私は天使なんかじゃない
リトル・ランプライトへの旅立ち
物語は加速度的に進んでいく。
決戦は近い。
私達は不毛の大地を進む。
移動方法?
徒歩です。
要塞にはガソリン車や核バッテリーの車が何台かあったしサラも寄与を申し出てくれたけど私は断った。
何故?
容易に発見されるからだ。
街道は全てエンクレイブに押さえられており進む事は不可能。
要所要所に検問が張られ部隊が展開している。
道なりには進めない。
必然的に街道を避ける、つまり危険な不毛地帯を進む事になる。
舗装もされていない大地を進むしかない。
……。
……まあ、舗装なんてあってもボロボロなんだけどね。
全面核戦争から200年後の世界。
舗装?
そんな食べ物知らんクマ(ペルソナ4のクマ風味)。
道路公団も存在しません。
なので整備も管理もされていないこの世界において舗装を求めるのは無理というものです。
まあ、そこはどうでもよろしい。
私達は要塞を出て不毛の台地を進む。
私達、それは私、グリン・フィス、アンクル・レオ、ブッチ、そしてスターパラディンという称号を持つ精鋭部隊リオンズ・プライドの隊員グロスさん。私のパパ
の旧友であり私とパパをメガトンまで護衛してくれた人。護衛云々は私が赤ん坊の時の話だから面識はないようなものだけど。
計5名のパーティー。
目的地はビッグ・タウン。
最終的な目的地はボルト87なんだけど放射能が高い場所らしく生身では行けないらしい。
地表からは無理。
なので地下から行くしかないんだけど……地底部分とボルト87が繋がっている場所、それがリトル・ランプライト。
ボルト87の正確な座標も不明、リトル・ランプライトもまた然り。
そこで私は思い出した。
前にスーパーミュータントの軍団の攻撃から救った街ビッグ・タウンの住民の大半がリトル・ランプライト出身者だということに。
以前は<ふぅん。そうなんだ>と特に興味はなかったけど今はそうじゃない。唯一の手掛かりともいえる。
だから。
だから私は唯一の手掛かりの為にビッグ・タウンに向かう。
ただ前述に戻るけど街道は使えない。
エンクレイブが要所要所で検問してるし部隊も展開してる。おそらく巡回もしてるだろう。
私達は街道を避けて不毛の大地を進む。
街道を避ける、それはつまり街道を進まないという事だから要塞からビッグ・タウンに一直線で向かうということ。
ある意味で最短距離。
だけど当然リスクがある。近いから良いというわけではない。当然だけどね。
最短距離だと不毛の大地を横切ることになる、今の私達が現在進行形でその状態。不毛の大地には獣、狂った機械、放射能汚染の化け物、レイダー等無法者。
もちろん街道にもその類はいるけど遭遇するリスクが不毛の大地の方が高くなる。
まあ、私達の場合は問題ないけど。
雑魚です。
雑魚。
それに現在のキャピタル・ウェイストランドの情勢が関係しているのかレイダーの姿がほとんど見えない。というか遭遇してない。
エバーグリーン・ミルズというレイダーの溜まり場的な場所がエンクレイブに潰されたことが影響しているらしい。さらにその残党が私の偽者の勢力に併呑
されているのも影響しているのかもしれないしエンクレイブの検問で身動きが取れなくなっているのかもしれない。
奴隷商人も徘徊してないな、そういえば。
パラダイスフォールズはエンクレイブに従う形になっているらしい。何でかは知らないけど。
どっちにしても奴隷商人はユニオンテンプルの一件とピットの一件で半壊状態だからそもそも勢力的にうろちょろ出来ないだけだろう。多分。
私達はビッグ・タウンに進む。
特に障害はなかった。
そして……。
ビッグ・タウン。
そこはかつてスーパーミュータントの軍団の攻撃により住民が拉致され殺された街。スーパーミュータントが引き上げた後には奴隷商人が死体漁りに
訪れ、息を吹き返したものはそのままパラダイスフォールズに連行されてた阿鼻叫喚の場所だった。
だけど現在は改善された。
……。
……と思う(汗)。
一応スーパーミュータントは私達が以前蹴散らした。200ぐらい倒したかな?
この近辺の連中は全て駆逐したと思う。
前線基地代わりだった警察署は爆破したしスーパーミュータントの勢力はここから一掃した……と思う。
奴隷商人は知らない。
この近辺では結局戦闘しなかったから。
ただユニオンテンプル&ピットの一件で戦力激減してるパラダイスフォールズの戦力ではここまで出張っては来れまい。
それにピットの街は既に奴隷を求めてない。
アッシャーは街の状況の改善を確約してくれたし、奴隷商人はピットに乗り込んで街を乗っ取ろうとした。仮にアッシャーが私の約束を反故にするとしても
今さら街をめちゃくちゃに奴隷商人とくっつくことはないだろう。
つまり。
つまりパラダイスフォールズは最大の販売先を失った。
販売先、という表現は不適切だけど。
奴隷商人が取るべき行動、私がもしも連中の元締めなら今は奴隷狩りをする前に勢力の建て直しを考える。ここまでは来ないだろ、連中。
それに連中はエンクレイブのヒモ付きなわけだし奴隷狩りどころじゃないわね。
さて。
「それでどうするんだい、ミスティ」
「うーん」
街から少しは離れた場所から私は街を双眼鏡で見ている。グロスさんの問い掛けにすぐには答えられずにいた。
ビッグ・タウンは発展してた。
かつて廃屋だった建物も今は人が住んでる。メガトンを中心とした共同体政策の一環だろう。人口も増えてる。
そこはいい。
そこはいいんだけど……やっぱりここにもエンクレイブの部隊が駐留してる。
要塞で聞く限りではどの集落にも部隊が駐留して監視しているらしい。
数は少ない。
二個小隊ぐらいかな。
一騎当千の仲間達とともに敵の不意を衝いて蹴散らすのは容易いけど……それでは街に迷惑が掛かる。蹴散らせば当然大部隊がここに集結するだろう。
私達の目的は達成できる。
ただし街に対しての締め付けが強くなる。私達はそのまま立ち去るから別にいいやというわけにはいかない。最悪街の人々が見せしめで殺される。
それはできない。
ならばどうする?
エンクレイブが私達の顔を諳んじているかは分からないけど……どっちにしても現在キャピタル・ウェイストランド全域に戒厳令が出されてる。
別にエンクレイブの命令に強制力なんかないけど連中は強力な兵器を持ってる。兵器を前にしたら住民は従うしかない。
戒厳令がある以上、変装して入り込むのは不可能。
エンクレイブも馬鹿じゃあない。
住民の数は定期的に数えてるだろう。紛れ込むのは不可能。
「主」
「何?」
「こういう作戦はどうでしょうか?」
「何か策があるのねグリン・フィス」
「はい。……ブッチがまず服を脱いで全裸で半狂乱となりながら銃を乱射して街に突撃します。そこを自分が後ろから一刀両断、敵に恩を撃って街に堂々と入ります」
「それブッチ死ぬじゃん」
「必要な犠牲です」
「お前ぶっ殺すぞっ!」
叫ぶブッチ。
どうもこの2人は仲が悪いらしい。
やれやれ。
「ティリアス。剣使いのお兄さんの作戦で行くなら……そこのスーパーミュータントの方がいいんじゃないかい?」
「俺、ミスティの役に立つなら頑張るぞ」
「却下」
淡々と私は言う。
確かに意外性はあるかもしれないけど、それだけです。
そんな作戦でエンクレイブが中に入れてくれるわけがない。ノコノコ出て行けば撃たれて終了です。
さてさて、どうしたもんかな。
「よおミスティ」
「何か用……って……」
声は後ろからした。
即座に銃を抜いて振り返る。ここにいるのは全員素人ではない。私が動くと同時に全員が武器を構えていた。
グリン・フィスに関しては群を抜いて機敏。
ショックソードを抜き放って相手の喉元に突きつけていた。
その速度、並じゃない。
「グリン・フィス」
「はい」
「下がっていいわ」
「御意」
ゆっくりとグリン・フィスは下がる。私は仲間達に武器をしまうように指示しながら、自身も銃をホルスターに戻す。
声を掛けてきた人物に見覚えがあったからだ。
顔なじみ。
「ビリー・クリール」
「久し振りだな」
本当に会うのは久し振りだ。
彼はレギュレーターのコートを着込んでいる。同じようにコートを着た2組の男女を従えているけどこの連中は知らない。レギュレーターなんだろうけど面識はない。
部下かな?
そうね。
立ち位置的にはそんな風にも見える。
ビリーも出世したもんだ。
それにしてもレギュレーターになったビリー・クリールと会うのは初めてかも。
「ビリー、どうしてここに?」
「あんたを追ってきたんだ」
「私を?」
「あんたの偽者がビッグ・タウンのすぐ近くにいるのさ。ジャーマンタウン警察署跡にキャンプを張って野営してる」
「私の偽者が近くに?」
「ああ」
厄介な場所にいるものだ。
かなり近い。
「数は?」
「100や200はいるらしい。レギュレーターは各集落に人数を潜伏させている。それと密偵をそこら中に放ってあるのさ。その密偵からの報告だ」
「ふぅん。敵さんは何してるわけ?」
「エンクレイブがいて身動きが取れないらしい。レイダーどももかなりの大所帯だからな。動けばドンパチが始まる」
「なるほど」
偽者の目的は知らないけどエンクレイブの出現で人生設計が狂ってきているのは確かだろう。
誰にでもとことん祟りますね、エンクレイブ。
それにしても。
「聞きたい事があるの、ビリー・クリール」
「マギーの事か? あの子な、この間俺の似顔絵を書いてくれたんだぜっ! ありゃ将来は芸術家だな、めっちゃ俺を男前に書いてくれたんだぜっ!」
「……」
そうだった。
最近会わなかったから忘れてたけどマギーを溺愛してたんだこの眼帯男。
部下らしい男性がビリーの袖を引っ張るとようやく我に返る。
「おっと話が逸れたな」
「かなりね」
「それで聞きたいことってなんだい?」
「どうやってメガトンを出たの?」
「地下からさ」
「地下?」
「下水道だ。街の外に通じてる。そこから出た。後ろの4人は街の外であんたの偽者の情報を収集してた連中だよ。……エンクレイブはな、街の人口が増えることは
嫌うが減ることに関しては問題にしてないのさ。もちろん堂々と門からは出れないがね」
「なるほど」
去る者は追わず、か。
もちろん出たら最後戻れない。立ち入りを禁止しているわけだからね。そして戒厳令が発令されている以上、集落の外にいる者は問答無用で殺されるってわけだ。
「その下水道は全員通れるの?」
「マンホールが街のあちこちにある。エンクレイブは毎朝住人の数を確認するが基本的に警備は甘い。下水道には気付いていない。門の警備に重点を置いている」
「つまり全員出ようと思えば出れるのね?」
「ああ。それが?」
「……」
「何か考えがあるのか?」
「まあね。ブッチ」
「何だ?」
トンネルスネークの親玉を呼ぶと彼の耳元に私はある作戦を呟いた。
「頼める?」
「引き受けるのは構わねぇが……上手くいくかは分からねぇぜ?」
「彼女は引き受けてくれるわ。ビリー・クリール、ブッチに付き合ってメガトンまで戻って。……私がビッグ・タウンに入る云々には関係しないだろうけどこの作戦
が上手くいけばエンクレイブの戦力をメガトンに引きつける事ができる。今後の布石になる。頼める?」
「あんたのサポートをしろというのがソノラからの命令だ。あんたの言葉に従うよ」
「ありがとう」
この場から去るブッチとビリー達レギュレーターを見送る。
よし。
十中八九上手く行くだろう。
そしてメガトンにエンクレイブの部隊を引きつける事が出来れば今後動きやすくなる。現在やり辛いのは集落に駐屯しているエンクレイブ。連中がいる限り人質
を取られていると同義。しかし一つの集落を空に出来るのであれば展開は大きく変わる。
さて。
「当面の問題はどうしよう?」
グリン・フィス、アンクル・レオ、グロスさんに訊ねる。ビッグ・タウンに入るにはどうしたものかな。
「フンフンフフーン☆」
「ん?」
お気楽な鼻歌が響いてくる。
見知らぬ少年がこちらに向かって歩いてくる。パーティー帽を被った子供だ。
敵ではなさそうだ。
少年も私達を視認しているらしくこちらを見ながら近付いてくる。
そして……。
「俺はスティッキー。リトル・ランプライトからここに住む為にまで来たのさ。それであんたら俺の歓迎委員会の人? 俺の出迎えだろ?」
「はっ?」
おしゃべり少年スティッキー登場。