いの場に限り人間は2つの属性に分けられる。
  敵と味方。

  ただし知るべきだ。
  敵も味方も等しく人間であるということを。





  「スティッキー?」
  「そうだぜ。俺ははるばるリトル・ランプライトからやって来たんだ。そういう掟だったし」
  「掟?」
  「ある年齢に達したら出てかなきゃ行けないんだ。御伽噺に出てくる希望の街ビッグ・タウンに」
  「ふぅん」
  ビッグ・タウン近くの茂みの中で私はスティッキーと名乗る少年と話をしている。この場所ならビッグ・タウンからは見えない。エンクレイブ全体が私の顔を
  そらんじているとは思えないけど戒厳令が発令されている以上、集落にいない部外者は殺される可能性が高い。
  隠れているに越した事はない。
  アンクル・レオの巨体も茂みの中なら問題ないしグリン・フィス、グロスさんも見えない。
  「にしてもすげぇなムンゴ」
  「ムンゴ?」
  「そいつスーパーミュータントじゃん。手下なのか? それともあんたらは携帯用の保存食なのか?」
  「携帯用ねぇ」
  まあ、普通はそう思うかな。
  ただスティッキーは普通の人間の感性じゃないかな。スーパーミュータントを見ても驚かない。
  ……。
  ……まあ、育った環境ゆえなのかな。
  私だってそうだもん。
  ボルト101で暮らした私にとってグールは<変わった人だなぁ>という認識だったし、スーパーミュータントは<うっわでけぇっ!>という認識でしかなかった。
  これは私だけが特殊というわけではないみたい。
  その証拠にブッチもアンクル・レオを見ても特に反応なかった。
  さて。
  「スティッキー」
  「なんだいムンゴ? ……ああ、俺も今じゃムンゴか。じゃあ、お姉さんと呼ぶよ。おばさんと素直に呼ばずにお世辞使う俺ってかっけぇーっ!」
  「……」
  カッチーンっ!
  腹立つんですけどーっ!
  そんな私の耳元でグリン・フィスが小声で囁く。
  「主。なんでしたらヤキ入れますが?」
  「……さすがはグリン・フィスね。私の心を絶妙なまでに先読みしてくれるわ……」
  「恐れ入ります」
  完璧な従者です、グリン・フィス。
  たまに調子に乗るけど(笑)
  「スティッキー」
  「なんだい?」
  「せっかくここまで来たあなたに言い難いんだけど……ビッグ・タウンには入れないわよ」
  「何でだよ?」
  エンクレイブの事を知らないらしい。
  「戒厳令が敷かれてるのよ」
  「戒厳令?」
  「どこの集落もエンクレイブの管理下にあるのよ。住人の数が減る分には連中は気にしないようだけど増えるのを嫌ってる。今のビリー・クリールの
  言葉だけどね。ともかく入れないわ。入ったら殺される、ついでに言うと集落の外で見つかっても殺される」
  「ど、どうしようもない展開ってことかい?」
  「まあ、そういうことね」
  私は一気に畳み掛けるべく身を乗り出し、声を潜める。
  スティッキーの道案内はどうしても欲しい。
  PIPBOY3000に正確な場所を登録してもらうという手もあるけど……緯度とか経度まで把握しているとは限らない。正確な場所に道案内をしてもらう他は
  ないし、彼自身も私達と同行するのが最善だろう。少なくとも身の安全は保証できる。獣やら人に襲われても護ってあげれる。
  まあ、私目当ての連中に襲われた際には巻き込む可能性は大ですけどね。
  それにしても。
  それにしても最悪な展開でビッグ・タウン行きになったわね、彼。
  現在の状況は完全に最悪なタイミングです。
  「リトル・ランプライトに案内して欲しいんだけど」
  「……今、そこから来たんだけどな、俺」
  「知ってる。一緒に行動するのであれば身の安全を保証してあげるわ。どうする?」
  「仕方ないのかなぁ。分かった、一緒に行くよ。エンクレイブだっけ? そいつらに殺されたくないしな」



  スティッキーを連れて私達は一路リトル・ランプライトに向かう。
  この子はそこから来たらしいし地図では場所が分からないらしいから同行させるしかない。
  問題は……。
  「虫の王マニマルコを倒した後に3つの派閥の外法使いがシロディールに乗り込んでくるんだ連中の思惑は不明でも等しく主人公を付け狙ってるんだぜ」
  「……」
  この意味不明なトークが問題です。歩いている最中ずっと喋りまくってる。
  あー、うざいっ!
  ただグリン・フィスは真顔でその話を聞いている。
  何故に?
  「あ、主」
  「何?」
  「この少年、もしかしたら神の子かもしれません」
  「はっ?」
  「自分がいた地シロディールの話をしています。……預言者なのかもしれませんね……」
  「……」
  こっちのトークも意味不明。
  まあ、いいです。
  無視しますから(笑)
  「ん?」
  その時、銃撃音が響いた。
  どこか遠くで誰かが銃を撃ってる。
  正確には<誰か>という単数ではなく複数ということだ。
  私達は顔を見合わせる。
  エンクレイブと交戦している勢力かもしれない。
  ありえる話だ。
  現在キャピタル・ウェイストランドに存在する勢力は綺麗に区分されている。エンクレイブ勢力とそれに対抗する勢力、対抗する勢力は基本的にBOS。
  奴隷商人やタロン社はエンクレイブの傘下、綺麗に分けられてる。
  「行くわよ」
  私は仲間達を率いて銃撃音の響き渡る、音の出元に急ぐ。
  北から響いてる。
  北……つまりはジャーマンタウン警察署跡地の方からだ。


  
  ジャーマンタウン警察署。
  かつてここはスーパーミュータントの前線基地があった。連中はここに一度捕虜を連行し、その後でボルト87に連行していた。
  捕虜運搬の立ち寄り所みたいな場所だった。
  もちろん純粋に前線基地としての意味合いも強かったのは確かだ。
  大量の武器弾薬が集積されてたしスーパーミュータントの軍団が駐屯していた。
  最終的に私達はここを爆破。
  現在は建物は存在しない。
  今あるのは瓦礫だけ。
  そして無数のキャンプ。どうやら完全に偽者率いるレイダー達の野営地と化していた。
  ……。
  ……あー、いや……野営地というか殺戮現場かな?
  少し離れた場所から私達は双眼鏡でレイダー達の様子を見る。そして暴れ回る化け物を。
  「何あれ?」
  「完全に無双乱舞ですね、主」
  野営地で化け物が暴れている。人型ではあるけど人ではないしスーパーミュータントでもない。スリムな外見というかむしろ痩せ気味の二足歩行の恐竜みたい
  な奴が暴れまわっている。指には鋭利で長い爪。それでバッサバッサとレイダーをデストロイしていく。
  もちろんレイダー達も切られ役を演じているわけではない。
  銃を乱射している。
  自動小銃、ショットガン、ライフル、ハンドガン、様々な銃火器を集中砲火で浴びせているもののレイダーの損害は増えるばかり。
  化け物にとっては豆鉄砲程度ってわけ?
  怖い怖い。
  「あっ」
  私がいる。
  正確には私の偽者。奴は44マグナムを二挺構えて連打。その一発が化け物の額に直撃、化け物はゆっくりと後ろに引っくり返った。
  殺すことは可能、か。
  正直戦いたくない化け物だ。
  グロスさんが呟く。

  「あれはデスクローね」
  「デスクロー?」
  グロスさんの呟きに対して問い返す。
  初めて聞く名前の生物だ。
  あれ恐竜?
  「何なんですか、あの生き物」
  「デスクロー。我々BOSはあれの生態を調べてあるわ。ある程度だけどね。元々は全面核戦争前にアメリカ軍が開発した生物兵器。調べあげた限りで
  ジャクソンカメレオンを元に開発した存在みたいね。どの辺りにカメレオンの面影があるのかは不明だけどね」
  「確かに」
  私は笑う。
  そりゃそうだろう。
  前情報なしにあんなのの外見とカメレオンを同一視できる方がどうかしてる。
  面影ナッシング(笑)。
  指にはそれぞれ剣ほどの長さの爪が伸びており、そしておそらく剣と同等に鋭いのだろう。レイダーを多数斬り殺してたみたいだし。
  「ティリアス、あれは現在エンクレイブの兵器でもあるのよ」
  「えっ?」
  「BOSはエンクレイブのアイポッドを鹵獲して改造した。それで各地の情報収集したんだけど……エンクレイブはデスクローを大量に投入したわ」
  「投入?」
  「主にスーパーミュータントの活動領域にね」
  「なるほど」
  デスクローでスーパーミュータントを一掃するってわけか。
  この近辺、かつては連中の勢力範囲だった。
  そういう意味合いでここにも投入されてる?
  そうかもしれない。
  だけど面倒だな。
  もしかしたらスーパーミュータントよりも厄介な存在かもしれない。不意を衝いたのかは知らないけど銃を乱射するレイダーに肉薄し、猛襲し、かなりの数の
  死体を築きあげたわけだから厄介なのは確かだ。薙ぐようにレイダーを惨殺したのだろう。くわばらくわばら。
  「主」
  「ん?」
  「偽者がテントに入ります」
  グリン・フィスがレイダーの陣地を指差す。
  私は望遠鏡で見た。
  私がいる。
  私と同じ顔の奴がいる。さっきも見たけど似過ぎてる。
  似過ぎてるのは顔だけじゃない。
  装備も一致してる。まったく同じというわけではないけどある程度は同じだ。
  武器は44マグナム二挺で一致。
  ただ肩に掛けている武器はピット産のインフェルトレイターではなくキャピタル・ウェイストランドで一般的に出回っているアサルトライフル。コンバットアーマーは
  私と同系色ではあるけどライリーレンジャーのものではない。マークがない。たぶんわざわざ緑に染めて似たようなものにしてるんだろう。
  ふぅん。
  なるほどね。
  偽者さんはどうやら私を完全に演じているらしい。
  その意味?
  そこまでは分からないけど……私の名を利用しているのは確かだろう。そして私の存在を。
  「そっくりね」
  「いえ。主の方が肌年齢がお若いです」
  「ありがと」
  「しかし偽者の方が胸は大きいですね。……いえ。もちろん主はまだ発育期。これからきっと成長しますし、いざとなればシリコンという手もあります」
  「……喧嘩売ってる?」
  「ユーモアです」
  「……」
  こいついつか殺してやろうか?
  うがーっ!
  笑いを噛み殺すグロスさんを睨み、多分意味も分からず付き合いだけで笑ってるアンクル・レオも睨み付けてから私はレイダーの野営地に視線を戻す。
  さてさて、どうしたもんか。
  敵は現在デスクローに襲撃されて混乱してる。
  撃退したものの、混乱してる。
  それに銃撃音はおそらくビッグ・タウン方面にも微かにだけど聞こえているだろう。もしかしたら討伐に来るかもしれない。
  スルーする?
  そうね。
  それもありだろう。
  だけどここは叩いておきたい。
  どうしてもね。
  敵勢力を減らす、それはそれとして理由にはあるけど……ここで私達が叩くことで非常に後の展開に役立つことになる。
  「この人数で行けると思う?」
  「主が望むのであれば……」
  「グリン・フィス」
  「はい」
  「理論的には行けると思う?」
  「殲滅は不可能でしょう。ただ、自分と主の考えが一致しているかは分かりませんが……主の偽者を倒すことは可能です」
  「よし」
  決心。
  今後の布石の為にどうしてもあの偽者を倒す必要がある。
  ……。
  ……いや。
  正確には偽者の生死はどうでもいい。
  欲しいのは奴の体。
  もちろんエロではないですよ?(笑)
  「グロスさん、協力してくれますか?」
  「センチネル・リオンズからはそのように頼まれているし、ティリアスの頼みは断れないからね。力を貸すわ」
  「ありがとうございます。アンクル・レオは?」
  「俺、ミスティの役に立つぞ」
  「ありがとう」
  猿轡をし、手首を縛って転がしているスティッキーを見る。
  フガフガ言ってる。
  うん。
  あれはきっと好意的な、肯定的なフガフガだろう。
  協力ありがとー(笑)
  出会って早々にこのような処遇にするのは正直気が引けたけど隠れている最中に物語を大声で喋られても困るので一時的に拘束しました。
  仕方ないのです。
  べ、別に男の人を縛るのが好きなわけじゃないんだからねっ!(笑)
  さて。
  「グロスさん、質問があります。いいですか?」
  「私が知っていることなら」
  「エンクレイブは奴隷商人を利用してるんですよね? ボルト87に行く為に、リトル・ランプライトの地下から侵入する為に奴隷商人を利用してるんですよね?」
  「BOS上層部ではそう考えているよ。ティリアス、あんたの考えも大体一致してるだろ?」
  「ええ」
  グロスさんの言葉に私は頷く。
  そう。
  奴隷商人を傘下に入れた+ボルト87に行くにはリトル・ランプライトを通るしかない=奴隷商人はその為に利用された、その方程式は私の中にもある。
  どうやら奴隷商人とリトル・ランプライトには因縁があるらしいし。
  だからこそ私には偽者が必要になる。
  パラダイス・フォールズの奴隷商人とは敵対している。エンクレイブ傘下ならば当然エンクレイブはいざとなったら捨て駒として奴隷商人を投入してくるだ
  ろうし、そしてそもそも目的地が同じである以上必ずぶつかることになる。私がエデンの園創造キットを狙ってることすら知っているかもしれない。
  その場合エンクレイブは私が来るであろうことも知らせているだろう。当然奴隷商人はエキサイトしてるはず。
  何故?
  だって私は奴隷商人のボスの息子を殺してる。
  憎まれてる。
  怨まれてる。
  嫌われてる。
  故に私が介入するとなればエキサイトするだろう。あまり士気が高いのは面倒。だからこそその士気を殺ぐ必要がある。
  非情の行為をしようとしているのは分かってる。
  だけど偽者とは敵対するしかない。
  ならば。
  ならば利用させてもらうとしよう。
  私は静かに宣言する。
  「偽者を奴隷商人に差し出すことで連中の気勢を殺ぐ。異論は?」


  偽者に対しての攻撃開始っ!